【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)経済産業省四国経済産業局、平成19年度地域新生コンソーシアム研究開発事業(“剣山”形無痛ワクチンデリバリーシステムの開発)に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、マイクロニードルを確実かつ簡単に皮膚内に挿入し得る方法とそのための補助器具を提供すること、特に、比較的低強度であることから、概して、衝撃に弱く、折れ易い傾向にある生体分解性樹脂製のマイクロニードルであっても、折れを生じることなく、確実かつ簡単に皮膚内に挿入し得る方法とそのための補助器具を提供することである。
【0008】
また、折れ易い傾向にある生体分解性樹脂製のマイクロニードル等であっても、折れを生じることなく、確実かつ簡単に皮膚内に挿入できるとともに、皮膚内に挿入後のマイクロニードルを皮膚表面に簡単に保持することを可能にする補助器具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
生体分解性樹脂製のマイクロニードル(微小針状部材)は、皮膚に対して略垂直以外の角度で進入すると、皮膚面に接触したときに折れてしまい皮膚に挿入できない場合や、挿入と同時に折れ、皮膚に残存することがある。
【0010】
そこで、本発明者らは、皮膚表面を固定し生体分解性樹脂製のマイクロニードル(対称的な形のマイクロニードルを使用)をマイクロニードルの軸線方向に移動させ、皮膚にマイクロニードルを圧着させることにより、生体分解性樹脂製のマイクロニードルを確実かつ簡単に皮膚内へ挿入できることを見出した。特に、マイクロニードルの軸線に対して皮膚表面が直交する配置となるように皮膚表面を固定し、マイクロニードルを、その軸線方向に移動させて、皮膚表面に対して垂直に挿入させれば、簡単かつ確実にマイクロニードルが折れることなく皮膚内へ挿入できること、さらに、かかる皮膚表面を固定した状態でマイクロニードルの皮膚表面への挿入を可能にする補助器具としては、筒式やバネ式(屈伸可能な板部材からなる枠体を用いる方式)が好適であることを見出した。なお、上記の「対称的な形のマイクロニードル」とは、基板上に複数の微小針が対称な配列形態で配列したマイクロニードルアレイを意味する。
【0011】
また、補助器具へのマイクロニードルの固定を、表面に粘着層を形成したバッキングフィルムの該粘着層上にマイクロニードルを接着することによって行なうことにより、マイクロニードルをバッキングフィルムとともに皮膚表面に押接することが可能になり、その結果、皮膚内へのマイクロニードルの挿入と皮膚表面へのマイクロニードルの保持(固定)を実質的に同時に行なえること、さらに、マイクロニードルが収容される凹部を備えた外装ケースを使用し、その凹部にマイクロニードルを内包させた状態で外装ケースの凹部を囲む周壁部を皮膚表面に載置することで、マイクロニードルの皮膚への挿入作業の作業性が向上するとともに、マイクロニードルの皮膚表面からの脱落やマイクロニードルが折れたりする不具合をより高いレベルで防止できること等を見出した。
【0012】
本発明は、以上の知見に基づいて研究を重ねることによって、完成したものであり、その要旨は以下の通りである。
【0013】
[1]マイクロニードルを皮膚内へ挿入する方法であって、
A)マイクロニードル(1)をプレート(2)の片面上に固定し、
B)該プレート(2)を筒状部材(4)内に緩嵌し、筒状部材(4)の軸線方向一方側の端面を皮膚表面に圧接して皮膚表面を固定し、
C)該プレート(2)を該マイクロニードル(1)の軸線方向に移動させて、
D)皮膚表面に該プレート(2)を圧接させる、
ことを特徴とする、マイクロニードルの皮膚内への挿入方法。
[2]筒状部材(4)が円筒状である、上記[1]記載の方法。
[3]プレート(2)のマイクロニードル(1)の固定面とは反対側の片面にピストン(3)が設けられており、ピストン(3)を指で加圧して、マイクロニードル(1)の軸線方向にプレート(2)を移動させる、上記[1]又は[2]記載の方法。
[4]ピストン(3)の側面に筒状部材(4)の内面に当接し得る突起部を有する上記[3]記載の方法。
[5]筒状部材(4)の内面にプレート(2)と係合するレール様のガイドを有する、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。
[6]マイクロニードルを皮膚内に挿入する方法であって、
A)マイクロニードル(1)をプレート(2)の片面上に固定し、
B)該プレート(2)の側周に設けられた、断面がパンタグラフ型の屈伸可能な板部材(21)からなる枠体(20)の、該プレート(2)から離反する側の板部材の一端部(21A)を、皮膚表面に圧接して皮膚表面を固定し、
C)該枠体(20)を屈伸させることで、プレート(2)をマイクロニードル(1)の軸線方向に移動させて、
D)皮膚表面に該プレート(2)を圧接させる、
ことを特徴とする、マイクロニードルの皮膚内への挿入方法。
[7]マイクロニードル(1)の軸線と、プレート(2)の移動方向のズレが5度未満である、上記[1]〜[6]のいずれかに記載の方法。
[8]マイクロニードル(1)を粘着テープ(6)及び/又はストッパー(7)にてプレート(2)上に固定する、上記[1]〜[7]のいずれかに記載の方法。
[9]プレート(2)を皮膚表面に圧接後、プレート(2)からマイクロニードル(1)を剥離させて、マイクロニードル(1)を皮膚内に留置する、上記[1]〜[8]のいずれかに記載の方法。
[10]マイクロニードル(1)が生体内分解性樹脂製マイクロニードル又は多糖類製マイクロニードルである、上記[1]〜[9]のいずれかに記載の方法。
[11]生体内分解性樹脂が、ポリ乳酸、ポリグリコール酸及び乳酸とグリコール酸の共重合体から選ばれる1種又は2種以上である、上記[10]記載の方法。
[12]生体内分解性樹脂が、ポリ乳酸である、上記[10]記載の方法。
[13]多糖類がマルトースである、上記[10]記載の方法。
[14]一方の片面がマイクロニードル(1)の被固定面であり、他方の片面にピストン(3)を立設させたプレート(2)と、
該プレート(2)をその内部に緩嵌させて保持する筒状部材であって、その軸線方向一方側の端面が皮膚表面へ圧接される筒状部材(4)とを有することを特徴とする、マイクロニードルの皮膚内への挿入用補助器具。
[15]ピストン(3)の側面に筒状部材(4)の内面に当接し得る突起部(11)を有するか、及び/又は、筒状部材(4)の内面にプレート(2)と係合するレール様のガイド(12)を有する、上記[14]記載の補助器具。
