特許第5708488号(P5708488)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5708488フィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物及びそれを用いたポリイミド膜
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  • 特許5708488-フィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物及びそれを用いたポリイミド膜 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5708488
(24)【登録日】2015年3月13日
(45)【発行日】2015年4月30日
(54)【発明の名称】フィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物及びそれを用いたポリイミド膜
(51)【国際特許分類】
   C08L 79/08 20060101AFI20150409BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20150409BHJP
【FI】
   C08L79/08
   C08K3/04
【請求項の数】7
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2011-520917(P2011-520917)
(86)(22)【出願日】2010年6月28日
(86)【国際出願番号】JP2010060998
(87)【国際公開番号】WO2011001949
(87)【国際公開日】20110106
【審査請求日】2013年4月26日
(31)【優先権主張番号】特願2009-153928(P2009-153928)
(32)【優先日】2009年6月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(74)【代理人】
【識別番号】100129610
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 暁子
(72)【発明者】
【氏名】中山 剛成
(72)【発明者】
【氏名】高林 誠一郎
(72)【発明者】
【氏名】中山 知則
【審査官】 久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−247987(JP,A)
【文献】 特開2004−059694(JP,A)
【文献】 特開2005−248064(JP,A)
【文献】 特開2001−002791(JP,A)
【文献】 特開2008−116838(JP,A)
【文献】 特開2009−025625(JP,A)
【文献】 特開2005−220248(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 79/00−79/08
C08K 3/00−3/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド前駆体溶液組成物を用いてフィラーを溶媒に分散させ、
前記フィラーが、微細な炭素繊維を含有し、
前記微細な炭素繊維が、炭素原子のみからなるグラファイト網面により形成され、頭頂部と開放端を備える胴部とを有する釣鐘状構造単位を有し、前記釣鐘状構造単位が中心軸を共有して2〜30個積み重なって釣鐘状構造単位集合体を形成していることを特徴とするフィラーを含有する分散溶液。
【請求項2】
フィラーの濃度が、フィラーを含有する分散溶液全体の質量に対して1〜7質量%であることを特徴とする請求項1記載のフィラーを含有する分散溶液。
【請求項3】
フィラーを含有する分散溶液中のポリイミド前駆体の濃度が、フィラー濃度に対して50〜300質量%であることを特徴とする請求項1または2に記載のフィラーを含有する分散溶液。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のフィラーを含有する分散溶液に、テトラカルボン酸二無水物及び/またはその誘導体と、ジアミン化合物とを溶解し、重合させて得られるフィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物。
【請求項5】
請求項記載のフィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物を用いて得られるポリイミド。
【請求項6】
フィラーを含有する分散溶液にテトラカルボン酸二無水物及び/またはその誘導体と、ジアミン化合物とを溶解し、重合して得られるフィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物を用いるポリイミドの製造方法において、ポリイミド前駆体溶液組成物を用いてフィラーを溶媒に分散して前記フィラーを含有する分散溶液を得、
前記フィラーが、微細な炭素繊維を含有し、
前記微細な炭素繊維が、炭素原子のみからなるグラファイト網面により形成され、頭頂部と開放端を備える胴部とを有する釣鐘状構造単位を有し、前記釣鐘状構造単位が中心軸を共有して2〜30個積み重なって釣鐘状構造単位集合体を形成していることを特徴とするポリイミドの製造方法。
【請求項7】
溶媒中、フィラーとポリイミド前駆体溶液組成物とを混合し、フィラーを含有する分散溶液を得る工程と、
前記フィラーを含有する分散溶液と、溶媒と、テトラカルボン酸二無水物及び/またはその誘導体とジアミン化合物とを混合し、テトラカルボン酸二無水物及び/またはその誘導体とジアミン化合物を反応させてフィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物を得る工程と
を含み、
前記フィラーが、微細な炭素繊維を含有し、
前記微細な炭素繊維が、炭素原子のみからなるグラファイト網面により形成され、頭頂部と開放端を備える胴部とを有する釣鐘状構造単位を有し、前記釣鐘状構造単位が中心軸を共有して2〜30個積み重なって釣鐘状構造単位集合体を形成していることを特徴とする、フィラーが分散されたポリイミドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィラーを含有する分散溶液の製造方法、フィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物、及びフィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物から製造されるポリイミドに関する。このフィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物は、フィラーの分散安定性が極めて良好であり、この組成物を用いれば、優れた電気的特性及び機械的特性を有するポリイミドを、安定的かつ容易に得ることができる。また、この組成物から得られるポリイミド膜またはポリイミド材料は、例えば、電子写真方式の複写機、プリンタやファクシミリ等の電子写真画像形成装置の定着ベルト、中間転写ベルト、リチウムイオン二次電池の結着剤、被覆剤、及び集電体等に使用することができる。
【背景技術】
【0002】
一般的に、ポリイミドは、優れた耐熱性や機械的特性を有している。フィルム形状に加工されたポリイミド膜は、フレキシブル絶縁基板や耐熱性テープ基材として、また管状形状に加工されたポリイミドは、加熱物品の搬送用ベルト、電子写真方式の定着ベルト、あるいは中間転写ベルトなどとして好適に用いられている。また、高い電解液耐性よりリチウムイオン二次電池の結着剤、被覆剤、及び集電体等にも好適に用いられている。
【0003】
これらのいずれの用途においても、ポリイミドに導電性あるいは熱伝導性を付与するために、フィラーをポリイミド前駆体溶液組成物に添加している。
【0004】
特許文献1には、両イオン性界面活性剤を分散剤として用いた、カーボンブラックを含有するポリイミド前駆体溶液組成物の分散液が記載されている。この分散液を安定させようとする場合、両イオン性界面活性剤の使用量が多くなり、分散液中に気泡が多く存在することとなる。その結果、この分散液を用いて得られるポリイミドは、成形時に発泡が生じ、物理的特性が劣るという問題点がある。
【0005】
特許文献2には、アミノ化合物を分散剤として用いた、カーボンブラックを含有するポリイミド前駆体溶液組成物の分散液が記載されている。しかし、この分散液はカーボンブラックが沈降、凝集しやすく不安定であり、この分散液を用いて得られるポリイミドは、機械特性、熱伝導率及び抵抗率などの安定性が悪いため、複写機などに用いられるベルトとして問題があり、また、リチウムイオン二次電池の結着剤、被覆剤、及び集電体等として耐久性が劣るという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−146042号公報
【特許文献2】特開2007−302769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のように、例えば、カーボンブラックのように凝集性及び沈降性が高く、導電性及び熱伝導性を有するフィラーを、ポリイミド前駆体溶液組成物に分散させようとすると、凝集物が多く残存したり、あるいは沈降したりすることなどにより、フィラーの分散安定性が良好なポリイミド前駆体溶液組成物を得るのが困難であった。
【0008】
本発明の目的は、フィラーの分散安定性が極めて良好なフィラーを含有する分散溶液の製造方法、フィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物、及びフィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物から製造されるポリイミドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の事項に関する。
【0010】
1.ポリイミド前駆体溶液組成物を用いてフィラーを溶媒に分散させたことを特徴とするフィラーを含有する分散溶液。
【0011】
2.フィラーの濃度が、フィラーを含有する分散溶液全体の質量に対して1〜7質量%であることを特徴とする項1記載のフィラーを含有する分散溶液。
【0012】
3.電子導電性及び/または熱伝導性を有するフィラーの1つ以上をフィラーとして用いる項1または2記載のフィラーを含有する分散溶液。
【0013】
