(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
モータ制御信号を出力するモータ制御信号出力手段と、前記モータ制御信号に基づいてモータに駆動電力を供給する駆動回路と、演算周期毎のモータ回転角の変化量を積算することにより推定モータ回転角を演算する推定モータ回転角演算手段とを備え、前記モータ制御信号出力手段は、前記推定モータ回転角に基づいて前記モータ制御信号を出力するモータ制御装置において、
二相固定座標系における第1座標軸の軸誘起電圧値の符号と、第2座標軸の軸誘起電圧値の符号との組み合わせに基づいて前記モータの粗回転位置を推定する粗回転位置推定手段と、
前記粗回転位置推定手段により推定された粗回転位置の遷移に基づいて前記モータの回転方向を推定する回転方向推定手段とを備え、
前記推定モータ回転角演算手段は、前記回転方向推定手段により推定された前記モータの回転方向に応じて前記変化量の符号を決定することを特徴とするモータ制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、車両の走行状態によっては、操舵トルクの方向にステアリングが回転しないことがある。すなわち、車両の進行方向を変更しようとして、運転者がステアリングを操舵する場合には、その操舵トルクの方向にステアリングが回転する。しかし、車両の進行方向がある程度変化した後、運転者がステアリングに付与する操舵力を弱め、路面摩擦力に応じたセルフアライニングトルク(SAT)によりステアリングを切り戻す際において、運転者がステアリングを軽く把持すると、操舵トルクは同ステアリングが切り戻されることを妨げる方向に作用する。つまり、操舵トルクの方向と反対方向にステアリングが回転することになるため、上記特許文献1のように操舵トルクの方向に応じて一義的に変化量の符号を決めると、推定モータ回転角が実際のモータ回転角からずれることがある。
【0006】
そして、このようなモータ制御装置を用いてEPSの制御を行うと、例えば振動が生じて操舵フィーリングが低下するといった虞があり、この点においてなお改善の余地があった。なお、こうした課題は、推定モータ回転角と実際のモータ回転角とがずれることに起因して生じるものであるため、EPSの駆動源以外に用いられるモータを制御する場合にも同様に、例えば振動が発生する等の課題が生じうる。
【0007】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、精度良くモータ回転角を推定することのできるモータ制御装置及び車両用操舵装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、モータ制御信号を出力するモータ制御信号出力手段と、前記モータ制御信号に基づいてモータに駆動電力を供給する駆動回路と、演算周期毎のモータ回転角の変化量を積算することにより推定モータ回転角を演算する推定モータ回転角演算手段とを備え、前記モータ制御信号出力手段は、前記推定モータ回転角に基づいて前記モータ制御信号を出力するモータ制御装置において、二相固定座標系における第1座標軸の軸誘起電圧値の符号と、第2座標軸の軸誘起電圧値の符号との組み合わせに基づいて前記モータの粗回転位置を推定する粗回転位置推定手段と、前記粗回転位置推定手段により推定された粗回転位置の遷移に基づいて前記モータの回転方向を推定する回転方向推定手段とを備え、前記推定モータ回転角演算手段は、前記回転方向推定手段により推定された前記モータの回転方向に応じて前記変化量の符号を決定することを要旨とする。
【0009】
すなわち、第1及び第2座標軸の軸誘起電圧値は、それぞれモータの回転に伴って正弦波状に変化するとともに、第1座標軸の軸誘起電圧値と第2座標軸の軸誘起電圧値とは、互いに位相が電気角で90°ずれた波形となる。そのため、各軸誘起電圧値の符号の組み合わせによって、モータ回転角が90°間隔で4分割された領域(角度範囲)のうち、いずれの領域内に存在するのか、すなわちモータの大雑把な回転位置(粗回転位置)を推定することが可能となる。そして、粗回転位置を4区分以上で推定できるため、粗回転位置の遷移に基づいてモータの回転方向を推定することが可能となる。従って、上記構成のようにモータの回転に応じて変化する各軸誘起電圧値に基づく回転方向によって、モータ回転角の変化量の符号を決定することで、操舵トルクのようにモータの回転方向との関係が一定ではないパラメータによって同変化量の符号を決定する場合に比べ、精度良くモータ回転角を推定することができる。また、上記構成では、各軸誘起電圧値の符号の組み合わせに基づいて推定される粗回転位置によりモータの回転方向を推定するため、三角関数等を用いた複雑な演算により回転方向を推定する場合に比べ、演算負荷が増大することを抑制できる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のモータ制御装置において、前記粗回転位置推定手段は、前記各軸誘起電圧値の符号の組み合わせに加え、前記第1座標軸の軸誘起電圧値と前記第2座標軸の軸誘起電圧値との大小関係に基づいて前記粗回転位置を推定することを要旨とする。
