【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するために、本発明の摺動部材
の基本構成は、室温から450Kにおいて熱伝導率が200〜450W/(mK)である第1金属を主成分とする第1層と、前記第1金属よりも硬度が低い第2金属を主成分と
し摺動面側に配される第2層との間に、第3層を有し、前記第3層は、前記第1金属を母相、前記第2金属を二次相として有し、前記第3層中での前記二次相の面積率が10〜30%であり、前記第3層の厚さは、当該第3層と前記第1層を合わせた合計厚さの3%以上であることを特徴とする(請求項1の発明
の基本構成)。
【0008】
請求項1の摺動部材
の基本構成は、第1層と第3層と第2層とを有する複層構造となっている。この摺動部材は、第2層を摺動面側に、第1層を反摺動面側に配する。裏金となる鋼板等の基材の一面に第1層を配して使用するのが好ましい。第1層と第2層との間に位置する第3層は、第1層が主成分とする第1金属を母相として有しているので、第1層との接着性が良い。また、第3層は、その摺動面側で接する層が主成分とする第2金属を二次相として有しているので、その層との接着性の面で有利である。
【0009】
第1層の主成分でかつ第3層の母相である第1金属は、室温から450K(約20℃〜約177℃)における熱伝導率が200〜450W/(mK)である。第1金属の熱伝導率が200W/(mK)以上であると、相手部材との摺動によって発生する第2層の熱を、その第1金属を介して効率良く逃がすことができる。そして、その第2層として前述の第1金属よりも硬度が低い第2金属を主成分とする層を摺動面へ配するので、非焼付性が向上する。耐疲労性と非焼付性のみならず量産性も求められる摺動部材に用いることができる金属は、熱伝導率が450W/(mK)以内である。
【0010】
第3層における二次相(第2金属)の面積率は10〜30%である。二次相の面積率は次のようにして求める。製造された摺動部材について、厚さ方向断面の組成像を電子顕微鏡で撮影する。得られた画像を解析ソフトを用いて解析し、二次相の占める面積を求め、百分率で表す。
【0011】
二次相の面積率が10%未満であると、第3層と第2金属を主成分とする層との接着性を十分に確保することができない。この場合、第3層における第2層側界面付近の二次相と母相との間で微小な剥離が発生しやすく、それを起点に接着界面からクラックが発生しやすくなり、ひいては耐疲労性が低下する。二次相の面積率が30%を超えると、第3層における二次相が比較的軟質であるがゆえ、そこでの破壊が発生して、クラックが進展しやすくなり、やはり耐疲労性が低下する。このため、第3層における二次相の面積率は10〜30%の範囲が好ましい。
【0012】
第3層の厚さは、当該第3層と第1層を合わせた合計厚さの3%以上である。第3層と第2金属を主成分とする層との接着性を十分に確保するには、第3層の厚さは、当該第3層と第1層を合わせた合計厚さの3%以上必要である。
【0013】
請求項1の摺動部材
の基本構成は、上記した第1層と第3層と第2層とを有する複層構造とすることで、耐疲労性と非焼付性に優れたものとすることができる。
上記した摺動部材は、例えば次のようにして製造することができる。説明を簡易にするため、例示として以下、第1金属は、上記熱伝導率の条件を満たすAlを用いる。同様に第2金属は、Alよりも硬度が低いSnを用いる。そして、第1層は第1金属であるAlを主成分とし、第2層は第2金属であるSnを主成分とするSn合金、第3層は第1金属のAlを母相で第2金属のSnを二次相としたAl−Sn合金とする。
【0014】
まず、Al-Sn合金を板状に鋳造する。得られたAl-Sn合金板を、接着層となるAl板を介して、例えば鋼板製の基材と圧着し、3層のいわゆるバイメタルを得る。この後、Al-Sn合金板の表面に、コールドスプレー法によって、第2金属であるSnの皮膜を設け、そのSn皮膜の上にSn合金を鋳造により設ける。なお、Sn合金層は、めっきにより設けることも可能である。
【0015】
図1には、このようにして製造された摺動部材の断面図が模式的に示されている。この
