【実施例】
【0024】
本実施例のフォトニック結晶レーザ10は、
図1(a)に示すように、活性層11と、活性層11の一方の側に設けたフォトニック結晶層12と、これらを挟むように設けた下部電極(第1電極)層13及び上部電極(第2電極)層14を有する。ここでは、フォトニック結晶層12側に下部電極層13を設け、活性層11側に上部電極層14を設けた例を示したが、フォトニック結晶層12側に上部電極層14を設け、活性層11側に下部電極層13を設けてもよい。
【0025】
活性層11には、従来の半導体レーザで一般的に用いられているものを用いることができる。本実施例では、活性層11の材料としてインジウム・ガリウム砒素(InGaAs)/ガリウム砒素(GaAs)から成る多重量子井戸(Multiple-Quantum Well; MQW)を有するものを用いた。この活性層は0.9〜1.1μm(赤外領域)の波長帯の光を発光する。なお、活性層の材料はこれに限らず、発振させるレーザ光の波長に応じたものを適宜選択することができる。例えば、青色レーザ光を得る場合には、0.4〜0.6μmの波長帯の光を発光するインジウム・窒化ガリウム(InGaN)/ 窒化ガリウム(GaN)から成る多重量子井戸を有するものを好適に用いることができる。
【0026】
フォトニック結晶層12は、
図1(b)に示すように、板状の母材121に空孔(異屈折率領域)122がリング状に周期的に並んだものである。このように空孔122が並んだリング状の部分を「リング状フォトニック結晶123」と呼ぶ。このように異屈折率領域として空孔を用いると、母材に孔を空けるだけでよいため加工が容易であるという利点がある。一方、異屈折率領域には、母材の材料と屈折率が異なる部材を埋め込んだものを用いてもよい。このように母材以外の部材を埋め込むと、空孔を用いた場合よりも異屈折率領域が変形し難いという利点がある。本実施例では、母材121の材料にはp型GaAsを用いた。リングの半径は160μmとし、隣接空孔同士の距離は媒質内波長に対応した296nmとした。なお、活性層がInGaN/GaNである場合には、母材121の材料にGaN系のものを用い、隣接空孔同士の距離を媒質内波長に対応した186nmとする。また、リング状フォトニック結晶123よりも外周側にはリング状の第1溝1241を、リング状フォトニック結晶123よりも内周側にはリング状の第2溝1242を、それぞれ設けた。
【0027】
図2を用いて、空孔122の平面形状について説明する。各空孔122は、その中心を通ってリングの径方向に延びる径方向軸129に関して非対称な形状を有する。従って、各空孔122は、リング状フォトニック結晶123のリングの中心Oの周りに仮想的に回転させると、他の空孔122に重なる。空孔122をこのような形状とする理由は後述する。
【0028】
下部電極層13は、導電性材料から成るリング状の下部電極(第1電極)131と、そのリングの外周側及び内周側に設けられた第1絶縁性膜132から成る。下部電極131のリングは、リング状フォトニック結晶123とほぼ同じ径を有する。
【0029】
上部電極層14は、導電性材料から成り正方形の枠状の形状を有する上部電極(第2電極)141と、上部電極141の内側及び外側に設けられた第2絶縁性膜142から成る。第2絶縁性膜はSiNから成り、980〜990nmを含む波長帯の光を透過することができる。これにより、上部電極141の内側の領域が窓143として機能する。
【0030】
その他、フォトニック結晶層12と下部電極層13の間にp型半導体から成るpクラッド層151を、活性層11と上部電極層14の間にn型半導体から成るnクラッド層152を、それぞれ設ける。これらクラッド層は従来のフォトニック結晶レーザでも用いられているものである。また、ここまでに述べた各層の間にスペーサ層を挿入してもよい。
【0031】
