特許第5708851号(P5708851)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5708851
(24)【登録日】2015年3月13日
(45)【発行日】2015年4月30日
(54)【発明の名称】感光性樹脂および感光性導電性インキ
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/027 20060101AFI20150409BHJP
   G03F 7/004 20060101ALI20150409BHJP
   H01B 1/20 20060101ALI20150409BHJP
【FI】
   G03F7/027 515
   G03F7/004 501
   H01B1/20 A
【請求項の数】8
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2014-38086(P2014-38086)
(22)【出願日】2014年2月28日
【審査請求日】2014年10月27日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】荻原 直人
(72)【発明者】
【氏名】柏村 岳
(72)【発明者】
【氏名】野上 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】中山 雄二
【審査官】 倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−228688(JP,A)
【文献】 特開2010−195861(JP,A)
【文献】 特開2010−195860(JP,A)
【文献】 特開2007−248678(JP,A)
【文献】 特許第5463498(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/004−7/18,
H01B 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
感光性樹脂(A)、導電性粒子(B)および光重合開始剤(C)を含む、感光性導電性インキであって、
前記感光性樹脂(A)が、
分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有するエポキシ化合物(a)と1分子中に少なくとも2個のフェノール性水酸基を有するフェノール化合物(b)とを反応させてなる、
側鎖にヒドロキシル基を有する樹脂(c)と、
脂環式多塩基酸の無水物または芳香族多塩基酸無水物の少なくともいずれか一方である酸無水物基含有化合物(d)と、イソシアネート基とエチレン性不飽和基とを有する化合物(e)とを、反応させてなる、側鎖にカルボキシル基とエチレン性不飽和基とを有する感光性樹脂(A)である、感光性導電性インキ。
【請求項2】
感光性樹脂(A)の酸価が10〜200mgKOH/gである、請求項1記載の感光性導電性インキ。
【請求項3】
感光性樹脂(A)のエチレン性不飽和基当量が300〜5000g/eqである、請求項1または2記載の感光性導電性インキ。
【請求項4】
感光性樹脂(A)の重量平均分子量が3000〜100000である、請求項1〜3いずれか1項に記載の感光性導電性インキ。
【請求項5】
側鎖にヒドロキシル基を有する樹脂(c)中のヒドロキシル基の一部と、脂環式多塩基酸の無水物または芳香族多塩基酸無水物の少なくともいずれか一方である酸無水物基含有化合物(d)とを反応させて、側鎖にヒドロキシル基とカルボキシル基とを有する樹脂(f)を生成し、
前記側鎖にヒドロキシル基とカルボキシル基とを有する樹脂(f)中のヒドロキシル基と、
イソシアネート基とエチレン性不飽和基とを有する化合物(e)中のイソシアネート基とを反応させてなる、感光性樹脂(A)を含有する、
請求項1〜4いずれか1項に記載の感光性導電性インキ。
【請求項6】
側鎖にヒドロキシル基を有する樹脂(c)中のヒドロキシル基の一部と、イソシアネート基とエチレン性不飽和基とを有する化合物(e)中のイソシアネート基とを反応させて、側鎖にヒドロキシル基とエチレン性不飽和基とを有する感光性樹脂(g)を生成し、
前記側鎖にヒドロキシル基とエチレン性不飽和基とを有する感光性樹脂(g)中のヒドロキシル基と、
脂環式多塩基酸の無水物または芳香族多塩基酸無水物の少なくともいずれか一方である酸無水物基含有化合物(d)とを反応させてなる、感光性樹脂(A)を含有する、
請求項1〜4いずれか1項に記載の感光性導電性インキ。
【請求項7】
側鎖にヒドロキシル基を有する樹脂(c)中のヒドロキシル基の一部または全てを、脂環式多塩基酸の無水物または芳香族多塩基酸無水物の少なくともいずれか一方である酸無水物基含有化合物(d)およびイソシアネート基とエチレン性不飽和基とを有する化合物(e)中のイソシアネート基とを反応させてなる、感光性樹脂(A)を含有する、
請求項1〜4いずれか1項に記載の感光性導電性インキ。
【請求項8】
インキ総固形分100質量%中に導電性粒子(B)を60〜95質量%含むことを特徴とする、請求項1〜7いずれか1項に記載の感光性導電性インキ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性エネルギー線に対する感光性と現像性に優れた導電性インキ、およびその導電性インキを用いて得られる導電パターン付き積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品、電磁波シールド用の薄膜形成手段あるいは導電回路の形成手段として、エッチング法および印刷法が知られている。エッチング法は、金属の表面や形状を化学的あるいは電気化学的に溶解除去する方法であり、その表面処理を含めた広義の加工技術である。エッチングは、主に金属膜に希望のパターン形状を得るために行われるが、一般的に工程が煩雑であり、また後工程で廃液処理が必要であるため、費用もかかり問題が多い。また、エッチング法によって形成された導電回路は、アルミニウムや銅など金属材料等で形成されたものであるため、折り曲げ等の物理的衝撃に対して弱いという問題がある。
【0003】
これらの問題を解決してより安価に導電回路を形成する技術として、導電性インキが注目を集めている。導電性インキを用いて印刷することにより、容易に導電回路を形成できる。更に、電子部品の小型軽量化、生産性の向上、低コスト化の実現が期待できる。このため、印刷可能な導電性インキについての研究開発が精力的になされ、多くの提案がなされている(例えば、特許文献1〜5)。
【0004】
また、特許文献6、7には、パターン形成が可能な感光性樹脂として主鎖がアクリル骨格の感光性樹脂を含む感光性導電性組成物が開示されている。より詳細には、特許文献10には、感光性導電ペーストの感光性樹脂として、側鎖にカルボキシル基とエチレン性不飽和基を有するアクリル系共重合体が提案されている。特許文献11、12には、感光性樹脂として、有機バインダー(好ましくは、カルボキシル基を有するバインダー)が提案され、有機バインダーの実施例において、専らメチルメタクリレートとメタクリル酸からなる重合体を主骨格とし、側鎖にカルボキシル基および不飽和二重結合を有する有機バインダーが開示されている。
【0005】
なお、導電性インキの例ではないが、特許文献8〜13は、側鎖にカルボキシル基と不飽和二重結合を有した感光性のフェノキシ樹脂が提案されている。これらは、感光性樹脂組成物をソルダーレジストインキ等に用いる旨、開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平06−68924号公報
【特許文献2】特開2003−238876号公報
【特許文献3】特開2005−29639号公報
【特許文献4】特開2006−310022号公報
【特許文献5】特開2003−68139号公報
【特許文献6】特開平05−271576公報
【特許文献7】特開2003−162921公報
【特許文献8】特開平8−286371号公報
【特許文献9】特開平11−228688号公報
【特許文献10】特開2010−95597号公報
【特許文献11】特開2010−195860号公報
【特許文献12】特開2011−93999号公報
【特許文献13】特開2013−0033207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1〜5に記載されるような印刷工程のみによる方法で、エッチングと同等の高精細化を達成することは難しい。また、特許文献6〜7に記載されるような方法では、フォトリソ工程(活性エネルギー線感光性とアルカリ現像性)適応性、密着性および導電性を両立する事が難しい。
【0008】
更に、近年において携帯電話、ゲーム機等の携帯端末、パーソナルコンピュター等のタッチスクリーンパネルに使用される導電回路パターンに要求される特性として、前述の高精細性に加えて、高温高湿環境下でも導電回路の抵抗値が安定する事が要求されている。特に、フォトリソ方式による高精細化に対応した従来提案されている導電性インキは、このような環境負荷に対する抵抗値の安定性、密着性維持に大きな問題があり、タッチパネルの耐久信頼性確保が課題となっている。
【0009】
本発明は、活性エネルギー線に対する感光性に優れ、希アルカリ水溶液による現像により微細なパターンが形成できるとともに、後硬化(ポストキュア)工程を経て得られる硬化塗膜の導電性、密着性が耐湿熱性等に優れており、特に各種印刷方式により粗パターンを作成後、フォトリソ方式工程により微細な電気回路形成に使用される感光性導電性インキ及びその硬化物、並びに導電パターン付き積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは前記の課題を解決するため、鋭意検討の結果、特定の感光性樹脂(A)を含有する感光性樹脂組成物が前記課題を解決するものであることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、感光性樹脂(A)、導電性粒子(B)および光重合開始剤(C)を含む、感光性導電性インキであって、
前記感光性樹脂(A)が、
分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有するエポキシ化合物(a)と1分子中に少なくとも2個のフェノール性水酸基を有するフェノール化合物(b)とを反応させてなる、
側鎖にヒドロキシル基を有する樹脂(c)と、
脂環式多塩基酸の無水物または芳香族多塩基酸無水物の少なくともいずれか一方である酸無水物基含有化合物(d)と、イソシアネート基とエチレン性不飽和基とを有する化合物(e)とを、反応させてなる、側鎖にカルボキシル基とエチレン性不飽和基とを有する感光性樹脂(A)である、感光性導電性インキに関する。
前記感光性樹脂(A)の酸価は10〜200mgKOH/gであることが好ましく、
前記感光性樹脂(A)のエチレン性不飽和基当量は300〜5000g/eqであることが好ましく、
前記感光性樹脂(A)の重量平均分子量は3000〜100000であることが好ましい。
【0012】
前記感光性樹脂(A)は、
