【実施例】
【0076】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。
【0077】
〔実施例1〕
実施例1ではXAGE−1b抗原について免疫原性の詳細な解析を行い、新規がんワクチン療法の標的がん抗原としての有用性を検討した。
【0078】
<実験材料および実験方法>
〔a.患者血清、胸水および末梢血単核球〕
本発明の実施例において使用した血清、胸水および末梢血単核球は、検体提供者すべてにおいてインフォームドコンセントのもとに検体提供を受けた。
【0079】
〔b.細胞の分離方法〕
患者の末梢血から比重遠心法によって単核球分画を得た。次いで、抗CD4抗体結合ビーズ、抗CD8抗体結合ビーズおよび抗CD19抗体結合ビーズ(ミリテニーバイオテク社製)を用いて、磁気細胞分離法(MACS、ミリテニーバイオテク社製)によって、順次CD8陽性分画、CD4陽性分画、CD19陽性分画およびCD4
−CD8
−CD19
−分画を分離した。
【0080】
〔c.XAGE−1bタンパク質およびペプチド〕
XAGE−1bタンパク質(81個のアミノ酸、配列番号1)は、GLバイオケム社(上海、中国)で合成されたものを使用した。合成したXAGE−1bタンパク質は、HPLCカラムで精製を行い、純度が90%以上であることを確認している。
【0081】
また、XAGE−1bタンパク質の全長をカバーする16merまたは17merのオーバーラップペプチド(以下、「OLP」とも略す)(1−16、5−20、9−24、13−28、17−32、21−36、25−40、29−44、33−48、37−52、41−56、45−60、49−64、53−68、57−72、61−76、および65−81)は、Fmoc固相法によってマルチプルペプチド合成機(AMS422; ABIMED, Langenfeld Germany)を用いて岡山大学共同研究室において合成したものを使用した。
【0082】
〔d.ELISA〕
1μg/mlの濃度の全長XAGE−1bタンパク質(炭酸バッファー、pH9.6)を4℃オーバーナイトで96穴プレート(ヌンク社製)に固相化した後に、洗浄液(PBS/0.1%TWEEN)で96穴プレートを洗浄し、5%FCS/PBSを加えて、37℃で1時間ブロッキングを行った。ブロッキング終了後、100倍、300倍、900倍、または2700倍に希釈した血清を加えて、37℃で2時間反応させた。次いで、洗浄液で洗浄した後に、ペルオキシダーゼ結合ヤギ抗ヒトIgG抗体(5000倍希釈)(ジャクソン社製)を加えて、37℃で1時間反応させた。反応終了後、洗浄液で洗浄し、過酸化水素を加えた基質溶液(オルトフェニレンジアミンを0.05Mクエン酸バッファー(pH5.0)に溶解した溶液)を加えて発色させた。発色後、6N硫酸を加えて反応を停止し、マイクロプレートリーダー(バイオラッド社製)を用いて吸光度(波長490nm)を測定した。
【0083】
〔e.IFN−γキャッチアッセイ〕
IFN−γキャッチアッセイについて、
図6を参照しながら説明する。
図6は、IFN−γキャッチアッセイの手順を示す図である。
【0084】
(1)CD4陽性またはCD8陽性T細胞におけるXAGE−1b特異的反応の誘導
CD4陽性T細胞またはCD8陽性T細胞と、抗原提示細胞(図中、「APC」と表す)として、同数のX線照射(70Gy)CD4
−CD8
−T細胞とを、XAGE−1bオーバーラップペプチド(OLP)各1μM存在下において、24ウェルプレートまたは96ウェルプレートを用いてCO
2インキュベーター内で10〜14日間培養した。T細胞を培養するための培地としては、特に記載がない場合は、5%プール血清/AIM−V(IL−2 25IU/ml、IL−7 5ng/ml)を用い、必要に応じてIL−15 5μg/mlをさらに添加した。
【0085】
必要に応じ、2回目の刺激は、培養10〜14日後に、培養培地の半分を新しい培養培地に交換し、1μMになるようにXAGE−1bオーバーラップペプチド添加して、同様に行った。
【0086】
1回目または2回目の刺激後10〜14日後に、T細胞によって産生された抗原特異的IFN−γの量を下記のELISA法によって測定した。
【0087】
(2)IFN−γ ELISA
エフェクター細胞(CD4陽性またはCD8陽性T細胞)の刺激培養上清100μlを、マウス抗ヒトIFN−γモノクローナル抗体(1−D1K,BD社製,500倍希釈)をオーバーナイトで固相化した後にブロッキングしたプレートに加えて、37℃で1時間反応させた。その後、PBST(0.1%Tween20−PBS)を用いてプレートを洗浄し、ウサギ抗ヒトIFN−γ抗体(自家製,600倍希釈)を加えて、37℃で1時間反応させた。
【0088】
洗浄液で洗浄後に、HRP結合ヤギ抗ウサギIgG抗体(MBL製,2000倍希釈)を加えて、37℃で1時間反応させた。反応後に洗浄液で洗浄し、その後、基質溶液(o−フェニレンジアミン(o-phenylenediamine,OPDA)(和光製))を加えて発色させた。発色後、6N硫酸を加えて反応を停止し、マイクロプレートリーダー(バイオラッド社製)を用いて吸光度(波長490nm)を測定した。オーバーラップペプチドで刺激を行わなかったウェルと比べてIFN−γの産生量が多かったウェルを陽性ウェルとした。陽性ウェルについて、翌日、抗原特異的にIFN−γを産生する細胞の存在を確認した。
【0089】
(3)IFN−γ産生細胞の検出
オーバーラップペプチドを添加して刺激培養した後の細胞と、これと同数の自己のEBV−B細胞(エプスタイン・バール・ウイルス感染B細胞)(XAGE−1bオーバーラップペプチドで予め刺激したものまたは刺激しなかったもの)とを37℃で4時間または8時間、CO
2インキュベーター内で反応させ、ヒトIFN−γキャッチ抗体(ミリテニーバイオテク社製)2μlを用いて培養細胞を標識した。
【0090】
その後、1〜10mlのAIM−V培地に懸濁し、ローテーター(マックスミックス、ミリテニーバイオテク社製)を用いて懸濁しながら37℃で45分間、CO
2インキュベーター内で反応させた。細胞を洗浄した後に、PE標識ヒトIFN−γ抗体(ミリテニーバイオテク社製)2μl、7AAD(BD社製)2μl、FITC標識抗ヒトCD4抗体またはFITC標識抗ヒトCD8抗体(ミリテニーバイオテク社製)1μlを加えて染色した。
【0091】
染色後、FACS buffer(1%FCS/PBS,0.02%アジ化ナトリウム)を加えて細胞を洗浄し、FACS Calibur(BD社製)を用いてフローサイトメトリーを行い、IFN−γ産生細胞を検出した。IFN−γ産生細胞の頻度は、データ解析ソフト(FlowJo,Tree Star社製)を用いて解析した。
