特許第5707908号(P5707908)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5707908発泡軽量タイル用原料、発泡軽量タイル及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5707908
(24)【登録日】2015年3月13日
(45)【発行日】2015年4月30日
(54)【発明の名称】発泡軽量タイル用原料、発泡軽量タイル及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 38/02 20060101AFI20150409BHJP
   C04B 33/13 20060101ALI20150409BHJP
   E04F 13/14 20060101ALI20150409BHJP
【FI】
   C04B38/02 K
   C04B33/13 A
   E04F13/14 103A
【請求項の数】9
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2010-271731(P2010-271731)
(22)【出願日】2010年12月6日
(65)【公開番号】特開2011-148676(P2011-148676A)
(43)【公開日】2011年8月4日
【審査請求日】2013年9月24日
(31)【優先権主張番号】特願2009-290718(P2009-290718)
(32)【優先日】2009年12月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】302045705
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】大橋 浩介
(72)【発明者】
【氏名】澤田 健行
(72)【発明者】
【氏名】竹田 道弘
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 修
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−247182(JP,A)
【文献】 特開2007−246312(JP,A)
【文献】 特表2007−509022(JP,A)
【文献】 特開2007−039291(JP,A)
【文献】 特開平07−247181(JP,A)
【文献】 特開2006−160570(JP,A)
【文献】 特開2007−246323(JP,A)
【文献】 特開平11−322463(JP,A)
【文献】 特開昭61−191577(JP,A)
【文献】 特開平11−021161(JP,A)
【文献】 特開平06−040760(JP,A)
【文献】 特開平11−029353(JP,A)
【文献】 特開平04−002676(JP,A)
【文献】 特開2007−246364(JP,A)
【文献】 特開昭63−147852(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 33/00−33/36,38/00−38/10
E04F 13/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも可塑性原料及び配向性原料を含む非発泡性原料100重量部と、
発泡剤0.01〜1重量部と
を含んでなる発泡軽量タイル用原料であって、
該非発泡性原料は、灼熱減量を除いた成分の合計を100重量%とした場合、SiO、Al及びMgOの3成分の合計が80〜100重量%であり、
該非発泡性原料中のSiO、Al及びMgOの3成分の合計を100重量%とした場合、重量組成比(SiO、Al,MgO)が、これら3成分の3元組成図において、
(66.5,8.5,25.0)
(72.0,6.5,21.5)
(74.5,12.0,13.5)
(66.5,20.0,13.5)
を結んだ四角形の領域A内又は
(67.6,24.9,7.5)
(72.2,22.2,5.6)
(74.2,23.8,2.0)
(68.9,29.0,2.1)
を結んだ四角形の領域B内にあることを特徴とする発泡軽量タイル用原料。
【請求項2】