側鎖にヒドロキシル基を有する樹脂(c)中のヒドロキシル基の一部と、脂環式多塩基酸の無水物または芳香族多塩基酸無水物の少なくともいずれか一方である酸無水物基含有化合物(d)とを反応させて、側鎖にヒドロキシル基とカルボキシル基とを有する樹脂(f)を生成し、
前記側鎖にヒドロキシル基とカルボキシル基とを有する樹脂(f)中のヒドロキシル基と、
イソシアネート基とエチレン性不飽和基とを有する化合物(e)中のイソシアネート基とを反応させてなる、感光性樹脂であるか、もしくは、
【0013】
側鎖にヒドロキシル基を有する樹脂(c)中のヒドロキシル基の一部と、イソシアネート基とエチレン性不飽和基とを有する化合物(e)中のイソシアネート基とを反応させて、側鎖にヒドロキシル基とエチレン性不飽和基とを有する感光性樹脂(g)を生成し、
前記側鎖にヒドロキシル基とエチレン性不飽和基とを有する感光性樹脂(g)中のヒドロキシル基と、
脂環式多塩基酸の無水物または芳香族多塩基酸無水物の少なくともいずれか一方である酸無水物基含有化合物(d)とを反応させてなる、感光性樹脂であるか、もしくは
【0014】
側鎖にヒドロキシル基を有する樹脂(c)中のヒドロキシル基の一部または全てを、脂環式多塩基酸の無水物または芳香族多塩基酸無水物の少なくともいずれか一方である酸無水物基含有化合物(d)およびイソシアネート基とエチレン性不飽和基とを有する化合物(e)中のイソシアネート基とを反応させてなる、感光性樹脂であることが好ましい。
【0015】
また、本発明の感光性導電性インキは、インキ総固形分100質量%中に導電性粒子(B)を70〜95質量%含むことが好ましい。
【0016】
なお、本発明において、以下のように略すことがある。即ち、
側鎖にヒドロキシル基を有する樹脂(c) を側鎖ヒドロキシル基含有樹脂(c)と、
側鎖にヒドロキシル基とカルボキシル基とを有する樹脂(f) を側鎖ヒドロキシル基カルボキシル基含有樹脂(f)と、
側鎖にヒドロキシル基とエチレン性不飽和基とを有する感光性樹脂(g)を側鎖ヒドロキシル基含有感光性樹脂(g)と、
側鎖にカルボキシル基とエチレン性不飽和基とを有する感光性樹脂(A) を側鎖カルボキシル基含有感光性樹脂(A)
あるいは「側鎖」を省略することもある。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、活性エネルギー線に対する感光性に優れ、希アルカリ水溶液による現像により微細なパターンが形成できるとともに、後硬化(ポストキュア)工程を経て得られる硬化塗膜は、環境負荷試験を経ても抵抗値が安定し、密着性も維持される。特に各種印刷方式により粗パターンを作成後、フォトリソ工程により微細な電気回路形成に使用される感光性導電性インキ及びその硬化物、並びに導電パターン付き積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の導電性インキを配線構造に適用した抵抗膜式タッチスクリーンパネルの一例の要部の概略断面構成図であり、図2のA−A'切断線に相当する。
図2】本発明の導電性インキを配線構造に適用して好適な抵抗膜式タッチスクリーンパネルの積層状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、本発明の趣旨に合致する限り、他の実施形態も本発明の範疇に属し得る。また、本明細書において「任意の数A〜任意の数B」なる記載は、数A及び数Aより大きい範囲であって、数B及び数Bより小さい範囲を意味する。また、本明細書及び請求の範囲において記載する「(メタ)アクリロ」という表記は、「アクリロ」に読み替えた化合物、及び「メタクリロ」に読み替えた化合物の何れも含むものとする。また、「(メタ)アクリル」及び「(メタ)アクリレート」においても同様に定義する。
【0020】
[感光性導電性インキ]
感光性導電性インキは、感光性樹脂(A)、導電性粒子(B)、および光重合開始剤(C)を含有し、さらに熱硬化性化合物(D)、エチレン性不飽和化合物(E)等を含むことができる。
【0021】
[感光性樹脂(A)]
本発明の感光性導電性インキは、側鎖にカルボキシル基とエチレン性不飽和基とを有する感光性樹脂(A)、導電性粒子(B)および光重合開始剤(C)を含むものである。
以下、感光性樹脂(A)について説明する。
感光性樹脂(A)は、分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有するエポキシ化合物(a)と1分子中に少なくとも2個のフェノール性水酸基を有するフェノール化合物(b)とを反応させてなる、側鎖にヒドロキシル基を有する樹脂(c)と、脂環式多塩基酸の無水物または芳香族多塩基酸無水物の少なくともいずれか一方である酸無水物基含有化合物(d)と、イソシアネート基とエチレン性不飽和基とを有する化合物(e)とを、反応させてなる、側鎖にカルボキシル基とエチレン性不飽和基とを有するものである。
側鎖ヒドロキシル基含有樹脂(c)は、前記エポキシ化合物(a)中のエポキシ基に前記フェノール化合物(b)中のフェノール性水酸基が付加反応し、エポキシ基が開環し、エーテル結合と二級のヒドロキシル基が生ずる。側鎖ヒドロキシル基含有樹脂(c)における主鎖は、前記エポキシ化合物(a)に由来する構造と前記フェノール化合物(b)に由来する構造とがエーテル結合により連結されたものである。側鎖ヒドロキシル基含有樹脂(c)におけるヒドロキシル基は、エーテル結合により連結された主鎖に対し、側鎖に位置する。
【0022】
本発明において用いられる感光性樹脂(A)の技術的特徴のひとつは、において、重要なポイントのひとつは、側鎖を変性しカルボキシル基を導入する際に、脂環式多塩基酸の無水物または芳香族多塩基酸無水物の少なくともいずれか一方である酸無水物基含有化合物(d)を使用していることである。
前記酸無水物基含有化合物(d)を用いることにより、生成するエステル結合基が嵩高い置換基で保護することができる。エステル結合基は一般に加水分解性に示すとされているが、嵩高い置換基で保護されることにより加水分解しにくくなる。
【0023】
例えば、前記酸無水物基含有化合物(d)の代わりに、無水コハク酸のような脂肪族多塩基酸無水物を使用した感光性樹脂を含有する感光性導電性インキの場合、エステル結合由来の極性によって初期の基材密着性は得られる。しかし、高湿環境下におかれる環境負荷試験の際、加水分解が進行し、遊離カルボン酸が生成するため、環境負荷試験を経ると抵抗値が変化し易く、密着性も低下する。
しかし、本発明の感光性樹脂(A)を含有する感光性導電性インキの場合、前記酸無水物基含有化合物(d)由来の嵩高い置換基によりエステル結合基が保護されるので、環境負荷試験を経ても抵抗値が変化し難く、密着性も維持できる。
高温高湿試験後においても良好な密着性と導電性とを同時に満足することができる。
【0024】
また、本発明において用いられる感光性樹脂(A)の2つめの技術的特徴は、多段階反応によって側鎖にエチレン性不飽和基とカルボキシル基を導入していることである。そのため、エチレン性不飽和基およびカルボキシル基の量が少ない場合でも、優れた感光性、解像性、及び現像性を確保できる。これらの官能基は、主鎖に予め組み込まれている場合に比べ、多段階反応によって側鎖に導入された場合の方が反応性に富む。また、主鎖の末端のみに導入されている場合に比べ、側鎖にこれらの官能基を導入する場合は、導入量を任意に調整できるため、優れた感光性、解像性、現像性、及び塗膜耐性を発揮することができる
【0025】
さらには、本発明において用いられる感光性樹脂(A)の3つめの技術的特徴は、側鎖ヒドロキシル基含有樹脂(c)とイソシアネート基とエチレン性不飽和基とを有する化合物(e)の反応によってエチレン性不飽和基を側鎖に導入する際に、側鎖にウレタン結合が導入されることである。ウレタン結合の導入により得られる硬化塗膜の内部応力を緩和させることができ、マスク汚れの原因となるべた付きが少なく、現像性に優れる乾燥塗膜や、柔軟性が良好な硬化物を与えることができる。
【0026】
以下、感光性樹脂(A)の製造方法について詳細に説明する。
まず、本発明の第一の工程で得られる側鎖ヒドロキシル基含有樹脂(c)について説明する。
側鎖ヒドロキシル基含有樹脂(c)は、分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有するエポキシ化合物(a)と1分子中に少なくとも2個のフェノール性水酸基を有するフェノール化合物(b)とを反応させることで得ることができる。エポキシ基とフェノール性水酸基は、エポキシ基:フェノール性水酸基=1:1〜1:2.5のモル比で反応させることが好ましい。前記エポキシ化合物(a)中のエポキシ基1モルに対し、前記フェノール化合物(b)中のフェノール性水酸基を1モル以上にすることで、適切な分子量にしやすくなり、耐熱性がより向上する。一方、前記フェノール化合物(b)中のフェノール性水酸基を2.5モル以下にすることで、末端エポキシ基の量をより適切にできるため、次工程で多塩基酸無水物(d)を反応させる際に反応制御がしやすくなる。
【0027】
なお、本発明でいう、モル比とは、実際に官能基同士が反応するモル比であり、各種出発材料は、前記モル比での反応を可能にする量を使用する。従って、例えば、「1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有するエポキシ化合物(a)」と、「1分子中に少なくとも2個のフェノール性水酸基を有するフェノール化合物(b)」との反応において各出発原料を仕込む際、「1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有するエポキシ化合物(a)」中のエポキシ基1.0モルに対して「1分子中に少なくとも2個のフェノール性水酸基を有するフェノール化合物(b)」中のフェノール性水酸基が2.5モルを超える量で仕込んで(好ましくは2.7モルを上限として仕込んで)反応させることがある。
【0028】
本発明で用いる1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有するエポキシ化合物(a)は、1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を含んでいればよく、特に限定されるものではない。
例えば、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、テトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ポリブタジエンジグリシジルエーテル等の脂肪族エポキシ化合物、
ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、ジヒドロキシベンゾフェノンジグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ヒドロキノンジグリシジルエーテル、ジヒドロキシアントラセン型エポキシ樹脂、ビスフェノールフルオレンジグリシジルエーテル、ビスクレゾールフルオレンジグリシジルエーテル、ビスフェノキシエタノールフルオレンジグリシジルエーテル、N,N−ジグリシジルアニリン等の芳香族エポキシ化合物、
