【文献】
P. Andrew Chong et al.,An Expanded WW Domain Recognition Motif Revealed by the Interaction between Smad7 and the E3 Ubiquitin Ligase Smurf2,Journal of Biological Chemistry,2006年 6月23日,Vol.281, No.25,pp.17069-17075
【文献】
神田大輔,SH3とWWドメインによる認識機序,実験医学,2000年,Vol.18 No.18,pp.2553-2560
【文献】
穴井孝浩 他,蛍光性ケモセンサーハイブリッドWWドメインによるキナーゼ反応のモニタリング,日本化学会講演予稿集,2007年,Vol.87, No.2,Page. 1300
【文献】
原秀太 他,リボソームディスプレイ法を利用した低分子化合物結合ペプチドの新規選択と機能評価,高分子学会予稿集(CD−ROM),2009年 5月12日,Vol.58, No.1 Disk1,Page.2Pd130
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0014】
(用語の定義)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
【0015】
本発明において「インビトロ」でのタンパク質の翻訳には、無細胞蛋白質合成系を用いることができる。本明細書において使用される用語「無細胞蛋白質合成系」とは、細胞を処理することによって自律複製能を失った細胞由来の成分であって、蛋白質の合成が可能な成分をいう。
【0016】
本明細書において「単離された」生物学的因子(例えば、核酸または蛋白質など)とは、その生物学的因子が天然に存在する生物体の細胞内の他の生物学的因子(例えば、核酸である場合、核酸以外の因子および目的とする核酸以外の核酸配列を含む核酸;蛋白質である場合、蛋白質以外の因子および目的とする蛋白質以外のアミノ酸配列を含む蛋白質など)から実質的に分離または精製されたものをいう。「単離された」核酸および蛋白質には、標準的な精製方法によって精製された核酸および蛋白質が含まれる。したがって、単離された核酸および蛋白質は、化学的に合成した核酸および蛋白質を包含する。
【0017】
(遺伝子、蛋白質分子、核酸分子などの改変)
本明細書に記載される核酸配列は、DNA配列で記載される場合には、対応するRNA配列も包含される。また、RNA配列で記載される場合には、対応するDNA配列も包含される。
【0018】
本明細書において、「改変体」とは、もとのポリペプチドまたはポリヌクレオチドなどの物質に対して、一部が変更されているものをいう。そのような改変体としては、置換改変体、付加改変体、欠失改変体、短縮(truncated)改変体、対立遺伝子変異体などが挙げられる。そのような改変体としては、基準となる核酸分子またはポリペプチドに対して、1または数個の置換、付加および/または欠失、あるいは1つ以上の置換、付加および/または欠失を含むものが挙げられるがそれらに限定されない。
【0019】
本明細書において、用語「タンパク質」と「ポリペプチド」とは互換可能に使用される。
【0020】
本明細書において使用する場合、「タグ」とは、標的タンパク質(標的ポリペプチド)内に導入され、「リガンド」との特異的結合によって標的タンパク質(標的ポリペプチド)と「リガンド」との複合体を形成する部分をいう。タグは、標的タンパク質のアミノ末端、カルボキシル末端、あるいは、末端に挟まれた中央部分のいずれかに導入され得る。
【0021】
本明細書において、「リガンド」とは、標的タンパク質・ポリペプチドに結合した「タグ」に特異的に結合する分子をいう。。好ましくは、「リガンド」には、標識部分が結合しているので、この複合体形成によって、標的タンパク質・ポリペプチドに標識部分が結合した複合体が形成される。
【0022】
本明細書において使用する場合、「変異タグペプチド」とは、出発材料である「タグペプチド」のアミノ酸配列中で、1個以上のアミノ酸残基が欠失・置換および/または付加されたアミノ酸配列からなるペプチドをいう。
【0023】
本明細書において、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドの「置換、付加または欠失」とは、もとのポリペプチドまたはポリヌクレオチドに対して、それぞれアミノ酸もしくはその代替物、またはヌクレオチドもしくはその代替物が、置き換わること、付け加わることまたは取り除かれることをいう。このような置換、付加または欠失の技術は、当該分野において周知である。
【0024】
出発材料である「タグペプチド」から「変異タグペプチド」を調製する方法としては、例えば、「タグペプチド」をコードする核酸配列に、1個以上の変異を導入した変異核酸配列を調製し、得られた変異核酸配列がコードするペプチドを調製する方法が挙げられるが、これに限定されない。
【0025】
変異核酸配列の調製法としては、変異剤によるランダムな変異導入法、および、PCRを用いる方法が挙げられるが、これに限定されない。PCRによる変異導入法としては、代表的には、プルーフリード機能を欠失したポリメラーゼを、特定のヌクレオチドを少なくした条件で用いる方法(error−prone PCR)のような周知の手法が挙げられるが、これに限定されない。
【0026】
本明細書において「保存的(に改変された)改変体」は、アミノ酸配列および核酸配列の両方に適用される。特定の核酸配列に関して、保存的に改変された改変体とは、同一のまたは本質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸をいい、核酸がアミノ酸配列をコードしない場合には、本質的に同一な配列をいう。遺伝コードの縮重のため、多数の機能的に同一な核酸が任意の所定の蛋白質をコードする。例えば、コドンGCA、GCC、GCG、およびGCUはすべて、アミノ酸アラニンをコードする。したがって、アラニンがコドンにより特定される全ての位置で、そのコドンは、コードされたポリペプチドを変更することなく、記載された対応するコドンの任意のものに変更され得る。このような核酸の変動は、保存的に改変された変異の1つの種である「サイレント改変(変異)」である。ポリペプチドをコードする本明細書中のすべての核酸配列はまた、その核酸の可能なすべてのサイレント変異を記載する。当該分野において、核酸中の各コドン(通常メチオニンのための唯一のコドンであるAUG、および通常トリプトファンのための唯一のコドンであるTGGを除く)が、機能的に同一な分子を産生するために改変され得ることが理解される。したがって、ポリペプチドをコードする核酸の各サイレント変異は、記載された各配列において暗黙に含まれる。好ましくは、そのような改変は、ポリペプチドの高次構造に多大な影響を与えるアミノ酸であるシステインの置換を回避するようになされ得る。このような塩基配列の改変法としては、制限酵素などによる切断、DNAポリメラーゼ、Klenowフラグメント、DNAリガーゼなどによる処理等による連結等の処理、合成オリゴヌクレオチドなどを用いた部位特異的塩基置換法(特定部位指向突然変異法;Mark Zoller and Michael Smith,Methods in Enzymology,100,468−500(1983))が挙げられるが、この他にも通常分子生物学の分野で用いられる方法によって改変を行うこともできる。
【0027】
