【文献】
G. Della MEA et al., Chemical durability of zinc-containing glasses,Journal of Non-Crystalline Solids,Vol. 84, Issues 1-3,Pages 443-451
【文献】
Zhongjian WANG et al.,Dielectric properties and crystalline characteristics of borosilicate glasses,Journal of Non-Crystalline Solids,2008年,Vol. 354, Issues 12-13,Pages 1128-1132
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、エンジンは小型化される傾向にあり、点火プラグも小型化、特に細経化される傾向にある。点火プラグが細径化されると、絶縁碍子の内孔径も縮小されるため、抵抗体の体積が必然的に減少し、結果として、抵抗体が高周波雑音電波を吸収し難くなる。なお、点火プラグの点火時には、高周波雑音電波が発生するが、この高周波雑音電波が多量に漏洩すれば、車載用のTV、ラジオ、無線等を妨害するおそれがある。
【0007】
このような事情に鑑み、特許文献3の明細書の段落[0011]〜[0013]には、「本発明のスパークプラグは、軸方向に延びる貫通孔を有し、該貫通孔が第1貫通孔及び該第1貫通孔よりも後端側に当該第1貫通孔よりも孔径が大きい第2貫通孔となる絶縁体と、前記絶縁体の第1貫通孔内に配置される中心電極と、前記絶縁体の第2貫通孔内に配置される端子金具と、を備えるスパークプラグであって、前記第2貫通孔内に、導電性セラミック焼結体で形成されると共に、前記中心電極と前記端子金具とを電気的に接続するセラミック焼結体抵抗器が配置されてなり、前記セラミック焼結体抵抗器の軸方向長さが前記第2貫通孔の軸方向長さの40%以上であることを特徴とする。本発明では、このような抵抗体として予め焼結されたセラミック焼結体抵抗器を絶縁体の第2貫通孔に挿入するものとすることで、従来のような製造上の長さの制約を受けず、セラミック焼結体抵抗器の長さを十分に長くすることができる。これにより、中心電極と端子電極との間の実効誘電率を小さくし、点火時に発生する容量放電電流を小さくし、雑音防止効果を大きくすることができる。そして、セラミック焼結体抵抗器の長さ(LR)を第2貫通孔の長さ(LH)の40%以上とする((LR/LH)×100≧40)ことで、中心電極と端子電極との間の実効誘電率を小さくし、点火時に発生する容量放電電流を小さくし、十分な雑音防止効果を得ることが可能となる。なお、セラミック焼結体抵抗器の長さ(LR)が第2貫通孔の長さ(LH)の40%未満であると、十分な効果を得られにくい。さらに、より好ましいセラミック焼結体抵抗器の長さ(LR)は、第2貫通孔の長さ(LH)の50%以上である((LR/LH)×100≧50)。」と記載されており、点火プラグの構造を最適化することにより、端子電極と中心電極間の実効誘電率を低下させて、高周波雑音電波の漏洩を抑制することが示されている。しかし、このような最適化を行ったとしても、細径化された点火プラグの場合、高周波雑音電波の漏洩を十分に抑制することができない。
【0008】
また、点火プラグが細径化されると、抵抗体の機械的強度が低下、或いは端子電極の圧入時の摩擦抵抗が増大することから、端子電極を圧入し難くなり、抵抗体の抵抗値がばらつきやすくなる。加えて、ホットプレス温度の変動に対しても影響を受けやすくなり、更に抵抗体の抵抗値がばらつきやすくなると考えられる。なお、点火プラグの製造工程において、ホットプレス温度を厳密に規制することは困難であり、ホットプレス温度は、ある程度の変動幅で管理せざるを得ないのが実情である。
