【実施例1】
【0027】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。本実施例においては、電動工具の例として、作業者が片手でハウジングの中央付近を把持して作業が可能な電動式ドライバ1の例を用いて説明する。以下の図において、同一の部分には同一の符号を付し、繰り返しの説明は省略する。また、本明細書においては、上下、前後左右の方向は各図に示す方向であるとして説明する。
【0028】
図1は本発明の実施例に係る電動式ドライバ1の断面図である。電動式ドライバ1はモータ5と、モータ5を内部に収納し前後方向に延びるハウジング2と、モータ5により駆動される先端工具保持部により構成される。先端工具保持部は、モータ5の回転を所定の減速比で減速する減速機構50と、減速機構50の前方に設けられる図示しないクラッチ機構と、ケース3から前方に延びて先端工具を取り付けて保持するソケット(出力軸)8を含む。本実施例においては、モータ5、減速機構50、クラッチ機構、ソケット8及び先端工具は同軸上に配置される。減速機構50は、モータ5の回転を所定の比率で減速してクラッチ機構に伝達するもので、例えば2段式の遊星歯車を用いた構成である。減速機構50の前方には、先端工具に一定の負荷トルクが加わると減速機構50からソケット8への回転伝達を解除するクラッチ機構が設けられる。クラッチ機構が作動して減速機構50とソケット8の回転伝達が解除される際の負荷トルクの大きさは、ダイヤル22を回転させることによって調節可能である。ダイヤル22はハウジング2に対してソケット8やモータ5の中心軸と同心状で回転可能な部材であり、図示しないクラッチリングを軸方向前後に移動させるための部材である。クラッチリングを軸方向前後に移動させるとクラッチ機構のスプリングが圧縮又は開放され、クラッチ機構が作動するトルク値を可変に設定することができる。
【0029】
モータ5を収容するハウジング2は筒状に形成され、モータ5の回転軸を通る鉛直面で左右に第1のハウジングと第2のハウジングに分割可能に構成される。ハウジング2は、例えばプラスチック等の高分子樹脂で製造できる。
図1には、右側のハウジング2を内部側から見た状態であり、右側のハウジング2には後述するネジを貫通させるための複数のネジ穴31a、32a、33a、34a、35aが形成される。右側のハウジングに対応する左側のハウジングには、複数のネジボス(31b、32b、33b、34b、35b:図示せず)が形成される。このようにハウジング2の部分を左右分割式に構成したので、一方のハウジングに、モータ5、減速機構50、クラッチ機構や後述するスイッチレバー10、後述する正逆切替スイッチ、回路部品及び基板等を配置した後、他方のハウジングをかぶせてねじ止めすることにより、容易に組み立てることができる。
【0030】
ハウジング2のほぼ中央付近には、いわゆるインナーロータ型のブラシレスDC方式のモータ5が収容される。モータ5は、回転軸に永久磁石を有する回転子が取り付けられ、ハウジング2側にステータコア5aにコイルを巻いた固定子が固定される。モータ5の前方側には、回転軸と同軸上に小型の冷却ファン6が設けられる。モータ5が回転することによって冷却ファン6も回転し、ハウジング2の後方に設けられる図示しない空気取入口から外気が吸引され、吸引された空気はインバータ基板27に搭載されるスイッチング素子16やモータ5の周囲を流れることによりこれらを冷却し、冷却ファン6の外周付近のハウジング2に形成された排気口9から外部に排出される。モータ5の回転軸は2つのベアリング19a、19bにより回転可能に保持される。ベアリング19a、19bはハウジング2の側壁から突出して形成される固定リブによってそれぞれ保持される。
【0031】
ハウジング2の後端部には、インバータ基板27及び制御基板28が搭載される。制御基板28にはモータ5の回転を制御するために後述するインバータ回路を駆動するためのマイコン(図示せず)が搭載される。ハウジング2には図示しない電源コードが接続され、外部から例えば50Hz、100Vの交流が供給される。図示していないが、ハウジング2の内部にはさらに供給された交流電力を所定の直流電力に整流するための電源回路が設けられる。整流された直流電力は、FET(電界効果トランジスタ)等のスイッチング素子16により構成されるインバータ回路により、モータ5のコイルの各相に所定の間隔で順次供給される。インバータ回路や、インバータ回路等を制御する制御回路の構成は、ブラシレスDCモータを制御する公知の回路を用いることができる。
【0032】
