【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、ホモポリプロピレン(A)及びプロピレン−α−オレフィン共重合体(B)を含有し、且つ上記ホモポリプロピレン(A)と上記プロピレン−α−オレフィン共重合体(B)との重量比(A:B)が10:90〜40:60であるポリプロピレン系樹脂100重量部、タルク1〜5重量部、及び
ヒドロキシル基を有していないステアリン酸金属塩0.1〜1.0重量部を含むことを特徴とする。
【0008】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、ポリプロピレン系樹脂として、ホモポリプロピレン(A)及びプロピレン−α−オレフィン共重合体(B)を含んでいる。
【0009】
ポリプロピレン系樹脂中におけるホモポリプロピレン(A)とプロピレン−α−オレフィン共重合体(B)との重量比(A:B)は、10:90〜40:60に限定されるが、20:80〜40:60が好ましい。ポリプロピレン系樹脂中におけるホモポリプロピレン(A)の重量比が多過ぎると、得られる成形体の衝撃強度が低下する虞れがある。また、ポリプロピレン系樹脂中におけるプロピレン−α−オレフィン共重合体(B)の重量比が多過ぎると、得られる成形体の曲げ強度及び曲げ弾性率を十分に向上できない虞れがある。
【0010】
[ホモポリプロピレン(A)]
ホモポリプロピレン(A)の重量平均分子量は、10万〜100万が好ましく、20万〜50万がより好ましい。ホモポリプロピレン(A)の重量平均分子量が10万未満では、得られる成形体の剛性が低下する虞れがある。また、ホモポリプロピレン(A)の重量平均分子量が100万を超えると、ポリプロピレン系樹脂組成物の成形性を低下させて厚みが薄い成形体を成形できなかったり、得られる成形体の衝撃強度が低下する虞れがある。
【0011】
なお、本発明において、ホモポリプロピレン(A)の重量平均分子量は、GPC(Gel Permeation Chromatography:ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)法によりポリスチレン換算として測定された値を意味する。例えば、次の要領で測定することができる。なお、プロピレン−α−オレフィン共重合体(B)の重量平均分子量の測定も同様にして行うことができる。
【0012】
ホモポリプロピレン(A)1.5gに、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)及びオルトジクロロベンゼン(o-DCB)を含む溶液(BHT:o-DCB(重量比)=50:50)1000ミリリットルを添加して得られた混合液を溶解ろ過装置(TOSHO社製 DF-8020)により、混合液の温度を145℃、回転速度25rpmとして、2時間振とうさせて、ホモポリプロピレン(A)を溶解させて測定試料を得る。得られた測定試料に基づいて、ホモポリプロピレン(A)のポリスチレン換算した重量平均分子量をGPC法によって測定することにより得ることができる。
【0013】
そして、ホモポリプロピレン(A)におけるGPC法による重量平均分子量は、例えば、下記測定装置及び測定条件にて測定することができる。
測定装置 TOSOH社製 商品名「HLC−8121GPC/HT」
測定条件 カラム:TSKgelGMHHR−H(20)HT×3本
TSKguardcolumn−HHR(30)HT×1本
移動相:o−DCB 1.0mL/分
サンプル濃度:1mg/mL
検出器:ブライス型屈折計
標準物質:ポリスチレン(TOSHO社製 分子量:500〜8420000)
溶出条件:145℃
SEC温度:145℃
【0014】
ホモポリプロピレン(A)のメルトフローレイト(MFR)は、5〜15g/10分が好ましく、8〜13g/10分がより好ましい。ホモポリプロピレン(A)のメルトフローレイトが5g/10分未満であると、ポリプロピレン系樹脂組成物の流動性が低下して、得られる成形体の厚みが不均一となったり、成形体表面にフローマークなどの外観不良が発生する虞れがある。また、ホモポリプロピレン(A)のメルトフローレイトが15g/10分を超えると、ポリプロピレン系樹脂組成物の流動性が高くなり過ぎて、得られる成形体表面にパーティングラインに由来するバリが発生するなどの外観不良が発生する虞れがある。
