(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
3,4,5‐トリヒドロキシ安息香酸エステルが、3,4,5‐トリヒドロキシ安息香酸と炭素数3〜12の直鎖あるいは分岐鎖アルコールとで合成される、3,4,5‐トリヒドロキシ安息香酸アルキルエステルである請求項1に記載の潤滑剤組成物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高速化、高荷重化、少油量化によって、より一層シビアとなっている摺動部材における高い極圧性、耐摩耗性や防錆性の問題を解決するもので、本発明が解決しようとする課題は、極少量の油量でも十分な潤滑性を示し、摩擦、摩耗を低減し、かつ高い極圧性、耐摩耗性や防錆性を示す潤滑剤組成物および潤滑液組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、潤滑剤の性能を向上させて前記課題を解決するため、様々な有機化合物の特性およびそれらの配合割合などについて調査、研究した結果、3,4,5‐トリヒドロキシ安息香酸あるいはそのエステルを、常温で半固体状の潤滑剤に配合することにより、その潤滑性を大幅に向上でき、あわせて高い防錆性が得られることを見出した。特にはグリース、ゲル状潤滑剤に適しており、さらにそれらを揮発性溶剤で希釈し、速乾性潤滑剤とする使用方法も見出した。かかる知見に基づいて本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は次のとおりの潤滑剤組成物および潤滑液組成物である。
(1)鉱油系、合成油系および/または動植物油系の潤滑油基油に、3,4,5‐トリヒドロキシ安息香酸および/または3,4,5‐トリヒドロキシ安息香酸エステルを潤滑剤組成物全量基準で0.01〜20質量%、増ちょう剤またはアミド化合物の少なくとも1種を潤滑剤組成物全量基準で1〜70質量%配合した常温において半固体状を有する潤滑剤組成物。
【0008】
(2)3,4,5‐トリヒドロキシ安息香酸エステルが3,4,5‐トリヒドロキシ安息香酸と炭素数3〜12の直鎖あるいは分岐鎖アルコールとで合成される、3,4,5‐トリヒドロキシ安息香酸アルキルエステルである上記(1)に記載の潤滑剤組成物。
(3)潤滑油基油が40℃における動粘度として5〜1000mm
2/sのものである上記(1)または(2)に記載の潤滑剤組成物。
(4)アミド化合物を配合する常温でゲル状の上記(1)〜(3)のいずれかに記載の潤滑剤組成物。
(5)ちょう度が70〜480である上記(1)〜(4)のいずれかに記載の潤滑剤組成物。
(6)モリブデン化合物を潤滑剤組成物全量基準で、モリブデン(Mo)として0.01〜10質量%含有する上記(1)〜(5)のいずれかに記載の潤滑剤組成物。
(7)油性剤を潤滑油組成物全量基準で0.05〜5.0質量%含有する上記(1)〜(6)のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【0009】
(8)上記(1)〜(7)に記載の潤滑剤組成物5〜85重量部に対し、揮発性溶剤を95〜15重量部混合してなる潤滑液組成物。
(9)揮発性溶剤が炭素数6〜12の炭化水素である(8)に記載の潤滑液組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明の潤滑剤組成物および潤滑液組成物は、3,4,5‐トリヒドロキシ安息香酸あるいはそのエステルを配合したので、摩耗が顕著に低減され、かつ摩擦係数も低く安定する特性を示すとともに、鉄の赤錆であるヘマタイトを硬くて強度のある黒錆(マグネタイト)に還元して、防錆効果を著しく向上させることができる。すなわち、しゅう動材料の表面がマグネタイトになると、耐摩耗剤との相乗効果により、潤滑性が大幅に向上する。