【0011】
上記のように各軸誘起電圧値は、互いに位相が90°ずれた正弦波状に変化するため、第1座標軸の軸誘起電圧値と第2座標軸の軸誘起電圧値との大小関係によって、モータ回転角が上記4つの領域をそれぞれ均等に2分割した領域のうち、どちらの領域内に存在するのかを推定することが可能となる。つまり、上記構成によれば、モータ回転角が45°間隔で8つに分けられた領域のうち、いずれの領域内に存在するかを推定することが可能なる。従って、粗回転位置が8区分以上で検出可能となり、その角度範囲が細分化されるため、符号のみに基づいてモータの粗回転位置を推定する場合に比べ、速やかにモータの回転方向を推定することができる。また、上記構成では、各軸誘起電圧値の符号の組み合わせ及び大小関係に基づいて推定される粗回転位置によってモータの回転方向を推定するため、三角関数等を用いた複雑な演算により回転方向を推定する場合に比べ、演算負荷が増大することを抑制できる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のモータ制御装置において、前記各軸誘起電圧値の符号が変化する閾値として、該符号が正から負に変化する場合の負側閾値をゼロよりも小さく設定するとともに、負から正に変化する場合の正側閾値をゼロよりも大きく設定したことを要旨とする。
【0013】
各軸誘起電圧値は、ノイズ等の影響によって滑らかな正弦波状に変化せず、乱れた波形になることがある。そして、各軸誘起電圧値がゼロ近傍で乱れると、実際のモータ回転角の変化とは無関係にこれらの符号が変化してしまい、粗回転位置が遷移することでモータの回転方向を誤って推定する虞がある。
【0014】
この点、上記構成によれば、各軸誘起電圧値の符号が正から負に変化する場合と負から正に変化する場合とで、その閾値が異なる。すなわち、各軸誘起電圧値の符号変化にヒステリシスが設けられるため、ノイズ等の影響で各軸誘起電圧値がゼロ近傍で乱れても、これらの符号が変化し難くなる。これにより、モータの回転方向を誤って推定することを防ぎ、より高精度にモータ回転角を推定することができる。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載のモータ制御装置を備えた車両用操舵装置であることを要旨とする。
上記構成によれば、操舵トルクの方向とステアリングの回転方向が一致しない状態でも、精度良くモータ回転角を推定することが可能になるため、操舵フィーリングの低下等を抑制することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、精度良くモータ回転角を推定することのできるモータ制御装置及び車両用操舵装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を操舵力補助装置を備えた車両用操舵装置(電動パワーステアリング装置)に具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、電動パワーステアリング装置(EPS)1において、ステアリング2が固定されたステアリングシャフト3は、ラックアンドピニオン機構4を介してラック軸5と連結されている。これにより、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転は、ラックアンドピニオン機構4によりラック軸5の往復直線運動に変換される。なお、ステアリングシャフト3は、コラム軸8、中間軸9、及びピニオン軸10を連結してなる。そして、このステアリングシャフト3の回転に伴うラック軸5の往復直線運動が、同ラック軸5の両端に連結されたタイロッド11を介して図示しないナックルに伝達されることにより、転舵輪12の舵角、すなわち車両の進行方向が変更される。
【0019】
また、EPS1は、モータ21を駆動源として操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する操舵力補助装置としてのEPSアクチュエータ22と、同EPSアクチュエータ22の作動を制御するモータ制御装置及び操舵制御装置としてのECU23とを備えている。
【0020】
EPSアクチュエータ22は、所謂コラムアシスト型のEPSアクチュエータとして構成されており、モータ21は、ウォーム&ホイール等からなる減速機構25を介してコラム軸8と駆動連結されている。これにより、モータ21は、ステアリング2(ステアリングシャフト3)の回転に連動して回転し、ステアリング2の回転方向とモータ21の回転方向との関係は常に同じとなる。なお、本実施形態のモータ21には、ブラシレスモータが採用されており、ECU23から三相(U,V,W)の駆動電力が供給されることにより駆動される。そして、EPSアクチュエータ22は、モータ21の回転を減速してコラム軸8に伝達することにより、そのモータトルクをアシスト力として操舵系に付与する構成となっている。
