(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5709063
(24)【登録日】2015年3月13日
(45)【発行日】2015年4月30日
(54)【発明の名称】耐熱マグネシウム合金
(51)【国際特許分類】
C22C 23/02 20060101AFI20150409BHJP
C22C 23/00 20060101ALI20150409BHJP
【FI】
C22C23/02
C22C23/00
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2012-137637(P2012-137637)
(22)【出願日】2012年6月19日
(65)【公開番号】特開2014-1428(P2014-1428A)
(43)【公開日】2014年1月9日
【審査請求日】2014年3月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100084858
【弁理士】
【氏名又は名称】東尾 正博
(74)【代理人】
【識別番号】100112575
【弁理士】
【氏名又は名称】田川 孝由
(74)【代理人】
【識別番号】100117400
【弁理士】
【氏名又は名称】北川 政徳
(72)【発明者】
【氏名】堀田 真
(72)【発明者】
【氏名】廖 金孫
【審査官】
藤代 佳
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−242146(JP,A)
【文献】
特開2007−197796(JP,A)
【文献】
特開平10−008160(JP,A)
【文献】
特開平09−271919(JP,A)
【文献】
特開昭61−003863(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 23/00 − 23/06
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Alを5.5質量%以上7.0質量%以下、Mnを0.1質量%以上0.6質量%以下、Caを1.5質量%以上6.0質量%以下、Siを0.5質量%以上0.8質量%以下含有し、残余がMgと不可避不純物であり、Ca/Siの質量比が2.0以上であるマグネシウム合金。
【請求項2】
Caが2.0質量%以上である請求項1に記載のマグネシウム合金。
【請求項3】
Ca/Siの質量比が2.5以上である、請求項1又は2に記載のマグネシウム合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、耐熱性能に優れたマグネシウム合金に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネシウムにアルミニウムなどの元素を添加したマグネシウム合金は、軽量で加工しやすく、様々な分野で利用されている。例えば、Al−Mn−Znを添加したAZ系合金は耐力、引張強さなどが優れ、機械的強度を求める用途で有用である。また、これにさらに耐熱性を高めた合金として、Al−Mn−Siを添加したAS系合金も知られている。
【0003】
しかし、AS系合金では耐熱性に限界があり、これをさらに改善する方法として、Caを添加して高温特性を改善させたマグネシウム合金が知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、Alを2〜10wt%、Caを1.4〜10wt%添加し、かつ、Ca/Al≧0.7のマグネシウム合金が記載されている。Ca/Alの比を0.7以上に調製することでMg−Ca化合物を晶出させやすくし、高温時における強度を向上させている。
【0005】
また、特許文献2には、Alを2〜6wt%、Caを0.5〜4wt%添加し、かつ、Ca/Al≦であるマグネシウム合金が記載されている。これは、特許文献1のようにCaが多すぎると、金型への焼き付きが発生しやすくなり、伸びも低下するため、Mg−Ca化合物の量を適度な範囲に抑制したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平06−25790号公報
【特許文献2】特開平09−272945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これら特許文献1及び2のマグネシウム合金でも耐クリープ性が十分ではない用途があり、さらに高温時における機械的強度に優れたマグネシウム合金が求められている。そこでこの発明は、機械的強度に優れたAl−Mn系マグネシウム合金において、さらに耐熱性能に優れた合金を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
Alを3.0質量%以上7.0質量%以下、Mnを0.1質量%以上0.6質量%以下、Caを1.5質量%以上、Siを0.4質量%以上含有し、Ca/Si≧2.0(質量比)であるマグネシウム合金により、上記の課題を解決したのである。
【0009】
Siを0.5質量%以上、Caを2.0質量%以上とすると、さらにクリープ特性が向上したマグネシウム合金が得られやすくなる。また、Ca/Siの質量比は2.5以上であるとより好ましく、3.0以上であるとさらに耐クリープ性が向上させやすくなる。
【発明の効果】
【0010】
このマグネシウム合金は、170℃以上の環境であっても耐クリープ性が高く、クリープ歪みを0.20%以下に抑え、高温でも優れた機械的強度を有する材料として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例におけるCa/Si比に対するクリープ歪の結果をプロットしたグラフ
