(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
【0011】
図1は、一実施形態におけるインクジェットヘッド1の構成を概略的に示す分解斜視図である。
【0012】
インクジェットヘッド1は、主要部10、オリフィスプレート20、マスクプレート30、およびマニホールド40を有する。このインクジェットヘッド1は、第1方向Xを長手方向とした概略直方体形状である。なお、以下の説明において、第1方向Xに概ね直交する方向を第2方向Yとし、X−Y平面に直交する方向を第3方向Zとする。インク滴の吐出方向は第3方向Zである。
【0013】
主要部10は、絶縁基板11、枠体12、および圧電部材13などを含む。
【0014】
絶縁基板11は、一般的にはアルミナ製であり、第1方向Xに沿って延出した概略長方形の板状である。この絶縁基板11は、オリフィスプレート20と対向する側に上面11Tを有するとともに、マニホールド40と対向する側に下面11Bを有している。このような絶縁基板11は、インク供給口11inおよびインク排出口11outを有している。インク供給口11inおよびインク排出口11outは、絶縁基板11の上面11Tから下面11Bまで貫通している。
【0015】
枠体12は、例えば金属製であり、矩形枠状である。この枠体12は、絶縁基板11の上面11Tに配置されている。圧電部材13は、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(以下、PZTと称する)製であり、絶縁基板11の上面11Tにおいて枠体12で囲まれた内側に配置されている。各圧電部材13は、第1方向Xに沿って並び、隣接する圧電部材13の間の空間は圧力室14となる。したがって、複数の圧力室が第1方向Xに沿って並んでいる。
【0016】
図1に示した例では、第1方向Xに沿って並んだ圧電部材13の列が2列(111および112)形成されている。複数のインク供給口11inは、絶縁基板11の略中央部、つまり、2列の圧電部材13の間において第1方向Xに沿って並んでいる。複数のインク排出口11outは、絶縁基板11の周辺部、つまり、圧電部材13と枠体12との間において第1方向Xに沿って並んでいる。このような構成により、インク供給口11inのそれぞれから圧力室14に向けてインクが供給され、圧力室14を通過したインクがインク排出口11outのそれぞれから排出される。
【0017】
オリフィスプレート20は、例えば、ポリイミドなどの樹脂製、あるいは、ニッケル合金やステンレスなどの耐熱性を有する金属製であり、第1方向Xに沿って延出した概略長方形の板状に形成されている。このオリフィスプレート20は、第3方向Zに沿って主要部10の上方に配置されている。このオリフィスプレート20は、マスクプレート30と対向する側に上面20Tを有するとともに、主要部10と対向する側に下面20Bを有している。このオリフィスプレート20の下面20Bと、枠体12および圧電部材13とは、図示しない接着剤により接着されている。
【0018】
オリフィスプレート20は、インク滴を吐出するオリフィス21を有している。各オリフィス21は、それぞれの圧力室14に対向して形成されており、各圧力室14に連通している。複数のオリフィス21は、概略第1方向Xに沿って並んでおり、オリフィス列211および212を形成している。オリフィス列は、1列であってもよく、3列以上であってもよい。
【0019】
マスクプレート30は、例えば、金属製であり、オリフィスプレート20を囲む枠状に形成されている。このマスクプレート30は、第3方向Zに沿って主要部10の上方に配置されている。このマスクプレート30は、オリフィスプレート20の外径と略同等の四角形状の開口部30Hを有している。このマスクプレート30と枠体12とは、接着剤により接着されている。
【0020】
