(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
パワー半導体デバイスの中で、IGBTはMOSゲートによる電圧駆動ゆえの制御性の簡便さおよびバイポーラ動作ゆえの飽和電圧の低さから、その適用範囲を広げている。パワー半導体デバイスは無接点スイッチとして使用されるため、発生損失が小さいことが望ましく、低飽和電圧化、低スイッチング損失化が進展している。パワー半導体デバイスの飽和電圧とスイッチング(ターンオフ)損失にはトレードオフの関係があることが知られており、一般的に、飽和電圧−ターンオフ損失トレードオフ特性(以降、単にトレードオフ特性)と呼ばれ、パワーデバイスの発生損失の指標となっており、これを改善する要求がある。さらに、スイッチとしての機能を失わないように、破壊耐量を高くする必要性もある。特に、近年では、電磁ノイズの低減に対する要求も大きくなっており、特にターンオン時のソフトスイッチング化が重要となっている。
【0003】
このような従来の一般的なトレンチ型IGBTの構造について、
図26を参照して説明する。
図26は、シリコン基板表面におけるパターンがストライプ状のトレンチゲートを有するnチャネル型IGBTを、シリコン基板面に垂直な方向であって、トレンチゲートを横切る方向に切断した断面図である。なお、以降、参照する本書に添付のトレンチ型IGBTの断面図はすべて、図面を細部まで見易くする観点で、寸法的にはデフォルメされている。
図26では、低濃度のn型半導体基板層(n型ベース層)1の一方の主面側にp型チャネル領域2を、他方の主面側にp型で高濃度のコレクタ層12を備え、このp型チャネル領域2の表面層にさらに選択的にn
+型エミッタ領域4を備えている。また、n
+型エミッタ領域4の表面からp型チャネル領域2を貫通してn型半導体基板層(n型ベース層)1に達するトレンチ7を有する。トレンチ7内にはゲート絶縁膜5を介して高濃度ポリシリコンからなるゲート電極6が埋め込まれている。ただし、製造方法としては、先にp型チャネル領域2の表面から前記トレンチ7が形成され、トレンチ7内にゲート絶縁膜5とゲート電極6となる高濃度ポリシリコンが充填された後に、n
+型エミッタ領域4が形成される。
【0004】
このゲート電極6の上部には層間絶縁膜9が被覆されている。さらに、この層間絶縁膜9の表面上にはAlなどの金属膜からなるエミッタ電極20が被覆される。このエミッタ電極は前記層間絶縁膜9に設けられる開口部により、前記n
+型エミッタ領域4表面とp型チャネル領域2表面に共通に導電接触する構成となっている。
【0005】
多くの場合、トレンチ型IGBTには、ラッチアップ耐量の向上を図るためにp型チャネル領域2の表面層の一部に高濃度p
+型ボディ領域3が形成される。さらに、低濃度のn型半導体基板層(n型ベース層)1と高濃度p型コレクタ層12の間に、n型ベース層1の厚さを薄くしてオン電圧を低減するために中濃度のn型層(FS(Field Stop)層11と言うこともある)が設けられる場合もある。さらに、エミッタ電極20上にパッシベーション膜としてチッ化膜やアモルファスシリコン膜あるいはポリイミド膜が形成されることがあるが、前記
図26では省略されている。また、p型コレクタ層12表面には金属膜からなるコレクタ電極21が被覆される。
【0006】
以下、前記
図26に示すトレンチ型IGBTをオン状態にする動作について説明する。オフ状態のエミッタ電極20とコレクタ電極21間において、エミッタ電極20をアース接続し、これよりも高い電圧をコレクタ電極21に印加した場合、n型ベース層1−p型チャネル領域2間の逆バイアス接合により、その逆耐電圧以下では阻止状態となるが、この状態でゲート電極6に閾値電圧より高い電圧を印加すると、ゲート駆動回路(図示せず)よりゲート抵抗を介してゲート電極6には電荷が蓄積され始める。同時にトレンチ7内壁のn
+型エミッタ領域4とn型ベース層1との間にあって、ゲート酸化膜5を介してゲート電極6に対向するp型チャネル領域2の表面領域にはn型に反転したnチャネル(図示せず)が形成される。このnチャネルが形成されると、このnチャネルを通る通路では前記逆バイアス接合が消えるので、電子がエミッタ電極20から、n
+型エミッタ領域4、p型チャネル領域2の反転したnチャネルを通り、n型ベース層1に注入される。n型ベース層1に電子が注入されると、p型コレクタ層12とn型ベース層1とのpn接合は順バイアスされて、p型コレクタ層12からn型ベース層1へ少数キャリアである正孔が注入される。n型ベース層1に正孔が注入されると、n型ベース層1においてキャリアについての中性条件を保つために多数キャリアである電子濃度が高くなるという、いわゆる、伝導度変調がおきてn型ベース層1の抵抗が低くなる。この時のトレンチ型IGBTのコレクタ電極21−エミッタ電極20間に流れる電流による電圧降下は、pコレクタ層12とn
+エミッタ層4よりなるダイオードのオン電圧と同程度になることが理想的なIGBTのオン電圧である。
【0007】
次にIGBTをオン状態からオフ状態にすることは、エミッタ電極20とゲート電極6間の電圧をしきい値以下にすることによりなされる。すると、ゲート電極6に蓄積されていた電荷はゲート抵抗を介してゲート駆動回路へ放電され、n型に反転していたnチャネルがp型に戻り、nチャネルが無くなるので、電子の供給が止まり、同時にコレクタ層12からの正孔の注入も無くなる。しかし、電流としては、n型ベース層1内に蓄積されていた電子と正孔がそれぞれコレクタ電極21とエミッタ電極20に掃き出されるか、互いに再結合することにより消滅するまで流れ、前記蓄積電子と正孔の消滅後に電流は無くなりオフ状態となる。
【0008】
このトレンチ型IGBTのオン電圧とスイッチング特性との間のトレードオフ特性を改善するものとして、エミッタ電極側の蓄積キャリアの濃度を増加させる構造(IEGT(INJECTION ENHANCED GATE BIPOLAR TRANSISTOR))などを含め、さまざまな改善構造が提案されている。たとえば、特許文献1の
図3(本書に添付の
図25に相当)と同文献1の
図40(本書に添付の
図27に相当)では、エミッタ電極側の蓄積キャリアの濃度を増加させるために、p型チャネル領域2と半導体基板層1(以降基板層と略記することもある)の間に該基板層1より高濃度のn型領域80を形成する構造を公開している。
【0009】
これらの公知のトレンチ型IGBTでは、前記n型領域80を設けることで、オン状態でのp型チャネル領域2直下の電子、正孔濃度を高くすることが可能となり、オン電圧を低くすることが可能であり、オン電圧−ターンオフ損失トレードオフ特性の改善が可能であるとされている。
【0010】
また、前述のトレンチ型IGBTとは製造プロセスが異なるが、ゲートしきい値電圧のバラツキを抑制するために、トレンチ間のp型チャネル領域と半導体基板層の間に設けられるn型領域(CS(Carrier Stored)層)に関し、基板面に水平な方向の不純物濃度について、トレンチ間の中央部の濃度をトレンチ近傍の濃度より高濃度にする構造のトレンチ型IGBTに関する技術が発表されている(特許文献2)。
【0011】
他の例としては、特許文献3の
図1に示されるフローティング層を有するトレンチ型IGBT構造によってエミッタ電極側の蓄積キャリアの濃度を増加させてトレードオフ特性を改善するトレンチ型IGBTが知られている。
【0012】