[16]筒状部材の軸線方向他方側が縮径して、ピストン(3)をガイドするガイド部(8)になっている、上記[14]記載の補助器具。
[17]筒状部材(4)の軸線方向一方側の端面が、筒状部材(4)の軸線方向一方側の端部に形成されたフランジ(4’)の表面である、上記[14]〜[16]のいずれかに記載の補助器具。
[18]一方の片面(2’)がマイクロニードル(1)の被固定面であるプレート(2)と、
該プレート(2)の側周に設けられ、該プレート(2)の一方の片面(2’)に対する垂線方向に屈伸可能な屈曲部(21B)が形成された板部材(21)からなる枠体(20)とを含むことを特徴とする、マイクロニードルの皮膚内への挿入用補助器具。
[19]枠体(20)が断面がパンタグラフ型の屈伸可能な板部材(21)からなる、上記[18]記載の補助器具。
[20]プレート(2)の他方の片面(2’’)に突起部位(3’)が形成されてなる、上記[18]又は[19]記載の補助器具。
[21]プレート(2)の一方の片面に弱粘着剤(18)を介して接着された皮膚貼付用布(17)に強粘着剤(16)を介してマイクロニードル(1)を固定してなる、上記[14]〜[20]のいずれかに記載の補助器具。
[22]マイクロニードル(1)が、プレート(2)側よりもマイクロニードル(1)側の粘着力が弱い両面粘着テープ(6)を介してプレート(2)に固定される、上上記[14]〜[20]のいずれかに記載の補助器具。
[23]プレート(2)側よりもマイクロニードル(1)側の粘着力が弱い両面粘着テープ(6)がプレート(2)の全面を被覆し、マイクロニードル(1)が該両面粘着テープ(6)を介してプレート(2)に固定される、上記[14]〜[20]のいずれかに記載の補助器具。
[24]粘着面がマイクロニードル側の片面のみの粘着テープ(6)がプレート(2)の一方の片面上に保持されており、該粘着テープ(6)にマイクロニードル(1)が固定される、上記[14]〜[20]のいずれかに記載の補助器具。
[25]枠体(20)を内包する凹部(31)を備えた外装ケース(30)をさらに有し、
該外装ケース(30)の底板(30A)に形成された貫孔(30B)にプレート(2)の他方の片面に形成された突起部位(3’)が挿入される一方、該外装ケース(30)の凹部(31)を囲む周壁部(30C)の先端に枠体(20)のプレート(2)から離反する側の板部材(21)の端部(21A)が固着されており、
外装ケース(30)の周壁部(30C)を皮膚表面に載置した状態で、プレート(2)の突起部位(3’)を押し下げることにより、マイクロニードル(1)が皮膚内に挿入されるように構成された、上記[20]〜[24]のいずれかに記載の補助器具。
[26]プレート(2)の一方の片面(2’)に弱粘着性の粘着層(32)を介してバッキングフィルム(33)の一方の片面が接着され、該バッキングフィルム(33)の他方の片面に形成された強粘着性の粘着層(34)上にマイクロニードル(1)が固着されてなる、上記[25]記載の補助器具。
[27]外装ケース(30)の周壁部(30C)の先端に固着された、枠体(20)を構成する板部材(21)の端部(21A)に、皮膚への接着用の粘着層(35)が形成されてなる、上記[25]又は[26]記載の補助器具。
[28]マイクロニードル(1)を内包する凹部(31)を備えた外装ケース(30)の底板(30A)に貫孔(30B)が形成されるとともに、該貫孔(30B)に栓部材(38)が緩嵌され、
栓部材(38)の凹部(31)側の表面と、外装ケース(30)の底板(30A)の貫孔(30B)の周辺に弱粘着性の粘着層(32)が形成されて、該弱粘着性の粘着層(32)にバッキングフィルム(33)の一方の片面が接着され、該バッキングフィルム(33)の他方の片面に形成された強粘着性の粘着層(34)上にマイクロニードル(1)が固着される一方、外装ケース(30)の凹部(31)を囲む周壁部(30C)の内側面に付設された弱支持性の突出部材(39)によって、バッキングフィルム(33)の周縁部が支持されており、
外装ケース(30)の周壁部(30C)を皮膚表面に載置した状態で、栓部材(38)を押し下げることにより、マイクロニードル(1)が皮膚内に挿入されるように構成された、マイクロニードルの皮膚内への挿入用補助器具。
[29]外装ケース(30)の周壁部(30C)の先端に皮膚への接着用の粘着層(35)が形成されてなる、上記[28]記載の補助器具。
[30]外装ケース(30)の凹部(31)の開口を塞ぐ剥離可能な保護用フィルム(36)が付設されてなる、上記[25]〜[29]のいずれかに項記載の補助器具。
[31]マイクロニードル(1)が生体内分解性樹脂製マイクロニードル又は多糖類製マイクロニードルである、上記[14]〜[30]のいずれかに記載の補助器具。
[32]上記[14]〜[31]のいずれかに記載の補助器具のプレート(2)に薬物含有マイクロニードルを固定してなる、マイクロニードル型製剤。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、マイクロニードルを確実に簡単に皮膚内へ挿入できるので、比較的強度が低い生体分解性樹脂製のマイクロニードルであっても、マイクロニードルの針先の折損を起こすことなく、または、軽減して、皮膚表面にマイクロニードルを穿刺することができる。
【0015】
また、本発明のマイクロニードルの皮膚内への挿入に使用する補助器具の好適態様では、マイクロニードルを収容する凹部を備えた外装ケースを有していることから、マイクロニードルを皮膚内へ挿入する迄は当該ケース内でマイクロニードルを保管することができ、また、マイクロニードルの皮膚内への挿入作業時も外装ケースの該凹部にマイクロニードルを内包した状態で行うことができる。従って、生体分解性樹脂製のマイクロニードルであっても、マイクロニードルの針先の折損をより高いレベルで防止することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明のマイクロニードルの皮膚挿入に用いる補助器具の一例の断面図である。
【
図2】図(A)、(B)は比較的短寸の筒状部材を用いた補助器具の断面図である。
【
図3】本発明の補助器具の使用によって皮膚表面が常にマイクロニードルの軸線に対して垂直となる配置に固定(維持)されることを示した図面である。
【
図4】プレートに設置するマイクロニードルの固定方法(両面粘着テープ)を示す断面図である。
【
図5】プレートに設置するマイクロニードルの固定方法(片面粘着テープとストッパー)を示す断面図である。
【