請求項1において、前記可塑性原料は粘土鉱物であることを特徴とする発泡軽量タイル用原料。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記配向性原料が、タルク、マイカ、板状アルミナ、アンチゴライト及びリゾルダイトの少なくとも1種よりなることを特徴とする発泡軽量タイル用原料。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記発泡性原料が、炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウム、炭酸化合物、ドロマイト及び酸化セリウムの少なくとも1種であることを特徴とする発泡軽量タイル用原料。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の発泡軽量タイル用原料を成形し、焼成することを特徴とする発泡軽量タイルの製造方法。
【請求項6】
請求項5において、成形方法がプレス成形又は押出成形であることを特徴とする発泡軽量タイルの製造方法。
【請求項7】
請求項5又は6において、焼成温度が1130〜1310℃であることを特徴とする発泡軽量タイルの製造方法。
【請求項8】
請求項5ないし7のいずれか1項に記載の発泡軽量タイル用原料の製造方法によって製造された発泡軽量タイル。
【請求項9】
請求項8において、比重が0.7〜2.0であることを特徴とする発泡軽量タイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建材として壁面などに用いられるタイルに関するものであり、特に製造工程において発泡させることにより軽量化した発泡軽量タイル、その原料及びその製造方法に関する。詳しくは、本発明は、寸法精度が良好な発泡軽量タイルと、その製造方法と、この発泡軽量タイル用原料とに関する。
【背景技術】
【0002】
タイルを軽量化する方法としては、タイル原料に発泡剤、軽量骨材又は消失物を添加するものがある。このうち、発泡剤を添加する方法は、軽量骨材や消失物を添加する方法と比べて製造コストを抑えることができるという利点がある。この発泡剤を添加して焼成し、発泡させた発泡軽量タイルとしては、種々のものが知られている。
【0003】
例えば、特開2007−246323号公報の第0017段落には、粘土40〜60重量部、ガラス10〜15重量部、長石25〜50重量部及び発泡剤としてのSiC0.01〜5重量部よりなるタイル原料を、成形及び焼成してなる軽量発泡タイルが記載されている。
【0004】
特開平4−2676号公報の第1頁右欄第16行〜第2頁左上欄第1行には、粘土40〜10重量部、長石60〜90重量部及び発泡剤としての炭化珪素1重量部以下よりなる原料を、成形及び焼成してなる発泡外装材が記載されている。
【0005】
特開平7−247181号公報の第0025段落には、粘土10〜60重量部、長石40〜90重量部、ガス発生成分0.01〜2重量部よりなる発泡性原料に対して、さらに石灰石、ドロマイト、ガラス、滑石(タルク)等のアルカリ金属酸化物やアルカリ土類金属酸化物を配合した原料を用いた発泡タイルが記載されている。
【0006】
従来の発泡軽量タイルは、焼成時における窯内の温度のばらつき等に伴う発泡度合いのばらつきにより、タイル寸法がばらつき寸法精度が低くなるという問題がある。
【0007】
発泡軽量タイルに関するものではないが、特開平6−40760号公報には、吸水率2%以下の低吸水性セラミック板の製造において、成形体の乾燥及び焼成収縮を低減させるために、原料中に雲母、βワラストナイト、タルク等の異方性結晶を添加することが記載されている。
【0008】
同号公報では、セラミック板の製造用素地組成物として、ガラス及び/又はフリット粉末15〜60重量%、可塑性粘土15〜40重量%、雲母3〜40重量%、βワラストナイト0〜40重量%、タルク0〜20重量%を有し、かつ雲母、βワラストナイト及びタルクの合計が3〜60重量%となるように調製したものを用いる(請求項3)。これら雲母、βワラストナイト及びタルクは、プレス成形や押出し成形等において、厚さ方向よりも平面方向に配向し易い異方性の結晶物質である(第0005段落)。同号公報の第0006段落には、この原料の成形体の焼成時において、この異方性結晶物質のつっぱり効果によって平面方向への収縮を抑え、厚さ方向に収縮させることにより、セラミック板の寸法精度の向上を図ることが記載されている。