マニホールド40は、第3方向Zに沿って主要部10の下方に配置されている。このマニホールド40は、一般的にはアルミナ製であり、インク供給口11inに向けてインクを導入するためのインク導入路41、および、インク排出口11outから排出されたインクを回収するインク回収路42を有している。インク導入路41には、図示しないインクタンクからインクを導入するための導入用パイプ51が接続されている。インク回収路42には、インクをインクタンクに回収するための回収用パイプ52が接続されている。このマニホールド40は、主要部10と対向する側に上面40Tを有している。このマニホールド40の上面40Tと、絶縁基板11の下面11Bとは、接着剤により接着されている。
【0021】
以上の構成に示されるように、マニホールド40上に絶縁基板11が接着され、絶縁基板11上には圧電部材13が接着されている。したがって、マニホールド40は絶縁基板11に対して下側部材を構成し、絶縁基板11はマニホールド40に対して上側部材を構成している。また、絶縁基板11は圧電部材13に対して下側部材を構成し、圧電部材13は絶縁基板11に対して上側部材を構成している。
【0022】
図2は、
図1に示したインクジェットヘッド1を第2方向Yに沿って切断した構造を概略的に示す断面図である。
【0023】
マニホールド40の上面40Aには、接着層45を介して絶縁基板11の下面11Bが接着されている。絶縁基板11の上面11Tには、枠体12が配置されている。枠体12の内側には、圧電部材13が配置されている。圧電部材13は、接着層44を介して絶縁基板11の上面11Aに接着され、Y−Z平面内に台形状の断面を有している。枠体12の外側には、詳述しないが圧電部材13を駆動する電極に電気的に接続された端子Tが配置されている。端子Tには、図示しない異方性導電膜を介して配線基板15が実装されている。この配線基板15は、マニホールド40の側に引き出され、図示しないプリント回路基板などに電気的に接続されている。
【0024】
枠体12は、Y−Z平面内に階段状の断面を有している。すなわち、枠体12は、その内側にオリフィスプレート20を受ける第1ステップ12Aと、その外側にマスクプレート30を受ける第2ステップ12Bとを有している。第1ステップ12Aの高さH1は、第2ステップ12Bの高さH2より高い。
【0025】
オリフィスプレート20は、その下面20Bが枠体12の第1ステップ12Aに接着されるとともに圧電部材13にも接着されている。マスクプレート30は、枠体12の第2ステップ12Bに接着されている。マスクプレート30の開口部30Hには、オリフィスプレート20が配置されている。また、このマスクプレート30は、端子Tから引き出された配線基板15を保持している。
【0026】
マニホールド40と絶縁基板11とを接着する接着剤、および絶縁基板11と圧電部材13とを接着する接着剤としては、従来、熱硬化性の接着剤が用いられている。オリフィスプレート20と枠体12および圧電部材13とを接着する接着剤、および、マスクプレート30と枠体12とを接着する接着剤としても、同様に熱硬化性の接着剤が用いられている。
【0027】
圧電部材13の側面および絶縁基板11の上面には、
図3に示されるように電極16Eが設けられている。
図3には明確に示されていないが、紙面に直交する方向に複数の圧力室14が存在し、各圧力室14は側面および底面に電極を有している。こうした電極に電圧が印加されると圧電部材13が変形し、それによって圧力室14の容積が膨張または縮小する。
【0028】
図4には、
図2に示した断面図の一部詳細を示す。マニホールド40にはインク導入路41およびインク回収路42が設けられ、絶縁基板11にはインク供給口11inおよびインク排出口11outが貫通している。また、
図5には、インクジェットヘッド1の第1方向Xに沿って切断した構造を概略的に示す。図示するように、圧電部材の列111には、複数の圧力室14が存在する。
【0029】
ここで、絶縁基板11を下側部材とし、圧電部材の列111を上側部材とした場合について検討する。
図6に示されるように、絶縁基板11の厚さは、通常0.5mm程度であり、圧電部材の列111の厚さは、通常0.6mm程度である。絶縁基板11と圧電部材の列111との間の接着層44は、通常10〜50μm程度の厚さで形成される。
【0030】
接着層44の硬化後には、接着された部材は
図7に示すように変形する。こうした変形が生じる一つの要因は、各部材の熱膨張率の違いである。PZTの熱膨張率およびアルミナの熱膨張率は、それぞれ1×10
