【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 A.刊行物による発表 (1)発行者名 社団法人 電気学会 (2)刊行物名 電気学会研究会資料 (3)巻数・号数 ASC−10−017〜027・029〜039・041 (4)発行年月日 2010年6月10日 B.上記A.に伴う研究集会における文書による発表 (1)研究集会名 電気学会 超電導応用電力機器研究会 (2)主催者名 社団法人 電気学会 (3)開催日 平成22年6月10日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
陽子を250〜300MeV(メガ電子ボルト)まで加速可能なサイクロトロンとして、下記特許文献1に記載されたものが知られている。このサイクロトロンでは、光速に近づいた荷電粒子の質量が相対論効果によりローレンツファクターに比例して増加することに対応しつつ、荷電粒子の周回周期を一定にするため、強度を加速平面の半径方向で増加させた(外側へ向かい正の勾配を持たせた)磁場である等時性磁場が作成される。
【0003】
又、このサイクロトロンでは、外側ほど強い等時性磁場において、そのまま加速すると加速平面の垂直方向に加速粒子が発散し、装置に加速粒子が衝突して加速を継続できないことへの対応として、加速平面の円周方向(粒子の回転方向)に磁場強度を変化させ、加速粒子に垂直方向の収束力を得させるための複数の強磁性体磁極片(ポールチップ)が設けられる。各ポールチップは、より強い収束力を得るべく加速粒子との入射角度(スパイラル角度)を持たせるため、螺旋状に湾曲された扇状とされており、加速平面の円周方向に互いに等間隔に配置され、ボールチップの有る部分(ヒル)の磁場を強め、無い部分(バレー)の磁場を弱めて、加速粒子を垂直方向(及び水平方向)に収束させる。このような回転方向(方位角方向)に強弱のある磁場を作成するサイクロトロンは、AVF(Azimuthally Varying Field)サイクロトロンと呼ばれる。
【0004】
このようなサイクロトロンでは、等時性磁場を作成するのに常電導の鉄芯コイルが用いられており、周回軌道上の平均磁場を最大2T(テスラ)程度までしか強くすることができない。又、ボールチップとして強磁性体が用いられているため、収束可能な荷電粒子のエネルギーに限界がある。従って、このようなサイクロトロンでは、陽子を250〜300MeVに加速させるに留まり、近年がんの放射線照射治療において顕著な有用性が認められつつある重粒子線(炭素6価プラスイオン
12C
6+等の放射線)について、がん治療に利用可能となる400MeV/核子程度のエネルギーを有する(光速の7割程度の速度へ加速された)状態まで十分に加速することができない。
【0005】
現在、我が国におけるがん(悪性腫瘍)全体の5年生存率は50%(パーセント)を上回るようになったが、依然日本人の死因のトップの難病であることに変わりはない。「がんの統計’07」(財団法人がん研究振興財団)によれば、男性で約2人に1人、女性で約3人に1人が一生のうちにがんと診断され、更に男性で約4人に1人、女性で約6人に1人ががんで死亡する。高齢化社会の進展と共に、がんの患者数は現在も増加傾向にあり、2015年には500万人を超える(2003年からの約10年間でほぼ倍増する)ものと予想されている。
【0006】
又、外来や入院で治療を受けたがん患者が仮に治療不要であったとした場合に支払不要となる金額(医療費)や、がんで死亡した人が仮に平均寿命まで生きたとした場合に労働等で得られたはずの金額(滅失利益)は、年間で医療費が3兆円余り、滅失利益が約7兆円となるという試算も存在する。従って、がんによる社会の損失は年間約10兆円(日本の国内総生産の約2%)に上るといえる。一方、検診技術や治療技術の向上により治癒可能ながんが増えており、社会的コスト(Social Cost)削減という観点からもがん対策が重要であることは言うまでもない。
【0007】
がん治療には大きく分けて外科、内科、放射線療法があるが、中でも放射線を患部に照射する放射線療法は比較的にコストが低く、欧米を始め本邦でもがん治療の大きなパートを占めつつある。外部治療放射線としては、主に電子線リニアックを用いた高エネルギーX線が利用されているが、近年では、陽子線や、炭素線を始めとする重粒子線が、より有効な治療を行えるものとして注目されている。
【0008】
陽子線と炭素線の特性を比較すると、陽子線のがん細胞致死効果は従来のX線と同等であるが、線量分布がX線よりシャープになり患部に集中して照射できるため優れている。一方、炭素線の線量分布は、陽子線より更にシャープであり、正常組織や重要臓器を避けながら精密な線量分布での治療が可能となるし、細胞致死効果が陽子線の約3倍となっており、より放射線抵抗性の高いがんへの適用が可能となる。又、がん細胞は急速に成長し、ある程度成長したがん組織の中心部分は血流減少により酸素不足となるところ、このような低酸素状態の細胞に対するX線や陽子線の効果は不十分であるが、重粒子線は効果が認められている。
【0009】
よって、重粒子線照射療法は、手術や切除が困難な部位(肝、肺門部、頭蓋底、眼球、AVM等)の治療に有効であり、極めて侵襲性の低い治療法となっていて、これまでの実績によれば、約6割の固形がんに治療効果が期待できる。又、線量分布の集中や良好な細胞致死効果により、従前に比べ照射回数を減らして患者の身体的負担や費用負担を軽減し、更に侵襲性の低さにより、入院期間や通院期間を減らして、患者の生活の質(Quality Of Life,QOL)を向上することができる。
【0010】