【0021】
一方、ECU23には、操舵トルクTを検出するトルクセンサ27及び車速SPDを検出する車速センサ28が接続されている。なお、本実施形態のトルクセンサ27により検出される操舵トルクTは、その方向が右方向の場合に正の値となり、左方向の場合に負の値となる。そして、ECU23は、これら操舵トルクT及び車速SPDに基づいて目標アシスト力を演算し、これに相当するモータトルクを発生させるべく駆動電力をモータ21に供給することにより、EPSアクチュエータ22の作動を制御する構成となっている(パワーアシスト制御)。
【0022】
次に、本実施形態のEPSの電気的構成について説明する。
図2に示すように、ECU23は、モータ制御信号を出力するモータ制御信号出力手段としてのマイコン31と、同マイコン31の出力するモータ制御信号に基づいてモータ21に三相の駆動電力を供給する駆動回路32とを備えている。なお、以下に示す各制御ブロックは、マイコン31が実行するコンピュータプログラムにより実現されるものである。そして、同マイコン31は、所定のサンプリング周期(検出周期)で各状態量を検出し、所定の演算周期毎に以下の各制御ブロックに示される各演算処理を実行することにより、モータ制御信号を出力する。
【0023】
駆動回路32には、直列に接続された一対のスイッチング素子を基本単位(スイッチングアーム)として、各相のモータコイル33u,33v,33wに対応する3つのスイッチングアームを並列に接続してなる周知のPWMインバータが採用されている。つまり、マイコン31の出力するモータ制御信号は、この駆動回路32を構成する各相スイッチング素子のオン/オフ状態(各相スイッチングアームのオンDUTY比)を規定するものとなっている。そして、駆動回路32は、このモータ制御信号の入力により作動して、その印加される電源電圧に基づく三相の駆動電力をモータ21に供給する構成となっている。
【0024】
また、ECU23には、モータ21の各相電流値Iu,Iv,Iwを検出するための電流センサ35u,35v,35w、及びモータ21の各相電圧値Vu,Vv,Vwを検出するための電圧センサ36u,36v,36wが設けられている。本実施形態のマイコン31には、各相電流値Iu,Iv,Iw及び各相電圧値Vu,Vv,Vwに基づいて推定モータ回転角θmを演算する推定モータ回転角演算手段としての推定モータ回転角演算部41が設けられている。そして、マイコン31は、回転角センサによりモータ回転角を検出せず、推定モータ回転角演算部41で演算される推定モータ回転角θmに基づいてモータ21を駆動するセンサレス制御を実行する。
【0025】
詳述すると、マイコン31は、モータ21に対する電力供給の目標値、すなわち目標アシスト力に対応する電流指令値(δ軸電流指令値Iδ*)を演算する電流指令値演算部42と、電流指令値に基づいてモータ制御信号を出力するモータ制御信号出力部43とを備えている。
【0026】
電流指令値演算部42には、上記操舵トルクT及び車速SPDが入力される。そして、電流指令値演算部42は、これら操舵トルクT及び車速SPDに基づいて、推定モータ回転角θmに従う二相回転座標系(γ/δ座標系)におけるδ軸電流指令値Iδ*を電流指令値として演算し、モータ制御信号出力部43に出力する。なお、γ/δ座標系は、ロータ(図示略)とともに回転する座標系であって、ロータに設けられた界磁(磁石)の作る磁束の方向に沿ったγ軸と、このγ軸に直交したδ軸とにより規定されるものである。
【0027】
具体的には、電流指令値演算部42は、操舵トルクT(の絶対値)が大きいほど、また車速SPDが遅いほど、より大きな値(絶対値)を有するδ軸電流指令値Iδ*を演算する。なお、本実施形態では、検出される操舵トルクT(の絶対値)が所定トルクTth以下である場合には、その操舵トルクTに関わらずδ軸電流指令値Iδ*がゼロとなる(アシスト力を付与しない)所謂不感帯が設定されている。また、γ軸電流指令値Iγ*はゼロに固定される(Iγ*=0)。
【0028】
モータ制御信号出力部43には、上記電流指令値演算部42の出力するδ軸電流指令値Iδ*とともに、各相電流値Iu,Iv,Iw及び推定モータ回転角θmが入力される。そして、モータ制御信号出力部43は、これら各パラメータに基づいてγ/δ座標系における電流フィードバック制御を実行することによりモータ制御信号を生成する。
【0029】
具体的には、モータ制御信号出力部43に入力された各相電流値Iu,Iv,Iwは、γ/δ変換部51に入力される。同γ/δ変換部51は、推定モータ回転角θmに基づいて、各相電流値Iu,Iv,Iwをγ/δ座標上に写像することにより、γ軸電流値Iγ及びδ軸電流値Iδを演算する。続いて、δ軸電流値Iδは、電流指令値演算部42から入力されたδ軸電流指令値Iδ*とともに減算器52δに入力され、γ軸電流値Iγは、γ軸電流指令値Iγ*とともに減算器52γに入力される。そして、各減算器52γ,52δにおいてγ軸電流偏差ΔIγ及びδ軸電流偏差ΔIδが演算される。