また、フローティング層の存在によって、オフ時(印加電圧阻止時)におけるシリコン基板内の電界分布が不均一となり耐圧が低下するため、基板厚さを厚くすることによって耐圧を確保する構造のトレンチ型IGBTが公開されている(特許文献3)。その結果、オン電圧とスイッチング特性との間のトレードオフ特性の改善に限界があるとされる。さらに、前述の耐圧低下を改善する公知例としては、フローティング層の深さをトレンチの深さより深くする構造が提案されている(特許文献4)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、前記特許文献1の方法では、トレンチ型IGBTのオン電圧−ターンオフ損失間のトレードオフ特性を改善するために、
図27に示すように、p型チャネル領域2と半導体基板層(n型ベース層)1との間にn型領域80を形成したことにより、p型チャネル領域2の拡散深さが浅くなり、ターンオフ耐量が低下するという問題がある。
【0015】
また、このターンオフ耐量またはラッチアップ耐量を確保するためにはp型チャネル領域2の拡散深さを深くする必要がある。そのため、たとえば、深さ方向にガウス分布に従う濃度分布を有するn型領域80と同じく、深さ方向に同様の濃度分布を有するp型チャネル領域2とを、ゲートしきい値電圧の調整とラッチアップ耐量の確保とを両立させるような最適な条件で形成することが困難であるという問題を抱えている。
【0016】
さらに、前記特許文献4に記載のように、フローティング層の深さをトレンチの深さより深くする構造によるトレードオフの改善と耐圧低下の防止の場合では、プロセスのばらつきなどによって深いフローティング層がMOSチャネル側に回り込み、オン電圧の上昇を招くなどの問題がある。
【0017】
本発明は、以上述べたような問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、トレンチ型IGBTのオン電圧をIEGT並みの低い状態のままで、スイッチング損失も低くし、かつ、高いターンオフ耐量を有し、ゲートしきい値電圧の設計・制御性を同時に向上させる半導体装置およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、
n型の半導体基板の一方の主面と他方の主面の間に形成され、該半導体基板と同じ導電型の半導体基板層と、
前記半導体基板層の前記一方の主面側の表面層に選択的に形成され、前記半導体基板層よりも高不純物濃度のp型のチャネル領域と、
該チャネル領域内の表面層に選択的に形成され、該チャネル領域内よりも高不純物濃度のn型エミッタ領域と、
前記チャネル領域表面と前記エミッタ領域表面とに接触するエミッタ電極と、
前記n型のエミッタ領域表面から、前記チャネル領域を貫き、前記半導体基板層に達するとともに底部が該半導体基板層の前記他方の主面側端部深さよりも浅く、ストライプ状の平面形状を有する複数のトレンチと、
該トレンチ内にゲート絶縁膜を介して前記チャネル領域に対向するゲート電極と、を備える半導体装置であって、
前記トレンチに接し、
前記半導体基板層より高不純物濃度であり、
前記半導体基板の主面方向では前記トレンチの側壁側で高濃度であるとともに、
該トレンチから離れるにつれて低濃度になる不純物濃度分布を有し、
前記チャネル領域と前記半導体基板層との間に位置し、
少なくとも上部が前記ゲート絶縁膜を挟んで前記ゲート電極と対向するn型のチャネル変形領域と、
前記半導体基板の他方の主面側の表面層に第2導電型コレクタ層と、を備え
、
前記チャネル領域が、
前記エミッタ領域との境界から前記チャネル変形領域との境界までの前記トレンチ側壁に接する箇所に、
該トレンチ側壁に沿って不純物濃度分布が一様であり、前記チャネル領域の第2導電型不純物の不純物濃度よりも低濃度であり、前記半導体基板層よりも高不純物濃度であるとともに前記チャネル変形領域のドーパントと同じである第1導電型不純物を備える半導体装置とするものである
。
【0019】
本発明は、また、前記トレンチの底部に前記p型のチャネル領域より低
不純物濃度のp型電界緩和領域を備えることも好ましい。
本発明は、また、前記複数のストライプ状平面形状を有するトレンチ間に配置される前記p型チャネル領域が、表面層にn型エミッタ領域を、備える領域と備えない領域とを有する半導体装置とする。
【0020】
本発明は、また、前記表面層にn型エミッタ領域を、備える領域と備えない領域の表面の幅が異なる半導体装置とするものである。
本発明は、また、前記表面層にn型エミッタ領域を備えない領域の表面には絶縁膜が被覆されて前記エミッタ電極と絶縁される半導体装置とするものである。
【0021】
本発明は、また、前記チャネル変形領域が、
前記トレンチ間の中央に沿って露出する前記半導体基板により分離される半導体装置とするものである
。
【0022】
本発明は、また、前記チャネル変形領域がトレンチよりも深く形成される半導体装置とするものである。
本発明は、また、前記トレンチの平面パターンが直線状で、所定の間隔に配置される複数の単位トレンチに分割され、前記チャネル変形領域が、前記単位トレンチに沿って形成される半導体装置とするものである。
【0023】
本発明は、前記p型チャネル領域であって、表面層にn型エミッタ領域を備えない領域の拡散深さが、表面層にn型エミッタ領域を備える領域の拡散深さより深い半導体装置としてもよい。
【0024】
本発明は、前記p型チャネル領域であって、表面層にn型エミッタ領域を備えない領域
の拡散深さが前記トレンチよりも深い半導体装置とすることも好ましい。
本発明は、前記p型チャネル領域であって、表面層にn型エミッタ領域を備えない領域の拡散深さが前記低
不純物濃度のp型電界緩和領域よりも深い半導体装置とすることもできる。
【0025】
本発明は、また、
前記トレンチに隣接して、前記半導体基板層の前記一方の主面側の表面層に選択的に形成され、拡散深さが前記トレンチよりも深い第2導電型拡散領域と、該拡散領域に隣接し、前記トレンチと同じ深さの第2のトレンチと、を備える半導体装置とするものである。
本発明は、また、前記第2導電型コレクタ層と前記基板層の間に、前記半導体基板層よりも高濃度のn型フィールドストップ層もしくはn型バッファ層が形成される半導体装置とするものである。
【0026】
本発明は、また、前記p型コレクタ層が、n型のカソード領域と前記p型のコレクタ領域とを備えている半導体装置とするものである。
本発明は、また、n型の前記カソード領域が、前記ストライプ状平面形状を有するトレンチの長手方向に平行に配置される半導体装置とするものである。
【0027】
本発明は、また、n型の前記カソード領域が、前記ストライプ状平面形状を有するトレンチの長手方向に交差する方向に配置される半導体装置とするものである。
本発明は、
前記半導体装置を製造する製造方法であって、前記トレンチを形成した後に、n型のイオン種を、前記トレンチに対して斜め上方からイオン注入し、その後に熱拡散処理を行うことによって前記チャネル変形領域を形成する半導体装置の製造方法とするものである。
【0028】
本発明は、また、前記n型のイオン種を、前記トレンチに対して斜め上方からイオン注入する前に、前記トレンチを酸化膜で覆う半導体装置の製造方法とするものである。
本発明は、また、前記トレンチを形成した後に該トレンチ底部に向かって、p型のイオン種を、前記トレンチに対して垂直な上方からイオン注入し、その後に熱拡散処理を行うことによって、前記トレンチの底部に配置されるp型の電界緩和領域を形成する半導体装置の製造方法とするものである。