【0009】
なお、同号公報は、上記の通り吸水率2%以下の低吸水性セラミック板に関するものであり、該低吸収性セラミック板の原料中には発泡剤を有しない。同号公報の発明は、焼成収縮過程での寸法精度の向上を課題とするものであり、発泡剤の発泡度合いのばらつきにより寸法精度が低くなることを防止するという課題を有しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−246323号公報
【特許文献2】特開平4−2676号公報
【特許文献3】特開平7−247181号公報
【特許文献4】特開平6−40760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の通り、特許文献1〜3のような発泡軽量タイルにあっては、焼成時における窯内の温度のばらつき等に伴う発泡度合いのばらつきにより、寸法精度が低くなるという問題がある。
【0012】
本発明は、寸法精度の良好な発泡軽量タイル及びその製造方法と、この発泡軽量タイルの製造用原料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明(請求項1)の発泡軽量タイル用原料は、少なくとも可塑性原料及び配向性原料を含む非発泡性原料100重量部と、発泡剤0.01〜1重量部とを含んでなる発泡軽量タイル用原料であって、該非発泡性原料は、灼熱減量を除いた成分の合計を100重量%とした場合、SiO、Al及びMgOの3成分の合計が80〜100重量%であり、該非発泡性原料中のSiO、Al及びMgOの3成分の合計を100重量%とした場合、重量組成比(SiO、Al,MgO)が、これら3成分の3元組成図において、A(66.5,8.5,25.0)、A(72.0,6.5,21.5)、A(74.5,12.0,13.5)及びA(66.5,20.0,13.5)を結んだ四角形の領域A内又はB(67.6,24.9,7.5)、B(72.2,22.2,5.6)、B(74.2,23.8,2.0)及びB(68.9,29.0,2.1)を結んだ四角形の領域B内にあることを特徴とするものである。
【0014】
請求項2の発泡軽量タイル用原料は、請求項1において、前記可塑性原料は粘土鉱物であることを特徴とするものである。
【0015】
請求項3の発泡軽量タイル用原料は、請求項1又は2において、前記配向性原料が、タルク、マイカ、板状アルミナ、アンチゴライト及びリゾルダイトの少なくとも1種よりなることを特徴とするものである。
【0016】
請求項4の発泡軽量タイル用原料は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記発泡性原料が、炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウム、炭酸化合物、ドロマイト及び酸化セリウムの少なくとも1種であることを特徴とするものである。
【0017】
本発明(請求項5)の発泡軽量タイルの製造方法は、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の発泡軽量タイル用原料を成形し、焼成することを特徴とするものである。
【0018】
請求項6の発泡軽量タイルの製造方法は、請求項5において、成形方法がプレス成形又は押出成形であることを特徴とするものである。
【0019】
請求項7の発泡軽量タイルの製造方法は、請求項5又は6において、焼成温度が1130〜1310℃であることを特徴とするものである。
【0020】
本発明(請求項8)の発泡軽量タイルは、請求項5ないし7のいずれか1項に記載の発泡軽量タイル用原料の製造方法によって製造されたものである。
【0021】
請求項9の発泡軽量タイルは、請求項8において、比重が0.7〜2.0であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によると、寸法精度の良好な発泡軽量タイルが得られる。
【0023】