次に、本実施例のフォトニック結晶レーザ10の動作を説明する。下部電極131と上部電極141の間に電圧を印加することにより、活性層11に電流を注入する。これにより、活性層11から、その材料により定まる波長帯の発光が生じ、その光がリング状フォトニック結晶123に導入される。ここまでの動作において、下部電極131がリング状フォトニック結晶123とほぼ同じ径のリングであることにより、電流は活性層11のうちのリング状フォトニック結晶123の直上付近の領域に集中するように注入され、その領域で周囲よりも強い発光が得られるため、リング状フォトニック結晶123に光を効率良く導入することができる。
【0032】
リング状フォトニック結晶123内では、導入された光のうち空孔122の周期により定まる特定の波長の光が干渉により選択的に増幅され、レーザ発振する。こうして生じたレーザ光は、フォトニック結晶層12に垂直な方向に出射し、レーザビームが上部電極141の窓143を通して外部に取り出される。このレーザビーム21は、
図21に示すように、リング状フォトニック結晶123の形状に対応してリング状の断面を有すると共に、リング状断面の径方向(
図21中の矢印の方向)に偏光したものとなる。このような偏光を持つ理由を以下に説明する。1個の空孔122に着目すると、空孔122と母材121の境界に沿って空孔122を取り巻くように振動電界が形成される。そして、空孔122が径方向軸129に関して非対称な形状を有することにより、径方向軸129を境とした両側では実効的な誘電率が異なる値を持ち、それによって振動電界の強度も異なる値になる。そのため、隣接する2つの空孔122間で径方向に振動する電界が打ち消されず(
図2)、その結果、レーザビームは断面における径方向に偏光を有することとなる。
【0033】
次に、本実施例のフォトニック結晶レーザ10の変形例を説明する。
図3に示したフォトニック結晶レーザ10Aは、リング状の下部電極131Aと同形状であってリング状フォトニック結晶123の直下に設けられた電流通過部31と、電流通過部31の周囲を覆う絶縁膜32を有する。リング状フォトニック結晶123よりも上部電極141側の構成は上記フォトニック結晶レーザ10と同じである。このように電流通過部31を設けることにより、下部電極131Aとリング状フォトニック結晶123の間の電流の経路を絞ることができるため、活性層11のうちリング状フォトニック結晶123の直上の領域に電流をより効率良く供給することができる。
【0034】
図4に示したフォトニック結晶レーザ10Bは、窓143のうちリング状フォトニック結晶123の直上の位置に、リング状レンズ41を設けたものである。リング状レンズ41はリング状フォトニック結晶123側から上部電極層14B側に向かって凸になるレンズである。リング状レンズ41により、リング状フォトニック結晶123から出射したレーザビームの断面におけるリングの幅を狭めることができる。
【0035】
次に、
図5〜
図9を用いて、上記各実施例において用いることができる異屈折率領域(空孔、あるいは母材とは屈折率が異なる部材)の形状の例を説明する。これらの図ではいずれも、着色した部分が異屈折率領域を表している。図の横方向はリング状フォトニック結晶123の径方向に対応し、縦方向は周方向に対応する。いずれの例においても、異屈折率領域は周方向には周期aで等間隔に並んでいる。
【0036】
図5(a)に示した例は三角形であって1辺が径方向に平行になるように配置されたもの、(b)に示した例はVの字形であって横方向が径方向に対応するように配置されたもの、(c)に示した例は半楕円であって弦が径方向に平行になるように配置されたものである。これらはいずれも、径方向の軸に関して非対称な形状となっている。なお、(a)の三角形は二等辺三角形であるが、正三角形であってもよいし、3辺共に長さが異なる三角形であってもよい。また、(c)には半楕円の例を示したが、半円であってもよい。
【0037】
図6〜
図8に示した例ではいずれも、同一形状の複数の異屈折率領域が周方向だけではなく径方向にも複数個並んでいる。
図6に示した例では、異屈折率領域は径方向には間隔を変えながら並び、周方向には同じ間隔で並んでいる。また、