ハウジング2の上部にはモータ5の回転をオンオフするための起動スイッチが設けられる。起動スイッチは、ハウジング2に対して回動軸12を基準に揺動可能な、即ちシーソー式に形成されたスイッチレバー10と、スイッチレバー10を所定の揺動方向に付勢するスプリング11と、スイッチレバーの10の押圧面(トリッガ部)10aを有する。回動軸12に対してスイッチレバー10の押圧面10aとは反対側の端部10bには、図示していないが永久磁石が取り付けられ、永久磁石と対向する位置にはホール素子が設けられる。作業者がハウジング2から外部に突出するスイッチレバー10の押圧面10aを押下し、スイッチレバー10を微小角度だけ回動させることによって永久磁石がホール素子に近接又は離合するため、これらの動作を検出することによってモータ5が回転し、スイッチレバー10の押圧面10aの押下を解除するとモータ5の回転が停止する。
【0033】
ハウジング2においてモータ5のステータコア5aが占める軸方向(前後方向)の長さ部分をMとすると、スイッチレバー10のハウジング2から外部に突出する部分が占める軸方向の長さ部分はSとなる。このSは完全にMの範囲内になるようにスイッチレバー10が配置される。このようにスイッチレバー10をモータ5とオーバーラップする位置に配置することによって、作業者はスイッチレバー10を押した状態で重量的に重いモータ5付近のハウジング部分を握ることが可能となる。
【0034】
モータ5の近傍には、回転子の回転位置検出用の永久磁石(図示せず)が設けられ、この永久磁石に対向する位置に3つのホール素子(図示せず)が設けられる。ホール素子は、回転子の回転位置を検出するために周方向に所定の間隔毎、例えば角度60°毎に基板上に配置される。ホール素子から得られる位置信号を元にインバータ回路が制御され、モータ5が所定の回転方向に、所定の回転数で回転する。
【0035】
次に、本実施例の電動式ドライバ1の動作について説明する。まず、作業者が、スイッチレバー10と共にハウジング2の中央付近を握ってスイッチレバー10を揺動させると、電源回路からインバータ回路に整流された直流が供給される(電源がオンになった状態)。すると、インバータ回路によって所定の駆動電流がモータ5の所定のコイルに順次供給され、モータ5が回転する。モータ5が回転すると、回転軸から減速機構50に回転力が伝達され、所定の減速比に減速されて、クラッチ機構を介してソケット8に回転力が伝達され、図示しない先端工具を回転させる。これにより、締付部材である図示しないネジ等が被締め付け材に締め込まれる。ネジが締め込まれて、締付けトルクが所定の値に達したときにクラッチ機構が作動し、減速機構50とソケット8の動力伝達が解除されることによって、締め付け部材の締め付けが終了する。
【0036】
本実施例の電動式ドライバ1においては、クラッチ機構が作動して動力伝達が遮断されると、図示しないクラッチ作動検出スイッチがオフとなってモータ5を停止させる。このクラッチ作動検出スイッチは、クラッチ機構の稼働部分(例えば図示しないクラッチスリーブ)に取り付けられるスイッチであり、機械式の接触型スイッチ、又は、永久磁石とホール素子を用いた非接触型のスイッチにより構成される。
【0037】
図2は、本発明の実施例に係る電動式ドライバ1の部分側面図である。
図2では
図1で示した右側ハウジングを長手方向中心軸を中心に180度回転させてハウジングの外側から見た図である(図中の矢印で示す方向のように、上下が
図1と逆になっているので注意されたい)。ハウジング2は作業者が片手で把持するためにハウジング2の略中央付近に把持部2cが形成され、スイッチレバー10の前側の矢印A付近において、筒状のハウジング2の径が一番細くなっており、作業者が指を掛けやすいように構成されている。また、スイッチレバー10が、横から見て三角形状に外部に(上側に)突出するように構成されるので、作業者がスイッチレバー10を握りやすい上、握ったまま快適に作業をすることができる。把持部2cの内部にはモータ5が配置されるため、重いモータ5が把持位置にあることになり重量バランスが良く使い勝手が良い。
【0038】
従来の電動工具101においては、2つのネジ31c、32cと、前方側の減速機構50の固定用ネジ(図示していないが固定用ネジ穴37aに固定される)によって左右のハウジング2を固定していたが、本実施例においては新たに2つのネジ34cと35cを追加した。このように構成することによりモータ5のステータコア5aが位置する範囲内(
図1の範囲M)の両側(第1の位置である上側と、第2の位置である下側)においてハウジング2が2つのネジ34cと35cにより固定されることになるので、ハウジング2の剛性を大幅に高めることができる。特にモータ5のステータコア5aの取り付け付近のハウジング2の剛性の向上が著しいので、モータ5の一層の高出力を図ったとしてもモータ5の慣性によるがたつきを防止できる。