本明細書中において、機能的に等価なポリペプチドを作製するために、アミノ酸の置換のほかに、アミノ酸の付加、欠失、または修飾もまた行うことができる。アミノ酸の置換とは、もとのペプチドを1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸で置換することをいう。アミノ酸の付加とは、もとのペプチド鎖に1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸を付加することをいう。アミノ酸の欠失とは、もとのペプチドから1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸を欠失させることをいう。アミノ酸修飾は、アミド化、カルボキシル化、硫酸化、ハロゲン化、短縮化、脂質化(lipidation)、ホスホリル化、アルキル化、グリコシル化、リン酸化、水酸化、アシル化(例えば、アセチル化)などを含むが、これらに限定されない。置換、または付加されるアミノ酸は、天然のアミノ酸であってもよく、非天然のアミノ酸、またはアミノ酸アナログでもよい。天然のアミノ酸が好ましい。
【0028】
本明細書において使用される用語「ペプチドアナログ」または「ペプチド誘導体」とは、ペプチドとは異なる化合物であるが、ペプチドと少なくとも1つの化学的機能または生物学的機能が等価であるものをいう。したがって、ペプチドアナログには、もとのペプチドに対して、1つ以上のアミノ酸アナログまたはアミノ酸誘導体が付加または置換されているものが含まれる。ペプチドアナログは、その機能が、もとのペプチドの機能(例えば、pKa値が類似していること、官能基が類似していること、他の分子との結合様式が類似していること、水溶性が類似していることなど)と実質的に同様であるように、このような付加または置換がされている。そのようなペプチドアナログは、当該分野において周知の技術を用いて作製することができる。したがって、ペプチドアナログは、アミノ酸アナログを含むポリマーであり得る。
【0029】
本発明のポリペプチドがポリマーに結合している、化学修飾されたポリペプチド組成物は、本発明の範囲に包含される。このポリマーは、水溶性であり得、水溶性環境(例えば、生理学的環境)でこの蛋白質の沈澱を防止し得る。適切な水性ポリマーは、例えば、以下からなる群より選択され得る:ポリエチレングリコール(PEG)、モノメトキシポリエチレングリコール、デキストラン、セルロース、または他の炭水化物に基づくポリマー、ポリ(N−ビニルピロリドン)ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールホモポリマー、ポリプロピレンオキシド/エチレンオキシドコポリマー、ポリオキシエチル化ポリオール(例えば、グリセロール)およびポリビニルアルコール。この選択されたポリマーは、通常は改変され、単一の反応性基(例えば、アシル化のための活性エステルまたはアルキル化のためのアルデヒド)を有し、その結果、重合度は制御され得る。ポリマーは、任意の分子量であり得、そして、このポリマーは分枝状でも分枝状でなくてもよく、そしてこのようなポリマーの混合物はまた、使用され得る。この化学修飾された本発明のポリマーは、治療用途に決定付けられる場合、薬学的に受容可能なポリマーが使用するために選択される。
【0030】
このポリマーがアシル化反応によって改変される場合、このポリマーは、単一の反応性エステル基を有するべきである。あるいは、このポリマーが還元アルキル化によって改変される場合、このポリマーは単一の反応性アルデヒド基を有するべきである。好ましい反応性アルデヒドは、ポリエチレングリコール、プロピオンアルデヒド(このプロピオンアルデヒドは、水溶性である)または、そのモノC1〜C10の、アルコキシ誘導体もしくはアリールオキシ誘導体である(例えば、米国特許第5,252,714号(これは、本明細書中で全体が参考として援用される)を参照のこと)。
【0031】
本発明において、「ポリヌクレオチドアナログ」、「核酸アナログ」は、ポリヌクレオチドまたは核酸とは異なる化合物であるが、ポリヌクレオチドまたは核酸と少なくとも1つの化学的機能または生物学的機能が等価であるものをいう。したがって、ポリヌクレオチドアナログまたは核酸アナログには、もとのペプチドに対して、1つ以上のヌクレオチドアナログまたはヌクレオチド誘導体が付加または置換されているものが含まれる。
【0032】
本明細書において使用される核酸分子は、発現されるポリペプチドが天然型のポリペプチドと実質的に同一の活性を有する限り、上述のようにその核酸の配列の一部が欠失または他の塩基により置換されていてもよく、あるいは他の核酸配列が一部挿入されていてもよい。あるいは、5’末端および/または3’末端に他の核酸が結合していてもよい。また、ポリペプチドをコードする遺伝子をストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、そのポリペプチドと実質的に同一の機能を有するポリペプチドをコードする核酸分子でもよい。このような遺伝子は、当該分野において公知であり、本発明において利用することができる。
【0033】
(変異型ポリペプチドの作製方法)
本発明のポリペプチドのアミノ酸の欠失、置換もしくは付加(融合を含む)は、周知技術である部位特異的変異誘発法により実施することができる。かかる1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加は、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)、Current Protocols in Molecular Biology,Supplement 1〜38,JohnWiley & Sons(1987−1997)、Nucleic Acids Research,10,6487(1982)、Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,79,6409(1982)、Gene,34,315(1985)、Nucleic Acids Research,13,4431(1985)、Proc.Natl.Acad.Sci USA,82,488(1985)、Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,81,5662(1984)、Science,224,1431(1984)、PCT WO85/00817(1985)、Nature,316,601(1985)等に記載の方法に準じて調製することができる。
【0034】
(合成化学)
本明細書におけるペプチド、化学物質、低分子などの因子は、合成化学技術を用いて合成することができる。そのような合成化学技術は、当該分野において周知の技術を用いることができる。そのような周知技術としては、例えば、 Fiesers’ Reagents for OrganicSynthesis (Fieser’s Reagents forOrganic Synthesis) Tse−Lok Ho,John Wiley & Sons Inc (2002)などを参照することができる。
【0035】
(従来法PUREシステムによる無細胞蛋白質合成系の調製)
本発明による改善された無細胞蛋白質合成系は、従来の無細胞蛋白質合成系に特定の蛋白質を追加および/または除去することによって調製可能である。従来の無細胞蛋白質合成系の調製法は、以下のとおりである。
【0036】
PUREシステムは、例えば、特開2003−102495に記載の方法によって調製することが可能である。
【0037】
(1:大腸菌のリボソーム調製とS100の抽出)
増殖期中間のE.coli A19株の細胞300 gをアルミナ摩砕する。摩砕した細胞を緩衝液A(pH 7.6の10mM HEPES-KOH(ヘペス-水酸化カリウム)、10 mMMgCl
2(塩 化マグネシウム)、50 mM KCl(塩化カリウム)、1 mM DTT(ジチオトレイトール))に懸濁し、アルミナと細胞破砕物を遠心分離(30,000g、4℃で1時間)して除く。得られる上清画分に終濃度が1 μg/mlになるようにDNase(デオキシリボンクレアーゼ)を加えた後、4℃で4時間遠心(100,000g)する。得られる上清画分をS100とする。また、ペレットは緩衝液Aに懸濁しリボソームの粗抽出液とする。このリボソーム粗抽出液を6から36%の ショ糖密度勾配にかけ強く結合した(tight-coupled)リボソーム画分を得る。このtight-coupledリボソーム画分を100,000g回転で遠心分離し、そのペレットをリボソーム緩衝液(pH 7.6の20 mMHEPES-KOH、6 mM MgOAc、30 mM NH