このようにがん治療に有用な重粒子線を放出可能な装置として、シンクロトロンが採用されている。しかし、シンクロトロンは、重粒子を十分に加速させるために極めて巨大な規模となり(例えば、入射器等を含めると数百個以上にも及ぶコイルが並び、制御すべき電磁石は100台以上となり、主リングは直径20m(メートル)程度の規模となる)、設置コストが莫大となるし、運転コストも、多数のコイルの冷却や、制御の複雑さ、オペレータの多人数化、多大な電力消費等により甚大になることが予想される。
【0011】
このような規模では、いかにがん治療に有用といえども普及に弾みがつかないため、重粒子の加速器の小型化やランニングコストの低減等が望まれるところであり、この観点から、コイルの数が数個程度と少ない特許文献1のようなサイクロトロンの規模を拡張して重粒子加速器を構成することが考えられる。しかし、鉄芯と常電導コイルによる磁場の形成は、鉄の磁気飽和により約2Tが限度であり(引出半径での周回方向の平均磁場)、これを前提に400MeV/核子までの重粒子線を加速可能なサイクロトロンを設計すると、等時性磁場形成のために少なくとも直径13m程度のポールフェイス(磁極表面,リターンヨークを含む)を有する磁石(約5万トン)が必要となってしまい、実際に製作したとしても、磁場を安定させるのに時間がかかり、更に発熱量が多大であって巨大な冷却装置が必要となってしまう。又、加速粒子のエネルギーの増加により、収束のためのポールチップについても巨大で複雑な形状のものを設置しなければならない。従って、このような規模を拡大したサイクロトロンでは、シンクロトロン程ではないにせよ、結局極めて複雑で規模の大きなものとなってしまう。
【0012】
又、重粒子線は、直進性の高さや高い線エネルギー付与、深度線量分布の特異性から、がん治療以外の様々な分野でもその利用が期待されている。例えば、高分子のナノワイヤーを始めとするナノ構造体等を形成する新材料創製分野や、そのナノ構造体を導入すること等による光学機器、高性能分離膜、マイクロナノマシン、高効率熱交換器、新エネルギー創製、高度半導体、高機能膜生成等の各分野における利用が期待される。又、容量の巨大なイオン交換膜の形成や、光導波路、光学スイッチ、高性能グレーティング、反射防止膜、ナノフィルター、微細な機械部品、超撥水膜、微細フィンを備えた高性能熱交換器の形成等の各分野における利用が期待される。更に、構造制御された医薬品放散システム、高性能燃料電池、高精度イオン注入、表裏で性能の異なる一体型ハイブリット膜の創製に係る各分野における利用が期待される。このように多様な分野において重粒子線の利用を促進するためには、シンクロトロンのような極めて大規模な装置では力不足であり、分野に応じて(重粒子線の質量や価数を適宜調整したうえで)比較的に小規模で、導入のし易い重粒子線放射装置が望まれている。
【0013】
そこで、本件出願人らは、粒子回転方向におけるヒルバレー磁場の形成につき、酸化物超電導導体を湾曲する扇形に沿うように巻いて成る空芯のスパイラルセクターコイルにより行うことを、先の特許出願で提案した(特願2010−132256)。このようなスパイラルセクターコイルを用いると、超電導コイルにより常電動コイルに比べて遥かに強い磁場を小規模で形成可能となるが、超電導導体の曲率半径を小さくし過ぎると大きな機械的・電磁気的応力が加わって超電導特性が低下することから、粒子加速面の中心領域まで張り出す形状とすることが難しく、中心領域の磁場強度をスパイラルセクターコイルによって調整することが難しい状況となっている。
【0014】
一方、従来の鉄芯と常電導コイルを組み合わせたサイクロトロンや、コンピュータモデル上の超電導サイクロトロン(下記非特許文献1参照)において、粒子加速面の中心領域の磁場分布を調整するため、粒子加速面の中心軸に上下一対の鉄材の中心プラグを配置することが行われている。この中心プラグにより、当該磁場分布は、中心から半径方向に離れるほど小さくなり、中心における強度が持ち上げられている状態(中心バンプ)とされ、粒子加速面の中心領域へ加速のため入射された粒子が加速開始から数回転するまでの間において鉛直方向の収束力を受けるようにされている(弱収束の原理)。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る実施の形態の例につき、適宜図面に基づいて説明する。なお、当該形態は、下記の例に限定されない。
【0027】
≪全体構成≫
図1(a)は本発明の空芯型サイクロトロン(以下「サイクロトロン」という)のコイルシステム1の平面図であり、
図1(b)は
図1(a)の中央拡大図であり、
図2はコイルシステム1の中央端面図である。なお
図1におけるX軸及びY軸の数値の単位はcm(センチメートル)である。
【0028】
サイクロトロンは、図示しないカバーの内部にコイルシステム1を有しており、又荷電粒子を生成してコイルシステム1の中央付近に入射させる図示しないイオン源と、コイルシステム1の外側に配置される図示しないビーム取出し口と、コイルシステム1を所定温度まで冷却する図示しない冷却装置と、前記カバーの内部を真空にする図示しない真空ポンプと、荷電粒子の所定の周回周期(回転周波数)に同期して加速用のインパルス電場を付与する図示しない加速電極と、これらの制御を行う図示しない制御装置と、これらに電力を供給する図示しない電力供給装置(電源)を有する。なお、外部への磁場強度を低減するシールド用磁性体を更に設けても良い。
【0029】
コイルシステム1は、一対のメインコイルユニット2,2と、その内部に収まる一対のスパイラルセクターコイルユニット4,4と、センターコイル6,6を含む。各メインコイルユニット2は、互いに鏡面対称に向き合う状態で上下(軸方向)に配置されており、各スパイラルセクターコイルユニット4も、互いに鏡面対称に向き合う状態で上下に配置されていて、各センターコイル6も、互いに鏡面対称に向き合う状態で上下に配置されている。各メインコイルユニット2ないし各スパイラルセクターコイルユニット4、各センターコイル6の中心は、同一鉛直線上となるように配置されている。なお、