【0039】
図3は電動式ドライバ1の基端部の底面図である。ハウジング2の把持部2cの後方側は、電源基板26、インバータ基板27等の回路基板が収容されるため、ハウジング2の外形が左右方向及び下方向に幅が広くなるように構成される。工場の流れ作業等のラインで電動式ドライバ1を使う場合には、弾力性のあるゴム等で吊り下げておいて、その状態から作業者が電動式ドライバ1を把持して作業をする事が多いので、ハウジング2の後方側であって、電源コード30の近傍にはフック29が設けられる。
【0040】
この作業時の状態を示すのが
図6である。この吊り下げ状態では、電動式ドライバ1の前方側(先端工具70側)が下に、後方側(フック29側)が上に位置する。作業者はゴム60による吊り下げ状態から、ハウジング2の中央付近の把持部2cを片方の手80(通常は利き手)で握って、ゴム等を軽く引っ張った状態で作業する。この際、スイッチレバー10は、作業者が例えば人差し指で握ることによって電動式ドライバ1を握る動作とスイッチをオンにする動作を同時に行うことができる。
【0041】
再び
図3に戻る。ハウジング2のモータ5の下方には、モータ5の回転方向を正転と逆転に切替えるための正逆切替スイッチが設けられる。正逆切替スイッチは切替操作レバー20をモータ5が収容されるハウジング2の中腹部の外周側であって、モータ5の回転軸の方向と、切替操作レバー20の延びる方向がほぼ平行になるように設けられるハウジング2には、下から見て略扇状の窪み部分2fが形成され、切替操作レバー20はその窪み部分2f内で揺動できるように構成した。揺動方向は、
図3の矢印38a又は38bの方向であり、切替操作レバー20の前端側が後端側の軸(ハウジング2の長手方向とは垂直方向に位置づけされる軸)を中心として左右に揺動する。ハウジング2の切替操作レバー20の後方には、切替操作レバー20の操作方向と先端工具の回転方向を示すマーク2g、2hが刻印される。
【0042】
切替操作レバー20は作業中に容易に触れてしまっては作業を阻害することになるので、切替操作レバー20の前方側に、ある程度の長さLを有するストッパ部21を形成した。ストッパ部21は、作業者が電動式ドライバ1を把持している際に手の位置が後方にずれて切替操作レバー20に触れてしまわないように、いわば防護壁の役目を果たす部分である。本実施例においては、このストッパ部21として必要な凸状の空間をネジ35c(
図2参照)を貫通させる空間として利用した。このように切替操作レバー20の前方にストッパ部21を構成することによって、作業者が作業中に誤って切替操作レバー20を操作してしまう恐れがほとんどなくなり、使い勝手が良く誤動作の少ない電動工具を実現することができる。また、ストッパ部21において左右のハウジング2がネジ35cによってしっかり固定されるので、剛性が高いハウジング構成を実現できる。
【0043】
ハウジング2の後方部分の下側には、操作表示部23が設けられる。操作表示部23は、モータ5の出力を設定する操作部と、その出力状態を示す表示部により構成されるもので、スイッチ24と、その横に設けられる3つのLED25で構成される。スイッチ24は、表面に印刷が施された可撓性のシートで覆われたスイッチ機構である。スイッチ24の別の構成例として、エンボス付表面とメンブレンスイッチを一体化し、表面シートの形状でクリック感をだしたスイッチとしても良いし、従来から広く用いられているメカニカルスイッチを用いても良い。
【0044】
本実施例においては、スイッチ24を押す毎にモータ5の回転数を、低速、中速、高速の3段階に変更できる。それによって回転数が、“弱”、“中”、“強”のいずれかになる。設定中のモータ5の回転数はLED25の表示によって示すことができる。例えば、モータ5の回転数が中速の際は“中”のLED25が点灯し、モータ5の回転数が高速の際には“高”のLED25が点灯する。尚、“高”の場合には、ソケット8が約1200RPMで回転し、“中”の場合には約900RPMで回転し、“低”の場合には約600RPMで回転する。
【0045】
図4は、
図1の起動スイッチ部の形状を示す部分断面図である。スイッチレバー10は、ハウジング2の分割面に形成されるスイッチレバー収容スペースに配置されるものであって、スイッチレバー10が横から見て三角形状に外部に(上部に)突出するような形状に構成される。スイッチレバー10を固定すると共に軸心となる回動軸12は、左右のハウジング2に形成された穴にて保持される。スイッチレバー10のハウジング2から外部への突出量はHである。この突出する主要な部分が、図中点線で囲んだ領域である。ここで、スイッチレバー10は、作業者が握ることによって矢印方向に移動し、三角形状の部分がスイッチレバー収容スペースの内部に収容される。この際、スイッチレバー10の先端下部10dがスイッチレバー収容スペースの底面2dに当接する。この先端下部10dと底面2dが当接する位置の後方側にネジ穴34a、ネジボス34bが設けられるが、スイッチレバー10がネジ穴34a、ネジボス34b及びこれらを締め付けるネジ34cに接触しないように、スイッチレバー10の一部に円弧状の切り欠き10cが形成される。切り欠き10cの形状はネジ穴34a及びネジボス34bに沿って円弧状に形成される。
