(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5707684
(24)【登録日】2015年3月13日
(45)【発行日】2015年4月30日
(54)【発明の名称】耐硫酸性モルタル組成物及び耐硫酸性コンクリート組成物並びにそれらの硬化体
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20150409BHJP
C04B 14/06 20060101ALI20150409BHJP
C04B 14/28 20060101ALI20150409BHJP
C04B 24/22 20060101ALI20150409BHJP
C04B 22/10 20060101ALI20150409BHJP
C04B 111/23 20060101ALN20150409BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B14/06 Z
C04B14/28
C04B24/22 Z
C04B22/10
C04B111:23
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2009-215453(P2009-215453)
(22)【出願日】2009年9月17日
(65)【公開番号】特開2011-63477(P2011-63477A)
(43)【公開日】2011年3月31日
【審査請求日】2012年6月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078662
【弁理士】
【氏名又は名称】津国 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100113653
【弁理士】
【氏名又は名称】束田 幸四郎
(74)【代理人】
【識別番号】100116919
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 房幸
(74)【代理人】
【識別番号】100125793
【弁理士】
【氏名又は名称】川田 秀美
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 彰
(72)【発明者】
【氏名】大和 功一郎
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 秀明
(72)【発明者】
【氏名】平泉 恵子
【審査官】
末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−336012(JP,A)
【文献】
特開2008−007351(JP,A)
【文献】
特開2003−292362(JP,A)
【文献】
特開平10−015811(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00−28/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水120〜200kg/m3、セメント200〜400kg/m3、石灰石微粉末20〜130kg/m3、細骨材500〜1000kg/m3、粗骨材1000〜1400kg/m3並びに数平均分子量が2000〜4000及び重量平均分子量が3000〜6000であるナフタレンスルホン酸塩縮合物8〜40kg/m3を含む、耐硫酸性コンクリート組成物。
【請求項2】
増粘剤を含まない、請求項1記載の耐硫酸性コンクリート組成物。
【請求項3】
ナフタレンスルホン酸塩縮合物の数平均分子量が2000〜3418及び重量平均分子量が3000〜5110である、請求項1又は2記載の耐硫酸性コンクリート組成物。
【請求項4】
ナフタレンスルホン酸塩縮合物の数平均分子量が2000〜2141及び重量平均分子量が3000〜3231である、請求項1〜3のいずれか1項記載の耐硫酸性コンクリート組成物。
【請求項5】
セメント100質量部に対してナフタレンスルホン酸塩縮合物を固形分基準で0.3〜5質量部含む、請求項1〜4のいずれか1項記載の耐硫酸性コンクリート組成物。
【請求項6】
水/セメントの質量比が30〜70質量%である、請求項1〜5のいずれか1項記載の耐硫酸性コンクリート組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載の耐硫酸性コンクリート組成物を硬化させてなる、耐硫酸性コンクリート硬化体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水道、温泉地などの硫酸あるいは硫酸塩による腐食が問題となる箇所での耐硫酸性に優れる耐硫酸性モルタル組成物及び耐硫酸性コンクリート組成物並びにそれらの硬化体に関する。
【背景技術】
【0002】