図1(b)や
図2に示されるように、鏡面対象の中心面をXY平面とし、上記中心を通る鉛直線をZ軸とし、上記中心を原点とする。又、センターコイル6について、単数のコイルから構成されるセンターコイルユニットとみることができる。
【0030】
≪メインコイルユニット≫
各メインコイルユニット2は、それぞれ孔あき円盤状(輪状)である、メインスプリットコイル21、及び第1補正スプリットコイル22を含む。メインスプリットコイル21、及び第1補正スプリットコイル22は、Z軸上にそれぞれの中心が位置するように、又XY平面と平行に配置されている。メインスプリットコイル21は、第1補正スプリットコイル22より、XY平面に近い側に配置されている。
【0031】
メインスプリットコイル21は、超電導導体を線状にして成る超電導線材を、上記Y軸に中心が位置する状態で上記断面を満たしていくように円状に巻き(空芯)、更にこれを輪状の図示しないシールドで覆うことで形成されている。メインスプリットコイル21は、前記電源と電気的に接続されている。なお、シールド内ないしこれと接続された前記冷却装置には、図示しない冷却媒体が封入されており、前記冷却装置は、当該冷却媒体を20K(ケルビン)まで冷却してシールド内に送ることが可能となっている。
【0032】
加えて、超電導線材の幅は1cm程度であり、厚さは基板や安定化銅を含み200μm(マイクロメートル)であって、超電導線材表面の絶縁被膜を含め占積率は0.7程度とされ、負荷率は0.7程度とされている。
【0033】
更に、超電導線材の材質としては、金属系(ニオブチタン,ニオブスズ等、4.2Kで超電導状態)や酸化物系(ビスマス系、タリウム系、水銀系あるいはRE−Ba−Cu−O系等、液体窒素温度である77Kで超電導状態を発現でき、20Kで特性の良好な超電導状態となる)の双方を用いることができるが、臨界温度が高く比較的高温で超電導状態となり、又臨界磁界も高いことから酸化物超電導導体を用いることが好ましく、酸化物超電導導体の中でも、作製コストが比較的に高いものの、磁場に強く、耐熱耐食性ニッケル基合金(ハステロイ・登録商標・以下同様)等が線材構成材となるために機械的強度も良好な、主成分がRE−Ba−Cu−Oで表せる酸化物超電導導体を用いることが更に好ましい。
【0034】
なお、前者のビスマス系酸化物超電導線材の具体例としては、住友電気工業株式会社製Bi2223(Bi
2Sr
2Ca
2Cu
3O
10−δ)が挙げられる。ビスマス系酸化物超電導線材は、好ましくは当該Bi2223を含むビスマス系2223相酸化物超電導導体(他に(Bi,Pb)
2Sr
2Ca
2Cu
3O
10−δ)、あるいはビスマス系2223相酸化物超電導導体((Bi,Pb)
2Sr
2Ca
1Cu
2O
8−δ,Bi
2Sr
2Ca
1Cu
2O
8−δ)を用いる。
【0035】
一方、後者のRE−Ba−Cu−O系酸化物超電導線材の具体例としては、American Superconductor Corporation(AMSC)社製YBCO(YBa
2Cu
3O
7−δ)が挙げられる。本形態では、YBCOを用いている。
【0036】
ここで、主成分がRE−Ba−Cu−Oで表せる酸化物超電導導体において、REはY(イットリウム),Sm(サマリウム),Gd(ガドリニウム),Ho(ホルミウム)といった希土類元素のうち少なくとも1つ又は2つ以上の任意の組合せであり、Baはバリウム、Cuは銅、Oは酸素である。又、好ましくは、酸化物超電導導体はREがYであるイットリウム系酸化物超電導導体とし、より好ましくはYBa
2Cu
3O
7−δを始めとするY−123系酸化物とし、あるいはYBa
2Cu
3O
7−δのYの全部又は一部を他の希土類金属に置き換えたもの(RE−123系酸化物超電導体)とする。
【0037】
又、酸化物超電導導体は、表面に結晶配向性を有する基板(線材構成材)上に形成されている。基板は、好ましくは、Cu(銅),Ni(ニッケル),Ti(チタン),Mo(モリブデン),Nb(ニオブ),Ta(タンタル),W(タングステン),Mn(マンガン),Fe(鉄),Ag(銀)等の金属あるいはこれらの合金から成る金属層を備えており、より好ましくは、ステンレス,インコネル,ハステロイから成る金属層を備えている。
【0038】
更に、好ましくは、酸化物超電導導体と基板との間に、金属酸化物から成る中間層が配置される。中間層は、パイロクロア構造,希土類−C構造,ペロブスカイト型構造あるいは蛍石型構造を有し、例えば、BaZrO
3(Zrはジルコニウム),Y
2O
3,MgO(Mgはマグネシウム),SrTiO
3(Srはストロンチウム,Tiはチタン),YSZ(イットリア安定ジルコニア)、又はGd
2Zr
2O
7等のLn−M−O系化合物(Lnは1種以上のランタノイド元素,MはSr・Zr・Ga(ガリウム)の群から選択される1種以上の元素)等である。中間層は、スパッタ法、電子線ビーム蒸着法等で形成されるが、好ましくはIBAD法(Ion Beam Assisted Deposition、イオンビームアシスト法)により成膜される。
【0039】
一方、第1補正スプリットコイル22は、寸法や配置を除き、メインスプリットコイル21と同様に形成され、設計されている。
【0040】
このようなメインコイルユニット2と同等の磁場を形成可能でありながら、線材使用量の少ない別例として、
図3ないし
図5に示すサイクロトロンのコイルシステム71が具備するメインコイルユニット72を挙げることができる。コイルシステム71は、コイルシステム1と異なり、センターコイル6を具備していないが、コイルシステム1と同等のスパイラルセクターコイルユニット4,4を具備している。
【0041】