【0029】
本発明は、また、p型のイオン種を、前記トレンチに対して垂直方向からイオン注入する前に、前記トレンチをスクリーン酸化膜で覆う半導体装置の製造方法とするものである。
【0030】
本発明は、また、前記トレンチに対して、垂直方向からイオン注入して形成する前記チャネル変形領域と斜め上方からイオン注入して形成する前記電界緩和領域を、同じ工程内で続けて行う半導体装置の製造方法とするものである。
【0031】
本発明は、また、n型のイオン種を前記トレンチに対して斜め上方からイオン注入し、続いてp型のイオン種を垂直方向からイオン注入する前に、前記トレンチをスクリーン酸化膜で覆う半導体装置の製造方法とするものである。
【0032】
本発明は、また、ゲート絶縁膜の形成後、前記トレンチにドープドポリシリコンを埋め込む工程と、p型ドーパントのイオン注入および熱拡散処理により前記p型チャネル領域を形成する工程とを備える半導体装置の製造方法とするものである。
【0033】
本発明は、また、前記チャネル変形領域が、前記n型半導体基板に形成された酸化膜の所要の位置に開口部を設ける工程と、前記酸化膜の開口部から前記半導体基板に所定の深さのトレンチを形成する工程と、前記トレンチをエピタキシャル成長によって、
前記半導体基板よりも高不純物濃度のn型の半導体層を埋め込む工程と、
熱拡散により該半導体層から前記半導体基板に第1導電型不純物を拡散させる工程と、前記半導体基板の主面を平坦化する工程とにより形成される半導体装置の製造方法とするものである。
【0034】
本発明は、また、前記n型半導体基板がn型シリコン半導体基板であって、前記チャネル変形領域を形成するドーパントがリンまたはひ素である半導体装置
または半導体装置の製造方法とするものである。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、トレンチ型IGBTのオン電圧をIEGT並みの低い状態のままで、スイッチング損失も低くし、かつ、高いターンオフ耐量を有し、ゲートしきい値電圧の設計・制御性を同時に向上させる半導体装置およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明にかかる半導体装置とその製造方法の実施例について、図面を用いて詳細に説明する。本発明はその要旨を超えない限り、以下に説明する実施例の記載に限定されるものではない。
【実施例1】
【0038】
本発明の半導体装置およびその製造方法に関し、その実施例1としてトレンチ型IGBTを取り上げて、その断面図である
図3を参照して説明する。
本発明にかかる実施例1のトレンチ型IGBT(
図3)と、従来構成のトレンチ型IGBTの
図26および前記特許文献1の
図40に相当する本書に添付の
図27との相違点は、実施例1(
図3)では、p型チャネル領域2とn型基板層1との間のn型チャネル変形領域8が、半導体基板面に平行な方向に関し、トレンチ側壁側で高濃度、トレンチ間の中央部近傍で低濃度という濃度勾配の不純物濃度分布を備えることである。さらに、この
図3のトレンチ型IGBTではトレンチ底部に低濃度のp型電界緩和領域10を備えていることも前記
図26、
図27のトレンチ型IGBTと異なっている。前記
図27に示すトレンチ型IGBTのトレンチ底部に設けられるp型領域は、前記
図3の前記p型電界緩和領域10よりも高濃度である点が異なる。
【0039】
前記
図3のトレンチ型IGBTでは、n型チャネル変形領域8を前述のような濃度勾配を有する不純物濃度分布にすることで、特許文献1の前記
図40に相当する本書に添付の
図27のトレンチ型IGBTと比較して下記のような効果が得られる。
【0040】
第一の効果−p型チャネル領域2の下端形状がフラットではなく、トレンチ7間の中央部近傍で図面の下方側に膨らむ凸形状になるため、電圧印加時の等電位面も凸形状になり、ターンオフ時のn型基板層1内の残留ホールがp型チャネル領域2の中央近傍から掃き出されやすくなるために、ラッチアップ耐量、並びに、ターンオフ耐量が改善される。
【0041】
第二の効果−トレンチ7間の中央部近傍のn型チャネル変形領域8の不純物濃度が低いため、n型チャネル変形領域8による、ホールに対するバリア高さがトレンチ7間の中央部で低くなり、ターンオフ時のホールの掃き出しがp型チャネル領域2の中央近傍から発生しやすくなりラッチアップ耐量、並びに、ターンオフ耐量が改善される。
【0042】
第三の効果−トレンチ7側壁部近傍のn型チャネル変形領域8の不純物濃度が高いために、オン状態におけるn
+型エミッタ領域4からトレンチ7側壁部の反転層(nチャネル)を介してn型基板層1に流れる電子電流のパス(経路)が広がりやすく、低オン電圧が得られやすい。
【0043】
第四の効果−トレンチ7側壁部の反転層(nチャネル)の形成される領域の濃度分布を一様にすることが可能で、ゲートのしきい値電圧の設計が簡便であり、かつ、しきい値電圧のばらつきを低減することが可能である。
【0044】
第五の効果−トレンチ7底部のp型電界緩和領域10の濃度が低濃度であるため、MOSFET部から注入された電子がp型電界緩和領域10で消滅しにくい。
第六の効果−トレンチ7底部のp型電界緩和領域10の濃度が低濃度であるため、p型電界緩和領域10の横方向(面方向)の幅がばらついた場合においても、オン電圧の変動量が少ない。
【0045】
これらの効果によって、前記
図27のトレンチ型IGBTと比較して、実施例1のトレンチ型IGBT(
図3)では、耐圧特性・オン電圧特性・ラッチアップ耐量特性に優れたものとすることが可能となる。
【0046】
以下、本発明の実施例1として、
図3の構造を有する1200V級トレンチ型IGBTおよびその製造方法について、
図19、
図20を参照しながら、詳細に説明する。
n型半導体基板1として、抵抗率50Ωcm、厚さ500μmのFZ−n型シリコン半導体基板を準備する。従来方法に沿って、主電流の流れる活性領域の外側にフィールドリミッティングリング(またはガードリング)を含む耐圧構造領域(図示せず)の形成などの工程を経た後に、活性領域内のトレンチ形成工程に入る。
【0047】
n型半導体基板1の表面に酸化膜を500nm程度の厚さに形成した後に、フォトリソグラフィとフォトエッチング工程により、活性領域内の所定の位置の酸化膜に4μmピッチで0.8μm幅のストライプ状開口部を設け、半導体基板1表面を露出させる(
図19(a))。前記酸化膜をマスクとして、前記開口部からRIE(Reactive Ion Echting)などの異方性エッチングなどによって、基板面に垂直方向に5μm程度の深さを有するストライプ形状の表面パターンのトレンチ7を形成する(
図19(b))。このとき、図示はしていないが前記開口部近辺エッチング幅はトレンチ底部近傍の幅に対して少し広いように形成するとゲート耐圧を改善することが可能であるので、好ましい。
【0048】
次に、図示しない25nm〜50nm程度の厚さのスクリーン酸化膜を形成後、半導体基板1を水平方向から15度程度傾けてひ素イオンを加速電圧150keVでドーズ量として2×10
13cm
-2程度照射する。この際、傾斜したトレンチ側壁部にイオン注入されるn型ドーパントは、シリコンに対して偏析係数の大きいドーパントから選ばれることが好ましいのでひ素とした(
図19(c))。この時、n
