(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
[1.分岐型両親媒性ブロックポリマー]
本発明の両親媒性ブロックポリマーは、サルコシンを含む分岐した親水性ブロックと、ポリ乳酸を有する疎水性ブロックとを有する。親水性ブロックと疎水性ブロックとは、リンカー部を介して結合している。
[1−1.親水性ブロック]
本発明において、分岐型両親媒性ブロックポリマーの親水性ブロックが有する「親水性」という物性の具体的な程度としては、特に限定されるものではないが、少なくとも、親水性ブロックの全体が、後述の疎水性ブロックとしてのポリ乳酸鎖に対して相対的に親水性が強い性質をいう。或いは、親水性ブロックが疎水性ブロックとコポリマーを形成することによって、コポリマー分子全体として両親媒性を実現することが可能となる程度の親水性をいう。さらに或いは、両親媒性ブロックポリマーが溶媒中で自己組織化して、自己集合体、特に粒子状の自己集合体を形成することが可能となる程度の親水性をいう。
【0023】
本発明の両親媒性ブロックポリマーは、親水性ブロックにおいて分岐した構造を有する。親水性ブロックの分岐それぞれには、サルコシンが含まれる。
親水性ブロックにおいて、構成単位の種類及び比率は、ブロック全体が上述したような親水性となるように、当業者によって適宜決定されるものである。具体的には、分岐全てに含まれるサルコシン単位の合計は、例えば、2〜200、2〜100、又は2〜10個でありうる。あるいは、複数の親水性ブロック全てに含まれるサルコシン単位の合計は、例えば、30〜200、又は50〜100個でありうる。1つの分岐当たりのサルコシン単位数の平均は、例えば、1〜60、1〜30、1〜10、又は1〜6でありうる。すなわち、親水性ブロックそれぞれは、サルコシン又はポリサルコシン鎖を含んで構成されることができる。
構成単位数が上記範囲を超えると、分子集合体を形成した場合に、形成された分子集合体の安定性を欠く傾向にある。上記範囲を下回ると、両親媒性ブロックポリマーとしての体をなさないか、又は、分子集合体の形成自体が困難となる傾向にある。
【0024】
親水性ブロックにおける分岐は2以上であればよいが、分子集合体を形成する際に粒子形状のミセルを効率的に得る観点から、好ましくは3以上である。親水性ブロックにおける分岐の数の上限は特に限定されるものではないが、例えば27である。特に、本発明においては、親水性ブロックの分岐の数が3であることが好ましい。
【0025】
サルコシン(すなわちN−メチルグリシン)は水溶性が高く、また、サルコシンのポリマーはN置換アミドを有することから通常のアミド基に比べてシス−トランス異性化が可能であり、さらに、C
α炭素まわりの立体障害が少ないことから、高い柔軟性を有するものである。このような構造を構成ブロックとして用いることは、当該ブロックに高い親水性の基本特性、又は、高い親水性と高い柔軟性とを併せ持つ基本特性が備わる点で非常に有用である。
さらに、親水性ブロックは、末端(すなわちリンカー部と反対側の末端)に親水性基(例えば水酸基に代表される)を有していることが好ましい。
【0026】
なお、ポリサルコシン鎖においては、全てのサルコシン単位が連続していてもよいし、非連続であってもかまわないが、当該ポリペプチド鎖全体として上述の基本特性を損なわないように分子設計されたものであることが好ましい。
【0027】
[1−2.疎水性ブロック]
本発明において、疎水性ブロックが有する「疎水性」という物性の具体的な程度としては、特に限定されるものではないが、少なくとも、疎水性ブロックが、上記の親水性ブロックの全体に対して相対的に疎水性が強い領域であり、当該親水性ブロックとコポリマーを形成することによって、コポリマー分子全体として両親媒性を実現することが可能となる程度の疎水性を有していれば良い。或いは、当該両親媒性ブロックポリマーが溶媒中で自己組織化して、自己集合体、好ましくは粒子状の自己集合体を形成することが可能となる程度の疎水性を有していれば良い。
【0028】
1本の両親媒性ブロックポリマー中に存在する疎水性ブロックは分岐していなくともよいし、分岐していてもよい。
本発明において、疎水性ブロックは、ポリ乳酸鎖を含むものである。疎水性ブロックにおいて構成単位の種類及び比率は、ブロック全体が上述したような疎水性となるように、当業者によって適宜決定されるものである。具体的には、例えば疎水性ブロックが分岐していない場合、乳酸単位の数は、例えば5〜100、15〜60個、又は25〜45個でありうる。疎水性ブロックが分岐している場合は、分岐全てに含まれる乳酸単位の数の合計が、例えば10〜400、好ましくは20〜200個でありうる。この場合、1つの分岐当たりの乳酸単位数の平均は、例えば、5〜100、好ましくは10〜100個である。
構成単位数が上記範囲を上回ると、分子集合体を形成した場合に、当該形成された分子集合体の安定性を欠く傾向にある。構成単位数が上記範囲を下回ると、分子集合体の形成自体が困難となる傾向にある。
【0029】
疎水性ブロックが分岐する場合、分岐の数は特に限定されないが、分子集合体を形成する際に粒子形状のミセルを効率的に得る観点から、例えば、親水性ブロックにおける分岐数以下とすることができる。
【0030】
ポリ乳酸は、以下の基本特性を有する。
ポリ乳酸は、優れた生体適合性及び安定性を有するものである。このため、このようなポリ乳酸を構成ブロックとした両親媒性物質から得られる分子集合体は、生体、特に人体への応用性という点で非常に有用である。
また、ポリ乳酸は、優れた生分解性を有することから代謝が早く、生体内においてがん組織以外への組織への集積性が低い。このため、このようなポリ乳酸を構成ブロックとした両親媒性物質から得られる分子集合体は、がん組織への特異的な集積性という点で非常に有用である。
そして、ポリ乳酸は、低沸点溶媒への溶解性に優れるものであることから、このようなポリ乳酸を構成ブロックとした両親媒性物質から分子集合体を得る際に、有害な高沸点溶媒の使用を回避することが可能である。このため、このような分子集合体は、生体への安全性という点で非常に有用である。
【0031】
なお、ポリ乳酸鎖においては、全ての乳酸単位が連続していてもよいし、非連続であってもかまわないが、ポリペプチド鎖全体として上述の基本特性を損なわないように分子設計されたものであることが好ましい。
【0032】
疎水性ブロックは、光学純度の観点から、さらに以下のバリエーションを有することができる。
例えば、疎水性ブロックにおける当該乳酸単位が、L−乳酸単位のみで構成されてもよいし、D−乳酸単位のみで構成されてもよいし、L−乳酸単位とD−乳酸単位との両者から構成されてもよい。疎水性ブロックは、上記例示のものから選ばれた1種が単独で使用されてもよいし、複数種が組み合わされて使用されてもよい。
【0033】
当該乳酸単位がL−乳酸単位とD−乳酸単位との両者から構成される場合、L−乳酸単位とD−乳酸単位との重合順番は限定されない。L−乳酸単位とD−乳酸単位とが1個又は2個ずつ交互に重合されていてもよいし、ランダムに重合されていてもよいし、ブロック重合されていてもよい。
【0034】
従って、当該乳酸単位がL−乳酸単位とD−乳酸単位との両者から構成される場合、それぞれの乳酸単位の含有量は特に限定されない。すなわち、L−乳酸単位とD−乳酸単位とが異なる量で含有されていてもよいし、L−乳酸単位とD−乳酸単位とが同量含有されていてもよい。この場合、当該10個以上の乳酸単位が全体として光学純度0%のラセミ体であり得る。
【0035】
[1−3.サルコシン単位数の乳酸単位数に対する比]
本発明の両親媒性ブロックポリマーにおいて、サルコシン単位数(すなわち、親水性ブロックの分岐全てに含まれるサルコシン単位の数の合計)をN
Sとし、ポリ乳酸単位数(すなわち、疎水性ブロックに含まれる乳酸単位の数、又は、疎水性ブロックが分岐している場合は分岐全てに含まれる乳酸単位数の合計)をN
Lとすると、それらの比N
S/N
Lは、例えば0.05〜5又は0.05〜4でありうる。
さらに好ましくは、N
S/N