【0030】
これらγ軸電流偏差ΔIγ及びδ軸電流偏差ΔIδは、それぞれ対応するF/B(フィードバック)制御部53γ,53δに入力される。そして、これら各F/B制御部53γ,53δにおいて、電流指令値演算部42が出力するγ軸電流指令値Iγ*及びδ軸電流指令値Iδ*に実電流値であるγ軸電流値Iγ及びδ軸電流値Iδを追従させるべくフィードバック演算が行われる。より具体的には、F/B制御部53γ,53δは、入力されたγ軸電流偏差ΔIγ及びδ軸電流偏差ΔIδに所定のF/Bゲイン(PIゲイン)を乗ずることにより、γ軸電圧指令値Vγ*及びδ軸電圧指令値Vδ*を演算する。
【0031】
これらγ軸電圧指令値Vγ*及びδ軸電圧指令値Vδ*は、推定モータ回転角θmとともにγ/δ逆変換部54に入力される。同γ/δ逆変換部54は、推定モータ回転角θmに基づいて、γ軸電圧指令値Vγ*及びδ軸電圧指令値Vδ*を三相の交流座標上に写像することにより三相の相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を演算する。続いて、これら各相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*は、PWM変換部55に入力される。そして、PWM変換部55は、これら各相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に基づく各相のDUTY指令値を演算するとともに、その各DUTY指令値に示されるオンDUTY比を有するモータ制御信号を生成し、上記駆動回路32に出力する。これにより、モータ制御信号に応じた駆動電力がモータ21に出力され、同駆動電力(通電電流量)に応じたモータトルクがアシスト力として操舵系に付与される。
【0032】
次に、本実施形態の推定モータ回転角の演算について説明する。
推定モータ回転角演算部41には、上記トルクセンサ27により検出される操舵トルクT、各相電流値Iu,Iv,Iw及び各相電圧値Vu,Vv,Vwが入力される。そして、推定モータ回転角演算部41は、これら各状態量に基づいて演算周期毎のモータ回転角の変化量Δθmを演算し、この変化量Δθmを積算することにより、推定モータ回転角θmを演算する。
【0033】
詳述すると、
図3に示すように、推定モータ回転角演算部41に入力された各相電流値Iu,Iv,Iw及び各相電圧値Vu,Vv,Vwは、相誘起電圧値演算部61に入力され、同相誘起電圧値演算部61において各相誘起電圧値eu,ev,ewが演算される。具体的には、相誘起電圧値演算部61は、次の(1)〜(3)式を用いることにより、各相電流値Iu,Iv,Iw及び各相電圧値Vu,Vv,Vwに基づいて各相誘起電圧値eu,ev,ewを推定する。
【0034】
eu=Vu−Iu・Ru ・・・(1)
ev=Vv−Iv・Rv ・・・(2)
ew=Vw−Iw・Rw ・・・(3)
なお、上記(1)〜(3)式は周知のモータ電圧方程式であり、「Ru」、「Rv」、「Rw」は各相のモータコイル33u,33v,33wの抵抗値を示している。
【0035】
次に、相誘起電圧値演算部61において演算された各相誘起電圧値eu,ev,ewは、誘起電圧値演算部62に入力される。そして、誘起電圧値演算部62は、三相交流座標系における各相誘起電圧値eu,ev,ewをγ/δ座標系における各軸誘起電圧値eγ,eδに変換し、次の(4)式を用いることにより、モータ21で発生する誘起電圧値Eを演算する。なお、誘起電圧値演算部62は、後述する積算部64により演算された一演算周期前の推定モータ回転角θmを用いて各相誘起電圧値eu,ev,ewを各軸誘起電圧値eγ,eδに変換する。
【0036】
【数1】
次に、誘起電圧値演算部62において演算された誘起電圧値Eは、演算周期毎のモータ回転角の変化量Δθmを演算する変化量演算部63に入力される。変化量演算部63には、誘起電圧値Eに基づいて第1変化量Δθmω(の絶対値)を演算する第1変化量演算部65、及び操舵トルクTに基づいて第2変化量ΔθmT(の絶対値)を演算する第2変化量演算部66が設けられている。そして、変化量演算部63は、誘起電圧値E(の絶対値)が所定電圧値Ethよりも大きい場合には、第1変化量演算部65の演算する第1変化量Δθmωに基づく変化量Δθmを積算部64に出力する。一方、誘起電圧値Eの絶対値が所定電圧値Eth以下の場合には、第2変化量演算部66の演算する第2変化量ΔθmTに基づく変化量Δθmを積算部64に出力する。なお、モータ21の回転角速度が大きいほど、誘起電圧値Eの値が大きくなるとともに安定することを踏まえ、所定電圧値Ethは、誘起電圧値Eが安定し、当該誘起電圧に基づく変化量Δθmの精度が担保されるような値に設定されている。