【0009】
そこで、本発明は、点火プラグが細経化されても、高周波雑音電波の発生を十分に抑制し得る抵抗体形成用ガラス組成物を創案することにより、点火プラグの信頼性および生産性を高めることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意努力の結果、ガラスの軟化特性を維持しながら、ガラスの誘電率を低下させること、具体的にはホウ珪酸ガラスにZnOを導入することにより、上記技術的課題を解決できることを見出し、本発明として、提案するものである。すなわち、本発明の抵抗体形成用ガラス組成物は、ガラス組成として、質量%で、SiO
2 40〜60%、B
2O
3 25〜55%、Li
2O+Na
2O+K
2O(Li
2O、Na
2O、K
2Oの合量)
1〜20%、
Li2O 1〜20、ZnO 0.1〜25%を含有することを特徴とする。
【0012】
本発明の抵抗体形成用ガラス組成物は、上記のようにガラス組成範囲を規制している。このようにすれば、ガラスの誘電率を低下できるため、点火プラグの点火時に高周波雑音電波の発生を抑制することができ、その結果、点火プラグの細径化を容易に図ることができる。また、このようにすれば、ガラスの屈伏点を不当に上昇させずに、ガラスの熱的安定性を高めつつ、ガラスの熱膨張係数を下げることができる。
【0013】
第二に、本発明の抵抗体形成用ガラス組成物は、25℃、1MHzにおける誘電率が5.5以下であることに特徴付けられる。このようにすれば、点火プラグの点火時に高周波雑音電波の発生を抑制できるため、抵抗体の体積が少なくても、抵抗体が高周波雑音電波を十分に吸収することができる。このため、点火プラグを細径化しやすくなる。ここで、「25℃、1MHzにおける誘電率」は、50×50×3mmの板状ガラス(ガラス粉末を緻密に焼結させたもの)、或いは50×50×3mmの板状のガラスインゴットを測定試料として用い、光学研磨されたガラスの表裏面に30mmφの電極を貼り付け、電極間に電圧を印加して測定した値を指す。
【0014】
本発明者は、ガラスの誘電率を低下させると、抵抗体の誘電率を低下できる点に着目し、抵抗体の誘電率を低下させるためには、上記のようにガラス組成範囲を規制すればよいことを見出した。これにより、中心電極―端子電極間の実行誘電率が小さくなるため、点火プラグの点火時に発生する容量放電電流を小さくすることができ、結果として、高周波雑音電波の発生を抑制することができる。
【0015】
第三に、本発明の抵抗体形成用ガラス組成物は、25℃、1MHzにおける誘電正接が0.0008以上であることを特徴とする。このようにすれば、ガラスの高周波雑音電波の吸収能が高まるため、点火プラグを細径化しやすくなる。ここで、「25℃、1MHzにおける誘電正接」は、50×50×3mmの板状ガラス(ガラス粉末を緻密に焼結させたもの)、或いは50×50×3mmの板状のガラスインゴットを測定試料として用い、光学研磨されたガラスの表裏面に30mmφの電極を貼り付け、電極間に電圧を印加して測定した値を指す。
【0016】
本発明者は、詳細な調査により、ガラスの誘電正接を上昇させると、ガラスの高周波雑音電波の吸収能が高まることを見出した。なお、このメカニズムの詳細は明らかではなく、現在、鋭意調査中であるが、本発明者は、ガラスの誘電正接が大きいと、点火プラグの点火時に、抵抗体に含まれる粗粒ガラス粉末の界面において、高周波雑音電波のエネルギーが熱エネルギーに変換されやすく、高周波雑音電波が減衰するものと推定している。
【0017】
第四に、本発明の抵抗体形成用ガラス組成物は、ガラス転移点が430〜570℃であることに特徴付けられる。ここで、「ガラス転移点」とは、押棒式熱膨張係数測定(TMA)装置で測定した値を指す。