4Cl、7mM β-mercaptoethanol(メルカプトエタノール))に懸濁しtight-coupledリボソームを調製する。
【0038】
(2:開始因子、延長因子、終結因子の高発現用プラスミドの構築)
大腸菌A19より抽出したゲノムを鋳型としてEF-Tuの遺伝子をコードする遺伝子配列をPCR法により増幅し、5’端にEcoRI、3’端にBglIIが認識する配列をもったDNA断片を得る。得られるDNA断片をあらかじめEcoRI及びBglIIで切断したプラスミドpQE60(QIAGEN社製)に挿入し、C末端にHistag(ヒスタグ)が融合したEF-Tuを高発現させるためのベクターを得る。得られるベクターでE.coli BL21/pREP4を形質転換する。その他延長因子及び開始因子、終結因子を高発現するベクターも同様の手法で構築する。
【0039】
(3:アミノアシルtRNAシンテターゼ(ARS)、メチオニンtRNAフォルミラーゼ(MTF)の高発現用プラスミドの構築)
大腸菌A19より抽出したゲノムを鋳型としてアラニルtRNAシンテターゼの遺伝子をコードする遺伝子配列をPCR法により増幅し、5’端にSphI、3’端にHindIIIが認識する配列をもったDNA断片を得る。得られるDNA断片をあらかじめSphI及びHindIIIで切断したプラスミドpQE30(QIAGEN社製)に挿入し、N末端にHis tag(ヒスタグ)が融合したアラニルtRNAシンセターゼを高発現させるためのベクターを得る。得られるベクターでE.coliBL21/pREP4を形質転換する。その他のARS及びMTFを高発現するベクターも同様の手法で構築する。表1に使用したベクター、制限酵素、his tag の位置を示す。なお、表1におけるプラスミドのpQEシリーズはE.coliBL21/pREP4の、pETシリーズはE.coli BL21/DE3の形質転換に用いられる。
【0040】
(4:T7RNAポリメラーゼの高発現用プラスミドの構築)
T7 ファージより抽出したゲノムを鋳型としてT7RNAポリメラーゼの遺伝子をコードする遺伝子配列をPCR法により増幅し、5’端にBamHI、3’端にPstIが認識する配列をもったDNA断片を得る。得られるDNA断片をあらかじめBamHI及びPstIで切断したプラスミドpQE30(QIAGEN 社製)に挿入し、N末端にHistag(ヒスタグ)が融合したT7RNAポリメラーゼを高発現させるためのベクターを得る。得られるベクターでE.coli BL21/pREP4を形質転換する。
【0041】
(5:ヌクレオシドジフォスフェートキナーゼ(NDK) 及び他の酵素類の高発現用プラスミドの構築)
大腸菌A19より抽出したゲノムを鋳型としてNDKの遺伝子をコードする遺伝子配列をPCR法により増幅し、5’端にBamHI、3’端にHindIIIが認識する配列をもったDNA断片を得る。得られるDNA断片をあらかじめBamHI及びHindIIIで切断したプラスミドpQE30(QIAGEN)に 挿入し、N末端にHistag(ヒスタグ)が融合したNDKを高発現させるためのベクターを得る。得られるベクターでE.coli BL21/pREP4を形質転換する。なお、21頁の(4−1)及び(4−2)で例示した、NDK以外のの酵素類に対するプラスミドも、所望により、同様にして構築することができる。
【0042】
(6:開始因子、延長因子、終結因子の高発現と精製)
His tagが付されたEF-Tu(EF-Tu
*)を高発現させるために、上記「2:開始因子、延長因子、終結因子の高発現用プラスミドの構築」で得られる形質転換体BL21/pREP4細胞を6リットルのLB培地で細胞懸濁度OD
660が0.7になるまで培養する。この培養液に終濃度が0.1 mMになるようにIPTG(イソプロピル−1−チオ−β−D−ガラクトシド; isopropyl-1-thio-β-D-galactoside)を添加し、さらに37℃で4時間培養する。この培養液を遠心分離し、得られる細胞を懸濁緩衝液(pH 7.6の50 mM HEPES-KOH、1 M NH
4Cl、10 mM MgCl
2、0.3mg/mlリゾチーム、0.1 % Triton X-100、0.2 mM PMSF (フェニルメタンスルホニルフルオリド;phenylmethanesulfonyl)、6 mM β-mercaptoethanol)に懸濁する。この懸濁液を超音波処理し、細胞を破壊する。超音波処理した懸濁液を4℃で1時間遠心分離(100,000 g)し、細胞破砕物を除く。得られる上清画分をNi
2+でプレチャージされた10 mlのHi-Trap chelatingカラム(ファルマシア社製)に供し、10mMのimidazole(イミダゾール)を含む100 mlのHT緩衝液(pH 7.6の50mM HEPES-KOH、1 M NH
4Cl、10mM MgCl
2)で洗浄する。HT緩衝液に含まれるimidazole濃度を10から400 mMまで直線的に勾配をつけて、EF-Tu
*をカラムから溶出する。精製されたEF-Tu
*を含む画分を合わせて、Stock緩衝液(pH7.6の50 mM HEPES-KOH、100 mM KCl、10 mM MgCl
2、30 % glycerol(グリセロール))で透析する。精製したEF-Tu
*の濃度はBio-Rad社のProteinAssay Kitを用いてBSA(ウシ血清アルブミン)を基準に作成した標準曲線から算出する。精製したEF-Tu
*は1mlずつ小分けして液体窒素で急冷凍した後−80℃で保存する。その他のHistagが付された延長因子及び開始因子、終結因子も同様の手法で精製を行う。His tagが付された各因子の12%SDS-PAGEによる分離(クマシーブリリアントブルーで染色)を行う。
【0043】
得られる、Histagが付された開始因子IF1、IF2及びIF3の活性と至適濃度をDHFR mRNA インビトロ翻訳系(後記「17:終結因子とリボソーム再生因子の活性」)を用いて測定する。即ち、Histagが付された開始因子の活性は、IF1
*、IF2
*及びIF3
*が共に存在する系をポジティブコントロールとし、各開始因子を欠如させた系で30分間の培養を行い、生成したDHFRの相対的活性で比較する。ポジティブコントロールを100とした時、何れの因子が欠如してもDHFRの生成は2分の1以下であり、IF1
*、IF2
*及びIF3
*が何れも活性を有することを確認する。また、Histagが付された開始因子の至適濃度は、他の条件を一定にしたインビトロ の系で、各開始因子の濃度を変えて翻訳を行い、生成したDHFRの相対活性で測定する。
【0044】
(7:Histagが付されたARS及びMTFの高発現と精製)
His tagが付されたSertRNAシンテターゼ(以下において、His tagが付されていることを、「
*」で示す)を高発現させるための形質転換体BL21/DE3細胞を2リットルのLB培地で細胞懸濁度OD
660が0.7になるまで培養する。この培養液に終濃度が0.1 mMになるようにIPTG(イソプロピル−1−チオ−β−D−ガラクトシド)を添加し、さらに37℃で4時間培養する。この培養液を遠心分離し、得られる細胞を懸濁緩衝液(pH7.6の50 mM HEPES-KOH、1 M NH
4Cl、10 mM MgCl
2、0.3 mg/ml リゾチーム、0.1% Triton X-100、0.2 mM PMSF (フェニルメタンスルホニルフルオリド; phenylmethanesulfonyl)、6 mM β-mercaptoethanol)に懸濁する。この懸濁液を超音波処理し、細胞を破壊する。超音波処理した懸濁液を4℃で1時間遠心分離(100,000 g)し、細胞破砕物を除く。得られる上清画分をNi
2+でプレチャージされた10 mlのHi-Trap chelatingカラム(ファルマシア社製)に供し、10mMのimidazole(イミダゾール)を含む100 mlのHT緩衝液(pH 7.6の50 mM HEPES-KOH、1 M NH
