特許第5707342号(P5707342)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5707342インプリント用回転式モールド及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5707342
(24)【登録日】2015年3月6日
(45)【発行日】2015年4月30日
(54)【発明の名称】インプリント用回転式モールド及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 59/04 20060101AFI20150409BHJP
   B29C 33/38 20060101ALI20150409BHJP
【FI】
   B29C59/04 C
   B29C33/38
【請求項の数】8
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2011-551887(P2011-551887)
(86)(22)【出願日】2011年1月27日
(86)【国際出願番号】JP2011051548
(87)【国際公開番号】WO2011093356
(87)【国際公開日】20110804
【審査請求日】2014年1月20日
(31)【優先権主張番号】特願2010-19661(P2010-19661)
(32)【優先日】2010年1月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100090136
【弁理士】
【氏名又は名称】油井 透
(74)【代理人】
【識別番号】100105256
【弁理士】
【氏名又は名称】清野 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(72)【発明者】
【氏名】中塚 栄
(72)【発明者】
【氏名】雨宮 勲
(72)【発明者】
【氏名】木村 生
【審査官】 鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−261963(JP,A)
【文献】 特開2009−119695(JP,A)
【文献】 特開平8−309848(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 59/00−59/18
B29C 33/00−33/76
H01L 21/027
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インプリントに用いられる回転式モールドの製造方法において、
前記回転式モールドは、モールド第1および第2端面と、インプリント用パターンを有するモールド外周面と、を有し、
回転式モールドを回転させる回転軸の方向において、モールド中央部からモールド端面へ向かう方向を外側方向、モールド端面からモールド中央部へ向かう方向を内側方向とすると、前記モールド第1端面の外側方向に第1液溜解消部を設け、前記モールド第2端面の外側方向に第2液溜解消部を設け、前記第1液溜解消部と前記モールド第1端面との間、および、前記第2液溜解消部と前記モールド第2端面との間に平坦化剤収容用開放孔を形成する工程と、
前記モールド外周面に前記平坦化剤を塗布する際に、モールド外周面外側部分の液溜を前記平坦化剤収容用開放孔に収容する工程と、
前記モールド外周面において乾燥させた平坦化剤の上に、微細パターン形成用層、レジスト層を順に積層し、前記レジスト層に対して露光・現像を行い、エッチング処理を行い、前記微細パターン形成用層に対して微細パターンを形成する工程と、
を含み、
前記第1および第2液溜解消部は、回転式モールド外径よりも小さな外径を有することを特徴とするインプリント用回転式モールドの製造方法。
ただし、平坦化剤収容用開放孔とは、平坦化剤と平坦化剤収容用開放孔の入り口とが接触した後、少なくとも平坦化剤の液溜を解消するまでは開放系となっている孔のことである。
【請求項2】
前記平坦化剤収容用開放孔を形成した後、前記モールド外周面の一部ならびに前記第1および第2液溜解消部の一部と液状の平坦化剤とを、前記回転軸方向に対して平行に接触させた状態で前記回転式モールドを回転して、前記モールド外周面に前記平坦化剤を塗布する平坦化剤塗布工程と、
前記塗布工程開始後、モールド外周面外側部分の液溜を前記平坦化剤収容用開放孔に収容する平坦化剤収容工程と
を含むことを特徴とする請求項1に記載のインプリント用回転式モールドの製造方法。
【請求項3】
前記第1および第2液溜解消部のうちの少なくとも一つが、回転式モールドと一体形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のインプリント用回転式モールドの製造方法。
【請求項4】
前記第1および第2液溜解消部の外径とモールド外径との差は、0より大きく0.6mm以下であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のインプリント用回転式モールドの製造方法。
【請求項5】
前記回転式モールドは円筒形または円柱形であり、
前記第1および第2液溜解消部はリング形状部材であり、
前記平坦化剤塗布工程において、平坦化剤液面から0.2mm以上0.5mm以下の浸漬深さで、前記モールド外周面の一部と前記第1および第2液溜解消部の一部とを平坦化剤に接触させることを特徴とする請求項または4に記載のインプリント用回転式モールドの製造方法。
【請求項6】
前記平坦化剤収容用開放孔は溝であり、前記溝における、前記第1液溜解消部と前記モールド第1端面との間、および、前記第2液溜解消部と前記モールド第2端面との間の距離は0より大きく0.5mm以下であり、前記溝の深さは半径方向において1.7mm以上かつ前記モールド外周面から前記回転軸までの距離以下であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のインプリント用回転式モールドの製造方法。
【請求項7】
インプリントに用いられる回転式モールドであって、前記回転式モールドは、
モールド第1および第2端面と、
インプリント用パターンを有するモールド外周面と、
を有し、