下水道、温泉地等の硫酸もしくは硫酸塩にさらされる箇所においては、従来から、硫酸によるセメント硬化体の腐食が問題となっている。この腐食の問題は、下水道、温泉地等の限定された箇所での問題に留まらず、更に近年、酸性雨による腐食によって、セメントを使用した構築物全体の問題となっている。
【0003】
セメント硬化体(モルタルやコンクリート)は硫酸に長期間接触し続けると、難溶性の石膏を形成すると共に、シリカゲルやアルミナゲルを生成する。このシリカゲルやアルミナゲルが溶出して、セメント硬化体が崩れ易くなる。セメント硬化体、特にコンクリートに対する硫酸のこの作用は、当然、酸の濃度に依存する。pHが2以上の場合(硫酸濃度0.1%以下)には、炭酸ガスや低濃度の酸による腐食、又は硫酸塩などの腐食性を示す塩類などによる腐食の場合と同様に、コンクリートを緻密化させること、例えば高性能AE減水剤等の使用により作業性を確保しながら水セメント比を低下させることにより、腐食物質のコンクリート内部への浸透を抑制することができ、これにより耐食性を向上させることができる。しかし硫酸の濃度が高くなるとコンクリートの緻密化のみでは対応が難しい。例えばpHが2より低い場合に水セメント比を低くしてコンクリートを緻密化すると、硫酸によって生成される石膏の結晶成長による膨張圧を緩和する細孔が少なくなり、ひび割れ等を誘発する。このひび割れに硫酸が浸透すると逆にコンクリートの耐食性が悪くなる場合があり、セメント素材自体に硫酸に対する抵抗性を期待することは困難である。
【0004】
pHが2より低い場合における硫酸によるセメント硬化体の劣化の防止法として、セメントを含む組成物100質量部に対して、ナフタレンスルホン酸塩縮合物を1〜10質量部と多量に添加する方法が提案されている(特許文献1、2及び3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−331458号公報
【特許文献2】特開2004−331459号公報
【特許文献3】特開2005−336012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、更なる耐硫酸性の改善が望まれていた。
【0007】
そこで、本発明は、従来に比べ耐硫酸性の高い耐硫酸性モルタル組成物及び耐硫酸性コンクリート組成物並びにそれらの硬化体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、セメントと、細骨材と、数平均分子量が2000〜
4000及び重量平均分子量が3000〜
6000のナフタレンスルホン酸塩縮合物とを含
み、更に粗骨材及び石灰石微粉末を含むことを特徴とする耐硫酸性コンクリート組成物に関する。
また、本発明は、上
記耐硫酸性コンクリート組成物を硬化させてなる、硬化体に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係
る耐硫酸性コンクリート組成物によれば、耐硫酸性に優れ
るコンクリート硬化体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】標準ポリスチレンスルホン酸を用いた分子量較正曲線である。
【
図2】ナフタレンスルホン酸塩縮合物NS1のゲルろ過クロマトグラムである。
【
図3】ナフタレンスルホン酸塩縮合物NS1の分子量分布曲線である。
【
図4】ナフタレンスルホン酸塩縮合物NS2のゲルろ過クロマトグラムである。
【
図5】ナフタレンスルホン酸塩縮合物NS2の分子量分布曲線である。
【
図6】ナフタレンスルホン酸塩縮合物NS3のゲルろ過クロマトグラムである。
【
図7】ナフタレンスルホン酸塩縮合物NS3の分子量分布曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る耐硫酸性モルタル組成物及び耐硫酸性コンクリート組成物について詳述する。
本発明の耐硫酸性モルタル組成物は、セメントと、細骨材と、数平均分子量が2000〜6000及び重量平均分子量が3000〜30000のナフタレンスルホン酸塩縮合物とを含む。
【0012】
本発明で使用するセメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカフュームセメント、アルミナセメント等を挙げることができる。
【0013】
本発明で使用するナフタレンスルホン酸塩縮合物は、数平均分子量が2000〜6000であり、好ましくは2000〜5000、より好ましくは2050〜4500、更に好ましくは2080〜4000である。また、上記ナフタレンスルホン酸塩縮合物は、重量平均分子量が3000〜30000であり、好ましくは3050〜20000、より好ましくは3100〜10000、更に好ましくは3150〜6000である。ナフタレンスルホン酸塩縮合物の数平均分子量及び重量平均分子量が上記範囲であれば、耐硫酸性を十分に得られる。