4Cl、10mM MgCl
2)で洗浄する。HT緩衝液に含まれるimidazole濃度を10から400 mMまで直線的に勾配をつけて、Ser tRNAシンセターゼ
*をカラムから溶出する。精製されたSertRNAシンセターゼ
*を含む画分を合わせて、Stock緩衝液(pH 7.6の50 mMHEPES-KOH、100 mM KCl、10mM MgCl
2、30 % glycerol(グリセロール))で透析する。精製したSer tRNAシンセターゼ
*の濃度はBio-Rad社のProteinAssay Kitを用いてBSA(ウシ血清アルブミン)を基準に作成した標準曲線から算出する。精製したSer tRNAシンセターゼ
*は1mlずつ小分けして液体窒素で急冷凍した後−80℃で保存する。
【0045】
その他のARS
*、MTF
*も同様の手法で高発現させ、精製を行う。12%SDS-PAGE により分離されクマシーブリリアントブルーで染色する。His−tagが付された各因子及び酵素が高純度で得られることがわかる。
【0046】
(8:His−tagが付されたT7RNAポリメラーゼの高発現と精製)
His−tagが付されたT7RNAポリメラーゼ(以下において、Histagが付されていることを、「
*」で示す)を高発現させるための形質転換体BL21/pREP4細胞を6リットルのLB培地で細胞懸濁度OD
660が0.7になるまで培養する。この培養液に終濃度が0.1 mMになるようにIPTG(イソプロピル−1−チオ−β−D−ガラクトシド)を添加し、さらに37℃で4時間培養する。この培養液を遠心分離し、得られる細胞を懸濁緩衝液(pH 7.6の50 mM HEPES-KOH、1M NH
4Cl、10mM MgCl
2、0.3mg/ml リゾチーム、0.1 % Triton X-100、0.2 mM PMSF (フェニルメタンスルホニルフルオリド;phenylmethanesulfonyl)、6 mM β-mercaptoethanol)に懸濁する。この懸濁液を超音波処理し、細胞を破壊する。超音波処理した懸濁液を4℃で1時間遠心分離(100,000 g)し、細胞破砕物を除く。得られる上清画分をNi
2+でプレチャージされた10 mlのHi-Trap chelatingカラム(ファルマシア社製)に供し、10mMのimidazole(イミダゾール)を含む100 mlのHT緩衝液(pH 7.6の50 mM HEPES-KOH、1 M NH
4Cl、10mMMgCl
2)で洗浄する。HT緩衝液に含まれるimidazole濃度を10から400 mMまで直線的に勾配をつけて、T7RNAポリメラーゼ
*をカラムから溶出する。精製されたT7RNAポリメラーゼ
*を含む画分を合わせて、Stock緩衝液(pH7.6の50 mM HEPES-KOH、100 mM KCl、10 mM MgCl
2、30 % glycerol(グリセロール))で透析する。精製したT7RNAポリメラーゼ
*の濃度はBio-Rad社のProteinAssayKitを用いてBSA(ウシ血清アルブミン)を基準に作成した標準曲線から算出する。精製したT7RNAポリメラーゼ
*は1mlずつ小分けして液体窒素で急冷凍した後−80℃で保存する。
【0047】
(9:Histagが付されたNDK、その他酵素類の高発現と精製)
His tagが付されたNDK(以下において、Histagが付されていることを、「
*」で示す)を高発現させるための形質転換体BL21/pREP4細胞を2リットルのLB培地で細胞懸濁度OD
660が0.7になるまで培養する。この培養液に終濃度が0.1 mMになるようにIPTG(イソプロピル−1−チオ−β−D−ガラクトシド; isopropyl-1-thio-β-D-galactoside)を添加し、さらに37℃で4時間培養する。この培養液を遠心分離し、得られる細胞を懸濁緩衝液(pH 7.6の50 mM HEPES-KOH、1 M NH
4Cl、10 mM MgCl
2、0.3mg/ml リゾチーム、0.1 % Triton X-100、0.2 mM PMSF (フェニルメタンスルホニルフルオリド;phenylmethanesulfonyl)、6 mM β-mercaptoethanol)に懸濁する。この懸濁液を超音波処理し、細胞を破壊する。超音波処理した懸濁液を4℃で1時間遠心分離(100,000 g)し、細胞破砕物を除く。得られる上清画分をNi
2+でプレチャージされた10 mlのHi-Trapchelatingカラム(ファルマシア社製)に供し、10mMのimidazole(イミダゾール)を含む100 mlのHT緩衝液(pH 7.6の50 mM HEPES-KOH、1 M NH
4Cl、10mM MgCl
2)で洗浄する。HT緩衝液に含まれるimidazole濃度を10から400 mMまで直線的に勾配をつけて、NDK
*をカラムから溶出する。精製されたNDK
*を含む画分を合わせて、Stock緩衝液(pH7.6の50 mM HEPES-KOH、100 mM KCl、10 mM MgCl
2、30% glycerol(グリセロール))で透析する。精製したNDK
*の濃度はBio-Rad社のProteinAssay Kitを用いてBSA(ウシ血清アルブミン)を基準に作成した標準曲線から算出する。精製したNDK
*は1mlずつ小分けして液体窒素で急冷凍した後−80℃で保存する。21頁(4−1)及び(4−2)に例示した、その他の酵素類についても、所望により、Histagが付された形の酵素類として同様にして得られる。
【0048】
(10:DHFRの遺伝子構築とmRNAの調製)
E.coli 由来のDHFR(dihydrofolatereductase;ジヒドロ葉酸レダクターゼ)遺伝子の5'末端にHindIII、3'末端にBam HI配列を加えPCRで増幅する。この増幅された遺伝子は、リボソーム結合部の上流に、バクテリオファージT7gene 10由来のエプシロン配列(epsilon sequence)及びそれに引き続くSD(Shine-Dalgarno;シャイン−ダルガノ)配列を有するT7プロモーターを含んでいた。このDNA断片をプラスミドベクターpUC18(宝酒造)に組み込んだ。このプラスミドをSmaIで処理した後、His tagが付されたT7RNAポリメラーゼを用いたランオフ転写(run-off transcription)や転写・翻訳型(transcription/translation)インビトロ翻訳反応に鋳型として用いる。インビトロの転写反応42℃で3時間行う。この反応液1ml中の組成はpH 7.8のHEPES-KOH 40M、20 mM MgCl
2、1 mM spermidine(スペリミジン)、5 mMDTT、各2 mM のATP、UTP、CTP及びGTP、20 μgのSma Iで処理された鋳型プラスミド、50 μg BSA、1.78 unitsPPiase(pyrophosphatase;ピロホスファターゼ)、10 μgの精製され、His tagが付されたT7 RNAポリメラーゼである。この反応を終了させるために終濃度が50mMになるようにEDTA(ethylenedinitro‐lotetraacetic acid;エチレンジニトロロ四酢酸)を加える。得られるmRNAはフェノール/クロロホルム抽出を行った後、エタノールで沈殿させ、RNA精製キット(QIAGEN社製)を用いてメーカーの推奨する方法に従って精製を行う。
【0049】
(11:MFLmRNAの構築)
DNA 配列AUGUUCUUGUAA(配列番号4)(翻訳するとfMet-Phe-Leu-Stop;ホルミルメチオニン−フェニルアラニン−ロイシン−停止コドンになる。以下、MFLと略記する)を、MFLmRNAの鋳型とするために以下に示すような方法で構築する。オリゴヌクレオチドA;5'-TAtgttcttgtaac(配列番号5)とオリゴヌクレオチドB;5'-TCGAgttacaagaaca(配列番号6)をアニールさせNde I配列とXho I配列を含む二本鎖DNAを構築し、T7ターミネーターを含むプラスミドベクターpET29a(Novagen)のNdeIとXho I部位へ連結する。得られるプラスミドは上述のDHFR遺伝子を同様に転写させる。