コイルシステム71の各メインコイルユニット72は、それぞれ輪状である、メインスプリットコイル81、第1補正スプリットコイル82、及び第2補正スプリットコイル83を含む。メインスプリットコイル81、第1補正スプリットコイル82、及び第2補正スプリットコイル83は、Z軸上にそれぞれの中心が位置するように、又XY平面と平行に配置されている。
【0042】
メインスプリットコイル81は、ここでは、
図5に示されるように、縦0.149135m、横0.390949mの矩形断面を有しており、下面がY軸から0.065000m上方となるようY軸と平行に配置されている。メインスプリットコイル81の内径(半径)は1.094110mである。インスプリットコイル81は、第1補正スプリットコイル82や第2補正スプリットコイル83に比べ、面積の広い断面を有している。又、メインスプリットコイル81は、第1補正スプリットコイル82や第2補正スプリットコイル83に比べ、より大きな外径や内径を有している。そして、メインスプリットコイル21は、鏡面対称のメインスプリットコイル21に対して0.130000m離れた状態で配置されている。
【0043】
第1補正スプリットコイル82は、ここでは、内径1.008602m,幅(断面の横)0.084736m,厚み(断面の縦)0.069711mとされており、メインスプリットコイル81に沿った状態(水平)で、対称位置の第1補正スプリットコイル22に対し0.330000m間隔を置いて配置されている(X軸に対して0.165000m離れている)。従って、第1補正スプリットコイル82は、メインスプリットコイル81や自身の軸方向においてメインスプリットコイル81と並んだ状態で配置されており、その内径ないし外径はメインスプリットコイル81の外径より小さくされており、メインスプリットコイル81の外径より(コイルの半径方向・放射方向でみて)内側に位置している。
【0044】
第2補正スプリットコイル83は、ここでは、内径0.387893m,幅0.516684m,厚み0.011931mとされており、メインスプリットコイル81に沿う状態で、対称位置の第2補正スプリットコイル83に対し0.330002m間隔を置いて配置されている(Z軸に対して0.0165001m離れている)。従って、第2補正スプリットコイル83の内径ないし外径は、メインスプリットコイル81や第1補正スプリットコイル82の外径より小径とされていて、メインスプリットコイル81や第1補正スプリットコイル82の外径より内側に配置されている。
【0045】
そして、上側のメインコイルユニット72において、第2補正スプリットコイル83の下面より下側に、その内径ないし外径より大きな外径の第1補正スプリットコイル82の下面が配置され、第1補正スプリットコイル82の下面より下側に、その内径ないし外径より更に大きな外径のメインスプリットコイル81の下面が配置されており、上側メインコイルユニット72全体としてみて、メインスプリットコイル81、第1補正スプリットコイル82、第2補正スプリットコイル83の下面が上方に盛り上がる山型形状となっている。なお、下側のメインコイルユニット72の上面についても同様である。
【0046】
以上のような双方のコイルシステム1,71において、次のようにして粒子加速のための等時性磁場が形成される。ここで、コイルシステム1について説明するが、コイルシステム71においても同様である。互いに対称であるメインコイルユニット2,2で挟まれた部分において、粒子加速のための等時性磁場が形成される。コイルユニット1を有するサイクロトロンでは、メインコイルユニット2,2間の中心平面(XY平面)が荷電粒子の加速平面とされる。なお、このサイクロトロンでは、スパイラルセクターコイルユニット4,4間の中心平面と加速平面も一致している。
【0047】
メインスプリットコイル21、及び第1補正スプリットコイル22は、それぞれ図示しないスイッチを介して共通の前記電源と電気的に接続されており、当該スイッチをオンにすることで単独の電源により電圧を付加されて励磁され、他の励磁コイルと共に等時性磁場を生成する。なお、XY平面が、等時性磁場の鉛直方向における中央となる。又、コイルシステム71において、メインスプリットコイル81、第1補正スプリットコイル82、第2補正スプリットコイル83の通電電流は、順に420A(アンペア),398A,432Aである(運転電流はこれら通電電流以下で良い)。
【0048】
サイクロトロンの制御装置としてのコンピュータは、等時性磁場の形成に際し、冷却装置を動作させ、冷却媒体をメインスプリットコイル21、及び第1補正スプリットコイル22が超電導状態となる温度(20K)まで伝導冷却により冷却し、冷却媒体の温度を安定させる。そして、徐々に電圧を付加し、メインスプリットコイル21、及び第1補正スプリットコイル22に電流を流す。そして、超電導状態により電流が安定すれば、電圧の付加を停止して、荷電粒子を螺旋軌道で加速させる等時性磁場を形成する定常状態に移行させる。
【0049】
≪メインコイルユニットが形成する磁場≫
このようなメインコイルユニット2,2の生成する磁場と同等である、メインコイルユニット72,72の生成磁場等を
図6に示す。メインコイルユニット72,72の生成磁場(DESIGN)は、炭素6価プラスイオン
12C
6+を一定の回転周波数において400MeV/核子まで加速可能な理想的磁場(TARGET)に対し、誤差(ERROR)の少ない状態(最大約0.1T)となっている。
【0050】
理想的磁場に関し、一般に、磁場と粒子の軌道半径は次の[数1]で与えられる。ここで、Bρは磁気剛性(magnetic rigidity)[Tm]、pは(相対論的)運動量[MeV/c]であり、Zは電荷数(ここでは6)、Eは運動エネルギー(ここでは400)[MeV/u]、E
0は静止エネルギー(931)[MeV/u]、Aは質量数(ここでは12)である。
【0052】