【0018】
第五に、本発明の抵抗体形成用ガラス組成物は、屈伏点が500〜680℃であることに特徴付けられる。ここで、「屈伏点」とは、TMA装置で測定した値を指す。
【0019】
第六に、本発明の抵抗体形成用ガラス組成物は、熱膨張係数が40〜60×10
-7/℃であることに特徴付けられる。ここで、「熱膨張係数」とは、TMA装置で測定した値を指し、30〜380℃の温度範囲で測定した平均値を指す。
【0020】
第七に、本発明の抵抗体形成用ガラス組成物は、実質的にPbOを含有しないことに特徴付けられる。このようにすれば、近年の環境的要請を満たすことができる。ここで、「実質的にPbOを含有しない」とは、ガラス組成中のPbOの含有量が1000ppm以下の場合を指す。
【0021】
第八に、本発明の抵抗体形成用ガラス組成物は、点火プラグに用いることに特徴付けられる。
【0022】
第九に、本発明の抵抗体形成用ガラス粉末は、上記の抵抗体形成用ガラス組成物からなるガラス粉末を含有することに特徴付けられる。
【0023】
第十に、本発明の抵抗体形成用ガラス粉末は、分相性を有することに特徴付けられる。ここで、「分相性を有する」とは、600〜900℃のいずれかの温度で10分間熱処理を加えた場合にガラスが分相する場合を指し、例えば、TEM(Transmission Electron Microscope)等で観察すれば、ガラスが分相しているか否かを判定することができる。なお、抵抗体形成用ガラス粉末が、熱処理を加える前に、既に分相している場合も「分相性を有する」と判断する。
【0024】
一般的に、分相とは、ガラス成分が、SiO
2を主成分とする高粘性のシリカリッチ相と、その他の成分からなる低粘性ガラス相とに分離する状態を指し、分相したガラスは、通常、シリカリッチ相が骨格をなし、その間隙に低粘性ガラス相が存在する構造となる。粗粒ガラス粉末が分相性を有すると、ホットプレス工程でカーボンブラック、炭化チタン、窒化チタン、炭化珪素等の導電粉末をガラス中に溶解し難くなる。一方、細粒ガラス粉末は、ホットプレス工程で導電粉末をガラス中に溶解する。その結果、粗粒ガラス粉末の近傍に導電粉末からなる導電パスを形成することができる。なお、ホットプレス工程で粗粒ガラス粉末が導電粉末を取り込まない理由は、ガラスの分相性に起因していると考えられるが、詳細なメカニズムは不明であり、現在、鋭意調査中である。また、粗粒ガラス粉末が分相性を有すると、ホットプレス工程で低粘性ガラス相の軟化流動に起因して塑性変形するものの、シリカリッチ相の存在によってその形状を維持し、ブロック粒子として機能することができる。
【0025】
第十一に、本発明の抵抗体形成用ガラス粉末は、ガラス粉末の粒度が150〜450μmであることに特徴付けられる。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の抵抗体形成用ガラス組成物において、ガラス組成範囲を上記のように限定した理由を下記に示す。
【0038】
SiO
2は、ガラスの骨格を形成する成分であり、ガラスを熱的に安定化させるとともに、ガラスの熱膨張係数を下げる成分であり、その含有量は
40〜60%、
好ましくは42〜56%である。SiO
2の含有量が
40%より少ないと、ガラスが熱的に不安定になり、ガラスを安定生産し難くなることに加えて、ガラスの熱膨張係数が上昇し過ぎて、抵抗体と導電ガラス体または絶縁碍子の界面で剥離またはクラックが発生しやすくなる。また、SiO
2の含有量が
40%より少ないと、ホットプレス工程で粗粒ガラス粉末が導電粉末を溶解しやすくなる。一方、SiO
2の含有量が