+型エミッタ領域4とp型チャネル領域2の境界部位にドーパントが届くようにイオン注入角度を決定することが重要である。このようにすることで、トレンチ側壁部のn型不純物濃度が一様となり、しきい値の制御性・ばらつきが抑制可能なものとなる。同様の工程をトレンチの反対面に行う(
図19(d))。
【0049】
その後、必要に応じて、反跳イオンによってトレンチ7底部に注入されたひ素イオンをRIEなどの異方性エッチングによってシリコンごと除去する。実施例1では、トレンチ7側壁部のMOSゲート構造(以降トレンチゲート構造)のゲートしきい値電圧がばらつかないように揃える目的で、両側のトレンチ7側壁にイオン注入を行っているが、目的によっては片側しか行わなくてもかまわない。
【0050】
前述のように、シリコンに対して偏析係数の大きいドーパント(たとえば、ひ素)をイオン注入する理由は、トレンチゲート構造のコレクタ側のn型不純物濃度が高くなる効果により、オン電圧の低減効果が高くなり望ましいからである。
【0051】
次に、ひ素の熱拡散処理として1150℃で90分程度の熱処理を行う。次に、半導体基板1面に対して垂直な方向(傾き0度)から、ボロンイオンを加速電圧45keVでドーズ量としては10
11cm
-2〜10
12cm
-2オーダーのイオン注入を行うことで、トレンチ7底部にのみ低濃度のp型のドーパント(ボロン)をイオン注入する(
図20(e))。なお、これらのイオン注入の前に25nm〜50nm程度の厚さのスクリーン酸化膜を形成しイオン注入後に取り除く工程を加えることは、イオン注入時に目的としない不純物のイオン注入を抑制することが可能であり望ましい。また、ひ素のイオン注入後の前記熱拡散処理により、
図20(e)のように、ひ素の拡散領域8aが形成される。
【0052】
次に、従来方法に沿ってトレンチ7側壁部の荒れを取り除くための熱酸化処理および酸化膜除去工程を行い(
図20(f))、トレンチ7底部にp型領域10aを形成する。次にトレンチ7内にゲート酸化膜5を形成し、トレンチ7内にドープドポリシリコン(高濃度ポリシリコン)6を埋め込み、基板表面に堆積したドープドポリシリコン(高濃度ポリシリコン)のエッチバック処理を行い除去することでトレンチゲート構造を形成する(
図20(g))。
【0053】
その後、厚さ25nm〜50nm程度のスクリーン酸化膜の形成後、p型チャネル領域2形成のためにボロンイオンを加速電圧45keV程度でドーズ量として1×10
14cm
-2程度イオン注入し、1100℃で3時間程度熱拡散処理を行うことで、p型チャネル領域2とn型チャネル変形領域8とトレンチ底部のp型電界緩和領域10が形成される。以上の説明により、実施例1のトレンチ型IGBTの本発明にかかる主要な工程が終了する(
図20(h))。
【0054】
この後は、公知の手法によって高濃度のp
+型ボディ領域3、高濃度のn
+型エミッタ領域4、層間絶縁膜9となるフォスフォシリケートガラス膜、エミッタ電極20やパッシベーション膜(図示せず)の成膜、フォトリソグラフィおよびフォトエッチング工程を行い半導体基板の一方の主面側の形成工程が終了する。
【0055】
その後、バックグラインドおよびエッチング処理によって半導体基板1の裏面を所定の厚さにまで薄くし、FS(Field Stop)層11やコレクタ層12のイオン注入および熱処理による形成、さらには、蒸着によるコレクタ電極21の形成を行うことで、実施例1のトレンチ型IGBT(
図3)が形成される。
【0056】
図3に示すトレンチ型IGBTは、前記
図2のシリコン半導体基板1の平面図のB−B’線で切断した断面図である。言い換えると、ストライプ状の平面パターンを有するトレンチ7、p
+型ボディ領域3、n
+型エミッタ領域4をそれぞれ直角に横切るB−B’線で切断した断面図である。さらに、シリコン半導体基板1の表面パターンを示す平面
図2は、シリコン半導体チップの平面図である
図1のA−A’部分の拡大断面図である。シリコン半導体チップはシリコン半導体基板1(シリコンウエハ)から矩形状に切断される一個の半導体装置であり、
図1はこの一個の半導体装置をエミッタ電極20側から示した平面図である。
図1に示すA−A’部分は半導体装置の主電流の流れる活性領域内の一部であり、その活性領域全体の外周を取り囲むように耐圧構造領域30が形成される。符号31で示す領域は活性領域内のトレンチ内に埋め込まれているポリシリコンゲート電極に電位を等しく与えるため、できるだけ短い距離で集合させて接続できるように配線されたAlを主成分とするゲート電極配線であり、符号32はゲート電極と外部接続端子との接続のためのAlゲートパッドである。さらに、耐圧構造領域30の外周が、シリコン半導体基板1(シリコンウエハ)から一個の半導体装置を切り出す際の切断領域である。
【0057】
図1に示す半導体装置は、最も簡単な構成の半導体装置であって、付加的にゲート静電破壊(ESD)耐量確保のためのツェナーダイオードや過電圧検知用IGBT、温度検出用ダイオードなどが内蔵、併設または集積されているような場合であっても本発明は適用可能である。
【0058】
実施例1のトレンチ型IGBT(
図3)の電流出力特性(I−V出力特性)を従来のトレンチ型IGBT
図25、
図26)と比較した例を
図11、
図12に示す。公正な比較を行うために、トレンチ7の深さ、ゲートしきい値電圧特性、FS(Field Stop)層11の濃度分布、コレクタ層12の濃度分布、活性領域面積などを実施例1と従来のトレンチ型IGBTとで共通にして比較したものである。従来構成としては、
図26に示す従来のトレンチ型IGBTと特許文献1に記載の
図3に相当する
図25の構成を適用した。
【0059】
図11より明らかなように、
図3に示す実施例1のトレンチ型IGBTの電流出力特性は、従来の
図26に示すトレンチ型IGBTや前記特許文献1に記載のトレンチ型IGBTの
図25(前記特許文献1に記載の
図3に相当する図)よりも良好な電流出力特性を示している。この
図11から一定電流密度を流した場合の電圧降下量(以下、オン電圧と称する)が低いことがわかる。また、ゲート電圧15V,接合温度425K,電流密度150A/cm
2の条件下でのオン電圧を比較した
図12によれば、実施例1のトレンチ型IGBT(
図3)のオン電圧を1とした場合、比較する従来のトレンチ型IGBTのオン電圧は1より大きくなっており、本発明にかかる実施例1のトレンチ型IGBT出力特性が優れていることがわかる。
【0060】
実施例1のトレンチ型IGBT(
図3)の耐圧特性を、従来のトレンチ型IGBT(
図26、
図27)と比較した例を
図13に示す。公正な比較を行うための条件は前述の
図11、
図12の場合と同じである。従来構成としては、
図26と
図27(
図27は前記特許文献1記載の
図3より耐圧特性の良好な
図40に相当する図面)の構成を適用した。
図13より明らかなように、実施例1の耐圧特性は従来構成のトレンチ型IGBTや特許文献1記載のトレンチ型IGBTより良好な耐圧特性を示している。
【0061】
実施例1のトレンチ型IGBTのラッチアップ耐量特性を従来のトレンチ型IGBT(
図25、
図26)と比較した例を
図14に示す。公正な比較を行うための条件は前述の
図11、
図12の場合と同じである。従来構成としては、
図26と
図25(前記特許文献1に記載の
図3に相当する図面)の構成を適用した。
図14より明らかなように、実施例1のトレンチ型IGBT(
図3)のラッチアップ耐量特性は従来構成のトレンチ型IGBTや特許文献1記載のトレンチ型IGBTより良好な耐圧特性を示している。