【0014】
数平均分子量と重量平均分子量が上記範囲であることにより耐硫酸性が向上する理由は明らかではない。しかしながら、以下の機構が推定される。
硫酸侵食とは、下水道及び温泉地等の環境下で発生する硫酸イオンがモルタル、コンクリートから溶出するカルシウムイオンと反応して脆い石膏を形成し、形成された石膏層が脱落後また新たに石膏を形成するというサイクルによって、モルタル構造物、コンクリート構造物が侵食される現象である。
本発明の範囲の特定の数平均分子量及び重量平均分子量のナフタレンスルホン酸塩縮合物は、ナフタレン構造に続くスルホン酸基がセメント粒子表面のカルシウムイオン等の多価カチオンに吸着し、吸着点から極近傍に嵩高い剛直なナフタレン構造やそれに続くポリマーがセメント粒子表面を被覆することでカルシウムイオンの溶出を抑制したり、硫酸イオンとの反応を抑制すると考えられる。
【0015】
すなわち、モルタル組成物又はコンクリート組成物中に特定の数平均分子量及び重量平均分子量のナフタレンスルホン酸塩縮合物が共存する場合は、ナフタレンスルホン酸塩縮合物が共存しない場合と比較して、特定の数平均分子量及び重量平均分子量を有するナフタレンスルホン酸塩縮合物がセメント表面を被覆することによって、緩やかに石膏を形成し、緻密に配向した石膏層を形成することにより、硫酸の侵食を防ぎ、耐硫酸性を向上させると推定される。
【0016】
上記ナフタレンスルホン酸塩縮合物としては、場合により一個以上のアルキル基で置換されているナフタレンスルホン酸塩のホルマリン縮合物を用いることができ、置換基としては、メチル基、エチル基等の炭素数1〜3のアルキル基が挙げられる。また、ナフタレンスルホン酸塩縮合物は、ナトリウム(Na)、カリウム(K)等のアルカリ金属、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)等のアルカリ土類金属、アンモニウム又はアミン類との塩であることが好ましい。
【0017】
上記ナフタレンスルホン酸塩縮合物としては、数平均分子量及び重量平均分子量が上記範囲内であれば、コンクリート用の高性能分散剤、顔料、染料及び農薬水和剤等に使用される分散剤として市販されているものを用いることができる。また、ナフタレンスルホン酸塩縮合物としては、ナフタレンスルホン酸塩縮合物を主成分として、高分子ポリマー製造時の未反応モノマーが残存したものであっても、未反応モノマーを除去精製したものであってもよく、添加剤等が混合されたものであってもよい。
【0018】
上述のとおり、一般的に有機高分子系の市販品には、分散剤ならば分散という主目的を担う主成分に加え、重合に関与しなかった残存モノマーや重合禁止剤、滑剤、防腐剤、消泡剤、染料などが共存する場合があるが、本発明における数平均分子量及び重量平均分子量とは、主成分についての数平均分子量及び重量平均分子量を意味する。
【0019】
また、本発明において数平均分子量及び重量平均分子量は、ナフタレンスルホン酸塩縮合物をゲルろ過クロマトグラフィー(GFC:Gel Filtration Chromatography)で分子量を測定する場合に、複数のピークを持つ分子量分布のうち、測定初期に検出される高分子量側のピーク強度(面積)の最大ピークを主成分ピークとし、その主成分ピーク単独の数平均分子量及び重量平均分子量を標準物質(例えばポリスチレン)の較正曲線換算で算出したものをいう。
【0020】
ナフタレンスルホン酸塩縮合物は、セメント100質量部に対して固形分基準で、好ましくは0.3〜5質量部、より好ましくは0.4〜4質量部、更に好ましくは0.5〜3.5質量部である。ナフタレンスルホン酸塩縮合物の配合量が上記範囲であれば、得られるセメント硬化体は、耐硫酸性を十分に得られる。
【0021】
本発明で使用する細骨材としては、川砂、陸砂、海砂、砕砂、高炉スラグ細骨材等を使用することができる。細骨材は、セメント100質量部に対して、好ましくは200〜320質量部、より好ましくは230〜290質量部、更に好ましくは250〜270質量部である。細骨材の配合量が上記範囲であれば、良好なフレッシュ性状を得ることができる。
【0022】
本発明の耐硫酸性コンクリート組成物は、上記耐硫酸性モルタル組成物に、更に粗骨材及び石灰石微粉末を含む。本発明で使用する粗骨材としては、砂利、砕石、高炉スラグ粗骨材等を使用することができる。粗骨材は、セメント100質量部に対して、好ましくは200〜320質量部、より好ましくは230〜290質量部、更に好ましくは250〜270質量部である。粗骨材の配合量が上記範囲内であれば、良好なフレッシュ性状を得ることができる。
【0023】
なお、細骨材及び/又は粗骨材として、石灰石骨材を使用することもできる。
【0024】