回転式モールドを回転させる回転軸の方向において、モールド中央部からモールド端面へ向かう方向を外側方向、モールド端面からモールド中央部へ向かう方向を内側方向とすると、前記モールド第1端面の外側方向に第1液溜解消部が設けられ、前記モールド第2端面の外側方向に第2液溜解消部が設けられ、
前記第1および第2液溜解消部は、回転式モールド外径よりも小さな外径を有し、
前記第1液溜解消部と前記モールド第1端面との間、および、前記第2液溜解消部と前記モールド第2端面との間に塗布剤収容用開放孔が形成されたことを特徴とするインプリント用回転式モールド。
ただし、平坦化剤収容用開放孔とは、平坦化剤と平坦化剤収容用開放孔の入り口とが接触した後、少なくとも平坦化剤の液溜を解消するまでは開放系となっている孔のことである。
【請求項8】
前記回転式モールドは円筒形または円柱形であり、
前記第1および第2液溜解消部のうちの少なくとも一つは前記回転式モールドと一体形成され、
前記第1および第2液溜解消部の外径とモールド外径との差は、0より大きく0.6mm以下であり、
前記塗布剤収容用開放孔は溝であり、
前記溝における、前記第1液溜解消部と前記モールド第1端面との間、および、前記第2液溜解消部と前記モールド第2端面との間の距離は0より大きく0.5mm以下であり、
前記溝の深さは半径方向において1.7mm以上かつ、前記モールド外周面から前記回転軸までの距離以下であることを特徴とする請求項7に記載のインプリント用回転式モールド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インプリント用回転式モールド及びその製造方法に関し、特に、モールド外周面に微細パターンを形成するインプリント用回転式モールド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、機械加工の分野や電子回路の分野では、ミクロンオーダーの加工がなされているが、従来はその加工の制御等の際に可視光を用いるのが一般的であった。しかし可視光ではミクロンオーダーの制御しかできないという限界があった。
【0003】
これに対し、ステッパと呼ばれる装置において、紫外線レーザーや極紫外線光源可視光より短い波長の光や電子線を用いることにより、ミクロンオーダーから数10nmのナノオーダーの加工が可能になった。
【0004】
その一方で、ミクロンオーダーの加工ですら、パターンを形成するのに相当の時間を要する。そのため、ナノオーダーの微細加工ではさらに要する時間が増加する。しかも、紫外線レーザーや極紫外線光源を用いる場合、装置も大掛かりになり、コストも増大する。また、電子線で露光・現像して微細加工を行う手法は逐次加工であり、作業効率が下がってしまう。
【0005】
その一方で、通常の微細なパターン転写として、通常光を用いてガラス板上に形成されたマスクパターンを露光により転写する手法、すなわちフォトリソグラフィー法が従来の手法として存在する。しかしながら、フォトリソグラフィーを用いても、光の解像度に依存することになり、ナノオーダーの微細パターンを形成する際には限界がある。
【0006】
この問題に対し、近年、微細パターンが形成されたモールドを用いて、被転写材に微細パターンを判子のように転写する方法であるナノインプリント技術に注目が集まっている。このナノインプリント技術により、数10nmレベルという微細構造を安価に再現性良くしかも大量に作製できる。
【0007】
なお、インプリント技術は大きく分けて2種類あり、熱インプリントと光インプリントとがある。熱インプリントは、微細パターンが形成されたモールドを被成形材料である熱可塑性樹脂に加熱しながら押し付け、その後で被成形材料を冷却・離型し、微細パターンを転写する方法である。また、光インプリントは、微細パターンが形成されたモールドを被成形材料である光硬化性樹脂に押し付けて紫外光を照射し、その後で被成形材料を離型し、微細パターンを転写する方法である。
【0008】
どちらのインプリント法を用いるにしても、より細かいパターンを、より大きな被成形材料上に転写することが必要となる。これを行うために用いられる方式としては、モールドと被成形材料とを一度にプレスする一括転写方式や、平板モールドを使用して上記のインプリント法を繰り返し行って最終的に大面積の基板に微細パターンを転写するステップ&リピート方式などが挙げられる。
【0009】
その一方で、ローラー表面にあらかじめ微細パターンを設けたローラーをモールドとして用い、このローラーで被転写材を加熱しながらローラーに荷重を加え、そしてこのローラーを回転させ、ローラー表面のパターンを被転写材に順次転写するローラーモールド方法がある(例えば特許文献1および2参照)。
【0010】
この方法だと、ローラーの繰り返し回転によって切れ目なく連続して被転写材にパターン転写することができる。そのためこの方法は、長さが数m以上もあるような被転写材へのパターン転写に対して有効な方法である。
【0011】
さらに、このローラーモールド方法では、一括転写やステップ&リピート方式の場合の面接触と異なり、モールドと被転写材との接触が線接触となる。そのため、型と基板との平行調整やヒータの温度制御がしやすくなるという利点がある。また、線接触で荷重を成型基板に与えることにあるので、少ない荷重で被転写材への押圧を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2005−5284号公報
【特許文献2】特開2008−73902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述のように、被転写材上にてローラーモールドを転がすことにより微細パターンを転写するという性質上、このローラーモールド方法で使用するモールドは被転写材表面に対して平行かつモールド自身が平坦である必要がある。
【0014】
モールド自身を平坦とするため、まず、ローラーモールドに平坦化剤を塗布する必要がある。この従来の塗布方法を図7に示す。(a−1)は回転軸13の方向に垂直なモールド断面、(a−2)は回転軸13方向モールド断面を示し、(b)(c)についても同様である。
【0015】
この塗布においては塗布の均一性という観点から、従来の回転式モールド11の平坦化剤塗布工程の様子を描いた図7に示すように、モールド外周面120を平坦化剤160に線接触させ(図7(a−1)(a−2))、回転式モールド11を回転させることによりモールド外周面120に平坦化剤160を順次塗布するという工程が用いられている(図7(b−1)(b−2)、(c−1)(c−2))。