図6】図(A)〜図(C)は、それぞれ、プレートの安定移動のための技術手段を付設した補助器具の断面図である。
【
図7】本発明のマイクロニードルの皮膚挿入に用いるパンタグラフ型の補助器具の断面図(図(A))、プレート側から見た斜視図(写真)(図(B))、及びマイクロニードル側から見た斜視図(写真)(図(C))である。
【
図8】プレートに突起部位を設けたパンタグラフ型の補助器具の断面図である。
【
図9】マイクロニードルを手でラットの皮膚に挿入する場合の、挿入前のマイクロニードルの微小針の形状(写真)である。
【
図10】マイクロニードルを手でラットの皮膚に挿入する場合の、挿入後のマイクロニードルの微小針の形状(写真)である。
【
図11】挿入補助器具(円筒形状)を用いてラットの皮膚にマイクロニードルを挿入する場合の挿入前の微小針の形状(写真)である。
【
図12】挿入補助器具(円筒形状)を用いてラットの皮膚にマイクロニードルを挿入する場合の挿入後の微小針の形状(写真)である。
【
図13】マイクロニードルの軸線方向とプレートの進行方向が5度ずれた状態でプレートを皮膚に圧着させるための試験用の補助器具の模式断面図である。
【
図14】
図13の補助器具でラットの腹部にプレートを圧着させて、マイクロニードルを皮膚に挿入した後の微小針の形状(写真)である。
【
図15】プレートに設置するマイクロニードルの固定方法を表した断面図である。
【
図16】本発明のマイクロニードルの皮膚挿入に用いるパンタグラフ型の補助器具の変形例の断面図である。
【
図17】本発明のマイクロニードルを皮膚内に挿入するための補助器具であって、外装ケースを用いた補助器具の第1例の模式断面図である。
【
図18】
図17に示す補助器具を使用する際の操作用フィルムを剥がす作業を示す模式断面図である。
【
図19】
図17に示す補助器具を使用する際の操作用フィルム及び保護用フィルムを剥がした状態を示す模式断面図である。
【
図20】
図17に示す補助器具を皮膚表面に載置した状態を示す模式断面図である。
【
図21】
図17に示す補助器具を使用してマイクロニードルの皮膚挿入を行っている状態を示す模式断面図である。
【
図22】
図17に示す補助器具を使用してマイクロニードルを皮膚表面に固定した状態を示す模式断面図である。
【
図23】本発明のマイクロニードルを皮膚内に挿入するための補助器具であって、外装ケースを用いた補助器具の第2例の模式断面図である。
【
図24】
図23に示す補助器具から保護用フィルムを剥がしてマイクロニードルの皮膚挿入を行っている状態を示す模式断面図である。
【
図25】
図23に示す補助器具を使用してマイクロニードルを皮膚表面に固定した状態を示す模式断面図である。
【
図26】本発明のマイクロニードルを皮膚内に挿入するための補助器具であって、外装ケースを用いた補助器具の第3例の模式断面図である。
【
図27】
図26に示す補助器具から保護用フィルムを剥がしてマイクロニードルの皮膚挿入を行っている状態を示す模式断面図である。
【
図28】
図26に示す補助器具から保護用フィルムを剥がしてマイクロニードルの皮膚挿入を行っている状態を示す模式断面図である。
【
図29】
図26に示す補助器具を使用してマイクロニードルを皮膚表面に固定した状態を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を、添付図面に示された好ましい態様を参照して更に詳細に説明する。なお、図面において、同一または相当する要素には同様の参照番号を付した。また、図面における寸法は模式的なもので、実際の寸法と正確な比例関係にあるものではない。
【0018】
本発明のマイクロニードルの皮膚内への挿入方法では、例えば、
図1に示される補助器具を使用することが望ましい。
図1は本発明における補助器具の第1例であり、マイクロニードル(1)をプレート(2)の一方の片面に固定した注射器様の挿入補助器具である。ここで、マイクロニードル(1)は、その微小針の軸線方向とプレート(2)の移動方向が一致するように、プレート(2)に固定されている。プレート(2)は筒状部材(4)の内部に緩嵌されており、プレート(2)他方の片面に立設させたピストン(3)に外力を加えることによって、皮膚表面(50)に向かって、筒状部材(4)内を直進できるようになっている。なお、図中の符号(5)は、ピストン(3)のプレート(2)との接合部側とは反対側に設けた、外力を与えやすくするための板状片であり、例えば、ヒトの指を該板状片(5)に押し当てることで、容易にピストン(3)に外力を与えることができる。
【0019】
図1(A)はピストン(3)に外力を加えた初期の状態であり、
図1(B)はピストン(3)にさらに外力を加えて、プレート(2)を、皮膚表面(50)に向けて前進させた状態である。かかる補助器具は、これらの図面に示されるように、筒状部材(4)の軸線方向一方側の端面を皮膚表面(50)に圧接して、皮膚表面(50)を固定した状態で使用される。なお、図中の矢印は外力を示している。
【0020】
図2は本発明における補助器具の第2例であり、本発明における補助器具は、
図2(A)のように、比較的短寸にした筒状部材(4)の軸線方向他方側を縮径して、筒状部材(4)にピストン(3)をガイドするガイド部(8)を設けた構成であってもよい。また、
図2(B)のように、比較的短寸にした筒状部材(4)のマイクロニードル(1)から離反する側の端部を、ピストン(3)が貫通する貫通孔を設けた蓋部(8’)で閉塞した構成にしてもよい。
【0021】
また、
図2(A)、(B)に示されるように、筒状部材(4)の軸線方向一方側の端部にフランジ(4’)を設け、該フランジ(4’)の表面を皮膚表面(50)に圧接して、皮膚表面(50)を固定する構成にしてもよい。かかる構成にすれば、皮膚表面(50)の固定がより確実になる。
【0022】
本発明の補助器具を使用することで、
図1に示されるように、皮膚表面(50)に筒状部材(4)を垂直に押し当て(すなわち、筒状部材(4)の軸線方向一方側の端面を皮膚表面(50)に圧接して)、皮膚表面(50)を固定した後、ピストン(3)に外力を加えてプレート(2)を移動させ、プレート(2)を皮膚表面(50)に圧着すると、プレート(2)上のマイクロニードル(1)が皮膚内に挿入される。
【0023】
プレート(2)が皮膚表面(50)に圧着して、マイクロニードル(1)が皮膚内へ挿入される際に、マイクロニードル(1)の折れが確実に防止され、マイクロニードル(1)が確実に皮膚を穿刺して、皮膚内に留置されるためには、プレート(2)上のマイクロニードル(1)の微小針の軸線方向と、プレート(2)の進行方向とが一致するか、或いは、これらが5度よりも小さい角度のずれであることが望ましい。例えば、進行方向と微小針の軸線方向が5度以上ずれると、マイクロニードルの先端部は折損しやすく、皮膚に突き刺さり難くなる。