石灰石微粉末の使用は、モルタル硬化体及びコンクリート硬化体の耐硫酸性を更に向上させる。耐硫酸性が向上する理由は明らかではないが、石灰石微粉末によって硫酸に対してバリアとなる石膏が生成し易くなり、石膏の生成時の膨張が少ないことなどが関係していると考えられる。
【0025】
石灰石微粉末のブレーン比表面積(JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に準拠して測定)は、2000〜10000cm
2/gであり、好ましくは3000〜80000cm
2/g、特に好ましくは4000〜6000cm
2/gである。
【0026】
本発明の耐硫酸性コンクリート組成物は、更に水を含み、水/セメント比(セメントに対する水の質量比)が30〜70質量%、好ましくは40〜60質量%、特に好ましくは45〜58質量%である。
水/セメント比が30質量%未満であると、耐硫酸性が低下する傾向にあり、水/セメント比が70質量%を超えると、凝結が遅くなるとともに水密性が低下する傾向にある。
【0027】
耐硫酸性に優れた耐硫酸性コンクリート組成物を得るために、好ましい配合量は、次のとおりである。
水:120〜200kg/m
3、好ましくは140〜180kg/m
3、特に好ましくは150〜170kg/m
3、
セメント:200〜400kg/m
3、好ましくは220〜380kg/m
3、特に好ましくは250〜350kg/m
3、
石灰石微粉末:20〜150kg/m
3、好ましくは40〜130kg/m
3、特に好ましくは60〜120kg/m
3、
細骨材:500〜1000kg/m
3、好ましくは600〜900kg/m
3、特に好ましくは650〜800kg/m
3、
粗骨材:800〜1400kg/m
3、好ましくは900〜1200kg/m
3、特に好ましくは1000〜1100kg/m
3、
ナフタレンスルホン酸塩縮合物:4〜40kg/m
3、好ましくは6〜25kg/m
3、特に好ましくは8〜15kg/m
3、
である。
上記範囲であれば、適度な強度、流動性を有し、施工性が良好であり、耐硫酸性に優れたコンクリート組成物が得られる。
【0028】
本発明の耐硫酸性モルタル組成物又は耐硫酸性コンクリート組成物は、通常のモルタルやコンクリートと同様に、必用に応じて減水剤、更に骨材分離を低減するために水溶性増粘剤や無機増粘剤を添加しても良い。
【0029】
減水剤としては、リグニンスルホン酸系、ナフタレンスルホン酸系、ポリカルボン酸系等の減水剤が挙げられる。また、AE減水剤の使用も可能である。ナフタレンスルホン酸塩縮合物との相溶性の観点から、リグニンスルホン酸系、ナフタレンスルホン酸系の使用が好ましい。
【0030】
水溶性増粘剤としては、アクリル系水溶性高分子、バイオポリマー、グリコール系水溶性高分子及びセルロース系水溶性高分子等から選ばれる1種、又はこれらの混合物が挙げられる。アクリル系水溶性高分子としては、例えば、アクリルアミドとアクリル酸の共重合体、ポリアクリル酸等が挙げられる。また、バイオポリマーとしては、例えば、β−1、3グルカン、水溶性ポリサッカライド等が挙げられる。グリコール系水溶性高分子としては、例えば、ポリアルキレングリコール、ジステアリン酸グリコール、繊維素グリコール酸等が挙げられる。セルロース系水溶性高分子としては、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルアルキルセルロース等が挙げられる。
【0031】
無機増粘剤としては、例えば、アタパルジャイト、セピオライト、ベントナイト、タルク及びシリカヒューム等から選ばれる1種、又はこれらの混合物が挙げられる。
【0032】
本発明の耐硫酸性モルタル組成物又は耐硫酸性コンクリート組成物は、混練に先立ち、セメントと、その他の成分とを予め混合しておくことも可能であるが、セメントに水を加えて混練する際に、その他の成分を加えて調整することが好ましい。また、水を加えて混練した耐硫酸性モルタル組成物又は耐硫酸性コンクリート組成物を、成型、養生、硬化させることによって耐硫酸性コンクリート硬化体が得られる。養生方法は、特に限定されない。
【0033】
このような本発明の耐硫酸性モルタル組成物及び耐硫酸性コンクリート組成物は、優れた耐硫酸性が求められる下水道管、下水道処理場や管渠等の下水道処理関連の施設、あるいは温泉施設の給排水設備や温泉地域における農業用及び排水用の水路構造物等温泉地関連施設、化学工場等で使用される構造物や二次製品、補修材として有利に適用できる。下水道処理関連のコンクリート施設においては、例えば、ポンプ場、沈殿池、分配槽、反応タンク、汚泥貯留槽、連絡水路、汚泥消化槽等に、本発明の耐硫酸性コンクリート組成物や耐硫酸性コンクリート硬化体を利用することができる。また、温泉施設としては、温泉施設の浴槽、浴室内装材、内部設備類の他、温泉水や温泉蒸気に影響を受ける温泉地の建築物の基礎や壁、地中ばり、コンクリートを利用したトンネル、電柱、舗装コンクリート等に、本発明の耐硫酸性コンクリート組成物や耐硫酸性コンクリート硬化体を利用することができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の内容をより具体的に説明する。なお、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0035】