【0016】
しかしながら、この平坦化剤161をモールド外周面120全面に塗布する際、平坦化剤160入り容器において、回転式モールド11の回転軸方向の長さよりも大きな長さを有するようにしなければならない(図7(a))。そうすると、モールド端面121にも平坦化剤161が付着することになる(図7(b))。このように付着した余分な平坦化剤は、モールド回転による遠心力、モールドの表面エネルギー、平坦化剤の自重や表面張力などにより、モールド外周面120とモールド端面121とが接するモールド端部(モールド外周面外側部分ともいう)にて平坦化剤160による液溜162を形成してしまうおそれがある(図7(c))。
【0017】
その結果、以後の乾燥工程において、モールド外周面外側部分の液溜162がそのまま固化し、この部分が盛り上がることとなってしまう。そうなると、モールド外周面120への微細パターン形成後に被転写材への微細パターン転写を行おうとしても、モールド外周面外側部分の盛り上がりにより回転式モールド11の平行度が低下してしまい、モールド中央部の微細パターンが良好に転写されない、すなわち判子でいうところの中抜け現象が生じるおそれがある。この中抜け現象により最終的な転写精度が低下し、ひいては最終製品の品質低下・歩留まり低下を引き起こすおそれがある。
【0018】
本発明の目的は、モールド外周面外側部分における盛り上がりが解消され、その結果、良好な平行度を有するインプリント用回転式モールドおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の第一の態様は、インプリントに用いられる回転式モールドの製造方法において、前記回転式モールドは、モールド第1および第2端面と、インプリント用パターンを有するモールド外周面と、を有し、回転式モールドを回転させる回転軸の方向において、モールド中央部からモールド端面へ向かう方向を外側方向、モールド端面からモールド中央部へ向かう方向を内側方向とすると、前記モールド第1端面の外側方向に第1液溜解消部を設け、前記モールド第2端面の外側方向に第2液溜解消部を設け、前記第1液溜解消部と前記モールド第1端面との間、および、前記第2液溜解消部と前記モールド第2端面との間に平坦化剤収容用開放孔を形成する工程を含み、前記第1および第2液溜解消部は、回転式モールド外径よりも小さな外径を有することを特徴とする。
ただし、平坦化剤収容用開放孔とは、平坦化剤と平坦化剤収容用開放孔の入り口とが接触した後、少なくとも平坦化剤の液溜を解消するまでは開放系となっている孔のことである。
本発明の第二の態様は、第一の態様に記載の発明において、前記平坦化剤収容用開放孔を形成した後、前記モールド外周面の一部ならびに前記第1および第2液溜解消部の一部と液状の平坦化剤とを、前記回転軸方向に対して平行に接触させた状態で前記モールドを回転して、前記モールド外周面に前記平坦化剤を塗布する平坦化剤塗布工程と、前記塗布工程開始後、モールド外周面外側部分の液溜を前記平坦化剤収容用開放孔に収容する平坦化剤収容工程と、前記塗布工程および平坦化剤収容工程後、微細パターンを前記モールド外周面に形成する工程と、を含むことを特徴とする。
本発明の第三の態様は、第一または第二の態様に記載の発明において、第1および第2液溜解消部のうちの少なくとも一つが、回転式モールドと一体形成されていることを特徴とする。
本発明の第四の態様は、第一ないし第三のいずれかの態様に記載の発明において、前記第1および第2液溜解消部の外径とモールド外径との差は、0より大きく0.6mm以下であることを特徴とする。
本発明の第五の態様は、第一、第二または第四の態様に記載の発明において、前記回転式モールドは円筒形または円柱形であり、前記第1および第2液溜解消部はリング形状部材であり、前記平坦化剤塗布工程において、平坦化剤液面から0.2mm以上0.5mm以下の浸漬深さで、前記モールド外周面の一部と前記第1および第2液溜解消部の一部とを平坦化剤に接触させることを特徴とする。
本発明の第六の態様は、第一ないし第五のいずれかの態様に記載の発明において、前記平坦化剤収容用開放孔は溝であり、前記溝における、前記第1液溜解消部と前記モールド第1端面との間、および、前記第2液溜解消部と前記モールド第2端面との間の距離は0より大きく0.5mm以下であり、前記溝の深さは半径方向において1.7mm以上かつ前記モールド外周面から前記回転軸までの距離以下であることを特徴とする。
本発明の第七の態様は、インプリントに用いられる回転式モールドであって、前記回転式モールドは、モールド第1および第2端面と、インプリント用パターンを有するモールド外周面と、を有し、回転式モールドを回転させる回転軸の方向において、モールド中央部からモールド端面へ向かう方向を外側方向、モールド端面からモールド中央部へ向かう方向を内側方向とすると、前記モールド第1端面の外側方向に第1液溜解消部が設けられ、前記モールド第2端面の外側方向に第2液溜解消部が設けられ、前記第1および第2液溜解消部は、回転式モールド外径よりも小さな外径を有し、前記第1液溜解消部と前記モールド第1端面との間、および、前記第2液溜解消部と前記モールド第2端面との間に塗布剤収容用開放孔が形成されたことを特徴とするインプリント用回転式モールドである。
本発明の第八の態様は、第七の態様に記載の発明において、前記回転式モールドは円筒形または円柱形であり、前記第1および第2液溜解消部のうちの少なくとも一つは前記回転式モールドと一体形成され、前記第1および第2液溜解消部の外径とモールド外径との差は、0より大きく0.6mm以下であり、前記塗布剤収容用開放孔は溝であり、前記溝における、前記第1液溜解消部と前記モールド第1端面との間、および、前記第2液溜解消部と前記モールド第2端面との間の距離は0より大きく0.5mm以下であり、前記溝の深さは半径方向において1.7mm以上かつ、前記モールド外周面から前記回転軸までの距離以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、モールド外周面外側部分における盛り上がりが解消され、その結果、良好な平行度を有するインプリント用回転式モールドおよびその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本実施形態におけるインプリント用回転式モールドの製造工程を概略的に示す図である。