従来は、水溶液でタンニン酸等の黒錆転換効果を利用した製品はあるが、油溶性でオイルベースの潤滑剤に適用できるようにしたものは見当たらない。世の中の機械システム潤滑の大部分はオイルベースであり、したがって、本発明の潤滑剤組成物および潤滑液組成物は、潤滑条件の厳しい機械システムの長寿命化に貢献し、かつ低く安定した摩擦係数の特性から省エネルギーに、さらには高い防錆性により省資源に寄与するなど格別な効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の潤滑剤組成物は、鉱油系、合成油系および/または動植物油系の潤滑油基油と3,4,5‐トリヒドロキシ安息香酸あるいはそのエステルを含有し、増ちょう剤またはアミド化合物の配合により常温において半固体状を呈するようにしたものである。
3,4,5‐トリヒドロキシ安息香酸あるいはそのエステルは、一般に基油への溶解度が低いため、液状の潤滑油では低濃度でしか使えないが、常温で半固体状の潤滑剤にすることにより、幅広い用途に用いることができる。
なお、ここで「常温」とは室内の普通の温度を意味し、具体的には、50℃以下、より一般的には−10〜30℃程度の温度環境をいう。また、半固体状とは、JIS K2220「7.ちょう度試験方法」に規定された方法で測定されたちょう度が70〜480のものである。
【0012】
〔潤滑油基油〕
本発明において、潤滑油基油としては、鉱油系、合成油系、動植物油系などの潤滑油基油を用いることができる。さらに、これらの潤滑油基油を2種以上混合して用いることもできる。
潤滑油基油の物性は特に限定するものではないが、40℃における動粘度が5〜1000mm
2/sのものが好ましく、10〜600mm
2/sのものがより好ましく、さらに好ましくは20〜500mm
2/sである。潤滑油基油の粘度は小さいほうが低摩擦化できる。
粘度指数は90以上が好ましく、より好ましくは100〜250であり、流動点は−10℃以下が好ましく、より好ましくは−15〜−70℃であり、また引火点が150℃以上のものが好ましく、より好ましくは200℃以上のものである。
なお、この潤滑油基油は、潤滑剤組成物全量基準で、10〜99質量%、特には40〜95質量%配合することが好ましい。
【0013】
鉱油系の潤滑油基油としては、原油を常圧蒸留して、あるいは常圧蒸留残渣などを減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱蝋、水素化脱蝋、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の潤滑油精製手段を適宜組み合わせて処理して得られた精製潤滑油留分を好適に用いることができる。各種の原料と各種の精製手段の組み合わせから得られた性状の異なる精製潤滑油留分を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。このように石油の比較的高沸点な留分より作られる鉱油系の潤滑油基油は一般的に安価なこともあり、様々な潤滑油やグリースなどに広く用いられている。
【0014】
また、合成油系の潤滑油基油としては、ポリ‐α‐オレフィン(PAO)、エチレン‐α‐オレフィンオリゴマーなどのポリ‐α‐オレフィンオリゴマー、アルキルベンゼン、アルキルナフテン、グリコール、エステル、エーテル、シリコーン油、フッ素化油などから適宜選定して用いることができる。なかでもPAO、エステルが好ましい。特にPAOが、粘度特性、酸化安定性、材料適合性、コストの面で優れており、より好適である。これらの合成油は、上記の物性を満足するのであれば、単独で用いることもできるし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0015】