すなわち、発泡軽量タイル用原料を成形し、焼成して発泡軽量タイルを製造するに際して、タイルの発泡の程度は焼成温度により変化する。そのため、従来例にあっては、炉内の温度分布等に起因して焼成温度の分布が広くなると、タイル寸法がばらつき得られる発泡軽量タイルは寸法精度が低いものとなる。
【0024】
本発明では、発泡軽量タイル用原料中に配向性原料が配合されている。この配向性原料は、2軸方向に配向した扁平形状又は1軸方向に配向した針状の粒子よりなる。かかる配向性原料を含んだ原料を板形のタイル形状に成形した場合、配向性原料粒子は板状成形体の面方向に配向する。この配向性原料は、焼成時にその配向軸方向への膨張率が小さいという特性を有している。そのため、この配向性原料を含んだ成形体を焼成した場合、焼成時にタイル面方向(タイル厚み方向と垂直方向)への発泡膨張が抑制され、タイル厚み方向に発泡膨張し易くなる。この結果、焼成温度分布が広い状況でも、面方向の膨張率のズレ(予定膨張率からの乖離)が小さくなり、寸法精度の高い発泡軽量タイルを得ることができる。
【0025】
また、本発明では、SiO、Al及びMgOの3成分の重量組成比が、これら3成分の3元組成図におけるクリストバライトとムライトの共融線から離れた領域A又は領域B内にあるため、焼成時に熔融粘性が急激に低下することが防止される。これによっても、得られる発泡軽量タイルの寸法精度が向上する。
【0026】
本発明において、可塑性原料としては粘土鉱物が好適である。
【0027】
配向性原料としては、タルク、マイカ、板状アルミナ、アンチゴライト及びリゾルダイトの少なくとも1種が好ましい。これらの配向性原料は扁平状であり、この配向性原料の配向軸方向(厚み方向と垂直方向)が板状成形体の面方向(厚み方向と垂直方向)となるように良好に配向する。
【0028】
発泡剤としては、炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウム、炭酸化合物、ドロマイト及び酸化セリウムの少なくとも1種が好適である。
【0029】
この発泡軽量タイルの焼成時における焼成温度は1130〜1310℃であることが好ましい。この発泡軽量タイルの比重は0.7〜2.0であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の発泡軽量タイル用原料における、SiO、Al及びMgOの3成分の重量組成比の範囲を示す3元組成図である。
図2】実施例の試料No.1〜28におけるSiO、Al及びMgOの3成分の重量組成比を示す図面である。
図3】試料No.3,12,17,27の焼成温度と長辺方向の焼成収縮率との関係を示すグラフである。
図4】試料No.3,12,17,27の焼成温度と体積変化率との関係を示すグラフである。
図5】試料No.3,12,17,27の焼成温度と長辺方向への発泡寄与率との関係を示すグラフである。
図6】試料No.3,12,17,27の焼成温度と厚み方向への発泡寄与率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0032】
本発明の発泡軽量タイル用原料は、少なくとも可塑性原料及び配向性原料を含む非発泡性原料100重量部と、発泡剤0.01〜1重量部とを含んでいる。
【0033】
非発泡性原料は、可塑性原料及び配向性原料の他に、長石、珪砂、シャモット、陶石、蝋石等のタイル用原料を含むことが好ましい。
【0034】
可塑性原料としては、粘土鉱物が好適であり、具体的にはカオリン、セリサイト、木節粘土、蛙目粘土などが例示される。
【0035】
配向性原料としては、2軸方向に配向した扁平形状粒子及び1軸方向に配向した針状の粒子のいずれよりなるものであってもよいが、タルク、マイカ、板状アルミナ、アンチゴライト、リゾルダイト等の2軸方向に配向した扁平状の粒子よりなる原料が好適である。かかる扁平状の粒子よりなる配向性原料は、1軸方向にのみ配向した針状の粒子よりなる配向性原料と比べて、上述したタイル面方向への発泡膨張抑制効果が高い。配向性原料の平均粒径は1〜75μm程度が好適である。この平均粒径はレーザー回折式粒度分布計によって計測された値である。
【0036】
