【実施例】
【0042】
(実施例1)
本発明の実施例に係るガスセンサ素子、ガス濃度検出方法について、
図1〜
図3を用いて説明する。
本例のガスセンサ素子1は、
図1に示すように、プロトン導電性の固体電解質体10を共有する第1セルお11よび第2セル12を備えている。本例において、固体電解質体10は、シート状に形成されており、組成式SrZr
0.9Yb
0.1O
2.95からなるペロブスカイト型酸化物を母体とする固体電解質から構成されている。固体電解質体10の厚みは、200μmである。
【0043】
第1セル11は、固体電解質体10と、固体電解質体10の一方面に設けられ、水素原子を含む被測定ガスとしての水素ガスに接する第1アノード電極11aと、固体電解質体10の他方面に設けられた第1カソード電極11cとを有している。一方、第2セル12は、固体電解質体10と、固体電解質体10の一方面に設けられた第2アノード電極12aと、固体電解質体10の他方面に設けられた第2カソード電極12cと、第2アノード電極12aを被覆する遮蔽体13とを有している。遮蔽体13は、ガス不透過性を有しており、第2アノード電極12aが水素ガスに曝されないように第2アノード電極12aの外表面全てを被覆している。
本例において、第1アノード電極11aと第2アノード電極12a、第1カソード電極11cと第2カソード電極12cは、それぞれ同一形状、同一面積の層状に形成されている。各電極11a、11c、12a、12cは、いずれもPtとSrZr
0.9Yb
0.1O
2.95との多孔質サーメットから構成されている。各電極11a、11c、12a、12cの厚みは、いずれも10μmである。また、遮蔽体13は、膜状に形成されており、アルミナから構成されている。遮蔽体13の厚みは、20μmである。
【0044】
以下、本例のガスセンサ素子1についてさらに詳説する。
本例のガスセンサ素子1は、
図1に示すように、上述の第1セル11および第2セル12を有する固体電解質体10と、スペーサ14と、ヒータ部15とが順次積層されて構成されている。第1セル11および第2セル12は、ガスセンサ素子1の先端部に形成されている。
【0045】
スペーサ14は、固体電解質体10とヒータ部15との間に位置し、被測定ガス室141を形成するためのものである。本例において、スペーサ14は、シート状に形成されており、アルミナから構成されている。スペーサ14は、アルミナ以外の他の絶縁材料から構成することもできる。スペーサ14の厚みは、200μmである。スペーサ14は、固体電解質体10のセル形成部101に対応する位置に、矩形状の貫通穴141を有している。本例では、この貫通穴141を被測定ガス室として利用している。
【0046】
貫通穴141を形成したスペーサ14の先端部には、拡散部材142が設けられている。被測定ガス室141は、拡散部材142を介して、被測定ガスが存在する外部空間と連通し、室内に被測定ガスが導入されるように構成されている。本例では、被測定ガス室内141に第1セル11の第1アノード電極11aが配置されている。また、被測定ガス室141内には、さらに、第1セル11に隣り合うようにして、遮蔽体13に被覆された第2セル12の第2アノード電極12aが配置されている。
本例において、拡散部材142は、多孔質の層状に形成されており、アルミナから構成されている。拡散部材142は、アルミナ以外の他の絶縁材料から構成することもできる。拡散部材142の厚みは、スペーサ14の厚みと同じ200μmである。拡散部材142の気孔率は、40%、気孔径は、1〜5μmである。
【0047】
ヒータ部15は、基層151と、基層151の片面にパターン形成され、通電により発熱するヒータ電極152と、ヒータ電極152が形成された基層151面に形成された絶縁層153とを有している。このヒータ部15は、外部からの給電によりヒータ電極152を発熱させ、第1セル11および第2セル12を活性化温度まで加熱するためのものである。
本例において、基層151および絶縁層153は、ともにアルミナから構成されている。基層151および絶縁層153の厚みは、ともに200μmである。ヒータ電極152は、Ptとアルミナとのサーメットから構成されている。ヒータ電極152の厚みは、30μmである。
【0048】
また、本例のガスセンサ素子1は、上記以外にも、第1セル11、第2セル12およびヒータ部15と外部回路(不図示)との信号のやり取りが可能な構成を有している。具体的には、
図2に示すように、固体電解質体10は、先端部に第1セル11および第2セル12が形成されるセル形成部101を有するとともに、セル形成部101から基端部にかけて接続回路が形成される回路形成部102を有している。
【0049】