4.フィラーを含有する分散溶液中のポリイミド前駆体の濃度が、フィラー濃度に対して50〜300質量%であることを特徴とする項1〜3記載のフィラーを含有する分散溶液。
【0014】
5.項1〜4記載のフィラーを含有する分散溶液に、テトラカルボン酸二無水物及び/またはその誘導体と、ジアミン化合物とを溶解し、重合させて得られるフィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物。
【0015】
6.項5記載のフィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物を用いて得られるポリイミド。
【0016】
7.フィラーを含有する分散溶液にテトラカルボン酸二無水物及び/またはその誘導体と、ジアミン化合物とを溶解し、重合して得られるフィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物を用いるポリイミド膜の製造方法において、ポリイミド前駆体溶液組成物を用いてフィラーを溶媒に分散して前記フィラーを含有する分散溶液を得ることを特徴とするポリイミドの製造方法。
【0017】
8.溶媒中、フィラーとポリイミド前駆体溶液組成物とを混合し、フィラーを含有する分散溶液を得る工程と、
前記フィラーを含有する分散溶液と、溶媒と、テトラカルボン酸二無水物及び/またはその誘導体とジアミン化合物とを混合し、テトラカルボン酸二無水物及び/またはその誘導体とジアミン化合物を反応させてフィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物を得る工程と
を含むことを特徴とする、フィラーが分散されたポリイミドの製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明のフィラーを含有する分散溶液は、溶媒とフィラーとの親和性を高めるため、ポリイミド前駆体溶液組成物を含有する。この分散溶液は、フィラーにポリイミド前駆体溶液組成物がコーティングされる。このため、上記のように両イオン性界面活性剤やアミノ化合物を分散剤として用いた場合に比べてフィラーの分散性が極めて高く、さらに、分散安定性にも優れるため、長期保管してもフィラーの凝集及び沈降を生じにくい。このように、ポリイミド前駆体溶液組成物中にフィラーが均一に分散されているため、この組成物を用いて製造したポリイミドは、安定した電気特性及び熱伝導性を発現することができる。
【0019】
本発明のフィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物を用いて製造したポリイミドは、例えば、電子写真方式の複写機、プリンタやファクシミリ等の電子写真画像形成装置の定着ベルト、中間転写ベルト、及びリチウムイオン二次電池の結着剤、被覆剤、集電体等に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】(a)微細な炭素繊維を構成する最小構造単位(釣鐘状構造単位)を模式的に示す図である。(b)釣鐘状構造単位が、2〜30個積み重なった集合体を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のポリイミドは、その製造方法の1つの態様において、
(第1工程)溶媒中、テトラカルボン酸二無水物及び/またはその誘導体と、ジアミン化合物とを反応させて、ポリイミド前駆体溶液組成物を得る工程と、
(第2工程)前記第1工程で得られるポリイミド前駆体組成物と、フィラーと溶媒とを混合して、フィラーを含有する分散液を得る工程と、
(第3工程)前記第2工程で得られるフィラーを含有する分散液と、溶媒と、テトラカルボン酸二無水物及び/またはその誘導体とジアミン化合物とを混合し、テトラカルボン酸二無水物及び/またはその誘導体とジアミン化合物を反応させて、フィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物を得る工程と
(第4工程)第3工程で得られるフィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物中の、ポリイミド前駆体をイミド化することにより、フィラーが分散されたポリイミドを得る工程と
を含むことを特徴とする。
【0022】
<フィラーを含有する前のポリイミド前駆体溶液組成物>
上記第1工程では、テトラカルボン酸二無水物及び/またはその誘導体と、ジアミン化合物を溶媒の存在下で反応させ、ポリイミド前駆体溶液組成物が得られる。なお、このポリイミド前駆体溶液組成物は、使用する溶媒を含有する概念である場合もある。
【0023】
ポリイミド前駆体溶液組成物の調製は、公知の方法や条件を好適に採用することができる。
【0024】
テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a−BPDA)、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ベリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、エチレンテトラカルボン酸二無水物、エチレングリコール ビスアンヒドロトリメリテート、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。特に、3,3’,4,4’ −ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)を用いることが好ましい。これらは、単独でも2種以上混合しても用いることができる。
【0025】
また、ジアミン化合物としては、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジクロロベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、1,5−ジアミノナフタレン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニルジアミン、ベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、2,4−ジアミノトルエン、ビス(4−アミノ−3−カルボキシフェニル)メタン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、2,4−ビス(β−アミノ−第三ブチル)トルエン、ビス(p−β−アミノ−第三ブチルフェニル)エーテル、ビス(p−β−メチル−6−アミノフェニル)ベンゼン、ビス−p−(1,1−ジメチル−5−アミノ−ペンチル)ベンゼン、1−イソプロピル−2,4−m−フェニレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、ジ(p−アミノシクロヘキシル)メタン、へキサメチレンジアミン、へプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ジアミノプロピルテトラメチレン、3−メチルヘプタメチレンジアミン、4,4−ジメチルヘプタメチレンジアミン、2,11−ジアミノドデカン、1,2−ビス−3−アミノプロポキシエタン、2,2−ジメチルプロピレンジアミン、3−メトキシヘキサメチレンジアミン、2,5−ジメチルヘキサメチレンジアミン、2,5−ジメチルヘプタメチレンジアミン、3−メチルへプタメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、2,17−ジアミノエイコサデカン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,10−ジアミノ−1,10−ジメチルデカン、1,12−ジアミノオクタデカン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン等が挙げられる。特に、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、p−フェニレンジアミン(PPD)、ビス(4−アミノ−3−カルボキシフェニル)メタン(MBAA)、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン(BAPP)を用いることが好ましい。これらは、単独でも2種以上混合しても用いることができる。
【0026】
テトラカルボン酸二無水物及び/またはその誘導体と、ジアミン化合物の好ましい組合せとしては、たとえば、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)と4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、s−BPDAとp−フェニレンジアミン(PPD)等の組合せが挙げられる。
【0027】
ポリイミド前駆体溶液組成物の調製に用いる溶媒は、ポリイミド前駆体溶液組成物を溶解し得るものであって、常圧での沸点が300℃以下の有機極性溶媒が好ましい。例えば、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルカプロラクタムなどの窒素原子を分子内に含有する溶媒、例えば、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ヘキサメチルスルホルアミドなどの硫黄原子を分子内に含有する溶媒、例えば、クレゾール、フェノール、キシレノールなどフェノール類からなる溶媒、例えば、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(テトラグライム)などの酸素原子を分子内に含有する溶媒、その他として、アセトン、ジメチルイミダゾリン、メタノール、エタノール、エチレングリコール、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ピリジン、テトラメチル尿素などを挙げることができる。特に、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)を用いることが好ましい。これらの溶媒は、単独で又は複数を混合して好適に使用される。
【0028】