非発泡性原料100重量部(灼熱減量を含む。)中における長石、可塑性原料及び配向性原料の割合は、領域Aの場合は、長石0〜40重量部、可塑性原料20〜60重量部、配向性原料40〜60重量部(3者の合計で100重量部)であることが好ましい。領域Bの場合は、長石0〜35重量部、可塑性原料60〜90重量部、配向性原料5〜20重量部(3者の合計で100重量部)であることが好ましい。
【0037】
この非発泡性原料中におけるSiO、Al及びMgOの3成分の好ましい比率について次に説明する。
【0038】
この非発泡性原料は、灼熱減量(Ignition loss)を除いた成分の合計を100重量%とした場合、SiO、Al及びMgOの3成分の合計が80〜100重量%好ましくは90〜98重量%である。これらSiO、Al及びMgOの3成分の重量組成比(SiO、Al,MgO)が、第1図に示すこれら3成分の3元組成図において、A(66.5,8.5,25.0)、A(72.0,6.5,21.5)、A(74.5,12.0,13.5)及びA(66.5,20.0,13.5)を結んだ四角形の領域A内又はB(67.6,24.9,7.5)、B(72.2,22.2,5.6)、B(74.2,23.8,2.0)及びB(68.9,29.0,2.1)を結んだ四角形の領域B内にある。A領域は、好ましくはA(67.0,12.0,21.0)、A(70.4,8.9,20.7)、A(74.1,11.9,14.0)、及びA(67.2,18.4,14.4)を結んだ四角形の領域内にある。
【0039】
A領域は、特に、A(68.7,10.4,20.9)、A10(72.3,10.3,17.4)、A11(74.2,11.8,14.0)及びA12(70.8,15.0,14.2)で囲まれた領域であることが好ましい。B領域は、特に、B(67.6,24.9,7.5)、B(72.2,22.2,5.6)、B(69.5,24.8,5.7)及びB(72.3,23.9,3.8)で囲まれた領域であることが好ましい。
【0040】
なお、第1図において、共融線Lは、クリストバライトとムライトの共融線である。
【0041】
第1図のSiO、Al及びMgOの3元組成図内には、タルク、長石及び粘土の典型的な組成がプロットされると共に、これらの3点を結んだ三角形が描かれており、この三角形の領域内に、クリストバライトとムライトの共融線が存在する。SiO、Al及びMgOの3成分の重量組成比がこの共融線Lに近いと、焼成時に炉内温度が上昇して共融点に近づいたときに熔融粘性が急激に低下するため、被焼成体(焼成されつつあるタイル)が大きく変形してしまい、タイルの寸法精度が低下する。これに対し、本発明の発泡軽量タイル用原料は、3成分の重量組成比が領域A又は領域Bを範囲内であり、上記共融線Lからある程度離隔している。これにより、焼成時における熔融粘性の急激な低下が防止され、タイルの寸法精度が高いものとなる。
【0042】
原料組成が領域A,Bから共融線Lに離れる方向に逸脱したり、領域AからAlリッチ側に逸脱したりすると、焼成温度が過度に高いものとなる。原料組成が領域Bから長石リッチ側に逸脱すると、焼成温度の上昇による発泡量の増加が急激に大きくなり、寸法精度が悪化する。
【0043】
上記非発泡性原料の灼熱減量(Ignition loss)を除いた成分の合計を100重量%とした場合、SiO、Al及びMgOの3成分の合計が80重量%以上であると、上記3成分以外の成分による影響が小さいものとなる。
【0044】
発泡剤としては、炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウム、炭酸化合物、ドロマイト、酸化セリウム等が好適であり、特に炭化珪素が好適である。
【0045】
発泡剤は、灼熱減量を含む該非発泡原料の合計100重量部に対して0.01〜1重量部好ましくは0.05〜0.7重量部特に好ましくは0.07〜0.1重量部配合される。
【0046】
本発明の発泡軽量タイル用原料は、上記の原料以外に珪砂、シャモット、陶石、蝋石などを全体の20重量%以下の範囲で含んでもよい。
【0047】
本発明の発泡軽量タイル用原料は、これらの原料を上記割合で懸濁液となるように、水を原料重量の50〜200%で添加し、ミル等を用いて混合することにより製造される。この発泡軽量タイル用原料の平均粒径は5〜15μm程度が好適である。