さらに上記記載の芳香族エポキシ化合物の芳香環に水素が付加したもの(水素化エポキシ化合物ともいう)やヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル等の脂環式エポキシ化合物などが例示できる。
【0029】
中でも、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルは、最終的に得られる感光性樹脂(A)に柔軟性を付与させる場合に好ましく、ビスフェノールA型エポキシ樹脂は、最終的に得られる感光性樹脂(A)に塗膜耐性を付与させる場合に好ましい。このように本発明において、1 分子中に少なくとも2 個のエポキシ基を有するエポキシ化合物( a ) は目的に応じて選択することが可能であり、これらは単独で使用しても良いし、複数を併用することも好ましい。
【0030】
また、本発明において、1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有するエポキシ化合物(a)を併用して用いるとは、それぞれのエポキシ化合物(a)からなる感光性樹脂(A)を後からブレンドするという意味も含む。
【0031】
本発明で用いる1分子中に少なくとも2個のフェノール性水酸基を有するフェノール化合物(b)としては、好ましくはフェノール性水酸基を分子内に2個含有する化合物であればよく、特に限定されるものではない。
例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(別名:ビスフェノールA)が代表例であり、その他にも、
ビス(4−ヒドロキシフェノル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン等の中心炭素に水素原子が結合しているビスフェノール類;
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−n−ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−n−ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−n−ヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−n−ヘプタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−n−オクタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−n−ノナン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−n−デカン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン(通称ビスフェノールP)等の中心炭素に1つのメチル基が結合しているビスフェノール類;
2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールC)等の中心炭素に2つのメチル基が結合しているビスフェノール類;
ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−ジフェニルメタン、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−1,1−ジフェニルメタン等のジフェニルメタン誘導体であるビスフェノール類;
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(通称ビスフェノールZ)等のシクロヘキサン誘導体であるビスフェノール類;
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン等の−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン誘導体であるビスフェノール類;
9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン等のフルオレン誘導体であるビスフェノール類;
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−シクロペンタン、等のシクロアルカン誘導体であるビスフェノール類;
4,4’−ビフェノール等の芳香族環が直接結合したビフェノール類;
ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン等のスルホン誘導体であるビスフェノール類;
ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル等のエーテル結合を有するビスフェノール類;
ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド等のスルフィド結合を有するビスフェノール類;
ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド等のスルホキシド誘導体であるビスフェノール類;
フェノールフタレイン等のヘテロ原子含有脂肪族環を有するビスフェノール類;
ビス(2,3,5,6−テトラフルオロ−4−ヒドロキシフェニル)ジフルオロメタン等の炭素−フッ素結合を有するビスフェノール類等を挙げることができる。
さらに、ヒドロキノン、レゾルシノール、カテコール、メチルヒドロキノン等のジヒドロキシベンゼン類;
1,5−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン等のジヒドロキシナフタレン類等を挙げることができる。
【0032】
本発明において、1分子中に少なくとも2個のフェノール性水酸基を有するフェノール化合物(b)は、一種のみを単独で用いても良いし、複数を併用しても良い。中でも、工業品の入手の容易さ、種々の塗膜耐性、及び耐熱性、耐湿熱性を上げやすいという点から、ビスフェノールA、ビスフェノールFが好ましい。
【0033】
本発明において、側鎖ヒドロキシル基含有樹脂(c)の合成条件は特に限定されるものではなく、公知の条件で行うことができる。例えば、フラスコに、1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有するエポキシ化合物(a)、1分子中に少なくとも2個のフェノール性水酸基を有するフェノール化合物(b)、および溶剤を仕込み、撹拌しながら100〜150℃で加熱することで側鎖ヒドロキシル基含有樹脂(c)を得ることができる。この際、必要に応じてトリフェニルホスフィンや、3級アミノ基含有化合物等の触媒を使用してもよい。
前記エポキシ化合物(a)と前記フェノール化合物(b)との反応の際、前記エポキシ化合物(a)中のエポキシ基が残らないように、前記フェノール化合物(b)のフェノール性水酸基に対して前記エポキシ化合物(a)中のエポキシ基をやや少なく用いることが好ましい。例えば、前記フェノール化合物(b)のフェノール性水酸基1モルに対して、前記エポキシ化合物(a)中のエポキシ基を0.8〜0.99モルの範囲で反応させることが好ましい。
【0034】
このようにして得られる側鎖ヒドロキシル基含有樹脂(c)の重量平均分子量は、3000〜100000であることが好ましく、より好ましくは、5000〜60000である。重量平均分子量が小さい場合は、塗工時の粘度やハンドリング、及び、光硬化後の現像性を向上させることができる。一方、重量平均分子量が大きい場合には、最終的に得られる塗膜の耐熱性、耐湿熱性等を向上することができる。また重量平均分子量を大きくすることにより柔軟性を高め、密着性確保が困難な基材への密着性等を向上することができる。
側鎖ヒドロキシル基含有樹脂(c)の水酸基価は、50〜200mgKOH/gであることが好ましく、より好ましくは、70〜170mgKOH/gである。側鎖ヒドロキシル基含有樹脂(c)の水酸基価が50〜200mgKOH/gであることにより、続く工程における側鎖変性の反応率を調整する自由度が高くなるため、優れた感光性、解像性、及び現像性を付与しやすくなる。
【0035】
次に、側鎖ヒドロキシル基含有樹脂(c)に、カルボキシル基とエチレン性不飽和基とを導入する工程について説明する。
反応の順番は問わないが、前記側鎖ヒドロキシル基含有樹脂(c)と、前記酸無水物基含有化合物(d)と、イソシアネート基とエチレン性不飽和基とを有する化合物(e)とを反応させることによって、側鎖にカルボキシル基とエチレン性不飽和基とを有する感光性樹脂(A)を得ることができる。
例えば、前記側鎖ヒドロキシル基含有樹脂(c)中のヒドロキシル基の少なくとも一部と酸無水物基含有化合物(d)とを反応させ、側鎖にヒドロキシル基とカルボキシル基とを有する樹脂(f)を得、次いで前記側鎖にヒドロキシル基とカルボキシル基とを有する樹脂(f)中のヒドロキシル基の少なくとも一部と、イソシアネート基とエチレン性不飽和基とを有する化合物(e)とを反応させて、側鎖にカルボキシル基とエチレン性不飽和基とを有する感光性樹脂(A)を得る。
あるいは、前記側鎖ヒドロキシル基含有樹脂(c)中のヒドロキシル基の少なくとも一部と、イソシアネート基とエチレン性不飽和基とを有する化合物(e)とを反応させて、側鎖にヒドロキシル基とエチレン性不飽和基とを有する感光性樹脂(g)を得、次いで前記側鎖にヒドロキシル基とエチレン性不飽和基とを有する感光性樹脂(g)中のヒドロキシル基と酸無水物基含有化合物(d)とを反応させ、側鎖にカルボキシル基とエチレン性不飽和基とを有する感光性樹脂(A)を得る。
あるいは、前記側鎖ヒドロキシル基含有樹脂(c)中のヒドロキシル基の一部または全てを酸無水物基含有化合物(d)およびイソシアネート基とエチレン性不飽和基とを有する化合物(e)と反応させて、側鎖にカルボキシル基とエチレン性不飽和基とを有する感光性樹脂(A)を作製することもできる。
【0036】
側鎖ヒドロキシル基含有樹脂(c)中のヒドロキシル基1モルに対し、酸無水物基含有化合物(d)中の酸無水物基とイソシアネート基とエチレン性不飽和基とを有する化合物(e)中のイソシアネート基の合計は1モル以下にすることが好ましい。酸無水物基含有化合物(d)中の酸無水物基とイソシアネート基とエチレン性不飽和基とを有する化合物(e)中のイソシアネート基の合計を1モル以下にすることで、未反応の原料を少なくすることができるため、副反応を抑制できる。
【0037】
また、側鎖ヒドロキシル基含有樹脂(c)中のヒドロキシル基1モルに対する、酸無水物基含有化合物(d)中の酸無水物基と、イソシアネート基とエチレン性不飽和基とを有する化合物(e)中のイソシアネート基のモル比は、酸無水物基:イソシアネート基=0.05:0.95〜0.95:0.05のモル比であることが好ましい。酸無水物基を0.05モル以上にする(イソシアネート基を0.95モル以下にする)ことで、パターン形成の際の希アルカリ水溶液による現像性をより向上させることができる。一方、酸無水物基を0.95モル以下にする(イソシアネート基を0.05モル以上にする)ことで、光感度(解像性)をより向上させることができる。
【0038】