【0024】
なお、本発明における「マイクロニードル(1)」とは、典型的には、
図1、2に示される、基板上に基板表面に対する垂線方向に突出する複数の微小針が配列したものであり、上記の「マイクロニードル(1)の微小針の軸線方向」とは、複数の微小針のいずれの微小針においても実質的に同一である。
【0025】
本発明の補助器具を使用すれば、
図3に示されるように、皮膚表面(50)に圧接させる筒状部材(4)がやや傾いた状態(すなわち、筒状部材(4)の端部の全周における皮膚への陥没量が一様でない状態)であっても、筒状部材(4)の端面で皮膚表面(50)が固定されているため、マイクロニードル(1)はその微小針の軸線方向が皮膚表面(50)に直交するように降下して行く。
【0026】
図4に示されるように、本発明の補助器具において、マイクロニードル(1)は、例えば、粘着テープ(6)を介してプレート(2)上に固定される。ここで、粘着テープ(6)は、マイクロニードル(1)側とプレート(2)側で粘着力の異なる両面粘着テープである。この粘着テープ(6)は、皮膚内にマイクロニードル(1)が挿入された後、ピストン(3)を引上げ、プレート(2)を元の位置に戻す際に(
図1(A)、
図3等参照)、マイクロニードル(1)が剥離して皮膚表面に留置されるような機能を持っている。例えば、粘着テープ(6)としてマイクロニードル(1)側の粘着力が弱いものを使用することにより、マイクロニードル(1)のみが粘着テープ(6)から剥離してマイクロニードル(1)を皮膚に留置させることができる。なお、
図4中の矢印は皮膚表面への接着を示している。
【0027】
また、
図4に示されるように、粘着テープ(6)がプレート(2)のマイクロニードル(1)の搭載部だけでなく、プレート(2)の全面を被覆するように設けた場合、例えば、粘着テープ(6)として、プレート(2)側の面の粘着力がマイクロニードル(1)側の面のそれよりも弱いものを使用することで、プレート(2)を皮膚表面に圧着すると、粘着テープ(6)のマイクロニードル(1)の周囲部が皮膚表面に接着して、マイクロニードル(1)を皮膚に確実に固定することができる。そして、その後、プレート(2)を元の位置に引き上げると、粘着テープ(6)はプレート(2)側の面の粘着力が弱いので、プレート(2)から剥離して、マイクロニードル(1)を覆う状態で皮膚表面に接着し、マイクロニードル(1)が皮膚に留置されることになる。
【0028】
また、粘着テープ(6)に粘着面がマイクロニードル側の片面のみの粘着テープを使用する場合、
図5に示されるように、プレート(2)のコーナー部に付設したストッパー(係止用突片)(7)で粘着テープ(6)をプレート(2)の片面上に保持することで、プレート(2)の片面上にマイクロニードル(1)を固定する。この場合も、プレート(2)を皮膚表面に圧着すると、マイクロニードル(1)の周りの粘着テープ(6)が皮膚に接着し、マイクロニードル(1)を皮膚に固定することができる。そして、その後、プレート(2)を元の位置に引き上げると、粘着テープ(6)は皮膚との接着力によってストッパー(7)から外れ、マイクロニードル(1)を覆う状態で皮膚表面に接着し、マイクロニードル(1)が皮膚に留置されることになる。なお、
図5中の矢印は皮膚表面への接着を示している。
【0029】
本発明の補助器具では、上述のとおり、プレート(2)の移動方向がマイクロニードル(1)の微小針の軸線方向と一致するように、プレート(2)を移動させるが、プレート(2)の移動方向を一定方向に固定するための手段としては、プレート(2)の厚みを比較的大きな厚みにし、プレート(2)の側面と筒状部材(4)の内面との接触面積を大きくする第1態様(
図6(A))、筒状部材(4)の内面にプレート(2)と係合するレール様のガイド(12)を設ける第2態様、ピストン(23)の側面に筒状部材(4)の内面に当接し得る突起部を設ける第3態様(
図6(C))を挙げることができる。なお、
図6(C)中のピストン(23)は、マイクロニードル(1)を固定するためのプレート機能を兼ねたピストンである。
【0030】
第1態様の場合、例えば、プレート(2)の大きさ(面積)が概ね0.5CM
2〜30CM
2程度である場合、プレート(2)の厚みは概ね0.5MM〜10MM程度とするのが好ましい。また、第3態様の場合、好ましい態様として、例えば、ピストン(23)の側面のピストン(23)の軸線方向での2以上の複数の異なる位置(ピストンの端部からの距離が異なる複数の位置)で、同心の外周線上に3点以上の突起物を略等間隔で設ける態様が挙げられる。
【0031】
以上説明した筒状部材(4)を使用した注射器様の補助器具において、筒状部材(4)の断面形状(筒状部材の軸線と直交する断面の形状)は限定されず、筒状部材は円筒状でも、角筒状でも、その他の形状でもよいが、取り扱い性、プレート(2)の可動安定性等の点から、円筒状、角筒状が好ましい。従って、プレート(2)の平面形状も円形又は方形が好ましい。
【0032】
本発明の補助器具には、上記例示した、注射器様の補助器具以外に、
図7(A)に示されるような、マイクロニードル(1)の固定用基材であるプレート(2)の側周に、プレート(2)の一方の片面(2’)に対する垂線方向に屈伸可能な屈曲部(21B)を有する板部材(21)からなる枠体(20)を用いた態様がある。
【0033】
当該
図7(A)の例では、屈伸可能な屈曲部(21B)を有する板部材(21)からなる枠体(20)は、断面がパンタグラフ型に構成されているが、
図16に示されるように、屈伸可能な屈曲部(21B)の頂部を内側(マイクロニードル(1)側)に向けるようにして、枠体(20)を構成してもよい。
【0034】
枠体(20)は、
図7(B)、(C)に示されるように、通常、プレート(2)の側部全周を包囲するように設けられる。すなわち、
図7(B)、(C)は、平面形状が略方形のプレート(2)の4辺を包囲するように板部材(21)からなる枠体(20)を設けている。なお、例えば、平面形状が略方形や矩形のプレート(2)の2組の対辺のうちの一方の対辺に対して枠体(20)を付設し、他方の対辺には枠体(20)を設けない構成であってもよい。
【0035】
また、枠体(20)におけるプレート(2)から離反する側の板部材(21)の一端部(21A)は、
図7(B)に示すような、平面視が環状の平板状に形成されるのが、皮膚表面の固定性等の点から好ましい。