図2】本実施形態におけるインプリント用回転式モールドの概略図であり、(a)は斜視図、(b)は正面図、(c)は(b)のA−A’部分の断面図である。
図3】本実施形態におけるインプリント用回転式モールドの平坦化剤塗布工程および平坦化剤収容工程の様子を示す図である。
図4】本実施形態における液溜解消部および平坦化剤収容用開放孔の変形例を示す図である。
図5】本実施形態における液溜解消部変形例を示す図である。
図6】本実施例および比較例におけるインプリント用回転式モールドの平行度を示す図である。
図7】比較例における回転式モールドの平坦化剤塗布工程の様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
回転式モールドを用いたインプリントにおいては、回転式モールドにおける平坦度及び平行度が特に重要となる。一方、平坦度を向上させようと平坦化剤をモールド基材に塗布した後、モールド外周面外側部分において平坦化剤による液溜が発生してしまう。その結果、平坦度が向上したとしても、平行度が失われてしまうことになってしまう。
【0023】
このような状況下において本発明者は、以下のことを見出した。すなわち、モールド外周面外側部分の直近に微小な隙間(開放孔)を設けておく。そうすることにより、平坦化剤の液溜がモールド外周面外側部分に発生したとしても、この隙間が毛細管の役割を果たし、余分な液溜を隙間内に引き込むことができる。これにより、余分な液溜による盛り上がりの発生を防止でき、平坦化剤を均一にモールド基材に塗布することができることを見出した。
【0024】
なお、本実施形態において、「平坦度(真円度又は平面度)」はモールド基材の表面粗さを示す指標であり、キズ等がないはずの部分の表面の幾何学的平面からのずれの大きさを示すものであり、JIS B 0182にて定義される指標である。また「平行度」はモールド外周面における回転軸方向に対するずれの大小を示すものであり、JIS B 0182にて定義される指標である。本実施形態では特に、モールド外周面外側部分における盛り上がりが小さければ、平行度が良好ともいう。
【0025】
<実施の形態1>
以下、本発明を実施するための形態を、図1に基づき説明する。
図1は、本実施形態におけるインプリント用の回転式モールド1の製造工程を概略的に示す図である。図1(a)は回転式モールド基材2を示し、図1(b)はモールド基材2に対して液溜解消部4を設けた様子を示し、図1(c)はモールド基材2に平坦化剤61を塗布した様子を示す。さらに、図1(d)は、液滴解消部4が着脱自在であるときには液滴解消部4を外した上で、その平坦化剤61の上に、密着層7、微細パターン形成用層8、レジスト層9をこの順に積層した様子を示し、図1(e)はこのレジスト層9に対して微細パターンを描画・現像した様子を示す。そして図1(f)は微細パターン形成用層8に対してエッチングを行った様子を示し、図1(g)はエッチング後に洗浄を行い、回転式モールド1を完成させた様子を示す図である。
【0026】
また、このようにして完成した回転式モールド1の概略図を図2に示す。図2(a)は斜視図、(b)は正面図、(c)はA−A’の断面図である。
【0027】
本実施形態におけるインプリント用の回転式モールド1は好ましくは円筒形であり、回転軸3が通過するモールド第1および第2端面21,22と、インプリント用パターンを有するモールド外周面20とを有している。
【0028】
なお、回転式モールド1は円筒形以外であっても円柱や三角柱や四角柱のような多角形形状であってもよいが、円柱または円筒形の方が連続的かつ均一に被転写材に微細パターンを転写できるため、より好ましい。
【0029】
また、モールド第1および第2端面21,22各々の直近には、図2(b)に示すように、第1及び第2液溜解消部41,42(後で詳述)が各々設けられている。これにより、液溜解消部41,42とモールド第1および第2端面21,22との間に開放系の隙間を設けている。
【0030】
また、回転軸3をモールド基材2の中空部分に挿入して物質的な回転軸としてもよい。前記回転軸3はモールド基材2と一体として設けられていてもよい。また、中空でない円柱形モールド基材2を用意してもよい。
【0031】
また、中空のモールド基材2の中心を貫通するような回転軸3を設けずとも、リング形状部材4の外側方向端面を保持するように回転軸3が設置されていてもよい。仮に、モールド基材2とリング形状部材4が中空である場合、リング形状部材4のドーナツ状外周面にて、これらを回転装置と固定してもよい(後述する図5(d))。こうすることにより、モールド基材2およびリング形状部材4を貫通する所望の長さの回転軸をわざわざ用意しなくとも済み、製造工程に要する時間の短縮化が図れる。本実施形態においては、中空の円筒形モールド基材2の中心を貫通するような回転軸3を設けた場合(図3および図5)、および、モールド基材2が回転する際に回転軸3が物質的に存在していない場合(図2)の両方の場合について随時説明する。
【0032】
(モールド基材の準備)
以上の形態を有するインプリント用の回転式モールド1を形成するために、本実施形態に係るモールド製造方法においてはまず、例えば図2に示すように、2つのモールド端面21,22(以降、2つのモールド端面をまとめたものを代表してモールド端面21ともいう)、モールド外周面20、物質的には形成されていない回転軸3を有する円筒形モールド基材2を用意する。
【0033】
この円筒形回転式モールド1を製造するための基材の材質としてはアルミニウム基材、ステンレスのような合金基材や石英基材が挙げられるが、本実施形態においてはステンレス基材を用いた場合について説明する。
【0034】
円筒形のステンレス基材を用いる場合、ステンレスのモールド基材2を用いる場合とは異なり、基材表面が粗い状態の場合が多い。そのため、基材表面に微細パターンを形成する前に、基材表面を平坦化する作業が必要となる。
【0035】
平坦化剤が液体である場合、図7に示されるような通常のやり方で平坦化剤160を塗布すると、上述の通り、モールド外周面外側部分に平坦化剤161の液溜162が発生してしまう。そしてモールド外周面120の平坦化が確保されたとしても、今度は回転式モールド11全体の平行度が失われてしまうことになる。