60%より多いと、ガラスの屈伏点が不当に上昇し、ホットプレス工程でガラスが変形し難くなり、結果として、端子浮き等の不具合が発生しやすくなる。
【0039】
B
2O
3は、ガラスの骨格を形成する成分であり、ガラスを熱的に安定化させるとともに、ガラスの屈伏点を下げる成分であり、更にはガラスを分相させるための成分であり、その含有量は25〜55%、好ましくは30〜50%、より好ましくは33〜46%である。B
2O
3の含有量が25%より少ないと、ガラスが熱的に不安定になり、ガラスを安定生産し難くなることに加えて、ガラスの屈伏点が不当に上昇し、ホットプレス工程でガラスが変形し難くなり、結果として、端子浮き等の不具合が発生しやすくなる。一方、B
2O
3の含有量が55%より多いと、ガラスの熱膨張係数が上昇し過ぎて、抵抗体と導電ガラス体または絶縁碍子の界面で剥離またはクラックが発生しやすくなることに加えて、ガラスの分相性が低下するため、ホットプレス工程で粗粒ガラス粉末が導電粉末を溶解しやすくなる。
【0040】
Li
2O+Na
2O+K
2Oは、ガラスの屈伏点を低下させるとともに、ガラスの分相を促進させるための成分であり、その含有量は
1〜20%、好ましくは
1〜15%、より好ましくは1〜10%、更に好ましくは2〜8%である。Li
2O+Na
2O+K
2Oの含有量が20%より多いと、ガラスの熱膨張係数が上昇し過ぎて、抵抗体と導電ガラス体または絶縁碍子の界面で剥離またはクラックが発生しやすくなることに加えて、ホットプレス工程で粗粒ガラス粉末が導電粉末を溶解しやすくなる。
【0041】
Li
2Oは、ガラスの屈伏点を低下させるとともに、ガラスの分相を顕著に促進させるための成分であり、その含有量は
1〜20%、
1〜10%、1〜7%、特に2〜5%が好ましい。Li
2Oの含有量が20%より多いと、ガラスの熱膨張係数が上昇し過ぎて、抵抗体と導電ガラス体または絶縁碍子の界面で剥離またはクラックが発生しやすくなる。なお、ガラスの分相を促進させる観点から、ガラス組成中にLi
2Oを必須成分として
2%以上含有させることが好ましい。
【0042】
Na
2Oは、ガラスの屈伏点を低下させるとともに、ガラスの分相を促進させるための成分であり、その含有量は0〜20%、0〜10%、特に0〜2%が好ましい。Na
2Oの含有量が20%より多いと、ガラスの熱膨張係数が上昇し過ぎて、抵抗体と導電ガラス体または絶縁碍子の界面で剥離またはクラックが発生しやすくなる。
【0043】
K
2Oは、ガラスの屈伏点を低下させるとともに、ガラスの分相を促進させるための成分であり、その含有量は0〜20%、0〜15%、0〜5%、特に0〜2%が好ましい。K
2Oの含有量が20%より多いと、ガラスの熱膨張係数が上昇し過ぎて、抵抗体と導電ガラス体または絶縁碍子の界面で剥離またはクラックが発生しやすくなる。
【0044】
ZnOは、ガラスの誘電率を顕著に低下させるとともに、ガラスの分相を顕著に促進させるための成分であり、またガラスの熱膨張係数を低下させるための成分であり、その含有量は0.1〜25%、好ましくは1〜15%、より好ましくは3〜12.5%、更に好ましくは5〜11%である。ZnOの含有量が0.1%より少ないと、ガラスが高周波雑音電波の発生を防止し難くなり、点火プラグを細径化することが困難になる。また、ZnOの含有量が0.1%より少ないと、ガラスの分相性が低下し、粗粒ガラス粉末がブロック粒子として機能せず、結果として、抵抗体の高周波雑音電波の吸収能が低下しやすくなる。一方、ZnOの含有量が25%より多くても、ガラスの分相性が低下し、粗粒ガラス粉末がブロック粒子として機能せず、結果として、抵抗体の高周波雑音電波の吸収能が低下しやすくなる。
【0045】
上記成分以外にも、例えば、以下の成分をガラス組成中に添加することができる。
【0046】
Al
2O