Lは、0.05以上1.8未満、例えば0.05以上1.7以下、0.05以上1.67以下、0.1以上1.7以下、又は0.1以上1.67以下であってよい。
【0036】
[1−4.分岐構造]
親水性ブロックと疎水性ブロックとを連結するリンカー部位の構造は、化学的に許容可能な構造であれば特に限定されるものではない。
例えば、親水性ブロック側の分枝の数が2である場合は、ポリ乳酸鎖を含む分子鎖のリンカー部位にある1つのN原子から、ポリサルコシン鎖を含む2本の分子鎖が分岐しうる。言い換えれば、ポリ乳酸鎖に直接的又は間接的に結合しているN原子が、直接的又は間接的に2本のポリサルコシン鎖に結合していることができる。
【0037】
また例えば、親水性ブロック側の分枝の数が3である場合は、ポリ乳酸鎖を含む分子鎖のリンカー部位にある1つのC原子から、ポリサルコシン鎖を含む3本の分子鎖が分岐しうる。言い換えれば、ポリ乳酸鎖に直接的又は間接的に結合しているC原子が、直接的又は間接的に3本のポリサルコシン鎖に結合していることができる。リンカー部位にある1つのP原子やSi原子から分岐している場合や、両親媒性ブロックポリマー分子全体が四級アンモニウム分子を形成している場合も同様である。
親水性ブロック側の分枝の数が3を超える場合は、分枝がさらなる分岐構造を有するように分子設計されることができる。
疎水性ブロック側も分岐している場合についても、上記と同様の観点で分子設計されることができる。
【0038】
下記式(I)に、親水性ブロック側の分岐の数が3、疎水性ブロック側の分岐なしである場合の分岐型両親媒性ブロックポリマーの好ましい構造を示す。
【0040】
式(I)中、n1、n2及びn3は、それらの合計が3〜200となる数、mは5〜100の数を表し、Rは、水素原子又は有機基を表す。有機基の炭素数は、1〜20でありうる。具体的には、アルキル基やアルキルカルボニル基などが挙げられる。
【0041】
下記式(II)に、親水性ブロック側の分岐の数が3、疎水性ブロック側の分岐が2である場合の分岐型両親媒性ブロックポリマーの好ましい構造を示す。
【0043】
式(II)中、n1、n2及びn3、並びにRは、式(I)における場合と同じである。m1及びm2は、それらの合計が10〜400となる数を表す。
【0044】
[1−5.分岐型両親媒性ブロックポリマー合成法]
分岐型両親媒性ブロックポリマーの合成においては、疎水性ブロック部(ポリ乳酸部)の合成、親水性ブロック部(サルコシン部又はポリサルコシン部)の合成、及びそれらブロックを連結するリンカー部の合成がなされる。
【0045】
例えば、サルコシン又はポリサルコシン鎖とポリ乳酸鎖とを連結させるリンカー試薬を合成し、それを開始剤として、サルコシン部位の付加又はポリサルコシン部位の重合反応による伸長及びポリ乳酸部位の重合反応により伸長させることによって、分岐型両親媒性ブロックポリマーを合成することができる。
また例えば、サルコシンをリンカー試薬に付加させた後に、又は、ポリサルコシン鎖を親水性ブロックとして予め重合反応により調製し、リンカー試薬に付加させた後に、ポリ乳酸鎖を伸長させることによって、分岐型両親媒性ブロックポリマーを合成することができる。
さらに例えば
、サルコシン又はポリサルコシン鎖及びポリ乳酸鎖の両方をそれぞれ親水性ブロック及び疎水性ブロックとして予め用意しておき、別途合成されたリンカー試薬を用いてそれらブロックを連結させることによって、分岐型両親媒性ブロックポリマーを合成することができる。
【0046】
リンカー試薬の構造は、乳酸モノマー(乳酸やラクチド)又はポリ乳酸鎖と結合可能な官能基(例えば、水酸基、アミノ基等)を1個又は所望の疎水性ブロック側分岐数に相当する数だけ有し、且つ、サルコシンモノマー(例えばサルコシンやN−カルボキシサルコシン無水物)又はポリサルコシンと結合可能な官能基(例えばアミノ基)を所望の親水性ブロック側分岐数に相当する数だけ有することができる。この場合、リンカー試薬において、サルコシンモノマー又はポリサルコシンと結合可能な官能基のそれぞれが可能な限り同様の反応性を有するように、当業者によって適宜分子設計がなされる。
【0047】
乳酸モノマー又はポリ乳酸鎖と結合可能な官能基と、サルコシンモノマー又はポリサルコシンと結合可能な官能基とは、それぞれ保護基によって保護されうる。この場合、それぞれの保護基としては、必要に応じて選択的に脱離させることが可能なものが当業者によって適宜選択される。
例えば、親水性ブロック側分岐数が3である分岐型両親媒性ブロックポリマーを合成する場合のリンカー試薬は、例えば2,2,2-トリエタノールアミン(Tris)構造を元に調製することができる。
【0048】
さらに、疎水性ブロック側を分岐させる場合は、例えば上記の2,2,2-トリエタノールアミン構造にさらに分岐点を増やした構造を元に調製することができる。さらに分岐点を増やした構造は、2,2,2-トリエタノールアミンに、ポリ乳酸鎖と結合可能な官能基として例えばアミノ基を側鎖に有するアミノ酸(具体例として、リジン及びオルニチンが挙げられる)の、すべてのアミノ基が保護されているアミノ酸誘導体を付加し、その後脱保護することによって得ることができる。脱保護してフリーになったアミノ基に対して、さらに同様のアミノ酸誘導体を付加することによって、分岐点を増やしていくことができる。
【0049】
ポリサルコシン鎖及びポリ乳酸鎖の合成方法は、リンカー試薬における官能基に応じて当業者が適宜決定することができるものであり、公知のペプチド合成法及びポリエステル合成法から選択されてよい。
ペプチド合成は、例えば、リンカー試薬におけるアミノ基などの塩基性基を開始剤として、N−カルボキシサルコシン無水物(サルコシンNCA)を開環重合することなどによって行うことが好ましい。
ポリエステル合成は、例えば、リンカー試薬におけるアミノ基などの塩基性基を開始剤として、ラクチドを開環重合することなどによって行うことが好ましい。
【0050】
なお、分岐数が上記具体例と異なる分岐型両親媒性ブロックポリマーを合成する場合は、有機化学的観点から当業者が種々の変更を適宜加えることによって調製することができる。
【0051】
ポリサルコシン鎖及びポリ乳酸鎖の鎖長の調整は、重合反応における開始剤とモノマーとの仕込み比を調整することによって行うことができる。また、鎖長は、例えば
1HNMRによって確認することができる。
【0052】
[2.分子集合体]
本発明の分子集合体(ラクトソーム)は、上記の分岐型両親媒性ポリマーの凝集により、或いは自己集合的な配向により成り立つ構造体である。本発明は、内側(コア部)が疎水性ブロック、外側が親水性ブロックとなるように構成されたミセル形状の分子集合体であることが実用性の観点から好ましい。本発明における分子集合体には、分岐型両親媒性ブロックポリマーから構成されるもの(単独系)、及び分岐型両親媒性ブロックポリマーと直鎖型両親媒性ブロックポリマーとから構成されるもの(混合系)を含む。
また、本発明の分子集合体は、適当な機能性構造を具備することによって、分子イメージングにおけるプローブとしてや、薬剤搬送システムにおける製剤として有用な構造体となる。
【0053】
[2−1.単独系−分岐型両親媒性ブロックポリマーから構成される分子集合体]
分岐型両親媒性ブロックポリマーは、分岐鎖としての複数のポリサルコシン鎖の存在により、直鎖型両親媒性ブロックポリマーに比べて親水性部位の分子断面積が大きくなる。このため、分岐型両親媒性ブロックポリマーから形成された分子集合体は、粒子としての安定性に優れている。さらにこの粒子は大きな曲率を備えることができる。このことから、本発明の分子集合体は、後述するように粒子の小型化が可能になるという基本的特徴を有する。
【0054】
また、分岐型両親媒性ブロックポリマーから構成される分子集合体は、分岐鎖としての複数のポリサルコシン鎖の存在により、従来のラクトソームに比べて表面における親水性基の密度が高く、疎水性部位の露出が少ないという基本的特徴を有する。
【0055】
[2−2.混合系−分岐型両親媒性ブロックポリマーと直鎖型両親媒性ブロックポリマーとから構成される分子集合体]
