特許第5707277号(P5707277)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5707277
(24)【登録日】2015年3月6日
(45)【発行日】2015年4月22日
(54)【発明の名称】ヘッドホン
(51)【国際特許分類】
   H04R 1/10 20060101AFI20150402BHJP
【FI】
   H04R1/10 101Z
   H04R1/10 102
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-178279(P2011-178279)
(22)【出願日】2011年8月17日
(65)【公開番号】特開2013-42382(P2013-42382A)
(43)【公開日】2013年2月28日
【審査請求日】2014年7月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000128566
【氏名又は名称】株式会社オーディオテクニカ
(74)【代理人】
【識別番号】100083404
【弁理士】
【氏名又は名称】大原 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100166752
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 典子
(72)【発明者】
【氏名】秋野 裕
【審査官】 大野 弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−087048(JP,A)
【文献】 特開2011−015338(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動電型のヘッドホンユニットと、上記ヘッドホンユニットの周りに取り付けられたバッフル板と、上記バッフル板の一方の面側に装着され人体の側頭部に当接されるイヤーパッドと、上記ヘッドホンユニットの背面側を囲むように上記バッフル板の他方の面側に設けられたヘッドホンハウジングとを含み、上記バッフル板の周縁側で上記イヤーパッドにより覆われる位置に、上記ヘッドホンユニットが備える振動板の前後の空気室を音響的に接続する音響通路が形成されているヘッドホンにおいて、
上記バッフル板の一方の面側には、上記音響通路の一端側に連通し、上記バッフル板の半径方向内側に向けて上記イヤーパッドにより覆われない位置にまで延び、上記イヤーパッドによって塞がれることのない深さを有する連通溝が形成されていることを特徴とするヘッドホン。
【請求項2】
上記音響通路が、上記バッフル板の円周方向に沿って所定の間隔をもって配置されており、上記音響通路の全部もしくは一部分に上記連通溝が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のヘッドホン。
【請求項3】
上記連通溝が、上記バッフル板の一方の面側に突設されたリブにより囲まれた領域に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のヘッドホン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耳を覆うように側頭部にあてがわれて使用されるヘッドホンに関し、さらに詳しく言えば、大口径のヘッドホンユニットを有しながらも小型化されたヘッドホンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
装着方式で分類すると、ヘッドホンには、ヘッドバンド式,耳掛け式,インナーイヤー式等があるが、本発明の従来技術として、図4にヘッドバンド方式で耳Eを覆うように側頭部HSにあてがわれて使用される第1従来例としてのヘッドホン1Bの断面を示し、これについて、その構成を説明する。
【0003】
図4に示すヘッドホン1Bは、基本的な構成として、ヘッドホンユニット10と、バッフル板20と、イヤーパッド30と、ヘッドホンハウジング40とを備えている。
【0004】
通常、ヘッドホンユニット10には、動電型(ダイナミック型)の電気音響変換器が用いられているが、静電型(コンデンサ型)の電気音響変換器が用いられることもある。
【0005】
バッフル板20は、遮音性を有する円盤体からなり、ヘッドホンユニット10の周りに取り付けられる。換言すれば、ヘッドホンユニット10は、バッフル板20の中央に形成されている開口部内に装着される。
【0006】
イヤーパッド30は、耳Eを覆うようにして人体の側頭部HSに当接されるパッド部材で、スポンジ材等の弾性体31を感触性のよい外皮32で包んだドーナッツ状を呈し、バッフル板20の一方の面20a側に装着される。
【0007】
ヘッドホンハウジング40は、ヘッドホンユニット10の背面側に所定容積の空気室(後部空気室A2)を形成するように、バッフル板20の他方の面20b側に設けられる。通常、ヘッドホンハウジング40は、自在継ぎ手状のハンガー部材を介してヘッドバンド(ともに図示しない)の端部に支持される。
【0008】
ところで、左右の耳にヘッドホンを装着して音声を聴取する際、音声が各ヘッドホンの中間、すなわち頭内に定位する。しかしながら、音声が頭内に定位し、これが長時間続くとストレスとなることが知られている。
【0009】
この頭内定位を軽減するとともに、音質と周波数応答を改善するために、振動板11の前部空気室(イヤーパッド30にて囲まれる空間)A1と後部空気室A2とを音響的に接続することが行われている。