≪スパイラルセクターコイルユニット≫
双方のコイルシステム1,71において同等である各スパイラルセクターコイルユニット4は、複数のスパイラルセクターコイル41を含んでいる。各スパイラルセクターコイル41は、湾曲した扇形に沿うように巻いた空芯のコイルであり、メインスプリットコイル21と同様、酸化物超電導線材により形成され、又図示しないシールドにより冷却可能に覆われ、前記電源と通電可能に接続されている。そして、各スパイラルセクターコイル41は、湾曲により凸となる側が時計回りで正の側となるよう互いに回転対称に配置されており、又互いに円周方向で等間隔となるように配置されている。なお、各スパイラルセクターコイル41につき、凸側を時計回り負の側に配置しても良い。
【0053】
図7にスパイラルセクターコイル41の詳細を示す。各スパイラルセクターコイル41は、ここでは全体を通じて幅5cm,厚み5cmとされている。なお、
図5の一点鎖線は半径1060mm(ミリメートル)の円であり、二点鎖線は半径1100mmの円である。
【0054】
又、各スパイラルセクターコイル41は、酸化物超電導線材における、曲げ過ぎると破断のおそれがあり、又超電導特性に支障を来すおそれがあるという機械特性に鑑み、曲げ半径が所定値(ここでは3cm)以上となるように設計されている。具体的には、ブロックと曲げ半径が所定値以上の弧状ブロックの組合せで形成させる巻線空間を満たすように酸化物超電導線材が巻かれており、より詳細には、3つの弧状のブロック(内側に配置されるArc−1及び外側に配置されるArc−2,Arc−3)と、Arc−1からArc−2にかけて互いに角度を付けて徐々に曲がるように接続される真っ直ぐなブロックの連続体(Brick−OUT−1〜Brick−OUT−19)と、Arc−2とArc−3を接続する真っ直ぐなブロック(Brick−OUT−20)と、Arc−1からArc−3にかけて互いに角度を付けて徐々に曲がるように接続される真っ直ぐなブロックの集合(Brick−IN−1〜Brick−IN−16)とから巻線空間が形成されている。ここで、真っ直ぐなブロックの連続体と弧状のブロックの接続体は、複数の曲率半径の曲線を滑らかに接続した外形を模したものであり、各スパイラルセクターコイル41は、このような外形を有する図示しないジグに、酸化物超電導線材を巻き付けることで形成される。
【0055】
更に、各スパイラルセクターコイル41は、鏡面対称位置のスパイラルセクターコイル41との間において生成する磁場の強い部分(ヒル,hill)の境界が、加速粒子の螺旋軌道に対して(所定範囲内に収まる)所定角度を有するスパイラル状となるように形成されている。各スパイラルセクターコイル41は、円周方向において互いに等間隔に配置されるため、上下のスパイラルセクターコイル41間で比較的に強い磁場(ヒル)が発生し、スパイラルセクターコイル41の無い部分で比較的に弱い磁場(バレー,valley)が発生する。そのバレーからヒルに対する加速粒子の入射角(加速粒子のヒル入射時の速度方向とヒル境界の接線方向の角度)が所定範囲内(ここでは20〜90度)となる磁場を生成するよう、スパイラルセクターコイル41の主にBrick−OUT−1〜Brick−OUT−20(ヒル入射側の形状)が形作られている。又、ヒルからバレーに出る際の加速粒子のヒル境界接線との角度も同様に所定範囲内(ここでは20〜90度)となるように、スパイラルセクターコイル41の主にBrick−IN−1〜Brick−IN−16(バレー入射側の形状)が形成されている。
【0056】
各スパイラルセクターコイル41は、メインスプリットコイル21等と同様、それぞれ電源に接続され、又冷却装置を有しており、コンピュータの指令に基づき、冷却温度の安定、所定通電電流(ここでは320A)の付与、ないし超電導定常状態への移行を行って、等時性磁場における加速粒子収束のための周方向増減磁場を生成する。
【0057】
≪スパイラルセクターコイルユニットが形成する磁場≫
このように形成されたスパイラルセクターコイルユニット4,4が生成する磁場は、次に説明するように、等時性磁場中の加速粒子に強い収束力をもたらす。
【0058】
即ち、
図8(a)に模式的に示すように、磁極のギャップがヒルで狭くバレーで広いものを考えると、
図8(b)に示すように、荷電粒子(Ion)の軌道は円軌道(Circle)から歪んだ軌道をとり、粒子はヒルの部分にκという角度をもって入り又出て行く。この場合、
図8(a)で示されるように、磁力線がヒルとバレーの境界で歪み、その近傍で磁場の方位角成分が生じている。なお、ここではまずヒルとバレーの境界が放射方向に沿う直線状である
図8(b)の場合(ラジアルセクター型)を考える。この場合を基にした、ヒルとバレーの境界が放射方向に沿う螺旋状である場合(スパイラルセクター型)の考察については、後述する。
【0059】
図8(a)で「ω=q/mB」と「Bρ=const.」の関係を用いて幾何学の問題を解くと、次の[数2]となる。
【0061】
図8(c)のように、速度vの粒子が角度αでエッジを横切る場合を考えると、z方向の粒子の運動方程式は、次の[数3]となる。ここで、B
hは磁場の水平成分のエッジに垂直な方向の値であり、エッジの付近で有限な値をもつ。又、「s=vt」というパラメータを導入すると、z方向の運動量p
zの変化を与える式は、[数3]より、次の[数4]となる。
【0063】
エッジを横切るときのz方向の運動量の総変化量Δp
zは、
図9(a)で定義されるパラメータを用いて、次の[数5]で表される。
【0065】
一方、ストークスの定理より、P1−P2−P3−P4−P1に沿っての閉積分は「▽×B=0」だから、次の[数6]となる。P2−P3に沿っての積分は磁場の値が0であるため、又P3−P4に沿っての積分は磁場と積分経路が直交しているため、どちらも0となる。従って、次の[数7]となり、結局[数8]となる。