-6/℃程度および8×10
-5/℃程度であり、大きく異なっている。また、接着層44を構成しているエポキシ系接着剤の硬化物の熱膨張率は、6×10
-5/℃程度である。
【0031】
圧電部材と絶縁基板の熱膨張率との差に起因して、エポキシ系接着剤の硬化後には、接着された部材に変形が生じる。この変形は、後の工程を経て矯正されるものの、結果的に内部応力となって個々の圧電部材13の内部に残留する。
【0032】
図4に示したように絶縁基板11には、インク供給口11inおよびインク排出口11outが貫通しているので、絶縁基板11には空間が存在する。このため、絶縁基板11における加熱時の変位量は、絶縁基板の全域にわたって均一ではなく位置によって異なる。絶縁基板11に発生する内部応力も、その位置によって異なる。したがって、圧電部材13および絶縁基板11には、場所によって異なる内部応力が働くことになる。絶縁基板11の材料であるアルミナに比べて、圧電部材の材料であるPZTは非常に脆いため、この内部応力は絶縁基板11ではなく圧電部材13に集中する。
【0033】
この圧電部材13に集中する内部応力について、シミュレーションを行なった結果を説明する。
図8は、シミュレーションに用いたモデルであり、接着層44を介して絶縁基板11上に設けられた圧電部材の列111の斜視図を示す。絶縁基板11上においては、圧電部材の列111がx方向に沿って延び、この圧電部材には複数の圧力室(図示せず)が設けられている。
【0034】
シミュレーションにおいては、接着層44の材質はエポキシ系接着剤の硬化物とし、絶縁基板11および圧電部材の材質は、それぞれアルミナおよびPZTとした。
【0035】
図9には、シミュレーションによって求めた内部応力の状態を示す。
図9(a)は、
図8におけるy方向に沿った断面図における状態であり、絶縁基板11上に接着層44を介して圧電部材13が配置されている。
図9(b)は、
図8におけるx方向に沿った断面における状態であり、圧電部材の列111を構成する圧電部材13の間には、圧力室14が設けられている。
【0036】
図9(a)に示した領域aにおける強度は、30N/mm
2程度と算出された。この領域aに隣接する周囲の強度は、20N/mm
2程度であり、領域aに内部応力が集中していることがわかる。
図9(b)に示した領域bにおける強度もまた、30N/mm
2程度と算出された。この領域bに隣接する周囲の強度は、20N/mm
2程度であり、領域bにも内部応力が集中している。内部応力は、圧力室14の動きを変化させて、ヘッドの印字特性を低下させる。
【0037】
次に、マニホールド40を下側部材とし、絶縁基板11を上側部材とした場合について検討する。
図10には、接着層45を介してマニホールド40に接合された絶縁基板11の部分断面図を示す。絶縁基板11およびマニホールド40は、いずれもアルミナ製であるので、この2つの部材の熱膨張率の違いに起因した変形は生じない。しかしながら、上述したようにエポキシ系接着剤の硬化物の熱膨張率は6×10
-5/℃程度であるのに対し、アルミナの熱膨張率は8×10
-5/℃程度である。接着層の熱膨張率がアルミナの熱膨張率に比べて小さいことから、接着層45が収縮して
図11に示すように、インク供給口11inおよびインク導入路41周辺の領域c1、およびインク排出口11outおよびインク回収路42周辺の領域c2に応力が集中する。
【0038】
応力集中は、接着層45内部、絶縁基板11およびマニホールド40の一部に及ぶ。さらに、この応力は、絶縁基板11を通して圧電部材に影響を与え、前述と同様に印字特性を低下させる。
【0039】
図12を参照して、マニホールド40における応力集中についてシミュレーションを行なった結果を説明する。
図12(a)はマニホールド40の上面を表わし、領域fは、接着剤塗布領域に対応する。この領域fの端部dの拡大図を、
図12(b)に示す。端部dの一部(領域e)の強度は、60N/mm
2程度と算出された。この領域eに隣接する領域の最少の強度は、5N/mm
2以下程度であり、領域eに応力が集中している。
【0040】