上記第1工程においては、溶媒に所定の組成比のテトラカルボン酸二無水物及び/またはその誘導体と、ジアミン化合物を加え、撹拌することによりポリイミド前駆体溶液組成物を調製する。溶媒中におけるテトラカルボン酸二無水物及び/またはその誘導体、及びジアミン化合物の合計の濃度は、種々の条件に応じて設定されるが、通常、反応溶液全量において5〜30重量%が好ましい。これらを撹拌する際の反応条件は、特に限定されないが、反応温度は80℃以下、特に5〜50℃に設定することが好ましい。反応温度が低すぎると反応が進行しない、あるいは反応が進行するまでに時間がかかりすぎ、高すぎるとイミド化が進行してしまうなどの問題が生じてくる。また、反応時間は1〜100時間であることが好ましい。
【0029】
<フィラーを含有する分散溶液>
本発明において「フィラーを含有する分散溶液」とは、上記フィラーを含有する前のポリイミド前駆体溶液組成物と溶媒とが混合された混合液中にフィラーが分散された溶液のことをいう。
【0030】
上記第2工程において加える電子導電性を付与するためのフィラーとしては、炭素繊維、カーボンブラック、グラファイト、アルミニウムや銅合金等の金属、もしくは合金、酸化錫、酸化亜鉛、チタン酸カリウム、酸化錫−酸化インジウム、あるいは酸化錫−酸化アンチモン複合酸化物等の金属酸化物等の導電性あるいは半導電性の微粉末が好適に用いられる。これらの導電材は単独でも複数種を併用して用いることもできる。ここで、カーボンブラックとしては、その揮発成分が1〜25質量%、好ましくは3〜15質量%程度のものが好適である。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。
【0031】
さらに、具体的には、「AMC」(宇部興産社製)、「ケッチェンブラックEC−300JD」(ライオン社製、pH9.0、揮発分0.5質量%)、「ケッチェンブラックEC−600JD」(ライオン社製、pH9.0、揮発分0.7質量%)、「プリンテックス150T」(デグサ社製、pH4.5、揮発分10.0質量%)、「スペシャルブラック350」(デグサ社製、pH3.5、揮発分2.2質量%)、「スペシャルブラック100」(デグサ社製、pH3.3、揮発分2.2質量%)、「スペシャルブラック250」(デグサ社製、pH3.1、揮発分2.0質量%)、「スペシャルブラック5」(デグサ社製、pH3.0、揮発分15.0質量%)、「スペシャルブラック4」(デグサ社製、pH3.0、揮発分14.0質量%)、「スペシャルブラック4A」(デグサ社製、pH3.0、揮発分14.0質量%)、「スペシャルブラック550」(デグサ社製、pH2.8、揮発分2.5質量%)、「スペシャルブラック6」(デグサ社製、pH2.5、揮発分18.0質量%)、「カラーブラックFW200」(デグサ社製、pH2.5、揮発分20.0質量%)、「カラーブラックFW2」(デグサ社製、pH2.5、揮発分16.5質量%)、「カラーブラックFW2V」(デグサ社製、pH2.5、揮発分16.5質量%)、「MONARCH1000」(キャボット社製、pH2.5、揮発分9.5質量%)、「MONARCH1300」(キャボット社製、pH2.5、揮発分9.5質量%)、「MONARCH1400」(キャボット社製、pH2.5、揮発分9.0質量%)、「MOGUL−L」(キャボット社製、pH2.5、揮発分5.0質量%)、「REGAL400R」(キャボット社製、pH4.0、揮発分3.5質量%)などを好適に挙げることができる。
【0032】
上記「AMC」(宇部興産社製)とは、以下のような炭素繊維である。
【0033】
「AMC」は微細な炭素繊維であり、図1(a)に示すような釣鐘状構造を最小構造単位として有する。釣鐘(temple bell)は、日本の寺院で見られ、比較的円筒形に近い胴部を有しており、円錐形に近いクリスマスベルとは形状が異なる。図1(a)に示すように、構造単位11は、釣鐘のように、頭頂部12と、開放端を備える胴部13とを有し、概ね中心軸の周囲に回転させた回転体形状となっている。構造単位11は、炭素原子のみからなるグラファイト網面により形成され、胴部開放端の円周状部分はグラファイト網面の開放端となる。
【0034】
胴部13は、開放端側に緩やかに広がっており、その結果、胴部13の母線は釣鐘状構造単位の中心軸に対してわずかに傾斜し、両者のなす角θは、15°より小さく、より好ましくは1°<θ<15°、更に好ましくは2°<θ<10°である。θが大きくなりすぎると、該構造単位から構成される微細繊維が魚骨状炭素繊維様の構造を呈してしまい、繊維軸方向の導電性が損なわれてしまう。一方θが小さいと、円筒チューブ状に近い構造となり、構造単位の胴部を構成するグラファイト網面の開放端が繊維外周面に露出する頻度が低くなるため、隣接繊維間の導電性が悪化する。
【0035】
AMCには、欠陥、不規則な乱れが存在するが、このような不規則性を排除して、全体としての形状を捉えると、胴部13が開放端側に緩やかに広がった釣鐘状構造を有していると言える。AMCは、すべての部分においてθが上記範囲を示すことを意味しているのではなく、欠陥部分や不規則な部分を排除しつつ、構造単位11を全体的に捉えたときに、総合的にθが上記範囲を満たしていることを意味している。そこで、θの測定では、胴部の太さが不規則に変化していることもある頭頂部12付近を除くことが好ましい。より具体的には、例えば、図1(b)に示すように釣鐘状構造単位集合体21(下記参照)の長さをLとすると、頭頂側から(1/4)L、(1/2)Lおよび(3/4)Lの3点においてθを測定してその平均を求め、その値を、構造単位11についての全体的なθとしてもよい。また、Lについては、直線で測定することが理想であるが、実際は胴部13が曲線であることも多いため、胴部13の曲線に沿って測定した方が実際の値に近い場合もある。
【0036】
頭頂部の形状は、AMCとして製造される場合、胴部と滑らかに連続し、上側(図において)に凸の曲面となっている。頭頂部の長さは、典型的には、釣鐘状構造単位集合体について説明するD(図1(b))以下程度であり、d(図1(b))以下程度であるときもある。
【0037】
さらに、後述するように活性な窒素を原料として使用しないため、窒素等の他の原子は、釣鐘状構造単位のグラファイト網面中に含まれない。このため繊維の結晶性が良好である。
【0038】
AMCにおいては、図1(b)に示すように、このような釣鐘状構造単位が中心軸を共有して2〜30個積み重なって釣鐘状構造単位集合体21(以下、単に集合体という場合がある。)を形成している。積層数は、好ましくは2〜25個であり、より好ましくは2〜15個である。
【0039】
<「AMC」の製造方法>
上記AMCの製造方法は、次のとおりである。コバルトのスピネル型結晶構造を有する酸化物に、マグネシウムが固溶置換した触媒を用いて、CO及びHを含む混合ガスを触媒粒子に供給して気相成長法により、AMCを製造する。
【0040】
Mgが置換固溶したコバルトのスピネル型結晶構造は、MgCo3−xで表される。ここで、xは、MgによるCoの置換を示す数であり、形式的には0<x<3である。また、yはこの式全体が電荷的に中性になるように選ばれる数で、形式的には4以下の数を表す。即ち、コバルトのスピネル型酸化物Coでは、2価と3価のCoイオンが存在しており、ここで、2価および3価のコバルトイオンをそれぞれCoIIおよびCoIIIで表すと、スピネル型結晶構造を有するコバルト酸化物はCoIICoIIIで表される。Mgは、CoIIとCoIIIのサイトの両方を置換して固溶する。MgがCoIIIを置換固溶すると、電荷的中性を保つためにyの値は4より小さくなる。但し、x、y共に、スピネル型結晶構造を維持できる範囲の値をとる。
【0041】
触媒として使用できる好ましい範囲として、Mgの固溶範囲は、xの値が0.5〜1.5であり、より好ましくは0.7〜1.5である。xの値が0.5未満の固溶量では、触媒の活性は低く、生成する微細な炭素繊維の量は少ない。xの値が1.5を超える範囲では、スピネル型結晶構造を調製することが困難である。
【0042】
触媒のスピネル型酸化物結晶構造は、XRD測定により確認することが可能であり、結晶格子定数a(立方晶系)は、0.811〜0.818nmの範囲であり、より好ましくは0.812〜0.818nmである。aが小さいとMgの固溶置換が充分でなく、触媒活性が低い。また、0.818nmを超える格子定数を有する前記スピネル型酸化物結晶は調製困難である。
【0043】
このような触媒が好適である理由として、本発明者らは、コバルトのスピネル構造酸化物にマグネシウムが置換固溶した結果、あたかもマグネシウムのマトリックス中にコバルトが分散配置された結晶構造が形成されることにより、反応条件下においてコバルトの凝集が抑制されていると推定している。
【0044】
また、触媒の粒子サイズは、適宜選ぶことができるが、例えばメジアン径として、0.1〜100μm、好ましくは、0.1〜10μmである。
【0045】
触媒粒子は、一般に基板または触媒床等の適当な支持体に、散布するなどの方法により載せて使用する。基板または触媒床への触媒粒子の散布は、触媒粒子を直接散布して良いが、エタノール等の溶媒に懸濁させて散布し、乾燥させることにより所望の量を散布しても良い。
【0046】
触媒粒子は、原料ガスと反応させる前に、活性化させることも好ましい。活性化は通常、HまたはCOを含むガス雰囲気下で加熱することにより行われる。これらの活性化操作は、必要に応じて、HeやNなどの不活性ガスで希釈することにより実施することができる。活性化を実施する温度は、好ましくは400〜600℃、より好ましくは450〜550℃である。
【0047】
気相成長法の反応装置に特に制限はなく、固定床反応装置や流動床反応装置といった反応装置により実施することができる。
【0048】
気相成長の炭素源となる原料ガスは、CO及びHを含む混合ガスが利用される。
【0049】
ガスの添加濃度{(H/(H+CO)}は、好ましくは0.1〜30vol%、より好ましくは2〜20vol%である。添加濃度が低すぎると円筒状のグラファイト質網面が繊維軸に平行したカーボンナノチューブ様の構造を形成してしまう。一方、30vol%を超えると釣鐘状構造体の炭素側周面の繊維軸に対する傾斜角が大きくなり、魚骨形状を呈するため繊維方向の導電性の低下を招く。
【0050】
また、原料ガスは不活性ガスを含有していてもよい。不活性ガスとしては、CO、N、He、Ar等が挙げられる。不活性ガスの含有量は、反応速度を著しく低下させない程度が好ましく、例えば80vol%以下、好ましくは50vol%以下の量である。また、HおよびCOを含有する合成ガスまたは転炉排出ガス等の廃棄ガスを、必要により適宜処理して使用することもできる。
【0051】
気相成長を実施する反応温度は、好ましくは400〜650℃、より好ましくは500〜600℃である。反応温度が低すぎると繊維の成長が進行しない。一方、反応温度が高すぎると収量が低下してしまう。反応時間は、特に限定されないが、例えば2時間以上であり、また12時間程度以下である。