図1において、基材1の上に、第1金属であるAlを主成分とする第1層2が設けられている。この第1層2と、Alよりも硬度が低いSnを主成分とするSn合金からなる第2層3との間に、第3層4が設けられている。第3層4は、第1金属であるAl5を母相、第2金属であるSn6を二次相として有したAl-Sn合金により構成されている。
【0016】
上記した構造においては、Al-Sn合金からなる第3層4の上にコールドスプレー法によってSn皮膜を形成し、そのSn皮膜の上にSn合金を鋳造することで、Al-Sn合金層(第3層4)とSn合金層(第2層3)の複合構造を製造するようにした。
【0017】
ところで、Al-Sn合金層上にSn合金層を設ける場合、通常、Al-Sn合金層の表面には安定した酸化皮膜が形成されているため、そのままで鋳造を行っても容易にはSn合金を接合させることができない。そのため、従来技術では、鋳造前の前処理としてAl-Sn合金層表面の酸化皮膜除去が必要となる。酸化皮膜除去としては、例えば薬品等による化学的措置が行われることが多いが、工程が複雑となりコストが高くなる。また、この場合、酸化皮膜除去後、Niめっきを施すことになる。しかし、Niめっきを施した場合、上述したように表面側のSn合金層(第2層3)が摩滅してそのNiめっき層が露出すると、当該Niめっき層と相手部材(例えば軸)とが直接接触することにより焼付きに至りやすいという問題がある。
【0018】
そこで、本開発では、Al−Sn合金層(第3層4)上の酸化皮膜除去の手段として、コールドスプレー法を採用した。コールドスプレー法とは、材料粉末の融点または軟化温度よりも低い温度のガスを先細末広形のラバルノズルによる超音速流にして、その流れの中に材料粉末(この場合、Sn粉末)を投入して加速させ、固相状態のまま基材(この場合、Al−Sn合金層(第3層4))の表面に高速で衝突させて皮膜を形成する技術である。コールドスプレー法の利点としては、材料粉末を高速で基材表面へ衝突させるため、基材表面の酸化皮膜を除去できるとともにその材料粉末による皮膜を形成できる点にある。
【0019】
上記した製造方法の場合、コールドスプレー法を採用することによって、Al−Sn合金層(第3層4)上の酸化皮膜を除去するとともにSn(第2金属)の皮膜が形成される。そのため、このSn皮膜が接着補助部としての役割を果たし、濡れ性が悪いAl−Sn合金とSn合金との接着性が向上する。すなわち、コールドスプレー法では、酸化皮膜除去と接着補助部形成を同時に行うことができ、コストの面でも有利である。接着補助部を所定厚さ未満とする場合は、例えば第2層3を形成する際のSn合金の鋳造時に溶けきってしまい、第3層4と第2層3とが接する構造になる。接着補助部を所定厚さ以上とする場合は、接着補助部が溶けきることなく、第3層4と第2層3との間に層が形成された構造となる。
第2層3となるSn合金層は、めっき法により形成しても良い。
【0020】
請求項
1の発明は、上記した請求項1の摺動部材
の基本構成において、さらに前記第2層と前記第3層との間に第4層を有し、前記第4層は、前記第3層に接する第5層と、前記第2層に接する第6層とからなり、前記第5層は、前記第2金属を主成分とし、かつ前記第2層よりも軟質であり、前記第6層は、前記第1金属を含む微細金属間化合物粒子の群からなることを特徴とする。
【0021】
第2層と第3層との間に第4層を設けることで、耐疲労性を一層向上させる効果がある。その理由の一つとして、第2層と第3層との間に、第2層よりも軟らかい第5層が存在することで、摺動部材の表面から荷重がかかった場合に、その第5層がクッションとしての役割を果たす。これにより、第2層への負担が軽減し、耐疲労性が向上する。第6層は、微細金属間化合物粒子の群からなり、帯状に分布して存在している。この微細金属間化合物粒子は、母相よりも硬い。この微細金属間化合物粒子が存在することで、粒子分散強化が発揮されて第5層の過剰な変形を抑制することができ、耐疲労性が向上する。さらに、第2層でクラックが生じた場合、そのクラックの進展を第6層で防げるため、大きな損傷を防ぐことができる。
【0022】
図2には、第2層3と第3層4との間に第4層7を有する構造が模式的に示されている。第4層7は、第5層8と第6層9とから構成されている。第6層9は、微細金属間化合物粒子10の群からなり、帯状に分布している。