[使用材料]
以下に示す材料を使用した。
(1)セメント(C):
普通ポルトランドセメント:ブレーン比表面積 3270cm
2/g
(2)石灰石微粉末
石灰石微粉末(LSP):ブレーン比表面積 4500cm
2/g
(3)骨材
(i)細骨材
海砂(S1)(表乾密度 2.59g/cm
3、粗粒率2.66)
砕砂(S2)(表乾密度 2.68g/cm
3、粗粒率2.79)
(ii)粗骨材(G)
硬質砂岩砕石(表乾密度 2.70g/cm
3、粗粒率6.61)
(4)AE減水剤(ポゾリスNo.70)
リグニンスルホン酸系、固形分濃度:48質量%
(5)練混ぜ水(W)
上水道水
(6)ナフタレンスルホン酸塩縮合物
ゲルろ過クロマトグラフィー(GFC:Gel Filtration Chromatography)により、次に示す条件で、市販の下記式(1)で示されるナフタレンスルホン酸塩のホルマリン縮合物の数平均分子量及び重量平均分子量を測定し、数平均分子量及び重量平均分子量が異なる3種類のナフタレンスルホン酸塩縮合物を使用した。
【0036】
(ナフタレンスルホン酸塩縮合物)
下記式(1)で示されるナフタレンスルホン酸塩のホルマリン縮合物を用いた。
【0037】
【化1】
【0038】
[ゲルろ過クロマトグラフィーの測定条件]
GFC装置:日本分光株式会社製 PU−2085plus型システム
カラム:東ソー株式会社製 GMPW(内径7.8mm×長さ300mm)
溶離液:50mM LiCl水溶液/CH
3CN=60/40(容量比)
注入量:10μL
溶離液流速:0.6mL/min
カラム温度:40℃
検出器:紫外吸収型(波長260nm)
標準試料:ポリスチレンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸
【0039】
[分子量の測定]
表1に示すように、ポリスチレンスルホン酸とp−トルエンスルホン酸の分子量と保持時間の関係を測定し、この測定結果から
図1に示す較正曲線を作成した。
【0040】
【表1】
【0041】
上記条件及びGFC装置により測定した、3種類のナフタレンスルホン酸塩のホルマリン縮合物のクロマトグラム及び検出器により測定した分子量分布曲線を
図2〜7に示す。
【0042】
表2に分子量分布の測定結果を示す。表2のピークトップ分子量とは、分子量分布曲線における最も大きなピークの最大値のリテンションタイムから、標準試料であるポリスチレンスルホン酸とp−トルエンスルホン酸から算出された較正曲線に基づいて換算した分子量である。また、表2の固形分濃度は、ナフタレンスルホン酸塩縮合物を105℃で3日間乾燥させて、乾燥させる前の質量で乾燥後の質量を除した値をいう。
【0043】
【表2】
【0044】
[コンクリート組成物の調製]
コンクリート組成物の調製は、普通ポルトランドセメント(C)、石灰石微粉末(LSP)、細骨材(S:S1、S2)、粗骨材(G)及びナフタレンスルホン酸塩縮合物(NS1、NS2、NS3)を表3に示す割合で混合し、二軸強制練りミキサで30秒間撹拌した後、水道水(W)を表3に示す割合でミキサ内に投入し、更に150秒間撹拌することにより調製を行った。
【0045】
【表3】
【0046】
[コンクリート硬化体の評価試験方法]
(1)コンクリート硬化体の耐硫酸性
直径10cm×高さ20cmの寸法の円柱型枠に調整したコンクリート組成物を打設し、材齢1日後、型枠から脱型し20℃の水中で材齢28日まで養生してコンクリート硬化体の供試体を得た。この供試体を5質量%の硫酸水溶液に浸せきし、浸せき期間4週、8週及び13週で取り出し、供試体の表面を水洗いの後、表面の水分を拭き取り、質量を測定した。質量変化率は以下の式で求めた。結果を表4に示す。
質量変化率(%)=(硫酸水溶液に浸漬する前の供試体の質量−硫酸水溶液に所定期間浸漬した後の供試体の質量)/(硫酸水溶液に浸漬する前の供試体の質量)×100
【0047】
【表4】
【0048】
[耐硫酸性試験の結果の考察]
表4に示すように、浸せき期間4週間、8週間では、実施例1、2と比較例1との質量変化率に大きな違いはないが、浸せき期間13週間後には、比較例1に対して、実施例1、2の質量変化率が小さいことから、実施例1、2は、耐硫酸性に優れていることがわかった。このように数平均分子量と重量平均分子量が本発明の範囲であるナフタレンスルホン酸塩縮合物を含むコンクリート組成物を硬化してなるコンクリート硬化体は、耐硫酸性が高くなることがわかった。