本発明で用いる酸無水物基含有化合物(d)は、脂環式多塩基酸の無水物または芳香族多塩基酸無水物の少なくともいずれか一方である。酸無水物基含有化合物(d)は、上記の条件を満たし、酸無水物基を分子内に1個以上含有する化合物であればよく、特に限定されるものではない。例えば、
メチルテトラヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチル無水ナジック酸、無水ナジック酸、水素化メチル無水ナジック酸、スチルエンドスチレンテトラヒドロ無水フタル酸、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸等の脂環式二塩基酸の無水物
水添トリメリット酸無水物、水添ピロメリット酸無水物等の三塩基酸以上の脂環式多塩基の酸無水物
無水フタル酸、テトラブロモ無水フタル酸、無水トリメリット酸等の芳香族二塩基酸無水物;
無水ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物等の三塩基酸以上の芳香族多塩基酸無水物;
を挙げることができる。
【0039】
中でも、テトラヒドロ無水フタル酸などは、本発明において、高温高湿試験後の密着性、導電性が非常に優れるため特に好ましい。
本発明において、酸無水物基含有化合物(d)は、一種のみを単独で用いても良いし、複数を併用しても良い。
さらに、本発明の目的・効果を損なわない範囲で、無水コハク酸等の脂肪族二塩基酸無水物も使用することができる。
【0040】
本発明で用いるイソシアネート基とエチレン性不飽和基とを有する化合物(e)は、イソシアネート基とエチレン性不飽和基を分子内に1個以上含有する化合物であればよく、特に限定されるものではない。
例えば、(メタ)アクリロイルイソシアネート、(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、(メタ)アクリロイルオキシエトキシエチルイソシアネート、(メタ)アクリロイルオキシプロピルイソシアネート、ビス(アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート、あるいはこれらの変性体等を挙げることができる。
【0041】
本発明において、イソシアネート基とエチレン性不飽和基とを有する化合物(e)は、一種のみを単独で用いても良いし、複数を併用しても良い。中でも、メタクリロイルオキシエチルイソシアネートは、本発明において、光感度の点から好ましく、解像性、パターン形成性および塗膜耐性が優れるため特に好ましい。
【0042】
本発明において、感光性樹脂(A)の合成条件は特に限定されるものではなく、公知の条件で行うことができる。例えば、二段階で合成する場合は、フラスコに、酸素存在下、側鎖ヒドロキシル基含有樹脂(c)、酸無水物基含有化合物(d)、イソシアネート基とエチレン性不飽和基とを有する化合物(e)および溶剤を仕込み、撹拌しながら25〜150℃で加熱することで感光性樹脂(A)を得ることができる。この場合、反応促進のために必要に応じて3級アミノ基含有化合物等の反応触媒を添加したり、あるいは重合反応や重合進行によるゲル化等を起こすことのないよう、エチレン性不飽和基の重合禁止剤を用いたりすることもできる。
【0043】
また、三段階で合成する場合は、フラスコに、側鎖ヒドロキシル基含有樹脂(c)、酸無水物基含有化合物(d)、および溶剤を仕込み、撹拌しながら100〜150℃で加熱した後、さらにフラスコに、酸素存在下、イソシアネート基とエチレン性不飽和基とを有する化合物(e)および溶剤を仕込み、撹拌しながら25〜150℃で加熱することで感光性樹脂(A)を得ることができる。
あるいは、フラスコに、酸素存在下、側鎖ヒドロキシル基含有樹脂(c)、イソシアネート基とエチレン性不飽和基とを有する化合物(e)および溶剤を仕込み、撹拌しながら25〜150℃で加熱した後、さらにフラスコに、酸素存在下、酸無水物基含有化合物(d)、および溶剤を仕込み、撹拌しながら25〜150℃で加熱することで感光性樹脂(A)を得ることができる。
【0044】
重合禁止剤としては、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、p−t−ブチルカテコール、2−t−ブチルハイドロキノン、2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン、トリメチルハイドロキノン、メトキシハイドロキノン、p−ベンゾキノン、2,5−ジ−t−ブチルベンゾキノン、ナフトキノン、フェノチアジン、N−オキシル化合物等を用いることができる。また、重合禁止効果を高めるには、空気、あるいは空気と窒素等の不活性ガスとの混合ガス等を反応容器に吹き込む、いわゆるバブリングを併用することが好ましい。
【0045】
以上の工程により得られる感光性樹脂(A)の酸価は、10〜200mgKOH/gであることが好ましく、より好ましくは30〜150mgKOH/gである。10mgKOH/gに近い範囲で設計する場合、得られる塗膜のフレキシブル性や密着性を向上することができる。一方、200mgKOH/gに近い範囲で設計する場合、架橋点が多くなるため耐熱性がより向上する。また、現像液に対する塗膜の溶解性も向上するため、光硬化させた部分をパターンとして残す場合に、パターンの形状を制御しやすくなる。
【0046】
本発明における感光性樹脂(A)のエチレン性不飽和基当量は、300〜5000g/eqであることが好ましく、より好ましくは、300〜3000g/eqである。エチレン性不飽和基当量を300g/eqに近い範囲で設計する場合、得られる塗膜の光感度が高くなるため、現像時に良好なパターン形状を得やすくなる。一方、5000g/eqに近い範囲で設計する場合、適度な光架橋点となるため、最終的に得られる塗膜の柔軟性を増す事による密着性確保が困難な基材への密着性等を向上することができる。
なお、本発明でいう「エチレン性不飽和基当量」とは、樹脂の合成時に使用した原材料の重量から算出される理論値であって、樹脂の重量を、樹脂中に存在するエチレン性不飽和基の数で除したものであり、エチレン性不飽和基1モルあたりの樹脂の重量、すなわち、エチレン性不飽和基濃度の逆数に相当するものである。
【0047】
本発明における感光性樹脂(A)の重量平均分子量は、3000〜100000であることが好ましく、より好ましくは、5000〜60000である。重量平均分子量が小さい場合は、塗工時の粘度やハンドリング、及び、光硬化後の現像性を向上させることができる。一方、重量平均分子量が大きい場合には、最終的に得られる塗膜の耐熱性、耐湿熱性等を向上することができる。また重量平均分子量を大きくすることにより柔軟性を高め、密着性確保が困難な基材への密着性等を向上することができる。
なお、感光性樹脂(A)の重量平均分子量における側鎖部分の寄与は小さい。つまり、感光性樹脂(A)の重量平均分子量は、主鎖の重量平均分子量、即ち側鎖ヒドロキシル基含有樹脂(c)の重量平均分子量とほぼ近しい値を示す。
【0048】
感光性樹脂(A)の合成に使用する溶剤は、最終用途や、反応物の溶解性に応じて適宜選択することができる。
例えば、スクリーン印刷により粗パターンを形成してからフォトリソ法により微細回路を形成する工程で使用する場合、スクリーン印刷工程において、溶剤乾燥によるスクリーンメッシュでのインキ固化を抑制する必要があるため、高沸点の溶剤を用いることが好ましい。この場合の高沸点溶剤としては、例えばエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルなどのジアルキレングリコールモノアルキレンエーテル化合物、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテルなどのトリアルキレングリコールモノアルキレンエーテル化合物が挙げられる。
本発明において、これらの溶剤は、必要に応じて一種のみを単独で用いても良いし、複数を併用しても良く、又、反応過程で脱溶剤を行ったり、脱溶剤後、新たに別の溶剤を添加したりしても良い。
【0049】
[導電性粒子(B)]
本発明の導電性インキに用いる導電性粒子としては、例えば金、銀、銅、銀メッキ銅粉、銀−銅複合粉、銀−銅合金、アモルファス銅、ニッケル、クロム、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、インジウム、ケイ素、アルミニウム、タングステン、モルブテン、白金等の金属粉、これらの金属で被覆した無機物粉体、酸化銀、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ルテニウム等の金属酸化物の粉末、これらの金属酸化物で被覆した無機物粉末、おとびカーボンブラック、グラファイト等を用いることができる。これらの導電性粒子は、1種または2種以上組み合わせて用いても良い。これらの導電性粒子のなかでも、コスト、高導電性で酸化による抵抗率の上昇が少ないことから銀が好ましい。
【0050】
この導電性粒子の形状は、上記特性を満たしていれば特に限定されず、不定形、凝集状、鱗片状、微結晶状、球状、フレーク状等を適宜用いることができる。高精細パターンの印刷性の観点や導体パターンの基材への密着性の観点から、粒径の小さな球状のものや、凝集状のものであっても、凝集体として比較的小さいものが好ましい。
本発明に係る導電性インキに用いられる導電性粒子のD50粒子径は0.5〜8μmであり、1〜5μmの範囲であることが好ましく、2〜4μmの範囲であることがさらに好ましい。
また、BET比表面積は0.3〜5m/gであり、0.8〜2.3m/gの範囲であることが好ましく、0.8〜2m/gの範囲であることがさらに好ましい。
【0051】
導電性粒子のD50粒子径が0.5μm未満であると、導電性インキにしたときに導電性粒子の分散性が悪くなるために導電性粒子同士の接触不良が生じ、印刷物の抵抗値が大きくなる可能性がある。また、導電性粒子のコストが高くなる。
一方、D50粒子径が8μmを越えると、高精細パターンの印刷性が劣る可能性がある。
なお、導電性粒子のD50粒子径は、島津製作所社製レーザー回折粒度分布測定装置「SALAD−3000」を用いて、体積粒度分布の累積粒度(D50)を測定した。
【0052】
導電性粒子のBET比表面積が0.3m/g未満であると導電性粒子同士の接触点が小さくなり、接触抵抗が大きくなる。
また、BET比表面積が5m/gを超えると導電性粒子の表面を被覆するのに多くの樹脂を必要とするため、バインダー樹脂であるエポキシ樹脂に対する濡れが劣り、導電性インキにした場合の流動性が悪くなり印刷塗膜の表面のレベリング性が低下するので好ましくない。また、導電性粒子の表面を被覆するのに多くの樹脂を必要とするため、基材に対する導電パターンの密着性も低下する。
BET比表面積とは、粉体粒子表面に吸着占有面積の分かった分子を液体窒素の温度で吸着させ、その量から試料の比表面積を求める方法であり、不活性気体の低温低湿物理吸着を利用したものがBET法である。BET比表面積は、島津製作所製流動式比表面積測定装置「フローソーブII」を用いて測定した表面積を、以下の式(1)を用いて算出した値と定義する。
式(1) 比表面積(m/g)=表面積(m)/粉末質量(g)
【0053】