ポリ‐α‐オレフィンは、化学的に不活性であり、粘度特性に優れ、幅広い粘度を有するものが市販されておりコスト面でも好ましい。ポリ‐α‐オレフィンは、1‐デセンや1‐ドデセン、あるいは1‐テトラデセンなどのオレフィンオリゴマーを重合し、重合度2〜10の範囲で、これら重合物を粘度調整のために適宜配合したものが好適である。
【0016】
エステルも様々な分子構造の化合物が市販されており、それぞれ特有の粘度特性(高粘度指数、低流動点)を有し、同一粘度である炭化水素系基油と比べると引火点が高い基油である。エステルは、アルコールと脂肪酸を脱水縮合反応して得ることができるが、本発明においては、化学的な安定性の面で、二塩基酸と1価アルコールとのジエステル、ポリオール(特にはネオペンチルポリオール)と1価脂肪酸とのポリオールエステル、またはポリオールと多価塩基酸と1価アルコール(または1価脂肪酸)とのコンプレックスエステルを好適な潤滑油基油として挙げることができる。
【0017】
動植物油系の潤滑油基油としては、牛乳脂、牛脂、ラード(豚脂)、羊脂、牛脚油、鯨油鮭油、かつお油、にしん油、鱈油、さらには大豆油、菜種油、ひまわり油、サフラワー油、落花生油、とうもろこし油、綿実油、米ぬか油、カポック油、ごま油、オリーブ油、あまに油、ひまし油、カカオ脂、シャー脂、パーム油、パーム核油、ヤシ油、麻実油、米油、茶種油などが好適であるが、これらに限定されるものではない。
【0018】
通常、これら鉱油系、合成油系、動植物油系などの潤滑油基油は適宜組み合わせ、用途ごとに要求される様々な性能を満たすように適宜の割合で配合することができる。このとき、鉱油系、合成油系および動植物油系の潤滑油基油はそれぞれ複数用いても良い。
【0019】
〔3,4,5‐トリヒドロキシ安息香酸〕
本発明では、3,4,5‐トリヒドロキシ安息香酸化合物のうち3,4,5‐トリヒドロキシ安息香酸あるいは3,4,5‐トリヒドロキシ安息香酸のエステルを配合する。この3,4,5‐トリヒドロキシ安息香酸、いわゆる没食子酸は、酸の状態のものを用いてもよいが、潤滑油基油への溶解性を考慮するとエステル体が好ましく、そのエステルのうちでもアルキルエステルが特に適している。3,4,5‐トリヒドロキシ安息香酸のアルキルエステルのなかで、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、ヘキシルエステル、オクチルエステル、デシルエステル、ドデシルエステルなどを用いることができるが、3,4,5‐トリヒドロキシ安息香酸と炭素数3〜12の直鎖あるいは分岐鎖アルコールとで合成される、3,4,5‐トリヒドロキシ安息香酸アルキルエステルが、溶解性や極圧性、耐摩耗性、防錆性などの効果の上、特に好ましい。なお、このアルキル基は、直鎖でも分岐鎖でも良い。
この3,4,5‐トリヒドロキシ安息香酸および/または3,4,5‐トリヒドロキシ安息香酸のエステルは、潤滑剤組成物全量基準で、合計量として、0.01〜20質量%配合する。0.01質量%以下では、潤滑性や防錆性の向上が十分でなく、また、20質量%以上配合しても、潤滑性や防錆性の向上はそれ以上に期待できない。この配合量は、0.1〜10質量%が好ましく、0.1〜3質量%が特に好ましい。
【0020】
〔増ちょう剤〕
潤滑剤を、常温において半固体状にするために、増ちょう剤を用いる。本発明で用いられる増ちょう剤としては、特に制限はなく、石けん系、非石けん系のいずれも用いることができる。この増ちょう剤としては、グリースの滴点が230℃以上となるものが好ましい。この滴点が230℃以上であれば、潤滑上の問題、例えば、高温での軟化やそれに伴う漏洩、焼付け等が生じるのを抑制することができる。
【0021】