このようにマニホールドの一部に内部応力が発生すると、圧電部材に及ぼされる影響は不均一なものとなる。圧電部材における複数の圧力室に対応したオリフィス全てから、均一にインクを吐出することは困難となり、これによって、濃度むらと呼ばれる現象が生じる。
図13を参照して、印字精度結果について説明する。
図13(a)はドット径誤差を示し、
図13(b)は直線性誤差を示している。
図13(a)および
図13(b)における横軸は、インクジェットヘッドのノズル番号である。ドット径誤差は、次のような手法により求めた。具体的には、インクジェットヘッドの全ノズルからインクを吐出して紙に印字し、紙に着弾したインクのドットの大きさ(d
n)を測定した。全ドットの大きさの平均値(d
av)を基準として、各ドットについて(100×d
n/d
av)を求め、ドット径誤差とした。また、直線性誤差は、着弾位置の紙送り方向のズレ量をさす。この直線性誤差は、ドット径誤差同様に、紙に印字した各ドットに関して紙送り方向のズレ量のことである。
図13(a)から吐出量の周期的なムラが生じていることがわかり、
図13(b)からは着弾位置の周期的な変化が生じていることがわかる。
【0041】
図13(c)は、マニホールド40の平面を表わす概略図である。領域fは、
図12(a)を参照して説明したように、接着剤塗布領域に対応し、内部応力が集中する領域eも示してある。
図13(a)に示したドット径誤差、および
図13(b)に示した直線性誤差は、いずれも極小点を有する。ドット径誤差および直線性誤差の極小点の発生する位置は、マニホールド40における内部応力が集中する領域eに一致している。
【0042】
ここで、吐出量の周期的なムラが発生する原因に関して、
図14を参照して説明する。シェアモード型のインクジェットヘッドは、通常、圧電部材に形成される圧力室が変形することによって、オリフィスからインク滴が吐出される。
図14(a)に示す静止状態においては、圧電部材13の材質であるPZTは矢印gで表わされる方向に分極している。なお、隣接する圧電部材13の間の圧力室14の側面および底面には、電極16Eが形成されている。
【0043】
圧力室14内にインク48が流入されると、PZTにおいては
図14(b)に示されるように矢印h方向に電場が発生する。インクが加圧されることにより、電場方向は
図14(c)に示されるように矢印j方向に変化して、オリフィスプレート20のオリフィス21にインク柱49が形成される。その後、インク柱49が切断されて、
図14(d)に示すようにインク滴50がオリフィス21から吐出される。
【0044】
PZTは圧電体であるので、力が与えられると電場が生じる。したがって、インクを収容した圧力室14の周りに応力が発生すると、その応力を打ち消すように電場が発生する。この電場によって、駆動時の圧力室の変形が阻害されて駆動に影響が及ぼされ、オリフィス21からのインク滴50の吐出が不均一となって印字特性が低下する。インクジェットヘッドの製造過程で生じる内部応力によって良好な印字が妨げられるのは、これが原因である。
【0045】
本実施形態においては、インクジェットヘッドに生じるこうした内部応力の影響を低減することを可能とした。
【0046】
図15は、一実施形態にかかるインクジェットヘッドにおける上側部材、下側部材、および接着層の構成を概略的に示す断面図である。インクジェットヘッドの詳細な構成は、
図2、
図4および
図5に示したとおりである。下側部材61と上側部材62とは、接着層63(
図2等における接着層44および/または接着層45に相当する)により接着されている。下側部材61および上側部材62の熱膨張率を、それぞれρ
1およびρ
2とする。下側部材61が絶縁基板の場合には、上側部材62は圧電部材である。また、下側部材61がマニホールドの場合には、上側部材62は絶縁基板である。
【0047】
接着層63は、下側部材61表面に設けられた下側緩衝層64と、上側部材62表面に設けられた上側緩衝層65と、2つの緩衝層を接合する中間層66とから構成される。下側緩衝層64は熱膨張率ρ
buf1を有し、第1の接着剤の硬化物からなる。上側緩衝層65は熱膨張率ρ