【0067】
[数8]より、αが正のとき(
図8(c)の場合)粒子は収束作用を受ける。よって、焦点距離fは次の[数9]となり、斜め入射による収束は次の[数10]で与えられる。ここで、ΔBはヒルとバレーの磁場の強さの差である。
【0069】
これらの値が求まると、転送行列を用いてベータトロン振動数を求めることができる。z方向の運動の1ユニット分の転送行列は、ヒルの中での自由運動、エッジでの収束、バレーの中での自由運動、エッジでの収束のそれぞれの転送行列の積で与えられ、つまり次に示す[数11]のようにFOFOで与えられることになる。
【0071】
この行列の積を実行し、次の[数12]の関係を使うと、結局[数13]が得られる。ここで、μはフェイズアドバンス(phase advance)と呼ばれる量である。
【0073】
従って、z方向のベータトロン振動数は、次の[数14],[数15]となり、−β
2γ
2とフラッターF
2の和で与えられることになる。
【0075】
各スパイラルセクターコイルユニット4では、上下のスパイラルセクターコイル41により生成されるヒルとバレーの境界に対する加速粒子の斜め入射角度が大きくなるように、即ち当該境界が加速平面の中心から外側にかけて螺旋を描くようなスパイラル形状となるように、各スパイラルセクターコイル41が形成されている。
【0076】
図9(b)にスパイラル状の境界をもつヒルとバレー(スパイラルセクター型)ないし円軌道を模式的に示し、
図9(c)に円軌道と加速軌道(平衡軌道)の関係を示す。
【0077】
図9(b)のε、即ちヒル・バレー境界線の接線と、当該接線の接点を通る円軌道に対する当該接点を通る垂線(接点を通る半径)とのなす角は、スパイラル角と呼ばれる。このεと円軌道とのずれ角κに対して、斜め入射角度は、ヒルに入るときにε+κ、出るときにε−κとなる。そして、入るときには収束を受け、出るときに発散を受けて、総合すると強い収束を受ける。これは、収束・発散を交互に繰り返すAG(Alternating Gradient)収束になっていることを示している。κは、ラジアルセクター型の場合と同様[数2]で与えられる。又、エッジのところでの収束・発散の大きさは次の[数16]で与えられ、更に転送行列はFODOで与えられ[数17]のようになる。
【0079】
よって、スパイラルセクター型のフェイズアドバンスは次の[数18]の通りとなる。
【0081】
従って、スパイラルセクター型AVFサイクロトロンのz方向のベータトロン振動数は、次の[数19]あるいは[数20]となり、ラジアルセクター型のF
2による項のファクターに2tan
2εの項が付け加わったことになる。コイルユニット1,71を有するサイクロトロンでは、εが50度であるため、このファクターの値が4といった大きなものとなり、強い収束力を得ることができる。なお、このようなベータトロン振動数の値を適正な大きさとする観点から、半径方向で半分より外側において好ましくはεを20〜40度とする。
【0083】
そして、このように加速平面における各種半径において90度未満のスパイラル角εの付与される磁場を生成するために、各スパイラルセクターコイル41の形状(外形,巻線方向)は、曲げ半径を所定値以上としながらも、同様に各種半径に対し90度未満(60度前後)のスパイラル角εを有する螺旋状に湾曲した扇形とされている。なお、
図10に、半径位置とスパイラル角εの関係を示す。
【0084】
≪メインコイルユニット及びスパイラルセクターコイルユニットが形成する磁場≫
図11に、コイルユニット1と中心領域を除き同様であるコイルユニット71における、一対のメインコイルユニット72,72と、その内部に収まる一対のスパイラルセクターコイルユニット4,4により形成される加速平面の磁場(平面視)を示し、
図12(a)に、加速平面の各半径の円軌道における周方向の磁場分布を示し、
図12(b)に、加速平面の中心から径方向(半径方向)にかけての磁場分布を示し、
図12(c)に、加速平面の中心から径方向にかけてのフラッターの分布を示す。
【0085】
これらより、加速平面において、外周部に行くに従い強度が約4Tから約7Tにかけて大きくなる等時性磁場と、円周方向における強度の強い部分(ヒル)と弱い部分(バレー)のAVF磁場とが生成されており、ヒルとバレーの境目が、その接線と半径方向とのなす角であるスパイラル角εを90度未満として半径方向から傾くようスパイラル状に形成され、フラッターを十分確保した状態とされていることが分かる。なお、フラッターにつき詳述すると、半径位置r=0.28mで0.15のピークとなり、径が大きくなるほど減少するものの、ビーム取り出し位置r=1.06mで0.07もあり、0.06以上の所望の値が得られている。
【0086】
従って、コイルユニット71を備えたサイクロトロンでは、加速平面において、重粒子である炭素6価イオンを400MeV/核子程度まで発散せずに加速可能な磁場分布が形成可能となっている。但し、加速平面の中央付近では、特に
図12(b)の半径約0.1m以下の部分に現れているように、磁場強度が比較的に弱くなっている。そこで、コイルユニット1を備えたサイクロトロンでは、加速平面の中央部上下に超電導導体製の空芯のセンターコイル6,6を配備して、加速平面中心領域の磁場につき、強度を補うと共に、収束効果のある中心バンプが付与された状態とする。
【0087】
≪センターコイル(ユニット)≫
各センターコイル6は、酸化物超電導線材を円環状に巻いた空芯のコイルであり、図示しないシールドにより冷却可能に覆われ、前記電源と通電可能に接続されている。各センターコイル6は、その中心がZ軸上にあり、全体としてXY平面に平行(水平)となるように配置され、又上下方向(Z軸方向)において、メインコイルユニット2の内側且つスパイラルセクターコイルユニット4の外側となるように配置されている。なお、ここでは、各センターコイル6は、平面視において、全てのスパイラルセクターコイル41の中心側の端部を囲むような大きさとされ、そのように配置されている。