石けん系としては、カルボン酸又はそのエステルをアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属等の金属水酸化物でケン化した金属石けんが好適である。この場合の金属としては、ナトリウム、カルシウム、リチウム、アルミニウム等であり、カルボン酸としては、油脂を加水分解してグリセリンを除いた粗製脂肪酸、ステアリン酸等のモノカルボン酸や、12‐ヒドロキシステアリン酸等のモノヒドロキシカルボン酸、アゼライン酸等の二塩基酸、テレフタル酸、サルチル酸、安息香酸等の芳香族カルボン酸などが好適である。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。具体的には、12‐ヒドロキシステアリン酸を用いたリチウム系のリチウム石けんが特に好ましい。
【0022】
また、非石けん系増ちょう剤としては、有機系では尿素化合物(ポリウレア)やふっ素樹脂があり、無機系ではベントンおよびシリカゲルがある。
ウレア化合物としては、従来からウレア系増ちょう剤として使用されているウレア化合物の中から、任意のものを用いることができる。このウレア化合物には、ジウレア化合物、トリウレア化合物、テトラウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物などがあり、目的に応じて適宜選定して用いるとよい。ウレア化合物は、耐熱性、耐水性ともに優れ、特に高温での安定性が良好なため、高温箇所に好適に用いられる。
【0023】
この増ちょう剤は、ちょう度を付与するために配合し、配合量が少なすぎると所望のちょう度が得られず、一方配合量が多すぎると潤滑性が低下する。この配合量は常温で半固体状の潤滑剤が得られる範囲であれば特に制限されるものではなく、潤滑剤組成物全量基準として、1〜70質量%、好ましくは10〜30質量%、より好ましくは10〜20質量%から適宜選定して配合するとよいが、ちょう度が70〜480になるようにすることが好ましい。
【0024】
〔アミド化合物〕
本発明においては、上記増ちょう剤に変えて、あるいは増ちょう剤とともにアミド化合物を配合して常温で半固体状(ゲル状)の潤滑剤組成物とすることができる。アミド化合物は、上記の増ちょう剤に相当するゲル化剤として作用し、本発明の潤滑剤組成物に、ゲル化剤の融点を超えると液体になり、融点以下だと半固体状(ゲル状)となる熱可逆性の温度特性を付与する。
【0025】
本発明に用いるアミド化合物は、アミド基(‐NH‐CO‐)を1つ以上有する脂肪酸アミド化合物であり、次の式(1)で表されるアミド基が1個のモノアミド、および式(2)および(3)で表されるアミド基を2個有するビスアミドを好ましく用いることができる。
【化1】
【0026】
上記式(1)中、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、炭素数5〜25の飽和または不飽和の鎖状炭化水素基であり、さらに、R
2は水素であってもよい。
【化2】
【化3】
【0027】
上記式(2)および(3)において、R
3、R
4、R
5およびR
6は、それぞれ独立して、炭素数5〜25の飽和または不飽和の鎖状炭化水素基であり、A
1およびA
2は、炭素数1〜10のアルキレン基、フェニレン基または炭素数7〜10のアルキルフェニレン基から選択される炭素数1〜10の2価の炭化水素基である。なお、アルキルフェニレン基の場合、フェニレン基とアルキル基および/またはアルキレン基の2個以上とが結合したかたちの2価の炭化水素基であってもよい。
【0028】
モノアミド化合物は、上記式(1)で表されるが、R
1およびR
2を構成する水素の一部は水酸基で置換されていてもよい。このようなモノアミド化合物として、具体的には、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド等の飽和脂肪酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミドなどの不飽和脂肪酸アミド、およびステアリルステアリン酸アミド、オレイルオレイン酸アミド、オレイルステアリン酸アミド、ステアリルオレイン酸アミド等の飽和または不飽和の長鎖脂肪酸と長鎖アミンによる置換アミド類などが挙げられる。