【0036】
(平坦化剤収容用孔の形成)
そこで本実施形態においては、図3に示されるように、平坦化剤61を基材表面に塗布する前に、モールド基材2に平坦化剤収容用開放孔5を設ける工程を行う。なお、図3において(a)はモールド基材2および液溜解消部41と平坦化剤61とを×点にて接触させた際の図であり、(b)は(a)からさらにモールド基材2を回転させた際の図であり、(c)は(b)からさらにモールド基材2を回転させた際の図である。また、(a−1)(b−1)(c−1)はモールド基材2の、回転軸方向に垂直な断面図のうち、平坦化剤と接触している部分の概略断面図であり、(a−2)(b−2)(c−2)はモールド基材2の回転軸方向断面図である。
【0037】
この平坦化剤収容用開放孔5は、具体的には図2に示されるように設けられている。すなわち、前記回転軸3の方向において、モールド中央部からモールド第1および第2端面21,22へ向かう方向を外側方向、モールド第1および第2端面21,22からモールド中央部へ向かう方向を内側方向とすると、前記モールド第1端面21の外側方向に第1液溜解消部41を設け、前記モールド第2端面22の外側方向に第2液溜解消部42を設け、前記第1液溜解消部41と前記モールド第1端面21との間、および、前記第2液溜解消部42と前記モールド第2端面22との間に平坦化剤収容用開放孔5を形成している(以降、平坦化剤収容用開放孔5のことを単に開放孔5ともいう。また、第1および第2液溜解消部をまとめて液溜解消部4ともいう)。
【0038】
図3において、この開放孔5をモールド外周面外側部分に設けることにより(図3(a−1)(a−2))、平坦化剤61の液溜62がモールド外周面外側部分に発生したとしても(図3(b−1)(b−2))、モールド外周面外側部分の液溜62直近に形成された開放孔5が毛細管の役割を果たし、余分な液溜62を隙間内に引き込むことができる(図3(c−1)(c−2))。
【0039】
この時、前記液溜解消部4は、その後の工程に耐えられる素材であれば従来のものでも良いが、工程管理を容易にするためにはモールド基材2と同一材料であることが好ましい。
また前記液溜解消部4は、前記モールド基材2とは別に用意した部材であってもよいし、モールド基材2および/または回転軸3に対して一体に設けられていてもよい(図5(a))。別に用意した部材の方が、他の回転式モールドに使用できる点、前記開放孔5の大きさを調節できる点、前記開放孔5に収容した平坦化剤を洗浄により除去しやすいという点では好ましい。一方、液溜解消部4の部材をわざわざ準備しなくとも済むという点では、一体に設けられていた方が好ましい。なお、第1液溜解消部をモールド基材2と別体、第2液溜解消部をモールド基材2と一体として設けてもよい。本実施形態においては、前記第1および第2液溜解消部41,42両方がモールド基材2とは別に用意した部材である場合について説明する。
【0040】
また、前記液溜解消部4は、回転式モールド1の外径(すなわち円筒形モールド基材2の外径)よりも小さな外径を有する。こうすることにより、円筒形モールド基材2と液溜解消部4との外径差に起因して、モールド端面21の外周部分に平坦化剤61が付着したとしても、付着した平坦化剤61の直近にはいわば毛細管となる開放孔5が存在することになる。その結果、液溜62を形成するはずの平坦化剤61を効率よく開放孔5に収容することができる。なお、閉孔だと毛細管現象を引き起こすことができない。そのため本実施形態では、少なくとも平坦化剤61と孔とが接触して液溜62を解消するまでは開放系の孔となるようにしている。
【0041】
なお、円筒形モールド基材2の外径と液溜解消部4の外径との差は、0より大きく0.6mm以下であることが好ましい。半径ベースとすると、円筒形モールド基材2の半径と液溜解消部4の最大半径との差は、0より大きく0.3mm以下であることが好ましい。半径差がこの範囲にあれば、モールド端面21に付着する平坦化剤62の量を必要以上とすることがなく、平坦化剤61を無理なく開放孔5に収容することができるためである。
【0042】
さらに、別体の液溜解消部4を着脱自在なリング形状部材としてもよい(以降、リング形状部材についても符号4を付与する)。こうすることによって、このリング形状部材4を回転軸3に嵌め込み、回転軸3方向の開放孔5の幅を調節するだけで、所望の平坦化剤収容用開放孔5を形成することができる(以降、この平坦化剤収容用開放孔5の具体例として、溝を用いた場合について説明する関係上、この溝にも符号5を付与する)。
【0043】
これに加え、別体の液溜解消部4がリング形状部材4の場合、同径の薄厚リング形状部材4を複数設け、各々の間に隙間を設けつつ、液溜解消部としてもよい(図5(b))。これにより、例えモールド端面21に付着した平坦化剤61を、モールド端面21とリング形状部材4との隙間に収容しきれなくとも、液溜解消部4に設けられた他の隙間に収容することができるためである。この「他の隙間」は、できるだけモールド外周面外側部分の近くに形成されるのが好ましい。つまり、厚みが小さいリング形状部材4を内側方向には数多く重ね、厚みが大きいリング形状部材4を外側方向に少数重ねるのが好ましい。つまり、モールド端面21に近い場所に、毛細管となる隙間を数多く形成するのが好ましい。この際、各々のリング形状部材4の厚みを内側方向から外側方向に徐々に増やしてもよい。
【0044】
一方、別体の液溜解消部4がリング形状部材の場合、異なる径の薄厚リング形状部材4を複数設けて液溜解消部としてもよい(図5(c))。具体的には、モールド端面21と密着固定させるように小径のリング形状部材4aを回転軸3に嵌め込み、次に、小径のリング形状部材4aと密着固定させるように大径のリング形状部材4bを回転軸3に嵌め込む。こうすることにより、径の差に起因して溝5が形成される。その結果、所望の幅かつ所望の深さの溝5を形成することができ、ひいては平坦化剤61の収容量を調整することができる。さらには、3個以上のリング形状部材4を用いて、溝5の幅を多段式に変化させても構わない。
なお、上記では複数のリング形状部材4によって溝5を形成しているが、径が異なる部分を有する単一のリング形状部材4をモールド端面21に密着固定させても構わない。
【0045】