【0037】
具体的には、第1変化量演算部65は、次の(5)式を用いることにより、モータ21の推定モータ回転角速度ωmを演算する。
【0038】
【数2】
なお、上記(5)式において、「Ke」は、誘起電圧定数(逆起定数)である。そして、第1変化量演算部65は、推定モータ回転角速度ωmに演算周期を乗算することにより演算周期毎の第1変化量Δθmωを演算し、当該第1変化量Δθmωの絶対値を切り替え制御部67に出力する。
【0039】
一方、第2変化量演算部66には、操舵トルクTと第2変化量ΔθmTとの関係を示すマップ66aが設けられている。そして、第2変化量演算部66は、当該マップ66aを参照することにより第2変化量ΔθmTを演算し、当該第2変化量ΔθmTの絶対値を切り替え制御部67に出力する。なお、マップ66aは、操舵トルクT(の絶対値)が所定の第1トルクT1以下の領域では第2変化量ΔθmTがゼロとなるように設定されている。また、操舵トルクTが第1トルクT1よりも大きく第2トルクT2以下の領域では操舵トルクTの増加に比例して増加し、第2トルクT2よりも大きな領域では一定値となるように設定されている。
【0040】
また、変化量演算部63には、誘起電圧値演算部62で演算された誘起電圧値Eに基づいて、切り替え制御部67に入力された第1変化量Δθmω及び第2変化量ΔθmTのいずれを出力するかの判定を行う切り替え判定部68が設けられている。切り替え判定部68は、誘起電圧値Eが所定電圧値Ethよりも大きいか否かを判定し、誘起電圧値Eが所定電圧値Ethよりも大きい場合には、第1変化量Δθmωを出力すべき旨の判定信号S_swを切り替え制御部67に出力する。一方、誘起電圧値Eが所定電圧値Eth以下の場合には、第2変化量ΔθmTを出力すべき旨の判定信号S_swを切り替え制御部67に出力する。そして、切り替え制御部67は、判定信号S_swに応じて第1変化量Δθmω又は第2変化量ΔθmTの絶対値を変化量Δθmの絶対値として回転方向決定部69に出力する。
【0041】
回転方向決定部69は、後述するモータ回転方向推定部71から出力される回転方向信号S_dに応じて変化量Δθmの符号(モータ21の回転方向)を決定し、同変化量Δθmを積算部64に出力する。
【0042】
次に、変化量演算部63において演算された変化量Δθmは、同変化量Δθmを積算する積算部64に入力される。この積算部64には、一演算周期前の推定モータ回転角θmの前回値を記憶するメモリ64aが設けられている。そして、積算部64は、メモリ64aに記憶された一演算周期前の推定モータ回転角θmに変化量Δθmを積算する(変化量Δθmの符号に応じて加算又は減算する)ことにより推定モータ回転角θmを演算し、上記γ/δ変換部51、γ/δ逆変換部54(
図2参照)及び誘起電圧値演算部62に出力する。なお、イグニッションオン時(起動時)には、推定モータ回転角θmの初期値として任意の値(例えば「0」)を用い、モータ21が回転し始めたら誘起電圧等に基づいて実際のモータ回転角に近づくように推定モータ回転角θmを補正する。
【0043】
すなわち、
図4のフローチャートに示すように、推定モータ回転角演算部41は、操舵トルクT、各相電流値Iu,Iv,Iw及び各相電圧値Vu,Vv,Vwを取得すると(ステップ101)、上記(1)〜(3)式に基づいて各相誘起電圧値eu,ev,ewを演算する(ステップ102)。続いて、推定モータ回転角演算部41は、各相誘起電圧値eu,ev,ewに基づいて誘起電圧値Eを演算する(ステップ103)。そして、ステップ104〜109において、この誘起電圧値E及び操舵トルクTに基づいてモータ回転角の変化量Δθmを演算する。
【0044】
具体的には、推定モータ回転角演算部41は、誘起電圧値Eの絶対値が所定電圧値Ethよりも大きいか否かを判定する(ステップ104)。誘起電圧値Eの絶対値が所定電圧値Ethよりも大きい場合には(ステップ104:YES)、上記(5)式に基づいて推定モータ回転角速度ωmを演算し(ステップ105)、この推定モータ回転角速度ωmに基づいて第1変化量Δθmω(変化量Δθm)の絶対値を演算する(ステップ106)。一方、誘起電圧値Eの絶対値が所定電圧値Eth以下の場合には(ステップ104:NO)、マップ66aを参照することにより操舵トルクTに基づいて第2変化量ΔθmT(変化量Δθm)の絶対値を演算する(ステップ107)。続いて、推定モータ回転角演算部41は、モータ回転方向を推定し(ステップ108)、その推定結果に応じてステップ106又はステップ107において演算された変化量Δθmの符号を決定する(ステップ109)。そして、推定モータ回転角演算部41は変化量Δθmを積算することにより、推定モータ回転角θmを演算する(ステップ110)。
【0045】
(モータ回転方向推定)
次に、本実施形態のEPSにおけるモータの回転方向推定について説明する。