【0015】
なお、本発明において、ホモポリプロピレン(A)及びプロピレン−α−オレフィン共重合体(B)のメルトフローレイト(MFR)は、JIS K7210に準拠して、230℃、荷重21.18Nの条件で測定されたものをいう。
【0016】
[プロピレン−α−オレフィン共重合体(B)]
プロピレン−α−オレフィン共重合体(B)は、ブロック共重合体及びランダム共重合体の何れであってもよいが、得られる成形体の衝撃強度を向上させることができることから、ブロック重合体であるのが好ましい。
【0017】
プロピレン−α−オレフィン共重合体(B)において、プロピレンと共重合されるα−オレフィンとしては、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ノネン、及び1−デセンなどが挙げられる。
【0018】
なかでも、プロピレン−α−オレフィン共重合体(B)としては、得られる成形体に優れた衝撃強度を付与することができることから、プロピレン−エチレンブロック共重合体が好ましく用いられる。
【0019】
プロピレン−α−オレフィン共重合体(B)におけるプロピレン成分の含有量は、50〜99重量%が好ましく、65〜95重量%がより好ましく、70〜95重量%が特に好ましい。プロピレン成分の含有量が50重量%未満であると、得られる成形体の曲げ弾性率を十分に向上できない虞れがある。また、プロピレン成分の含有量が99重量%を超えると、得られる成形体の衝撃強度を十分に向上できない虞れがある。
【0020】
プロピレン−α−オレフィン共重合体(B)の重量平均分子量は、10万〜100万が好ましく、20万〜50万がより好ましい。プロピレン−α−オレフィン共重合体(B)の重量平均分子量が10万万未満では、得られる成形体の曲げ弾性率を十分に向上できない虞れがある。また、プロピレン−α−オレフィン共重合体(B)の重量平均分子量が100万を超えると、ポリプロピレン系樹脂組成物の成形性を低下させて厚みが薄い成形体を成形できなかったり、成形体表面にフローマークなどの外観不良が発生する虞れがある。
【0021】
プロピレン−α−オレフィン共重合体(B)のメルトフローレイト(MFR)は、5〜50g/10分が好ましく、8〜35g/10分がより好ましく、8〜30g/10分が特に好ましい。プロピレン−α−オレフィン共重合体(B)が5g/10分未満であると、ポリプロピレン系樹脂組成物の流動性が低下して、得られる成形体の厚みが不均一となったり、成形体表面にフローマークなどの外観不良が発生する虞れがある。また、プロピレン−α−オレフィン共重合体(B)が50g/10分を超えるとポリプロピレン系樹脂組成物の流動性が高くなり過ぎて、得られる成形体表面にパーティングラインに由来するバリが発生するなどの外観不良が発生する虞れがある。
【0022】
[タルク]
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物に用いられるタルクは、滑石と呼ばれる鉱物を微粉砕した無機粉末で、原料の滑石は含水珪酸マグネシウム[Mg
3Si
4O
10(OH)
2]などの含水ケイ酸塩鉱物である。
【0023】
ポリプロピレン系樹脂組成物におけるタルクの含有量は、ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、1〜5重量部に限定されるが、1〜3重量部が好ましい。タルクの含有量が1重量部未満であると、十分に曲げ強度及び曲げ弾性率が向上された成形体を得ることができない虞れがある。また、タルクの含有量が5重量部を超えると、得られる成形体の衝撃強度を低下させる虞れがある。
【0024】
タルクの平均粒子径は、3〜15μmが好ましく、3〜13μmがより好ましく、3〜5μmが特に好ましい。タルクの平均粒子径が3μm未満であると、ポリプロピレン系樹脂の結晶化を促進させることができず、得られる成形体の曲げ弾性率を十分に向上できない虞れがある。タルクの平均粒子径が15μmを超えると、タルクをポリプロピレン系樹脂組成物中で微分散させることができず、得られる成形体の衝撃強度を低下させる虞れがある。
【0025】