【0029】
これらのモノアミド化合物の中でも、式(1)のR
1およびR
2がそれぞれ独立して炭素数12〜20の飽和鎖状炭化水素基のアミド化合物および/またはR
1とR
2の少なくともいずれか一方が炭素数12〜20の不飽和鎖状炭化水素基のアミド化合物であることが好ましく、両アミド化合物の混合物がより好ましい。さらに不飽和鎖状炭化水素基が炭素数18の不飽和結合を有するオレイル基であるモノアミド化合物が好ましい。具体的にはオレイン酸アミド、オレイルオレイン酸アミド、オレイルステアリン酸アミド、ステアリルオレイン酸アミドが好ましく、摺動部に薄膜を形成し、保持し、焼付トラブルの解消に効果的な薄膜保持性を確保する。
【0030】
ビスアミド化合物としては、ジアミンの酸アミドまたはジ酸の酸アミドの形をした上記式(2)または(3)でそれぞれ表される化合物である。なお、式(2)および(3)でR
3、R
4、R
5およびR
6、さらにA
1およびA
2で表される炭化水素基において、一部の水素が水酸基(−OH)で置換されていてもよい。
式(2)で表されるアミド化合物として、具体的には、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスイソステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、メチレンビスラウリン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、m−キシリレンビスステアリン酸アミド等が挙げられる。式(3)で表されるアミド化合物として、具体的には、N,N’−ジステアリルセバシン酸アミド等が挙げられる。
【0031】
これらビスアミド化合物の中でも、モノアミド化合物の場合と同様に、式(2)のR
3とR
4および式(3)のR
5とR
6がそれぞれ独立して炭素数12〜20の飽和鎖状炭化水素基のアミド化合物および/またはR
3とR
4およびR
5とR
6の少なくともいずれか一方が炭素数12〜20の不飽和鎖状炭化水素基のアミド化合物であることが好ましく、両アミド化合物の混合物がより好ましい。さらに不飽和鎖状炭化水素基が炭素数18の不飽和結合を有するオレイル基であるビスアミド化合物が薄膜保持性を確保する上で好ましい。このような化合物として、エチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミドなどが挙げられる。
【0032】
また機械システムの設計上の制約から極少量の油剤しか用いることができない摺動部で厳しい潤滑環境下においても焼付きなどを起こさないためには、摺動表面に油剤が強固に吸着・付着し、油膜を保持しなければならない。そのためには付着性を有する油剤が必要であるが、本発明では、ゲル化剤であるアミド化合物の炭化水素基が不飽和鎖状であると付着性が増す。付着性が増すと摺動表面へ薄膜状に塗布することができ、厳しい潤滑環境においても油膜切れを起こしにくくなり、潤滑性能が向上する。不飽和鎖状炭化水素基としては、炭素数12〜20の不飽和結合を有するアルケニル基、特には炭素数18の不飽和結合を有するオレイル基であるビスアミド化合物が好ましい。
【0033】
アミド化合物は、仕上がりの常温で半固体状である潤滑剤組成物を基準として1〜70質量%含まれるように配合する。アミド化合物の配合量が、1質量%未満では、常温でゲル状の組成物を形成することができず、一方、90質量%を超えて配合しても硬くなりすぎてハンドリングしにくくなり、好ましくない。より好ましい配合量は1〜50質量%、5〜30質量%である。
【0034】
〔モリブデン化合物〕