3は、ガラスの耐水性を高めるとともに、ガラスの熱膨張係数を下げる成分であり、その含有量は0〜10%、特に0〜5%が好ましい。Al
2O
3の含有量が10%より多いと、ガラスの屈伏点が不当に上昇し、ホットプレス工程でガラスが変形し難くなり、結果として、端子浮き等の不具合が発生しやすくなる。
【0047】
アルカリ土類金属酸化物(MgO、CaO、SrO、BaO)は、ガラスの分相を促進させるための成分であると同時に、ガラスの誘電率に影響を与える成分である。イオン半径が小さい程、ガラスが分相しやすくなり、具体的にはBaO、SrO、CaO、MgOの順でイオン半径が小さくなるに従い、ガラスの分相傾向が大きくなる。ガラスの分相傾向が大きくなると、熱処理温度の小さな変化に対しても、分相状態が大きく変動し、その影響により、ホットプレス温度が変動すると、点火プラグの抵抗値がばらつく不具合が発生しやすくなる。一方、ガラスの分相傾向が小さくなると、粗粒ガラス粉末がブロック粒子として機能し難くなる。また、分子量が小さい程、ガラスの誘電率が低下し、具体的にはBaO、SrO、CaO、MgOの順で分子量が小さくなるに従い、ガラスの誘電率が低下する。さらに、BaO、SrO、CaO、MgOの順で分子量が小さくなるに従い、ガラスの屈伏点が上昇する。以上から明らかなように、ガラスの誘電率、分相性、屈伏点等の特性を総合的に勘案して、アルカリ土類金属酸化物を適宜選択して添加することが好ましく、その含有量は0〜25%、特に1〜15%が好ましい。
【0048】
MgOは、ガラスの誘電率を低下させる成分であり、またガラスの分相を促進させるための成分であり、その含有量は0〜20%、0〜10%、特に0〜5%が好ましい。MgOの含有量が20%より多いと、ガラスの熱的安定性が低下しやすくなる。
【0049】
CaOは、ガラスの誘電率を低下させる成分であり、その含有量は0〜20%、0〜10%、特に0〜5%が好ましい。CaOの含有量が20%より多いと、ガラスの熱的安定性が低下しやすくなる。
【0050】
SrOは、ガラスの誘電率を低下させる成分であるとともに、ガラスの屈伏点を低下させる成分である。また、SrOは、ホットプレス温度が変動すると、点火プラグの抵抗値がばらつく不具合を防止する成分であり、その含有量は0〜25%、0〜20%、0〜15%、特に0〜8%が好ましい。SrOの含有量が25%より多いと、ガラスの熱膨張係数が上昇し過ぎて、抵抗体と導電ガラス体または絶縁碍子の界面で剥離またはクラックが発生しやすくなる。
【0051】
BaOは、ガラスの屈伏点を低下させる成分であるとともに、ホットプレス温度が変動すると、点火プラグの抵抗値がばらつく不具合を防止する成分であり、その含有量は0〜25%、0〜20%、特に0〜15%が好ましい。BaOの含有量が多くなると、ガラスの誘電率が上昇し、ガラスが高周波雑音電波の発生を防止し難くなる。また、BaOの含有量が多くなると、ガラスの熱膨張係数が上昇し過ぎて、抵抗体と導電ガラス体または絶縁碍子の界面で剥離またはクラックが発生しやすくなる。なお、ガラスの誘電率を確実に低下させる観点から、ガラス組成として、BaOの含有量は15%以下、望ましくは10%以下、より望ましくは実質的に含有しないことが好ましい。ここで、「実質的にBaOを含有しない」とは、ガラス組成中のBaOの含有量が3000ppm以下の場合を指す。
【0052】
更に、種々の成分を10%までガラス組成中に添加することができる。例えば、TiO
2、ZrO
2、Bi
2O
3、Cs
2O、La
2O
3、Gd
2O
3、V
2O
5、WO
3、Sb
2O
3、SnO
2、Nb
2O
5、Y
2O
3、CeO
2、P
2O