上述のように、通常、ステアリング2は操舵トルクTの方向に回転するが、例えば車両が旋回した後、路面摩擦力に応じたセルフアライニングトルクによりステアリング2を切り戻す際において運転者がステアリング2を軽く把持した場合等では、操舵トルクTの方向にステアリング2が回転しなくなる。そのため、ステアリング2の回転に連動して回転するモータ21の回転方向を操舵トルクTの方向に応じて一義的に推定し、変化量Δθmの符号を決めると、推定モータ回転角θmが実際のモータ回転角からずれることがあり、例えばモータ21が振動して操舵フィーリングの低下を招く虞がある。なお、セルフアライニングトルクによりステアリング2が切り戻される際の回転速度は比較的速く、通常、誘起電圧値Eは所定電圧値Ethよりも大きくなる。
【0046】
この点、
図3に示すように、推定モータ回転角演算部41は、モータ21の回転方向を推定するモータ回転方向推定部71を備えている。モータ回転方向推定部71には、操舵トルクT、各相誘起電圧値eu,ev,ew及び誘起電圧値Eが入力される。そして、モータ回転方向推定部71は、誘起電圧値Eが所定電圧値Ethよりも大きい場合には、二相固定座標系(α/β座標系)における各軸誘起電圧値eα,eβに基づいて回転方向を推定し、回転方向信号S_dを出力する。ここで、α/β座標系は、ロータ(図示略)の中心を原点としてα軸と、このα軸に直交したβ軸とにより規定される固定座標系である。
【0047】
なお、モータ回転方向推定部71は、誘起電圧値Eが所定電圧値Eth以下の場合には、モータ21がステアリング2の回転に連動して回転するものであり、操舵トルクTの方向にステアリング2が回転するものとして、トルクセンサ27により検出された操舵トルクTの符号(方向)に応じた回転方向信号S_dを出力する。
【0048】
詳しくは、モータ回転方向推定部71は、誘起電圧値E(の絶対値)が所定電圧値Ethよりも大きい場合には、各相誘起電圧値eu,ev,ewをα/β座標系上に写像することにより、第1座標軸の軸誘起電圧値としてのα軸誘起電圧値eα、及び第2座標軸の軸誘起電圧値としてのβ軸誘起電圧値eβを演算(推定)する。そして、モータ回転方向推定部71は、α軸誘起電圧値eα及びβ軸誘起電圧値eβに基づいてモータ21の大雑把な回転位置(粗回転位置)を推定し、この粗回転位置の遷移に基づいてモータ21の回転方向を推定する。
【0049】
ここで、
図5に示すように、各軸誘起電圧値eα,eβは、それぞれモータ21の回転に伴って正弦波状に変化するとともに、α軸誘起電圧値eαとβ軸誘起電圧値eβとは、互いに位相が電気角で90°ずれた波形となる。つまり、
図6に示すように、各軸誘起電圧値eα,eβを成分とする誘起電圧ベクトルは、α/β座標系において円Cを描くように回転する。
【0050】
従って、各軸誘起電圧値eα,eβの符号の組み合わせによって、モータ回転角(誘起電圧ベクトルのα軸に対する角度)が90°間隔で4分割された領域(α/β座標系における第1象限〜第4象限)のうち、いずれの領域内に存在しているかが決まる。換言すれば、モータ回転角が第1〜第4象限のいずれの領域内の角度であるかによって、各軸誘起電圧値eα,eβの符号の組み合わせが変化する。具体的には、各軸誘起電圧値eα,eβの符号がともに正(+)である場合には、モータ回転角はα/β座標系における第1象限内の角度となる。α軸誘起電圧値eαの符号が負(−)、且つβ軸誘起電圧値eβの符号が正(+)である場合には、モータ回転角は第2象限内の角度となる。各軸誘起電圧値eα,eβの符号がともに負(−)である場合には、モータ回転角は第3象限内の角度となる。α軸誘起電圧値eαの符号が正(+)、且つβ軸誘起電圧値eβの符号が負(−)である場合には、モータ回転角は第4象限内の角度となる。
【0051】
また、α軸誘起電圧値eα(の絶対値)とβ軸誘起電圧値eβ(の絶対値)との大小関係によって、第1〜第4象限内をそれぞれ均等に2分割した領域(
図6における「1」〜「8」の領域)のうち、どちらの領域内に存在しているかが決まる。換言すれば、モータ回転角が第1〜第4象限のいずれかに存在する場合において、それぞれ均等に2分割した領域のうち、どちらの領域内の角度であるかによって、α軸誘起電圧値eαとβ軸誘起電圧値eβとの大小関係が変化する。具体的には、例えば各軸誘起電圧値eα,eβの符号がともに正(+)である場合に、α軸誘起電圧値eαがβ軸誘起電圧値eβ以上であると、モータ回転角は「1」の領域内に存在し、α軸誘起電圧値eαがβ軸誘起電圧値eβ未満であると、モータ回転角は「2」の領域内に存在する。
【0052】
従って、各軸誘起電圧値eα,eβの符号の組み合わせ、及びこれらの大小関係に基づいて、モータ回転角が
図5及び
図6において電気角で45°間隔で8分割された「1」〜「8」の領域のうち、いずれの領域に存在するかを推定することが可能になる。すなわち、モータ21の粗回転位置を8区分で検出可能となる。
【0053】
この点を踏まえ、モータ回転方向推定部71のメモリ71aには、