本発明の分子集合体に、分岐型両親媒性ブロックポリマーの他に混合される直鎖型両親媒性ブロックポリマーとしては、従来のラクトソームの構成要素として用いられてきた両親媒性ブロックポリマーであってもよいし、従来のラクトソームの構成要素になりえなかった両親媒性ブロックポリマーであってもよい。なお、従来のラクトソームの構成要素として用いられてきた両親媒性ブロックポリマーとは、それのみでも自己集合体として粒子を形成することができるポリマーである。具体的には、サルコシン単位数をN
Sとし、ポリ乳酸単位数をN
Lとすると、それらの比N
S/N
Lが例えば1.8以上(この範囲に含まれる上限値は特に限定されないが、例えば5又は4)となるポリマーである。一方、従来のラクトソームの構成要素になりえなかった両親媒性ブロックポリマーとは、親水性ブロック及び疎水性ブロックから構成されるコポリマー分子全体として両親媒性を呈するものの、それのみでは自己集合体として粒子を形成することはできないポリマーである。具体的には、N
S/N
Lが例えば1.8未満、例えば1.7以下又は1.67以下(この範囲に含まれる下限値は特に限定されないが、例えば0.05又は0.1)となるポリマーである。
【0056】
本発明において用いられる直鎖型両親媒性ブロックポリマーの構造は、基本的に、直鎖構造であることを除いて、本発明の分岐型両親媒性ブロックポリマーと同様の観点から分子設計されてよい。具体的には、直鎖型両親媒性ブロックポリマーとしては、1個のサルコシン又は1本のポリサルコシン鎖を含む親水性ブロックと、1本のポリ乳酸鎖を含む疎水性ブロックとから構成されるものが用いられうる。親水性ブロックにおけるサルコシン単位の数は、例えば1〜200、1〜29、30〜200個、又は50〜100個である。疎水性ブロックにおける乳酸単位の数は、例えば5〜100個、15〜60個、又は25〜45個である。
【0057】
本発明の混合系の分子集合体(分岐・直鎖混合系分子集合体)は、上述した本発明の単独系の分子集合体(分岐単独系分子集合体)の基本的特徴を備えつつ、混合された直鎖型両親媒性ブロックポリマーの存在により、上述の本発明の分岐単独系分子集合体の粒子径と従来のラクトソーム(直鎖単独系分子集合体)の粒子径との中間の粒子径を有することができる。
【0058】
なお、混合系においては、分岐型両親媒性ブロックポリマー及び直鎖型両親媒性ブロックポリマーそれぞれにおけるポリ乳酸鎖の光学活性は、粒子径制御の観点からは、互いに同様であることが好ましい。例えば、分岐型両親媒性ブロックポリマーにおけるポリ乳酸鎖がL−乳酸単位のみからなる場合、直鎖型両親媒性ブロックポリマーにおけるポリ乳酸鎖もL−乳酸単位のみからなるものであることが好ましい。
【0059】
混合系分子集合体において、分岐型両親媒性ブロックポリマーと直鎖型両親媒性ブロックポリマーとの混合比は、モル基準で50:50〜100:0、好ましくは67:33〜100:0とすることができる。上記範囲よりも直鎖型両親媒性ブロックポリマーの割合が上回ると、分岐型両親媒性ブロックポリマーによって得られる本発明の効果が得られにくくなる傾向にある。
【0060】
[2−3.粒子径]
本発明の分子集合体の粒子径は、例えば10〜50nmでありうる。この範囲に含まれる上限値は、35nm、30nm、25nm、又は20nmであってもよい。ここで「粒子径」とは、粒子分布で最も出現頻度の高い粒径、すなわち中心粒径をいう。本発明の分子集合体は、既に述べたように、両親媒性ブロックポリマーにおける親水性ブロックの分岐構造により、基本的に、従来のものに比べて粒子径が小さい傾向にある。
【0061】
上記範囲の中でも、単独系の分子集合体の粒径は比較的小さい傾向にある。具体的には、単独系の分子集合体の粒子径は例えば10〜35nmでありうる。この範囲に含まれる上限値は、30nm、25nm、又は20nmであってもよい。
一方、混合系の分子集合体の粒径は比較的大きい傾向にある。具体的には、混合系の分子集合体の粒子径は例えば20〜50nmでありうる。この範囲に含まれる下限値は、25nm、30nm、25nm、30nm又は35nmであってもよく、上限値は、35nmであってもよい。
【0062】
いずれにしても、分岐型両親媒性ブロックポリマーの鎖長を短く調整することによって、上記範囲の下限値より小さい分子集合体を得ることも可能である。上記範囲を上回る場合は、例えば分子集合体を分子プローブとして生体内に投与した場合に、好ましいEPR効果が得にくくなるため、短期イメージングが困難となる傾向にある。
【0063】
粒子径の調節の方法としては、例えば、分子集合体の構成ポリマーの鎖長を短くすることによってより小さい粒子径に調整すること、直鎖型両親媒性ブロックポリマーの配合量を少なくすることによってより小さい粒子径に調整すること、内包物質の量を少なくすることによってより小さい粒子径に調整することなどが挙げられる。
【0064】
本発明の分子集合体の大きさを測定するための方法は特に限定されるものではなく、当業者によって適宜選択されるものである。例えば、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope;TEM)による観察法や、動的光散乱(Dynamic Light Scattering;DLS)法などが挙げられる。DLS法においては、溶液中でブラウン運動している粒子の移動拡散係数を測定する。
【0065】
[2−4.機能性構造を有する態様]
本発明の分子集合体は、分子イメージングシステムや薬剤搬送システムに用いられる場合に有用となる形態や機能などを持たせることができる機能性構造を備えることができる。これによって、本発明の分子集合体は、分子イメージングにおけるプローブとしてや、薬剤搬送システムにおける製剤として有用な構造体となる。
機能性構造を備える分子集合体の具体的態様としては、分子集合体を構成する両親媒性ブロックポリマー自体にシグナル基及びリガンド基からなる群から選ばれる機能性基が結合している態様、及び、分子集合体がシグナル剤及び薬剤からなる群から選ばれる機能性物質を内包する態様が挙げられる。
【0066】
[2−4−1.機能性基の結合]
機能性基は例えば有機基であり、分子集合体の用途に応じて当業者によって適宜選択されるものである。機能性基としては、シグナル基及びリガンド基が挙げられる。
【0067】
シグナル基は、検出によりイメージングを可能にする特性を有するものであればよい。例えば、蛍光基、放射性元素含有基、磁性基などが挙げられる。これらの基を検出する手段は、当業者によって適宜選択されるものである。
【0068】
蛍光基としては、特に限定されないが、フルオレセイン系色素、インドシアニン色素などのシアニン系色素、ローダミン系色素、量子ドットなどに由来する基が挙げられる。
本発明においては、近赤外蛍光基(例えばシアニン系色素、量子ドットなどに由来する基)を用いることが好ましい。
【0069】
近赤外領域(700〜1300nm)では、水素結合を有する各置換基の吸収が存在するものの、その吸収は比較的小さい。このため、近赤外光は生体組織を透過しやすい特性を有する。このような近赤外光の特性を利用すれば、身体に無用の負荷を与えることなく体内の情報を得ることも可能であるといえる。特に、測定対象を小動物、体表面に近い部位に特定すると、近赤外蛍光は、有用な情報を与えることが可能になる。
【0070】
近赤外蛍光基のより具体的な例としては、ICG(インドシアニングリーン)などのインドシアニン系色素、Cy7、DY776、DY750、Alexa790、Alexa750などに由来する基が挙げられる。本発明の分子集合体を、例えばがんを標的として用いる場合は、がんへの集積性という観点で、ICGなどのインドシアニン系色素に由来する基を用いることが好ましい場合がある。
【0071】
放射性元素含有基としては、特に限定されないが、