buf2を有し、第2の接着剤の硬化物からなる。下側緩衝層64および上側緩衝層65の端面は、いずれも接着層63の端面に達して露出している。また、中間層66は熱膨張率ρ
medを有し、第3の接着剤の硬化物からなる。
【0048】
本実施形態においては、中間層66の熱膨張率ρ
med、下側緩衝層64の熱膨張率ρ
buf1、および下側部材61の熱膨張率ρ
1は、下記数式(1)の関係を満たす。
【0049】
ρ
med<ρ
buf1<ρ
1 (1)
さらに、上側緩衝層65の熱膨張率
buf2は、上側部材62の熱膨張率ρ
2と中間層66の熱膨張率ρ
medとの間の値である。
【0050】
例えば、アルミナ製の絶縁基板を下側部材61とし、PZTからなる圧電部材を上側部材62とする場合には、下側部材61の熱膨張率ρ
1は8×10
-5/℃程度であり、上側部材62の熱膨張率ρ
2は1×10
-6/℃程度である。中間層66の熱膨張率ρ
medは4×10
-5/℃程度とすることができる。下側緩衝層64の熱膨張率ρ
buf1、および上側緩衝層65の熱膨張率ρ
buf2は、以下の範囲で選択される。
【0051】
4×10
-5/℃<ρ
buf1<8×10
-5/℃
1×10
-6/℃<ρ
buf2<4×10
-5/℃
熱膨張率の値は、下側部材61、下側緩衝層64、中間層66、上側緩衝層65、および上側部材62の順に小さくなる。このため、下側部材61と中間層66との熱膨張率の違いによる影響を緩和するとともに、上側部材62と中間層66との熱膨張率の違いによる影響も緩和することができる。
【0052】
図示する構成のインクジェットヘッドは、例えば、次の手順で製造することができる。まず、
図16に示すように、下側部材61の表面に第1の接着剤を塗布して下側塗膜64’を形成し、上側部材62の表面には第2の接着剤を塗布して上側塗膜65’を形成する。
【0053】
具体的には、スクリーン印刷機やディスペンサ等を用いて下側部材61の表面に第1の接着剤を塗布し、オーブン等により硬化させて下側緩衝層64が得られる。硬化の条件は、用いる接着剤の種類に応じて適宜選択すればよい。上側緩衝層65も同様の手法により、形成することができる。
【0054】
下側部材61と上側部材62との間の接着層63の厚さは、通常、10〜50μm程度であるので、下側緩衝層64および上側緩衝層65の厚さは、4〜20μm程度とすることが好ましい。
【0055】
下側緩衝層64と上側緩衝層65との間の中間層66は、第3の接着剤を用いて形成される。例えば、下側緩衝層64の上に、スクリーン印刷機やディスペンサ等を用いて第3の接着剤を塗布し、その上に上側緩衝層65を配置する。オーブン等により第3の接着剤の層を硬化させて中間層66が得られる。下側緩衝層64、中間層66および上側緩衝層65の積層体によって、接着層63が構成される。中間層66の厚さは、2〜10μmの範囲内で適宜選択することができる。
【0056】
下側緩衝層64の熱膨張率ρ
buf1は、下側部材61の熱膨張率ρ1より小さく、中間層66の熱膨張率ρ
medより大きい。上側緩衝層65の熱膨張率ρ
buf2は、中間層66の熱膨張率ρ
medより小さく、上側部材62の熱膨張率ρ
2より大きい。こうした関係が満たされるように、下側緩衝層64を形成するための第1の接着剤、および上側緩衝層65を形成するための第2の接着剤を選択する。
【0057】
一般的には、接着剤の硬化物の熱膨張率は、接着剤に含まれる不純物の濃度に依存する。例えば、ガラスなどの熱膨張率の低い不純物を接着剤に添加することによって、硬化物の熱膨張率が所定の範囲となるように調節することができる。
【0058】
熱膨張率が上述の関係となるような接着剤を適宜選択して、下側緩衝層および上側緩衝層を形成すればよい。いずれの緩衝層も、隣接する層(または部材)との間の熱膨張率の違いは、2×10
-5/℃程度であることが望まれる。
【0059】
図15に示した構造においては、下側緩衝層64および上側緩衝層65の端面は、接着層63の端面に達して露出しているので、これらの緩衝層は中間層とともにインクに接触することになる。インクに接触しても劣化しないように、緩衝層および中間層は、いずれもある程度のインク耐性を有することが求められる。