【実施例2】
【0062】
本発明にかかる実施例2のトレンチ型IGBTについて、
図5、
図21、
図22を参照して説明する。前述の実施例1のトレンチ型IGBTとの主たる相違点は、予めp型チャネル領域2、n
+型エミッタ領域4(およびフィールドリミッティングを含む耐圧構造領域の形成)が形成されたn型半導体基板1を使用する点である。
【0063】
前記n型半導体基板1の表面に酸化膜を500nm程度の厚さに形成した後に、フォトリソグラフィおよびフォトエッチング工程により、活性領域内の所定の位置の酸化膜に4μmピッチで0.8μm幅のストライプ状開口部を設け、半導体基板1表面を露出させる(
図21(a))。前記酸化膜をマスクとして、RIEなどの異方性エッチングなどによって、基板面に垂直方向に5μm程度の深さを有するストライプ状表面パターンのトレンチ7を形成する(
図21(b))。
【0064】
次にトレンチ7に、図示しない25nm〜50nm程度の厚さのスクリーン酸化膜を形成した後、半導体基板1を水平方向から10度程度傾けてリンイオンを加速電圧100keVでドーズ量として5×10
13cm
-2程度照射する。この際、側壁部へのイオン注入は、シリコンに対してリンなどの偏析係数の大きいドーパントをイオン注入することが好ましい(
図21(c))。同様の工程をトレンチ7の反対側の側壁面に行う(
図21(d))。前述の、シリコンに対して偏析係数の大きいドーパントをイオン注入する理由は、トレンチ側壁部に形成されるMOSFETのコレクタ側の濃度が高くなる効果により、オン電圧の低減効果が高くなり望ましいからである。
【0065】
次に、半導体基板に対して垂直な方向(傾き0度)でボロンイオンを加速電圧45keVでドーズ量としては10
13cm
-2オーダーのイオン注入を行うことで、トレンチ7底部にのみp型のドーパントをイオン注入する(
図22(e))。この時、ボロンイオン注入を行うことで、リンイオンの斜めイオン注入時に反跳によってトレンチ底部に注入されたリンイオンを補償してp型にするようにイオン注入量を調整することが重要である。この後、これらのイオン注入の前に形成した25nm〜50nm程度の厚さのスクリーン酸化膜を除去する。スクリーン酸化膜の形成はイオン注入時に目的のイオン以外の不純物をできるだけ除去するためである。
【0066】
次に、従来から知られているトレンチ7側壁部の荒れを取り除くための熱酸化処理および酸化膜除去工程を行い、トレンチ側壁のコレクタ側にn型領域8a、トレンチ7底部にp型領域10aを形成する(
図22(f))。次に、トレンチ7内にゲート酸化膜5を形成し、トレンチ7にドープドポリシリコン6を埋め込み、基板表面に堆積したドープドポリシリコンのエッチバック処理を行うことでトレンチゲート構造を形成する(
図22(g))。
【0067】
その後、n型チャネル変形領域8および電界緩和領域10の形成のための熱拡散処理を施すが、この熱拡散処理を、前記トレンチ7側壁部の荒れを取り除くための熱酸化処理および酸化膜除去工程(
図22(f))と兼ねて行うと工程が簡略化可能で都合がよい(
図22(h))。
【0068】
この後は、公知の手法によって高濃度p
+型ボディ領域3および前記
図3と同様の層間絶縁膜9となるフォスフォシリケートガラス膜、エミッタ電極20の形成や図示しないパッシベーション膜の成膜等に必要なフォトリソグラフィおよびフォトエッチング工程を行い半導体基板の一方の主面(表面側)の形成が終了する。
【0069】
その後、バックグラインドおよびエッチング処理によって半導体基板の裏面側を所定の厚さにまで薄くし、FS(Field Stop)層11やコレクタ層12のイオン注入および熱処理による形成、さらには、蒸着によるコレクタ電極21の形成を行うことで、
図5の断面図に示す実施例2のトレンチ型IGBTが形成される。
【0070】
実施例2のトレンチ型IGBT(
図5)の電流出力特性を従来のトレンチ型IGBTと比較した例を
図15、
図16に示す。公正な比較を行うために、トレンチ7の深さ、ゲートしきい値電圧特性、FS(Field Stop)層11の濃度分布、コレクタ層12の濃度分布、活性領域面積などを実施例2と従来のトレンチ型IGBTとで共通にして比較したものである。従来構成としては、
図26に示す従来のトレンチ型IGBTと特許文献1に記載の
図3に相当する
図25の構成を適用した。
【0071】
図15より明らかなように、
図5の実施例2のトレンチ型IGBTの電流出力特性は従来の
図26に示すトレンチ型IGBTや前記特許文献1に記載のトレンチ型IGBTの
図25(前記特許文献1に記載の
図3に相当する図面)よりも良好な電流出力特性を示している。この
図15から一定電流密度を流した場合の電圧降下量(以下、オン電圧と称する)が低いことがわかる。また、ゲート電圧15V,接合温度425K,電流密度150A/cm
2の条件下でのオン電圧を比較した
図16によれば、実施例2のトレンチ型IGBT(
図5)のオン電圧を1とした場合、比較する従来のトレンチ型IGBT(
図25、
図26)のオン電圧は1より大きくなっており、本発明にかかる実施例2のトレンチ型IGBT(
図5)の電流出力特性が優れていることがわかる。
【0072】
実施例2のトレンチ型IGBT(
図5)の耐圧特性を、従来のトレンチ型IGBT(
図26、
図27)と比較した例を
図17に示す。公正な比較を行うための条件は前述の
図11、
図12の場合と同じである。従来構成としては、
図26と
図27(
図27は前記特許文献1記載の
図3より耐圧特性の良好な
図40に相当する図面)の構成を適用した。
図17より明らかなように、実施例2の耐圧特性は従来構成のトレンチ型IGBTや特許文献1記載のトレンチ型IGBTより良好な耐圧特性を示している。
【0073】
実施例2のトレンチ型IGBT(
図5)のラッチアップ耐量特性を従来のトレンチ型IGBT(
図25、
図26)と比較した例を
図18に示す。公正な比較を行うための条件は前述の
図11、
図12の場合と同じである。従来構成としては、
図26と
図25(前記特許文献1に記載の
図3に相当する図面)の構成を適用した。
図18より明らかなように、実施例2のトレンチ型IGBTのラッチアップ耐量特性は従来構成のトレンチ型IGBT(
図26)や特許文献1記載のトレンチ型IGBT(
図25)より良好な耐圧特性を示している。
【実施例3】
【0074】
本発明にかかる実施例3のトレンチ型IGBTについて、
図4、
図23、
図24を参照して説明する。実施例3(
図4)と前述の実施例1のトレンチ型IGBT(
図3)の相違点は、平行に隣り合うトレンチ7間のn型チャネル変形領域8が、実施例1ではトレンチ7間の中央近傍で基板層2により分断されているのに対し、実施例3では繋がっていることであり、また、そのための製造方法も異なる。このようにn型チャネル変形領域8をトレンチ7間の中央近傍で繋げる実施例3の構成は、前記実施例1の製造方法の中で、n型チャネル変形領域8の熱拡散時間を単に長くすることによって簡便に製造することが可能である。このような構成とすることで、さらなるオン電圧の低減効果を期待できるが、しかし、この場合はラッチアップ耐量の低減をともなうため、使用にあたっては注意が必要である。
【0075】
さらに、前述とは異なる製造方法によっても形成可能である。この製造方法を
図23、