18Fなどの放射性同位体でラベルした、糖、アミノ酸、核酸などに由来する基が挙げられる。放射性元素含有基の導入方法の具体例の一つとしては、モノFmoc (9-fluorenylmethyloxycarbonyl) エチレンジアミンを用いてラクチドの重合を行う工程、末端OHをシリル保護基で保護する工程、ピペリジン処理でFmocを脱離する工程、サルコシン-N-カルボキシ無水物(SarNCA)の重合を行い、重合物末端をターミネーションする工程、シリル保護基を外し、スルホン酸エステル(例えば、トリフルオロメタンスルホン酸エステル、パラトルエンスルホン酸エステルなど)に変換する工程、及び放射性元素含有基を導入する工程により行う方法が挙げられる。さらに、当該具体例は当業者によって適宜変更されて良い。
【0072】
磁性基としては、特に限定されないが、フェリクロームなどの磁性体を有するものや、フェライトナノ粒子、ナノ磁性粒子などにみられるものが挙げられる。
【0073】
リガンド基は、標的細胞に発現している生体分子に結合することによって、分子集合体の指向性を制御し、これにより分子集合体のターゲティング性を高めることができるものであればよい。例えば、抗体、細胞接着ペプチド、糖鎖、水溶性高分子などが挙げられる。
【0074】
抗体の例としては、ターゲット部位の細胞に発現している抗原への特異的結合能を有するものが挙げられる。
細胞接着ペプチドの例としては、RGD(アルギニン−グリシン−アスパラギン酸)などの接着因子が挙げられる。
糖鎖の例としては、カルボキシルメチルセルロース、アミロースなどの安定剤や、ターゲット部位の細胞に発現しているタンパク質への特異的結合能を有するものが挙げられる。
水溶性高分子の例としては、ポリエーテル鎖、ポリビニルアルコール鎖などの高分子が挙げられる。
【0075】
これらの基は、両親媒性ブロックポリマーの好ましくは親水性ブロック側の末端構成単位に結合することができる。このことによって、ミセルを形成した場合に、粒子が機能性基をその表面に保持する形態、すなわち機能性基による表面修飾の形態を有しうる。
【0076】
[2−4−2.機能性物質の内包]
機能性物質は、シグナル剤及び薬剤からなる群から選ばれるものである。この物質は、疎水性化合物であり、分子集合体の疎水コア部に位置することによって内包される。
シグナル剤としては、上述のシグナル基を有する分子を用いることができる。その中でも、本発明においては、インドシアニングリーン系色素などの近赤外蛍光物質や、
18Fなどの放射性同位体でラベルした、糖、アミノ酸、核酸などの放射性元素含有物質が好ましい場合がある。
薬剤としては、対象となる疾患に適したものが当業者によって適宜選択される。具体的には、抗がん剤、抗菌剤、抗ウィルス剤、抗炎症剤、免疫抑制剤、ステロイド剤、ホルモン剤、血管新生阻害剤などが挙げられる。これら薬剤分子は、単独で又は複数種の組み合わせで用いることができる。
【0077】
内包されるべき機能性物質は、ポリ乳酸基が結合しているものであってもよい。
ポリ乳酸基は、乳酸単位を主たる構成成分とする基である。乳酸単位のすべてが連続していてもよいし、非連続であってもかまわない。基本的に、ポリ乳酸基の構造、鎖長及び光学純度は、上述の疎水性ブロックの分子設計における場合と同様の観点で決定することができる。このようにすることによって、分子集合体において、機能性物質と両親媒性ブロックポリマーの疎水性ブロックとの親和性に優れるという効果も得られる。
【0078】
ポリ乳酸基の乳酸単位数は、15〜60個、好ましくは25〜45個である。この範囲内で、ポリ乳酸結合機能性物質全体の長さが上述の両親媒性ブロックポリマーの長さを超えないように分子設計される。好ましくは、両親媒性ブロックポリマーにおける疎水性ブロックの2倍の長さを超えないように分子設計される。構成単位数が上記範囲を上回ると、分子集合体を形成した場合に、形成された分子集合体の安定性を欠く傾向にある。構成単位数が上記範囲を下回ると、機能性物質と両親媒性ブロックポリマーの疎水性ブロックとの親和性が弱くなる傾向にある。
【0079】
なお、ポリ乳酸結合機能性物質におけるポリ乳酸鎖の光学活性は、分子集合体の構成要素となる分岐型両親媒性ブロックポリマーや直鎖型両親媒性ブロックポリマーと同様であることが好ましい。例えば、分岐型両親媒性ブロックポリマーや直鎖型両親媒性ブロックポリマーにおけるポリ乳酸鎖がL−乳酸単位からなる場合は、ポリ乳酸結合機能性物質におけるポリ乳酸鎖も、L−乳酸単位からなることが好ましい。
【0080】
機能性物質の内包量としては特に限定されるものではないが、例えば、蛍光物質の場合、両親媒性ブロックポリマー及び蛍光色素の合計に対し、蛍光色素の量が0.5〜50mol%、例えば0.5〜1mol%又は1〜50mol%でありうる。その他の機能性物質(一例として放射性物質)の内包量としても、上記と同様とすることができる。
【0081】
[2−5.分子集合体の作成]
分子集合体の作成法は特に限定されず、所望する分子集合体の大きさ、特性、担持させる機能性構造の種類、性質、含有量などに応じて、当業者が適宜選択することができる。必要に応じ、下記のように分子集合体を形成した後に、得られた分子集合体に対して、公知の方法によって表面修飾を行っても良い。
なお、粒子が形成されたことの確認は、電子顕微鏡観察によって行うと良い。
【0082】
[2−5−1.フィルム法]
本発明における分岐型両親媒性ブロックポリマーは低沸点溶媒への溶解性を有するため、フィルム法を用いた分子集合体の調製が可能である。
フィルム法は、次の工程を含む。すなわち、容器(例えばガラス容器)中に、分岐型両親媒性ブロックポリマーを有機溶媒中に含む溶液(例えば分岐型両親媒性ブロックポリマーと機能性物質とを有機溶媒中に含む溶液)を用意する工程;前記の溶液から有機溶媒を除去し、容器の内壁に分岐型両親媒性ブロックポリマーを含むフィルム(例えば分岐型両親媒性ブロックポリマーと機能性物質とを含むフィルム)を得る工程;及び、前記の容器中に水又は水溶液を加え、超音波処理又は加温処理を行い、フィルム状物質を、分子集合体(例えば機能性物質を内包する分子集合体)に変換して分子集合体の分散液を得る工程、を含む。さらに、フィルム法は、分子集合体の分散液を凍結乾燥処理に供する工程を含んでも良い。
【0083】
分岐型両親媒性ブロックポリマーと機能性物質とを有機溶媒中に含む溶液は、分岐型両親媒性ブロックポリマーのみをあらかじめフィルムの状態でストックしておき、ナノ粒子調製時に、機能性物質を含む溶液を加えてフィルムを溶解することによって調製してもよい。
混合系の分子集合体を調製する場合は、直鎖型両親媒性ブロックポリマーは分岐型両親媒性ブロックポリマーに混合させた状態で各工程を行えばよい。
【0084】
フィルム法に用いる有機溶媒としては、低沸点溶媒を用いることが好ましい。本発明における低沸点溶媒とは、1気圧における沸点が100℃以下、好ましくは90℃以下のものをいう。具体的には、クロロホルム、ジエチルエーテル、アセトニトリル、エタノール、アセトン、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、ヘキサンなどが挙げられる。
このような低沸点溶媒を使用することによって、溶媒の除去が非常に簡単になる。溶媒の除去の方法としては特に限定されることなく、使用する有機溶媒の沸点などに応じ、当業者が適宜決定すればよい。例えば、減圧下における溶媒除去を行ってもよいし、自然乾燥による溶媒除去を行ってもよい。
【0085】
有機溶媒が除去された後は、容器内壁に分岐型両親媒性ブロックポリマーを含むフィルムが形成される。このフィルムが張り付いた容器中に、水又は水溶液を加える。水又は水溶液としては特に限定されることなく、生化学的、薬学的に許容することができるものを当業者が適宜選択すればよい。例えば、注射用蒸留水、生理食塩水、緩衝液などが挙げられる。
【0086】
水又は水溶液が加えられた後、加温処理を行う。加温によりフィルムが容器内壁から剥がれる過程で分子集合体を形成する。加温処理は、例えば70〜100℃、5〜60分の条件下で行うことができる。加温処理終了時には、分子集合体(機能性物質を用いた場合は、機能性物質を内包した態様の分子集合体)が前記の水又は水溶液中に分散された分散液が容器中に調製される。また、フィルムの剥離の際、必要に応じ超音波処理を併せて行ってもよい。
【0087】