【0052】
気相成長を実施する反応圧力は、反応装置や操作の簡便化の観点から常圧で行うことが好ましいが、Boudouard平衡の炭素析出が進行する範囲であれば、加圧または減圧の条件で実施しても差し支えない。
【0053】
このAMCの製造方法により製造される微細な炭素繊維に特有な接合部の形成過程は明らかではないが、発熱的なBoudouard平衡と原料ガスの流通による除熱とのバランスから、前記触媒から形成されたコバルト微粒子近傍の温度が上下に振幅するため、炭素析出が断続的に進行することにより形成されるものと考えられる。即ち、[1]釣鐘状構造体頭頂部形成、[2]釣鐘状構造体の胴部成長、[3]前記[1]、[2]過程の発熱による温度上昇のため成長停止、[4]流通ガスによる冷却、の4過程が触媒微粒子上で繰り返されることにより、AMCの構造特有の接合部が形成されると推定される。
【0054】
本発明において、熱伝導性を付与するためのフィラーとしては、シリカ、窒化ホウ素、窒化ケイ素、アルミナなどが好適に配合される。
【0055】
本発明において、フィラーを溶媒およびポリイミド前駆体溶液組成物の混合液に分散させる方法としては、公知の方法が適用でき、フィラーと溶媒とフィラーを含有する前のポリイミド前駆体溶液組成物との混合液を3本ロール、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、バスケットミル、超音波などにより分散する方法を好適に挙げることができる。
【0056】
第2工程において加える溶媒は、上記第1工程で用いることができる溶媒として挙げたものを使用することができる。特に、第1工程において使用した溶媒と同じものを使用することが好ましい。
【0057】
フィラーを含有する分散溶液全量に対するフィラー濃度は、1〜7質量%程度が好適である。フィラーの添加量が少なすぎるとフィラーの沈降あるいは凝集が発生しやすくなり、また、フィラーの添加量が多すぎるとフィラー分散液の粘度が著しく上昇し、分散が困難となる。
【0058】
フィラーを含有する分散溶液中のポリイミド前駆体の濃度は、フィラー濃度に対して50〜300質量%が好適である。ポリイミド前駆体の濃度が低すぎるとフィラーの沈降、あるいは凝集が発生しやすくなり、また、ポリイミド前駆体の濃度が高すぎるとフィラー分散液の粘度が著しく上昇し、分散が困難となる。
【0059】
<フィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物>
本発明において、「フィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物」とは、上記フィラーを含有する分散溶液中、テトラカルボン酸二無水物及び/またはその誘導体とジアミン化合物をさらに溶解し、重合させてポリイミド前駆体とした組成物のことをいう。
【0060】
第3工程における重合反応の際のモノマー濃度、すなわち、溶媒中にさらに加えるテトラカルボン酸二無水物及び/またはその誘導体、及びジアミン化合物の合計の濃度は、種々の条件に応じて設定されるが、通常、反応させる溶液全量において5〜30質量%程度が好ましい。この濃度が低すぎるとテトラカルボン酸二無水物及び/またはその誘導体、及びジアミン化合物の反応性が悪く、反応が進行するまでに時間がかかりすぎる、あるいは製膜時に除去する溶媒量が増えるなど経済的でなくなり、濃度が高すぎると重合時の粘度が高くなりすぎる、あるいは析出などの問題が生じてくる。また反応温度は80℃以下、特に5〜50℃に設定することが好ましい。反応温度が低すぎると反応が進行しない、あるいは反応が進行するまでに時間がかかりすぎ、反応温度が高すぎるとイミド化が進行してしまうなどの問題が生じてくる。反応時間は1〜100時間が好ましい。
【0061】
第3工程において加えるテトラカルボン酸二無水物及び/またはその誘導体、及びジアミン化合物は前に説明したとおりのものを使用できる。これらは、第1工程で用いた化合物と同じであっても異なっていてもよい。
【0062】
第3工程において加える溶媒は、上記第1工程で用いることができる溶媒として挙げたものを使用することができる。特に、第1工程において使用した溶媒と同じものを使用することが好ましい。
【0063】
第3工程において得られるフィラーを含有するポリイミド前駆体の濃度は5〜30質量%であることが好ましく、さらに10〜25質量%であることが好ましい。
【0064】
<フィラーが分散されたポリイミド>
第4工程においては、第3工程で得られるフィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物中の、ポリイミド前駆体をイミド化することにより、フィラーが分散されたポリイミドを得ることができる。イミド化の方法は特に限定されず、公知の方法で行うことができる。
【0065】
例えば、フィラーが分散されたポリイミド膜を作製する場合、基材の表面に第3工程で得られたフィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物を塗布して膜状物(塗膜)を形成させ、該膜状物を加熱処理して、溶媒を除去することにより得ることができる。
【0066】
ここで用いる基材は、液体や気体を実質的に透過させない程度の緻密構造を有していれば、形状や材質で特に限定されるものではない。通常のフィルムを製造する際に用いられるそれ自体公知のベルト、金型、ロールなどのフィルム形成用基材、その表面にポリイミド膜を絶縁保護膜として形成する回路基板などの電子部品や電線、表面に皮膜が形成される摺動部品や製品、ポリイミド膜を形成して多層化フィルムや銅張積層基板を形成する際の一方のフィルムや銅箔などを好適に挙げることができる。
【0067】
基材にポリイミド前駆体溶液組成物を塗布する方法としては、例えばスプレー法、ロールコート法、回転塗布法、バー塗布法、インクジェット法、スクリーン印刷法、スリットコート法などのそれ自体公知の方法を適宜採用することができる。
【0068】
この基材に塗布されて形成されたポリイミド前駆体溶液組成物からなる膜状物は、例えば、減圧下又は常圧下で室温以下など比較的低温で加熱する方法で脱泡しても構わない。
【0069】
基材上に形成されたポリイミド前駆体溶液組成物からなる膜状物は、加熱処理することによって、溶媒を除去し、かつイミド化されてポリイミド膜が形成される。加熱処理は、いきなり高温で加熱処理するよりも最初に140℃以下の比較的低温で溶媒を除去し、次いで最高加熱処理温度まで温度を上げてイミド化する加熱処理が好適である。最高加熱処理温度は200〜600℃の温度範囲が採用できるが、より好ましくは250〜450℃の温度範囲で加熱処理して、膜厚が0.1〜200μm、好ましくは3〜150μm、より好ましくは5〜130μmのポリイミド膜を好適に得ることができる。加熱温度が250℃よりも低い場合イミド化が十分に進行せず、450℃を超えると熱分解などにより機械特性の低下などの問題が生じてくる。また、膜厚が200μmを超えると溶媒を十分に揮発させることができずに機械特性の低下、あるいは熱処理中に発泡を生じるなどの問題が起こる場合がある。
【0070】
フィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物から得られるポリイミド膜中のフィラー濃度は、限定するものではないが、ポリイミドの質量に対して3〜30質量%程度が好適である。フィラー濃度が小さすぎるとフィラーの添加効果がなく、また、フィラー濃度が大きすぎるとポリイミドの機械特性などが著しく低下することになる。
【0071】
また、本発明のポリイミド前駆体溶液組成物(フィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物を含む)は、回転成形法にて管状物に成形し、この管状物を前記と同じように脱泡したり、加熱処理したりすることで、容易に無端管状ポリイミド膜を得ることができる。例えば、回転成形法は、基材の役割を有する円筒状の金型を回転させながら、金型(内側乃至外側)表面にポリイミド前駆体溶液組成物からなる塗膜を形成し、200℃以下の比較的低温で加熱処理して溶媒を揮発させて、自己支持性膜(溶媒が除去され被膜の流動が発生しない状態、つまり、完全ではないが重合及びイミド化反応が進んでいる状態)を形成する。次いで、前記自己支持性膜をそのまま、あるいは必要に応じて基材から剥がしたり、裏返したり、適度の張力を掛けたりしながら、最高熱処理温度まで直接乃至段階的に昇温する手順で加熱処理することによって、無端管状ポリイミド膜を好適に得ることができる。本発明においては、最高加熱処理温度は200〜600℃の温度範囲が採用できるが、好ましくは250〜450℃、より好ましくは300〜450℃、更に好ましくは340〜450℃の温度範囲である。200℃以下では、十分な重合イミド化反応が達成できなくなって良好な機械的強度が得られなくなることがあり、また、450℃を超えた温度まで加熱すると、脆くなって機械的な特性が低下するためである。
【実施例】
【0072】
以下に本発明の実施例を比較例とともに説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0073】
まず、実施例及び比較例で用いた化合物の略号や測定方法について説明する。
【0074】
<化合物の略号>
s−BPDA:3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
ODA:オキシジアニリン(4,4’−ジアミノジフェニルエーテル)
PPD:p−フェニレンジアミン
BAPP:2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン
MBAA:ビス(4−アミノ−3−カルボキシフェニル)メタン
NMP:N−メチル−2−ピロリドン
DMAc:N,N−ジメチルアセトアミド
PVP:ポリビニルピロリドン
【0075】
<引張り破断強度の測定方法>
引張り試験機(オリエンテック社製RTC−1225A)を用いて、ASTM D882に準拠して測定した。
【0076】
<引張り破断伸度の測定方法>
引張り試験機(オリエンテック社製RTC−1225A)を用いて、ASTM D882に準拠して測定した。
【0077】
<引張り弾性率の測定方法>
引張り試験機(オリエンテック社製RTC−1225A)を用いて、ASTM D882に準拠して測定した。
【0078】
<表面及び体積抵抗率の測定方法>