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明について詳細に説明する。
この発明は、少なくともAl,Mn,Ca,Siを含有し、耐クリープ性に優れたマグネシウム合金である。
【0013】
この発明にかかるマグネシウム合金は、Alを3.0質量%以上含有することが必要であり、5.5質量%以上であると好ましい。Alが少なすぎるとマグネシウム合金の融点の低下が小さく、合金を調製する際や、合金を鋳造に用いる際に、高温を必要とすることになるので、作業性が低下するだけでなく、合金が焼き付きなどを起こしやすくなってしまう。3.0質量%以上であればある程度の作業性は確保でき、5.5質量%以上であると、後述するSiとの複合により、十分な作業性を確保できる。一方で、Alが多すぎるとβ相が析出し、耐クリープ性が低下しやすくなる傾向にあり、7.0質量%以下であることが必要であり、6.5質量%以下であればこの問題をほぼ無視できる。
【0014】
この発明にかかるマグネシウム合金は、Mnを0.1質量%以上含有することが必要であり、0.3質量%以上含有していると好ましい。Mnは溶湯中の不純物であるFeを除去し耐腐食性の低下を抑える効果があり、少なすぎるとFe由来の腐食しやすさが無視できなくなるからである。一方でMnの含有量は0.6質量%以下であることが必要である。多すぎると、マンガンが単体で多く析出することで脆くなり、強度が低下するためである。
【0015】
この発明にかかるマグネシウム合金は、Caを1.5質量%以上含有することが必要であり、2.0質量%以上含有していると好ましい。Caを含有することで耐熱性が向上するが、1.5質量%未満ではその効果が不十分になるからである。2.0質量%以上であるとこの耐熱性はより確実なものとなる。一方で、Caが過剰に存在すると鋳造時に割れや焼きつきが発生しやすくなるため、6.0質量%以下であることが好ましく、4.5質量%以下であるとより好ましい。
【0016】
この発明にかかるマグネシウム合金は、Siを0.4質量%以上含有することが必要であり、0.5質量%以上含有していると好ましい。Siは上記のAlとともに融点を低下させる効果があり、少なすぎると作業性が低下し、鋳造に用いることが難しくなってしまう。一方で、Si添加量が2.0質量%以上になると、粗大なMg−Si化合物が生成することで脆くなり、強度が低下するため、2.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以下であるとより好ましい。
【0017】
この発明にかかるマグネシウム合金は、含有するCaとSiの質量比が、2.0以上であることが必要であり、2.5以上であると好ましく、3.0以上であるとより好ましい。Ca/Siの比が大きいほど耐クリープ性が向上する。この比は、上記のCaとSiの含有範囲では特に上限はなく、高いほど好ましい。
【0018】
この発明にかかるマグネシウム合金は、上記の元素の他に、不可避不純物を含有してもよい。この不可避不純物とは、製造上の問題、あるいは原料上の問題のために、意図に反して含有することが避けられないものである。この発明にかかるマグネシウム合金の特性を阻害しない範囲の含有量であることが必要であり、一元素あたり0.2質量%未満であることが好ましく、少ないほど好ましい。
【0019】
ただし、その他の元素の中でも、上記のCaとMg以外の第2族元素、すなわち、Be、Sr、Ba、Raの含有量が出来るだけ少ないことが好ましい。具体的には、これらを合計しても0.05質量%未満であることが好ましく、個々の元素はいずれも検出限界未満であることが望ましい。これらの第2族元素は高価であり、コストアップ要因となるためである。特にBaはAlと反応してAl―Ba化合物を形成するが、その共晶温度は528℃とAl−Ca化合物の共晶温度545℃よりも低く、より低温で分解して耐クリープ性を低下させてしまう。さらに、他の第2族元素も期待外の化合物を生じて性質を悪化させるおそれがある。
【0020】
この発明にかかるマグネシウム合金は、上記の質量%の範囲となるように上記の元素を含む原料を用いて、一般的な方法で調製可能である。なお、上記の質量比及び質量%は、原料における比及び%ではなく、調製された合金や、それを鋳造などによって製造した製品における比及び%である。
【0021】
この発明にかかるマグネシウム合金は、融点が適度に抑制されていて焼き付きなどが起こりにくいため、鋳造に用いやすい。また、展伸材の用途でも利用可能である。いずれも、この発明にかかるマグネシウム合金を用いて製造した製品は、高温状況下での耐クリープ性がよいものとなる。
【実施例】
【0022】
この発明にかかるマグネシウム合金を実際に調製した例を示す。Mg以外の元素の含有成分が下記の表1のそれぞれに記載の質量%となるようにマグネシウム合金を調製し、それぞれの合金についてJIS Z 2271で定めるクリープ試験方法に基づいて試験を行った。クリープ試験機には(株)米倉製作所製:CR−20KNを用い、試験温度は175℃、与えた応力は50MPaで、100時間経過後のクリープ歪(%)を測定した。その結果を併せて表1に示す。クリープ歪≦0.15%を◎、0.15%<クリープ歪≦0.20%を○、0.20%<クリープ歪を×と評価した。
【0023】
【表1】
【0024】
なお、比較例1〜4はCaが1.5質量%未満であり、比較例2〜5はCa/Siの質量比が2.0未満である。これらの実施例及び比較例のデータを、Ca/Siを横軸に、クリープ歪(%)を縦軸にプロットしたグラフを
図1に示す。