また、ここまでの説明においては中空の円筒形モールドを貫通するように回転軸3を設置する場合、そして回転軸3が円筒形モールドと一体となった場合について記載した。その一方で、回転軸の項目で先述したのと同様、図5(d)に示すように、リング形状部材4の外側方向外周面を保持するように回転装置3aが設置されていてもよい。仮に、モールド基材2とリング形状部材4が中空である場合、リング形状部材4のドーナツ状外周面において、回転装置3aと固定してもよい。
【0046】
これ以外のリング形状部材4としては、モールド外側方向に向けて外径を小さくしてもよい(図5(e))。こうすることにより、リング形状部材4において平坦化剤61が接触する部分はモールド端面21付近のみになる。そうなれば、リング形状部材4に付着する平坦化剤61の総量を減らすことができる。その結果、リング形状部材4に付着した平坦化剤61によって開放孔5の収容量をオーバーしてしまうこともなく、モールド外周面外側部分の液溜62のみを開放孔5に効率よく収容することができる。
【0047】
次に、開放孔5について述べる。上述のように、液溜解消部4としてリング形状部材4を用いると、開放孔5は溝形状となる。本実施形態においては、液溜解消部4としてリング形状部材4を用いるのが好ましいと同時に、開放孔5が溝形状であることもまた好ましい。単なる穴形状に比べて溝形状であれば、平坦化剤61の収容量が多くなるためである。
【0048】
この溝5における、前記第1液溜解消部41と前記モールド第1端面21との間、および、前記第2液溜解消部42と前記モールド第2端面22との間の距離は0.5mm以下であるのが好ましく、さらに好ましくは0.2mm以下である。
さらに、液滴解消部4の外周から見たときの前記溝5の深さは1.7mm以上かつ前記レジスト層9外周面から前記回転軸3までの距離未満、さらに実績として好ましいのは1.7mm以上1.9mm以下である。
【0049】
また、開放孔5が溝形状の場合、具体的には様々な溝形状が考えられる。具体的には、回転軸3部分以外のモールド端面21全面に対応する部分に溝5を設けるのではなく、その一部にのみ開放系の溝5を設けることも好ましい(図4(a))。さらには、溝5の幅をモールド外周面側から徐々に回転軸側に向けて、連続的または段差的に変化させても良い(図5(f)(g))。さらに、モールド端面21と対向する液溜解消部4の端部に丸みをつけたり(図5(h))、逆に開放孔5入り口付近を鋭角にしたりしてもよい(図5(e))。
【0050】
なお、溝5以外の開放孔5の形状としては、回転軸3とモールド基材2が一体になっている場合は、直線状の貫通孔であってもよい(図4(b))。ただ、モールド基材2を回転させている間に平坦化剤61をムラ無く収容するために、孔が穴形状の場合は、複数の開放孔5を均等に設けるのが好ましい。一方、回転軸3とモールド基材2が別体になっている場合、すなわち中空のモールド基材2の場合は、中空部分に沿って円周状に開放孔5を設け、さらにその円周状の開放孔5から放射状に外周に向けて貫通孔を設けるのも好ましい。
【0051】
(平坦化剤の塗布)
本実施形態においては、前記平坦化剤収容用開放孔5を形成した後、図1(b)や図2図3に示すように、前記モールド外周面20の一部ならびに前記第1および第2液溜解消部41,42の一部に前記平坦化剤60を塗布する。以下、この工程について詳述する。
【0052】
まず、平坦化剤60の選定を行う。この平坦化剤60としては、従来使用される液体状の平坦化膜化剤が挙げられるが、具体的にはポリシラザン、メチルシロキサン、金属アルコキシドなどが挙げられる。
【0053】
さらに、平坦化剤60の粘度が好ましい範囲にあれば、粘度が低すぎて平坦化剤60が泡立つ事も少なく、粘度が高すぎて開放孔5に収容されないことも少なくなる。この粘度の範囲については、本発明者が鋭意検討中である。
【0054】
次に、本実施形態においては、回転軸3を水平にした状態でモールド基材2を保持し、モールド基材2下方に平坦化剤60入り容器を用意する。その後、モールド基材2を下方に降ろし、前記モールド基材2および前記液溜解消部4の外周面の一部と平坦化剤60とを接触させる。このとき、モールド基材2のみを平坦化剤60に接触させるのではなく、液溜解消部4についても平坦化剤60に接触させる。そしてモールド基材2および液溜解消部4の一部を平坦化剤60に浸漬させる。液溜解消部4の外周に平坦化剤61が付着する程度にモールド基材2を平坦化剤60に浸漬させることによって、モールド基材2の回転により平坦化剤60からモールド基材2が離れた後でも開放孔5に平坦化剤60が接触していることになる。そのため、開放孔5に平坦化剤60が接触していない場合に比べて、効率よく平坦化剤60を開放孔5に収容することができる。また、モールド基材2における平坦化剤60への浸漬の深さは、0.2mm〜0.3mmが特に好ましい。この範囲の深さで浸漬すれば、浸漬が浅すぎて開放孔5に平坦化剤60が接触しないこともなく、また浸漬が深すぎて液溜62を解消する前に平坦化剤61の収容量がオーバーしてしまうこともない。
【0055】
ここで、平坦化剤60に対して、モールド基材2および液溜解消部4を回転軸方向に対して平行に接触させている。平行に接触させることにより、モールド基材2および液溜解消部4における浸漬部分がモールド第1端面21側とモールド第2端面22側とで相違することを防止することができる。その結果、平坦化剤61の塗布にムラを生じさせないことになる。
【0056】
このように、平坦化剤60とモールド基材2と、さらには液溜解消部4とを前記回転軸3方向に対して平行に接触させた状態で前記モールド基材2を回転して、前記モールド外周面20に前記平坦化剤61を塗布する。
このときの回転速度および回転数は、平坦化剤61をモールド基材2に十分塗布することができ、また、開放孔5が毛細管現象を発揮できる程度に、平坦化剤61によって充填されつつ平坦化剤61の収容を行うことができるように設定する。
【0057】
なお、平坦化剤60の液面とモールド基材2とは平行であるのが好ましい。そのため、平坦化剤60とモールド基材2とを接触させる前に、液溜解消部4を設けておき、不要な液面の揺動を起こさないのが好ましい。
【0058】
(開放孔への平坦化剤の収容)