【0036】
なお、
図7及び
図16では簡略化のため、プレート(2)の一方の片面(2’)にマイクロニードル(1)を固定するための構成を図示していないが、このようなプレート(2)の側周に屈伸可能な屈曲部(21B)を有する板部材(21)からなる枠体(20)を用いたタイプの補助器具においても、通常、
図4や
図5に示すような両面粘着テープ(6)を用いてマイクロニードル(1)を固定する方法が採用される。
【0037】
かかるプレート(2)の側周に屈伸可能な屈曲部(21B)を有する板部材(21)からなる枠体(20)を用いたタイプの補助器具を使用して、マイクロニードルを皮膚内へ挿入する場合、まず、
図7(A)に示されるように、枠体(20)のプレート(2)から離反する側の板部材(21)の一端部(21A)を、皮膚表面(50)に圧接して皮膚表面を固定する。次に、例えば、プレート(2)のマイクロニードル(1)の固定面とは反対側の片面(2’’)をヒトの指で押圧して(外力を加えて)、プレート(2)を押し下げると、枠体(20)の屈伸可能な板部材(21)のV字の屈曲部(21B)の屈曲角度がより小さくなって、プレート(2)がマイクロニードル(1)の軸線方向に移動して、皮膚表面(50)に圧着し、プレート(2)上のマイクロニードル(1)が皮膚内に挿入される。なお、
図7(A)中の矢印は外力を示している。
【0038】
なお、ヒトの指による押圧(加圧)の方向性の不適によって、プレート(2)の移動方向がマイクロニードル(1)の軸線方向からずれることを回避するため、
図8に示されるように、プレート(2)のマイクロニードル(1)の固定面とは反対側の片面(2’’)に突起部位(3’)を立設することができる。突起部位(3’)を指で押圧(加圧)することで、押圧(加圧)の方向をマイクロニードル(1)の軸線方向に一致させることが容易になる。
【0039】
図17は、
図8に示すような、プレート(2)の側周に屈伸可能な屈曲部(21B)を有する板部材(21)からなる枠体(20)を有し、かつ、プレート(2)のマイクロニードル(1)の固定面とは反対側の片面(2’’)に突起部位(3’)を形成したタイプの補助器具をさらに改良したものである。すなわち、
図17に示す補助器具100は、マイクロニードル(1)の固定用基材であるプレート(2)の側周に設けた枠体(20)とは別に、該枠体(20)を内包する凹部(31)を備えた外装ケース(30)をさらに設けたものであり、かかる外装ケース(30)の底板(30A)に貫孔(30B)を形成して、該貫孔(30B)に、マイクロニードル(1)が固定されているプレート(2)の他方の片面に形成された突起部位(3’)を挿入する一方、外装ケース(30)の凹部(31)を囲む周壁部(30C)の先端に、屈伸可能な屈曲部(21B)を有する板部材(21)からなる枠体(20)の、プレート(2)から離反する側の板部材(21)の端部(21A)を固着することで(
図10中の符号22は接着剤である。)、外装ケース(30)の凹部(31)内に、マイクロニードル(1)が固定されたプレート(2)を収容している。
【0040】
外装ケース(30)におけるマイクロニードル(1)、プレート(2)及び枠体(20)を内包する凹部(31)の開口は剥離可能な保護用フィルム(36)で塞がれており、マイクロニードル(1)を皮膚内へ挿入する作業を行うまでは、マイクロニードル(1)は外部から隔絶されている。従って、マイクロニードルを保管している間にマイクロニードルの針先に何らかの外力が加わって、針先が折損してしまうような不具合を防止することができる。また、外装ケース(30)の背面には、外装ケース(30)の背面側を保護するとともに、保護用フィルム(36)の剥離操作を容易にするための操作用フィルム(37)が貼付されており、該操作用フィルム(37)は外装ケース(30)の一側面まで延在されて、保護用フィルム(36)の端部と接合されている。なお、
図17中の符号40は操作用フィルム(37)に形成された粘着層である。
【0041】
また、プレート(2)の片面(2’)には弱粘着性の粘着層(32)を介してバッキングフィルム(33)の一方の片面が接着し、バッキングフィルム(33)の他方の片面には強粘着性の粘着層(34)が形成され、該強粘着性の粘着層(34)上にマイクロニードル(1)が固着されている。バッキングフィルム(33)は後述するように、マイクロニードル(1)を皮膚内に挿入後、マイクロニードル(1)を皮膚表面に固定するために使用される。
【0042】
外装ケース(30)の周壁部(30C)の先端に固着された、枠体(20)を構成する板部材(21)の端部(21A)には皮膚への接着用の粘着層(35)が形成されており、該粘着層(35)は、凹部(31)の開口を閉鎖する保護用フィルム(36)を固着するための粘着層としても利用される。
【0043】
かかる
図17に示す態様の補助器具(100)では、マイクロニードル(1)の皮膚内への挿入作業を行う場合、まず、
図18、19に示すように、操作用フィルム(37)を外装ケース(30)の背面から剥離し、さらに保護用フィルム(36)を剥離する。これらフィルムの剥離後は、
図20に示すように、外装ケース(30)の周壁部(30C)を皮膚表面(50)に載置する。なお、周壁部(30C)の先端面に接着された板部材(21)の端部(21A)には皮膚への接着用の粘着層(35)が形成されているので、皮膚表面(50)に外装ケース(30)が固着されて、外装ケース(30)の位置決めがなされる。この状態で、
図21に示すように、プレート(2)の突起部位(3’)を押し下げることで、マイクロニードル(1)はプレート(2)の片面(2’)に接着されたバッキングフィルム(33)とともに皮膚表面(50)に圧接され、この後、外装ケース(30)を皮膚表面(50)から引き上げると、
図21に示されるように、マイクロニードル(1)が皮膚内に挿入された状態で、バッキングフィルム(33)がマイクロニードル(1)の背面を覆って、強粘着性の粘着層(34)が皮膚表面(50)に接着し、マイクロニードル(1)は皮膚表面に固定(留置)される(
図22)。なお、
図21中の矢印は外力を示している。
【0044】