【0048】
この発泡軽量タイル用原料を成形及び焼成することにより、発泡軽量タイルが製造される。成形方法は、成形時に配向性原料が成形体内で配向する任意のものを適用することができ、プレス成形、押出し成形等が好適に採用される。例えば、配向性原料が扁平状である場合、下型内に発泡軽量タイル用原料を充填し、その上から上型を型締めし、上下方向に加圧する乾式プレス成形を行うと、扁平状の配向性原料は、その偏平面方向が略水平方向に配向する。これにより、板状成形体の板面方向に該配向性原料の偏平面方向が配向した発泡軽量タイル用成形体が得られる。乾式プレス成形の場合、成形圧は50〜500kgf/cm程度が好適である。成形体の嵩密度は、1.5〜2.0g/cm特に1.7〜1.9g/cm程度が好ましい。
【0049】
焼成温度は、1130〜1310℃、特に1180〜1280℃が好ましい。焼成炉としては、RHK、TK、SK、セラミックス炉などを用いることができる。セラミックス炉を用いた場合、焼成時間(上記焼成温度に維持する時間)は1〜10Hr程度が好適である。
【0050】
このようにして得られた発泡軽量タイルの比重は、0.7〜2特に1.2〜1.8程度が好ましい。
【0051】
本発明の発泡軽量タイル用原料は、配向性原料を有するため、これを板状に成形して焼成すると、前述の通り、面方向の寸法精度の良好な発泡軽量タイルが得られる。その理由について以下に詳細に説明する。
【0052】
一般に、発泡剤からのガス発生量は焼成温度により変化する。そのため、発泡軽量タイル用原料を成形し、焼成して発泡軽量タイルを製造するに際し、炉内の温度分布や炉制御条件の変動などにより焼成温度が窯内で大きくばらつくと、得られる発泡軽量タイルの寸法は大きくばらつく。
【0053】
配向性原料を含む発泡軽量タイル用原料を成形すると、配向性原料は成形体内で配向する。例えば、扁平状の配向性原料を含む発泡軽量タイル用原料を金型内に充填してタイル厚み方向に加圧して板状成形体を成形すると、該扁平状の配向性原料粒子は、その配向軸方向(偏平な面の方向)が板状成形体の板面方向(すなわち加圧方向と垂直方向)を指向するように配向する。この配向性原料は、焼成時に偏平面方向への膨張を抑制する作用を奏するので、この成形体を焼成した場合、被焼成物はタイルの厚み方向には容易に膨張するが、タイル面方向への発泡膨張が抑制される。これにより、焼成温度が予定温度から乖離したとしても、タイル面方向における寸法のバラツキが小さくなり、寸法精度の高い発泡軽量タイルを得ることができる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明をより詳細に説明する。
【0055】
<発泡軽量タイル用原料の製造>
表1に示すタルク、蛙目粘土及び長石と、炭化珪素とを混合して発泡軽量タイル用原料を製造した。炭化珪素としては日陶産業社製炭化珪素「GP3000」平均粒径6μmを用いた。
【0056】
このタルク、粘土及び長石と炭化珪素とを表2に示す割合で懸濁液となるように、水を原料重量と同程度添加しミルによって混合し、発泡軽量タイル用原料No.1〜28を製造した。なお、No.1〜32中のSiO、Al及びMgOを100wt%としたときのSiO、Al及びMgOの割合を表3,4に示すと共に、第2図の3元組成図にプロットした。図面を明りょうとするために、第2図では「No」を省略し、例えばNo.1については「1」とのみ記入してある。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
<発泡軽量タイル用原料の成形>
上記の発泡軽量タイル用原料No.1〜32を乾式プレス成形(圧力:50〜500kg/m)することにより、成形体の嵩密度が1.7g/cm程度となるように成形体(長辺100mm×短辺30mm×厚み約5mm)を成形した。
【0060】
<焼成>
この成形体を、セラミックス炉によって、図3〜6にプロットした各温度にて1時間焼成して発泡軽量タイルを製造した。以下、No.1の原料から製造されたタイルについては、焼成温度の如何に関わらずNo.1のタイルという。No.2〜32のタイルも同様である。
【0061】
<長辺方向の比温度寸法変化率A(%/℃)の測定>