請求項
1の摺動部材は、例えば次のようにして製造することができる。説明を簡易にするため、例示として第2層は副成分としてCuを有する構成とする。同様に、第6層の微細金属間化合物粒子はCuを主成分とする。
【0023】
前記請求項1の
基本構成の摺動部材を製造する際において、第2層(Sn合金層)を形成する前に、第3層を形成するAl-Sn合金上に溶融Snめっきを施し、その上に、Cuを含むSn合金を鋳造する工程を採用する。具体的には、溶融Sn浴中へ、Al-Sn合金を有するバイメタルを浸漬し、Sn浴内でバレル研磨等物理的手法にてAl-Sn合金表面の酸化皮膜や不純物を除去して、そのAl-Sn合金表面へ溶融Snめっきを施す。この方法によれば、コールドスプレー法よりも厚い接着補助部即ちSn皮膜を形成し易い。その後、Sn皮膜の上に、適正な温度、時間にてSn合金を鋳造することで、
図2に示すような複層構造を得ることができる。この場合、例えば、第5層8はSn、第6層9の微細金属間化合物粒子10は、Cuを主成分としてAlを含むCu−Al合金となる。
【0024】
このような製造方法によれば、上記請求項
1の摺動部材の構造が得られるだけでなく、接着性の良さも利点として挙げられる。Al-Sn合金表面の酸化皮膜や不純物の除去をSn浴内で行うため、Al-Sn合金表面の新生面が形成された後、即座にAl-Sn合金とSnとが結びつくことができる。このため、酸化皮膜や不純物を巻き込む可能性が低く、接着性が向上する。また、Sn合金の鋳造時に接合界面にて原子の相互拡散が充分に行われるため、より強い接着力を得ることができる。接着性が良好であると、その界面でのクラック発生を抑制することができ、耐疲労性が良好となる。さらに、厚いSn皮膜を形成させ易いので、第3層と第2層との間に第4層を形成させるのに特に適している。
第2層3となるSn合金層は、めっき法により形成しても良い。
【0025】
請求項
2の発明は、
請求項1の基本構成の摺動部材において、前記第2層は、主成分のマトリクス中に金属間化合物粒子が分散して存在する組織であり、前記金属間化合物粒子の平均粒子角度が55°以下であることを特徴とする。
図2において、第2層3には、例えばSnとCuの金属間化合物粒子11が分散した状態で存している。その金属間化合物粒子11の粒子角度は次のようにして測定する。製造された摺動部材について、厚さ方向断面の組織を光学顕微鏡で撮影する。得られた画像から解析ソフトを用いて解析し、金属間化合物粒子11の粒子角度を測定する。粒子角度は、第3層の厚さ方向(深さ方向)に直交する水平な線を0°とした。
図3に示すように、金属間化合物粒子11を四角で囲み、tanθ=b/aから、粒子角度θを測定した。得られた粒子角度θの平均を平均粒子角度とした。その平均粒子角度が55°以下であると、金属間化合物粒子11を起点にした疲労破壊を起こし難い。よって、第2層における金属間化合物粒子の平均粒子角度は55°以下が好ましい。第2層を鋳造法により形成することによって、平均粒子角度を確実に55°以下に制御することができる。
【0026】
請求項4の発明は、前記第2層の厚さは、前記第1層から第3層、場合により第4層を経た前記第2層までの総合計厚さの3〜45%であることを特徴とする。第2層に比べて耐疲労性が優れる第1層及び第3層の存在割合を考慮すると、第2層の厚さが、前記総合計厚さの45%以下が好ましい。第2層の摩滅による第3層のAl-Sn合金層の露出可能性を考慮すると、第2層の厚さは前記総合厚さの3%以上が好ましい。
【0027】
請求項5の発明は、前記第5層の平均厚さは、前記第1層と前記第3層の合計厚さの0.2〜5%であり、前記第5層における前記第6層側の界面形状は波形状をなしていて、前記波形状における凸部の平均高さが2〜15μm、隣り合った前記凸部間の平均距離が20〜100μmであることを特徴とする。
【0028】
第5層と第6層との界面は、波形状をなしている(厚さ方向に凹凸を有している)。これにより、剪断方向(厚さ方向に垂直な方向)からの荷重に対してもクッション効果を効率良く得ることができ、耐疲労性の向上に効果がある。第5層の厚さが、第1層と第3層の合計厚さの0.2%以上であると、当該第5層のクッション効果を確実に得ることができる。第5層の厚さが、第1層と第3層の合計厚さの5%以下であると、軟らかい第5層が厚くなりすぎず、高い耐疲労性を発揮できる。よって、第5層の厚さは、第1層と第3層の合計厚さの0.2〜5%の範囲が好ましい。