このように、本態様の補助器具(100)では、外装ケース(30)を有することから、皮膚表面(50)上での補助器具の位置決め及び固定が容易であり、しかも、皮膚表面(50)上に補助器具が固定された状態で、マイクロニードル(1)を保持するプレート(2)を皮膚表面(50)へ下降させることができるので、マイクロニードル(1)を確実かつ簡単に皮膚へ挿入することができ、比較的強度が低い生体分解性樹脂製のマイクロニードルであっても、マイクロニードルの針先の折損を起こすことなく、または、軽減して、皮膚表面にマイクロニードルを穿刺することができる。さらに、バッキングフィルム(33)とともにマイクロニードル(1)を皮膚表面(50)に圧接するので、皮膚内へのマイクロニードルの挿入と皮膚表面へのマイクロニードルの保持(留置)とを実質的に同時に行なうことができる。従って、皮膚に挿入したマイクロニードルを粘着テープなどで固定する必要がなく、マイクロニードルの固定操作中に、マイクロニードルが脱落したり、折れたりするというような不具合の発生を無くすことができる。
【0045】
また、外装ケース(30)にマイクロニードル(1)が内包された状態でマイクロニードル(1)の皮膚内への挿入がなされるので、挿入作業時の不注意でマイクロニードル(1)の針先を他の物体や物品に衝突させて針先が折損する等の不具合が生じるのを確実に防止することができる。
【0046】
図23は
図17に示す補助器具(100)の変形例を示す。当該
図23に示す補助器具(101)では、マイクロニードル(1)の固定用基材であるプレート(2)の突起部位(3’)と、該突起部位(3’)が緩嵌される、外装ケース(30)の底板(30A)に設ける貫孔(30B)を広幅にする一方、屈伸可能な屈曲部(21B)を有する板部材(21)からなる枠体(20’)をプレート(2)とは別体で形成して、該枠体(20’)に対してバッキングフィルム(33)を接着し、バッキングフィルム(33)の片面に形成した強粘着性の粘着層(34)上にマイクロニードル(1)を固着している。
【0047】
なお、本補助器具(101)では、バッキングフィルム(33)は、マイクロニードル(1)の背面と側面の間の角部に沿うように屈曲され、かかるバッキングフィルム(33)の屈曲した状態が保持されるように、バッキングフィルム(33)と枠体(20’)間に介在させる弱粘着性の粘着層は、マイクロニードル(1)の背面に対向する部分には薄厚の粘着層(32A)とし、マイクロニードル(1)の両側部では大きな厚みの粘着層(32B)としている。また、外装ケース(30)の凹部31の開口を塞ぐ保護用フィルム(36)は外装ケース(30)の周壁部(30C)の外側に掴み代(36A)を突出させた状態で貼付され、さらに外装ケース(30)の背面側まで延在させて、外装ケース(30)の背面とプレート(2)の突起部位(3’)に貼付されている。
【0048】
かかる補助器具(101)を使用したマイクロニードル(1)の皮膚内へ挿入作業は、前述の
図10の補助器具(100)のそれと基本的に同じであり、
図24に示すように、保護用フィルム(36)を剥離してから、外装ケース(30)の周壁部(30C)を皮膚表面(50)に載置し(すなわち、周壁部(30C)の先端に設けた皮膚への接着用の粘着層(35’)を皮膚表面(50)に接着し)、プレート(2)の突起部位(3’)を押し下げることで、マイクロニードル(1)はプレート(2)の片面(2’)に接着されたバッキングフィルム(33)とともに皮膚表面(50)に圧着され、この後、外装ケース(30)を皮膚表面(50)から引き上げると、
図25に示されるように、マイクロニードル(1)が皮膚内に挿入された状態で、バッキングフィルム(33)がマイクロニードル(1)の背面を覆って、強粘着性の粘着層(34)が皮膚表面(50)に接着し、マイクロニードル(1)は皮膚表面に固定(留置)される。
【0049】
一方、
図26は凹部(31)を有する外装ケース(30)の底板(30A)に貫孔(30B)を形成するとともに、該貫孔(30B)に緩嵌する栓部材(38)を設け、さらに外装ケース(30)の凹部(31)を囲む周壁部(30C)の内側面に弱支持性の突出部材(39)を付設することで、マイクロニードルの固定用基材であるプレートを使用せずに、外装ケース(30)内にマイクロニードル(1)を保持し得るようにした補助器具(102)である。なお、弱支持性の突出部材(39)は薄厚のプラスチックフィルムを折り曲げて、外装ケース(30)の周壁部(30C)の内側面に固着する等して形成される。
【0050】
すなわち、当該補助器具(102)では、マイクロニードル(1)はバッキングフィルム(33)の一方の片面の強粘着性の粘着層(34)上に固着されており、バッキングフィルム(33)の他方の片面が弱粘着性の粘着層(32)によって、外装ケース(30)の底板(30A)と栓部材(38)に直接に接着され、バッキングフィルム(33)の周縁が外装ケース(30)の周壁部(30C)の内側面に付設された弱支持性の突出部材(39)で支持されることによって、マイクロニードル(1)が外装ケース(30)内に保持されている。
【0051】
かかる補助器具(102)を使用したマイクロニードル(1)の皮膚内へ挿入作業は、前述の
図23の補助器具(101)のそれと基本的に同じであり、
図27に示すように、保護用フィルム(36)を剥離してから、外装ケース(30)の周壁部(30C)を皮膚表面(50)に載置し(すなわち、周壁部(30C)の先端に設けた皮膚への接着用の粘着層(35)を皮膚表面(50)に貼付し)、栓部材(38)を押し下げることで、マイクロニードル(1)はバッキングフィルム(33)とともに皮膚表面(50)に圧着される。このとき、バッキングフィルム(33)の端部はその自重によって周壁部(30C)の内側面に付設された弱支持性の突出部材(39)を変形させてすり抜け(
図28)、その結果、
図29に示されるように、マイクロニードル(1)が皮膚内に挿入された状態で、バッキングフィルム(33)がマイクロニードル(1)の背面を覆って、強粘着性の粘着層(34)が皮膚表面(50)に接着し、マイクロニードル(1)は皮膚表面に固定(留置)される。なお、
図28、29中の矢印は外力を示している。
【0052】
以下、本発明に適用可能なマイクロニードル及び本発明の補助器具の各構成要素の材料、成分等について説明する。
【0053】
本発明に適用可能なマイクロニードル(1)は制限されず、種々の材質、用途の公知のマイクロニードルを使用できる。例えば、シリコンやセラミックス等の他、例えば、ステンレス鋼、タングステン鋼、ニッケル合金、モリブデン、クロム、コバルト、チタン及びその合金等の金属製のマイクロニードル;例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸・グリコール酸共重合体等の脂肪族ポリエステル樹脂に代表される生体内分解性樹脂製のマイクロニードル;例えば、マルトース、ラクトース、スクロース、マンニトール、ソルビトール等の多糖類製のマイクロニードル等が挙げられる。なかでも、生体内分解性材料である脂肪族ポリエステル樹脂製のマイクロニードルや多糖類製のマイクロニードルは、比較的低強度で、衝撃に弱く、折れ易い傾向にあるが、本発明の方法及び補助器具を使用することで、マイクロニードルの針先の折損を起こすことなく、または、軽減して、皮膚表面にマイクロニードルを確実に穿刺することができる。また、本発明方法では、皮膚表面にマイクロニードル(1)を穿刺後、マイクロニードル(1)を皮膚に留置させることも簡単に行うことができるので、生体内分解性材料のマイクロニードル(1)による薬剤の吸収性向上や薬剤の徐放性などを効果的に利用できる。