ロレスタGP(三菱化学製)に接続した4探針プローブ(MCP−TP03P)を用いて、JIS K 7194に準拠して測定した。
【0079】
<固形分濃度>
ポリイミド前駆体溶液組成物のポリイミド換算した固形分濃度は、ポリイミド前駆体溶液組成物を350℃で30分間乾燥し、乾燥前の質量W1と乾燥後の質量W2とから次式によって求めた値である。
【0080】
固形分濃度(質量%)={(W1−W2)/W1}×100
【0081】
<溶液粘度>
トキメック社製E型粘度計を用いて、30℃での溶液粘度を測定した。
【0082】
<溶液安定性>
フィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物を、25℃の温度に調整された雰囲気中に保管し、1ヶ月後の溶液粘度変化が±10%以内のものを○、±10%を超えたものを×とした。
【0083】
<分散性評価>
フィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物の凝集物のサイズを、グラインドメーター線条法により観測した。
【0084】
<分散安定性(再凝集確認)>
フィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物を、25℃の温度に調整された雰囲気中に保管し、1ヶ月後の凝集物をグラインドメーター線条法により観測した。
【0085】
<分散安定性(フィラーの沈降確認)>
フィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物を、25℃の温度に調整された雰囲気中に14日間静置し、上層部及び下層部の固形分濃度を測定し、固形分濃度の差が±5%以内のものを○、±5%を超えたものを×とした。
【0086】
<実施例1>
(1−a)フィラーを含有する前のポリイミド前駆体溶液組成物の調製
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mlのガラス製の反応容器に、溶媒としてNMP400gを加え、これにODA40.50g(0.202モル)と、s−BPDA59.50g(0.202モル)とを加え、50℃で10時間撹拌して、固形分濃度18.2質量%、溶液粘度51.0Pa・sのポリイミド前駆体溶液組成物を得た。
【0087】
(1−b)フィラーを含有する分散溶液の製造方法
NMP745gにケッチェンブラック(ライオン社製、ケッチェンブラックECP−600JD、揮発分0.7質量%)30g及び上記(1−a)で得られたポリイミド前駆体溶液組成物225gを添加し、ボールミル(ボール径2mm及び6mmを併用)を用いて室温にて16時間混合を行い、カーボンブラックを含有する分散溶液を得た(3質量%カーボン分散液)。
【0088】
(1−c)フィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物の製造方法
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mlのガラス製の反応容器に、上記3質量%カーボン分散液166.7g及びNMP275.8gを加え、これにODA37.46g(総量0.202モル)と、s−BPDA55.04g(総量0.202モル)とを加え、50℃で10時間撹拌して、ポリイミド前駆体溶液組成物全量に対してカーボンブラック5質量%を含有するポリイミド前駆体溶液組成物を得た。このカーボンブラック5質量%を含有するポリイミド前駆体溶液組成物は、固形分濃度19.2質量%、溶液粘度50.5Pa・sで、溶液安定性は○であった。
【0089】
また、初期凝集物サイズは10μm、1ヶ月後の凝集物サイズは12μmであり再凝集は見られなかった。さらに14日間静置後の分散安定性も○であった(表1参照)。
【0090】
(1−d)フィラーを含有するポリイミド膜の製造方法
このカーボンブラック5質量%を含有するポリイミド前駆体溶液組成物を、基材のガラス板上にバーコーターによって塗布し、その塗膜を、減圧下25℃で30分間、脱泡及び予備乾燥した後で、常圧下、窒素ガス雰囲気下で熱風乾燥器に入れて、順次、120℃で60分間、150℃で30分間、200℃で10分間、250℃で10分間、400℃で10分間加熱処理をして、厚さが50μmのポリイミド膜を形成した。
【0091】
このポリイミド膜の特性等について結果を表1に示した。
【0092】
<実施例2>
(2−a)フィラーを含有する前のポリイミド前駆体溶液組成物の調製
上記(1−a)と同様に調製し、固形分濃度18.3質量%、溶液粘度50.8Pa・sのポリイミド前駆体溶液組成物を得た。
【0093】
(2−b)フィラーを含有する分散溶液の製造
上記(2−a)で得られたポリイミド前駆体溶液組成物を用いて、(1−b)と同様にフィラーを含有する分散溶液を製造した(3質量%カーボン分散液)。
【0094】
(2−c)フィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物の製造方法
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mlのガラス製の反応容器に、上記3質量%カーボン分散液333.3g及びNMP151.7gを加え、これにODA34.42g(総量0.202モル)と、s−BPDA50.58g(総量0.202モル)とを加え、50℃で10時間撹拌して、ポリイミド前駆体溶液組成物全量に対してカーボンブラック10質量%を含有するポリイミド前駆体溶液組成物を得た。このポリイミド前駆体溶液組成物の特性を表1に示した。
【0095】
(2−d)フィラーを含有するポリイミド膜の製造方法
上記(2−c)で得られたポリイミド前駆体溶液組成物を用いて、(1−d)と同様にポリイミド膜を形成した。このポリイミド膜の特性等について結果を表1に示した。
【0096】
<実施例3>
(3−a)フィラーを含有する前のポリイミド前駆体溶液組成物の調製
溶媒としてNMPではなくDMAc400gを用いた以外は上記(1−a)と同様に調製し、固形分濃度17.9質量%、溶液粘度50.5Pa・sのポリイミド前駆体溶液組成物を得た。
【0097】
(3−b)フィラーを含有する分散溶液の製造方法
上記(3−a)で得られたポリイミド前駆体溶液組成物を用いて、溶媒としてNMPではなくDMAc745gを用いた以外は(1−b)と同様に製造した(3質量%カーボン分散液)。
【0098】
(3−c)フィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物の製造方法
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mlのガラス製の反応容器に、上記3質量%カーボン分散液333.3g及びDMAc151.7gを加え、これにODA34.42g(総量0.202モル)と、s−BPDA50.58g(総量0.202モル)とを加え、50℃で10時間撹拌して、ポリイミド前駆体溶液組成物全量に対してカーボンブラック10質量%を含有するポリイミド前駆体溶液組成物を得た。このポリイミド前駆体溶液組成物の特性を表1に示した。
【0099】
(3−d)フィラーを含有するポリイミド膜の製造方法
上記(3−c)で得られたポリイミド前駆体溶液組成物を用いて、(1−d)と同様にポリイミド膜を形成した。このポリイミド膜の特性等について結果を表1に示した。
【0100】
<実施例4>
(4−a)フィラーを含有する前のポリイミド前駆体溶液組成物の調製
上記(1−a)と同様に調製し、固形分濃度18.3質量%、溶液粘度51.2Pa・sのポリイミド前駆体溶液組成物を得た。
【0101】
(4−b)フィラーを含有する分散溶液の製造
上記(4−a)で得られたポリイミド前駆体溶液組成物を用いて、フィラーを含有する分散溶液を(1−b)と同様に製造した(3質量%カーボン分散液)。
【0102】
(4−c)フィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物の製造方法
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mlのガラス製の反応容器に、上記3質量%カーボン分散液333.3g及びNMP151.7gを加え、これにODA31.39g(総量0.202モル)と、s−BPDA46.11g(総量0.202モル)とを加え、50℃で10時間撹拌して、ポリイミド前駆体溶液組成物全量に対してカーボンブラック15質量%を含有するポリイミド前駆体溶液組成物を得た。このポリイミド前駆体溶液組成物の特性を表1に示した。
【0103】
(4−d)フィラーを含有するポリイミド膜の製造方法
上記(4−c)で得られたポリイミド前駆体溶液組成物を用いて、(1−d)と同様にポリイミド膜を形成した。このポリイミド膜の特性等について結果を表1に示した。
【0104】
<実施例5>
(5−a)フィラーを含有する前のポリイミド前駆体溶液組成物の調製
上記(1−a)と同様に調製し、固形分濃度18.0質量%、溶液粘度50.2Pa・sのポリイミド前駆体溶液組成物を得た。
【0105】
(5−b)フィラーを含有する分散溶液の製造方法
上記(5−a)で得られたポリイミド前駆体溶液組成物を用いて、フィラーとしてケッチェンブラックではなくAMC(宇部興産社製)30gを用いた以外は(1−b)と同様に製造した(3質量%炭素繊維分散液)。
【0106】
(5−c)フィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物の製造方法
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mlのガラス製の反応容器に、上記3質量%炭素繊維分散液166.7g及びNMP275.8gを加え、これにODA37.46g(総量0.202モル)と、s−BPDA55.04g(総量0.202モル)とを加え、50℃で10時間撹拌して、ポリイミド前駆体溶液組成物全量に対して炭素繊維5質量%を含有するポリイミド前駆体溶液組成物を得た。このポリイミド前駆体溶液組成物の特性を表1に示した。
【0107】
(5−d)フィラーを含有するポリイミド膜の製造方法
上記(5−c)で得られたポリイミド前駆体溶液組成物を用いて、(1−d)と同様にポリイミド膜を形成した。このポリイミド膜の特性等について結果を表1に示した。
【0108】
<実施例6>
(6−a)フィラーを含有する前のポリイミド前駆体溶液組成物の調製
上記(1−a)と同様に調製し、固形分濃度18.3質量%、溶液粘度50.8Pa・sのポリイミド前駆体溶液組成物を得た。