【0088】
そして、各センターコイル6に対しては、各スパイラルセクターコイル41の外側を通過する磁束の領域にある加速平面中心領域の磁場が高くなる方向へ磁場を発生するように、電流が流される。なお、制御装置は、電源を制御することにより、各センターコイル6に流す電流値をそれぞれ変化させることができ、粒子軌道(特に初期軌道)の安定化のための中心バンプの最適化を行うことができる。
【0089】
≪加速平面中心領域の磁場≫
図13に、センターコイル6,6を含むコイルユニット1に各種の電流を流した場合あるいはセンターコイル6,6を無くした(電流を流さない)場合に生成される磁場の中心領域(中心ないし中心から半径30cm(r=0〜30cm)程度の領域)における同心円上の平均磁場強度(Z成分)Bz(r)を示す。なお、ここでの各センターコイル6の大きさは、内径が14cmで外径が19cmであり(センターコイル6の半径R=14〜19cm)、Z軸方向における加速平面から内面への距離が10cmで加速平面から外面への距離が15cmである。又、電流は、各スパイラルセクターコイル41と同方向に流す。
【0090】
センターコイル6,6の無い場合(without center coils)、半径5cmの位置で約1.7Tで、半径20cmの位置の約3.2Tまでにかけて磁場強度が盛り上がるようにされるのに対し、10000A/cm
2の電流(I
cc)が流れている場合には、半径5cmの位置で約2.6Tとなり半径20cmの位置の約3.4Tとなるように磁場強度が持ち上げられ、20000A/cm
2の電流が流れている場合には、半径5cmの位置で約3.5Tとなり半径20cmの位置の約4.0Tとなるように磁場強度が持ち上げられ、30000A/cm
2の電流が流れている場合には、半径5cmの位置で約4.4Tとなり半径15cmの位置の約4.7Tとなるように磁場強度が持ち上げられ、半径20cm(約4.0T)から半径25cm(約3.2T)にかけてなだらかに強度が下がるようになっている。又、20000,30000A/cm
2の電流の場合において、半径25cmの位置の強度(約3.2T)よりその内側(半径方向)の強度が高くなっており、特に30000A/cm
2の電流の場合では、中心側で磁場強度の高い中心バンプが顕著に付与されたものとなっている。
【0091】
図14に、各種の内径ないし外径のセンターコイル6,6を含むコイルユニット1に所定の電流(30000A/cm
2)を流した場合に生成される磁場の中心領域における同心円上の平均磁場強度のZ成分Bz(r)を示す。なお、スパイラルセクターコイル41における最も中心よりの円弧部分の内径は92.7mm、外径は142.7mmである。
【0092】
センターコイル6の半径R=7〜12cmのコイルユニット1でも、センターコイル6,6の無い場合に比べて中心領域の磁場が持ち上がっているが、半径R=9〜14cmと大きくすると、中心磁場が更に強くなり、中心近くが最も高磁場となり(中心バンプ)、半径R=9〜14cmと更に大きくすると、中心磁場がより一層強くなり、半径r=5〜15cmの領域にかけて約4.5Tもの強度を付与することが可能となる。
【0093】
図15(a)に、各スパイラルセクターコイル41の中心への張り出し具合ないし曲率半径や、各センターコイル6の有無・径・電流を変えた場合の磁場中心領域における同心円上の平均磁場強度のZ成分Bz(r)を示す。
【0094】
スパイラルセクターコイル41に係る種類数は2とし、1つは
図15(b)に示すように中央の内径R
SC_innerを68.8mmとし且つX軸上の位置X
SC_positionを内側92.7mm〜外側142.7mmとし、もう1つは
図15(c)に示すようにR
SC_inner=109mmとし且つX
SC_position=160〜210mmとする。そして、各センターコイル6を有とする場合、前者には内径R
CC_inner=200mm・電流密度I
CC=−30000A/cm
2のセンターコイル6を組み合わせ、後者にはR
CC_inner=140mm・電流密度I
CC=−20000A/cm
2のセンターコイル6を組み合わせる。
【0095】
図15(b)の各スパイラルセクターコイル41のみ存在し、センターコイル6,6の無い場合、
図15(a)に点線で示すように、中心バンプのない状態となるが、
図15(b)通りセンターコイル6,6有りの場合、
図15(a)に実線で示すように、十分に収束力の得られる中心バンプが存在する状態となる。
【0096】
又、
図15(c)の各スパイラルセクターコイル41のみ存在し、センターコイル6,6の無い場合、
図15(a)に二点鎖線で示すように、中心バンプのない状態となり、又r=10〜25cmの領域で
図15(b)のセンターコイル6,6無しの場合より磁場強度が弱くなるが、
図15(c)でセンターコイル6,6有りの場合、
図15(a)に一点鎖線で示すように、十分に収束力の得られる中心バンプが存在する状態となる。
【0097】
特に、各スパイラルセクターコイル41の曲率半径(内径若しくは外径)を100mm以上に大きくすると、各スパイラルセクターコイル41に加わる機械的及び電磁的な応力を実用上十分に軽減することができ、且つ粒子収束力が十分に得られる中心バンプ磁場を形成することができる。
【0098】
≪効果≫
このように、コイルシステム1では、酸化物超電導導体を巻いて成る空芯のコイルによって、ヒルバレーが存在する非常に強い等時性磁場を形成している。よって、重粒子線がん治療に必要な重粒子の加速につき、コイルシステム1を有するサイクロトロンで行うことができる。そして、コイルシステム1自体の寸法は直径約4m×高さ約2mとなり、周辺装置を含めても数十平方メートル(m