そして前記塗布工程開始後、上述のように、モールド外周面外側部分の液溜62を前記平坦化剤収容用開放孔5に収容する(図3(c−1)(c−2))。繰り返しになるが、このように開放孔5を設けることにより、モールド端面21の外周部分に平坦化剤61が付着して遠心力、重力、基材の表面エネルギーさらには平坦化剤61の表面張力によりモールド外周面外側部分に液溜62が形成されたとしても、この開放孔5が毛細管としての役割を果たし、開放孔5内に余分な液溜62を収容することができる。
【0059】
なお、上記のような平坦化剤61の塗布が終われば、モールド基材2を平坦化剤61から離す。そして、モールド基材2を回転させながら平坦化剤61を乾燥させる。こうして平坦化剤61が乾燥するまで、開放孔への平坦化剤61の収容は続く(図1(c))。
【0060】
(微細パターンの形成)
本実施形態においては、上述のように塗布された平坦化剤61の上に、密着層7、微細パターン形成用層8、レジスト層9をこの順に積層する(図1(d))。その後、レジスト層9に対して電子ビーム露光を行い、エッチング処理を行う(図1(e)(f))。これにより、モールド基材2上にある微細パターン形成用層8に対して微細パターンを形成する(図1(g))。
【0061】
まず、平坦化剤61の上に設けられる密着層7についてであるが、これは、微細パターン形成用層8と、平坦化剤からなる層ひいてはモールド基材2とを接着させるためのものである。密着層7として用いられるものならばどのような物質でもよいが、好ましくはアモルファスシリコン層である。なお、平坦化剤61上に微細パターン形成用層8を形成する際に良好に接着することができるならば、密着層7を設けなくともよい。本実施形態においては、平坦化剤61の上に密着層7を設けた場合について説明する。
【0062】
次に、密着層7の上に設けられる微細パターン形成用層8についてであるが、微細パターン形成用層8として用いられるものならばどのような物質でもよい。その中でも、エッチング加工性およびオートフォーカス制御のしやすさから、酸化クロム層(CrOx)であることが好ましい。
さらには、オートフォーカスの制御性を高めるため、CrO層の代わりにアモルファスカーボン層を設けてもよい。アモルファスカーボン層だと、酸化クロム層ほど高い透明性を有さないが故に、レジスト層9への微細パターンの描画の際に、モールド基材2に焦点が合ってしまうということを防止することができる。
【0063】
その後、図1(d)に示すように、微細パターン形成用層8に電子ビーム露光用のレジスト層9を塗布する。電子ビーム露光用のレジスト層9としては、熱変化によって状態変化する感熱材料であって、その後のエッチング工程に適するものであってもよい。また、感光材料であってもよい。このとき、組成傾斜させた酸化タングステン(WOx)からなる無機レジスト層であれば、解像度向上という点からなお好ましい。
【0064】
その後、描画済みのレジスト層9を有するモールド基材2に対して露光・現像を行うことにより、図1(e)に示すように、所望の微細パターン(すなわち最終的に得られる製品に形成された微細パターンに対して反転したパターン)を有するレジスト層9が得られる。
【0065】
上述のようにレジスト層9に微細パターンを施した後、このレジスト層9をエッチングマスクとして、微細パターン形成用層8に対してエッチング加工を行う。これにより、円筒形モールド基材2に対して、微細パターンが形成された微細パターン形成用層8を形成することができる。このエッチング加工は従来の手法を用いればよい。たとえば、塩素ガスおよび酸素ガスによるドライエッチングが挙げられる。
このエッチング加工により、図1(f)に示すように、所望の微細パターンを有するレジスト層9付きモールド基材2が得られる。
【0066】
このレジスト層9付きモールド基材2に対し、純水洗浄、イソプロパノールによる蒸気乾燥を行ってレジスト層9を除去する。これにより、図1(g)に示すように、モールド外周面20に所望の微細パターンが転写された回転式モールド1を作製することができる。
【0067】
なお、このときの微細パターンとは、ナノオーダーからマイクロオーダーまでの範囲のパターンであってもよいが、数nm〜数100nmのナノオーダーの周期構造であれば、なおよい。具体的な例を挙げるとすれば、ライン・アンド・スペースのパターンや、複数の微細な凹凸からなっている微細突起構造である。その断面形状としては、1次元周期構造の場合、三角、台形、四角等が挙げられる。2次元周期構造の場合、微細突起の形状は、正確な円錐(母線が直線)や角錐(稜線が直線)のみならず、インプリント後の抜き取りを考慮して先細りとなっている限り、母線や稜線形状が曲線をなし、側面が外側に膨らんだ曲面であるものであってもよい。具体的な形状としては、釣り鐘、円錐、円錐台、円柱等が挙げられる。以降、この周期構造における周期をピッチともいい、微細突起頂点間の距離を示す。
さらには、成形性や耐破損性を考慮して、先端部を平坦にしたり、丸みをつけたりしてもよい。さらに、この微細突起は一方向に対して連続的な微細突起を作製してもよい。
【0068】
以上のように、本実施形態に係るインプリント用回転式モールドが構成されたことから、上記実施の形態によれば次の効果を奏する。
モールド端面直近に微小な開放孔を設けておく。そうすることにより、平坦化剤の液溜がモールド外周面外側部分に発生したとしても、液溜直近に位置するこの隙間が毛細管の役割を果たし、余分な液溜を隙間内に引き込むことができる。これにより、余分な液溜による盛り上がりの発生を防止でき、モールド外周面外側部分における盛り上がりが解消される。その結果、良好な平行度を有するインプリント用回転式モールドを製造することができる。
【0069】
なお、発明の技術的思想から逸脱しない範囲であれば、上述の技術はモールド外周面外側部分に液溜が発生するものについて応用できる。具体的には、平坦化剤以外でもレジスト層形成のためなどの一般的な塗布剤についても応用できる。
【0070】
<実施の形態2>
本実施形態においては、実施の形態1のレジスト層9の利用により回転式モールド1を作製する方法とは別に、アモルファスカーボン層に対する直接描画により回転式モールド1を作製する方法について述べる。この方法においては、被転写材に最終的に微細パターン(例えば凸部)を設け、かつ回転式モールド1に対しては凹部を設けるために、レーザー描画装置や電子ビーム描画装置などで所定の微細パターンを描画する。