【0092】
図1は、非小細胞肺癌におけるXAGE−1のmRNAの発現を示す図である。
図1の(a)は、肺腺癌の手術検体(組織)10例と肺癌細胞株12例におけるXAGE−1の4つのスプライシングバリアントであるXAGE−1a、1b、1cおよび1dのmRNAの発現を調べた図である。
図1の(a)に示すように、肺癌細胞株では、XAGE−1のすべてで強発現(1c、1dが優位)が認められるが、肺癌組織ではXAGE−1bおよび1dの発現のみが認められる。非特許文献7および8では、XAGE−1bと1dとでは、肺癌においてXAGE−1bが有意であることが証明されている。このため、ワクチンの候補として、XAGE−1bを標的とすることが望ましいといえる。肺癌細胞株と組織におけるXAGE−1の発現の差は原因不明であるが、XAGE−1の機能に関与する可能性がある。
【0093】
また、
図1の(b)は、肺癌細胞株におけるXAGE−1bタンパク質が存在することを証明した図である。具体的には、mRNA陽性肺癌細胞株においてウエスタンブロットでタンパク質の存在を証明した。尚、肺癌細胞株と肺癌組織との発現の量の違いについてはこれまで検討されておらず、本発明者等が初めで明らかにした。また、肺癌組織と比較して、肺癌細胞株では、XAGE−1bタンパク質の発現量が非常に少ないため、免疫沈降法を用いなければそのタンパク質の同定はできなかった。
【0094】
〔実験例1〕
2005年から2009年の間に、川崎医科大学附属病院を受診した非小細胞肺癌200例(進行期肺腺癌69例含む)および対照群として健常人50例において、XAGE−1bに対する液性免疫応答の有無を検討した。
【0095】
具体的には、肺癌患者から採取した血清におけるXAGE−1b特異的IgG抗体の有無をELISA法によって確認した。
【0096】
ELISAの結果を
図2および3に示す。
図2は、非小細胞肺癌患者におけるXAGE−1bタンパク質に対する抗体応答を示す図であり、(a)は非小細胞肺癌患者、(b)は健常人の血清を100倍、300倍、900倍および2700倍で希釈した場合のELISAの吸光度(OD値)を表している。
図3は、非小細胞肺癌患者におけるXAGE−1bタンパク質に対する抗体応答の各領域を示す図である。
【0097】
図2および
図3に示すように、肺癌患者は、対照群(健常人)と比較して血清抗体価が高い順に、強陽性群、陽性群、弱陽性群、境界群の4つの領域に分類された。そのうち弱陽性以上の肺癌患者を血清抗体価陽性患者とした。
【0098】
非小細胞肺癌患者全体では、XAGE−1b血清抗体価陽性例は20/200例(10.0%)であった。また、表1に示すように、進行期(stage3B/4期)肺腺癌患者に限れば、XAGE−1b血清抗体価陽性例は13/69例(18.8%)であった。
【0099】
【表1】
一方、健常人50名でも同様の実験を行ったが、
図2の(b)に示すように、XAGE−1bに対する抗体反応は認められなかった。これらの結果から、肺癌患者の中でも、非小細胞肺癌患者、特に肺腺癌患者では、XAGE−1bに対する液性免疫が高頻度に誘導されていることが明らかになった。
【0100】
なお、非特許文献13には、肺腺癌では32.5%がXAGE−1bに対する免疫組織染色陽性であることが報告されている。このことから、進行期肺腺癌においてXAGE−1bに対する免疫組織染色が陽性であれば約60%の高い頻度でXAGE−1bに対する液性免疫が誘導され得ると予想できる。
【0101】
〔実験例2〕
血清抗体価陽性を示した患者の血清を用いて、血清中に含まれる抗XAGE−1b抗体が認識するXAGE−1bのエピトープを調べた。
図4は、エピトープ解析に用いたXAGE−1bオーバーラップペプチドのアミノ酸配列を示す図である。
【0102】
図4に示す、17種類のXAGE−1bオーバーラップペプチドを、それぞれ1μg/mlの濃度でプレートに固相化し、血清抗体価陽性患者の血清を加えて、抗原抗体反応の有無をELISA法によって調べた。血清は、300倍に希釈したものを用いた。
【0103】
血清抗体価陽性患者20例におけるELISAの結果を
図5および
図6に示す。
図5は、XAGE−1bオーバーラップペプチドに対する抗体認識を示す図である。
図5のグラフに記載した破線は、抗体価(O.D.(490nm))が0.1であることを表している。
図6は、抗XAGE−1b抗体によって認識されるXAGE−1b領域を示す図である。
図6は、
図5で抗体価が0.1以上であった患者の数をペプチド毎にプロットしている。
【0104】
図5に示すように、抗XAGE−1b抗体が認識する領域には個人差があるが、
図6に示すように、抗XAGE−1b抗体の主要認識部位は、XAGE−1bの全長アミノ酸配列の、21−48位(配列番号2)、57−72位(配列番号7)、65−81位(配列番号8)の3領域であることが明らかになった。
【0105】
〔実験例3〕
末梢血CD4陽性T細胞におけるXAGE−1bに対する反応を検討した。血清抗体価陽性患者16名から分離した末梢血CD4陽性T細胞(1×10
6個)を、これと同数の放射線照射したCD4
−CD8
−細胞と共に、XAGE−1bの全長をカバーするようにプールしたオーバーラップペプチドの存在下で、10〜14日間刺激培養した(刺激培養は、必要に応じ10〜14日ごとに2回施行)。次いで、1×10
4個のCD4陽性T細胞と、同数のXAGE−1bオーバーラップペプチドパルスまたは非パルスのPFA処理した自己EBV−B細胞とを37℃で4時間反応させ、IFN−γキャッチアッセイを行った。
【0106】
その結果、
図8の(a)および(b)に示すように、血清抗体価陽性患者16名のうち14名(87.5%)において、XAGE−1bオーバーラップペプチドで刺激したCD4陽性T細胞の中に、XAGE−1b特異的にIFN−γを産生する細胞が検出された。特異的T細胞の検出は、CD4で87.5%(14/16)であった。
【0107】
図30は反応が見られた代表的な2症例におけるXAGE−1bペプチドに対するCD4陽性T細胞の応答を示す図である。
図30の(a)は、フローサイトメトリーの結果を表し、(b)は患者の血清抗体価ELISAの結果を表している。また、
図30の(a)に示すように、症例KLU34では、ネット値で1.11%のIFN−γ産生細胞が検出された。また、症例KLUN38では、ネット値で0.94%のIFN−γ産生細胞が検出された。尚、上記「ネット値」は、ペプチド(+)におけるIFN−γ産生細胞の割合からペプチド(−)におけるIFN−γ産生細胞の割合を減じた値を表している。