【0046】
図4から理解できるように、ネジボス34bはハウジング2のスイッチレバー収容スペースの底面2dよりも上側に設けられる。従って、図中に点線で示すハウジング2の内壁2eの形状には何ら影響を及ぼさない。さらに、この切り欠き10cは図示からわかるように、ハウジング2のスイッチレバー収容スペースの内側に隠れるように位置するので、外部からスイッチレバー10を見た際にも切り欠き10cを視認することができない。従って、スイッチレバー部にネジ止め箇所を追加したことにより意匠上の美観を損ねることが無い。
【0047】
スプリング11は切り欠き10cの後方側に位置するように配置される。本実施例ではスイッチレバー10の前後長を長めに形成しており、回動軸12と切り欠き10cとの距離は十分確保できる。従って、スプリング11を切り欠き10cの後方側に配置してもスイッチレバー10に対する付勢力は十分に確保でき、スイッチレバー10をスムーズに移動及び復帰させることができる。
【0048】
スイッチレバー10の回動軸12の前方側であって、ハウジング2によって隠される領域(空間)は、いわばデッドスペースともなるべき箇所であるので、本実施例ではデッドスペースともなるべき空間をネジ止めのために利用した。また、ネジ34cを固定するハウジング2の前後方向位置は、モータ5のステータコア5aの範囲内(
図1の矢印Mで示した範囲内)となるので、モータ5の駆動力により反力を直接受ける部分においてハウジング2がネジ止めをされるので確実にモータ5を固定することができる。また、ハウジング2の剛性が向上するので、安定した作業ができる電動工具を実現できる。
【0049】
本実施例においては、スイッチレバー10の可動空間と重複する空間の片方のハウジング2にネジボス34bを設けたが、他方のハウジング2にはネジ穴34aが同様に設けられる。尚、本実施例においては、ネジ穴34a及びネジボス34bをスプリング11の前方側に設けた他が必ずしもこの配置に限られずに、スプリング11を前方側に配置してスプリング11と回動軸12の間にネジ穴34a及びネジボス34bを配置するようにしても良い。さらに、本実施例ではネジ穴34a及びネジボス34bが形成される領域(空間)が、スイッチレバー10の稼働領域(空間)内にほぼ全部分が含まれるように構成した。そのため、ネジ穴34a及びネジボス34b付近のハウジング2の内壁形状には影響を与えることなく、ハウジング2の外径(特に把持部の外径)に影響を及ぼすことがない。しかしながら、必ずしもネジ穴34a及びネジボス34bのすべてがスイッチレバー10の稼働領域(空間)内に含まれる必要はなく、ネジ穴34a及びネジボス34bの一部分が稼働領域(空間)内に含まれるように構成しても本実施例の効果は十分に得られるものである。
【0050】
以上説明したように、本実施例においては、モータ5の収容部分付近ではネジ止めしていなかった従来の電動工具に比べて、モータ5の収容部分付近の両側においてネジにてハウジングを固定するようにしたので、モータ5を安定して固定することができると共に、ハウジング2の剛性を大幅に向上させることができる。また、追加したネジ止め箇所は、スイッチレバー10の設置空間と、モータ回転方向の切替操作レバー20のストッパ部分の空間を利用したので、ネジ止め箇所を増やしたことによってハウジング2やスイッチレバー10、切替操作レバー20の外観上の形状にはほとんど変化がなく、使い勝手の良い電動工具が実現できる。
【0051】
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば、上述の実施例では電動式ドライバの例を用いて説明したが、これだけに限られずに、筒状のハウジングのほぼ中央付近に把持部が形成され、把持部にモータが収容される電動工具であれば、先端工具保持部の構成がクラッチ機構で無く打撃機構で構成されるインパクトドライバや、その他の動力工具であっても良い。また、トリガスイッチ部とストッパ部において固定手段としてネジを用いたが、ネジだけに限られずにボルトとナット、或いは、その他の固定部材にて固定するようにしても良い。さらに、上述の実施例では商用電源で駆動される電動工具の例で説明したが、バッテリパックを用いたコードレス式の電動工具でも良い。