【0109】
(6−b)フィラーを含有する分散溶液の製造
上記(6−a)で得られたポリイミド前駆体溶液組成物を用いて、フィラーを含有する分散溶液を(5−b)と同様に製造した(3質量%炭素繊維分散液)。
【0110】
(6−c)フィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物の製造方法
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mlのガラス製の反応容器に、上記3質量%炭素繊維分散液333.3g及びNMP151.7gを加え、これにODA34.42g(総量0.202モル)と、s−BPDA50.58g(総量0.202モル)とを加え、50℃で10時間撹拌して、ポリイミド前駆体溶液組成物全量に対して炭素繊維10質量%を含有するポリイミド前駆体溶液組成物を得た。このポリイミド前駆体溶液組成物の特性を表1に示した。
【0111】
(6−d)フィラーを含有するポリイミド膜の製造方法
上記(6−c)で得られたポリイミド前駆体溶液組成物を用いて、(1−d)と同様にポリイミド膜を形成した。このポリイミド膜の特性等について結果を表1に示した。
【0112】
<実施例7>
(7−a)フィラーを含有する前のポリイミド前駆体溶液組成物の調製
(1−a)と同様に調製し、固形分濃度18.2質量%、溶液粘度50.1Pa・sのポリイミド前駆体溶液組成物を得た。
【0113】
(7−b)フィラーを含有する分散溶液の製造方法
上記(7−a)で得られたポリイミド前駆体溶液組成物を用いて、フィラーとしてケッチェンブラックではなくファーネスブラック(デグサ社製、スペシャルブラック4、pH3.0、揮発分14.0質量%)30gを用いた以外は(1−b)と同様に製造した(3質量%カーボン分散液)。
【0114】
(7−c)フィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物の製造方法
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mlのガラス製の反応容器に、上記3質量%カーボン分散液333.3g及びNMP151.7gを加え、これにODA34.42g(総量0.202モル)と、s−BPDA50.58g(総量0.202モル)とを加え、50℃で10時間撹拌して、ポリイミド前駆体溶液組成物全量に対してカーボンブラック10質量%を含有するポリイミド前駆体溶液組成物を得た。このポリイミド前駆体溶液組成物の特性を表1に示した。
【0115】
(7−d)フィラーを含有するポリイミド膜の製造方法
上記(7−c)で得られたポリイミド前駆体溶液組成物を用いて、(1−d)と同様にポリイミド膜を形成した。このポリイミド膜の特性等について結果を表1に示した。
【0116】
<実施例8>
(8−a)フィラーを含有する前のポリイミド前駆体溶液組成物の調製
(1−a)と同様に調製し、固形分濃度18.4質量%、溶液粘度51.4Pa・sのポリイミド前駆体溶液組成物を得た。
【0117】
(8−b)フィラーを含有する分散溶液の製造方法
上記(8−a)で得られたポリイミド前駆体溶液組成物を用いて、フィラーとしてケッチェンブラックではなく窒化ホウ素(電気化学工業社製、SP−2、平均粒径4μm)30gを用いた以外は(1−b)と同様に製造した(3質量%窒化ホウ素分散液)。
【0118】
(8−c)フィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物の製造方法
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mlのガラス製の反応容器に、上記3質量%窒化ホウ素分散液333.3g及びNMP151.7gを加え、これにODA34.42g(総量0.202モル)と、s−BPDA50.58g(総量0.202モル)とを加え、50℃で10時間撹拌して、ポリイミド前駆体溶液組成物全量に対して窒化ホウ素10質量%を含有するポリイミド前駆体溶液組成物を得た。このポリイミド前駆体溶液組成物の特性を表1に示した。
【0119】
(8−d)フィラーを含有するポリイミド膜の製造方法
上記(8−c)で得られたポリイミド前駆体溶液組成物を用いて、(1−d)と同様にポリイミド膜を形成した。このポリイミド膜の特性等について結果を表1に示した。
【0120】
<実施例9>
(9−a)フィラーを含有する前のポリイミド前駆体溶液組成物の調製
上記(1−a)と同様に調製し、固形分濃度18.2質量%、溶液粘度50.8Pa・sのポリイミド前駆体溶液組成物を得た。
【0121】
(9−b)フィラーを含有する分散溶液の製造方法
上記(9−a)で得られたポリイミド前駆体溶液組成物を用いて、フィラーとしてケッチェンブラックではなくシリカ(電気化学工業社製、UFP−80、平均粒径34nm)30gを用いた以外は(1−b)と同様に製造した(3質量%シリカ分散液)。
【0122】
(9−c)フィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物の製造方法
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mlのガラス製の反応容器に、上記3質量%シリカ分散液333.3g及びNMP151.7gを加え、これにODA34.42g(総量0.202モル)と、s−BPDA50.58g(総量0.202モル)とを加え、50℃で10時間撹拌して、ポリイミド前駆体溶液組成物全量に対してシリカ10質量%を含有するポリイミド前駆体溶液組成物を得た。このポリイミド前駆体溶液組成物の特性を表2に示した。
【0123】
(9−d)フィラーを含有するポリイミド膜の製造方法
上記(9−c)で得られたポリイミド前駆体溶液組成物を用いて、(1−d)と同様にポリイミド膜を形成した。このポリイミド膜の特性等について結果を表2に示した。
【0124】
<実施例10>
(10−a)フィラーを含有する前のポリイミド前駆体溶液組成物の調製
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mlのガラス製の反応容器に、溶媒としてNMP400gを加え、これにPPD26.88g(0.249モル)と、s−BPDA73.12g(0.249モル)とを加え、50℃で10時間撹拌して、固形分濃度18.0質量%、溶液粘度49.7Pa・sのポリイミド前駆体溶液組成物を得た。
【0125】
(10−b)フィラーを含有する分散溶液の製造
上記(10−a)で得られたポリイミド前駆体溶液組成物を用いて、フィラーを含有する分散溶液を(1−b)と同様に製造した(3質量%カーボン分散溶液)。
【0126】
(10−c)フィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物の製造方法
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mlのガラス製の反応容器に、上記3質量%カーボン分散液333.3g及びNMP151.7gを加え、これにODA36.45g(0.182モル)と、s−BPDA60.86g(総量0.207モル)とを加え、50℃で10時間撹拌して、ポリイミド前駆体溶液組成物全量に対してカーボンブラック10質量%を含有するポリイミド前駆体溶液組成物を得た。このポリイミド前駆体溶液組成物の特性を表2に示した。
【0127】
(10−d)フィラーを含有するポリイミド膜の製造方法
上記(10−c)で得られたポリイミド前駆体溶液組成物を用いて、(1−d)と同様にポリイミド膜を形成した。このポリイミド膜の特性等について結果を表2に示した。
【0128】
<実施例11>
(11−a)フィラーを含有する前のポリイミド前駆体溶液組成物の調製
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mlのガラス製の反応容器に、溶媒としてDMAc400gを加え、これにPPD26.88g(0.249モル)と、s−BPDA73.12g(0.249モル)とを加え、50℃で10時間撹拌して、固形分濃度18.0質量%、溶液粘度49.7Pa・sのポリイミド前駆体溶液組成物を得た。
【0129】
(11−b)フィラーを含有する分散溶液の製造
上記(11−a)で得られたポリイミド前駆体溶液組成物を用いて、フィラーを含有する分散溶液を(3−b)と同様に製造した(3質量%カーボン分散液)。
【0130】
(11−c)フィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物の製造方法
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mlのガラス製の反応容器に、上記3質量%カーボン分散液333.3g及びDMAc151.7gを加え、これにODA36.45g(0.182モル)と、s−BPDA60.86g(総量0.207モル)とを加え、50℃で10時間撹拌して、ポリイミド前駆体溶液組成物全量に対してカーボンブラック10質量%を含有するポリイミド前駆体溶液組成物を得た。このポリイミド前駆体溶液組成物の特性を表2に示した。
【0131】
(11−d)フィラーを含有するポリイミド膜の製造方法
上記(11−c)で得られたポリイミド前駆体溶液組成物を用いて、(1−d)と同様にポリイミド膜を形成した。このポリイミド膜の特性等について結果を表2に示した。
【0132】
<実施例12>
(12−a)フィラーを含有する前のポリイミド前駆体溶液組成物の調製
上記(3−a)と同様に調製し、固形分濃度17.9質量%、溶液粘度50.5Pa・sのポリイミド前駆体溶液組成物を得た。
【0133】
(12−b)フィラーを含有する分散溶液の製造方法
DMAc895gにケッチェンブラック(ライオン社製、ケッチェンブラックECP−600JD、揮発分0.7質量%)30g及び上記で得られたポリイミド前駆体溶液組成物75gを添加し、ボールミル(ボール径2mm及び6mmを併用)を用いて室温にて16時間混合を行い、カーボンブラックを含有する分散溶液を得た(3質量%カーボン分散液)。
【0134】
(12−c)フィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物の製造方法