図7に示した例では、異屈折率領域は径方向には間隔だけではなく形状も変えながら並び、周方向には同じ形状で等間隔に並んでいる。
図8に示した例では、異屈折率領域は径方向に、周方向とは異なる間隔で等間隔に並んでいる。これら
図6〜
図8の例ではいずれも、個々の異屈折率領域は三角形、半(楕)円、V字形等の形状をとることができる。リング状フォトニック結晶の周期構造という観点では、径方向に並ぶ異屈折率領域の1列分が1個の異屈折率領域として機能する。
【0038】
これら
図6〜
図8の例ではいずれも、径方向には周期性がないか、少なくとも周方向と同じ周期を持たないため、周方向への1次元的な屈折率分布が形成され、それにより、シングルモードのレーザ発振を得やすくなる。なお、周方向と径方向を同じ周期とすることも(マルチモードになる可能性があるが)できる。
【0039】
図9に示した異屈折率領域は、
図5〜
図8に示した形状と、径方向に長い長方形を組み合わせた形状を有する。この長方形が存在することにより、径方向の軸に関する非対称性を更に高めることができる。
【0040】
次に、フォトニック結晶レーザ10を作製し、実際にレーザ発振が得られることを確認した実験の結果を説明する。
図10(a)に示した電子顕微鏡写真により、作製したフォトニック結晶レーザ10におけるリング状フォトニック結晶123、第1溝1241及び第2溝1242を、
図10(b)に示した拡大写真により空孔122を、それぞれ確認することができる。
【0041】
作製されたフォトニック結晶レーザ10からは、
図11に示すように、約987nmの単一波長のレーザビームが発振されることが確認された。そして、そのレーザビームの断面は、
図12(a)に近視野像で示すようにリング状であった。なお、遠視野像はリング状の近視野像をフーリエ変換した像となった(
図12(b))。更に、レーザビームの偏光を確認するために、レーザビームに垂直に偏光板を配置し、偏光板に垂直な軸の周りに偏光板を回転させつつ、偏光板を通過するレーザビームの遠視野像を測定したところ、
図13に示すように、偏光板がいずれの向きである場合にも、偏光板を透過可能な電界の振動方向(
図13中の矢印の方向)に沿った一部分のみの像が得られる。このことは、レーザビームが径方向に偏光していることを示している。
【0042】
次に、
図14及び
図15を参照しつつ、外周幅と内周幅が異なる空孔(異屈折率領域)を有するリング状フォトニック結晶層52を用いる例を説明する。
図14に示した例では、空孔522は、リング状フォトニック結晶523のリングの中心から径方向に延びる2本の半直線並びにリングの内周及び外周で囲まれる領域としたものであり、リング状フォトニック結晶523の周方向に並んでいる。ここで、2本の半直線の成す角度をθ、リングの内径をr
1、リングの外径をr
2とすると、空孔522の内周幅はr
1θ、外周幅はr
2θとなり、r
1θよりもr
2θの方が大きい。それ以外の構成(フォトニック結晶層52の母材、フォトニック結晶層52以外の層の構成)はフォトニック結晶レーザ10と同様である。
【0043】
空孔522をこのような形状とすることにより、フィリングファクターはリング状フォトニック結晶層52の径方向のいずれの位置においてもθ/φ(ここでφは、上記2本の半直線のうちの一方が、隣接する空孔で対応する半直線と成す角度である。)になる。そのため、リング状フォトニック結晶内の実効的な誘電率を均一にすることができ、それにより光の電界分布を均一にすることができる。なお、内周幅、外周幅が共に同じr
1θである長方形の空孔では、内周側のフィリングファクターはθ/φ、外周側のフィリングファクターは(r
1/r
2)×(θ/φ)となり、外周側の方がフィリングファクターが小さくなる。なお、ここでのフィリングファクターは、ある径を持つ円周上において空孔が占める割合で定義した。
【0044】
図14ではフィリングファクターが径方向のいずれの位置においても等しい値になる例を示したが、外周幅が内周幅の1倍よりも大きく、且つ(r
22/r