本発明の感光性導電性インキは、導電性を更に向上させる目的で、導電性粒子として金属微粒子(B’)を上述の比較的大きな粒子と併用することも出来る。通常の動的光散乱方法を利用した粒径分布測定装置等で測定される平均粒子径が0.001〜0.1μmの金属微粒子(B’)である。平均粒子径が0.1μmを超える金属微粒子(B’)を用いると、導電性が低下するばかりでなく、インキの安定性及びインキに対する流動性付与作用が低下して、スクリーン印刷等で印刷することが困難になる。平均粒子径が0.001〜0.05μmの金属微粒子(B’)を使用することが、導電性、インキ安定性、そして流動性の点でさらに好ましい。
【0054】
平均粒子径0.001〜0.1μmの金属微粒子(B’)としては、例えば、特開平11−319538号公報に記載されているように、溶液中の金属イオンを高分子分散剤の存在下で還元することで得られる、高分子量分散剤によって保護された金属微粒子を使用できる。また、特開2002−266002号公報に記載されているように、減圧した不活性ガス雰囲気下で、金属を蒸発させて、この金属蒸気にモノマーの蒸気を混合することで得られる、当該金属の微粒子表面に付着するモノマーが重合して表面部分が高分子化合物で被覆された金属微粒子を使用できる。前者の高分子分散剤によって保護された金属微粒子(B’)を使用すると、金属微粒子の保護コロイドとして作用している高分子分散剤が上記導電性粒子(B)に対しても作用し、金属微粒子(B’)が流動性付与剤として効果的に作用すると共に、導電性も向上させる。
【0055】
本発明の感光性導電性インキは、インキの総固形分100質量%中に、導電性粒子を60〜95質量%含むことが好ましく、70〜95質量%含むことがより好ましく、85〜95質量%含むことがさらに好ましい。硬化塗膜の導電性の点から導電性粒子を60質量%以上とすることが好ましく、硬化塗膜の基材への密着性、機械強度の点から95質量%以下とすることが好ましい。
【0056】
[光重合開始剤(C)]
光重合開始剤(C)は、活性エネルギー線により前記の感光性樹脂(A)を硬化させるために用いる。光重合開始剤としては、光励起によってビニル重合を開始できる機能を有するものであれば特に限定はなく、例えばモノカルボニル化合物、ジカルボニル化合物、アセトフェノン化合物、ベンゾインエーテル化合物、アシルフォスフィンオキシド化合物、アミノカルボニル化合物等が使用できる。活性エネルギー線としては紫外線が好ましい。
【0057】
具体的にモノカルボニル化合物としては、ベンゾフェノン、4−メチル−ベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−3−(4−ベンゾイル−フェノキシ)−N,N,N−トリメチル−1−プロパンアミン塩酸塩、4−ベンゾイル−N,N−ジメチル−n−[2−(1−オキソ−2−プロペニルオキシエチル)]メタアンモニウム臭酸塩、2−/4−iso−プロピルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、1−クロロ−4−プロポキシチオキサントン、2−ヒドロキシ−3−(3,4−ジメチル−9−オキソ−9Hチオキサントン−2−イロキシ)−N,N,N−トリメチル−1−プロパンアミン塩酸塩、ベンゾイルメチレン−3−メチルナフト(1,2−d)チアゾリン等が挙げられる。
【0058】
ジカルボニル化合物としては、1,7,7−トリメチル-ビシクロ[2.1.1]ヘプン−2,3−ジオン、ベンザイル、2−エチルアントラキノン、9,10−フェナントレンキノン、メチル−α−オキソベンゼンアセテート、4−フェニルベンザイル等が挙げられる。
【0059】
アセトフェノン化合物としては、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)2−ヒドロキシ−ジ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−スチリルプロパン−1−オン重合物、ジエトキシアセトフェノン、ジブトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、2,2−ジエトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノ−フェニル)ブタン−1−オン、1−フェニル−1,2−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム、3,6−ビス(2−メチル−2−モルホリノ−プロパノニル)−9−ブチルカルバゾール等が挙げられる。
【0060】
ベンゾインエーテル化合物としては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインノルマルブチルエーテル等が挙げられる。
【0061】
アシルフォスフィンオキシド化合物としては、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、4−n−プロピルフェニル-ジ(2,6−ジクロロベンゾイ
ル)ホスフィンオキシド等が挙げられる。
【0062】
アミノカルボニル化合物としては、メチル−4−(ジメチルアミノ)ベンゾエート、エチル−4−(ジメチルアミノ)ベンゾエート、2−nブトキシエチル−4−(ジメチルアミノ)ベンゾエート、イソアミル−4−(ジメチルアミノ)ベンゾエート、2−(ジメチルアミノ)エチルベンゾエート、4,4’−ビス−4−ジメチルアミノベンゾフェノン、等が挙げられる。
中でも、本発明において、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オンとチオキサントン類とを組み合わせて使用する場合は、安価でありながら感光性が非常に優れるため、特に好ましい。
これらは前記化合物に限定されず、紫外線により重合を開始させる能力があればどのようなものでも構わない。これらは単独使用または併用することができ、使用量に制限はないが、感光性樹脂(A)の乾燥重量の合計100質量部に対して1〜20質量部の範囲で添加されるのが好ましい。又、増感剤として公知の有機アミンを加えることもできる。
【0063】
[熱架橋性化合物(D)]
熱架橋性化合物(D)は、耐熱性や塗膜耐性等を更に向上させる目的で用いることができる。熱架橋性化合物(D)としては、一般的に用いられる各種熱架橋性化合物を用いることができるが、特に好ましくは、エポキシ基含有化合物、イソシアネート基含有化合物、ブロック化イソシアネート基含有化合物、キレート化合物およびβ−ヒドロキシアルキルアミド基含有化合物をからなる群より選ばれる少なくとも一種を用いることが出来る。
【0064】
本発明において熱架橋性化合物(D)として用いるエポキシ基含有化合物は、分子内にエポキシ基を含有する化合物であればよく、特に限定されない。なお、ここで説明するエポキシ基含有化合物は、エチレン性不飽和基を有していても良いし、有していなくともよい。好適な例として、例えば、前記の1分子内に少なくとも2個のエポキシ基を有するエポキシ化合物(a)を挙げることができる。
1分子内にエポキシ基を1個有する化合物としては、例えば、N−グリシジルフタルイミド、グリシドール、グリシジル(メタ)アクリレート等の化合物が挙げられる。
1分子内にエポキシ基を3個以上有する化合物としては、例えば、トリスヒドロキシエチルイソシアヌレートトリグリシジルエーテル、トリグリシジルイソシアヌレート、トリスフェノール型エポキシ化合物、テトラキスフェノール型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物等が挙げられる。
特に、テトラキスフェノール型エポキシ化合物は4官能であり、かつ、耐熱性に優れるため本発明において好ましい。
【0065】
本発明において熱架橋性化合物(D)として用いるイソシアネート基含有化合物としては、イソシアネート基を分子内に有する化合物であればよく、特に限定されるものではない。なお、ここで説明するイソシアネート基含有化合物は、エチレン性不飽和基を有していても良いし、有していなくともよい。好適な例として、例えば、前記のイソシアネート基とエチレン性不飽和基とを有する化合物(e)を挙げることができる。
1分子中にイソシアネート基を1個有するイソシアネート基含有化合物としては、n−ブチルイソシアネート、イソプロピルイソシアネート、フェニルイソシアネート、ベンジルイソシアネート等が挙げられる。
1分子中にイソシアネート基を2個有するイソシアネート基含有化合物としては、例えば、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート等を挙げることができる。
【0066】
また、1分子中にイソシアネート基を3個有するイソシアネート基含有化合物としては、具体的には、前記で説明したジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、水と反応したビュウレット体、イソシアヌレート環を有する3量体が挙げられる。
【0067】
本発明において熱架橋性化合物(D)として用いるブロック化イソシアネート基含有化合物としては、前記イソシアネート基含有化合物中のイソシアネート基がε−カプロラクタムやMEKオキシム等で保護されたブロック化イソシアネート基含有化合物であればよく、特に限定されるものではない。具体的には、前記イソシアネート基含有化合物のイソシアネート基を、ε−カプロラクタム、MEKオキシム、シクロヘキサノンオキシム、ピラゾール、フェノール等でブロックしたものなどが挙げられる。特に、イソシアヌレート環を有し、MEKオキシムやピラゾールでブロックされたヘキサメチレンジイソシアネート三量体は、本発明に使用した場合、保存安定性は勿論のこと、耐熱性や耐湿熱性に優れるため、非常に好ましい。
【0068】
本発明において熱架橋性化合物(D)として用いるキレート化合物としては、例えば、アルミニウムキレート化合物、アルミニウムアルコキシド化合物、アルミニウムアシレート化合物などの有機アルミニウム化合物;
チタンキレート化合物、チタンアルコキシド化合物、チタンアシレート化合物などの有機チタン化合物;
ジルコニウムキレート化合物、ジルコニウムアルコキシド化合物、ジルコニウムアシレート化合物などの有機ジルコニウム化合物;
などが挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0069】
本発明において熱架橋性化合物(D)として用いるβ−ヒドロキシアルキルアミド基含有化合物としては、分子内にβ−ヒドロキシアルキルアミド基を含有する化合物であればよく、特に限定されるものではない。なお、ここで説明するβ−ヒドロキシアルキルアミド基含有化合物は、エチレン性不飽和基を有していても良いし、有していなくともよい。
β−ヒドロキシアルキルアミド基含有化合物を感光性樹脂(A)の硬化剤として用いた場合、反応時の副生成物は水のみであり、硬化物に与える影響も少なく、作業者や環境にはまったく影響がないメリットがある。
【0070】
β−ヒドロキシアルキルアミド基含有化合物としては、N,N,N’,N’−テトラキス(ヒドロキシエチル)アジパミド(エムスケミー社製Primid XL−552)をはじめとする種々の化合物を挙げることができる。
【0071】