回路形成部102の一方面には、リード110a、120aが設けられ、リード110a、120aの一端は、第1アノード電極11a、第2アノード電極12aにそれぞれ接続されている。リード110a、120aの他端は、回路形成部102の基端部に形成されたスルーホール111、112を通して、回路形成部102の他方面に形成されたパッド電極113、114に接続され、外部回路に接続可能とされている。また、回路形成部102の他方面には、リード110c、120cが設けられ、リード110c、120cの一端は、第1カソード電極11c、第2カソード電極12cにそれぞれ接続されている。リード110c、120cの他端は、回路形成部102の基端部側まで延長され、外部回路に接続可能とされている。
【0050】
また、ヒータ電極152が形成された基層151面には、リード154、155が設けられ、リード154、155の一端は、ヒータ電極152にそれぞれ接続されている。リード154、155の他端は、基層151の基端部に形成されたスルーホール156、157を通して、ヒータ電極152の形成側と反対側の基層151面に形成されたパッド電極158、159に接続され、外部回路に接続可能とされている。なお、各リード110a、110c、120a、120c、154、155、ヒータ電極152および各パッド電極113、114、158、159は、いずれもスクリーン印刷により形成した。
【0051】
なお、本例のガスセンサ素子1は、以下のようにして作製した。ドクターブレード法を用いて、固体電解質体10、スペーサ14、拡散部材142、ヒータ部15(基層151、絶縁層153)の各未焼成シートを成形した。次いで、スクリーン印刷法を用いて、各未焼成シートの各所定位置に、各電極11a、11c、12a、12c、遮蔽体13、各リード110a、110c、120a、120c、154、155、ヒータ電極152、各パッド電極113、114、158、159等の形成材料を所定形状に形成した。次いで、これら未焼成シートを積層して1500℃で焼成することにより一体化し、ガスセンサ素子1を得た。
【0052】
次に、本例のガスセンサ素子1の作用効果について説明する。
図1において、被測定ガス(本例では水素ガス)は、拡散部材142を通過して被測定ガス室141に導入される。導入される被測定ガスの量は、拡散部材142の拡散抵抗により決定される。第1セル11の第1アノード電極11a、第1カソード電極11cの間に、第1アノード電極11aがプラス極となるように直流電源16aにより所定の直流電圧を印加する。第1セル11に電圧を印加すると、第1アノード電極11aの表面にて被測定ガスから水素原子が引き抜かれ、プロトンが生じる。生じたプロトンは、ポンピング作用により固体電解質体10内を通って第1カソード電極11c側へ排出される。このとき、第1セル11に流れるプロトン導電による電流は、被測定ガスの濃度に依存し、これを測定することにより、被測定ガスの濃度を知ることが可能である。
【0053】
なお、本例では被測定ガスとして水素ガスを用いたが、水素原子を含む被測定ガスの種類により、水素原子を引き抜く電圧(分解電圧)が異なる。そのため、水素原子を含む被測定ガスの種類に合わせて分解電圧を適宜設定することにより、選択的に被測定ガスのガス濃度を検出することができる。
【0054】
しかし、本例で用いた固体電解質体10は、プロトン導電に加え、電子導電性も有している。そのため、電流計17aにより測定される第1セル11に流れる電流は、プロトン導電による電流値と電子導電による電流値との和になる。電子導電による電流は、被測定ガス濃度に依存しないため、その分が検出誤差原因となる。
【0055】
ところが、本例のガスセンサ素子1は、第1セル11のみならず、第2セル12を有しており、第2セル12の第2アノード電極12aはガス不透過性の遮蔽体13により被覆されている。第2セル12の第2アノード電極12a、第2カソード電極12cの間に、第2アノード電極12aがプラス極となるように直流電源16bにより所定の直流電圧を印加する。第2セル12に電圧を印加すると、第2アノード電極12aはガス不透過性の遮蔽体13により被覆されているため、第2アノード電極12a上に被測定ガスは供給されない。それ故、第2セル12にはプロトン導電による電流は流れず、電子導電による電流のみ流れる。この際、第2アノード電極12aの外表面は、遮蔽体13により全体が被覆されているため、特許文献1のように、第2アノード電極12aの側端部からプロトンが取り込まれることもない。そのため、電流計17bにより測定される第2セル12に流れる電流は、電子導電による電流値のみとなる。
【0056】
したがって、測定された第1セル11の電流値と第2セル12の電池値との差を検出することにより、プロトン導電のみによる電流値を求めることができる。
よって、本例のガスセンサ素子1によれば、被測定ガス(水素ガス)の濃度を高精度に検出することが可能である。
【0057】
次に、本例のガス濃度検出方法について説明する。本例のガス濃度検出方法は、本例のガスセンサ素子1を用いて水素原子を含む被測定ガスの濃度を検出する方法である。
【0058】