図24を参照して説明する。まず、抵抗率50Ωcmで、500μm程度の厚さのn型半導体基板1を準備する。半導体基板1の一方の表面に200nm程度の厚さの酸化膜を形成し、フォトリソグラフィおよびフォトエッチング工程により、活性領域内の所定の位置の酸化膜に10μmピッチで2μm程度の幅のストライプ状の開口部を設け、半導体基板1表面を露出させる(
図23(a))。この時、前記酸化膜の開口部の幅を、次工程のトレンチ7のピッチおよび位置は同じで、トレンチ7の幅よりもより広く取ることが重要である。このようにすることで、トレンチ7側壁部のn型領域の濃度を一定にすることができ、ゲートしきい値電圧のばらつきを低減することが可能となる。この後、RIEなどの異方性エッチングによって深さ3μm程度の矩形でストライプ状の幅広トレンチ7を形成する(
図23(b))。この幅広トレンチ70に、ドーパントをAsとして半導体基板1よりも高濃度のn型エピタキシャルシリコン層で埋め込み、表面に堆積されたエピタキシャルシリコン層を研磨して除去し、基板表面を平坦化処理する。この工程により、後工程でn型チャネル変形領域8となるn
+型領域8aを有する半導体基板が完成する(
図23(c))。
【0076】
この半導体基板100を用いて、高濃度のn型エピタキシャルシリコン層の埋め込まれたn
+型領域8aの表面から、このn
+型領域8aより幅が狭く、n
+型領域8aより深いトレンチ7を形成し、トレンチ7側壁部の荒れを取り除くための熱酸化処理および酸化膜除去工程を行う。この際の熱処理により、前記n
+型領域8aは熱拡散により拡がる(
図23(d))。さらに、トレンチ7底部にボロンイオンを注入する(
図24(e))。次に、ゲート酸化膜5を形成した後、トレンチ7を高濃度ドープドポリシリコン6によって埋め込み、その後、エッチバック処理を行うことでトレンチゲート構造を形成する(
図24(f))。
【0077】
その後、厚さ25nm〜50nm程度のスクリーン酸化膜を形成し、p型チャネル領域2の形成のためにボロンイオンを加速電圧45keV程度でドーズ量として1×10
14cm
-2程度イオン注入し、1100℃で3時間程度熱拡散処理を行う。その結果、p型チャネル領域2が形成され、n
+型領域8aはさらに熱拡散により広がり、n型チャネル変形領域8の不純物濃度分布がトレンチ7の側壁からトレンチ間の中央にかけて高濃度から低濃度になる濃度分布を有し、トレンチ7間の中央で連結した構成となる(
図24(g))。以上により、実施例3のトレンチ型IGBTの、本発明にかかる主要な製造工程が終了する。
【0078】
この後は、公知の手法によって高濃度p
+型ボディ領域3、高濃度n
+型エミッタ領域4および前記
図3と同様の層間絶縁膜9となるフォスフォシリケートガラス膜、エミッタ電極20の形成や図示しないパッシベーション膜の成膜等に必要なフォトリソグラフィおよびフォトエッチング工程を行い半導体基板の一方の主面(表面側)の形成が終了する。
【0079】
その後、バックグラインドおよびエッチング処理によって半導体基板を所定の厚さにまで薄くし、FS(Field Stop)層11やコレクタ層12のイオン注入および熱処理による形成、さらには、蒸着によるコレクタ電極21の形成を行うことで、
図4に示す実施例3のトレンチ型IGBTを前述とは異なる製造方法により形成することができる。
【実施例4】
【0080】
本発明にかかる実施例4のトレンチ型IGBTについて、
図6を参照して説明する。実施例4(
図6)と前記実施例2(
図5)のトレンチ型IGBTの相違点は、実施例4(
図6)のトレンチ型IGBTでは、トレンチ側壁部からトレンチ間の中央部にかけて、濃度分布を持つように形成されるn型チャネル変形領域8がトレンチ中央部で重なり合って連結していると言う点である。このような構成とすることで、前記実施例2(
図5)と比較して、さらにオン電圧を低くすることが可能である。反面ラッチアップ耐量が低減してしまうというデメリットを併せ持つ。また、
図6では、n型エミッタ領域4を備えないトレンチ7間は、n型エミッタ領域4を高濃度p
+型ボディ領域3aで完全に覆ってなくす構成としている。n型エミッタ領域4を備えるトレンチ7間の間隔と備えないトレンチ7間の間隔は等しくされているが、同じである必要は無い。
【実施例5】
【0081】
本発明にかかる実施例5のトレンチ型IGBTについて、
図7を参照して説明する。前記実施例1との相違点は、n
+型エミッタ領域4が形成されていないp型チャネル領域200が配置されているという点である。これによって短絡電流を抑制することが可能で、トレンチ型IGBTの主要な特性の1つであるSCSOA(Short Circuit Safty Operating Area)を広げることが可能であるというメリットを持つ。
図7では、n型エミッタ領域4を備えないトレンチ7間は、n型エミッタ領域4を形成せずにp
+型ボディ領域3bのみの構成としている。n型エミッタ領域4を備えるトレンチ7間の間隔と備えないトレンチ7間の間隔は等しくされているが、同じである必要は無い。
【実施例6】
【0082】
本発明にかかる実施例6のトレンチ型IGBTについて、
図8を参照して説明する。前記実施例5(
図7)との相違点は、トレンチ側壁部からトレンチ間の中央部にかけて、濃度分布を持つように形成されるn型チャネル変形領域8がトレンチ中央部で重なり合って連結していると言う点である。このような構成とすることで、前記実施例5と比較して、さらにオン電圧を低くすることが可能である。反面ラッチアップ耐量が低減してしまうというデメリットを併せ持つ。
図8では、n型エミッタ領域4を備えないトレンチ7間は、n型エミッタ領域4を形成せずにp
+型ボディ領域3bのみの構成としている。n型エミッタ領域4を備えるトレンチ7間の間隔と備えないトレンチ7間の間隔は等しくされているが、同じである必要は無い。
【実施例7】
【0083】
本発明にかかる実施例7のトレンチ型IGBTについて、
図9を参照して説明する。前記実施例5(
図7)との相違点は、n
+型エミッタ領域4の形成されていないp型チャネル領域200内にp
+型ボディ領域3が形成されておらず、かつ、p型チャネル領域200とエミッタ電極20が電気的に接続されておらず、p型チャネル領域200が電気的にフローティング状態になっているという点である。このような構成のトレンチ型IGBTとすることで、IE(Injection Enhancement)効果がさらに高まり、オン電圧を低減せしめることが可能である。一方で、耐圧が低下するというデメリットを併せ持つ。
【0084】
図9では、エミッタ電極20に接続されたp型チャネル領域2の形成されたトレンチ間と、p型チャネル領域200表面に絶縁膜を被覆することによりエミッタ電極20に接続されていないp型チャネル領域200の形成されたトレンチ間とが等しい間隔で書かれているが、この間隔は等しくなくてもかまわない。
【実施例8】
【0085】
本発明にかかる実施例8のトレンチ型IGBTについて、
図10を参照して説明する。前記実施例1との相違点は、半導体基板1のコレクタ電極21の形成されている一方の主面の一部に高濃度n型カソード領域13が形成されているという点である。このような構成とすることで、エミッタ電極20をアノード電極とし、p
+型ボディ領域3、p型チャネル領域2、n型半導体基板1、フィールドストップ層11、n型カソード領域13を備え、コレクタ電極21をカソード電極とするPiNダイオードがIGBTに内蔵され、いわゆる、逆導通(RC(Reverse Conductance)−IGBT)として機能するようになる。この場合、n型チャネル変形領域8は、ダイオードの注入(p型チャネル領域2からのホールの注入)をコントロールする領域としても機能するため、効率が良い。