【0050】
(12:Histagが付されたアミノアシルtRNAシンテターゼ活性)
His tagが付されたARS(アミノアシルtRNAシンテターゼ)活性測定を、以下に示す通りに行う。反応溶液50μlはpolymix緩衝液(翻訳実験の項を参照のこと)に1 mM ATP、2.8 A
260 unit tRNAmix(Boehringer社製)、各50μMのラベルされたアミノ酸、そして精製された各His tagが付されたARSを含んだものを用いる。反応は37℃で行い、放射性アミノアシルtRNAを3MMろ紙に沈殿させ5%のトリクロロ酢酸で洗浄した後、放射能を測定する。活性1 unitは、37℃で1分間に1pmolのアミノアシルtRNAの形成を触媒した酵素量で表する。
【0051】
(13:Histagが付されたメチオニルtRNAトランスホルミラーゼ活性)
His tagが付されたMTF(メチオニルtRNAトランスホルミラーゼ/以下において、Histagが付されていることを、「
*」で示す)活性は以下に示す通りに行う。反応溶液50 μlはpolymix緩衝液(翻訳実験の項を参照のこと)に1mM ATP、2.8 A
260 unit tRNAmix(Boehringer)、各50 μMの[
3H]ラベルされたメチオニン、0.5μg 10-formyl-5,6,7,8,-tetrahydroforic acid(テトラヒドロ葉酸)、3000 units MetRS(メチオニルtRNAシンテターゼ)、そしてMTF
*を含んだものを用いる。反応は37℃で行い、ホルミル化されていないメチオニルtRNAは緩衝液(0.175M CuSO
4、pH 7.5の0.5 M Tris-HCl)中で30℃、8分間脱アシル化させた。放射性ホルミルメチオニルtRNAを3MMろ紙に沈殿させ5%のトリクロロ酢酸で洗浄した後、放射能を測定する。活性1 unitは1分間に1 pmolのホルミルメチオニルtRNAの形成を触媒した酵素量で表する。
【0052】
(14:翻訳実験(一般的方法))
翻訳用の混合液(50μl)はJelencら(1979)やWagnerら(1982)の用いたPolymix緩衝液を改良したもので調製する。Polymix緩衝液の組成は5 mMmagnesium acetate(酢 酸マグネシウム)、pH 7.3の5 mM potassium phosphate(リン酸カリウム)、95 mMpotassium glutamate(グルタミン酸カリウム)、5 mM ammonium chloride(塩化アンモニウム)、0.5 mM calciumchloride(塩化カルシウム)、1 mM spermidine、8 mM putrescine(プトレッシン)、1 mM DTTである。反応液の組成は1mM ATP、1 mM GTP、10 mM creatine phosphate(クレアチンリン酸)、2.8 A
260 unittRNA mix、0.5 μg 10-formyl-5,6,7,8,-tetrahydrophilic acid、0.1 mM各アミノ酸、因子混合物(後述)である。転写・翻訳型で反応を行わせる場合には、上記の反応液に1mM NTPと4 mM magnesium acetateを添加する。因子・酵素混合物の組成は12 pmolリボソーム、1 μg IF1
*、2μg IF2
*、0.75 μg IF3
*、1 μg EF-G
*、2 μg EF-T
*u、1μg EF-Ts
*、0.5 μg RF1
*、0.5μg RF3
*、0.5 μg RRF
*、30-300units各ARS
*あるいはMTF
*、0.2 μg creatine kinase (CK;クレアチンキナーゼ)、0.15μg myokinase(MK;ミオキナーゼ)、0.054μg nucleoside diphosphate kinase
*(NDK;ヌクレオシド二リン酸キナーゼ)である。転写・翻訳型で反応を行う場合には、上記の反応液に1.78units PPiaseと0.5 μg T7 RNAポリメラーゼ
*を添加する。以上の因子、酵素の表示において「
*」は、それ等がHis-tagが付されたものであることを示す。反応液を37℃で5分間インキュベートし、その後、DNAやRNAなどの鋳型を加え、反応を 開始する。翻訳の反応は37℃で行なわれる。反応後、リボソームは高分子量であるのでそれをまず100kDa以下の物質を通す限外ろ過膜に通し、除去する。その後限外ろ過膜を通った成分をNiカラムに通し、ヒスタグヒュ-ジョンタンパク質の除去を行う。Niカラムを素通りする成分は高純度の翻訳産物であり、SDS-PAGEで1本のバンドを示す。なお、以下の実施例において、比較のために使用するS30システムはPromega社から購入したものを使用 し、メーカーの推奨する方法に従って翻訳を行う。
【0053】
(15:種々の蛋白質の発現)
His−tagが付された各反応系構成成分の活性を確認した後、これ等酵素及びHis−tagが付されたT7RNAポリメレースを用いて、「14:翻訳実験(一般的方法)」記載の通りにインビトロ 蛋白合成系を構築する。この合成系により、大腸菌のDHFR、λリゾチーム(λlysozyme)、グリーン蛍光蛋白(GFP)、グルタチオントランスフェラーゼ(GST)及びT7 gene10蛋白の全長ポリペプチドを合成し、夫々の生成量を測定する。この合成系が翻訳に必要な総ての成分を含んでいることが 明らかである。
【0054】
(16:Poly(U) − poly (Phe)合成)
Poly (U)− poly (Phe)のインビトロ反応系における合成は以下に示した通りに行う。反応液は1 mM ATP、1mM GTP、10 mM creatinephosphate、2.8 A
260 units tRNAmix、1 mM [
14C]でラベルされたフェニルアラニン、因子混合物を含むpolymix緩衝液を用いる。因子混合物の組成は12pmolリボソーム、1 μg EF-G
*、2μg EF-Tu
*、1μg EF-Ts
*、60units PheRS
*、0.2μg creatine kinase (CK)、0.15μg myokinase (MK)、0.054μgnucleoside diphosphate kinase
* (NDK) である。なお、因子、酵素の表示において「
*」は、それ等がHis-tagの付されたものであることを示す。反応液を37℃で5分間インキュベートした後、5μgのpoly (U) を加え、反応を開始する。Poly(Phe)を経時的に8 μlずつサンプリングし、10 %のトリクロロ酢酸で3MMろ紙上に沈殿させた。アミノアシルtRNAを85℃で脱アシル化させ10 %トリクロロ酢酸で洗浄し、放射能を測定し、目的物の生成を確認する。
【0055】
更に、上記反応系によるpoly (Phe)の生成を、S100抽出物を用いた翻訳系によるpoly (Phe)の生成と比較する。S100抽出物を用いた翻訳系では反応が20分後に停止したが、このPUREシステムの系では40分経過後においてなお反応が進行する。
【0056】
(17:終結因子とリボソーム再生因子の活性)
終結因子(RF1
*、RF3
*とRRF
*/「
*」は、Histagが付されていることを示す)の活性は、改良を加えたPavlovら(1997)の方法に基づき測定する。翻訳反応液(50μl)は翻訳実験に用いたpolymix緩衝液を元に調製する。反応液の組成は1mMATP、1 mM GTP、2.8 A
260 unit tRNA mix、1 mM フェニルアラニン及びロイシン、[
35S]放射性メチオニンを用いて調製した50pmolのformylmethionyl-tRNA、His tagが付された因子・酵素混合物(後述)である。因子・酵素混合物の組成は12 pmol リボソーム、1 μg IF1
*、2μg IF2