得られた分散液は、直接生体に投与されることが可能である。すなわち、無溶媒の分子集合体そのものの状態で保存されなくてもよい。
一方、得られた分散液を凍結乾燥処理しても良い。凍結乾燥処理の方法としては公知の方法を特に限定されることなく用いることができる。たとえば、上記のようにして得られた分子集合体の分散液を液体窒素などによって凍結させ、減圧下で昇華させることによって行うことができる。これにより、分子集合体の凍結乾燥処理物が得られる。すなわち、分子集合体を凍結乾燥処理物として保存することが可能になる。必要に応じ、この凍結乾燥物に水又は水溶液を加えて、分子集合体の分散液を得ることによって、分子集合体を使用に供することができる。水又は水溶液としては特に限定されることなく、生化学的、薬学的に許容することができるものを当業者が適宜選択すればよい。例えば、注射用蒸留水、生理食塩水、緩衝液などが挙げられる。
【0088】
[2−5−2.インジェクション法]
インジェクション法は、以下の工程を含む。すなわち、容器(例えば試験管など)中に、分岐型両親媒性ブロックポリマーを有機溶媒中に含む溶液を用意する工程、前記の溶液を水又は水溶液に分散させる工程、及び有機溶媒を除去する工程が行われる。さらに、インジェクション法は、有機溶媒を除去する工程の前に、適宜精製処理工程を行ってもよい。
インジェクション法に用いる有機溶媒としては、例えばトリフルオロエタノール、エタノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどが用いられる。
水又は水溶液としては、注射用蒸留水、生理食塩水、緩衝液などが用いられる。
精製処理としては、例えばゲルろ過クロマトグラフィー、フィルタリング、超遠心などの処理を行うことができる。
【0089】
[3.薬剤搬送システム・分子イメージング]
[3−1.分子集合体の投与対象]
本発明の薬剤搬送システム及び分子イメージングは、上記の分子集合体を生体内に投与することを含む。分子集合体を投与される生体としては特に限定されないが、ヒト又は非ヒト動物でありうる。非ヒト動物としては特に限定されないが、ヒト以外の哺乳類、より具体的には、霊長類、齧歯類(マウス、ラットなど)、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ヒツジ、及びウマなどが挙げられる。
【0090】
本発明の方法において用いられる分子集合体は、血管病変部位(例えば、悪性腫瘍部位、炎症部位、動脈硬化部位、血管新生部位など)への特異的集積性に優れたものである。本発明分子集合体は、EPR (enhanced permeability and retention) 効果によりこれらの部位の組織へ集積するため、その集積性は血管病変部位の組織の種類によらない。本発明の蛍光プローブの投与ターゲットとしてはがんであることが好ましい。投与ターゲットとなりうるがんは多岐に亘る。例えば、肝臓がん、すい臓がん、肺がん、子宮頸がん、乳がん、大腸がんなどが挙げられる。
【0091】
[3−2.投与]
生体内への投与の方法としては特に限定されず、当業者が適宜決定することができる。従って、投与の方法としては、全身投与及び局所投与とを問わない。すなわち、分子プローブの投与は、注射(針有型、針無型)、内服、外用のいずれの方法によっても行うことができる。
【0092】
本発明の分子集合体は、必須構成要素である分岐型両親媒性ブロックポリマーの分岐構造により、粒子表面にサルコシン鎖の稠密なポリマーブラシ構造を有する。このため、従来のラクトソームに比べて、粒子の疎水性部位の外部環境への露出が少なくなり、粒子外部環境による異物認識が抑制されると考えられる。本発明の分
子集合体は、このことに起因するとみられるABC現象の減弱化を可能にする。これにより、本発明の分子集合体は、複数回の投与が可能である。例えば、同一個体に2回以上必要回数(例えば2〜10回)を行ってよい。また、投与スパンは例えば1〜60日とすることができる。
【0093】
[3−3.分子集合体の検出]
本発明の分子イメージングにおいては、投与された分子集合体に由来するシグナルを検出する工程を含む。投与された分子集合体を検出することによって、体外から投与ターゲットの様子(特にがんなどの組織の位置・大きさ)を観測することができる。
検出方法としては、投与された分子集合体を可視化させることができるあらゆる手段を用いることができる。当該手段としては、分子集合体が有するシグナル基又はシグナル物質の種類に応じて、当業者が適宜決定することができる。
【0094】
投与から検出開始までの時間は、分子集合体の粒子径が従来法におけるものと同様である場合は、投与される分子集合体が有する機能性構造の種類、及び投与ターゲットの種類に応じて、当業者が適宜決定することができる。例えば、投与後1〜24時間とすることができる。上記範囲を下回ると、シグナルが強すぎ、投与ターゲットと他の部位(バックグラウンド)とを明確に分けることができない傾向にある。また、上記範囲を上回ると、分子集合体が投与ターゲットから排泄されてしまう傾向にある。
【0095】
一方、本発明の分子集合体は、必須構成要素である分岐型両親媒性ブロックポリマーの分岐構造により粒子としての安定性に優れ、従来では不可能であった小粒子径の分子集合体の調製が可能である。粒子径の小さい分子集合体を生体に投与した際、EPR効果によるターゲット組織への分子集合体の集積速度の加速化、及び腎臓による分子集合体の対外排出の加速化が可能になる。このため、分子集合体の粒子径が従来法におけるものより小さい場合、投与から検出開始までの時間を、従来の方法に比べて短くすることが可能である。例えば、1〜24時間好ましくは1〜9時間とすることができる。本発明においては、分子集合体の粒子径の小型化を可能にしたため、血中投与後短時間の間に、腫瘍部位とバックグラウンドとのコントラスト比が向上し、短時間での癌疾部位選択的なイメージングが可能になる。
【0096】
なお、分子集合体の検出は、正確性の観点から、生体の一方向からではなく、複数の方向からの測定によって行うことが好ましい。具体的には、少なくとも3方向、より好ましくは少なくとも5方向からの測定を行うと良い。5方向からの測定を行う場合は、例えば、左右両腹側から、左右両体側から、及び背中側からの測定を行うことができる。
【実施例】
【0097】
以下に本発明をより詳細に説明するために実施例を示すが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0098】
[実施例1:分岐型両親媒性ブロックポリマーの合成(1)]
本実施例においては、1本のポリ乳酸(L−ポリ乳酸;PLLA)鎖に3本のポリサルコシン(PS)鎖が結合した分岐型両親媒性ブロックポリマーの合成を行った。
【0099】
【化4】
【0100】
概略として、まず、リンカー試薬の合成を行った。リンカー試薬は、PLLA重合の開始剤となる
アミノ基1つと、サルコシン部位のNCA(N-carboxy anhydride)重合法のための開始剤となる
水酸基3つとを有するトリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris)1から合成した。さらに、Tris1のアミノ基及び水酸基を必要に応じて脱保護することができるように、適切な保護基を付加した。具体的には、2−エトキシ−1−エトキシカルボニル−1,2−ジヒドロキノリン(EEDQ)存在下、N‐tert‐ブトキシカルボニルグリシン(Boc-Gly-OH)を用い、Boc基を有する保護基でアミノ基が保護された化合物2を得て、さらに、ジクロロジシアノベンゾキノン(DDQ)及びジメチルアミノピリジン(DMAP)存在下、ベンジルオキシカルボニルサルコシン(Cbz-Sar-OH)を用い、Cbz基を有する保護基で水酸基が保護された化合物3をリンカー試薬として得た。HCl-Dioxaneを用いてリンカー試薬3のBoc基のみを選択的に脱保護することアミノ基含有化合物4を得た。
具体的な合成手順は以下の通りである。
【0101】
[化合物2]
トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン 1.9 g(0.016 mol)のEtOH溶液(75 mL)にBoc-glycine 2.5 g(0.014 mol)とEEDQ 6.0 g(0.024 mol)とを加え、リフラックス(95℃)しながら4.5時間撹拌した。反応終了後、濾紙で沈殿物を取り除き、EtOHを減圧留去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製を行った(溶離液は、CHCl
3/MeOH混合比(v/v)が1/0、40/1、及び10/1のものの順に用いた)。得られた生成物2の重量は3.2 g(0.012 mol)、収率82%であった。
【0102】
[化合物3]
化合物2(278 mg, 1.0 mmol)、Cbz-Sar-OH(804 mg, 3.6 mmol)、DCC(887 mg, 4.3mmol)、及びDMAP(26 mg, 0.21 mmol)の混合物に氷冷したジクロロメタンを10 mL加えた後、室温にて一晩撹拌した。反応終了後、酢酸エチルにて洗浄し、白色沈殿(ウレア)を除去した後、シリカゲルクロマトグラフィーにて精製を行った(溶離液は、n-ヘキサン/酢酸エチル混合比(v/v)が2/1、1/1、及び1/2のものの順に用いた)。これにより、目的とする化合物3(719 mg)を収率84%で得た。
【0103】
[化合物4]
氷冷した化合物3(710 mg)に4 mol/L HCl/Dioxane(7.0 mL)を加えて溶解させた後、室温で5分撹拌した。その後、反応溶液から溶媒を減圧留去し、シリカゲルクロマトグラフィーにて精製を行った(溶離液は、CHCl
3/MeOH混合比(v/v)が10/0のものを用いた)。
得られた白色沈殿をクロロホルムに溶解させ、1N NaOH水溶液と分液操作をすることによって、末端アミノ基のHCl塩の脱塩操作を行った。引き続き、無水硫酸マグネシウムにて脱水し、セライト濾過によって硫酸マグネシウムを除去することで化合物4を得た。
【0104】
【化5】
【0105】
次に、アミノ基含有化合物4を開始剤とし、ラクチド5を重合反応に供することによって、PLLA鎖の合成を行い、化合物6を得た。化合物6の残りの保護基であるCbz基を、HBr-AcOHで脱保護すると同時にPLLA末端の水酸基をアセチル基で保護した。化合物7における3つのアミノ基を開始剤として、サルコシン−NCAをN-カルボキシ無水物重合反応に供することによって、PS鎖の合成を行い、化合物8を得た。さらに、化合物8に、グリコール酸、O−(ベンゾトリアゾル−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロリン酸塩(HATU)及びN,N−ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)を加えてカルボキシル基を導入し、分岐型両親媒性ブロックポリマー9を得た。なお、式中、重合数の表記を省略している。
具体的な合成手順は以下の通りである。
【0106】
[化合物6]
開始剤4(485 mg, 0.61 mmol)の溶解したDMF溶液(2 mL)に開始剤に対して15
当量(1.32 g, 9.2 mmol)の
L-lactide(5)とDMAP(75 mg, 0.61 mmol)とを加えた後、アルゴン雰囲気下中、55℃にて一晩(約15時間)撹拌した。減圧留去によって反応溶媒であるDMFをある程度除去、濃縮した後、冷MeOH中に滴下した。得られた白色沈殿を遠心分離することによって回収することで、化合物6を得た。
【0107】
[化合物7]
化合物6をジクロロメタン10 mLに溶解させ、反応溶液を0 ℃に冷却した後、25% HBr-AcOHを20 mL加えた。室温で一晩撹拌した後、溶媒を減圧留去し、得られた白色沈殿についてNMR測定を行うことによって、Cbz基の脱保護が完了していることを確認した。
得られた白色沈殿をクロロホルムに溶解させ、1N NaOH水溶液と分液操作をすることによって、末端アミノ基のHBr塩の脱塩操作を行った。引き続き、無水硫酸マグネシウムにて脱水し、セライト濾過によって硫酸マグネシウムを除去することで化合物7を得た。
【0108】
[化合物8及び9]
化合物7をマクロイニシエーターとして親水性部位の重合反応を行った。化合物7のDMF溶液に、開始剤に対して40又は60当量のSar-NCAを加えた後、Sar-NCA濃度が0.50 Mとなるように調整した。室温にて24時間撹拌し化合物8を得た後、グリコール酸とHATU及びDIEAとをそれぞれ加え、更に24時間撹拌した。反応終了後、サイズ排除クロマトグラフィー(Sephadex LH20, 溶離液:DMF)を用いて濃縮した反応溶液を精製し、目的の両親媒性ブロックポリマー9を得た。
【0109】
得られた両親媒性ブロックポリマー9の
1H NMR測定結果を
図1に示す。
図1より、本実施例で得られた分岐型両親媒性ブロックポリマーの組成は、PLLA鎖が乳酸単位30個、PS鎖一本あたりのサルコシン単位34個であると同定した。
【0110】
[実施例2:分岐単独系分子集合体の調製(分岐型両親媒性ブロックポリマーのみからの分子集合体の調製)(1)]
本実施例においては、実施例1で得られた分岐型両親媒性ブロックポリマー9から分子集合体(高分子ミセル;ラクトソーム)をフィルム法によって調製した。
1.0 mgの分岐型両親媒性ブロックポリマー9を適量のクロロホルムに溶解させた後、溶媒を減圧留去することによって試験管壁にポリマーフィルムを形成した。一晩真空乾燥させ、クロロホルムを十分に除去したフィルムに生理食塩水1.0 mLを加え、85 ℃の水浴中にて5分間バス型ソニケーターにて超音波処理することで分子集合体の分散液を調製した。
得られた分散液について、動的光散乱(DLS)、透過型電子顕微鏡(TEM)による観察を行った。
【0111】
図2に、DLS測定結果を示す。
図2のサイズ分布(Size Distribution)図より、分岐型両親媒性ブロックポリマーから調製した分散液からは、ピーク(Peak)トップ値が粒径(Diam.)20.26 nm、Z-平均値(Z-Average)が19.99 nm、ピーク幅(Width)5.309nmである単分散なピークが観察された。
図3に、TEM観察結果を示す。
図3においては、縮尺の異なる3種類の写真を示す。
図3より、粒子径が20 nm前後の小さな粒子径を有する高分子ミセル(小粒径ラクトソーム)が得られていることが確認された。
【0112】
[比較例1:直鎖型両親媒性ブロックポリマーの合成及びそれからの直鎖単独系分子集合体の調製(1)]
1本のポリ乳酸(L−ポリ乳酸;PLLA)鎖に1本のポリサルコシン(PS)鎖が結合した直鎖型両親媒性ブロックポリマーの合成を行った。
[アミノ化ポリL-乳酸(a-PLA)の合成]
L−ラクチド(11)とN−カルボベンゾキシ−1,2−ジアミノエタン塩酸塩(12)とを用いて、アミノ化ポリL-乳酸(a-PLA)を合成した。
【0113】
【化6】
【0114】
重合開始剤であるN−カルボベンゾキシ−1,2−ジアミノエタン塩酸塩(12)(310 mg, 1.60 mmol)に、オクタン酸スズ(6.91 mg)をトルエン(1.0 mL)に拡散させたものを加えた。トルエンを減圧留去した後、L−ラクチド(11)(3.45 g, 24 mmol)を加え、Ar雰囲気下、120 ℃にて重合反応を行った。12時間後、反応容器を室温に空冷した。得られた黄白色固体を少量のクロロホルム(10 mL程度)に溶解させた。クロロホルムを冷メタノール(100 mL)に滴下することにより白色沈殿を得た。得られた白色沈殿は遠心分離により回収し、減圧乾燥した。
【0115】
得られた白色沈殿(500 mg)のジクロロメタン(1 ml)溶液に25v/v%臭化水素/酢酸(2.0 mL)を加え、遮光、乾燥空気下にて2時間攪拌した。反応終了後、反応溶液を冷メタノール(100 mL)に滴下し、析出してきた沈殿を遠心分離にて回収した。得られた白色沈殿はクロロホルムに溶解させた後、飽和NaHCO
3水溶液にて洗浄し、無水MgSO
4にて脱水操作を行った。セライト
(R)濾過によりMgSO
