【実施例】
【0054】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明をより詳細に説明する。
【0055】
<発泡軽量タイル用原料の製造>
表1に示すタルク、蛙目粘土及び長石と、炭化珪素とを混合して発泡軽量タイル用原料を製造した。炭化珪素としては日陶産業社製炭化珪素「GP3000」平均粒径6μmを用いた。
【0056】
このタルク、粘土及び長石と炭化珪素とを表2に示す割合で懸濁液となるように、水を原料重量と同程度添加しミルによって混合し、発泡軽量タイル用原料No.1〜28を製造した。なお、No.1〜32中のSiO
2、Al
2O
3及びMgOを100wt%としたときのSiO
2、Al
2O
3及びMgOの割合を表3,4に示すと共に、第2図の3元組成図にプロットした。図面を明りょうとするために、第2図では「No」を省略し、例えばNo.1については「1」とのみ記入してある。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
<発泡軽量タイル用原料の成形>
上記の発泡軽量タイル用原料No.1〜32を乾式プレス成形(圧力:50〜500kg/m
2)することにより、成形体の嵩密度が1.7g/cm
2程度となるように成形体(長辺100mm×短辺30mm×厚み約5mm)を成形した。
【0060】
<焼成>
この成形体を、セラミックス炉によって、
図3〜6にプロットした各温度にて1時間焼成して発泡軽量タイルを製造した。以下、No.1の原料から製造されたタイルについては、焼成温度の如何に関わらずNo.1のタイルという。No.2〜32のタイルも同様である。
【0061】
<長辺方向の比温度寸法変化率A
L(%/℃)の測定>
No.1〜32のタイルについて、長辺方向の長さL
1を測定し、この長さL
1と上記成形体の長辺方向の長さL
0(100mm)とを以下の計算式に代入することにより、長辺方向の寸法変化率a
L(%)を算出した。
長辺方向の寸法変化率a
L(%)=(L
1−L
0)/L
0×100
【0062】
焼成温度によって発泡原料の発泡度合が変化するため、この長辺方向の寸法変化率a
Lは焼成温度によって変化する。そこで、No.1〜32のタイルについてNo別に、第3図に例示されるように横軸を焼成温度、縦軸を該長辺方向の寸法変化率a
L(%)とするグラフを作成し、焼成温度に対する寸法変化率の直線の傾きから長辺方向の比温度寸法変化率A
L(%/℃)を求め、表3,4に示した。この長辺方向の比温度寸法変化率A
L(%/℃)は、焼成温度が1℃変化した場合に長辺方向の寸法変化率a
L(%)がどの程度変化するかを示す。
【0063】
<比温度体積変化率B(%/℃)の測定>
SiCを添加した成形体および添加していない成形体の厚みを測定し、その体積V
1、V
2を予め算出しておく。また、得られたタイルの長辺、短辺及び厚さ方向の寸法を測定し、その体積V
3、V
4を算出した。次いで、以下の計算式により、No.1〜32のタイルについて、体積変化率(%)を以下の計算式によって算出した。
【0064】
体積変化率b(%)=(V
3/V
1−V
4/V
2)×100
【0065】
焼成温度によって発泡原料の発泡度合が変化するため、この体積変化率b(%)は焼成温度によって変化する。そこで、No.1〜32のタイルについてNo別に、第4図に例示されるように横軸を焼成温度、縦軸を該焼成収縮率b(%)とするグラフを作成し、焼成温度に対する体積変化率の直線の傾きから比温度体積変化率B(%/℃)を求め、表3,4に示した。この比温度体積変化率B(%/℃)は、焼成温度が1℃変化した場合に体積変化率がどの程度変化するかを示す。
【0066】
<長辺方向及び厚み方向への発泡寄与率(%)の測定>
No.3,12,17,27のタイルについて、以下の手順で長辺方向及び厚み方向への発泡寄与率(%)を求めた。なお、第2図に示す通り、No.17,27のタイルは、粘土と長石との配合比がほぼ同一であり、タルクの配合量を異ならせている。
【0067】
まず、各タイルについて、短辺方向の長さW
1を測定し、この長さW
1と上記成形体の短辺方向の長さW
0(30mm)とを以下の計算式に代入することにより、短辺方向の寸法変化率a
W(%)を算出した。
【0068】
短辺方向の寸法変化率a
W(%)=(W
1−W
0)/W
0×100
【0069】
同様に、各タイルについて、厚みd
1を測定し、厚みd
1と上記成形体の厚みd
0(100mm)とを以下の計算式に代入することにより、厚み方向の寸法変化率a
d(%)を算出した。
【0070】
厚み方向の寸法変化率a
d(%)=(d
1−d
0)/d
0×100
【0071】
次いで、以下の計算式により、長辺方向への発泡寄与率C
L(%)及び厚み方向への発泡寄与率C
d(%)を算出した。その結果を、それぞれ表5,6に示す。
【0072】
C
L(%)=a
L/(a
L+a
W+a
d)×100(%)
C
d(%)=a
d/(a
L+a
W+a
d)×100(%)
【0073】
【表3】
【0074】
【表4】
【0075】
【表5】
【0076】
【表6】
【0077】
<考察>
(1) 長辺方向の比温度寸法変化率A