また、上記潤滑剤組成物に、さらにモリブデンを含有する有機モリブデン化合物、二硫化モリブデンなどのモリブデン化合物を併用することで、没食子酸化合物との相乗効果により、より一層摩擦係数を下げ、潤滑性能を向上させることができる。この有機モリブデン化合物としては、モリブデンジチオカーバメート(MoDTC)やモリブデンジチオフォスフェート(MoDTP)などが好適である。また、二硫化モリブデンは、固体潤滑剤として一般的に知られているものを使用することができ、半固体状潤滑剤中に安定に分散化させることが可能である。このモリブデン化合物の配合量は、モリブデン原子(Mo)として潤滑剤組成物の全量基準で、0.1〜10質量%含有されることが好ましく、より好ましくは0.1〜3.0質量%である。
〔油性剤〕
上記潤滑剤組成物に、さらに油性剤を併用することでも、没食子酸化合物との相乗効果が得られる。この油性剤としては、オレイン酸、ステアリン酸などの高級脂肪酸、オレイルアルコール、グリセリンモノオレエート、グリセリンモノオレイルエーテルなどのアルコール、エステル、エーテルさらにはアミン、硫化油脂などが好適である。これら油性剤の配合量は、化合物として潤滑剤組成物の全量基準で、0.05〜5.0質量%含有されていることが好ましく、より好ましくは0.1〜3.0質量%である。
【0035】
〔揮発性溶剤〕
本発明においては、上記の潤滑剤組成物5〜85重量部に対し、さらに揮発性溶剤を95〜15重量部混合させると、速乾性で浸透性が高く、乾燥した後に材料表面に薄い被膜をつくる特殊な潤滑液組成物とすることができる。
この場合の揮発性溶剤は沸点が40〜200℃の範囲にあり、常温で液体である炭化水素系、芳香族系、アルコール系、エーテル系、ケトン系のいずれか1種以上、あるいはこれらを適宜混合して用いることができる。これら揮発性溶剤は沸点が40〜200℃、好ましくは60〜150℃、さらに好ましくは80〜150℃であり、沸点が40℃以下だと常温で揮発が過度となり実用的に使用することが難しく、200℃以上だと乾燥の際の加温や真空乾燥などの手間がかかりコストアップとなる。特にはベンジン、石油エ−テル、灯油、n‐パラフィンなどの炭化水素系、トルエン、キシレンなどの芳香族系、エタノール、プロピルアルコール、ブタノール、オクタノールなどのアルコール系、ジメチルエーテル、ジエチルエーテルなどのエーテル系の汎用溶剤がコスト的に好ましい。その中でも炭素数6〜12の炭化水素が揮発性成分の作業環境上の負荷が小さい点で望ましい。
【0036】
揮発性溶剤で希釈された本発明の潤滑液組成物は、金属、樹脂、セラミックなどの加工素材を一様に浸せきしたり、ハケ、ブラシなどを用いて表面に塗布したり、噴霧状、あるいは液体状で吹きかけたりすることによって、素材全面に潤滑液組成物を接触させる。ついで当該組成物のうち、揮発性成分のみを除去するために、静置あるいは送風、必要に応じて加熱して乾燥させる。その結果、機械システムの潤滑しゅう動部品に被膜を形成させ、システムへの組み込み後、摩擦摩耗を防止し、機械システムを円滑に稼動させることができる。また、保管金属材料や海上輸送中の材料、機械の金属の表面については、錆を防ぎ新品の状態を保つことができる。
【0037】
〔その他の添加剤〕
本発明の潤滑剤組成物及び潤滑液組成物には、本発明の目的が損なわれない範囲で、従来からグリース、ゲル状潤滑剤、潤滑油などに用いられている、アルカリ土類金属系清浄剤、摩擦調整剤、摩耗防止剤、極圧剤、清浄分散剤、酸化防止剤、防錆剤、金属不活性化剤、消泡剤などの添加剤を、より性能を向上させるために含有させることができる。
【0038】