5等を10%まで添加することができる。なお、本発明の抵抗体形成用ガラス組成物は、PbOの含有を完全に排除するものではないが、既述の通り、環境的観点から実質的にPbOを含有しないことが好ましい。
【0053】
本発明の抵抗体形成用ガラス組成物において、25℃、1MHzにおける誘電率は5.5以下、5.3以下、5.0以下、特に4.8以下が好ましい。25℃、1MHzにおける誘電率が5.5より大きいと、ガラスが高周波雑音電波の発生を防止し難くなり、点火プラグを細径化した場合、抵抗体が高周波雑音電波を十分に吸収し難くなり、車載用のTV、ラジオ、無線等を妨害するおそれがある。
【0054】
本発明の抵抗体形成用ガラス組成物において、25℃、1MHzにおける誘電正接は0.0008以上、0.0010以上、0.0013以上、特に0.0018以上が好ましい。25℃、1MHzにおける誘電正接が0.0008より小さいと、ガラスの高周波雑音電波の吸収能を高め難くなり、点火プラグを細径化した場合、高周波雑音電波を十分に吸収し難くなり、車載用のTV、ラジオ、無線等を妨害するおそれがある。
【0055】
本発明の抵抗体形成用ガラス組成物において、密度は2.55g/cm
3未満、2.50g/cm
3以下、2.45g/cm
3以下、2.40g/cm
3以下、特に2.35g/cm
3以下が好ましい。密度が小さい程、ガラスを軽量化することができ、結果として、点火プラグを軽量化することができる。
【0056】
本発明の抵抗体形成用ガラス組成物において、ガラス転移点は430〜570℃が好ましく、450〜550℃がより好ましく、460〜510℃が更に好ましい。ガラス転移点が430℃より低いと、ホットプレス工程で粗粒ガラス粉末が導電粉末を溶解しやすくなるため、粗粒ガラス粉末が導電路を迂回させるブロック粒子として機能し難くなり、抵抗体の高周波雑音電波の吸収能が低下しやすくなる。一方、ガラス転移点が570℃より高いと、ホットプレス工程でガラスが変形し難くなり、端子浮き等の不具合が発生しやすくなる。
【0057】
本発明の抵抗体形成用ガラス組成物において、屈伏点は500〜680℃が好ましく、520〜630℃がより好ましく、530〜600℃が更に好ましい。屈伏点が500℃より低いと、ホットプレス工程で粗粒ガラス粉末が導電粉末を溶解しやすくなるため、粗粒ガラス粉末が導電路を迂回させるブロック粒子として機能し難くなり、抵抗体の高周波雑音電波の吸収能が低下しやすくなる。一方、屈伏点が680℃より高いと、ホットプレス工程でガラスが変形し難くなり、端子浮き等の不具合が発生しやすくなる。
【0058】
本発明の抵抗体形成用ガラス組成物において、熱膨張係数は40〜60×10
-7/℃が好ましく、40〜55×10
-7/℃がより好ましく、42〜51×10
-7/℃が更に好ましい。熱膨張係数が40×10
-7/℃より低くするためには、ガラス組成中のSiO
2等の含有量を増加させる必要がある。このような場合、ガラスの屈伏点が上昇することに起因して、ホットプレス工程でガラスが変形し難くなり、端子浮き等の不具合が発生しやすくなる。一方、熱膨張係数が60×10
-7/℃より高いと、抵抗体と導電ガラス体または絶縁碍子の界面で剥離またはクラックが発生しやすくなる。
【0059】
本発明の抵抗体形成用ガラス粉末は、上記の抵抗体形成用ガラス組成物からなるガラス粉末を用いる。ガラス粉末に加工すれば、ホットプレス工程でガラスが変形しやすくなるとともに、顆粒に加工すれば、絶縁碍子の内孔に抵抗体材料を充填しやすくなる。
【0060】
本発明の抵抗体形成用ガラス粉末は、分相性を有することが好ましい。好ましい理由は、既述であるため、ここでは、便宜上、その記載を省略する。
【0061】