*、0.75 μg IF3
*、1 μg EF-G
*、2 μg EF-Tu
*、1μg EF-Ts
*、0.5 μg RF1
*、0.5 μg RF3
*、0.5 μg RRF
*、50unitのPheRS
*と300 unitのLeuRS
*である。この因子・酵素混合物からRF1
*、RF3
*、RRF
*を目的に応じてそれぞれ除いた反応液を用意し反応を行う。反応液を37℃でプレインキュベーションした後に1 μgのMFL mRNAを加えて翻訳反応をスタートさせた後、この反応液から経時的に5μlずつサンプリングし、等量の1 N HClに加えて反応を止めた。さらにこれに200 μlの酢酸エチルを加えてトリペプチド(fMFL)を溶出させ、液体シンチレーションカウンターを用いて放射能を測定する。
【0057】
得られる、終結因子RF1
*、RF3
*及びRRF
*の活性を、fMet-Phe-Leu-Stop(fMFL)をコードする合成mRNAのインビトロ翻訳系を用いて測定する。
【0058】
(18:DHFRの合成)
このPUREシステムのインビトロ 翻訳系及びS−30抽出物を用いた翻訳系の夫々により、[
35S] でラベルされたメチオニンを含むDHFRを合成する。生成物を12%のSDS-PAGE(sodium dodecyl sulfate polyacrylamide gel electrophoresis;SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動)で分離させ、BAS-1000system(Fuji film)で検出し、放射能を測定する。一方、DHFRの活性は以下に示した方法で測定する。pH 7.0の50 mMpotassiumphosphate緩衝液、50 μM DHF(dihydrofolic acid;ジヒドロ葉酸)、60 μM NADPH(reducednicotinamide adnine dinucleotide phosphate;還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)を含む反応液中、30℃で反応させ、A
340減少値を1分ごとに測定する。
【0059】
このPUREシステムのインビトロ 翻訳系においては、反応が120分経過後においても進行しているのに対し、S−30抽出物を用いた翻訳系においては20分でDHFRの生成量がピークに達している。
【0060】
反応系におけるエネルギー消費を調べるために、このPUREシステムのインビトロ 翻訳系と、S-30抽出物を用いた翻訳系とを対比しながら、ヌクレオシド三リン酸の加水分解の測定を以下に示す通りに行う。DHFRを鋳型とし、[α-
32P]ATPあるいはGTPを含む反応液を用い、37℃で翻訳実験を行う。この反応液から経時的に2 μlずつサンプリングし150 μlの10 % ギ酸に加える。PolyethyleneimineTLC plateに反応液をスポットし、pH 3.75のpotassium phosphate緩衝液 0.75Mを用いて反応生成物を展開する。このTLCplateを風乾した後ラップで覆い、オートラジオグラフをとる。S-30の系では、ATPの量が時間の経過と共に減少するのに対し、このPUREシステムの系では、ほぼ一定の水準を保つ。
【0061】
生成したDHFRを精製するために、100kDa以下の物質を通す限外ろ過膜を用いてリボソームを除去する。次いで、総てのHis−tagが付された反応系構成成分をニッケルカラムを通して除去する。ニッケルカラムを通す前の反応混合物と、ニッケルカラムを通して得られる生成物を、12%SDS-PAGE ゲル上に展開し、クマシーブルーで染色する。
【0062】
(19:バリルサプレッサーtRNAによるバリン残基の導入(非天然アミノ酸導入のモデル))
His tagが付されたRF1(以下、Histagが付されていることを、「
*」で示す)の代わりにRF2
*を終結因子として用いたこのPUREシステムのインビトロ翻訳系において、化学的に合成したバリルサプレッサーtRNAを用いて37番残基のアスパラギン(ATAコドン)をUAGコドンに置換したDHFRの鋳型を翻訳させる。その結果RF1
*を含むサンプルでは37番目の残基で終結反応が行われ途中で止まったタンパク質ができるのに対し、RF1
*を除くと(RF2は含まない)途中で切れたタンパク質のバンドが薄くなる。さらにここにRF2
*を導入すると通常のDHFRと同様の位置にタンパク質が生産されるようになる。このことからサプレッサーtRNAに結合したバリン残基がDHFRの37番目に導入されたことが確かめられる。
【0063】
(無細胞蛋白質合成系)
本明細書において用いる無細胞蛋白質合成系の組成は、限定されることはないが、代表的には、以下のとおりである。
【0065】
【表1-2】
1)Shimizuら((2001) Nat. Biotechnol 19: 751-755.)の手法に従って精製
2)Kazutaら((2008) Mol Cell Proteomics 7:1530-1540)の手法に従って精製
3)Ohashiら((2007) Biochem Biophys Res Commun 352: 270-276.)の手法に従って精製
4) SigmaAldrich Japanより購入
5) WakoChemicals, Japanより購入
6) SigmaAldrichの製品
7) RocheDiagnosticsより購入した大腸菌MRE600株のtRNA.
8)Nacalai tesqueの製品。
【0066】
本明細書における「リボソームディスプレイ法」には、例えば、上記無細胞蛋白質合成系でのタンパク質翻訳において生成されるリボソームとmRNAと翻訳されたペプチドとの複合体を用いることができる。
【0067】
本発明の、リガンドに対して特異的に結合する変異タグペプチドをコードするmRNAの単離は、好ましくは、配列番号1、配列番号2、配列番号3からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むリガンドを用いて行われる。本発明において変異タグペプチドは、出発タグペプチドに変異を導入することによって得られる。代表的な出発タグペプチドのアミノ酸配列は、WWドメインの野生型アミノ酸配列であり、例えば、配列番号7の核酸配列(ATGGGTGGTTCTATGTCTTTTGAGATTCCTGATGATGTACCTCTGCCAGCAGGTTGGGAGATGGCAAAGACATCTTCTGGTCAGCGCTACTTCCTGAATCACATCGATCAGACAACAACATGGCAGGACCCGCGCAAGGCCATGCTGTCCCAGATGAACGTCACAGCCCCGACCAGTGGA)によってコードされる。出発タグペプチドをコードする核酸配列への変異導入は、PCRなどの種々の周知の方法によって行われる。
【0068】
出発タグペプチドの変異体である変異タグペプチドをコードする核酸が得られた後、その核酸がDNAである場合には、転写によってRNAを調製する。DNAからのRNAの転写は、種々の周知のインビトロ転写によって行われる。変異タグペプチドをコードするRNA(mRNA)の集団が得られると、それを、インビトロでの翻訳に供することによって、(i)変異導入によって生成されたmRNA集団に含まれるmRNA、(ii)該mRNAによってコードされる候補変異タグペプチド、および、(iii)リボソーム、の複合体を形成する。インビトロでの翻訳には、代表的には、無細胞蛋白質合成系を用いる。
【0069】
インビトロ翻訳によって生成された上記(i)、(ii)、および、(iii)の複合体を、リガンドと接触させて結合体を形成する。リガンドは、固定化のための部分(例えば、アビジンを有する固相に固定化するためのビオチン)を含む。
【0070】
この結合体を、リガンドが含む固定化のための部分を介して、固相に固定化する。固相としては、プレート、メンブレンおよびビーズが挙げられるが、これに限定されない。リガンドと結合していない複合体は、固相に固定化しないため、例えば、結合体の固相への固定化の後に液相を除去することによって、固相に固定化した結合体を単離することができる。