【0060】
下側緩衝層64および上側緩衝層65のインク耐性が十分でない場合には、中間層66がインク耐性を有していればよい。この際には、
図17に示すような構成で接着層63を形成することができる。
図17においては、下側緩衝層54および上側緩衝層65の端面が接着層63の端面で露出せずに、中間層66で覆われている。こうした点が異なる以外は、
図15に示した構造と同様である。
【0061】
図示する構造を得るにあたって、例えば、
図18に示すように、下側部材61上に下側塗膜64’を形成し、上側部材62上に上側塗膜65’を形成する。塗膜64’、65’のいずれも、部材61,62の外周に達しないように設ける。部材の外周から塗膜の端面までの距離Lは、特に規定されない。接着層63の端面から緩衝層64,65までの間における中間層66の厚さが1mm程度以上確保されるように、塗膜の領域を決定すればよい。塗膜を形成する領域は、例えばマスキングによって制御することができる。
【0062】
以上、下側部材61として絶縁基板を用い、上側部材62として圧電部材を用いた例について説明したが、アルミナ製のマニホールドを下側部材61とし、アルミナ製の絶縁基板を上側部材62とすることもできる。この場合、中間層66の熱膨張率ρ
medは、4×10
-5/℃程度とすることができ、下側緩衝層64の熱膨張率ρ
buf1は、以下の範囲で選択される。
【0063】
4×10
-5/℃<ρ
buf1<8×10
-5/℃
上側部材62の熱膨張率ρ
2が下側部材61の熱膨張率ρ
1と等しい場合には、上側緩衝層65の熱膨張率ρ
buf2は下側緩衝層64の熱膨張率ρ
buf1と等しくするのが一般的である。したがって、上側緩衝層65の熱膨張率ρ
buf2は、下側緩衝層64の場合と同様に以下の範囲で選択される。
【0064】
4×10
-5/℃<ρ
buf2<8×10
-5/℃
第1の接着剤および第2の接着剤を適切に選択し、絶縁基板上に圧電部材を接合する場合と同様の方法によって、下側部材としてのマニホールド上に上側部材としての絶縁基板を接合することができる。マニホールドと絶縁基板との間に設けられる接着層の厚さは、絶縁基板と圧電部材との間に設けられる接着層の場合と同様に、通常10〜50μmである。したがって、各緩衝層および中間層の好ましい厚さは、前述と同様とすることができる。
【0065】
マニホールド上に絶縁基板が接合される場合には、熱膨張率の値は、下側部材(上側部材)、下側緩衝層(上側緩衝層)、および中間層の順に小さくなる。このため、下側部材と中間層との熱膨張率の違いによる影響は緩和され、上側部材と中間層との熱膨張率の違いによる影響も緩和される。
【0066】
本実施形態により、製造過程で生じる内部応力を低減して、良好な印字を行なうことが可能なインクジェットヘッドが得られる。
【0067】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行なうことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0068】
1…インクジェットヘッド; 10…主要部; 11…絶縁基板; 11T…上面
11B…下面; 11in…インク供給口; 11out…インク排出口; 12…枠体
12A…第1ステップ; 12B…第2ステップ; 13…圧電部材
111…圧電部材の列; 112…圧電部材の列; 14…圧力室; 16E…電極
20…オリフィスプレート; 20T…上面; 20B…下面; 21…オリフィス
211…オリフィス列; 212…オリフィス列; 30…マスクプレート
30H…開口部; 40…マニホールド; 41…インク導入路
42…インク回収路; 51…導入用パイプ; 52…回収用パイプ
44…接着層; 45…接着層; 48…インク; 49…インク柱
50…インク滴; a…応力集中領域; b…応力集中領域; c1…応力集中領域
c2…応力集中領域; d…端部; e…応力集中領域
f…接着剤塗布領域; 61…下側部材; 62…上側部材
63…接着層; 64…下側緩衝層; 65…上側緩衝層; 66…中間層
64’…下側塗膜; 65’…上側塗膜。