4を除去した後、真空乾燥することにより、白色のアモルファス状粉末のa-PLA(440 mg)を得た。
【0116】
[ポリサルコシン−ポリL-乳酸(PSL1)の合成]
サルコシン−NCA(Sar-NCA)とアミノ化ポリL-乳酸(a-PLA)とから、両親媒性物質ポリサルコシン−ポリL-乳酸(PSL1)を合成した。
【0117】
【化7】
【0118】
a-PLA(383 mg, 0.17 mmol)とサルコシン−NCA (Sar-NCA) (3.21 g, 27.9 mmol) に、Ar雰囲気下、ジメチルホルムアミド(DMF)(140 mL)を加え、室温にて12時間攪拌した。反応溶液を0 ℃に冷却した後、グリコール酸(72 mg, 0.95 mmol)、O−(ベンゾトリアゾル−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロリン酸塩(HATU)(357 mg, 0.94 mmol)、及びN,N−ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)(245 μL, 1.4 mmol)を加え、室温にて18時間反応させた。
【0119】
ロータリーエバポレーターによりDMFを減圧溜去した後、LH20カラムにて精製を行った。UV270 nmにてピークが検出されたフラクションを回収・濃縮した。得られた濃縮溶液を0 ℃にてジエチルエーテル中に滴下し、再沈澱することにより、目的物であるPSL1(1.7 g)を得た。
【0120】
[サルコシン−ポリ(ロイシン−アミノイソブチル酸)(SLA)の合成]
サルコシン−NCA(Sar-NCA)とポリ(ロイシン−アミノイソブチル酸)(LAI)とから、両親媒性物質サルコシン−ポリ(ロイシン−アミノイソブチル酸)(SLA)を合成した。
【0121】
【化8】
【0122】
Boc-(Leu-Aib)
8-OMe (600 mg, 0.349 mmol)を、6.0 mlトリフルオロ酢酸(TFA)と0.6 mlアニソールとの混合溶液に添加し、Boc基の除去を行い、TFA塩誘導体を得た。TFA塩誘導体を、イソプロピルエーテルで洗浄し、2時間真空下で乾燥させた。これをクロロホルムに溶解し、4 wt%の炭酸水素ナトリウム水溶液で中和し、TFA基の除去を行った。クロロホルム溶液を濃縮し、420 mg(0.259 mmol)のポリ(ロイシン−アミノイソブチル酸)(LAI)(H-(Leu-Aib)
8-OMe;LAI)を得た。
【0123】
得られたLAIを8.0 mlのDMF/HCl
3の1/1(v/v)混合溶液に溶解し、Sar-NCA(1.11 g, 15.6mmol)を6.0 mlのDMF/HCl
3の1/1(v/v)混合溶液に溶かしたものに添加した。Sar-NCAが反応によって消失した後、反応溶液を0℃に冷却してグリコール酸(98 mg, 1.30 mmol)、HATU (492 mg, 1.30 mmol)、及びDIEA (338 μL, 1.94 mmol)を加え、室温下で10時間撹拌した。この反応溶液に、更にグリコール酸(40 mg, 0.52 mmol)、HATU (198 mg, 0.52 mmol)、及びDIEA (135 μL, 0.78 mmol)を加えて12時間撹拌した。反応終了後、反応溶液を濃縮し、Sephadex LH-20にてゲルろ過を行うことによって、目的物SLAを精製した(186 mg)。
【0124】
[直鎖型ポリ乳酸系両親媒性ブロックポリマーを用いたラクトソームナノ粒子の作成]
上記の直鎖型ポリ乳酸系両親媒性ブロックポリマーのクロロホルム溶液(0.2 mM)を調製した。その後、溶媒を減圧留去しガラス容器の壁面にフィルムを形成させた。さらに、フィルムを形成したガラス容器内に、水又は緩衝液中に分散させ、温度60℃で30分間超音波処理を行うことにより、分子集合体の分散液を得た。
また、得られた分散液を液体窒素で凍結し、減圧下で昇華させることにより凍結乾燥物を得た。得られた凍結乾燥物に、再度水を加えラクトソームを得た。
直鎖型両親媒性ブロックポリマーのみを構成要素とする分子集合体の粒子
径は、35nmであった。
【0125】
[実施例3:分岐・直鎖混合系分子集合体の調製(分岐型両親媒性ブロックポリマー及び直鎖型両親媒性ブロックポリマーの混合物からの分子集合体の調製)]
本実施例においては、実施例1で得られた分岐型両親媒性ブロックポリマーと、比較例1で得られた直鎖型両親媒性ブロックポリマーとの混合物から、分子集合体(高分子ミセル;ラクトソーム)をフィルム法によって調製した。
【0126】
分岐型両親媒性ブロックポリマー及び直鎖型両親媒性ブロックポリマーを任意の割合で適量のクロロホルムに溶解させ、実施例2と同様の操作を行うことによって分子集合体の分散液を調製し、DLS測定及びTEM観察を行った。
図4にDLS測定結果を示す。
図4において、横軸は直鎖型両親媒性ブロックポリマーの含有量(Content of AB(L)%)、縦軸は粒径(Size/nm)を示す。
図4より、調製した集合体溶液をDLS測定したところ、両親媒性ブロックポリマーの混合比率に従って粒径が変化したことが確認された。
図5にTEM観察結果を示す。
図5において、混合比率を、分岐型両親媒性ブロックポリマー/直鎖型両親媒性ブロックポリマーとして表す。
図5より、両親媒性ブロックポリマーの混合比率に従って、粒子径の異なる均一な高分子ミセル(ラクトソーム)を形成していることが確認された。
【0127】
実施例2で調製された分岐単独系分子集合体の粒子径が20nmであることに対し、本実施例で調製された分岐・直鎖混合系分子集合体の粒子径は20〜35 nmであった。一方、比較例1に示すとおり、直鎖単独系分子集合体の粒子
径が35nmであった。すなわち、本実施例の分岐・直鎖混合系分子集合体の調製においては、直鎖単独系分子集合体が有する粒径と、分岐単独系分子集合体が有する粒径との間の任意の粒径を有する分子集合体の調製が可能であることを示している。
【0128】
[実施例4:ICG修飾分岐単独系分子集合体を用いた体内動態評価]
[ICG標識ポリL-乳酸(PLA-ICG)の合成]
アミノ化ポリL-乳酸(a-PLA)にICG標識を行い、ICG標識ポリL-乳酸(PLA-ICG)を得た。具体的には、a-PLAを1.9 mg (1.0 eq)含むDMF溶液に、インドシアニングリーン誘導体(ICG-sulfo-OSu)1mg (1.3 eq)を溶かしたDMF溶液を加え、室温で約20時間攪拌した。その後、溶媒を減圧留去し、LH20カラムにて精製を行い、化合物PLA-ICGを得た。
【0129】
【化9】
【0130】
[ICG修飾分岐単独系分子集合体の調製]
分岐型両親媒製ブロックポリマーのクロロホルム溶液にさらに3 wt%のICG標識ポリ乳酸(ICG-PLLA)を混合したことを除いては、実施例2と同様の操作を行った。これにより、ICG修飾分岐単独系分子集合体の分散液を調製した。本実施例で得られたICG修飾分岐単独系分子集合体を用い、担癌マウス(右肩、皮下移植)のin vivo蛍光イメージングを行った。
比較用として、比較例1で合成された直鎖型両親媒性ブロックポリマーからも同様の操作をおこなうことにより、ICG修飾直鎖単独系分子集合体を調製し、in vivo蛍光イメージングを行った。
【0131】
図6に、蛍光イメージング結果を示す。分岐単独系分子集合体は、比較用の直鎖単独系分子集合体と同様に肝臓への集積が少なく、EPR効果によって腫瘍(右肩)に集積していることが確認された。
【0132】
図7に、右肩の腫瘍(Tumor)及び背中(Back)の蛍光強度の経時変化を示す。
図7において、縦軸は蛍光強度(Fluorescence intensity)、横軸は時間(Time(H))を示す。癌疾部位での蛍光強度ピークは、直鎖(linear)型では、投与後24時間程度であったが、分枝(branched)型ではラクトソームを投与9時間後であった。バックグラウンドと癌疾部位の蛍光強度変化ならびに癌疾部位/バックグラウンドのコントラスト経時変化を評価したところ、分岐型ラクトソームにおいて6時間後にコントラストが最大となった。すなわち、本発明の分子集合体によってより短時間のイメージングが可能であることが確認された。