上記平均粒子径を有するタルクは、例えば、天然に産出された鉱物をジョークラッシャー、ハンマークラッシャー、ロールクラッシャー等で粗粉砕した後、ジェットミルやスクリーンミル、ローラーミル、振動ミル等を用いて微粉砕し、その後、サイクロンエアセパレーター、ミクロセパレーター、シャープカットセパレーター等の装置で分級することで得ることが出来る。
【0026】
なお、本発明において、タルクの平均粒子径は、レーザー回折・散乱式の粒度分析測定装置を用いて測定した値とする。例えば、タルクをその濃度が5重量%となるようにエタノールからなる溶媒に投入した後、超音波ホモジナイザーを用いて1kwの出力で超音波を30分間照射して懸濁液を得、この懸濁液についてレーザー回折・散乱式の粒度分析測定装置(例えば、日機装株式会社製 マイクロトラックMT3300)によりタルクの体積粒度分布を測定し、この体積粒度分布の累積50%の値をタルクの平均粒子径として算出することができる。
【0027】
[ステアリン酸金属塩]
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物ではステアリン酸金属塩を用いることにより、タルクが微分散された成形体を得ることができる。ステアリン酸金属塩はヒドロキシル基を有していな
い。
【0028】
ステアリン酸金属塩としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸ストロンチウム、ステアリン酸鉛、ステアリン酸カドミウム、ステアリン酸ナトリウム、及びステアリン酸カリウムなどが挙げられる。これらは一種のみが用いられてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0029】
なかでも、ステアリン酸金属塩としては、タルクを特に高度に分散させることが可能なことから、ステアリン酸カルシウムがより好ましい。
【0030】
ポリプロピレン系樹脂組成物におけるステアリン酸金属塩の含有量は、ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、0.1〜1.0重量部に限定されるが、0.5〜1.0重量部が好ましい。ステアリン酸金属塩の含有量が0.1重量部未満であると、タルクを十分に分散できず、曲げ強度及び曲げ弾性率が向上された成形体が得られない恐れがある。また、ステアリン酸金属塩の含有量が1.0重量部を超えると、得られる成形体の衝撃強度を低下させる虞れがある。
【0031】
また、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、上記の成分の他に、必要に応じて、たとえば、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、可塑剤、難燃剤、帯電防止剤、離型剤などの他の添加剤を、本発明の目的を損なわない範囲で含んでいてもよい。
【0032】
[成形体の製造方法]
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物の成形方法としては、射出成形、射出圧縮成形、圧縮成形、押出成形、ブロー成形、及びプレス成形などの方法が挙げられるが、様々な形状の成形体を容易に製造できることから射出成形が好ましく用いられる。
【0033】
本発明の成形体を射出成形により製造するには、上述したポリプロピレン系樹脂組成物を溶融混練した後に金型内に射出して成形する方法が用いられる。具体的には、ホモポリプロピレン(A)及びプロピレン−α−オレフィン共重合体(B)を含有し、且つ上記ホモポリプロピレン(A)と上記プロピレン−α−オレフィン共重合体(B)との重量比(A:B)が10:90〜40:60であるポリプロピレン系樹脂100重量部、タルク1〜5重量部、及び
ヒドロキシル基を有していないステアリン酸金属塩0.1〜1.0重量部を含むポリプロピレン系樹脂組成物を溶融混練した後、金型内に射出することにより、成形体を得ることができる。
【0034】
ポリプロピレン系樹脂組成物を溶融混練する際に、ステアリン酸金属塩はペースト状となって滑性を呈することでポリプロピレン系樹脂に対するタルクのなじみ性を向上させ、タルクをポリプロピレン系樹脂組成物中に高度に且つ均一に分散させることができる。このように、タルクを高度に且つ均一に分散させることによって、タルクによる成形体の衝撃強度の低下を高く抑制することが可能となる。また、溶融混練しているポリプロピレン系樹脂組成物中でペースト状となったステアリン酸金属塩は、得られた成形体の表面や内部では固化して固体状態となっており、成形体の衝撃強度、曲げ強度及び曲げ弾性率などの機械的物性に影響を及ぼすことはない。