【0108】
〔実験例4〕
実験例3においてXAGE−1b特異的CD4陽性T細胞が検出された14名の患者において、その特異的CD4陽性T細胞が認識するXAGE−1bの領域を検討した。先の実験で得られた1×10
4個のCD4陽性T細胞と、抗原提示細胞として、各XAGE−1bオーバーラップペプチドを5μg/mlパルスまたは非パルスの、CD4陽性T細胞と同数のPFA処理した自己EBV−B細胞とを用い、37℃で4時間反応させ、IFN−γキャッチアッセイまたはELISAを行った。
【0109】
結果を
図31に示す。
図31は、血清抗体価陽性患者(KLU38)における刺激培養後のXAGE−1b特異的CD4陽性T細胞によって認識されるXAGE−1b領域を示す図である。
図31に示すように、ペプチド4(13−28位のアミノ酸領域、配列番号10)またはペプチド6(21−36位のアミノ酸領域、配列番号3)を用いてCD4陽性T細胞を刺激すると、XAGE−1b特異的にIFN−γを産生する細胞が高頻度に検出された。このことから、症例KLU38のCD4陽性T細胞は、XAGE−1bの13−36位のアミノ酸領域および21−36位のアミノ酸領域を認識していることが明らかになった。
【0110】
血清抗体価陽性患者の残りの13症例についても同様に解析を行った。結果を
図9および
図10に示す。
図9は、特異的CD4陽性T細胞(n=14)によって認識されるXAGE−1b領域を示す図である。
図9では、特異的CD4陽性T細胞の反応が特に強いペプチドに星印を付している。
図10は、XAGE−1bオーバーラップペプチドに対するXAGE−1b特異的CD4陽性T細胞(n=14)が認識する主要エピトープ領域を示す図である。
図10は、
図9の星印の数をペプチド毎にプロットしている。
図9および
図10に示すXAGE−1b抗体陽性14症例の検討結果から、XAGE−1bのアミノ酸配列の13−36位(配列番号9)、29−48位(配列番号12)、53−68位(配列番号13)がXAGE−1b特異的CD4陽性T細胞によって高頻度に認識されることが明らかになった。さらに、XAGE−1b特異的CD4陽性T細胞によって認識される主要な部位は13−28位のアミノ酸領域(配列番号10)および33−48位のアミノ酸領域(配列番号6)であることが明らかになった。
【0111】
〔実験例5〕
CD8陽性T細胞のXAGE−1b認識領域を検討するために、末梢血CD8陽性T細胞を用いてIFN−γキャッチアッセイおよびELISAを行った。具体的には、血清抗体陽性患者から採取した末梢血CD8陽性T細胞1×10
4個と、同数のCD4
−CD8
−細胞とを、1μg/mlのXAGE−1bオーバーラップペプチド存在下において共培養した。培養後10〜14日目に、CD8陽性T細胞によって産生されたXAGE−1b特異的IFN−γの量をELISA法によって測定した。IFN−γキャッチアッセイの結果、血清抗体価陽性患者9例のうち6例(66.7%)においてXAGE−1b特異的CD8陽性T細胞の反応が認められた。
図8の(c)および(d)は、XAGE−1b特異的CD8陽性T細胞が誘導されたことを示す図である。
【0112】
〔実験例6〕
XAGE−1bにおけるCD8陽性T細胞の認識領域を検討するため、反応がみられた6症例について、各XAGE−1bオーバーラップペプチド1μg/mlをパルスした自己EBV−B細胞を抗原提示細胞として用いてELISAを行った。結果を
図11に示す。
図11は、特異的CD8陽性T細胞(n=6)によって認識されるXAGE−1b領域を示す図である。
図11では、特異的CD8陽性T細胞の反応が特に強いペプチドに星印を付している。
図12は、XAGE−1b特異的CD8陽性T細胞(n=6)によって認識される主要エピトープ領域を示す図である。
図12は、
図11の星印の数をペプチド毎にプロットしている。
図11および
図12に示すXAGE−1b抗体陽性6症例の検討結果から、XAGE−1bのアミノ酸配列の9−24位(配列番号14)、21−36位(配列番号3)、29−44位(配列番号5)、49−64位(配列番号16)がXAGE−1b特異的CD8陽性T細胞によって高頻度に認識されることが明らかになった。
【0113】
図13は、血清抗体価陽性患者における、XAGE−1b特異的抗体、XAGE−1b特異的CD4陽性T細胞、またはXAGE−1b特異的CD8陽性T細胞によって認識される主要エピトープ領域を示す図である。
図13に示すように、XAGE−1bの解析では、特異的抗体、特異的CD4陽性T細胞、または特異的CD8陽性T細胞によって認識されるXAGE−1bの部位には特異性がある傾向が認められるものの、特異的抗体、特異的CD4陽性T細胞、または特異的CD8陽性T細胞が認識する部位は、XAGE−1bの全長にわたって存在することが示された。この結果から、XAGE−1bの全長をカバーするように、複数のペプチドを組み合わせて投与することによって、被験体のHLAの種類を問わずXAGE−1bワクチンを施行し得ると考えられた。
【0114】
図14は、XAGE−1b特異的CD4陽性T細胞およびCD8陽性T細胞が認識する主要エピトープ領域とHLAとの関係を示している。
【0115】
図14は、XAGE−1b特異的T細胞を検出し得た15症例のHLAおよび特異的T細胞が認識するオーバーラップペプチドの領域を示す。黒はCD4陽性T細胞、灰色はCD8陽性T細胞が認識する領域を示す。我々が目指すがんワクチンは被験者のHLAに問わず施行することである。XAGE−1bに対する特異的な反応は先述したようにXAGE−1b全長にわたっており、その中でも抗体、CD4陽性T細胞およびCD8T陽性細胞が認識する主要な領域が存在することを提示してきた。また後述するように今回数種のHLAに拘束されるエピトープペプチドの同定に成功したわけであるが、
図14に示すようにヒトのHLAは多種多様であり、各HLAに対するエピトープをそれぞれ同定する作業は非常に困難を極める。そのため、
図14で示す各対象者のHLAと主要認識領域の対応表は、新規エピトープペプチドの推測に有用である。将来的にはHLAの組み合わせによっては、非常に効率よく特異的な反応を誘導できうる領域が明らかになる可能性がある。
【0116】
図15の(a)はIFN−γ ELISAの結果を表し、8C187−1によるペプチド認識の結果を表している。