2)程度の設置面積で済む等、コイルシステム1やサイクロトロンを非常にコンパクトに小型化することができる。更に、コイルシステム1やサイクロトロンが小型であり、又コイルシステム1を構成する双方のメインスプリットコイル21及び第1補正スプリットコイル22、双方のスパイラルセクターコイル41、並びに双方のセンターコイル6が空芯であるため、製作に要する材料(特に比較的高価な超電導線材)の量を低減することができ、冷却のためのシールド等の構造もシンプルなものとすることができ、運転に必要な電力量も低減することができ、運転に係る制御も比較的に簡易なものとすることができて、導入コストや運用コストを低廉なものとすることができ、保守も簡単に行うことができて保守コストも低廉なものとすることができる。
【0099】
加えて、双方のメインスプリットコイル21及び第1補正スプリットコイル22、双方のスパイラルセクターコイル41、並びに双方のセンターコイル6を超電導状態とし、超電導状態による励磁を行うため、これらコイルに付加する電力量の低減に寄与するし、ジュール発熱が生じず冷却媒体の冷却エネルギーも比較的に少なく済み、運転に必要な電力量の低減を図ることができる。又、小型且つ空芯であるため冷却媒体の量が少なく、又ジュール熱を生じないこと等により、停止状態から高磁場状態(粒子加速可能状態)となる時間を短時間とすることができ、効率良く粒子加速を行うことができる。更に、ジュール熱を生じないこと等により、各メインスプリットコイル21及び第1補正スプリットコイル22、各スパイラルセクターコイル41並びに各センターコイル6に熱変形が生じる事態を防止することができ、磁場分布の変動を防止して、安定した等時性磁場ないしAVF磁場、中心バンプの形成、あるいは粒子加速の安定動作の確保等を行うことができる。
【0100】
特に、センターコイル6につき酸化物超電導導体を巻いて空芯で形成し、超電導状態による励磁を行うため、粒子導入直後ないし加速初期において粒子を十分に収束させるために必要となる中心バンプ磁場について、全体的に高磁場となる中においてもコンパクトな装置により効率良く生成することができ、がん治療等で極めて有用な重粒子さえも導入当初から安定して十分に加速可能となる。そして、以上の特性により、重粒子線を加速可能な粒子加速器の普及を促進することができ、重粒子線がん治療を実施可能な病院が増加する等、多大な効果を奏することができる。
【0101】
≪変更例≫
なお、主に上記形態を変更して成る、本発明の他の形態を例示する。コイルの数は様々に変更でき、片側のメインコイルユニットにおいて1個あるいは3個以上として良いし、片側のスパイラルセクターコイルユニットにおいて3個以下あるいは5個以上として良いし、片側のセンターコイルにつき複数としても良い。即ち、各種のコイルユニットにおける各種コイルの数は、単数あるいは複数とすることができ、例えばセンターコイルについて単数又は複数のセンターコイルが含まれるセンターコイルユニットを考えることができる。但し、スパイラルセクターコイルユニットにあっては、収束の観点から、3つ以上のスパイラルセクターコイルが含まれることが必要となる。なお、複数のセンターコイルを含むセンターコイルユニットの例として、平面視で同心円状に配置し、上下方向において径の小さいものほど加速平面から離れるように配置したものを挙げることができる。
【0102】
メインコイルユニットに係るコイルにつき、加速平面からの距離に基づきメインスプリットコイルと補正スプリットコイルとに分けず、大きい断面積のものをメインスプリットコイルとする等断面積に基づき区別するようにしたり、全て同様の断面積を有するようにしたり、各コイルで様々な断面積をもつようにしたりして良い。又、メインスプリットコイルを補正スプリットコイルより加速磁場に対して遠くに配置して良い。各種コイルの寸法や配置につき、磁気勾配形状や磁束密度の高さ等に応じて微調整し、あるいは変更することができる。一方のメインコイルユニットは、他方のメインコイルユニットにおける全てのコイルに対して鏡面対称であるコイルのみから成る必要はなく、他方のメインコイルユニットにはない微調整用のコイルを追加して配備する等、他方のメインコイルユニットに属する複数のコイルに対して鏡面対称であるコイルを含むのであればどのような構成を採用しても良く、スパイラルセクターコイルユニットやセンターコイルユニットについても同様である。
【0103】
又、メインコイルユニットにおける各種コイルにつき、帯状の超電導線材をパンケーキ巻きして形成されたパンケーキコイルを用いて構成する。各メインスプリットコイル及び補正スプリットコイルは、中央に孔を有する円盤状(環状)のパンケーキコイルにつき、複数重ねることで積層構造をとるように(積層パンケーキコイルとして)構成される。このようなメインコイルユニットを含むサイクロトロンにあっても、強度の高い等時性磁場につき、小型で低コストで普及容易な装置において形成することができる。しかも、パンケーキコイルあるいはその積層体で形成することにより、励磁時において電磁力が圧縮応力として線材構成材(ハステロイ)に対して印加されるようにすることができ、各コイルの機械的強度を高くして挫屈を回避することができて、耐久性を一層向上し、又高磁場をより安定した状態で生成することができる。なお、パンケーキコイルは、積層せず単独で用い、積層数を様々にし、あるいは層毎の厚みや巻き数や線材の種類・寸法等を様々にすることができ、メインコイルユニットは、ソレノイドコイル、パンケーキコイル、又は積層パンケーキコイルの組合せとして良い。
【0104】
冷却媒体の温度につき、20K以外として良い。等時性磁場やAVF磁場につき、超電導線材あるいは酸化物超電導線材を用いないコイルや、強磁性体により作成して良い。