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mlのガラス製の反応容器に、上記3質量%カーボン分散液333.3g及びDMAc83.0gを加え、これにODA39.89g(総量0.202モル)と、s−BPDA58.61g(総量0.202モル)とを加え、50℃で10時間撹拌して、ポリイミド前駆体溶液組成物全量に対してカーボンブラック10質量%を含有するポリイミド前駆体溶液組成物を得た。このポリイミド前駆体溶液組成物の特性を表2に示した。
【0135】
(12−d)フィラーを含有するポリイミド膜の製造方法
上記(12−c)で得られたポリイミド前駆体溶液組成物を用いて、(1−d)と同様にポリイミド膜を形成した。このポリイミド膜の特性等について結果を表2に示した。
【0136】
<実施例13>
(13−a)フィラーを含有する前のポリイミド前駆体溶液組成物の調製
上記(3−a)と同様に調製し、固形分濃度17.9質量%、溶液粘度50.5Pa・sのポリイミド前駆体溶液組成物を得た。
【0137】
(13−b)フィラーを含有する分散溶液の製造方法
DMAc520gにケッチェンブラック(ライオン社製、ケッチェンブラックECP−600JD、揮発分0.7質量%)30g及び上記で得られたポリイミド前駆体溶液組成物450gを添加し、ボールミル(ボール径2mm及び6mmを併用)を用いて室温にて16時間混合を行い、カーボンブラックを含有する分散溶液を得た(3質量%カーボン分散液)。
【0138】
(13−c)フィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物の製造方法
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mlのガラス製の反応容器に、上記3質量%カーボン分散液333.3g及びDMAc106.7gを加え、これにODA36.85g(総量0.202モル)と、s−BPDA54.15g(総量0.202モル)とを加え、50℃で10時間撹拌して、ポリイミド前駆体溶液組成物全量に対してカーボンブラック10質量%を含有するポリイミド前駆体溶液組成物を得た。このポリイミド前駆体溶液組成物の特性を表2に示した。
【0139】
(13−d)フィラーを含有するポリイミド膜の製造方法
上記(13−c)で得られたポリイミド前駆体溶液組成物を用いて、(1−d)と同様にポリイミド膜を形成した。このポリイミド膜の特性等について結果を表2に示した。
【0140】
<実施例14>
(14−a)フィラーを含有する前のポリイミド前駆体溶液組成物の調製
上記(3−a)と同様に調製し、固形分濃度17.9質量%、溶液粘度50.5Pa・sのポリイミド前駆体溶液組成物を得た。
【0141】
(14−b)フィラーを含有する分散溶液の製造方法
DMAc575gにケッチェンブラック(ライオン社製、ケッチェンブラックECP−600JD、揮発分0.7質量%)50g及び上記(14−a)で得られたポリイミド前駆体溶液組成物375gを添加し、ボールミル(ボール径2mm及び6mmを併用)を用いて室温にて16時間混合を行い、カーボンブラックを含有する分散溶液を得た(5質量%カーボン分散液)。
【0142】
(14−c)フィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物の製造方法
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mlのガラス製の反応容器に、上記5質量%カーボン分散液200.0g及びDMAc225.0gを加え、これにODA37.46g(総量0.202モル)と、s−BPDA55.04g(総量0.202モル)とを加え、50℃で10時間撹拌して、ポリイミド前駆体溶液組成物全量に対してカーボンブラック10質量%を含有するポリイミド前駆体溶液組成物を得た。このポリイミド前駆体溶液組成物の特性を表2に示した。
【0143】
(14−d)フィラーを含有するポリイミド膜の製造方法
上記(14−c)で得られたポリイミド前駆体溶液組成物を用いて、(1−d)と同様にポリイミド膜を形成した。このポリイミド膜の特性等について結果を表2に示した。
【0144】
<実施例15>
(15−a)フィラーを含有する前のポリイミド前駆体溶液組成物の調製
上記(3−a)と同様に調製し、固形分濃度17.9質量%、溶液粘度50.5Pa・sのポリイミド前駆体溶液組成物を得た。
【0145】
(15−b)フィラーを含有する分散溶液の製造
上記(15−a)で得られたポリイミド前駆体溶液組成物を用いて、フィラーを含有する分散溶液を(3−b)と同様に製造した(3質量%カーボン分散溶液)。
【0146】
(15−c)フィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物の製造方法
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mlのガラス製の反応容器に、上記3質量%カーボン分散液166.7g及びDMAc245.8gを加え、これにBAPP53.88g(0.131モル)と、s−BPDA38.62g(総量0.146モル)とを加え、50℃で10時間撹拌して、ポリイミド前駆体溶液組成物全量に対してカーボンブラック5質量%を含有するポリイミド前駆体溶液組成物を得た。このポリイミド前駆体溶液組成物の特性を表2に示した。
【0147】
(15−d)フィラーを含有するポリイミド膜の製造方法
上記(15−c)で得られたポリイミド前駆体溶液組成物を用いて、(1−d)と同様にポリイミド膜を形成した。このポリイミド膜の特性等について結果を表2に示した。
【0148】
<実施例16>
(16−a)フィラーを含有する前のポリイミド前駆体溶液組成物の調製
上記(3−a)と同様に調製し、固形分濃度17.9質量%、溶液粘度50.5Pa・sのポリイミド前駆体溶液組成物を得た。
【0149】
(16−b)フィラーを含有する分散溶液の製造
上記(16−a)で得られたポリイミド前駆体溶液組成物を用いて、フィラーを含有する分散溶液を(3−b)と同様に製造した(3質量%カーボン分散液)。
【0150】
(16−c)フィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物の製造方法
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mlのガラス製の反応容器に、上記3質量%カーボン分散液166.7g及びDMAc245.8gを加え、これにODA24.92g(総量0.140モル)及びMBAA15.27g(0.053モル)と、s−BPDA52.31g(総量0.193モル)とを加え、50℃で10時間撹拌して、ポリイミド前駆体溶液組成物全量に対してカーボンブラック5質量%を含有するポリイミド前駆体溶液組成物を得た。このポリイミド前駆体溶液組成物の特性を表2に示した。
【0151】
(16−d)フィラーを含有するポリイミド膜の製造方法
上記(16−c)で得られたポリイミド前駆体溶液組成物を用いて、(1−d)と同様にポリイミド膜を形成した。このポリイミド膜の特性等について結果を表2に示した。
【0152】
<比較例1>
(1’−a)フィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物の製造方法
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mlのガラス製の反応容器に、溶媒としてNMP400gと、ケッチェンブラック(ライオン社製、ケッチェンブラックECP−600JD、揮発分0.7質量%)10gとを加え、1時間撹拌後、ODA40.50g(0.202モル)と、s−BPDA59.50g(0.202モル)とを加え、50℃で10時間撹拌して、ポリイミド前駆体溶液組成物全量に対してカーボンブラックを10質量%含有するポリイミド前駆体溶液組成物を得た。このカーボンブラックを10質量%含有するポリイミド前駆体溶液組成物は、固形分濃度20.3質量%、溶液粘度50.5Pa・sで、溶液安定性は×であった。
【0153】
また、初期凝集物サイズは40μm、1ヶ月後の凝集物サイズは85μmであり、再凝集が見られたが、14日間静置後の分散安定性は○であった(表3参照)。
【0154】
(1’−b)フィラーを含有するポリイミド膜の製造方法
上記(1’−a)で得られたポリイミド前駆体溶液組成物を用いて、(1−d)と同様にポリイミド膜を形成した。このポリイミド膜の特性等について結果を表3に示した。
【0155】
<比較例2>
(2’−a)フィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物の製造方法
フィラーとして、ケッチェンブラックではなくAMC(宇部興産社製)10gを用いた以外は(1’−a)と同様にして、ポリイミド前駆体溶液組成物全量に対して炭素繊維を10質量%含有するポリイミド前駆体溶液組成物を得た。このポリイミド前駆体溶液組成物の特性を表3に示した。
【0156】
(2’−b)フィラーを含有するポリイミド膜の製造方法
上記(2’−a)で得られたポリイミド前駆体溶液組成物を用いて、(1−d)と同様にポリイミド膜を形成した。このポリイミド膜の特性等について結果を表3に示した。
【0157】
<比較例3>
(3’−a)フィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物の製造方法
フィラーとして、ケッチェンブラックではなく窒化ホウ素(電気化学工業社製、SP−2、平均粒径4μm)10gを用いた以外は(1’−a)と同様にして、ポリイミド前駆体溶液組成物全量に対して窒化ホウ素を10質量%含有するポリイミド前駆体溶液組成物を得た。このポリイミド前駆体溶液組成物の特性を表3に示した。
【0158】
(3’−b)フィラーを含有するポリイミド膜の製造方法
上記(3’−a)で得られたポリイミド前駆体溶液組成物を用いて、(1−d)と同様にポリイミド膜を形成した。このポリイミド膜の特性等について結果を表3に示した。
【0159】
<比較例4>
(4’−a)フィラーを含有する分散溶液の製造方法
NMP745gに窒化ホウ素(電気化学工業社製、SP−2、平均粒径4μm)30g及びPVP(日本触媒社製、K−30)30gを添加し、ボールミル(ボール径2mm及び6mmを併用)を用いて室温にて16時間混合を行い、窒化ホウ素を含有する分散溶液を得た(3質量%窒化ホウ素分散液)。
【0160】
(4’−b)フィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物の製造方法