【0010】
前部空気室A1と後部空気室A2とを音響的に接続するにあたっては、図3に示すように、バッフル板20に音響通路(開口)21を穿設し、音響通路21に不織布等の音響抵抗材22を貼り付ける手法が一般的に採用れている(例えば、特許文献1の図4参照)。
【0011】
ヘッドホンユニット10について、音質が良好なヘッドホンでは、一般的に大口径のヘッドホンユニットが搭載されていることから、どうしてもヘッドホンが大型となり、携帯性が犠牲になる。
【0012】
そこで、音質と携帯性を両立させるために、小型のヘッドホンに大口径のヘッドホンユニットを搭載した第2従来例としてのヘッドホンを図5に示す。このヘッドホン1Cによると、ヘッドホンハウジング40が小型に設計されているため、バッフル板20音響通路21がイヤーパッド30と重なる部分に配置されることになる。
【0013】
この場合、図5に例示するように、イヤーパッド30のバッフル板20に対する取付面30a側には、音響通路21を塞がないようにするための傾斜が付けられる。
【0014】
しかしながら、ヘッドホンに加えられる側圧は、使用者の頭部の形状に依存し個人差があるため、その側圧が大きい場合には、イヤーパッド30の取付面30aがバッフル板20に密着し、音響通路21が塞がれてしまうことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2010−93482号公報(図4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
したがって、本発明の課題は、頭内定位を軽減するため、バッフル板に振動板の前後の空気室を音響的に接続する音響通路が形成されているヘッドホンにおいて、音響通路がイヤーパッドにより覆われる位置に配置されたとしも、音響通路がイヤーパッドにより塞がれないようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するため、本発明は、動電型のヘッドホンユニットと、上記ヘッドホンユニットの周りに取り付けられたバッフル板と、上記バッフル板の一方の面側に装着され人体の側頭部に当接されるイヤーパッドと、上記ヘッドホンユニットの背面側を囲むように上記バッフル板の他方の面側に設けられたヘッドホンハウジングとを含み、上記バッフル板の周縁側で上記イヤーパッドにより覆われる位置に、上記ヘッドホンユニットが備える振動板の前後の空気室を音響的に接続する音響通路が形成されているヘッドホンにおいて、上記バッフル板の一方の面側には、上記音響通路の一端側に連通し、上記バッフル板の半径方向内側に向けて上記イヤーパッドにより覆われない位置にまで延び、上記イヤーパッドによって塞がれることのない深さを有する連通溝が形成されていることを特徴としている。
【0018】
本発明の好ましい態様によれば、上記音響通路は、上記バッフル板の円周方向に沿って所定の間隔をもって配置されており、上記音響通路の全部もしくは一部分に上記連通溝が形成されてよい。
【0019】
本発明において、上記連通溝は、上記バッフル板の一方の面側を凹ますことにより形成される溝以外に、上記バッフル板の一方の面側にリブを突設し、そのリブにより囲まれた領域に形成される溝であってもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、バッフル板の周縁側でイヤーパッドにより覆われる位置に、ヘッドホンユニットが備える振動板の前後の空気室を音響的に接続する音響通路が形成されているヘッドホンにおいて、バッフル板のイヤーパッドが設けられる一方の面側に、音響通路の一端側に連通し、バッフル板の半径方向内側に向けてイヤーパッドにより覆われない位置にまで延び、イヤーパッドによって塞がれることのない深さを有する連通溝が形成されていることにより、小型のヘッドホンハウジング内に大口径のヘッドホンユニットを搭載することができ、また、使用者の個人差により側圧が変わっても音響通路の音響抵抗が変化しないので、音質と周波数応答がともに良好なヘッドホンが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施形態に係るヘッドホンを頭部に装着した状態で示す断面図。
図2】上記ヘッドホンに適用されるバッフル板を示す(a)正面図,(b)そのA−A線断面図。
図3】上記バッフル板に形成される連通溝の変形例を示す(a)正面図,(b)そのB−B線断面図。
図4】第1従来例に係るヘッドホンを頭部に装着した状態で示す断面図。
図5】第2従来例に係るヘッドホンを頭部に装着した状態で示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、図1ないし図3により、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、この実施形態の説明において、先の図4図5で説明した従来例が備える構成要素と同一もしくは同一と見なされてよい構成要素には同じ参照符号を付す。
【0023】
まず、図1を参照して、この実施形態に係るヘッドホン1Aにおいても、基本的な構成として、ヘッドホンユニット10と、バッフル板20と、イヤーパッド30と、ヘッドホンハウジング40とを備えている。
【0024】