【0071】
固相に固定化した結合体からRNAを単離することによって、目的のRNAを単離することが可能となる。この単離は、結合体から物理的にRNAを単離してもよく、あるいは、結合体をPCRに供して、RNAの核酸配列を増幅してもよい。
【0072】
このようにして得られたRNAを、さらなる、変異導入および単離のための出発材料としてもよい。
【0073】
一つの局面では、複数のRNAを含む集団が入手可能である場合には、変異誘発をすることなく、その集団を用いて、上記のインビトロ翻訳に供して、目的のRNAを単離してもよい。
【0074】
別の局面では、予めリガンドを固相に固定化した後、上記(i)、(ii)、および、(iii)の複合体を接触させてもよい。
【0075】
上記手法によって単離された配列は、例えば、配列番号22〜33からなる群から選択されるアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む、配列である。
【0076】
(本発明のタグを用いるタンパク質のラベリング)
本発明のタグは、リガンド特異的であることから、例えば、標的タンパク質・ポリペプチドのN末端とC末端のそれぞれに、別のタグを融合することにより、標的タンパク質・ポリペプチドのN末端とC末端のそれぞれに別のリガンドを結合させることが可能となる。N末端に融合したタグに結合するリガンド、および、C末端に融合したタグに結合するリガンドの各を異なる標識部分で標識することによって、タンパク質・ポリペプチドのデュアルラベルが可能となる。
【0077】
また、本発明のタグとリガンドとの結合は、DTTのような還元剤で切断可能であることから、本発明のタグとリガンドを用いた標識は、可逆的である。
【実施例】
【0078】
(実施例1:P4Sリガンドに対して高い特異性を有する変異タグペプチドの単離)
(リガンドの合成)
選択及び結合実験には3種のPYペプチド(ePY:配列番号1 EYPPYPPPPYPSG、P4S:配列番号2 GTPSPPYTVG、P4W:配列番号3 GTPWPPYTVG)をリガンドとして使用した。ペプチド合成はジーンデザイン社(大阪)が標準的なFmoc法によって行った。さらに、ペプチド配列のN末端ビオチン化をリンカー配列中にSS結合を含むEZ−link Sulfo−NHS−SS−biotin試薬(Pierce, Rockford, IL)、及びSS結合を含まないEZ−link Sulfo−NHS−LC−biotin試薬(Pierce, Rockford, IL)によって行った。これを逆相HPLCで精製し、MALDI−TOF質量分析により確認した。
【0079】
(鋳型DNAの作製)
WWドメイン野生型をコードする配列番号7(ATGGGTGGTTCTATGTCTTTTGAGATTCCTGATGATGTACCTCTGCCAGCAGGTTGGGAGATGGCAAAGACATCTTCTGGTCAGCGCTACTTCCTGAATCACATCGATCAGACAACAACATGGCAGGACCCGCGCAAGGCCATGCTGTCCCAGATGAACGTCACAGCCCCGACCAGTGGA)を含むDNA、および、W17F変異体をコードする配列番号9を含むDNA(ATGGGTGGTTCTATGTCTTTTGAGATTCCTGATGATGTACCTCTGCCAGCAGGTTTCGAAATGGCAAAGACATCTTCTGGTCAGCGCTACTTCCTGAATCACATCGATCAGACAACAACATGGCAGGACCCGCGCAAGGCCATGCTGTCCCAGATGAACGTCACAGCCCCGACCAGTGGA)をpQE30(Qiagen)由来のpRD−dumN2−2プラスミドのNcoI/BamHI制限酵素サイト間に挿入し、pRD−WW及びpRD−W17Fプラスミドを作製した。次に、野生型とW17F変異体のランダム突然変異ライブラリを作製するために、pRD−WWとpRD−W17Fプラスミドを同じ濃度になるよう混合し、これを鋳型としてΔTth DNA polymerase(Toyobo,Osaka,Japan)を用いたerror−prone PCRを行った。鋳型濃度は1pg/μl、dNTP濃度はdATP:2mM、dTTP:10mM、dGTP:2mM、dCTP:10mMであり、プライマーとしてWW_RDf(配列番号11:GGATCTGGTTCCATGGGTGG)およびWW_RDr(配列番号12:GCCACCGGATCCACTGGTCG)を用いた。このPCR産物を再びpRD−dumN2−2プラスミドのNcoI/BamHI制限酵素サイト間に挿入した。配列解析のために、このプラスミドを用いて大腸菌株XL10−GOLDを形質転換し、アンピシリンを含むLBプレートに植菌した。ここから32クローンを選び、SDA−pqeプライマー(配列番号13: AGACCACAACGGTTTCCCTCTAGAAATAATTTTGTTTAACTTTAAGAAAGAGGAGAAATTAACTATGAG)およびpqe1−プライマー(配列番号14:GATCTATCAACAGGAGTCCAAGCTCA)を用いてコロニーPCRを行った後、pD_89_Rプライマー(配列番号15:CCAGAGCACATCCTCATAACGG)を用いて配列解析を行った。次に、インビトロ転写の鋳型作製のために、先のプラスミドを鋳型として、SDA−pqeプライマーおよびpqe1−プライマーを用いてPCRを行い、さらにT7Bプライマー(配列番号16:ATACGAAATTAATACGACTCACTATAGGGAGACCACAACGG)およびT3te_pD−プライマー(配列番号17:CGGCCCACCCGTGAAGGTGAGCC)を用いてPCRを行った。その結果、図のような遺伝子配列を得た(fig)。得られたPCR産物を鋳型として、T7 RNA ポリメラーゼ(TaKaRa)を用いたインビトロ転写を行い、mRNAを合成した。これをRNeasy精製キット(Qiagen)で精製し、変性アガロースゲル電気泳動で確認後、インビトロ翻訳の鋳型とした。なお、全てのPCRはExTaq DNAポリメラーゼ(TaKaRa)を用いて行った。
【0080】
(リボソームディスプレイ法)
再構成無細胞翻訳系PUREシステムを用いてインビトロ翻訳を行なった。PUREシステムは、全因子の調整を行い、従来のものより翻訳合成量が改良されたものを使用した。翻訳反応は、50μl反応液中に鋳型mRNA 2μgを加え、37°Cで30分間行なった。翻訳反応を停止させるために、0.5% BSA、2.5mg/ml heparin、5μM ビオチン化リガンドを含む、氷冷却した洗浄バッファ(WBKT: 50 mM Tris−Ac, pH7.4; 150mM NaCl;50 mM Mg(OAc)
2; 250mM KCl; 0.1% Tween 20)を翻訳反応溶液の9倍量加えた。これ以後の操作は、全て自動磁性粒子プロセッサ(kingfisher, thermo)を用いて4°Cで行った。まず、翻訳反応終了溶液100μlを専用プレート(thermo)に移し、リガンドと1時間反応させた。次に、WBKTでよく洗ったストレプトアビジン磁性粒子(Dynabeads MyOne Streptavidin C1, Invitrogen)50μlを反応液に加えて30分間振盪した。その後、洗浄のために、200μl WBKTで1分間振盪を2回、さらに5分間振盪を3回行なった。最後に、50mM DTT、及び50μg/ml Saccaromyces cerevieciae RNAを含むWBKT 100μlにビーズを加え30分間振盪し、S−S結合を切断することでリボソーム複合体を特異的に回収した。回収されたリボソーム複合体溶液(溶出液)中のmRNA量は、SYBR Greenを用いた定量RT−PCR(SuperScript III Platinum One−Step qRT−PCR kit, Invitrogen)により定量した。プライマーとしてpD_89_F(配列番号18:TTGGCATTCTTGCGGTTGCTG)およびプライマーpD_89_R(配列番号15:CCAGAGCACATCCTCATAACGG)を使用し、溶出液は100倍希釈し反応液20μl中に2μl加え、その他PCR条件は製造業者のマニュアルに従った。蛍光検出はMx3005P(Stratagene)により行った。次に、溶出液中のmRNAをRNeasy(Qiagen)により精製後、RT−PCR(OneStep RT−PCR kit,Qiagen)により増幅した。プライマーとしてT7Bプライマー(配列番号16:ATACGAAATTAATACGACTCACTATAGGGAGACCACAACGG)およびT3te_pD−プライマー(配列番号17:CGGCCCACCCGTGAAGGTGAGCC)を使用し、その他PCR条件は全て製造業者のマニュアルに従った。PCR産物はアガロースゲル電気泳動で確認後、ゲル回収(QIAquick gel extraction kit, Qiagen)により精製した。これを次のラウンドのインビトロ転写の鋳型とした。