L(%/℃)についての考察
表3,4の通り、軽量発泡タイル用原料中にタルクを含まないNo.27のタイルの長辺方向の比温度寸法変化率A
L(%/℃)は、0.048(%/℃)である。これに対して、領域A及び領域B内に存在するタイルはいずれも、長辺方向の寸法変化率A
L(%/℃)が0.048(%/℃)未満となっている。
【0078】
なお、長辺方向の比温度寸法変化率A
L(%/℃)は、必ずしもタルク配合量の多い順に小さい値にはなっていない。この理由は次の通りであると推察される。
【0079】
上記の通り、No.3,12,17,27のタイルは、粘土と長石との配合比がほぼ同一であり、タルクの配合量を異ならせている。No.3は領域A内に存在しており、その他のタイル(No.12,17,27)は領域A及び領域Bの範囲外である。No.12のタイルは共融線Lに近い組成となっている。
【0080】
タルクは配向性原料であり、タイル面方向への発泡膨張を抑制する効果を有する。そのため、発泡膨張の抑制効果は、タルク配合量の多い順に大きい。しかしながら、No.12は共融線Lに近いため、焼成時に粘性が急激に低下する。このようなことから、これらNo.3,12,17,27のタイルを長辺方向の比温度寸法変化率A
L(%/℃)の小さい順に並べると、必ずしもタルクの多い順にはならない。
【0081】
No.3(領域A内)のタイルは、最もタルクの配合比が高く、かつ共融線Lからある程度離隔した組成となっている。そして第3図の通り、長辺方向の焼成収縮率a
L(%)が焼成温度によらずほぼ一定(約5〜6%)であり、焼成温度が1100℃〜1240℃の間で変化しても寸法変動幅は約1%(6%−5%=1%)と小さい。従って、焼成温度分布が多少広くなったとしても、得られるタイルの寸法誤差は小さいものとなる。
【0082】
No.27は、発泡軽量タイル用原料中に配向性原料としてのタルクを全く含まないため、配向性原料によるタイル面方向への膨張抑制効果を有しない。従って、第3図に示す通り、焼成温度が1230℃から1300℃まで約70℃変化すると、長辺方向の寸法変化率a
L(%)が7%から4%へと著しく変化し、寸法変動幅は約3%(7%−4%=3%)と大きな値となる。このように、No.27のタイルは、焼成温度分布が広がると、得られるタイルの寸法ばらつきが大きいものとなる。
【0083】
No.12,17は、配向性原料としてのタルクを含むため、配向性原料によるタイル面方向への発泡膨張の抑制効果が期待される。しかしながら、No.12は共融線Lに近い組成であるので、焼成時に熔融粘性が低下するため、焼成温度の変化による寸法誤差が大きくなっている。
【0084】
以上のように、領域A及び領域B内に存在するタイルは、タルクの添加による寸法精度の向上が達成されている。
【0085】
(2) 長辺方向への発泡寄与率(%)及び厚み方向への発泡寄与率(%)の考察
第5,6図に示す通り、タルク(配向性原料)を含むNo.3,12,17のタイルは、タルクを含まないNo.27のタイルと比べて、長辺方向への発泡寄与率(%)が低くかつ厚み方向への発泡寄与率(%)が高い。このことから、タルク(配向性原料)は、タイル平面方向への発泡膨張の抑制効果を有することがわかる。
【0086】
(3) 比温度体積変化率B(%/℃)についての考察
第4図の通り、No.3,12,17,27のタイルを比温度体積変化率B(%/℃)の小さい順に並べるとNo.27,3,17,12の順になっている。従って、予定焼成温度と実際の焼成温度との間に乖離が生じた場合、目標としていたタイルの体積と実際のタイルの体積との間の差が小さい順に並べると、同様にNo.27,3,17,12の順になる。なお、上記(1)で説明した通り、長辺方向の比温度寸法変化率A
L(%/℃)を小さい順に並べると、No.3,27,17,12の順になっており、比温度体積変化率Bの大小の順番と比温度寸法変化率A
Lの大小の順番とは完全には合致しない。これは、No.3のタイルがタルクによってタイル長辺方向への発泡膨張が抑制されたためであると考えられる。
【0087】
No.3,12,17,27以外のNoのタイルにおいても、長辺方向の比温度寸法変化率A
L(%/℃)の小さい順番と比温度体積変化率B(%/℃)の小さい順番とは必ずしも一致していない。これらの順番は、タルク(配向性原料)によるタイル面方向への発泡膨張の抑制効果と、3成分組成比(SiO
2、Al
2O
3、MgO)の共融線Lへの近さとに密接に関係するものと考えられる。
【0088】
(6) 領域Aと領域Bの対比
表2及び表3,4に基づいて、領域A,Bにおける、配向性原料(東大溝タルク)の配合割合(重量%)と、比温度体積変化率B(%/℃)と、長辺方向の比温度寸法変化率A
L(%/℃)とを考察すると、領域Aは、領域Bと比べて比温度体積変化率Bの値が大きいにもかかわらず(領域A:0.0120以下、領域B:0.0080以下)、領域Bと同等の長辺方向の比温度寸法変化率A
L(領域A,B共に0.048以下)を達成している。これは、領域Aの方が領域Bよりも配合原料(タルク)の配合割合が高いため(領域A:40〜60重量%、領域B:5〜20重量%)、配向性原料(タルク)によってタイル長辺方向への発泡膨張がより抑制されたためであると考えられる。