【0086】
図10の構成では、トレンチ7の平面ストライプ状パターンに平行な面方向にストライプ状の高濃度n型カソード領域13が形成される構成であるが、このカソード領域13をトレンチ7に対して、たとえば、90度などの角度を付けた(言い換えると、直角に交差する)配置構成であってもよい。特に、直角に交差する配置構成の場合には、トレンチ7側の構成にかかわらず、カソード領域13とコレクタ層12の幅を決定可能であるなどのメリットが得られるため、好ましい。
【実施例9】
【0087】
本発明にかかる実施例9のトレンチ型IGBTについて、その断面図である
図28を参照して説明する。
従来構成のトレンチ型IGBT(
図25)との相違点は、
図28では、p型チャネル領域2に接し、p型チャネル領域2とn型半導体基板1との間に形成される領域であって、n型半導体基板面の水平な方向に対してトレンチ7に接する部分で高濃度に、トレンチ7とトレンチ7間の中間近傍で低濃度になるように形成される濃度プロファイルのn型チャネル変形領域8が形成されている点である。
【0088】
本発明にかかる実施例9のトレンチ型IGBT(
図28)のn型チャネル変形領域8を前述のような濃度分布にすることで、前述の従来構成のトレンチ型IGBT(
図25)と比較して下記のような効果が得られる。
【0089】
p型チャネル領域2の形状が主面に平行ではなく、図面で下方に中央が膨らむ凸形状になるため、電圧印加時の等電位面が凸形状になり、ターンオフ時のホールがp型チャネル領域2の中央近傍から掃き出されやすくなるために、ラッチアップ耐量、並びに、ターンオフ耐量が改善される。
【0090】
トレンチ7とトレンチ7間の中央部近傍のn型チャネル変形領域8の濃度が低いため、このn型チャネル変形領域8によって形成されるホールに対するバリア高さがp型チャネル領域2の中央部で低くなり、ターンオフ時のホールの掃き出しがp型チャネル領域2の中央近傍から発生しやすくなりラッチアップ耐量、並びに、ターンオフ耐量が改善される。
【0091】
トレンチ7側壁部近傍のn型チャネル変形領域8の濃度が高いために、オン状態におけるn型エミッタ領域からトレンチ7側壁部反転層(nチャネル)を介してn型半導体基板1に流れる電子電流の経路が広がりやすく、低オン電圧が得られやすい。
【0092】
トレンチ7側壁部のnチャネルの形成される領域の濃度分布を一様にすることが可能であるので、ゲート電圧のしきい値の設計が簡便であり、かつ、ばらつきを低減することが可能である。
【0093】
これらの効果によって、特許文献1のトレンチ型IGBTに相当する
図25、
図27に示すトレンチ型IGBTと比較して、耐圧特性・オン電圧特性・ラッチアップ耐量特性に優れたIGBTとすることが可能となる。
【0094】
以下、実施例9にかかる1200V級トレンチ型IGBT(
図28)およびその製造方法について、
図36、
図37を参照しながら、詳細に説明する。n型半導体基板1として、抵抗率50Ωcm、厚さ500μmのFZ−n型シリコン半導体基板を準備する。従来方法に沿って、主電流の流れる活性領域の外側にフィールドリミッティングリング(またはガードリング)を含む耐圧構造領域(図示せず)の形成などの工程を経た後に、活性領域内のトレンチ形成工程に入る。
【0095】
n型半導体基板1の表面に酸化膜を500nm程度の厚さに形成した後に、フォトリソグラフィとフォトエッチング工程により、活性領域内の所定の位置の酸化膜に4μmピッチで0.8μm幅のストライプ状開口部を設け、半導体基板1表面を露出させる(
図36(a))。前記酸化膜をマスクとして、前記開口部からRIE(Reactive Ion Echting)などの異方性エッチングなどによって、基板面に垂直方向に2.5μm程度の深さを有するストライプ形状の表面パターンのトレンチ7を形成する(
図36(b))。このとき、図示はしていないが前記開口部近辺エッチング幅はトレンチ底部近傍の幅に対して少し広いように形成するとゲート耐圧を改善することが可能であるので、好ましい。
【0096】
次に、半導体基板1をトレンチ7に対して20度程度傾けてひ素イオンを加速電圧150keVでドーズ量として2×10
13cm
-2程度照射する。この際、傾斜したトレンチ側壁部にイオン注入(I/Iと略記することもある)されるn型ドーパントはひ素:arsenicを用いたが、シリコンに対して偏析係数の大きいドーパントから選ばれることが好ましい(
図36(c))。この時、n
+型エミッタ領域4とチャネル領域2の境界部位にドーパントが届くようにイオン注入角度を決定することが重要である。このようにすることで、トレンチ側壁部のn型不純物濃度が一様となり、しきい値の制御性・ばらつきが抑制可能なものとなる。同様の工程をトレンチの反対面に行う(
図36(d))。
【0097】
その後、必要に応じて、反跳イオンによってトレンチ7底部に注入されたひ素イオンをRIEなどの異方性エッチングによってシリコンごと除去する。この結果トレンチ7の深さは5μm程度となる(
図37(e))。実施例9ではトレンチ7側壁部のMOSゲート構造(以降トレンチゲート構造)のゲートしきい値電圧をばらつかないように揃える目的で両側のトレンチ7側壁にイオン注入を行っているが、目的によっては片側しか行わなくてもかまわない。
【0098】
前述のように、シリコンに対して偏析係数の大きいドーパント(たとえば、ひ素)をイオン注入する理由は、トレンチゲート構造のコレクタ側のn型不純物濃度が高くなる効果により、オン電圧の低減効果が高くなり望ましいからである。
【0099】
次に、ひ素の熱拡散処理として1150℃で90分程度の熱処理を行う。なお、前述のイオン注入の前に25nm〜50nm程度の厚さのシリコン酸化膜を形成しイオン注入後に取り除くことで、イオン注入時に目的としない不純物のイオン注入を抑制することが望ましい。次に、従来方法に沿ってトレンチ7側壁部の荒れを取り除くための熱酸化処理および酸化膜除去工程を行い、同時にイオン注入されたひ素の拡散を行う(
図37(f))。ゲート酸化膜5を形成し、トレンチ7を高濃度ポリシリコン6で埋め込み、その後、エッチバックすることで、トレンチゲート構造を形成する(
図37(g))。
【0100】
その後、厚さ25nm〜50nm程度の熱酸化膜を形成し、p型チャネル領域2形成のためにボロンイオンを加速電圧45keV程度でドーズ量として1×10
14cm
-2程度イオン注入し、1100℃で3時間程度熱拡散処理を行うことで、p型チャネル領域2とn型チャネル変形領域8が形成される。以上の説明により、実施例9のトレンチ型IGBTの製造方法にかかる主要な工程が終了する(
図37(h))。
【0101】
この後は、公知の手法によって高濃度のp
+型ボディ領域3、高濃度のn
+型エミッタ領域4、層間絶縁膜9となるフォスフォシリケートガラス膜、エミッタ電極20やパッシベーション膜(図示せず)の成膜、フォトリソグラフィおよびフォトエッチング工程を行い半導体基板の一方の主面側の形成工程が終了する。
【0102】
その後、バックグラインドおよびエッチング処理によって半導体基板1の裏面を所定の厚さにまで薄くし、FS(Field Stop)層11やコレクタ層12のイオン注入および熱処理による形成、さらには、蒸着によるコレクタ電極21の形成を行うことで、実施例9のトレンチ型IGBT(