図15の(a)に示すように、XAGE−1bのアミノ酸配列の45−60位のアミノ酸配列からなるペプチド(ペプチド45−60)または49−64位のアミノ酸配列からなるペプチド(ペプチド49−64)を用いてCD8陽性T細胞(8C187−1)を刺激すると、IFN−γの産生がみられた。このことから、症例KLU187から樹立したクローンT細胞(8C187−1)は、XAGE−1bのアミノ酸配列の45−60位および49−64位のアミノ酸配列を認識していることが明らかになった。また、
図15の(b)は抗CD4抗体、抗CD8抗体、抗classI抗体、または抗classII抗体を添加して、IFN−γ ELISAを行った結果を表している。
図15の(b)に示すように、このT細胞は、CD8拘束性、classI拘束性にペプチドを認識していることが明らかとなった。
【0117】
さらに、CD8陽性T細胞がどの種類のHLAによって提示されたペプチドを認識しているか検討するために、抗原提示細胞として様々な種類のEBV−B細胞を用い、XAGE−1bのアミノ酸配列の49−64位のアミノ酸配列からなるペプチド(ペプチド49−64)についてIFN−γ ELISAを行った。結果を
図15の(c)に示す。
図15の(c)は、HLA−A
*0206に拘束されるCD8陽性T細胞クローンがこのペプチドを認識することを示す。
図15の(c)に示すように、抗原提示細胞として、HLA−A
*0206を発現するEBV−B細胞(KLU187の自己のEBV−B細胞およびOS−PO7 EBV−B細胞)を用いて、KLU187の抗原特異的CD8陽性T細胞からクローン化したCD8陽性T細胞クローン(8C187−1)を刺激すると、XAGE−1b特異的にIFN−γを産生する細胞が検出された。この結果から、HLA−A
*0206拘束性のCD8陽性T細胞クローン(8C187−1)は、ペプチド49−64を認識することが明らかになった。
【0118】
さらに、ペプチド45−60および49−64について、HLA−A
*0206拘束性のXAGE−1b特異的CD8陽性T細胞によって認識される最小エピトープ領域を決定するため、
図16に示す種々のペプチド(48−61、49−61,50−61、51−61、52−61、53−61、49−64、48−61、48−60、48−59、48−58、48−57および48−56)を合成し、IFN−γ ELISAを行った。
【0119】
結果を
図16に示す。
図16は、HLA−A
*0206拘束性のCD8陽性T細胞によって認識されるXAGE−1b領域を示す図である。
図16の(a)および(b)に示すように、IFN−γ ELISAの結果から、CD8陽性T細胞によって認識される最小エピトープは11個のアミノ酸からなることが予想された。
【0120】
血清中にはタンパク質分解酵素等が含まれているため、血清に含まれる様々な成分や酵素によってペプチドが修飾を受けることが考えられる。そこで、血清非存在下においても同様の検討を行った。IFN−γ ELISAの条件は、以下のとおりである:
KLU187 CD8(8C187−1) 1×10
4個
ペプチド:XAGE−1bペプチド 各1μM。
【0121】
IFN−γ ELISAの結果を
図32に示す。
図32の(b)に示すように、タンパク分解酵素などを含まない血清非存在下(AIM−V)においてもP50−60が最も反応することから、エピトープ領域はやはりXAGE−1bのアミノ酸配列の50位−60位であることが明らかになった。また、
図32の(a)に示す結果では、血清存在下(5%PS/AIM−V)においては、あたかもエピトープがP50−61であるかのように思われるが、血清非存在下ではP50−61の反応は低下した。一方、血清非存在下においてもP50−60の反応は有意であった。この結果から、XAGE−1bのアミノ酸配列の50位−60位(配列番号17)がエピトープであろうと推測された。
【0122】
さらに、HLA−A
*0206に提示されるエピトープ領域を決定するために、HLA−A
*0206とHLA−Cw
*0102とのみを共有する非自己の抗原提示細胞(Mi−EBV−B)を用いて、IFN−γ ELISAを行った。血清非存在下ではT細胞の反応が低下することが考えられた。このため、T細胞の活性を維持するために、AIM−V培地にはIL―2を添加した。IFN−γ ELISAの条件は、以下のとおりである:
KLU187 CD8(8C187−1) 1×10
4個
ペプチド:XAGE−1bペプチド 各1μM。
【0123】
IFN−γ ELISAの結果を
図33に示す。
図33に示すように、P50−60を用いて刺激するとIFN−γが産生されることから、このCD8陽性T細胞クローンはHLA−A
*0206上に提示されたP50−60を認識していると判断できる。
図15の(c)に示したように、このCD8陽性T細胞クローンは、(Okazaki EBV−B)HLA−Cw
*0102によって提示されるペプチドは認識しないことが明らかになっている。このため、HLA−A
*0206とHLA−Cw
*0102とのみを共有する抗原提示細胞(Mi−EBV−B)において、CD8陽性T細胞クローンが認識しているのは、HLA−A
*0206によって提示されたペプチドであると証明することができた。
【0124】
後述する
図18示すように、一般的にCD8陽性T細胞に認識されるペプチドは、9個のアミノ酸からなるものが多い。そこで、XAGE−1bのアミノ酸配列の50−60位のアミノ酸を含む9〜12個のアミノ酸からなるペプチド(P50−61、P50−60、P51−61およびP51−60)を作製し、XAGE−1bのアミノ酸配列の50−60位の11個のアミノ酸配列が真に最小エピトープであるかを確認した。IFN−γ ELISAの結果を
図16の(c)に示す。
【0125】
図16の(c)に示すように、血清非存在下において、XAGE−1bのアミノ酸配列の50−60位(配列番号17)を含むペプチドによってCD8陽性T細胞を刺激すると、ペプチドの濃度依存的にIFN−γ産生量が増加することが明らかになった。また、XAGE−1bのアミノ酸配列の50−60位のアミノ酸配列を有するペプチドによってCD8陽性T細胞を刺激した場合は、XAGE−1bのアミノ酸配列の50−60位のアミノ酸配列を有するペプチドによってCD8陽性T細胞を刺激した場合と比較して、IFN−γ産生に与える効果が顕著であった。ペプチドが低濃度であってもCD8陽性T細胞の反応が維持されることから、HLA−A
*0206によって提示されるペプチドは、XAGE−1bのアミノ酸配列の50−60位の11個のアミノ酸配列であることが明らかになった。
【0126】
さらに、KLU187の抗原特異的T細胞からクローン化した別のT細胞クローン(8C187−2)の、CD8拘束性、classI拘束性を確認したのち、同様の手法で最小エピトープを決定した。
【0127】