本発明において、熱架橋性化合物(D)は、一種のみを単独で用いてもよいし、複数を併用しても良い。熱架橋性化合物(D)の使用量は、本発明の感光性導電性インキの用途等を考慮して決定すればよく、特に限定されるものではない。
【0072】
本発明における感光性樹脂組成物は、必要に応じて感光性樹脂(A)以外の樹脂を含有しても良い。(A)以外の樹脂としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ウレア樹脂、ウレタンウレア樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂などが挙げられる。これらは、現像性の観点から、カルボキシル基を含有しているものが好ましく、又、解像性の観点からは、エチレン性不飽和基を含有しているものが好ましい。本発明において、感光性樹脂(A)以外の樹脂を含有する場合は、単独又は複数を併用して用いることができる。
【0073】
また、本説明は感光性導電性インキとしての物性を損なわない範囲で、熱硬化助剤を用いることができる。ここでいう熱硬化助剤とは、前記熱架橋性化合物(D)と感光性樹脂(A)とを硬化反応させる際に、硬化反応に直接寄与する化合物、あるいは触媒的に寄与する化合物である。
熱硬化時に硬化反応に直接的に寄与する化合物としては、アミノ樹脂、フェノール樹脂、多官能ポリカルボン酸無水物、多官能ビニルエーテル化合物、高分子量ポリカルボジイミド類、アジリジン化合物等が挙げられる。
熱硬化時に硬化反応に触媒的に寄与する化合物としては、3級アミンおよびその塩類、ジシアンジアミド、カルボン酸ヒドラジド、イミダゾール類、ジアザビシクロ化合物類、ホスフィン類、ホスホニウム塩類を挙げることができ、これらを使用すると、より効率的に熱硬化反応が進行し、塗膜の耐性が優れるため好ましい。
【0074】
[エチレン性不飽和化合物(E)]
本発明の感光性導電性インキに含有されるエチレン性不飽和化合物(E)は、前記感光性樹脂(A)以外のものであり、エチレン性不飽和二重結合を1個又は2個以上有する化合物であり、モノマー、オリゴマーを用いることができる。
【0075】
例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、又はポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の単官能(メタ)アクリレート類;
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロプレングリコールポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、又はネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート等の二官能(メタ)アクリレート類;
トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、又はジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等の三官能以上の多官能(メタ)アクリレート類;あるいは、
1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルの(メタ)アクリル酸付加物、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテルの(メタ)アクリル酸付加物、グリセロールジグリシジルエーテルの(メタ)アクリル酸付加物、ビスフェノールAジグリシジルエーテルの(メタ)アクリル酸付加物、ビスフェノールF型エポキシの(メタ)アクリル酸付加物、又はノボラック型エポキシの(メタ)アクリル酸付加物等のエポキシ(メタ)アクリレート類等が挙げられる。
【0076】
又、以上挙げた(メタ)アクリレートを、更に(ポリ)アルキレンオキシドや(ポリ)カプロラクトン等で変性したものも使用することができる。
【0077】
又、他に、トリス[2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)]イソシアヌレート、又はジイソシアネート類のイソシアヌレートとヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとの反応物等も挙げることができる。
【0078】
又、ヒドロキシエチルビニルエーテル、エチレングリコールジビニルエーテル、又はペンタエリスリトールトリビニルエーテル等のビニルエーテル類;
(メタ)アクリル酸、スチレン、又は酢酸ビニル等の単価能モノマー類;あるいは、
(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ビニルホルムアミド、又はアクリロニトリル等の窒素元素を有する単官能モノマー等も使用できる。
【0079】
更に、ポリウレタン、ポリエステル、メチロールメラミン樹脂、ポリジメチルシロキサン、又はロジン等のオリゴマーを(メタ)アクリロイル基で変性したものも使用できる。
【0080】
その他、(メタ)アクリル酸、スチレン、酢酸ビニル、ヒドロキシエチルビニルエーテル、(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ビニルホルムアミド、又はアクリロニトリル等も挙げることができる。
【0081】
本発明において、エチレン性不飽和化合物(E)は、一種のみを単独で用いてもよいし、複数を併用しても良い。エチレン性不飽和化合物(E)の使用量は、本発明の感光性導電性インキの用途等を考慮して決定すればよく、特に限定されるものではないが、インキ総固形分100質量%中に1〜30質量%の割合で加えることが好ましい。エチレン性不飽和化合物(E)の使用量を1質量%より多くすると、エチレン性不飽和化合物添加による感度向上の効果が得られる。30質量%より少ない場合は、露光表面付近で硬化が進行し内部硬化が進行しにくくなることがなく、十分な塗膜強度を持つパターン形成が可能となる。
【0082】
[その他添加剤]
この他、本発明の感光性樹脂組成物には目的を損なわない範囲で任意成分として、更に溶剤、染料、顔料、難燃剤、酸化防止剤、重合禁止剤、連鎖移動剤、レベリング剤、保湿剤、粘度調整剤、防腐剤、抗菌剤、アンチブロッキング剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、電磁波シールド剤、フィラー等を添加することができる。
【0083】
本発明の感光性導電性インキは、感光性樹脂(A)、導電性粒子(B)、および光重合開始剤(C)を含有し、さらに熱硬化性化合物(D)、エチレン性不飽和化合物(E)等を含むことができる。前述の通り、感光性導電性インキはインキ総固形分100質量%中、導電性粒子(B)を60〜95質量%含むことが好ましく、70〜95質量%含むことがより好ましく、85〜95質量%含むことがさらに好ましい。そこで、感光性導電性インキとしては、インキ総固形分の残り5〜40質量%中、感光性樹脂(A)を2〜38質量%含むことが好ましく、残り5〜30質量%中、感光性樹脂(A)を4〜28質量%含むことがより好ましく、残り5〜15質量%中、感光性樹脂(A)を4〜13質量%含むことがさらに好ましい。熱硬化性化合物(D)とエチレン性不飽和化合物(E)は、合計で0〜10質量%含むことができる。
【0084】
本発明の感光性導電性インキは、基材として、金属、セラミックス、ガラス、プラスチック、木材、スレート等に塗工することができ、特に制限されるものではない。
具体的なプラスチックの種類としては、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、トリアセチルセルロース樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、ポリアミド、エポキシ樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。又、基材の形状としてはフィルムシート、板状パネル、レンズ形状、ディスク形状、ファイバー状の物が挙げられるが、特に制限されるものではない。
【0085】
本発明の導電性インキは、特にスクリーン印刷に好適に適用することができるが、従来公知の種々の印刷法に適用してもよい。スクリーン印刷法においては、導電回路パターンの高精細化に対応すべく微細なメッシュ、特に好ましくは400〜650メッシュ程度の微細なメッシュのスクリーンを用いることが好ましい。この時のスクリーンの開放面積は約20〜50%が好ましい。スクリーン線径は約10〜70μmが好ましい。
スクリーン版の種類としては、ポリエステルスクリーン、コンビネーションスクリーン、メタルスクリーン、ナイロンスクリーン等が挙げられる。また、高粘度なペースト状態のものを印刷する場合は、高張力ステンレススクリーンを使用することができる。
スクリーン印刷のスキージは丸形、長方形、正方形いずれの形状であっても良く、またアタック角度(印刷時の版とスキージの角度)を小さくするために研磨スキージも使用することができる。その他の印刷条件等は従来公知の条件を適宜設計すればよい。
【0086】
本発明の感光性導電性インキは、公知のラジエーション硬化方法により硬化させ硬化物とすることができ、活性エネルギー線としては、電子線、紫外線、400〜500nmの可視光を使用することができる。照射する電子線の線源には熱電子放射銃、電界放射銃等が使用できる。又、紫外線および400〜500nmの可視光の線源(光源)には、例えば、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、ガリウムランプ、キセノンランプ、カーボンアークランプ等を使用することができる。具体的には、点光源であること、輝度の安定性から、超高圧水銀ランプ、キセノン水銀ランプ、メタルハライドランプ、が用いられることが多い。照射する活性エネルギー線量は、5〜2000mJ/cm2の範囲で適時設定できるが、工程上管理しやすい50〜1000mJ/cm2の範囲であることが好ましい。又、これら活性エネルギー線と、赤外線、遠赤外線、熱風、高周波加熱等による熱の併用も可能である。
【0087】
なお、活性エネルギー線による露光感度を上げるために、感光性導電性インキを塗布乾燥後、水溶性あるいはアルカリ可溶性樹脂、例えばポリビニルアルコールや水溶性アクリル樹脂等を塗布乾燥し酸素による重合阻害を防止する膜を形成した後、組成物塗布面側から活性エネルギー線を照射することもできる。
【0088】
更に、本発明の感光性導電性インキは、フォトマスクを介して組成物塗布面側から活性エネルギー線を照射し、溶剤又はアルカリ現像液に漬浸するかスプレー等により現像液を噴霧して未照射部、すなわち未硬化部を除去して現像を行うことにより、形成することができる。アルカリ現像液としては、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム等の水溶液が使用され、ジメチルベンジルアミン、トリエタノールアミン等の有機アルカリを用いることもできる。又、現像液には、消泡剤や界面活性剤を添加することもできる。
【0089】