本発明の抵抗体形成用ガラス粉末において、ガラス粉末の粒度は150〜450μmが好ましく、200〜350μmがより好ましい。ガラス粉末の粒度を150〜450μmにすれば、導電路を迂回させるブロック粒子として機能しやすくなる。ガラス粉末の粒度が150μmより小さいと、ホットプレス工程でガラス粉末が導電粉末を溶解しやすくなるため、ブロック粒子として機能し難くなり、抵抗体の高周波雑音電波の吸収能が低下しやすくなる。一方、ガラス粉末の粒度が450μmより大きいと、顆粒に加工し難くなることに加えて、ホットプレス工程でガラス粉末が変形し難くなり、端子浮き等の不具合が発生しやすくなる。ここで、「150〜450μmの粒度」とは、目開き450μmの篩を通過し、目開き150μmの篩を通過しないことを意味する。
【0062】
本発明の抵抗体形成用ガラス粉末において、ガラス粉末の平均粒子径D
50は150〜450μmが好ましく、200〜350μmがより好ましい。ガラス粉末の平均粒子径D
50を150〜450μmにすれば、導電路を迂回させるブロック粒子として機能しやすくなる。ガラス粉末の平均粒子径D
50が150μmより小さいと、ホットプレス工程でガラス粉末が導電粉末を溶解し、ブロック粒子として機能し難くなり、抵抗体の高周波雑音電波の吸収能が低下しやすくなる。一方、ガラス粉末の平均粒子径D
50が450μmより大きいと、顆粒に加工し難くなることに加えて、ホットプレス工程でガラス粉末が変形し難くなり、端子浮き等の不具合が発生しやすくなる。ここで、「平均粒子径D
50」とは、レーザー回折法で測定した値を指し、レーザー回折法により測定した際の体積基準の累積粒度分布曲線において、その積算量が粒子の小さい方から累積して50%である粒子径を表す。
【0063】
本発明の抵抗体形成用ガラス粉末において、ガラス粉末の最大粒子径D
maxは450μm以下が好ましく、400μm以下がより好ましい。ガラス粉末の平均粒子径D
maxが450μmより大きいと、絶縁碍子の内孔が細径化された場合に、絶縁碍子の内孔にガラス粉末を充填し難くなる。ここで、「最大粒子径D
max」は、レーザー回折法で測定した値を指し、レーザー回折法により測定した際の体積基準の累積粒度分布曲線において、その積算量が粒子の小さい方から累積して99%である粒子径を表す。
【0064】
本発明の抵抗体形成用ガラス粉末は、抵抗体を形成するための細粒ガラス粉末としても使用することができる。その場合、ガラス粉末の平均粒子径D
50は150μm未満が好ましく、100μm以下がより好ましい。ガラス粉末の平均粒子径D
50が150μm以上であると、ホットプレス工程で細粒ガラス粉末が結合ガラス相を形成し難くなる。なお、粗粒ガラス粉末と細粒ガラス粉末を同一のガラス組成とすれば、ホットプレス工程で両者が強固に結合するため、抵抗体の機械的強度を高めることができる。
【0065】
本発明の抵抗体形成用ガラス粉末は、点火プラグに使用することが好ましい。本発明の抵抗体形成用ガラス粉末は、その充填量が少なくても、高周波雑音電波の発生を抑制できるため、点火プラグが細径化された場合に有利である。
【0066】
本発明の抵抗体形成用ガラス組成物は、質量%でさらに、ZnO 7.1〜12.2%、Li
2O+Na
2O+K
2O 2.6〜12%を含有することが好ましい。本発明の抵抗体形成用ガラス組成物は、850℃でのホットプレス時の封着性能を良好とすることが可能である。
【実施例】
【0067】
以下、実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。表1〜4は、本発明の実施例(試料No.1〜33
:試料No.1〜6、16、17、29は参考例)、比較例(試料No.34〜40)を示している。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
【表3】
【0071】
【表4】
【0072】