【0071】
本実施形態において回転式モールド1を作製する具体的な手順としては、集光レンズ、または最表面にアモルファスカーボン層を有するモールド基材2そのものを移動させ、アモルファスカーボン層表面にレーザーの焦点を合わせた状態でレーザーを照射し、被転写物表面に設ける微細突起用の未貫通穴である凹部の加工を行う。これにより、最終的には被転写物表面の微細突起となる凹部を作製することができる。それに加え、アスペクト比の高い針状体を作製する場合には、凹部の底部にレーザーの焦点位置が一致するように、集光レンズとアモルファスカーボン層表面との位置を相対的に移動させ、あるいは凹部の底部に固定しつつ、焦点距離の異なる集光レンズを用いて再度レーザーを照射し加工を行ってもよい。このように、焦点位置を変更し、2段階の加工を行うことで、より穴の深さと径とのアスペクト比が高い順テーパ形状の凹部を作製することができる。
さらに、レーザーを照射した際にアモルファスカーボン層表面に付着する石英のカケラを除去するために洗浄を行うのが好ましい。
【実施例】
【0072】
<実施例>
次に実施例を示し、本発明について具体的に説明する。
ステンレス製の円筒形の中空モールド基材2(SUS304、直径100mmすなわち半径50mm、そのうち中空部分の直径84mm、モールド端面間距離300mm)を用意した。
次に、液溜解消部4としてステンレス製(SUS304)のリング形状部材4を用意した。この時、リング形状部材4の形状は、モールド端面21と接する溝5用の小径部分(リング形状部材におけるモールド内側方向側の端面から、モールド外側方向に向けて距離0.2mmの部分)の半径を48mm、それ以外の大径部分の半径を49.8mmであった。モールド基材2およびリング形状部材4全体として、回転軸方向の長さは360mmであった。
そして、モールド第1および第2端面21,22の外側方向にこのリング形状部材4を各々設けた。その結果、平坦化剤収容用孔としての溝5が、0.2mmの幅かつ1.8mmの深さ(リング形状部材の大径部分外周から見た深さ)で形成された。
【0073】
次に、平坦化剤を用意した。平坦化剤には、ジブチルエーテル(20%)溶媒中にポリシラザンを溶解させた。このポリシラザン溶液が入った平坦化剤容器をモールド基材2下方に配置した。
【0074】
その後、モールド基材2をリング形状部材4ごと、ポリシラザン溶液に接触させた。このとき、平坦化剤60の液面から0.3mm以下の距離の深さで、モールド外周面20の一部とリング形状部材4の一部とを平坦化剤60に浸漬させた。
【0075】
その状態で、別途設けられた回転軸3によりモールドを回転速度32r/minで3回転させ、モールド外周面20全面にポリシラザン溶液を塗布した。この時、平坦化剤60と接しているリング形状部材4外周面も同時にポリシラザン溶液が塗布された。この際、ポリシラザン溶液を4μmの厚さで塗布した。
その後、モールド基材2と平坦化剤60とを引き離し、モールド基材2を回転させながら乾燥させた。
上記工程の間、モールド基材2上の平坦化剤61が乾燥するまで、モールド外周面外側部分の液溜62を前記溝5に収容し続けることになる。
【0076】
次に、塗布された平坦化剤61の上に、密着層7、微細パターン形成用層8、無機レジスト層9をこの順に積層した。密着層7としてはアモルファスシリコン層を、微細パターン形成用層8としてはアモルファスカーボン層を、無機レジスト層9としては酸化タングステン(WOx)層をスパッタ法により成膜した。
【0077】
組成傾斜させた酸化タングステン(WOx)からなるレジスト(深さ方向への組成変化については、モールド基材側x=0.95、レジスト最表面側x=1.60の傾斜組成)を20nmの厚さになるように成膜した。なお、無機レジスト層9の形成にはイオンビームスパッタ法を用いて、成膜中の酸素濃度を連続的に変化させて無機レジスト層9中の酸素濃度を傾斜させた。また、無機レジスト層9中の組成分析にはラザフォード後方散乱分光法(Rutherford Back Scattering Spectroscopy:RBS)を使用した。
【0078】
この無機レジスト層9上に青色レーザー描画装置(波長405nm、出力12mW)を用いて微細パターンを描画した。描画後、エッチング処理・洗浄処理を行い、所望の転写パターンが設けられた回転式モールド1を作製した。
【0079】
<比較例>
比較例として、図7に示されるような、リング形状部材4を設けなかった場合の回転式モールド11を作製した。リング形状部材4を設けなかったこと以外は、実施例と同じ条件で回転式モールド11を作製した。
【0080】
<平行度の検討>
本実施例及び比較例にて製造した回転式モールドにおけるモールド外周面外側部分の盛り上がりについて測定した。その結果を図6に示す。図6(a)は本実施例、図6(b)は比較例の回転式モールド11における、回転式モールド外周面からの盛り上がりの距離を示している。なお、測定位置の角度は、回転軸垂直方向のモールド断面における水平線・垂直線方向部分を示している。
図6を見ると、比較例においては10μm以上の盛り上がり(フリンジ高さ)が発生していた一方、本実施例においてはモールド外周面外側部分には盛り上がりはほとんど発生しておらず、良好な平行度が得られた。これは、液溜解消部4により、平坦化剤6の液溜62が開放孔5に収容されたためである。その結果、モールド外周面外側部分に盛り上がりが発生しなかったものと思われる。
【符号の説明】
【0081】
1 回転式モールド
2 モールド基材
20 モールド外周面
21 モールド第1端面
22 モールド第2端面
3 回転軸
3a 回転装置
4 液溜解消部(リング形状部材)
4a 小径のリング形状部材
4b 大径のリング形状部材
41 第1液溜解消部
42 第2液溜解消部
5 平坦化剤収容用開放孔(溝)
60 平坦化剤
61 モールド基材に塗布された平坦化剤
62 平坦化剤の液溜
7 密着層
8 微細パターン形成用層
9 レジスト層
11 回転式モールド
12 モールド基材
120 モールド外周面
121 モールド第1端面
13 回転軸
160 平坦化剤
161 モールド基材に塗布された平坦化剤
162 平坦化剤の液溜
107 ローラー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7