【0035】
そして、溶融混練しているポリプロピレン系樹脂組成物中でタルクをステアリン酸金属塩によって高度に且つ均一に分散させることによって、溶融混練したポリプロピレン系樹脂組成物を冷却して成形体を得る際にポリプロピレン系樹脂の結晶化が促進され、タルクを起点としてポリプロピレン系樹脂を構成している高分子鎖が規則的に配列してなる結晶部分を高度に且つ均一に分散させて成長させることが可能となる。さらに、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、所定量のホモポリプロピレン(A)を含んでいることによって、ポリプロピレン系樹脂の結晶化をさらに促進させることができ、成形体中において結晶部分が占める割合を大きくすることが可能となる。
【0036】
したがって、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物を溶融混練した後に成形することにより得られる成形体中では、ポリプロピレン系樹脂の非晶部分からなる連続相中に高度に且つ均一に分散された島状の結晶部分が多く存在し、このようにポリプロピレン系樹脂の結晶化度が向上されていることによって、ポリプロピレン系樹脂が有している優れた衝撃強度を低下させることなく、優れた曲げ強度及び曲げ弾性率が付与されている成形体を得ることが可能となる。
【0037】
ポリプロピレン系樹脂組成物は、上述した各成分を混合することにより得られるが、タルクの分散性を向上させるために、タルクとポリプロピレン系樹脂とを含むマスターバッチを予め製造し、このマスターバッチを用いてポリプロピレン系樹脂組成物を製造するのが好ましい。
【0038】
ポリプロピレン系樹脂組成物を溶融混練する温度は、200〜240℃が好ましく、210〜230℃がより好ましい。このような温度でポリプロピレン系樹脂組成物を溶融混練することによって、ステアリン酸金属塩の滑性を向上させてタルクの分散性を向上させることができる。また、ポリプロピレン系樹脂組成物の溶融混練は、単軸あるいは2軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダーおよびミキシングロールなどの溶融混練機を用いて行えばよい。
【0039】
溶融混練したポリプロピレン系樹脂組成物は、射出成形機の金型のキャビティ内に射出充填した後、冷却、固化させることにより、所定の形状を有する成形体に成形することができる。
【0040】
成形体の厚みは、用途に応じて決定すればよく特に制限されないが、1.5〜4.5mmが好ましく、2.0〜4.0mmがより好ましい。このように本発明のポリプロピレン系樹脂組成物を用いてなる成形体は、その厚みを薄くしても、優れた衝撃強度、曲げ強度及び曲げ弾性率を維持することができ、各種用途に好適に用いることができる。
【0041】
本発明の成形体の用途としては、例えば、雨水貯留設備用貯水空間形成部材、自動車用部品、電気製品用部品、電子製品用部品、建築設備部材等が挙げられる。雨水貯留設備用貯水空間形成部材の一例としては、例えば、特開2011−52400号公報における雨水貯留浸透槽に用いられる樹脂性構造物(
図4に示されている樹脂性構造物31)、特開2011−32695号公報における雨水地中浸透施設に用いられる貯水空間形成部材(
図4に示されている貯水空間形成部材50)、及び特開2010−185224号公報における雨水流出抑制施設に用いられる貯水空間形成部材(
図4に示されている貯水空間形成部材50)などが挙げられる。自動車部品としては、例えば、ドアトリム、サイドモール、フェンダー、オーバーフェンダー、サイドシルガーニッシュ、バンパースカート、スポイラー、マッドガード、インナーパネル、ピラー、インストルメントパネル、及びバンパーなどが挙げられる。また、建築設備部材としては、足場部材、及びコンクリート型枠部材などが挙げられる。なかでも、本発明の成形体は、優れた衝撃強度、曲げ強度及び曲げ弾性率を有していることから、雨水貯留設備用貯水空間形成部材として好ましく用いられる。