アルカリ土類金属系清浄剤としては、マグネシウム、カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属を含有するもので、例えば、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属フェネート、アルカリ土類金属サリシレートなどが挙げられる。摩擦調整剤としては、酸性リン酸エステル、リン酸エステルアミン塩、亜リン酸エステルアミン塩など、摩耗防止剤としてはリン酸エステル、ジアルキルジチオリン酸亜鉛など、極圧剤としては硫化オレフィン、硫化油脂など、分散剤としてはポリアルケニルコハク酸イミド、ポリアルケニルコハク酸エステルおよびそれぞれのホウ酸変性物などが使用できる。また、酸化防止剤としてはアミン系、フェノール系の酸化防止剤など、金属不活性化剤としてはベンゾトリアゾールなど、防錆剤としてはアルケニルコハク酸エステルまたは部分エステルなど、消泡剤としてはシリコーン化合物、エステル系消泡剤などがそれぞれ挙げられる。
【0039】
本発明の潤滑剤組成物および潤滑液組成物の用途は、グリースが使われている分野および防錆剤および表面処理剤が使われている分野により好ましく用いることができるが、グリースでは特性が充分でない特殊な機器、部品、条件下でも使うことができる。特に溶剤で希釈した本発明の潤滑液組成物は狭いクリアランス部にも浸透させることができ、乾燥後、潤滑被膜と防錆被膜を形成させることができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はかかる例に限定されるものではない。
【0041】
〔潤滑剤組成物の調製〕
次に示す3,4,5−トリヒドロキシ安息香酸化合物、潤滑油基油、増ちょう剤、アミド化合物および添加剤を用いて実施例および比較例の潤滑剤組成物および潤滑液組成物を調製した。
(A)3,4,5‐トリヒドロキシ安息香酸化合物
(A1)3,4,5‐トリヒドロキシ安息香酸プロピル(n‐プロピル)エステル(岩手ケミカル社製)
(A2)3,4,5‐トリヒドロキシ安息香酸オクチル(n‐オクチル)エステル(和光純薬工業社製)
【0042】
(B)潤滑油基油:
(B1)ポリアルファオレフィン(PAO、動粘度(40℃):400mm
2/s、粘度指数:150、流動点:−35℃、引火点:280℃)
(B2)パラフィン系鉱物油(動粘度(40℃):32mm
2/s、粘度指数:106、流動点:−15℃、引火点:230℃)
(B3)ポリオールエステル油(動粘度(40℃):10mm
2/s、粘度指数:95、流動点:−50℃、引火点:190℃)
【0043】
(C)アミド化合物および増ちょう剤:
(C1)ビスアミド(エチレンビスステアリルビスアミド、融点150℃)
(C2)モノアミド(N‐ステアリルステアリン酸アミド、融点95℃)
(C3)モノアミド(N‐オレイルオレイン酸アミド、融点35℃)
(C4)Li石けん:12‐ヒドロキシステアリン酸リチウム
(C5)尿素化合物:芳香族ジウレア
【0044】
(D)添加剤:
(D1)油性剤:グリセロールモノオレエート(GMO)
(D2)モリブデン化合物:モリブデンジチオカーバメート(MoDTC)
(D3)モリブデン化合物:二硫化モリブデン(MoS
2、平均粒子径1μm)
(D4)防錆剤:カルシウムスルホネート
【0045】
(E)揮発性溶剤
(E1)炭化水素:ノルマルデカン(n‐デカン)
【0046】
実施例および比較例で使用した潤滑剤組成物を、上記A〜Dの各成分を用い、表1、2に示す配合割合(組成物全量基準での質量%)で次のようにしてブレンドし調製した。
(B1)〜(B3)の潤滑油基油に(D1)〜(D4)の添加剤を所定量配合し、撹拌混合器(ホットプレートスターラー)で加熱溶解させる。実施例1〜7、9〜10、比較例1〜3では、そこに(C1)、(C2)、(C4)のアミド化合物または増ちょう剤を加えて、融点以上に昇温してこれらを溶融し液体の状態で均一に混ざり合うまで撹拌し、(A1)、(A2)の3,4,5‐トリヒドロキシ安息香酸化合物を加えてさらに撹拌した後、放置して室温にまで降温して均一な半固体状組成物を得た。また実施例8、11および比較例4では、芳香族アミンとジイソシアネートを基油中で加熱、溶解、反応させ、増ちょう剤(C5)を均一分散させて、常温で半固体状の潤滑剤組成物を得た。