図17は、ペプチド45−60およびペプチド49−64がHLA−Cw
*0102拘束性のCD8陽性T細胞クローン(8C187−2)によって認識されるペプチドであることを示す図である。
図17の(a)はIFN−γ ELISAの結果を表し、8C187−2によるペプチド認識の結果を表している。
図17の(b)は抗CD4抗体、抗CD8抗体、抗classI抗体、または抗classII抗体を添加して、IFN−γ ELISAを行った結果を表している。
図17の(c)は、HLA−Cw
*0102に拘束されるCD8陽性T細胞クローンがこのペプチドを認識することを表している。
【0128】
図17に示すように、抗原提示細胞として、HLA−Cw
*0102を発現するEBV−B細胞を用いて、KLU187からクローン化したCD8陽性T細胞クローン(8C187−2)を刺激すると、XAGE−1b特異的なIFN−γの産生が検出された。この結果から、HLA−Cw
*0102拘束性のCD8陽性T細胞クローン(8C187−2)は、ペプチド49−64を認識することが明らかになった。
【0129】
さらに、HLA−Cw
*0102拘束性のXAGE−1b特異的CD8陽性T細胞クローン(8C187−2)によって認識される最小エピトープ領域を決定するため、
図18に示す数種類のペプチド(50−61、51−61、52−61、50−60、50−59および50−58)を合成し、IFN−γ ELISAを行った。
【0130】
結果を
図18に示す。
図18は、HLA−Cw
*0102拘束性のCD8陽性T細胞によって認識されるXAGE−1b領域を示す図である。
図18の(c)はCD8陽性T細胞によって産生されるIFN−γ量がペプチドの濃度依存的に増加することを示す図である。
【0131】
HLA−Cw
*0102拘束性のT細胞が認識するXAGE−1bペプチド領域は、XAGE−1bのアミノ酸配列の51−59位(配列番号18)であることが予想された。しかし、P51−61に対するCD8陽性T細胞の反応が非常に強いことから、HLA−A
*0206とHLA−Cw
*0102とのみを共有する抗原提示細胞(Mi−EBV−B)を用いて、
図18の(c)に示す4種類のペプチド(51−61、51−60、51−59および50−59)の濃度によるCD8陽性T細胞クローンの反応を調べた。IFN−γ ELISAの結果を
図18の(c)に示す。
【0132】
図18の(c)に示すように、HLA−Cw
*0102拘束性のペプチドの最小単位であるP51−59を含み、且つC末端のアミノ酸を追加したP51−60またはP51−61を用いて刺激した場合は、P51−59によって刺激した場合と同様、ペプチドの濃度依存的にIFN−γ産生量が増加することが明らかになった。このことから、HLA−Cw
*0102によって提示される最小エピトープは、XAGE−1bのアミノ酸配列の51−59位(配列番号18)であることが証明された。HLA−Cw
*0102によって提示されるペプチド領域は複数個存在するが、コアになる部分はXAGE−1bのアミノ酸配列の50位のアミノ酸を含まない51−59位のアミノ酸配列(配列番号18)であると考えられた。
【0133】
図19は、ペプチド21−36がT細胞クローン(8C187−4)によって認識されるペプチドであることを示す図である。
図19の(a)はIFN−γ ELISAの結果を表し、8C187−4によるペプチド認識の結果を表している。
図19の(b)は抗CD4抗体、抗CD8抗体、抗classI抗体、または抗classII抗体を添加して、IFN−γ ELISAを行った結果を表している。
図19の(c)は、HLA−B
*3501に拘束されるCD8陽性T細胞クローンがこのペプチドを認識することを表している。
【0134】
図19の(b)はKLU187の抗原特異的T細胞からクローン化した別のT細胞クローン(8C187−4)の、CD8、classI拘束性を確認したのち同様の手法で最小エピトープを決定した。
図19の(c)に示すように、抗原提示細胞として、HLA−B
*3501を発現するEBV−B細胞を用いて、KLU187からクローン化したCD8陽性T細胞クローン(8C187−4)を刺激すると、XAGE−1b特異的なIFN−γの産生が検出された。この結果から、HLA−B
*3501拘束性のCD8陽性T細胞クローン(8C187−4)は、ペプチド21−36を認識することが明らかになった。
【0135】
さらに、HLA−B
*3501拘束性のXAGE−1b特異的CD8陽性T細胞クローン(8C187−4)によって認識される最小エピトープ領域を決定するため、
図20に示す複数のペプチド(17−32、21−36、17−31、18−31、19−31、20−31、21−31、21−30、21−29および22−32)を合成し、IFN−γ ELISAを行った。
【0136】
結果を
図20に示す。HLA−B
*3501拘束性のXAGE−1b特異的CD8陽性T細胞クローン(8C187−4)によって認識される最小エピトープ領域は、XAGE−1bのアミノ酸配列の21位−29位であることを同定した。
【0137】
図21は、ペプチド21−36がT細胞クローン(8C237−22)によって認識されるペプチドであることを示す図である。
図21の(a)はIFN−γ ELISAの結果を表し、8C237−22によるペプチド認識の結果を表している。
図21の(b)は抗CD4抗体、抗CD8抗体、抗classI抗体、または抗classII抗体を添加して、IFN−γ ELISAを行った結果を表している。
図21の(c)は、HLA−B
*4002に拘束されるCD8陽性T細胞クローンがこのペプチドを認識することを表している。
【0138】
図21の(b)は、KLU237の抗原特異的T細胞からクローン化した別のT細胞クローン(8C237−22)の、CD8拘束性、classI拘束性を確認したのちに、同様の手法で最小エピトープを決定した。
図21の(c)に示すように、抗原提示細胞として、HLA−B
*4002を発現するEBV−B細胞を用いて、KLU187からクローン化したCD8陽性T細胞クローン(8C237−22)を刺激すると、XAGE−1b特異的なIFN−γの産生が検出された。この結果から、HLA−B
*4002拘束性のCD8陽性T細胞クローン(8C237−22)は、ペプチド21−36を認識することが明らかになった。
【0139】
さらに、HLA−B
*4002拘束性のXAGE−1b特異的CD8陽性T細胞クローン(8C237−22)によって認識される最小エピトープ領域を決定するため、