図7に示すような各軸誘起電圧値eα,eβの符号及び大小関係と、粗回転位置との対応表が記憶されており、モータ回転方向推定部71は、当該対応表を参照することにより各軸誘起電圧値eα,eβに基づいて粗回転位置情報S_pを得る。また、メモリ71aには、モータ21の粗回転位置を示す粗回転位置情報S_pが記憶されている。なお、本実施形態では、各軸誘起電圧値eα,eβの符号は、該各軸誘起電圧値eα,eβの値がゼロ以上の場合に正となり、ゼロ未満の場合に負となるように設定されている。そして、モータ回転方向推定部71は、粗回転位置情報S_pが変化したときの遷移の態様に応じてモータ21の回転方向を推定し、その旨を示す回転方向信号S_dを回転方向決定部69に出力するとともに、メモリ71aに記憶された粗回転位置情報S_pを更新する。
【0054】
具体的には、メモリ71aに記憶された粗回転位置情報S_pが示すモータ21の粗回転位置が「1」である場合に、例えば粗回転位置が「8」に変化したときは、モータ21は右回り(時計回り)に回転していると推定し、メモリ71aの粗回転位置情報S_pを「8」に更新する。一方、例えば粗回転位置が「2」に変化したときには、モータ21は左回り(反時計回り)に回転していると推定し、メモリ71aの粗回転位置情報S_pを「2」に更新する。
【0055】
次に、本実施形態のモータ回転方向推定部によるモータの回転方向推定の処理手順を
図8のフローチャートに従って説明する。
モータ回転方向推定部71は、誘起電圧値Eの絶対値が所定電圧値Ethよりも大きいか否かを判定し(ステップ201)、誘起電圧値Eが所定電圧値Ethよりも大きい場合には(ステップ201:YES)、各軸誘起電圧値eα,eβを演算する(ステップ202)。続いて、
図7に示す対応表を参照することにより粗回転位置を推定して粗回転位置情報S_pを取得し(ステップ203)、継続して誘起電圧値Eが所定電圧値Ethよりも大きい状態であることを示す継続フラグがセットされているか否かを判定する(ステップ204)。
【0056】
続いて、モータ回転方向推定部71は、継続フラグがセットされていない場合には(ステップ204:NO)、継続フラグをセットし(ステップ205)、メモリ71aに記憶された粗回転位置情報S_pを更新する(ステップ206)。これに対し、継続フラグがセットされている場合には(ステップ204:YES)、ステップ203で推定した粗回転位置が、メモリ71aに記憶された粗回転位置情報S_pの示す粗回転位置から変化したか否かを判定する(ステップ207)。続いて、粗回転位置が変化した場合には(ステップ207:YES)、その遷移に基づいてモータ21の回転方向を推定し、回転方向信号S_dを出力する(ステップ208)。そして、モータ回転方向推定部71は、メモリ71aに記憶された粗回転位置情報S_pをステップ203で得られた情報に更新する(ステップ209)。なお、粗回転位置が変化していない場合には(ステップ207:NO)、ステップ208,209の処理を実行しない。
【0057】
一方、モータ回転方向推定部71は、誘起電圧値Eが所定電圧値Eth以下の場合には(ステップ201:NO)、継続フラグをクリアしてから(ステップ210)、操舵トルクTに基づいてモータ21の回転方向を推定し、回転方向信号S_dを出力する(ステップ210)なお、ステップ203の処理が粗回転位置推定手段に相当し、ステップ208の処理が回転方向推定手段に相当する。
【0058】
以上記述したように、本実施形態によれば、以下の作用効果を奏することができる。
(1)モータ回転方向推定部71は、誘起電圧値Eが所定電圧値Ethよりも大きい場合には、各軸誘起電圧値eα,eβの符号の組み合わせ、及びこれらの大小関係に基づいてモータ21の粗回転位置を推定し、粗回転位置の遷移に基づいてモータ21の回転方向を推定するようにした。
【0059】
すなわち、各軸誘起電圧値eα,eβは、互いに位相が90°ずれた正弦波状に変化するため、これらの符号の組み合わせ及び大小関係によって、モータ回転角が45°間隔で8つに分けられた「1」〜「8」の領域のうち、いずれの領域に存在しているか、すなわちモータ21の粗回転位置を推定することが可能となる。そして、検出可能な粗回転位置が8区分あるため、粗回転位置の遷移に基づいてモータ21の回転方向を推定することが可能となる。従って、上記構成のように、モータ21の回転に応じて変化する各軸誘起電圧値eα,eβに基づく回転方向によって変化量Δθmの符号(モータの回転方向)を決定することで、操舵トルクTのようにモータ21の回転方向との関係が一定ではないパラメータによって同変化量Δθmの符号を決定する場合と比べ、精度良くモータ回転角を推定することができる。これにより、操舵トルクの方向とステアリング2の回転方向が一致しない状態でも、モータ21の回転方向を正確に推定して精度良くモータ回転角を推定することができ、振動等を抑制して操舵フィーリングの優れたEPSを提供することができる。また、上記構成では、粗回転位置を各軸誘起電圧値eα,eβの符号の組み合わせ、及びこれらの大小関係に基づいて推定される粗回転位置によりモータ21の回転方向を推定するため、三角関数等を用いた複雑な演算により回転方向を推定する場合に比べ、演算負荷が増大することを抑制できる。