No.1〜32のタイルについて、長辺方向の長さLを測定し、この長さLと上記成形体の長辺方向の長さL(100mm)とを以下の計算式に代入することにより、長辺方向の寸法変化率a(%)を算出した。
長辺方向の寸法変化率a(%)=(L−L)/L×100
【0062】
焼成温度によって発泡原料の発泡度合が変化するため、この長辺方向の寸法変化率aは焼成温度によって変化する。そこで、No.1〜32のタイルについてNo別に、第3図に例示されるように横軸を焼成温度、縦軸を該長辺方向の寸法変化率a(%)とするグラフを作成し、焼成温度に対する寸法変化率の直線の傾きから長辺方向の比温度寸法変化率A(%/℃)を求め、表3,4に示した。この長辺方向の比温度寸法変化率A(%/℃)は、焼成温度が1℃変化した場合に長辺方向の寸法変化率a(%)がどの程度変化するかを示す。
【0063】
<比温度体積変化率B(%/℃)の測定>
SiCを添加した成形体および添加していない成形体の厚みを測定し、その体積V、Vを予め算出しておく。また、得られたタイルの長辺、短辺及び厚さ方向の寸法を測定し、その体積V、Vを算出した。次いで、以下の計算式により、No.1〜32のタイルについて、体積変化率(%)を以下の計算式によって算出した。
【0064】
体積変化率b(%)=(V/V−V/V)×100
【0065】
焼成温度によって発泡原料の発泡度合が変化するため、この体積変化率b(%)は焼成温度によって変化する。そこで、No.1〜32のタイルについてNo別に、第4図に例示されるように横軸を焼成温度、縦軸を該焼成収縮率b(%)とするグラフを作成し、焼成温度に対する体積変化率の直線の傾きから比温度体積変化率B(%/℃)を求め、表3,4に示した。この比温度体積変化率B(%/℃)は、焼成温度が1℃変化した場合に体積変化率がどの程度変化するかを示す。
【0066】
<長辺方向及び厚み方向への発泡寄与率(%)の測定>
No.3,12,17,27のタイルについて、以下の手順で長辺方向及び厚み方向への発泡寄与率(%)を求めた。なお、第2図に示す通り、No.17,27のタイルは、粘土と長石との配合比がほぼ同一であり、タルクの配合量を異ならせている。
【0067】
まず、各タイルについて、短辺方向の長さWを測定し、この長さWと上記成形体の短辺方向の長さW(30mm)とを以下の計算式に代入することにより、短辺方向の寸法変化率a(%)を算出した。
【0068】
短辺方向の寸法変化率a(%)=(W−W)/W×100
【0069】
同様に、各タイルについて、厚みdを測定し、厚みdと上記成形体の厚みd(100mm)とを以下の計算式に代入することにより、厚み方向の寸法変化率a(%)を算出した。
【0070】
厚み方向の寸法変化率a(%)=(d−d)/d×100
【0071】
次いで、以下の計算式により、長辺方向への発泡寄与率C(%)及び厚み方向への発泡寄与率C(%)を算出した。その結果を、それぞれ表5,6に示す。
【0072】
(%)=a/(a+a+a)×100(%)
(%)=a/(a+a+a)×100(%)
【0073】
【表3】
【0074】
【表4】
【0075】
【表5】
【0076】
【表6】
【0077】
<考察>
(1) 長辺方向の比温度寸法変化率A(%/℃)についての考察
表3,4の通り、軽量発泡タイル用原料中にタルクを含まないNo.27のタイルの長辺方向の比温度寸法変化率A(%/℃)は、0.048(%/℃)である。これに対して、領域A及び領域B内に存在するタイルはいずれも、長辺方向の寸法変化率A(%/℃)が0.048(%/℃)未満となっている。
【0078】
なお、長辺方向の比温度寸法変化率A(%/℃)は、必ずしもタルク配合量の多い順に小さい値にはなっていない。この理由は次の通りであると推察される。
【0079】
上記の通り、No.3,12,17,27のタイルは、粘土と長石との配合比がほぼ同一であり、タルクの配合量を異ならせている。No.3は領域A内に存在しており、その他のタイル(No.12,17,27)は領域A及び領域Bの範囲外である。No.12のタイルは共融線Lに近い組成となっている。
【0080】