図22に示す数類のペプチド(17−32、21−36、17−31、18−31、19−31、20−31、21−31、21−30、21−29および22−32)を合成し、IFN−γ ELISAを行った。
【0140】
結果を
図22に示す。HLA−B
*4002拘束性のXAGE−1b特異的CD8陽性T細胞クローン(8C237−22)によって認識される最小エピトープ領域は、XAGE−1bのアミノ酸配列の21位−29位(配列番号15)であることを同定した。
【0141】
図23は、樹立したXAGE−1b特異的CD4陽性T細胞(4C187−1)は、XAGE−1bタンパク質、XAGE−1bプラスミドDNAをトランスフェクトした293T細胞のライセートおよび自己肺癌組織のライセートのそれぞれを貪食させた自己樹状細胞を用いて刺激した結果、抗原特異的IFN−γ産生反応を示したことを示す。
【0142】
図24は、HLA−B
*35拘束性のCD8陽性T細胞クローン(8C187−4)は、XAGE−1bタンパク質、5種類の25merのXAGE−1bオーバーラップペプチド(具体的なアミノ酸配列は
図26を参照)を貪食させた自己樹状細胞で刺激した結果、抗原特異的IFN−γ産生反応を示したことを示す。また、25merの長鎖ペプチドを用いることによって樹立したT細胞が反応しうることを証明したことは、のちに解説する長鎖ペプチドの有用性を証明している。また
図24の(b)は、8C187−4は、XAGE−1bのプラスミドDNAをトランスフェクトしたB
*3501陽性の腫瘍細胞を特異的に認識していることを示す。
【0143】
図24に示すように、抗XAGE−1b抗体陽性患者より得られたT細胞が自然エピトープペプチドを認識し、抗原陽性の腫瘍細胞に特異的な細胞傷害活性を有することが明らかになった。このことは、XAGE−1bが強い免疫原性を有し、非小細胞肺癌患者において、XAGE−1bを標的としたがんワクチン療法が有用であることを示唆している。
【0144】
XAGE−1b特異的CD8陽性クローンT細胞の誘導は、世界的にも誰も成功しておらず、本発明者等が初めて成功した。また、XAGE−1b特異的CD8陽性T細胞が認識するペプチド領域も明らかではなかったが、本発明によって初めて明らかになった。
【0145】
さらに、XAGE−1bに対する特異的免疫反応の誘導するために必要とされる抗原とCD8陽性T細胞との反応時間について検討した。
図25は、抗原と細胞との反応時間に応じた、XAGE−1bに対する特異的免疫反応の誘導を示す図である。
図25の(a)はIL−2およびIL−7存在下、(b)および(c)はIL−7およびIL−15存在下における結果を表している。また、(b)はXAGE−1bオーバーラップペプチドによって刺激したEBV−B細胞と共培養8時間後に、XAGE−1b特異的にIFN−γを産生するCD8陽性T細胞が誘導されることを示す図である。(c)は抗原特異的T細胞クローンにおいても同様に8時間の共培養で反応が得られたことを示す。
図25の(a)〜(c)のそれぞれのIFN−γ ELISAの条件は、以下のとおりである:
図25の(a)
Effector:KLU187 CD8 1×10
4個
Target:KLU187 EBV−B(自己) 2×10
3個
ペプチド:XAGE−1bオーバーラップペプチド 1μg/ml
3回刺激培養後(IVS×3)
図25の(b)
Effector:KLU187 CD8 1×10
4個
Target:KLU187 EBV−B(自己) 1×10
4個
ペプチド:XAGE−1bオーバーラップペプチド 1μg/ml
図25の(c)
Effector:KLU187 CD8クローン 8C187−1 1×10
4個
Target:KLU187 EBV−B(自己) 2×10
3個
ペプチド:XAGE−1bオーバーラップペプチド 1μg/ml
3回刺激培養後(IVS×3)。
【0146】
図25に示すように、IL−15を添加することによってCD8陽性T細胞をさらに活性化したり抗原提示能力を増強したりしたとしても、ワクチン未施行のがん患者においてXAGE−1b特異的な細胞免疫を誘導するには、抗原とCD8陽性T細胞との反応時間を8時間程度に設定する必要があることが明らかになった。
【0147】
公知のCT抗原であるNY−ESO−1についても、刺激培養後のCD8陽性T細胞と同数のNY−ESO−1オーバーラップペプチドでパルスあるいは非パルスの自己のEBV−B細胞とを、37℃で4時間、CO
2インキュベーター内で反応させてIFN−γキャッチアッセイを行い、NY−ESO−1特異的CD4陽性T細胞またはCD8陽性T細胞の検出が可能であることを確認した(図示しない)。
【0148】
このような抗原とCD8陽性T細胞との反応時間の違いは、ペプチドの構造やXAGE−1bの抗原性など様々な要因が推測されるが、種々のがん抗原に対するT細胞の反応機序の違いも考えられる。
【0149】
<まとめ>
〔結論〕
〔1:液性免疫反応〕
非小細胞肺癌患者200例について、がん精巣抗原の一つであるXAGE−1bに対する免疫反応を詳細に検討した。その結果、
(1):非小細胞肺癌全体で20/200(10.0%)に抗体陽性例が認められた.
(2):stage3B/4の進行期肺腺癌に限定すると13/69(18.8%)と高い頻度で抗体陽性例が認められた.
(3):比較検討のためにNY−ESO−1に対する抗体反応を検討した結果、肺癌全体で6.7%、stage3/4の非小細胞肺癌では9.7%が抗体陽性であった.
(4):以上より、XAGE−1bに対する抗体反応陽性率は、CT抗原の中でも高い免疫原性を有し、すでにワクチンの標的抗原として臨床試験も行われているNY−ESO−1に対する抗体陽性率と比較できるものであり、肺癌患者に対するワクチンの標的抗原の候補となり得ることが判明した.
(5):抗体が認識する部位は、XAGE−1bのアミノ酸配列の21−48位(配列番号2)、57―72位(配列番号7)、65−81位(配列番号8)の3領域であることを明らかにした.
(6):さらに抗体検出感度を上げることにより、肺癌診断に応用可能である。
【0150】
〔2:細胞性免疫反応〕
XAGE−1b特異的なCD4陽性T細胞、およびCD8陽性T細胞の免疫反応をさらに検討した結果、
(1):血清抗体価陽性患者16名の検討で、14名(87.5%)でXAGE−1b特異的CD4陽性T細胞の検出に成功した.
(2):特異的な反応が見られた、CD4陽性T細胞が認識する部位は、CD4が認識する領域は、XAGE−1bのアミノ酸配列の13−36位(配列番号9)、29−48位(配列番号12)、53−68位(配列番号13)であり、さらに主要な部位は13−28位(配列番号10)および33−48位(配列番号6)であることを明らかにした.