【0081】
(RI結合アッセイ)
P4Sペプチドに対する選択ラウンドを5回繰り返した後に得られたDNAプールを鋳型として、pentaHis_fプライマー(配列番号19:GATCGCATCACCATCACCAT)およびrsrII−RTプライマー(配列番号20:TTCCGGCAAACGCGGTCCG)を用いてPCRを行った。PCR産物をNcoI/BamHI制限酵素で処理し、pQE−pDNBベクターに挿入した。配列解析のために、このプラスミドを用いて大腸菌株XL10−GOLDを形質転換し、アンピシリンを含むLBプレートに植菌した。ここから32クローン選び、SDA−pqeプライマー(配列番号13: AGACCACAACGGTTTCCCTCTAGAAATAATTTTGTTTAACTTTAAGAAAGAGGAGAAATTAACTATGAG)およびpqe1−プライマー(配列番号14:GATCTATCAACAGGAGTCCAAGCTCA)を用いてコロニーPCRを行った後、pentaHis_fプライマーを用いて配列解析を行った。さらに、コロニーPCR産物を鋳型として、T7B(配列番号16:ATACGAAATTAATACGACTCACTATAGGGAGACCACAACGG)およびwwstopプライマー(配列番号21:GAGTCCAAGCTCAGCTAATTAAGCT)によりPCRを行いカラム精製(Qiaquick PCR purification kit,Qiagen)した。こうして、選択クローンのインビトロ転写・翻訳反応の鋳型を得た。
【0082】
インビトロ転写・翻訳反応を0.4μM[
35S]メチオニン(PerkinElmer)、及び30μM 非放射能性メチオニンを含むPUREシステムで行うことにより、翻訳タンパク質を放射能ラベルした。翻訳反応は、50μl反応液に鋳型DNA 0.2μgを加え、37°Cで1時間行った。翻訳反応液に0.1 mg/mlになるようRNaseAを加え、37°Cで10分間反応させた後、0.5% BSA、2.5mg/ml heparin、5μM ビオチン化P4Sリガンドを含む、氷冷却したWBKTバッファを翻訳反応溶液の9倍量加えた。その後、前述と同様に自動磁性粒子プロセッサを用いてパニングを行った。得られた溶出液50μlを5mlシンチレーション液(Ultima Gold MV, PerkinElmer)中に溶解した後、液体シンチレーション計測器(Aloma)で放射能を測定した。
【0083】
その結果、WWドメイン野生型よりも優れた結合能を有するタグペプチドが8つ得られた(結合親和性の高い順に、f7:配列番号22、f12:配列番号23、f27:配列番号24、f20:配列番号25、f22:配列番号26、f1:配列番号27、f34:配列番号28、および、f31:配列番号29)。これら得られた変異タグペプチドの配列とWWドメイン野生型との比較を
図1に示す。
【0084】
図1の結果から、WW配列の末端に生じたCysへの変異がP4Sリガンドに対する結合能向上をもたらしたと考えられる。
【0085】
(実施例2:P4Sリガンドに対して高い特異性を有する変異タグペプチドの評価)
実施例1のRI結合アッセイの結果、最も高い結合能を示した選択クローンf7、及び野生型のRI結合アッセイをリガンド及び溶出法を様々に変えて行った。それぞれのDNA鋳型を用いて、インビトロ転写・翻訳反応を前述と同様にPUREシステム中で行った。続く結合反応に用いるビオチン化PYリガンドには、3種類のペプチド配列(ePY,P4S,P4W)に対して、リンカー配列中にSS結合を含むものと含まないもの計6種類を使用した。また、パニング最後の溶出には、これまでと同様の50mM DTT及び、変性剤として2M グアニジウムチオシアネートによる溶出を行った。放射能測定は、これら2通りの溶出液、及び溶出直前の最終洗浄液の3種を用いた。
【0086】
(ウェスタンブロッティングによる結合アッセイ)
選択クローンf7のDNA鋳型を用いて、インビトロ転写・翻訳反応をPUREシステム中で行った。鋳型DNAは、RI結合アッセイで用いたものを使用した。翻訳反応は、50μl反応液に鋳型DNA 0.2μgを加え、4°Cあるいは、37°Cで1時間行った。その後、0.5% BSA、2.5mg/ml heparin、5μM ビオチン化P4Sリガンドを含む、氷冷却したWBKTバッファを翻訳反応溶液の9倍量加えることにより反応を停
止させ、4°Cでそのまま1時間リガンドと反応させた。反応後、50mM DTTを含む、あるいは含まないSDSサンプルバッファを加え、5分間熱変性の後、SDS−PAGEを行った。続いて、Streptavidin−HRP conjugateを用いたウェスタンブロッティングを行った。その結果、f7タグとリガンドとの結合はSDSでは解離しない強固な結合であったが、DTTによって解離した。
【0087】
次に、選択クローンf7のウェスタンブロッティングによる結合アッセイをリガンドを様々に変えて行った。リガンドには、3種類のSS結合を含むビオチン化ペプチド配列(ePY,P4S,P4W)、及びビオチン化P4Sペプチド中のSS結合をDTTで予め切断したもの計4種類を使用した。4℃での結合では、f7タグは、P4Sリガンドにのみ結合した。37℃での結合では、f7タグは、P4Sリガンドに強く結合したが、P4Wリガンドには、結合しなかった。f7タグのePYリガンドへの結合は、弱いながら検出可能であった。
【0088】
この結果から、本発明の方法によって、リガンド特異的なタグが単離可能なことが実証される。そのため、本発明の方法およびタグを用いて、タンパク質・ポリペプチドのデュアルラベリングが可能である。
【0089】
(実施例3:ePYリガンドに対して高い特異性を有する変異タグペプチドの単離)
実施例1と同様の方法を用いて、ePYリガンドに対して高い特異性を有する変異タグペプチドを単離することが可能である。具体的には、実施例1では、P4Sペプチドに対する選択ラウンドを5回繰り返したが、本実施例では、P4Sペプチドの替わりにePYペプチドを用いた。その結果、Y16タグペプチド(配列番号30)、Y11タグペプチド(配列番号31)、Y19タグペプチド(配列番号32)、および、Y18タグペプチド(配列番号33)が得られた。得られた配列と、WWドメイン野生型配列およびペプチドf9の配列を
図2に示す。
【0090】
(実施例4:P4Sリガンドに対して高い特異性を有する変異タグペプチドの評価)
実施例2のウェスタンブロッティングによる結合アッセイと同様の実験を、Y16タグペプチド、Y11タグペプチド、Y19タグペプチド、および、Y18タグペプチドについて行った。結合させるリガンドとしては、ePYリガンド、P4Sリガンド、および、P4Wリガンドを用いた。その結果、P4Sリガンドを用いて取得されたY16タグペプチド、Y11タグペプチド、Y19タグペプチド、および、Y18タグペプチドは、ePYリガンドに対してのみ結合しビオチン化されたが、P4SリガンドおよびP4Wリガンドのいずれにも結合しなかった。