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mlのガラス製の反応容器に、上記3質量%窒化ホウ素分散液333.3g及びNMP151.7gを加え、これにODA34.42g(総量0.202モル)と、s−BPDA50.58g(総量0.202モル)とを加え、50℃で10時間撹拌して、ポリイミド前駆体溶液組成物全量に対して窒化ホウ素を10質量%含有するポリイミド前駆体溶液組成物を得た。このポリイミド前駆体溶液組成物の特性を表3に示した。
【0161】
(4’−c)フィラーを含有するポリイミド膜の製造方法
上記(4’−b)で得られたポリイミド前駆体溶液組成物を用いて、(1−d)と同様にポリイミド膜を形成した。このポリイミド膜の特性等について結果を表3に示した。
【0162】
<比較例5>
(5’−a)フィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物の製造方法
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mlのガラス製の反応容器に、溶媒としてNMP400gを加え、これにODA40.50g(0.202モル)と、s−BPDA59.50g(0.202モル)とを加え、50℃で10時間撹拌して、固形分濃度18.5質量%、溶液粘度195.0Pa・sのポリイミド前駆体溶液組成物を得た。このポリイミド前駆体溶液組成物にケッチェンブラック(ライオン社製、ケッチェンブラックECP−600JD、揮発分0.7質量%)5gを添加後、3本ロールで処理し、ポリイミド前駆体溶液組成物全量に対してカーボンブラックを5質量%含有するポリイミド前駆体溶液組成物を得た。このポリイミド前駆体溶液組成物の特性を表3に示した。
【0163】
(5’−b)フィラーを含有するポリイミド膜の製造方法
上記(5’−a)で得られたポリイミド前駆体溶液組成物を用いて、(1−d)と同様にポリイミド膜を形成した。このポリイミド膜の特性等について結果を表3に示した。
【0164】
<比較例6>
(6’−a)フィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物の製造方法
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mlのガラス製の反応容器に、溶媒としてNMP400gを加え、これにODA40.50g(0.202モル)と、s−BPDA59.50g(0.202モル)とを加え、50℃で10時間撹拌して、固形分濃度18.5質量%、溶液粘度207.5Pa・sのポリイミド前駆体溶液組成物を得た。このポリイミド前駆体溶液組成物にAMC(宇部興産社製)5gを添加後、3本ロールで処理し、ポリイミド前駆体溶液組成物全量に対して炭素繊維5質量%を含有するポリイミド前駆体溶液組成物を得た。このポリイミド前駆体溶液組成物の特性を表3に示した。
【0165】
(6’−b)フィラーを含有するポリイミド膜の製造方法
上記(6’−a)で得られたポリイミド前駆体溶液組成物を用いて、(1−d)と同様にポリイミド膜を形成した。このポリイミド膜の特性等について結果を表3に示した。
【0166】
<比較例7>
(7’−a)フィラーを含有する分散溶液の製造方法
NMP400gにAMC(宇部興産社製)10g及びODA(分子量:200.26)40.50g(0.202モル)を添加し、ボールミル(ボール径2mm及び6mmを併用)を用いて室温にて16時間混合を行い、炭素繊維を含有する分散溶液を得た(2.2質量%炭素繊維分散液)。
【0167】
(7’−b)フィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物の製造方法
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mlのガラス製の反応容器に、上記で得られた2.2質量%炭素繊維分散液450.5gにs−BPDA59.50g(0.202モル)を加え、50℃で10時間撹拌して、ポリイミド前駆体溶液組成物全量に対して炭素繊維10質量%を含有するポリイミド前駆体溶液組成物を得た。このポリイミド前駆体溶液組成物の特性を表3に示した。
【0168】
(7’−c)フィラーを含有するポリイミド膜の製造方法
上記(7’−b)で得られたポリイミド前駆体溶液組成物を用いて、(1−d)と同様にポリイミド膜を形成した。このポリイミド膜の特性等について結果を表3に示した。
【0169】
<比較例8>
(8’−a)フィラーを含有する分散溶液の製造方法
NMP400gにAMC(宇部興産社製)22.76g及びラウリルジメチルアミンオキシド(花王社製、アンヒトール20N、有効成分35%)32.51gを添加し、ボールミル(ボール径2mm及び6mmを併用)を用いて室温にて16時間混合を行い、炭素繊維を含有する分散溶液を得た(5質量%炭素繊維分散液)。
【0170】
(8’−b)フィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物の製造方法
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mlのガラス製の反応容器に、上記5質量%炭素繊維分散液400gにODA40.50g(0.202モル)と、s−BPDA59.50g(0.202モル)とを加え、50℃で10時間撹拌して、ポリイミド前駆体溶液組成物全量に対して炭素繊維10質量%を含有するポリイミド前駆体溶液組成物を得た。このポリイミド前駆体溶液組成物の特性を表3に示した。
【0171】
(8’−c)フィラーを含有するポリイミド膜の製造方法
上記(8’−b)で得られたポリイミド前駆体溶液組成物を用いて、(1−d)と同様にポリイミド膜を形成した。このポリイミド膜の特性等について結果を表3に示した。
【0172】
<比較例9>
(9’−a)フィラーを含有する前のポリイミド前駆体溶液組成物の調製
(3−a)と同様に調製し、固形分濃度17.9質量%、溶液粘度50.5Pa・sのポリイミド前駆体溶液組成物を得た。
【0173】
(9’−b)フィラーを含有する分散溶液の製造方法
DMAc932.5gにケッチェンブラック(ライオン社製、ケッチェンブラックECP−600JD、揮発分0.7質量%)30g及び上記で得られたポリイミド前駆体溶液組成物37.5gを添加し、ボールミル(ボール径2mm及び6mmを併用)を用いて室温にて16時間混合を行い、カーボンブラックを含有する分散溶液を得た(3質量%カーボン分散液)。
【0174】
(9’−c)フィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物の製造方法
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mlのガラス製の反応容器に、上記3質量%カーボン分散液333.3g及びDMAc79.2gを加え、これにODA40.20g(総量0.202モル)と、s−BPDA59.05g(総量0.202モル)とを加え、50℃で10時間撹拌して、ポリイミド前駆体溶液組成物全量に対してカーボンブラック10質量%を含有するポリイミド前駆体溶液組成物を得た。このポリイミド前駆体溶液組成物の特性を表3に示した。
【0175】
(9’−d)フィラーを含有するポリイミド膜の製造方法
上記(9’−c)で得られたポリイミド前駆体溶液組成物を用いて、(1−d)と同様にポリイミド膜を形成した。このポリイミド膜の特性等について結果を表3に示した。
【0176】
<比較例10>
(10’−a)フィラーを含有する前のポリイミド前駆体溶液組成物の調製
(3−a)と同様に調製し、固形分濃度17.9質量%、溶液粘度50.5Pa・sのポリイミド前駆体溶液組成物を得た。
【0177】
(10’−b)フィラーを含有する分散溶液の製造方法
DMAc220gにケッチェンブラック(ライオン社製、ケッチェンブラックECP−600JD、揮発分0.7質量%)30g及び上記で得られたポリイミド前駆体溶液組成物750gを添加し、ボールミル(ボール径2mm及び6mmを併用)を用いて室温にて16時間混合を行い、カーボンブラックを含有する分散溶液を得た(3質量%カーボン分散液)。
【0178】
(10’−c)フィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物の製造方法
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mlのガラス製の反応容器に、上記3質量%カーボン分散液333.3g及びDMAc126.7gを加え、これにODA34.42g(総量0.202モル)と、s−BPDA50.58g(総量0.202モル)とを加え、50℃で10時間撹拌して、ポリイミド前駆体溶液組成物全量に対してカーボンブラック10質量%を含有するポリイミド前駆体溶液組成物を得た。このポリイミド前駆体溶液組成物の特性を表3に示した。
【0179】
(10’−d)フィラーを含有するポリイミド膜の製造方法
上記(10’−c)で得られたポリイミド前駆体溶液組成物を用いて、(1−d)と同様にポリイミド膜を形成した。このポリイミド膜の特性等について結果を表3に示した。
【0180】
【表1】
【0181】
【表2】
【0182】
【表3】
【0183】
以上の結果より、分散剤としてポリイミド前駆体溶液組成物を用いたフィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物は溶液安定性が高く、さらに再凝集、沈降などが見られず良好な分散安定性を示した。また分散安定性が高いフィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物から得られたフィラーを含有するポリイミド膜は良好な機械特性、電気特性などを示した。
【0184】
分散剤を用いない、あるいは分散剤にアミノ化合物、界面活性剤などを用いたポリイミド前駆体溶液組成物は溶液安定性が悪く、さらに再凝集、沈降などが見られるなど分散安定性が非常に悪かった。また分散安定性が悪いフィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物から得られたフィラーを含有するポリイミド膜は、機械特性に劣るという結果であった。
【産業上の利用可能性】
【0185】
本発明のフィラーを含有するポリイミド前駆体溶液組成物から製造されるポリイミドは、例えば、電子写真方式の複写機、プリンタやファクシミリ等の電子写真画像形成装置の定着ベルト、中間転写ベルト、リチウムイオン二次電池の結着剤、被覆剤、及び集電体等に使用することができる。
【符号の説明】
【0186】
11 構造単位
12 頭頂部
13 胴部
21 集合体
図1