(3):さらにXAGE−1b特異的CD8陽性T細胞の誘導にも成功し、その検出法を確立した.
(4):血清抗体価陽性患者6例の検討で、4例(66.7%)でXAGE−1b特異的CD8陽性T細胞の検出に成功した.
(5):特異的CD8陽性T細胞が認識するHLA−A
*0206拘束性のエピトープ領域はXAGE−1bのアミノ酸配列の50−60位(配列番号17)であり、HLA−Cw
*0102拘束性のエピトープ領域はXAGE−1bのアミノ酸配列の51−59位(配列番号18)であることを明らかにした。また、特異的CD8陽性T細胞が認識するHLA−B
*3501拘束性のエピトープ領域および特異的CD8陽性T細胞が認識するHLA−B
*4002拘束性のエピトープ領域はXAGE−1bのアミノ酸配列の21−29位(配列番号15)であることを明らかにした.
(6):特異的CD8陽性T細胞が認識するエピトープ領域を同定したことは、これらの領域を含むペプチドは、がん・ペプチドワクチンの候補となり、より効率に細胞傷害性T細胞を誘導出来得る。
【0151】
〔考察〕
本発明において、
(1):肺癌患者におけるXAGE−1bに対する特異的な液性、細胞性免疫応答を確認した.
(2):XAGE−1b抗体陽性例は非小細胞肺癌全体で20/200例(10.0%)、進行期(Stage3B/4)肺腺癌に限れば13/69例(18.8%)で液性免疫が誘導されている.
(3):抗XAGE−1b抗体の認識部位は、XAGE−1bのアミノ酸配列の21−48位(配列番号2)、57−72位(配列番号7)、65−81位(配列番号8)の3領域であった.
(4):XAGE−1bに対する特異的CD4陽性T細胞は14/16例(87.5%)で誘導され、CD4陽性T細胞が認識する部位は、XAGE−1bのアミノ酸配列の13−36位(配列番号9)、29−48位(配列番号12)、53−68位(配列番号13)であり、さらに主要な部位は13−28位(配列番号10)および33−48位(配列番号6)である.
(5)XAGE−1bに対する特異的CD8陽性T細胞は4/6例(66.7%)で誘導され、CD8が認識する領域は、XAGE−1bのアミノ酸配列の9−24位(配列番号14)、21−36位(配列番号3)、29−44位(配列番号5)、49−64位(配列番号16)である.
(6):特異的CD8陽性T細胞の反応はNY−ESO−1などと比べ、反応時間を要し、従来の検出法では困難を要する.
(7):XAGE−1bに対するHLA−A
*0206拘束性の特異的CD8陽性T細胞が認識するペプチド領域はXAGE−1bのアミノ酸配列の50−60位(配列番号17)である.
(8):XAGE−1bに対するHLA−Cw
*0102拘束性の特異的CD8陽性T細胞が認識するペプチド領域はXAGE−1bのアミノ酸配列の51−59位(配列番号18)である.
(9):XAGE−1bに対するHLA−B
*3501拘束性の特異的CD8陽性T細胞およびXAGE−1bに対するHLA−B
*4002拘束性の特異的CD8陽性T細胞が認識するペプチド領域は、XAGE−1bのアミノ酸配列の21−29位(配列番号15)である.
(10):XAGE−1b特異的抗体が認識する部位を明らかにしたことは、肺癌診断に応用可能である.
(11):XAGE−1b特異的CD4陽性およびCD8陽性T細胞が認識する領域を明らかにしたことは、同領域を含むペプチドが、がんワクチン療法のペプチド(抗原)候補となる.
(12):XAGE−1b特異的CD8陽性T細胞が認識する領域を明らかにしたことは、同部位が細胞傷害性T細胞を誘導できうる免疫原生の強いペプチドであり、がんワクチン療法を含む、がん治療に応用可能である。
【0152】
〔実施例2〕
実施例2では、XAGE−1bの長鎖ペプチドを作製した。
図26は、XAGE−1bの長鎖ペプチドのアミノ酸配列を示す図である。
図26に示すように、実施例2で作製したXAGE−1bの長鎖ペプチドは、81個のアミノ酸からなるXAGE−1bの全長をカバーするように設計された、25個のアミノ酸からなる以下の5種類のペプチドである.
ペプチド1−25(配列番号19に示されるアミノ酸配列からなるペプチド)
ペプチド15−39(配列番号20に示されるアミノ酸配列からなるペプチド)
ペプチド29−53(配列番号21に示されるアミノ酸配列からなるペプチド)
ペプチド43−67(配列番号22に示されるアミノ酸配列からなるペプチド)
ペプチド57−81(配列番号23に示されるアミノ酸配列からなるペプチド)。
【0153】
ここで、XAGE−1bと同じがん精巣抗原であるNY−ESO−1を標的としたペプチドワクチンの解析結果を示す。
【0154】
NY−ESO−1ワクチンに関しては、タンパク質(NY−ESO−1全長ペプチド)ワクチンが既に施行されている。しかし、NY−ESO−1のタンパク質ワクチンは、
(i)非常にコストがかかる、
(ii)タンパク質は非常に大きな物質であるので、適切なアジュバント(免疫賦活剤)を使用しなければ抗原提示細胞に貪食されにくい、および
(iii)外来物質であるため、CD8陽性T細胞に対して充分に抗原提示されにくい(MHC classIを介して抗原提示されにくい)、
と予想される。そこで、現在は、NY−ESO−1タンパク質の免疫原性の高い部位(特異的抗体、特異的CD4陽性T細胞、または特異的CD8陽性T細胞が認識している頻度が高い部位)を予測して、その部位を含む長鎖ペプチドのワクチン(NY−SO−1fペプチドワクチン)が施行されている。
【0155】
しかし、fペプチド(20個のアミノ酸からなる長鎖ペプチド)をワクチンとして使用する場合に、
(A)fペプチドが抗原提示され得るのか、および
(B)fペプチドワクチンはタンパク質ワクチンと同じ効果を奏するのか、
は不明であった。
【0156】
そこで、まず、上記(A)に関して検討を行った。具体的には、ヒト単球白血病株であるU937を用い、20ng/mlのPMAを用いてプライミングしたU937を、FAM
TMをコンジュゲイトしたNY−ESO−1fペプチドを用いて培養した。U937におけるNY−ESO−1fペプチドの局在は、蛍光色素であるFAM
TMの蛍光を観察することによって確認した。
【0157】
結果を
図27に示す。
図27は、NY−ESO−1fペプチドが、抗原提示細胞(U937)に取り込まれたことを示す図である。
図27のWGA(Wheat Germ Agglutini)は、細胞膜が染色されていることを示す。
【0158】