この実施形態におけるヘッドホンユニット10は動電型(ダイナミック型)であり、振動板11と磁気回路部12とを備えている。振動板11は、センタードーム111と、その周りに連設されたサブドーム112とを有し、その連設部分の背面側に接着材等によりボイスコイル113が一体的に取り付けられている。
【0025】
磁気回路部12は、周縁部が囲壁としてほぼ直角に折り曲げられた扁平な断面U字状を呈するヨーク121と、ヨーク121の内底面に配置された円盤状で厚み方向に着磁された永久磁石122と、永久磁石122上に配置されヨーク121の囲壁との間で所定幅の磁気ギャップを形成するポールピース123とを備えている。
【0026】
磁気回路部12は、円盤状で中央に開口部を有するユニットフレーム13の開口部内に支持され、また、振動板11は、ボイスコイル113が磁気回路部12の磁気ギャップ内で振動し得るように、サブドーム112の周縁部がユニットフレーム13の周縁部に支持されている。
【0027】
ユニットフレーム13には、振動板11の背面側を後述する後部空気室A2と音響的に連通する通気孔131が穿設されており、通気孔131には不織布等からなる音響抵抗材132が設けられている。
【0028】
バッフル板20は、中央に開口部を有する遮音材の円盤体からなり、ヘッドホンユニット10のユニットフレーム13の周りに取り付けられる。このバッフル板20により、振動板11の前側と後ろ側とが音響的に区画される。
【0029】
イヤーパッド30は、耳Eを覆うようにして人体の側頭部HSに当接されるパッド部材で、スポンジ材等の弾性体31を感触性のよい外皮32で包んだドーナッツ状を呈し、振動板11の放音面側であるバッフル板20の一方の面20a側に装着されている。
【0030】
ヘッドホンハウジング40は、ヘッドホンユニット10の背面側に所定容積の空気室(後部空気室A2)を形成するように、バッフル板20の他方の面20b側に設けられる。通常、ヘッドホンハウジング40は、自在継ぎ手状のハンガー部材を介してヘッドバンド(ともに図示しない)の端部に支持される。なお、ヘッドホンハウジング40は、無孔の密閉型,音漏れ孔を有するオープン型のいずれであってもよい。
【0031】
頭内定位を軽減するために、この実施形態においても、バッフル板20の周縁部分に透孔状であって不織布等の音響抵抗材22を有する音響通路21が設けられ、これにより、振動板11の前部空気室(イヤーパッド30にて囲まれる空間)A1と後部空気室A2とが音響的に接続されている。なお、音響通路21は、図2(a)に示すように、バッフル板20の円周方向に沿って所定の間隔で複数設けられている。
【0032】
このヘッドホン1Aは、先の図5で説明した第2従来例と同じく、音質と携帯性の両立をはかるため、ヘッドホンユニット10には、音質の良好な大口径ユニットを用いる一方で、ヘッドホンハウジング40およびバッフル板20が、小型(小径)に設計されることから、音響通路21がイヤーパッド30にて覆われる位置に配置され、このままでは、ヘッドホン装着時に大きな側圧がかけられると、イヤーパッド30により音響通路21が塞がれてしまうことがある。
【0033】
そこで、本発明では、ヘッドホン1Aにかけられる側圧によってイヤーパッド30がバッフル板20に押し付けられても、音響通路21がイヤーパッド30にて塞がれず、前部音響室A1と常に連通するようにしている。
【0034】
そのため、この実施形態においては、図2(a),(b)に示すように、バッフル板20の一方の面20a側に、音響通路21から前部空気室A1にかけて連通溝23を形成するようにしている。
【0035】
すなわち、この連通溝23は、音響通路21の一端側に連通し、バッフル板20の半径方向内側に向けてイヤーパッド30により覆われない位置、すなわち前部空気室A1にまで延びており、イヤーパッド30によって塞がれることのない深さを有している。
【0036】
なお、連通溝23は、図2(a),(b)に示すように、各音響通路21ごとに設けられることが好ましいが、一部の音響通路21に設けられてもよい。なお、図2(b)において、参照符号20cは、ヘッドホンユニット10のユニットフレーム13が嵌合される開口部である。
【0037】
これ以外の方法として、図3(a),(b)に示すように、バッフル板20の一方の面20a側に、バッフル板20の開口部20c側から音響通路21の一端側に至り、その周りをUターンして開口部20c側に戻る一連のリブ24を突設し、このリブ24により囲まれた領域内を連通溝23としてもよい。この場合においても、連通溝23の深さ(リブ24の突出高さ)は、イヤーパッド30によって塞がれることのない深さとする。
【0038】
このように、バッフル板20の一方の面20a側に、音響通路21から前部空気室A1にかけて連通溝23を形成することにより、ヘッドホン1Aにかけられる側圧によってイヤーパッド30がバッフル板20に押し付けられても、音響通路21がイヤーパッド30にて塞がれず、前部音響室A1と常に連通するため、小型のヘッドホンハウジング40内に大口径のヘッドホンユニット10を搭載することができる。
【0039】
また、使用者の個人差により側圧が変わっても、音響通路21の音響抵抗が変化しないことから、誰に対しても音質が一定であるヘッドホンが提供される。
【符号の説明】
【0040】
1A ヘッドホン
10 ヘッドホンユニット
11 振動板
12 磁気回路部
13 ユニットフレーム
20 バッフル板
21 音響通路
22 音響抵抗材
23 連通溝
24 リブ
30 イヤーパッド
40 ヘッドホンハウジング
A1 前部空気室
A2 後部空気室
図1
図2
図3
図4
図5