まず、表中のガラス組成となるように、各種酸化物、炭酸塩等の原料を調合したガラスバッチを準備し、これを白金坩堝に入れて1300℃で2時間溶融した。次に、水冷ローラーにより、溶融ガラスを薄片状に成形した後、ボールミルにて粉砕後、試験篩で分級し、各ガラス粉末を得た。
【0073】
試料No.1〜40につき、ガラス転移点、屈伏点、熱膨張係数、誘電率、誘電正接、ブロック粒子としての機能、分相性を評価した。
【0074】
ガラス転移点および屈伏点は、TMA装置で測定した。なお、TMAの測定試料は、ガラス粉末を焼結させたものを使用した。
【0075】
熱膨張係数は、TMA装置を用いて、30〜380℃の温度範囲で測定した。なお、TMAの測定試料は、ガラス粉末を焼結させたものを使用した。
【0076】
誘電率および誘電正接は、50mm×50mm×3mm厚の板状ガラス(ガラス粉末を緻密に焼結させたもの)を測定試料として用い、光学研磨した板状ガラスの表裏面に30mmφの電極を貼り付け、電極間に電圧を印加して測定した。測定条件は、25℃、1MHzとした。
【0077】
ブロック粒子としての機能は、次のようにして測定した。まずガラスの密度に相当する質量の各ガラス粉末(粒度150〜450μm、平均粒子径D
50=300μm)にカーボンブラックを5質量%添加した試料を金型により外径20mmのボタン状にプレスした。続いて、得られたボタン試料をアルミナ基板で挟んだ後、900℃に保持された電気炉に投入し、100kg/cm
2のプレス圧力を加えて10分間加熱し、次いで電気炉からボタン試料を取り出し、得られたボタン試料の外観を観察することで評価した。ガラス粉末が多少変形しているが、完全に溶融しておらず、カーボンブラックがガラス中に溶解していないものを「○」とし、ガラス粉末が完全に溶融し、或いはカーボンブラックがガラス中に溶解しているものを「×」として評価した。
【0078】
分相性は、上記ボタン試料を所定形状に加工したものを測定試料とし、TEMで観察することで評価した。ボタン試料の全体が分相しているものを「◎」、ボタン試料の一部が分相しているものを「○」、ボタン試料に分相が確認できなかったものを「×」とした。
【0079】
「封着性能」は、ホットプレス時に端子が浮く不具合の発生率を評価したものであり、発生率fが0%のものを「◎◎」、0%<f≦5%のものを「◎」、5%<f≦30%のものを「○」、30%<fのものを「×」とした。
【0080】
表1〜4から明らかなように、試料No.1〜33は、ガラス転移点、屈伏点、熱膨張係数、誘電率、誘電正接、高周波雑音電波、ブロック粒子としての機能および分相性の評価が良好であった。特に、試料No.1〜33は、誘電率が低いため、端子電極と中心電極間の実効誘電率を低下させることができ、結果として、点火プラグを細径化しても、抵抗体が高周波雑音電波を的確に吸収できると考えられる。一方、試料No.34は、ガラス組成中にZnOを含有していないため、誘電率が高く、分相性の評価が不良であり、またブロック粒子として機能し難いと考えられる。試料No.35は、SiO
2の含有量が少ないため、ブロック粒子として機能し難いと考えられる。試料No.36は、ZnOの含有量が多いため、分相性の評価が不良であり、またブロック粒子として機能し難いと考えられる。試料No.37は、SiO
2の含有量が多いため、ガラス転移点、屈伏点が非常に高かった。試料No.38は、Li
2O+Na
2O+K
2Oの含有量が多いため、ブロック粒子として機能し難いと考えられる。試料No.39は、B
2O
3の含有量が多いため、ブロック粒子として機能し難いと考えられる。試料No.40は、ガラス組成中にZnOを含有していないため、誘電率が高く、分相性の評価が不良であり、またブロック粒子として機能し難いと考えられる。