タルクは配向性原料であり、タイル面方向への発泡膨張を抑制する効果を有する。そのため、発泡膨張の抑制効果は、タルク配合量の多い順に大きい。しかしながら、No.12は共融線Lに近いため、焼成時に粘性が急激に低下する。このようなことから、これらNo.3,12,17,27のタイルを長辺方向の比温度寸法変化率A(%/℃)の小さい順に並べると、必ずしもタルクの多い順にはならない。
【0081】
No.3(領域A内)のタイルは、最もタルクの配合比が高く、かつ共融線Lからある程度離隔した組成となっている。そして第3図の通り、長辺方向の焼成収縮率a(%)が焼成温度によらずほぼ一定(約5〜6%)であり、焼成温度が1100℃〜1240℃の間で変化しても寸法変動幅は約1%(6%−5%=1%)と小さい。従って、焼成温度分布が多少広くなったとしても、得られるタイルの寸法誤差は小さいものとなる。
【0082】
No.27は、発泡軽量タイル用原料中に配向性原料としてのタルクを全く含まないため、配向性原料によるタイル面方向への膨張抑制効果を有しない。従って、第3図に示す通り、焼成温度が1230℃から1300℃まで約70℃変化すると、長辺方向の寸法変化率a(%)が7%から4%へと著しく変化し、寸法変動幅は約3%(7%−4%=3%)と大きな値となる。このように、No.27のタイルは、焼成温度分布が広がると、得られるタイルの寸法ばらつきが大きいものとなる。
【0083】
No.12,17は、配向性原料としてのタルクを含むため、配向性原料によるタイル面方向への発泡膨張の抑制効果が期待される。しかしながら、No.12は共融線Lに近い組成であるので、焼成時に熔融粘性が低下するため、焼成温度の変化による寸法誤差が大きくなっている。
【0084】
以上のように、領域A及び領域B内に存在するタイルは、タルクの添加による寸法精度の向上が達成されている。
【0085】
(2) 長辺方向への発泡寄与率(%)及び厚み方向への発泡寄与率(%)の考察
第5,6図に示す通り、タルク(配向性原料)を含むNo.3,12,17のタイルは、タルクを含まないNo.27のタイルと比べて、長辺方向への発泡寄与率(%)が低くかつ厚み方向への発泡寄与率(%)が高い。このことから、タルク(配向性原料)は、タイル平面方向への発泡膨張の抑制効果を有することがわかる。
【0086】
(3) 比温度体積変化率B(%/℃)についての考察
第4図の通り、No.3,12,17,27のタイルを比温度体積変化率B(%/℃)の小さい順に並べるとNo.27,3,17,12の順になっている。従って、予定焼成温度と実際の焼成温度との間に乖離が生じた場合、目標としていたタイルの体積と実際のタイルの体積との間の差が小さい順に並べると、同様にNo.27,3,17,12の順になる。なお、上記(1)で説明した通り、長辺方向の比温度寸法変化率A(%/℃)を小さい順に並べると、No.3,27,17,12の順になっており、比温度体積変化率Bの大小の順番と比温度寸法変化率Aの大小の順番とは完全には合致しない。これは、No.3のタイルがタルクによってタイル長辺方向への発泡膨張が抑制されたためであると考えられる。
【0087】
No.3,12,17,27以外のNoのタイルにおいても、長辺方向の比温度寸法変化率A(%/℃)の小さい順番と比温度体積変化率B(%/℃)の小さい順番とは必ずしも一致していない。これらの順番は、タルク(配向性原料)によるタイル面方向への発泡膨張の抑制効果と、3成分組成比(SiO、Al、MgO)の共融線Lへの近さとに密接に関係するものと考えられる。
【0088】
(6) 領域Aと領域Bの対比
表2及び表3,4に基づいて、領域A,Bにおける、配向性原料(東大溝タルク)の配合割合(重量%)と、比温度体積変化率B(%/℃)と、長辺方向の比温度寸法変化率A(%/℃)とを考察すると、領域Aは、領域Bと比べて比温度体積変化率Bの値が大きいにもかかわらず(領域A:0.0120以下、領域B:0.0080以下)、領域Bと同等の長辺方向の比温度寸法変化率A(領域A,B共に0.048以下)を達成している。これは、領域Aの方が領域Bよりも配合原料(タルク)の配合割合が高いため(領域A:40〜60重量%、領域B:5〜20重量%)、配向性原料(タルク)によってタイル長辺方向への発泡膨張がより抑制されたためであると考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6