【0054】
また、マイクロニードル(1)は、薬剤の経皮投与に補助的に使用される部材であり、その際の薬剤としては、疾病の治療薬に限定されず、体内で生物活性を有する物質一般を指し、例えば、抗生物質、抗ウイルス剤、鎮痛剤、麻酔剤、食欲抑制剤、抗関節炎剤、抗うつ剤、抗精神病剤、抗ヒスタミン剤、抗炎症剤、抗腫瘍剤、DNAワクチンを含むワクチン、アジュバント、アレルギー抗原、生物学的製剤、蛋白質、ペプチド及びそれらのフラグメントなどが挙げられるが、それらに限定されない。また、薬剤を溶媒に溶解乃至分散させた液剤(薬液)にして投与する場合、その溶媒としては生体に適合性のある任意の溶媒から任意に選択できる。例えば、蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、アルコール、プロピレングリコール、植物油など、又はそれらの組合せなどが挙げられるが、それらに限定されない。更に、可溶化剤(例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D−マンニトール、エタノール等)、界面活性剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム等)、等張化剤(例えば、塩化ナトリウム等)、緩衝剤(例えば、リン酸、酢酸等)、保存剤(例えば、P−ヒドロキシ安息香酸エステル等)などの添加剤も加えることができる。
【0055】
また、生体内分解性樹脂製マイクロニードル又は多糖類製マイクロニードルである場合、生体内分解性樹脂又は多糖類に薬剤を予め混入しておき、後述の参考例1に示す方法でマイクロニードルを作製することによって、薬剤を含有するマイクロニードル(薬物含有マイクロニードル)を得ることができる。かかる薬剤含有マイクロニードルにあっては、生体(皮膚)への刺し込みによって、マイクロニードル自体から薬剤を放出することが可能である。よって、本発明の補助器具のプレート(2)に薬剤含有マイクロニードルを固定することで、マイクロニードル型製剤を実現でき、特に、バッキングフィルム(33)を有する補助器具を用いることで、マイクロニードル型パッチ製剤を実現できる。
【0056】
本発明において、プレート(2)はマイクロニードルの固定用基材であり、また、マイクロニードルを把持して、マイクロニードルの軸線方向に移動可能なマイクロニードルの支持台のことである。プレート(2)の厚みは0.5MM〜10MM程度が一般的である。プレート(2)の材質は特に限定されず、樹脂、金属、木質等、いずれも使用できるが、加工性の点から、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、アクリル、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、アクリロニトル・ブタジエン・スチレン共重合体、ポリカーボネート、ポリアミド、フッ素樹脂、ポリブチレンテレフタレート等の樹脂が好適である。
【0057】
ピストン(3)、筒状部材(4)等の材質も特に限定されず、樹脂、金属、木質等、いずれも使用できるが、加工性の点から、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、アクリル、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、アクリロニトル・ブタジエン・スチレン共重合体、ポリカーボネート、ポリアミド、フッ素樹脂、ポリブチレンテレフタレート等の樹脂が好適である。
【0058】
屈伸可能な屈曲部(21B)が形成された板部材(21)からなる枠体(20)は、屈伸可能とするために通常、樹脂が使用され、加工性の点から、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、アクリル、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、アクリロニトル・ブタジエン・スチレン共重合体、ポリカーボネート、ポリアミド、フッ素樹脂、ポリブチレンテレフタレート等の樹脂が好適である。また、弱支持性の突出部材(39)もここに例示の樹脂(プラスチック)で形成するのが一般的である。
【0059】
外装ケース(30)の材質は特に限定されず、樹脂、金属、木質等、いずれも使用できるが、加工性の点から、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、アクリル、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、アクリロニトル・ブタジエン・スチレン共重合体、ポリカーボネート、ポリアミド、フッ素樹脂、ポリブチレンテレフタレート等の樹脂が好適である。
【0060】
バッキングフィルム(33)は、例えば、ポリエステル、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、ポリテトラフルオロエチレン等からなるプラスチックフィルムやかかるプラスチックフィルムと金属箔との積層フィルム等が挙げられる。また、バッキングフィルム(33)は後述の実施例4で言及する皮膚貼付用布(17)によっても代用でき、織布、編布、不織布等を使用することができる。
【0061】
バッキングフィルム(33)の一方の片面に形成する、プレート(2)又は外装ケース(30)への接着に使用される弱粘着性の粘着層(32)には、公知の各種粘着剤(例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤等)を適用でき、粘着層の厚みを薄くする、パターン状に粘着層を形成する(粘着剤の塗布領域をスポット状、ストライプ状、メッシュ状等に形成する)等の弱粘着処理が施される。もちろん、粘着剤組成の調整や粘着力を低減させる添加剤を配合する等の公知の方法によって弱粘着性を得るようにしてもよい。
【0062】