図27に示すように、培養3時間後に、NY−ESO−1fペプチドが細胞に取り込まれていることが確認された。この結果から、NY−ESO−1タンパク質(NY−ESO−1全長ペプチド)よりも短いNY−ESO−1fペプチド(20アミノ酸)は、抗原提示細胞に取り込まれ得ることが明らかになった。
【0159】
また、NY−ESO−1fペプチドは、MHC classIIによって抗原提示されることが確認された(
図28)。具体的には、NY−ESO−1特異的CD4陽性T細胞クローン(E−8A1)について、抗原提示細胞として自己EBV−B細胞を用いて、ペプチドNY−ESO−1fペプチド存在下において、4℃または37℃の温度条件下でIFN−γ ELISAを行った。
【0160】
図28は、NY−ESO−1fペプチドは、MHC classIIによって抗原提示されることを示す図である。
図28の横軸の「E/T ratio」は、Effector(T細胞)とTarget(EBV−B細胞)の共培養比率を表している。
図28に示すように、MHC classIIによるNY−ESO−1fペプチドの提示は、温度の影響を受けることも明らかになった。この結果は、NY−ESO−1fペプチドは、MHC classIIによって抗原提示されるが、NY−ESO−1fペプチドの取込みが低温によって阻害されることによって、CD4陽性T細胞に対する反応が低下することを示している。
【0161】
さらに、NY−ESO−1fペプチドは、MHC classIによっても抗原提示される、すなわちクロスプレゼンテーションされることが確認された(
図29)。具体的には、1μMのNY−ESO−1
92−100短鎖ペプチド、1μMのNY−ESO−1
91−110fペプチドまたは10μg/mlの組換えタンパク質を含有している無血清AIM−V培地中で、10μMのサイトカラシンBの存在下または非存在下において、樹状細胞(5×10
5個/ml)を培養し、抗原をパルスした。細胞を洗浄した後に、CD8陽性T細胞クローン(TK−f01 2H10)(5×10
3個)を、それぞれの抗原でパルスした樹状細胞(5×10
3個)と37℃において24時間、共培養した。抗原刺激によるIFN−γの産生量はELISAによって測定した。
【0162】
図29は、NY−ESO−1fペプチドは、MHC classIによって抗原提示されることを示す図である。
図29に示すように、MHC classIによるNY−ESO−1fペプチドの提示は、サイトカラシンBの影響を受けることも明らかになった。この結果は、NY−ESO−1fペプチドは、MHC classIによって抗原提示されるが、NY−ESO−1fペプチドの取込みがサイトカラシンBによって阻害されることによって、CD8陽性T細胞に対する反応が低下することを示している。
【0163】
外来抗原(タンパク質およびペプチド)が抗原提示細胞に取り込まれた場合は、基本的にMHC classII経路(CD4陽性T細胞の誘導に関与する経路)を介して抗原提示される。これに対して、MHC classI経路(CD8陽性T細胞の誘導に関与する経路)は内在性抗原を抗原提示するための経路である。しかし、外来抗原がMHC classI経路を介して抗原提示される場合がある。これは、クロスプレゼンテーションとして知られている。
【0164】
NY−ESO−1のfペプチド(長鎖ペプチド)は、抗原提示細胞に取り込まれ、外来抗原を抗原提示するための本来の経路であるMHC classII経路を介してCD4陽性T細胞を活性化し得、MHC classI経路を介してクロスプレゼンテーションされてCD8陽性T細胞を活性化し得ることが確認された。また、
図29の結果は、適切なアジュバントを使用しなければ、タンパク質は、クロスプレゼンテーションによってCD8陽性T細胞を充分に誘導できないことを示唆している。これらの結果は、長鎖ペプチドが、ワクチンとしてタンパク質と同様の機能を有することを証明するものである。
【0165】
尚、短鎖ペプチドワクチン(MHC classI経路の場合、最小エピトープは、およそ9個〜11個のアミノ酸からなる。例えば、東京大学、中村祐輔教授指導のワクチンなど)は、被験体のHLAの種類に制限される。これに対して、タンパク質ワクチンは、抗原全長をカバーするので被験体のHLAの種類を問わない。
【0166】
具体的に説明すると、短鎖ペプチドワクチンは、特定のHLAに拘束されるペプチドを使用するため、それ以外のHLA拘束性のT細胞は基本的には認識できない。例えば、XAGE−1bの場合、HLA−Cw
*0102拘束性のエピトープペプチドはXAGE−1bのアミノ酸配列の51−59位に対応するアミノ酸配列を有するペプチド(配列番号18で表される9個のアミノ酸からなるペプチド)である。しかし、この短鎖ペプチドワクチンは、HLA−Cw
*0102拘束性の免疫を誘導することはできるが、HLA−A
*0206拘束性の免疫を誘導することはできない。これは、HLA−A
*0206拘束性の最小エピトープはXAGE−1bのアミノ酸配列の50−60位に対応するアミノ酸配列を有するペプチド(配列番号17で表される11個のアミノ酸からなるペプチド)であり、配列番号18で表される9個のアミノ酸からなるペプチドでは短すぎるためである。このため、配列番号18で表される9個のアミノ酸からなる短鎖ペプチドのワクチンは、Cw0102というHLAを有する被験体にしか使用できない。
【0167】
一方、例えば、配列番号17で表される11個のアミノ酸からなる短鎖ペプチドワクチンは、HLA−A
*0206拘束性の免疫を誘導することができる。さらに、この短鎖ペプチドワクチンは、抗原提示細胞に取り込まれ、適切に処理されて、HLA−Cw
*0102拘束性の免疫をも誘導し得る。つまり、特異的CD4陽性T細胞または特異的CD8陽性T細胞がそれぞれ認識する部位(可能ならばエピトープペプチド)を同定し、そして認識の頻度を調べることによって、タンパク質ワクチンと同様に被験体のHLAの種類に関係なく、低コストで、且つ有効なワクチンとなり得る長鎖ペプチドを作製することができる。
【0168】
図13に示したように、XAGE−1bの解析では、特異的抗体、特異的CD4陽性T細胞、または特異的CD8陽性T細胞によって認識されるXAGE−1bの部位には特異性がある傾向が認められるものの、特異的抗体、特異的CD4陽性T細胞、または特異的CD8陽性T細胞が認識する部位は、XAGE−1bの全長にわたって存在する。このため、XAGE−1bの全長をカバーするように、複数の長鎖ペプチドを組み合わせて投与することによって、被験体のHLAの種類を問わずXAGE−1bワクチンを施行し得ると考えられた。