更に、本発明の感光性導電性インキは、ラジエーション硬化/現像によるパターン形成後、ポストキュアとして加熱乾燥させることで各種耐久性、導電性に優れる塗膜を形成する。ポストキュアは、100℃〜200℃で30分〜2時間が好ましい。又、更に塗膜の耐性を向上するために、ポストキュアの後にも必要に応じて活性エネルギー線を照射することができる。ポストキュアの後に活性エネルギー線を照射することで、各種耐久性、導電性などを更に向上することができる。
【0090】
本発明に係る導電パターン付き積層体は、特にタッチスクリーンパネルの透明電極上に配線構造を形成する際に好適に用いることができる。
ここで、本発明の導電性インキを抵抗膜方式のタッチスクリーンパネルに適用した場合の一例を図1及び図2を用いつつ説明する。なお、本図1、2は抵抗膜式タッチスクリーンパネルの簡易的な概念図であり、配線の本数、配線幅、配線と配線の間隔は概念図として表している。なお、図2では、三層の中間、粘着材5の位置に視点を置き、下部基板1側は見下ろす状態で、上部基板2側は見上げる状態で各基板側の積層状態を模式的に示した。
【0091】
タッチスクリーンパネルは、ガラス又はプラスチックフィルム(ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、アクリル樹脂フィルム、ポリカーボネートフィルム等)の基材からなる下部基板1及び上部基板2を具備する。下部基板1及び上部基板2上には、ITO等の透明電極6,7がそれぞれ部分的に形成されている。その結果、下部基板1及び上部基板2と、透明電極6,7とがそれぞれ露出することとなる。
そして、下部基板1上の透明電極6の両端部には、導電性インキパターン層3からなる下側駆動電極13,14がそれぞれ形成されている。導電性インキ層3は、絶縁層4によって被覆されている。導電性インキパターン層3は、図1に示すように、基材1、ITO等の透明電極6、そして絶縁層4に接する。
同様に上部基板2上の透明導電7の両端部にも、導電性インキ層3からなる上部駆動電極9,10がそれぞれ形成されている。
【0092】
具体的には、上部基板2側の透明電極7端部に、本発明の導電性インキを用い、スクリーン印刷し、予備乾燥、露光、現像、乾燥工程を順番に行い、低抵抗の導電性インキパターン層3を形成する。次いで、導電性インキ層3及び該導電性インキパターン層3の近傍の上部基板2、透明電極7端部の上に、絶縁レジスト(図示省略)をスクリーン印刷等により印刷する。その後、乾燥・硬化し、絶縁層を形成し、本発明の絶縁レジスト付き積層体を形成する。下部基板1側も同様である。
【0093】
下部基板1上に設けられた透明電極6上の適所には、本来の目的である入力の時以外に透明電極6、7とが接触することを防ぐために、図1に示すように透明電極6上の適所には、微小なドットスペーサー8が一定の間隔で設けられる。
そして、本来の目的である入力の時以外に透明電極6、7とが接触しないように、一定の間隔(例えば、10〜150μmの間隔)を開け(図1参照)、下部基板1側の絶縁層4と上部基板2、下部基板1と上部基板2、下部基板1と上部基板2側の絶縁層4が、それぞれ粘着材5により貼り合わされ、積層される。粘着材5は、額縁状に配置することができる。また、図2に示されるように、下部基板1側の駆動電極13,14と、前記上部基板2側の上側駆動電極9,10とは、平面視上において直交するように形成され得る。 更に、前記上部基板2側の駆動電極9,10には、接続電極11,12がそれぞれ導電性接着剤で接続されている。同様に、前記下部基板1側の駆動電極13,14には、接続電極15,16に導電性接着剤でそれぞれ接続されている。
【0094】
下部基板1側および上部基板2側のそれぞれに本発明の導電性インキを用いて導電性インキパターン層3を形成したタッチスクリーンパネルは、抵抗値安定性が良好であり、長期間にわたり各種電子機器の機能を切り替える部品として安定して使用できると共に、電気的特性に優れたものである。
【実施例】
【0095】
以下に、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。なお、実施例における「部」は、「質量部」を表す。
【0096】
GPCの測定条件は以下のとおりである。
<重量平均分子量(Mw)の測定>
Mwの測定は東ソー株式会社製GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)「HPC−8020」を用いた。GPCは溶媒(THF;テトラヒドロフラン)に溶解した物質をその分子サイズの差によって分離定量する液体クロマトグラフィーである。本発明における測定は、カラムに「LF−604」(昭和電工株式会社製:迅速分析用GPCカラム:6mmID×150mmサイズ)を直列に2本接続して用い、流量0.6ml/min、カラム温度40℃の条件で行い、重量平均分子量(Mw)の決定はポリスチレン換算で行った。
<分子量分布(Mw/Mn)>
分子量の分散度をあらわし、本発明においては、前記分子量の測定結果より、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)により求めた。
【0097】
酸価及び水酸基価はJIS K0070に準じて測定した。
<酸価の測定>
共栓三角フラスコ中に試料約1gを精密に量り採り、トルエン/エタノール(容量比:トルエン/エタノール=2/1)混合液100mlを加えて溶解する。これに、フェノールフタレイン試液を指示薬として加え、0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液で滴定し、指示薬が淡紅色を30秒間保持した時を終点とした。酸価は次式により求めた(単位:mgKOH/g)。
酸価(mgKOH/g)=(5.611×a×F)/S
ただし、
S:試料の採取量(g)
a:0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液の消費量(ml)
F:0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液の力価
【0098】
<水酸基価の測定>
共栓三角フラスコ中に試料約1gを精密に量り採り、アセチル化試薬(無水酢酸25gをピリジンで溶解し、容量100mlとした溶液)を正確に5ml加え、グリセリン浴中で約1時間攪拌する。放冷後、水1mlを加えて更に10分加熱し、放冷後エタノール5mlを加えた。これに、フェノールフタレイン試液を指示薬として加え、0.5Nの水酸化カリウムエタノール溶液で滴定し、指示薬が淡紅色を30秒間保持した時を終点とした。
水酸基価は次式により求めた(単位:mgKOH/g)。
水酸基価(mgKOH/g)=[{(b−a)×F×28.05}/S]+D
ただし、
S:試料の採取量(g)
a:0.5Nアルコール性水酸化カリウム溶液の消費量(ml)
b:空実験の0.5Nアルコール性水酸化カリウム溶液の消費量(ml)
F:0.5Nアルコール性水酸化カリウム溶液の力価
D:酸価(mgKOH/g)
【0099】
本発明において、側鎖ヒドロキシル基含有樹脂(c)の水酸基価は、1g中に含まれるヒドロキシル基の量を、ヒドロキシル基をアセチル化させたときにヒドロキシル基と結合した酢酸を中和するために必要な水酸化カリウムの量(mg)で表したものである。
一方、感光性樹脂(A)のようにカルボキシル基とヒドロキシル基を両方有する樹脂の水酸基価は、アセチル化前の感光性樹脂(A)の中和に要した水酸化カリウムの量を引いて計算をしたものである。
【0100】
<エチレン性不飽和基当量の計算>
本発明において、感光性樹脂(A)のエチレン性不飽和基当量は、次式により求めた。(単位:g/mol)
エチレン性不飽和基当量(g/mol)=原料のトータル固形分(g)/化合物(e)の仕込みモル数(mol)
【0101】
<感光性樹脂(A)の合成>
[製造例1]
工程1
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、導入管、温度計を備えた4口フラスコに、エポキシ基を2個以上有するエポキシ化合物(a)として、jER825(三菱化学株式会社製、ビスフェノールA型エポキシ化合物、エポキシ当量176g/eq)86.8部、フェノール性OH基を2個以上有するフェノール化合物(b)としてビスフェノールA84.5部、触媒としてトリフェニルホスフィン(以下、TPPという)1.71部、ジアザビシクロウンデンセン(以下、DBUという)1.71部、溶剤としてジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート100部を仕込み、窒素気流下、撹拌しながら80℃に昇温し12時間反応させ、水酸基価161.1mgKOH/gの側鎖ヒドロキシル基含有樹脂(c)を得た。
【0102】
工程2
次に、酸無水物基含有化合物(d)としてTH(テトラヒドロ無水フタル酸)37.5部(前記側鎖ヒドロキシル基含有樹脂(c)中のヒドロキシル基の50モル%に相当する量)を投入し、80℃のまま8時間反応させた。FT−IR測定にて酸無水物基の吸収が消失しているのを確認後、室温まで冷却し側鎖ヒドロキシル基カルボキシル基含有樹脂(f)を得た。酸価は66.3mgKOH/gであった。
【0103】
工程3
次に、このフラスコに、窒素導入管からの窒素を停止し乾燥空気の導入に切り替え、攪拌しながら、イソシアネート基とエチレン性不飽和基とを有する化合物(e)としてMOI(メタクリロイルオキシエチルイソシアネート38.3部(前記側鎖ヒドロキシル基カルボキシル基含有樹脂(f)中のヒドロキシル基の100モル%に相当する量)、重合禁止剤としてヒドロキノン0.12部を投入し、40℃で8時間反応させた。反応終了後、この溶液にジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートを加えて固形分が50.0%になるように調整した。
感光性樹脂(A)のエチレン性不飽和基当量は1002g/eqであり、ポリスチレン換算の重量平均分子量は3300、樹脂固形分の酸価は56.0mgKOH/gであった。
【0104】
[製造例2〜14、比較製造例1〜6]
表1に示す原料を用い、製造例1と同様な操作を行うことにより、製造例2〜14、比較製造例1〜6の感光性樹脂(A)を得た。各感光性樹脂(A)の質量平均分子量、エチレン性不飽和基当量、酸価等を表1に示す。
【0105】
【表1】
【0106】
<エポキシ基を2個以上有するエポキシ化合物(a)>
・jER825:三菱化学株式会社製、ビスフェノールA型エポキシ化合物、エポキシ当量176g/eq)
・EX931:ナガセケムテックス株式会社製、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル(エポキシ当量471g/eq)
・SR−16HL:阪本薬品株式会社製、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル(エポキシ当量125g/eq)
・PG100:大阪ガス化学株式会社製、フルオレン系ジグリシジルエーテル(エポキシ当量214g/eq)
【0107】
<フェノール性OH基を2個以上有するフェノール化合物(b)>
・BisA:ビスフェノールA:4、4’−(ジメチルメチレン)ジフェノール
・BisF:ビスフェノールF:4、4’−メチレンジフェノール