12)倍未満であれば(例えば
図15(a))、上記の長方形の空孔の例よりもフィリングファクターの差を小さくすることができ、それにより光の強度の空間分布を小さくすることができる。外周幅が内周幅の(r
22/r
12)倍よりも大きければ(
図15(b))レーザビームの断面においてリングの内側がより強く発光し、外周幅が内周幅よりも小さければ(
図15(c))リングの外側がより強く発光する。また、空孔の形状は上記のものには限られない。例えば、上述の径方向軸129に関して非対称な形状を有する空孔122において、内周幅と外周幅が異なるもの(
図15(d))を用いることができる。あるいは、
図5〜
図9に示した複数の空孔を径方向に複数並べた空孔の群において、内周幅と外周幅が異なるものを用いることができる。
【0045】
次に、
図16〜
図20を参照しつつ、主空孔(主異屈折率領域)と副空孔(副異屈折率領域)を有するリング状フォトニック結晶62を用いる例を説明する。
図16に示した例では、空孔622は、主空孔622Aと、主空孔622Aよりも面積が小さい副空孔622Bから成り、リング状フォトニック結晶623の周方向に並んでいる。隣接する空孔622間の距離(周期)はaであり、各空孔622における主空孔622Aと副空孔622Bの距離はδである。また、本実施例では主空孔622A及び副空孔622Bは内周幅よりも外周幅を大きくしたが、外周幅よりも内周幅を大きくしてもよいし、内周幅と外周幅を同じにしてもよい。それ以外の構成(母材、フォトニック結晶層以外の層の構成)はフォトニック結晶レーザ10と同様である。
図17に、実際に作製したリング状フォトニック結晶623のうち空孔622の部分を拡大した電子顕微鏡写真を示す。
【0046】
このように主空孔622A及び副空孔622Bを設けることにより、
図18に示すように、リング状フォトニック結晶62の周方向に伝播する光のうち、主空孔622Aで反射された光と、その主空孔622Aと同じ空孔622に属する副空孔622Bで反射される光の間に光路差2δが生じる。そのため、これら2つの光は干渉により強度を強め合うか、又は弱め合う。但し、弱め合いが生じる場合においても、主空孔622Aと副空孔622Bの面積が異なるため、2つの光が完全に打ち消し合うことはない。
【0047】
特に、リング状フォトニック結晶により増幅される波長a(空孔622の周期と同じ波長)の光では、距離δをa/4とした場合に、干渉による弱め合いの効果が最も大きくなる。これにより、リングの一部で光の強度が強くなることを抑え、均一な強度分布のリング状の断面を持つレーザ光を得ることができる。
【0048】
図19に、副空孔622Bを設けない場合(a)と設けた場合(b)について、光結合係数κを計算した結果を示す。この計算では、δの値をa/4とした。また、副空孔622Bのフィリングファクターは0.1に固定し、主空孔622Aのフィリングファクターを変数として計算を行った。なお、ここでのフィリングファクターは、リング状フォトニック結晶の面積に対する空孔の面積の割合で定義した。この計算の結果、主空孔622Aよりも面積が小さい副空孔622Bを設ける(
図19(b)において主空孔622Aのフィリングファクターが0.1よりも大きい)ことにより、副空孔622Bを設けない場合よりも光結合係数κを小さくし、リングの一部で光の強度が強くなることを抑えることができる、といえる。
【0049】
主異屈折率領域及び副異屈折率領域の組み合わせは上記のものには限られない。例えば、図
20に示すように、同じ形状の空孔(異屈折率領域そのものではなく、異屈折率領域の一部に相当)を径方向に並べた主空孔622A1、622A2と、主空孔622A1の各空孔よりも径が小さい空孔を径方向に並べた副空孔622B1、622B2を用いることができる。また、主異屈折率領域の形状と副異屈折率領域の形状を異なるもの(例えば一方を円形、他方を正三角形)とすることもできる。あるいは、主異屈折率領域と副異屈折率領域に、互いに屈折率が異なる部材(一方が空孔の場合を含む)を用いることもできる。