【0029】
第5層における第6層側の界面の波形状における凸部の平均高さと、隣り合う凸部間の平均距離は、次のようにして測定する。製造された摺動部材について、厚さ方向断面の組成像を電子顕微鏡で撮影する。得られた画像を解析ソフトを用いて解析し、波形状おける凸部の平均高さと、隣り合う凸部間の平均距離を測定する。
【0030】
波形状における凸部の高さは、凸部の底部から頂部までの高さのことである。波形状における凸部の平均高さが2〜15μmであるということは、本願では3視野での各測定視野における凸部の高さの平均値がそれぞれ2〜15μmの範囲内に入っていることをいう。具体的には、例えば、ある第1の測定視野において2個の凸部があり、それら2個の平均高さが3μm、別の第2の測定視野において3個の凸部があり、それら3個の平均高さが6μm、さらに別の第3の測定視野において4個の凸部があり、それら4個の凸部の平均高さが13μmである場合、凸部の平均高さが2〜15μmの範囲内に入っているという。
【0031】
また、隣り合った凸部間の距離とは、隣り合った2つの凸部の頂部間の距離のことである。隣り合った凸部間の平均距離が20〜100μmであるということは、前記凸部の平均高さの測定と同様に、3視野での各測定視野における隣り合った凸部間の距離の平均値がそれぞれ20〜100μmの範囲内に入っていることをいう。
【0032】
波形状における凸部の平均高さが2μm以上では、前記剪断方向からの荷重に対するクッション効果が高い。その凸部の平均高さが15μmを超えると、耐疲労性が低下する傾向にある。よって、第5層と第6層との間の界面の波形状おける凸部の平均高さは、2〜15μmの範囲が好ましい。
【0033】
隣り合った凸部間の平均距離が20μm未満では、応力が集中する凸部間の距離が近くなり、破断しやすくなる傾向がある。その平均距離が100μmを超えると、前記剪断方向からの荷重に対するクッション効果が弱まる傾向にある。よって、隣り合った凸部間の平均距離は、20〜100μmの範囲が好ましい。
これらの凸部の高さと距離は、第2層形成時の鋳造条件や熱処理条件等を調整することで、制御することができる。
【0034】
請求項6の発明は、前記第6層は、前記第5層の前記界面形状に沿って平均粒子径が5μm以下の前記微細金属間化合物粒子が帯状に分布する状態になっていて、前記微細金属間化合物粒子は、前記第5層から前記第2層側への厚さ方向の10μm幅の間にその存在面積のうち70%以上が存在していることを特徴とする。
【0035】
第6層の微細金属間化合物粒子の平均粒子径が5μmを超えると、微細金属間化合物粒子同士が繋がる確率が増え、第5層によるクッションとしての役割の効果が下がる傾向がある。微細金属間化合物粒子が、第5層から第2層側への厚さ方向の10μm幅の間に70%以上存在する状態であると、第6層の効果が効果的に発揮される。
【0036】
請求項7の発明は、前記第1金属はAl又はCuであり、前記第2金属はSn又はPbであり、前記第2層は副成分としてCuを有していることを特徴とする。
第1金属としては耐疲労性に優れるAlが特に好ましい。コスト面を考慮すると、CuよりもAlの方がより好ましい。第2金属としては非焼付性に優れるSnが特に好ましい。環境問題を考慮すると、PbよりもSnを用いた方が良い。第2層の副成分としてCuを含むことで、第2層の強度を向上させることができる。また、第2層は、Cuに加えてSbを含むようにしても良い。第2層にSbが含まれることで、第5層のクッション性を損なわずに、第2層の強度を向上させることができる。
【0037】
請求項8の発明は、請求項7の発明において、さらに、第6層の微細金属間化合物粒子はCuを主成分とすることを特徴とする。したがって、この場合、微細金属間化合物粒子は、Cuを主成分として第1金属を含むものとなる。微細金属間化合物粒子はCu−Al系であることが好ましい。第2層にCuを含ませることで、第6層の形成が効率良く行われ、第6層の効果を効果的に得ることができる。