【0108】
<酸無水物基含有化合物(d)>
・TH:テトラヒドロ無水フタル酸(脂環式多塩基酸の無水物
・TMA:無水トリメリット酸(芳香族多塩基酸無水物)
・PA:無水フタル酸(芳香族多塩基酸無水物)
・SA:無水コハク酸(脂肪族二塩基酸の無水物
<イソシアネート基とエチレン性不飽和基とを有する化合物(e)>
・AOI:アクリロイルオキシエチルイソシアネート
・MOI:メタクリロイルオキシエチルイソシアネート
・BEI:ビス(アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート
<その他>
・TPP:トリフェニルホスフィン
・DBU: ジアザビシクロウンデセン
【0109】
<感光性導電性インキ>
[実施例1]
製造例1で得られた感光性樹脂(A)の溶液20質量部(固形分10質量部)、導電性粒子(B)として球状銀粉(D50粒子径2.8μm、比表面積0.36m2/g)87質量部、光重合開始剤(C)としてIRGACURE 907(BASF株式会社製、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン)3質量部を溶解させたジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート6質量部、をディスパーにて混合後、3本ロールにより分散し、本発明の感光性導電性インキを得た。
得られた感光性導電性インキについて、後述する方法で、感度、現像性、解像性、ITOへの密着性、導電性(表面抵抗値、体積抵抗率)を評価した。結果を表3に示す。
【0110】
[実施例2〜26]、[比較例1〜8]
表2に示した組成、および量(固形分)で、感光性樹脂(A)、導電性粒子(B)、光重合開始剤(C)、熱架橋性化合物(D)、エチレン性不飽和化合物(E)を用いた以外は、実施例101と同様にして、感光性導電性インキを得、同様に評価した。
【0111】
【表2】
【0112】
[導電性粒子(B)]
・銀粉A:球状銀粉(D50粒子径2.8μm、比表面積0.36m2/g)
・銀粉B:フレーク銀粉(D50粒子径2.5μm、比表面積1.76m2/g)
・銀粉C:フレーク銀粉(D50粒子径6.3μm、比表面積0.31m2/g)
【0113】
<光重合開始剤(C)>
・開始剤A:BASF株式会社製、IRGACURE 907(2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン)
・開始剤B:BASF株式会社製、IRGACURE 379(2−ジメチルアミノ−2−(4−メチルベンジル)−1−(4−モルフォリン−4−イルーフェニル)−ブタン−1―オン)
・開始剤C:BASF株式会社製 IRGACURE OXE02(エタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール-3-イル]−,1−(O−アセチルオキシム))
【0114】
[熱架橋性化合物(D)]
・硬化剤A:三菱化学株式会社製、Ep1031s(多官能グリシジルエーテル型エポキシ化合物)
・硬化剤B:三菱化学株式会社製、Ep828(ビスフェノールA型エポキシ化合物)
・硬化剤C:住化バイエルウレタン株式会社製、BL3175(HDIイソシアヌレート型ブロックイソシアネート)
・硬化剤D:エムスケミー株式会社製、XL552(N,N,N’,N’−テトラキス(ヒドロキシエチル)アジパミド)
・硬化剤E:川研ファインケミカル株式会社製、アルミキレートA(アルミニウム(トリス(アセチルアセトネート)))
【0115】
[エチレン性不飽和化合物(E)]
・モノマーA:東亞合成株式会社製、アロニックスM310(トリメチロールプロパンPO変性トリアクリレート)
・モノマーB:日本化薬株式会社製、R167(1,6−ヘキサンジオールジエポキシアクリレート)
【0116】
<感光性導電性インキとしての評価>
[感度]
感光性導電性インキをスクリーン印刷によりガラス基板に塗工した後、70℃で15分間乾燥し、塗膜を得た。膜厚を測定したところ、膜厚は8〜10μmであった。その後、超高圧水銀ランプを用い、L/S(ライン/スペース)=40μm/40μmのマスクパターンのフォトマスクを介して露光量(mJ/cm2)を変えて紫外線を照射した。0.5%炭酸ナトリウム水溶液を用い、スピン現像機にて、スプレー圧0.2MPa、現像時間30秒にて現像した後、イオン交換水を圧力0.05MPa、15秒間スプレーし、未露光部分を取り除いた。現像・水洗後の露光部分の膜厚を測定し、現像前の膜厚に対し95%以上の膜厚が得られる最小露光量(mJ/cm2)を感度とした。
なお、膜厚は、仙台ニコン社製MH−15M型測定器を用いて測定した。
【0117】
[現像性]
感光性導電性インキを用い、感度測定の場合と同様にしてガラス板上に8〜10μmの厚みの塗膜を作成した。紫外線を照射せずに、感度測定の場合と同じ現像液を同じ条件にて未露光の塗膜にスプレーし、感光性導電性インキの乾燥塗膜が消失する時間を測定した。測定時間を測定膜厚で除し、単位膜厚当たりの時間(秒/μm)を現像速度とした。
【0118】
[解像性]
感光性導電性インキを用い、感度測定の場合と同様にしてガラス板上に8〜10μmの厚みの塗膜を作成した。その後、超高圧水銀ランプを用い、L/S=20μm/20μm、30μm/30μm、40μm/40μmのマスクパターンのフォトマスクを介して露光量(mJ/cm2)を変えて紫外線を照射した。0.5%炭酸ナトリウム水溶液を用いスピン現像機にて、スプレー圧0.2MPa、現像時間30秒にて現像した後、イオン交換水を圧力0.05MPa、15秒間スプレー洗浄し、未露光部分を取り除いた。現像・水洗後の露光部分のそれぞれの幅のストライプパターンを目視で確認し、解像性を評価した。
○○:L/S=20/20μmのストライプパターンが形成できる。
○:L/S=30/30μmのストライプパターンが形成できる。
△:L/S=40/40μmのストライプパターンが形成できる。
×:L/S=40/40μmのストライプパターンが形成できない。
【0119】
[高温高湿試験後のITO密着性]
各感光性導電性インキをITO積層フィルム(日東電工社製、V270L−TEMP、75μm厚、エッチングによりITOが除去された部分と、ITOが残っている部分とを有する)に、15mm×30mmのパターン形状にスクリーン印刷を行った。その後、前記と同様の装置・照射条件でインキ層の全面に紫外線を露光し、同様の条件にて現像した後、135℃オーブンにて30分乾燥し、評価用試験片とした。
評価用試験片について、JIS K5600に準拠し、25℃、相対湿度50%の環境下で、ITO残存部分、ITOエッチング部分それぞれの領域上の導電インキ層に、幅1mm間隔に10マスX10マスの計100マス目をカッターで入れ、ニチバン製セロハンテープ(25mm幅)を印刷面に貼り付け、急激に剥離し、残ったマス目の状態にて評価を行った。
別途、85℃、相対湿度85%の環境下で120時間保存しておいた評価用試験片について、25℃、相対湿度50%の環境下で、ITO密着性試験を同様な手順で行い、高温高湿試験後のITO密着性を下記の基準で評価した。
○:高温高湿試験後の密着性が変化しない
△:高温高湿試験後の密着性がやや劣る(1〜9%剥離する)
×:高温高湿試験後の密着性が劣る(10%以上剥離する)
【0120】
[高温高湿試験後の表面抵抗値]
透明導電性フィルムからなる可動電極基板とガラス電極基板からなる固定電極基板を両面テープによる両面粘着層で貼り合わせて、前述の図1及び図2に示す構成の抵抗膜式タッチスクリーンパネルを作製した。
図2の駆動電極、取り回し回路、接続電極を、実施例1〜28、比較例1〜8の導電性インキを用い、ITO透明電極膜部およびITOをエッチングにより除去した基材上にスクリーン印刷、予備乾燥、露光、現像、乾燥工程を順番に行い形成した。次いで、上記駆動電極、取り回し回路上に、絶縁レジスト(トーヨーケム社製、リオレジストNSP−11)をスクリーン印刷にて印刷し、120℃で30分乾燥させた。完成した上下の電極基板を両面テープにて貼り合わせ、抵抗膜式タッチスクリーンパネルを作製した。なお、取り出し回路末端部は端子A、Bとするために、絶縁レジスト層を設けなかった(図示省略)。
【0121】
得られた抵抗膜式タッチスクリーンパネルについて、25℃、湿度50%環境下にて図2の端子Aと端子B間の端子間抵抗値を測定した。次いで、85℃、85%の環境下で120時間保存した後の端子間抵抗値を25℃、湿度50%環境下にて測定し、環境保存試験後の端子間抵抗値の上昇率にて下記の基準で評価した。結果を表1、2に示す。なお、端子間抵抗値は、三和電気計器製PC500型テスターを用い、測定した。
○:環境保存試験後の端子間抵抗値の上昇率が10%未満
△:環境保存試験後の端子間抵抗値の上昇率が10%以上20%未満
×:環境保存試験後の端子間抵抗値の上昇率が20%以上
環境保存試験後の端子間抵抗値の上昇率が20%以下は、標準仕様のタッチスクリーンパネルでは実用上問題のないレベルである。
【0122】
【表3】
【0123】
酸無水物基含有化合物(d)として脂環式多塩基酸の無水物でもなく芳香族多塩基酸無水物でもない、脂肪族二塩基酸であるSA:無水コハク酸を用いた感光性樹脂を含有する場合、比較例1〜8に示すように、環境負荷試験を経ることによって基材との密着性が低下し、導電性も低下する。一方、酸無水物基含有化合物(d)として脂環式多塩基酸の無水物や芳香族多塩基酸無水物を用いた場合は、環境負荷試験を経ても基材との密着性低下や導電性低下が抑制されていた。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明の感光性導電性インキは、導電性インキ用途に広範に利用できる。特に、タッチスクリーンパネルの額縁部分に形成される微細導電回路として好適に用いることができる。さらに、本発明の感光性導電性インキは導電性に優れ、高精細なパターンを形成できるので、透明に見える微細パターン形成が可能であり、タッチスクリーンパネルの表示部に用いる透明電極としても適用可能である。
【符号の説明】
【0125】
1:下部基板
2:上部基板
3:導電性インキパターン層
4:絶縁層
5:粘着材(貼り合わせ)
6:下部基板の透明電極
7:上部基板の透明電極
8:ドットスペーサー
9,10:上部側駆動電極
11,12:上部側接続電極
13,14:下部側駆動電極
15,16:下部側接続電極
17:取り回し回路
【要約】
【課題】
活性エネルギー線に対する感光性に優れ、希アルカリ水溶液による現像により微細なパターンが形成できるとともに、後硬化(ポストキュア)工程を経て得られる硬化塗膜の導電性や密着性が環境負荷試験を経ても低下しにくい感光性導電性インキ及びその硬化物、積層物の提供。
【解決手段】
エポキシ化合物(a)とフェノール化合物(b)とを反応させてなる、側鎖にヒドロキシル基を有する樹脂(c)と、脂環式多塩基酸無水物または芳香族多塩基酸無水物(d)と、イソシアネート基とエチレン性不飽和基とを有する化合物(e)とを、反応させてなる、側鎖にカルボキシル基とエチレン性不飽和基とを有する感光性樹脂(A)、導電性粒子(B)および光重合開始剤(C)を含む感光性導電性インキ。
【選択図】 なし
図1
図2