図28)が形成される。
【0103】
実施例9のトレンチ型IGBT(
図28)の電流出力特性を従来のトレンチ型IGBTと比較した例を
図33、
図34に示す。公正な比較を行うために、トレンチ7の深さ、ゲートしきい値電圧特性、FS(Field Stop)層11の濃度分布、コレクタ層12の濃度分布、活性領域面積などを実施例9と従来のトレンチ型IGBTとで共通にして比較したものである。従来構成としては、
図26に示す従来のトレンチ型IGBTと特許文献1に記載の
図3に相当する
図25の構成を適用した。
【0104】
図33より明らかなように、実施例9のトレンチ型IGBT(
図28)の電流出力特性は、従来の
図26に示すトレンチ型IGBTや前記特許文献1に記載のトレンチ型IGBTの
図25(前記特許文献1に記載の
図3に相当する図面)よりも良好な電流出力特性を示している。この
図33から一定電流密度を流した場合の電圧降下量(以下、オン電圧と称する)が低いことがわかる。また、ゲート電圧15V,接合温度425K,電流密度150A/cm
2の条件下でのオン電圧を比較した
図34によれば、実施例9のトレンチ型IGBT(
図28)のオン電圧を1とした場合、比較する従来のトレンチ型IGBT(
図26)のオン電圧は1より大きくなっており、本発明にかかる実施例9のトレンチ型IGBT出力特性が優れていることがわかる。
【0105】
実施例9のトレンチ型IGBT(
図28)の耐圧特性を、従来のトレンチ型IGBT(
図26、
図27)と比較した例を
図32に示す。公正な比較を行うための条件は前述と同じである。従来構成としては、
図26と
図27(
図27は前記特許文献1記載の
図3より耐圧特性の良好な同
図40に相当する図面)の構成を適用した。この
図32より明らかなように、実施例9の耐圧特性は従来構成のトレンチ型IGBT(
図26)や特許文献1記載のトレンチ型IGBT(
図27)と同等の耐圧特性を示している。
【実施例10】
【0106】
本発明にかかる実施例10のトレンチ型IGBTについて、
図29を参照して説明する。実施例10と前記実施例9のトレンチ型IGBT(
図28)の相違点は隣り合うトレンチ7間のチャネル変形領域8が繋がっていることのみである。
図29に示すトレンチ型IGBTの構造は、前記実施例9の製造方法の中で、チャネル変形領域8の熱拡散時間を長くすることによって簡便に製造することが可能である。
図29のような構成とすることで、さらなるオン電圧の低減効果を期待できるが、若干のラッチアップ耐量の低減をともなうため注意が必要である。
【実施例11】
【0107】
実施例11のトレンチ型IGBTを
図30を参照して説明する。実施例11のトレンチ型IGBTは、実施例7のトレンチ型IGBT(
図9)と比較して、半導体基板1より高濃度のn型チャネル変形領域8がトレンチ7よりも深く形成されている点と、
図9に示すp型チャネル領域200がトレンチ7よりもさらに深くまで拡散され、p型領域300のように形成されている点で異なっている。その他の構成は原則的に
図9と同じであり、同じ部分には同じ符号が記されている。この深いp型領域300によって、実施例7のトレンチ型IGBTで問題とされた耐圧を向上させることが可能である。
【0108】
p型領域300の位置がずれた場合のオン電圧の上昇度合いについて、1200V級の前記実施例11のトレンチ型IGBTと、従来構成のトレンチ型IGBT(
図26)の構成であって、且つトレンチ7とトレンチ7間に
図30のようなp型領域300(フローティング領域)を有する構造とを、電流出力特性について比較したものを
図35に示す。各々のI−V曲線群の最も内側にある曲線が基準となっており、各々、0.3μm,0.6μm、p型領域300の位置がずれた場合の図である。
図35より明らかなように、実施例11ではほとんどオン電圧が変化していないにもかかわらず、比較した従来構成のトレンチ型IGBTではオン電圧が大きく変化していることがわかる。
【0109】
電界緩和領域10を追加形成することによって、p型領域300の位置が図面の左右のいずれかにずれた場合においても、確実にゲート酸化膜5に接するエミッタ領域4/p型チャネル領域2/n型チャネル変形領域8からなるMOSFET構造が安定して動作することになり、オン電圧への影響がほとんどないようにすることが可能となる効果が得られる。
【0110】
加えて、電界緩和領域10が無い場合においても、半導体基板1より高濃度のn型チャネル変形領域8の存在によって、p型領域300の、前記MOSFET構造側への回り込み拡散を抑制することができる。さらに、前記MOSFET構造のパス(電流経路)構造の安定した確保が可能となるため、前述のようにp型領域300が左右にずれた場合においてもオン電圧への影響がほとんどないものとすることが可能となる。
【実施例12】
【0111】
実施例12を
図31を参照して説明する。実施例12は前記実施例11と比較して、トレンチ7の底部にp型電界緩和領域10が形成されているという点、およびp型領域400の幅が前記
図30のp型領域300より狭くなっているという点で異なっている。このような構成とすることで、前記実施例11のトレンチ型IGBTより、p型領域400の位置がずれた場合の、前記MOSFET構造側への回り込み拡散の影響がさらに少なくなるため、オン電圧の変動をさらに抑制することが可能である。
【実施例13】
【0112】
さらに、以上の説明とは異なる製造方法によるチャネル変形領域8を形成する方法について説明する。このチャネル変形領域8の製造方法を
図38を参照して説明する。まず、抵抗率50Ωcmで500μm程度の厚さのn型半導体基板1を準備する(
図38(a))。半導体基板1の一方の表面に1000nm程度の厚さの酸化膜を形成し、ひ素イオンの注入のために、10μmピッチで幅2μm程度のシリコン露出部(酸化膜の開口部)を酸化膜のフォトリソグラフィ及びエッチング工程によって形成する(
図38(b))。この時、前記酸化膜の開口部の幅をトレンチ7形成用の酸化膜マスクの幅よりも広く取ることが重要であり、このように製造することで、トレンチ7側壁部のn型濃度を横方向に一定にすることができ、しきい値のばらつきを軽減することが可能となる。この後、加速電圧150keVで5×10
13cm
-3程度のひ素イオンの注入を行い、所定の熱処理工程を行うことで、n型チャネル変形領域8を形成することが可能となる(
図38(c)、
図38(d))。
【0113】
この形成方法の場合、n型チャネル変形層8は半導体基板に垂直な方向に濃度分布を持つために、nチャネルが形成される部分の均一濃度という効果は失われることになる。しかし、耐圧構造領域の深いp型層(フィールドリミッティングリングまたはガードリング)の形成と同一の熱処理工程を通すことが可能になることによる工程の削減が可能となり、半導体装置のコストダウンが可能であるというメリットを持つ。
【0114】
以上説明したように、本発明にかかる実施例1〜実施例13に記載のトレンチ型IGBTによれば、オン電圧を低減せしめ、耐圧を高め、スイッチング損失も低くし、かつ、高いターンオフ耐量とラッチアップ耐量を有し、ゲートしきい値電圧の設計・制御性を向上させることが可能な半導体装置およびその製造方法を提供することができる。
【0115】
なお、半導体装置の構造と、半導体装置の製造プロセスとは異なる組み合わせで使用することが可能であるし、本発明の意図を逸脱しない範囲で、変形使用可能である。