【0133】
[実施例5:ABC効果の評価]
本実施例においては、分岐単独系分子集合体及び直鎖単独系分子集合体(比較用)について、実施例4で行われたマウスへの投与から8日後に、再度の投与を行い、in vivo蛍光イメージングを行った。なお、分岐単独系分子集合体投与群及び
直鎖単独系分子集合体投与群それぞれとして、マウスを二匹づつ用いた。
図8に、
図6と同様に蛍光イメージング結果を示す。また、
図9に、投与初回(1st)及び2回目(2nd)における肝臓(Liver)、背中(Background)及び右肩の腫瘍(Tumor)のROIの経時変化を示す。
【0134】
直鎖単独系分子集合体(比較用)の場合、再投与直後にほぼ全量が肝臓に集積した(データ示さず)。一方、分岐単独系分子集合体の場合、再投与直後において肝臓への集積が若干増加するものの、6時間後には癌疾部位への集積が観測された。すなわち、分岐単独系分子集合体の場合、腫瘍部位において蛍光イメージングするために十分な蛍光強度が確保されていることが確認された。従って、分岐単独系分子集合体の場合、ABC効果による腫瘍部位への集積阻害が軽減され、複数回投与が可能であることが明らかとなった。
【0135】
図10に、分岐単独系分子集合体及び直鎖単独系分子集合体(比較用)について、投与一週間後に採取したマウス血漿中の抗体量のELISA結果を示す。Nはコントロール、A3Bは分岐単独系分子集合体、Pは直鎖単独系分子集合体(比較用)の結果を示す。
図10に示されるように、直鎖単独系分子集合体と比較して分岐単独系分子集合体を投与したマウスの抗体産出量は1/2〜2/3程度に減少していることが確認された。抗体産出量が少ないことが、二回目の投与時にも分岐単独系分子集合体が肝臓へトラップされることなく癌へ集積したこと(すなわちABC効果の減弱)に寄与したものと考えられる。
【0136】
[実施例6:分岐型両親媒性ブロックポリマーの合成(2)]
本実施例においては、実施例1とは異なるリンカー試薬を用い、1本のポリ乳酸鎖の一端に3本のポリサルコシン鎖が結合した分岐型両親媒性ブロックポリマーの合成を行った。
【0137】
【化10】
【0138】
実施例1と同じ方法で化合物2を合成した。ベンジルオキシカルボニルサルコシン(Cbz-Sar-OH)の代わりにベンジルオキシカルボニルβアラニン(Cbz-β-Ala-OH)を用いたことを除いて、実施例1と同じ操作を行い、リンカー試薬13及び選択的脱保護によるアミノ基含有化合物14を得た。
【0139】
【化11】
【0140】
アミノ基含有化合物14を開始剤として、実施例1と同じように、ラクチドの重合反応によるPLLA鎖の合成、Cbz基の脱保護、PLLA鎖末端のアセチル基による保護、サルコシン−NCAのカルボキシ無水物重合反応によるPS鎖の合成、及びカルボキシル基の導入によって、両親媒性ブロックポリマー15を得た。なお、式中、重合数の表記を省略している。
【0141】
[実施例7:分岐単独系分子集合体の調製(分岐型両親媒性ブロックポリマーのみからの分子集合体の調製)(2)]
本実施例においては、実施例6で得られた分岐型両親媒性ブロックポリマー15から分子集合体(高分子ミセル;ラクトソーム)をインジェクション法及びフィルム法によって調製した。
【0142】
[インジェクション法]
2 mgの分岐型両親媒性ブロックポリマー15をガラス試験管に入れ、0.1 mlのDMF溶液に溶解した。別のガラス試験管に超純水1.9 mlを入れ、0℃の水浴に浸し5分間撹拌した。ポリマー15のDMF溶液を撹拌しながら超純水中に分散し、さらに5分間撹拌した。得られた粒子分散液を室温に戻した後、PD-10カラム処理に供して有機溶媒を除去し、分子集合体の分散液を調製した。
【0143】
[フィルム法1(超音波処理による)]
分岐型両親媒性ブロックポリマー15を2.0mg、生理食塩水を2.0mL使用したことを除いて、実施例2と同じ操作で分子集合体の分散液を調製した。
【0144】
[フィルム法2(加温処理による)]
85℃の水浴中、バス型ソニケーターでの超音波処理を20分に変更したことを除いて、上記フィルム法1と同様の操作を行い、分子集合体の分散液を調製した。
【0145】
[粒子径評価]
得られた分散液についての粒子径測定結果を、粒度分布指数(PdI)とともに表1に示す。また、動的光錯乱(DLS)測定結果を
図11に示す。
図11中、(i)はインジェクション法、(ii)はフィルム法1、及び(iii)はフィルム法2によって作成された粒子の測定結果である。本実施例では、粒子径20nm〜24nmの粒子が作成された。
【0146】
【表1】
【0147】
[実施例8:分岐型両親媒性ブロックポリマーの合成(3)]
本実施例においては、1本のポリ乳酸鎖の一端に3個のサルコシンが結合した分岐型両親媒性ブロックポリマーの合成を行った。
【0148】
【化12】
【0149】
まず、実施例1と同じ手順で化合物7を合成した。次に、化合物7にグリコール酸とHATU及びDIEAとをそれぞれ加え、室温で24時間撹拌した。反応終了後、サイズ排除クロマトグラフィー(Sephadex LH20, 溶離液:DMF)を用いて濃縮した反応溶液を精製し、目的の両親媒性ブロックポリマー16を得た。なお、式中、ポリ乳酸の重合数の表記を省略している。
【0150】
得られた両親媒性ブロックポリマー16の1H NHR測定結果を
図12に示す。
図12より、本実施例で得られた分岐型両親媒性ブロックポリマーの組成は、PLLA鎖が乳酸単位数30個、1個の分岐あたりのサルコシン数が1個であると同定した。
【0151】
[実施例9:分岐単独系分子集合体の調製(分岐型両親媒性ブロックポリマーのみからの分子集合体の調製)(3)]
本実施例においては、実施例8で得られた分岐型両親媒性ブロックポリマー16から分子集合体(高分子ミセル;ラクトソーム)をインジェクション法によって調製した。
分岐型両親媒性ブロックポリマー16を使用したことを除いて、実施例7と同様の操作を行った。さらに、粒子作成温度が、実施例7と同様の0℃である場合と、当該温度に代わって60℃である場合との両方の場合についてそれぞれ分散液を得た。
得られた粒子分散液について粒子径を測定した。その後、除粒子孔径 200nmのフィルターを用いたフィルタリング処理を行い、再度、粒子径を測定した。粒子径測定結果を、粒度分布指数(PdI)とともに表2に示す。また、DLS測定結果を
図13に示す。
図13中、(i)は0℃、(ii)は60℃の温度条件下で作成された粒子の測定結果である。
【0152】
【表2】
【0153】
[比較例2:直鎖型両親媒性ブロックポリマーの合成及びそれからの直鎖単独系分子集合体の調製(2)]
1本のポリ乳酸(L−ポリ乳酸;PLLA)鎖に1本のポリサルコシン(PS)鎖が結合した直鎖型両親媒性ブロックポリマーの合成を、乳酸単位数(N
L)及びサルコシン単位数(N
S)を様々に変えて行った。具体的な合成法は、比較例1と同様である。
【0154】
表3に、合成した直鎖型両親媒性ブロックポリマーの乳酸単位数(N
L)、サルコシン単位数(N
S)、それらの比(N
S/N
L)及び粒子径をまとめた。なお、粒子を形成しなかった直鎖型両親媒性ブロックポリマーについては、粒子径の代わりに「粒子を形成せず」と表記した。また、サンプル名「Ref」のブロックポリマーについては、Chemistry Letters Vol. 36, No. 10, 1220-1221 (2007)のTable 1中Entry 1のサンプルのデータを転記した。
【0155】
【表3】
【0156】
結果、ポリサルコシンとポリ乳酸とから形成される直鎖型両親媒性ブロックポリマーから粒子を生じさせるためには、N
S/N
Lが1.8以上となる組成でなければならないことが示された。
一方、本発明の分岐型両新媒性ブロックポリマー(例えば、実施例8で合成された化合物16;N
S/N
Lは0.1)からは、本比較例で粒子形成不可能であった1.8未満のN
S/N
Lであっても粒子形成可能であった(実施例9)。