また、バッキングフィルム(33)の他方の片面に形成する、マイクロニードル(1)の固着及び皮膚表面へのバッキングフィルム(33)の接着に使用される強粘着性の粘着層(34)には、皮膚接着性を有する、所謂、医療用の粘着剤であれば特に制限なく使用できる。具体的には、アクリル系重合体からなるアクリル系粘着剤;スチレン−ジエン−スチレンブロック共重合体(例えばスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体等)、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン等のゴム系粘着剤;シリコーンゴム、ジメチルシロキサンベース、ジフェニルシロキサンベース等のシリコーン系粘着剤;ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルエチルエーテル、ポリビニルイソブチルエーテル等のビニルエーテル系粘着剤;酢酸ビニル−エチレン共重合体等のビニルエステル系粘着剤;ジメチルテレフタレート、ジメチルイソフタレート、ジメチルフタレート等のカルボン酸成分とエチレングリコール等の多価アルコール成分からなるポリエステル系粘着剤等が挙げられる。これらの粘着剤はいずれか1種を使用しても2種以上を配合して用いてもよい。
【0063】
なお、後述の実施例4に記載の「弱粘着剤(18)」及び「強粘着剤(16)」は「弱粘着性の粘着層(32)」及び「強粘着性の粘着層(34)」と同義である。
【実施例】
【0064】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例になんら限定されるものではない。
【0065】
(実施例1:円筒状の挿入補助器具を用いたマイクロニードルの皮膚への挿入試験)
後述の参考例1のマイクロニードル(12×12本、7MM×7MM角のチップ)を
図1に示す補助器具のプレート(2)に両面テープで固定した。7週令のヌードラットを麻酔し、その腹部または腿に
図1の挿入補助器具を押し当てた。挿入補助器具は、ピストン(3)の上部の板状片(5)に親指を掛け、残りの指で円筒を把持した。強く押し当てると、円筒内のラットの皮膚は、少し盛り上がるものの円筒を多少動かしても、それに同調して動くため、相対的にはマイクロニードルに対しては固定されていることになる。
【0066】
ピストン(3)の上部の板状片(5)を親指で加圧すれば、マイクロニードル(1)がラットの皮膚に移動し圧着する。約5秒皮膚に圧着させた後に、ピストン(3)を引上げ、ラットの皮膚への挿入状況とマイクロニードルの微小針の損傷状況を確認した。なお、皮膚内への挿入状況は、マイクロニードルの表面に青色の色素(ゲンチアナバイオレット溶液)を塗布したものを使用するため、皮膚がマイクロニードルで穿刺された箇所には青色の色素が残留する。従って、マイクロニードルの圧着後のラットの皮膚の染色状況を見れば、皮膚にどの程度の効率で挿入されたかが明示されることになる。また、圧着前後のマイクロニードルの顕微鏡写真を対比することによって、微小針の損傷状況が明示されることになる。
【0067】
ラットの皮膚への挿入状況とマイクロニードルの微小針の損傷状況の結果を表1に示す。この結果、挿入補助器具を使用すると、以下の1)〜3)の効果によりマイクロニードルが皮膚に垂直進入し易くなり、そのためマイクロニードルの耐久性が向上し、折れずに皮膚内に挿入されることが明らかとなった。
1)プレートが内包する円筒状部材による垂直進入性(垂直移動性)の向上。
2)プレートを使用してマイクロニードルを固定することによるマイクロニードルの軸線方向の固定および皮膚に対するマイクロニードルの垂直性の保持。
3)円筒状部材の皮膚への圧接による、円筒状部材で囲まれた皮膚表面の動きの固定。
【0068】
【表1】
【0069】
(実施例2:パンタグラフ型の挿入補助器具を用いたマイクロニードルの皮膚への挿入試験)
マイクロニードルの挿入補助器具として、
図7((A)〜(C))に示す形状のものを使用して、実施例1と同様にしてヌードラットの腹部に該挿入器具を設置し、指で加圧し、マイクロニードルをラットの腹部に圧着、挿入した。その結果は、実施例1と同様に良好な挿入状況を示し、微小針の損傷状況も大きく変化することはなかった。
【0070】
(実施例3:マイクロニードルの軸線方向とプレートの移動方向のズレの影響試験)
円筒形状の補助器具のプレート(2)に5度または10度の傾斜を持ったシート(13)を貼り付け(
図13)、その上にマイクロニードル(1)を固定した。
実施例1と同様にしてヌードラットの腹部に該挿入器具を設置し、指で加圧し、マイクロニードルをラットの腹部に圧着、挿入した。その結果を以下の表2に示す。
この結果によれば、5度の角度のズレにより、マイクロニードルのほとんどが皮膚に突き刺さらず、負荷が掛かった部分が折れ曲がることが示された。
【0071】
【表2】
【0072】
(実施例4:マイクロニードルの皮膚への保持試験)
後述の参考例1のマイクロニードル(1)を強粘着剤(16)で皮膚貼付用布(17)に保持し、更にその布(17)を円筒形状の挿入補助器具のプレート(2)に弱粘着剤(18)によりに固定した。その状況を
図15で示す。
【0073】
実施例1と同様にしてヌードラットの腹部に
図1に示す補助器具を設置し、指で加圧し、マイクロニードルをラットの腹部に圧着、挿入した。挿入後、マイクロニードルは皮膚貼付用布と共にラット腹部上に保持された。なお、ヒト上腕内側でも同様に実施したところ、挿入後、マイクロニードルは皮膚貼付用布と共にヒト上腕内側の皮膚上に保持された。
【0074】
(参考例1:マイクロニードルの作製)
シリコン製マイクロニードル(平面が縦7MM×横7MMの正方形の基板部上に、一辺が100ΜMの四角柱状で、長さが300ΜMの微小針をアレイ状に12×12個を立設させた治具)をホットプレートに設置し、80℃で加熱する。
島津社製レオメーター(EZ−TEST)の支柱に下向きにポリ乳酸(MW:1万)のシートを設置し、支柱を引き下げて治具を該シートに接触させ、5秒間その位置で保持し、その後、支柱を5MM/分の速度で上方に引き上げた。
樹脂シートを引き上げると、ほぼ300ΜMに長さが揃った針状突起(微小針)を持つ樹脂製マイクロアレイ(マイクロニードル)が得られた。
【0075】
本発明のマイクロニードルの皮膚内への挿入用補助器具は、粘着テープ又はシートの粘着層に薬物を含有させた、所謂、貼付製剤の貼付作業用補助器具としての利用が期待できる。
【0076】
本出願は日本で出願された特願2008−051335を基礎としており、それらの内容は本明細書に全て包含される。