【0060】
(2)各軸誘起電圧値eα,eβの符号の組み合わせ、及びこれらの大小関係に基づいて粗回転位置を推定することにより、符号の組み合わせのみに基づいてモータ21の粗回転位置を推定する場合に比べ、同粗回転位置の角度範囲が細分化されるため、速やかにモータの回転方向を推定することができる。
【0061】
なお、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の態様にて実施することもできる。
・上記実施形態では、第1変化量演算部65は、誘起電圧値Eに基づく推定モータ回転角速度ωmを用いて第1変化量Δθmωを演算した。しかし、これに限らず、モータ21の粗回転位置が遷移する時間に基づいてモータ回転角速度を演算し、当該モータ回転角速度を用いて第1変化量Δθmωを演算してもよい。
【0062】
・上記実施形態では、各軸誘起電圧値eα,eβの符号の組み合わせ、及びこれらの大小関係に基づいて、モータ回転角が「1」〜「8」の領域のうち、いずれの領域内に存在するかを推定することにより、粗回転位置を8区分で推定した。しかし、これに限らず、各軸誘起電圧値eα,eβの符号の組み合わせのみに基づいて、モータ回転角がα/β座標系における第1象限〜第4象限のうち、いずれの領域内に存在するかを推定することにより、粗回転位置を4区分で推定してもよい。
【0063】
・上記実施形態では、各軸誘起電圧値eα,eβの符号は、該各軸誘起電圧値eα,eβの値がゼロ以上の場合に正となり、ゼロ未満の場合に負となるように設定した。しかし、各軸誘起電圧値eα,eβは、ノイズ等の影響によって滑らかな正弦波状に変化せず、乱れた波形になることがある。そして、各軸誘起電圧値eα,eβがゼロ近傍で乱れると、実際のモータ回転角の変化とは無関係にこれらの符号が変化してしまい、粗回転位置が遷移することでモータ21の回転方向を誤って推定する虞がある。
【0064】
この点を踏まえ、例えば
図9に示すように、各軸誘起電圧値eα,eβの符号が変化する閾値として、該符号が正から負に変化する場合の各負側閾値ethnをゼロよりも小さく設定するとともに、負から正に変化する場合の正側閾値ethpをゼロよりも大きく設定し、これらの符号変化にヒステリシスを設けてもよい。この構成では、α軸誘起電圧値eα(β軸誘起電圧値eβ)の符号が正である場合、その値がゼロ未満となってもその符号は変化せず、負側閾値ethn以下となる回転角θ1で、その符号が負となる。一方、α軸誘起電圧値eα(β軸誘起電圧値eβ)の符号が負である場合、その値がゼロより大きくなってもその符号は変化せず、正側閾値ethp以上となる回転角θ2で、その符号が正となる。このように上記構成によれば、各軸誘起電圧値eα,eβの符号変化にヒステリシスが設けられるため、ノイズ等の影響で各軸誘起電圧値eα,eβがゼロ近傍で乱れても、これらの符号が変化し難くなる。これにより、モータ21の回転方向を誤って推定することを防ぎ、より高精度にモータ回転角を推定することができる。
【0065】
・上記実施形態では、誘起電圧値Eが所定電圧値Ethよりも大きい場合にのみ粗回転位置に基づいてモータ21の回転方向を推定したが、これに限らず、誘起電圧値Eの大きさにかかわらず、粗回転位置に基づいてモータ21の回転方向を推定してもよい。
【0066】
・上記実施形態では、起動時に推定モータ回転角θmの初期値として任意の値を用いたが、これに限らず、例えば起動時に所定の通電パターンに固定して通電する相固定通電を行い、この通電パターンに対応したモータ回転角を初期値として用いてもよい。
【0067】
・上記実施形態では、本発明を、回転角センサを設けないセンサレスタイプのモータ21を駆動源とするEPSに適用したが、これに限らず、回転角センサが設けられたモータを駆動源とするEPS1に適用し、回転角センサの故障時に上記センサレス制御を実行するようにしてもよい。
【0068】
・上記実施形態では、本発明をEPSアクチュエータ22の駆動源であるモータ21を制御するモータ制御装置としてのECU23に具体化した。しかし、これに限らず、例えば差動機構を用いてステアリング操作に基づく入力軸の回転にモータ駆動に基づく回転を上乗せして出力軸に伝達する伝達比可変装置のモータ等、他のモータを制御するモータ制御装置に具体化してもよい。
【0069】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について以下に追記する。
(イ)操舵系にアシスト力を付与する操舵力補助装置の駆動源であるモータを、請求項1〜3のいずれか一項に記載のモータ制御装置を用いて制御することを特徴とする操舵制御装置。