【0047】
また、実施例12〜18および比較例5〜7は、(C3)のアミド化合物を用い、表3に示す配合割合で、上記と同様な方法で作成した半固体状物に揮発性溶剤(E1)を混合し、40℃で30分間加熱、攪拌して潤滑液組成物を得た。
【0048】
このようにして得た実施例1〜18および比較例1〜7の潤滑剤組成物および潤滑液組成物それぞれについて、外観、ちょう度(不混和ちょう度)、潤滑性能(摩擦係数、摩耗量)、防錆性(黒錆転換効果、発錆抑制性)を測定、評価した。得られた測定、評価結果を表1〜3の下部に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
〔測定・評価方法〕
前記の測定および評価は、次の方法にて行った。
【0053】
〔外観〕
規定の配合割合で調合し、室温まで冷却した後、組成物の出来上がりを外観目視により観察した。析出物や沈殿物が発生し、均一な組成物が得られなかった場合を不合格とし、均一半固体状、または均一希釈液が得られた場合を合格と記録した。
【0054】
〔ちょう度〕
JIS K2220に従い、1/4ちょう度計にて不混和ちょう度を測定した。
【0055】
〔摩擦試験〕
ボール/ディスクタイプの往復摩擦試験機を用いて耐摩耗性を測定した。
試験条件は、より油膜ができにくく、厳しい潤滑条件をシミュレートすべく、しゅう動速度が低速(1cm/s)、高荷重(2200gf)とし、振幅20mm、室温で試験を開始し、2時間往復摩擦を実施した。なお、ボールとディスクの試験片は、軸受炭素鋼(SUJ−2)を用いた。2時間経過時の摩擦係数、および試験後のディスク摩耗深さを表面粗さ計で計測し記録した。
【0056】
〔防錆性試験〕
防錆効果の確認試験として、人為的に作成した赤錆(ヘマタイト)に潤滑油組成物を塗布し、黒錆(マグネタイト)に変化するかどうかを測定した。まず、JIS G3141の鋼板をそのまま(油剤などは無塗布)、JIS K2246に従い、塩水噴霧試験に3時間かけ、鋼板上に赤錆を形成させる。ついで、赤錆鋼板に潤滑油組成物を一様に噴霧し(噴霧量として1ml)、25℃の大気圧下で、24時間静置し、鋼板の外観を観察した。目視にて、赤錆が黒錆に50%以上転換された場合を合格とし、50%以下の転換率の場合を不合格と記録した。さらに、塗布静置後24時間の鋼板を、再度、塩水噴霧試験に24時間かけ、発錆の増加度合い(抑制度)を評価した。発錆量が変化なしの場合を発錆抑制度◎、1〜2倍に増加した場合を発錆抑制度○、2倍以上の錆増加の場合を発錆抑制度×とランク付けして記録した。
【0057】
表1、2に示す実施例はいずれも均一な半固体状である。また実施例1〜11は、ちょう度が260〜285で、ちょう度分類は2号に相当する。これら実施例の摩擦試験後のディスク摩耗深さは、0.05〜0.14μmであり、摩擦係数も0.05〜0.09と安定した値を示した。特にMoを含むことで低摩擦特性を示した。
これに対し、3,4,5‐トリヒドロキシ安息香酸化合物を配合していない比較例1〜4では、試験後の摩耗深さが0.38〜0.86μmと実施例に比べて深く、また摩擦係数が比較的高く推移した。このように、3,4,5‐トリヒドロキシ安息香酸化合物を半固体状潤滑剤に配合することにより耐摩耗性が向上できることが分かる。
【0058】
表3に示す実施例は、いずれも均一希釈液である。溶剤が揮発した後の薄膜の摩擦試験での摩耗深さも0.08〜0.12μmであり、摩擦係数も0.06〜0.09と安定した値を示した。さらに防錆試験の結果、実施例では赤錆から黒錆への転換効果が認められたのに対し、3,4,5‐トリヒドロキシ安息香酸化合物を配合していない比較例では、赤錆のまま変化しなかった。さらに、追加の塩水噴霧試験の結果、実施例では、いずれも錆の増加が認められず、発錆の抑制効果が確認された。一方、比較例では、錆の著しい増加が認められた。