本例のガス濃度検出方法は、第1セル11に電圧を印加し、固体電解質体10のプロトン導電による電流値と電子導電による電流値との和を測定する工程(1)と、第2セル12に電圧を印加し、固体電解質体10の電子導電による電流値を測定する工程(2)と、測定した第1セル11の電流値と第2セル12の電流値との差から水素原子を含む被測定ガスの濃度を検出する工程(3)と有する。
【0059】
具体的には、先ず、工程(1)として、第1セル11の第1アノード電極11a、第1カソード電極11cの間に、第1アノード電極11aがプラス極となるように直流電源16aにより所定の直流電圧を印加する。これにより、第1セル11に流れるプロトン導電による電流値と電子導電による電流値との和を電流計により測定する。次いで、工程(2)として、第2セル12の第2アノード電極12a、第2カソード電極12cの間に、第2アノード電極12aがプラス極となるように直流電源16bにより所定の直流電圧を印加する。これにより、第2セル12に流れる電子導電のみによる電流値を測定する。次に、工程(3)として、測定した第1セル11の電流値と第2セル12の電流値との差から水素原子を含む被測定ガスの濃度を検出する。
【0060】
図3は、本例のガスセンサ素子1を用い、本例のガス濃度検出方法により、水素ガスの濃度を検出した例である。この際、第1セル11および第2セル12に印加する電圧は、ともに0.4Vとした。また、被測定ガスとして濃度0〜1000ppmの水素ガスを用い、バランスガスには窒素ガスを用いた。
【0061】
図3によれば、第1セル11に流れる電流値は、プロトン導電による電流値と電子導電による電流値との和になっている。このうち、プロトン導電による電流は、水素ガス濃度に依存して変化する。そのため、「○」印の特性となる。電子導電による電流値は、セル温度等の影響により変動し、一定でないため、誤差要因となる。
一方、第2セル12は、遮蔽体13により第2アノード電極12aが水素ガスと接触しない構造になっている。そのため、水素ガスからプロトンを取り込むことができず、プロトン導電による電流は流れない。それ故、第2セル12については、電子導電による電流のみとなり、「△」印の特性となる。
第1セル11と第2セル12の電流差をとると、「□」印の特性となり、電子導電の影響をキャンセルすることができる。
この結果から、本例のガス濃度検出方法によれば、水素ガスの濃度を高精度に検出することが可能であることが確認できた。
【0062】
(実施例2)
本例は、
図4に示すように、実施例1のガスセンサ素子1において、第1カソード電極11c、第2カソード電極12cの構造を変形した例である。
【0063】
本例のガスセンサ素子1は、
図1における第1カソード電極11cと第2カソード電極12cとが連続している。つまり、本例のガスセンサ素子1は、
図4に示すように、
図1における第1カソード電極11cと第2カソード電極12cとが一体化された共通カソード電極18を有している。その他の構成は、実施例1と同様である。
【0064】
このようにした場合には、第1カソード電極11cと第2カソード電極12cとが共通化された構造となるため、信号の取り出し端子数を減らして素子構造の簡素化を図ることができる。また、素子製造性を向上させることができるなどの利点もある。その他は、実施例1と同様の作用効果を奏する。また、実施例1のガス濃度検出方法において、本例のガスセンサ素子1を適用しても、同様に、水素原子を含む被測定ガスの濃度を高精度に検出することが可能である。
【0065】
(実施例3)
本例は、
図5に示すように、実施例1のガスセンサ素子1において、遮蔽体13およびスペーサ14の構成を変形した例である。
【0066】
本例のガスセンサ素子1は、
図5に示すように、スペーサ14の一部が、第2アノード電極12aを被覆する遮蔽体13を兼ねる構造とされている。つまり、本例のガスセンサ素子1は、第1アノード電極11aだけを被測定ガス室141に配置し、スペーサ14(遮蔽体13)内部に第2アノード電極12a存在させる構造とされている。その他の構成は、実施例1と同様である。
【0067】
このようにした場合には、遮蔽体13としてのスペーサ14により第2アノード電極12aが被覆され、被測定ガスと第2アノード電極12aとの接触が遮断される。そのため、被測定ガス室141を形成する比較的厚みの大きなスペーサ14によって、被測定ガスと第2アノード電極12aとの接触を確実に遮断することができる。また、遮蔽体13を別部材として形成する必要がなくなるため、素子製造性を向上させることもできる。その他は、実施例1と同様の作用効果を奏する。また、実施例1のガス濃度検出方法において、本例のガスセンサ素子1を適用しても、同様に、水素原子を含む被測定ガスの濃度を高精度に検出することが可能である。
【0068】
以上、実施例について説明したが、本発明は、上記実施例により限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改変を行うことが可能である。