特許第5709231号(P5709231)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5709231リチウムイオン二次電池用正極およびそれを用いたリチウムイオン二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5709231
(24)【登録日】2015年3月13日
(45)【発行日】2015年4月30日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極およびそれを用いたリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/131 20100101AFI20150409BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20150409BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20150409BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20150409BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20150409BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20150409BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20150409BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20150409BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20150409BHJP
【FI】
   H01M4/131
   H01M4/525
   H01M4/505
   H01M4/36 E
   H01M4/62 Z
   H01M4/587
   H01M4/36 C
   H01M10/0568
   H01M10/052
   H01M10/0567
【請求項の数】14
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2014-30511(P2014-30511)
(22)【出願日】2014年2月20日
【審査請求日】2014年2月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】310010081
【氏名又は名称】NECエナジーデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】濱中 信秋
【審査官】 市川 篤
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−080583(JP,A)
【文献】 特開2002−319435(JP,A)
【文献】 特開2010−155775(JP,A)
【文献】 特開2012−230898(JP,A)
【文献】 特開平10−208728(JP,A)
【文献】 特開2000−003724(JP,A)
【文献】 特開2009−129747(JP,A)
【文献】 特開2006−344390(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
Lix(NiyCozAlw)O2 (1)
(式(1)において、0.95≦x≦1.05、0.70≦y≦0.85、0.05≦z≦0.20、0.00≦w≦0.10であり、y+z+w=1である)
で示される化合物と、下記式(2)
Li1+uMn2-u/34 (2)
(式(2)において、0.02≦u≦0.05である)
で示される化合物と、を含む正極活物質を含み、
前記正極活物質中のアルカリ金属水酸化物の含有量が0.15質量%以下であるリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項2】
前記式(1)で示される化合物に不純物として含まれるアルカリ金属水酸化物の含有量が0.45質量%以下である請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項3】
前記アルカリ金属水酸化物が水酸化リチウムである請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項4】
前記式(1)で示される化合物を2質量%含む水分散液のpHが11.0以上、11.5以下である請求項1から3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項5】
前記正極活物質中のアルカリ金属水酸化物の含有量が0.01質量%以上である請求項1から4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項6】
前記正極活物質中のアルカリ金属水酸化物の含有量が0.10質量%未満である請求項1から5のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項7】
前記正極活物質中に含まれる前記式(1)で示される化合物の質量が、前記正極活物質中に含まれる前記式(1)で示される化合物と前記式(2)で示される化合物の合計の質量に対し、5質量%以上、50質量%以下である請求項1から6のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項8】
バインダとしてポリフッ化ビニリデンを含む請求項1から7のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極と、負極とを備えるリチウムイオン二次電池。
【請求項10】
前記負極が、黒鉛を含む負極活物質を含む請求項9に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項11】
前記黒鉛が表面に皮膜を備えない、または、前記黒鉛が表面に皮膜を備え、該皮膜の量が黒鉛に対して10質量%未満である請求項10に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項12】
添加剤として、充放電により前記負極にルイス酸を有する皮膜を形成できる化合物を含む電解液を備える請求項9から11のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項13】
LiPF6を含む電解液を備える請求項9から12のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項14】
下記式(1)
Lix(NiyCozAlw)O2 (1)
(式(1)において、0.95≦x≦1.05、0.70≦y≦0.85、0.05≦z≦0.20、0.00≦w≦0.10であり、y+z+w=1である)
で示される化合物と、下記式(2)
Li1+uMn2-u/34 (2)
(式(2)において、0≦u≦0.05である)
で示される化合物と、を含む正極活物質を含み、
前記正極活物質中のアルカリ金属水酸化物の含有量が0.15質量%以下であるリチウムイオン二次電池用正極であって、
前記式(1)で示される化合物を2質量%含む水分散液のpHが11.0以上、11.5以下であるリチウムイオン二次電池用正極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、リチウムイオン二次電池用正極およびそれを用いたリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、小型で大容量である特徴を有しており、携帯電話、ノート型パソコン等の電源として広く用いられている。このような用途の拡大と共に、リチウムイオン二次電池は更なる充放電サイクルにおける容量維持率の向上が望まれている。リチウムイオン二次電池に関連する技術としては、例えば特許文献1から6に記載された発明が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−265224号公報
【特許文献2】特開2000−208148号公報
【特許文献3】特開2002−279986号公報
【特許文献4】特開2003−282140号公報
【特許文献5】特開2006−173049号公報
【特許文献6】国際公開第2010/082261号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1〜6に記載された発明では、充放電サイクルにおける容量維持率が不十分であり、さらなる改善が望まれている。
【0005】
本実施形態は、充放電サイクルにおける容量維持率の高いリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極は、下記式(1)
Lix(NiyCozAlw)O2 (1)
(式(1)において、0.95≦x≦1.05、0.70≦y≦0.85、0.05≦z≦0.20、0.00≦w≦0.10であり、y+z+w=1である)
で示される化合物と、下記式(2)
Li1+uMn2-u/34 (2)
(式(2)において、0.02≦u≦0.05である)
で示される化合物と、を含む正極活物質を含み、
前記正極活物質中のアルカリ金属水酸化物の含有量が0.15質量%以下である。
また、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極は、下記式(1)
Lix(NiyCozAlw)O2 (1)
(式(1)において、0.95≦x≦1.05、0.70≦y≦0.85、0.05≦z≦0.20、0.00≦w≦0.10であり、y+z+w=1である)
で示される化合物と、下記式(2)
Li1+uMn2-u/34 (2)
(式(2)において、0≦u≦0.05である)
で示される化合物と、を含む正極活物質を含み、
前記正極活物質中のアルカリ金属水酸化物の含有量が0.15質量%以下であるリチウムイオン二次電池用正極であって、
前記式(1)で示される化合物を2質量%含む水分散液のpHが11.0以上、11.5以下である。
【0007】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極と、負極とを備える。
【発明の効果】
【0008】
本実施形態によれば、充放電サイクルにおける容量維持率の高いリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の一例の断面図である。
図2】本実施例および/または本比較例におけるサイクル回数に対する容量維持率を示したグラフである。
図3】本実施例および/または本比較例におけるサイクル回数に対する容量維持率を示したグラフである。
図4】本実施例および/または本比較例におけるサイクル回数に対する容量維持率を示したグラフである。
図5】本実施例および/または本比較例におけるサイクル回数に対する容量維持率を示したグラフである。
図6】本実施例および/または本比較例におけるサイクル回数に対する容量維持率を示したグラフである。
図7】本実施例および/または本比較例におけるサイクル回数に対する容量維持率を示したグラフである。
図8】本実施例および/または本比較例におけるサイクル回数に対する容量維持率を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[リチウムイオン二次電池用正極]
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極は、下記式(1)
Li(NiCoAl)O (1)
(式(1)において、0.95≦x≦1.05、0.70≦y≦0.85、0.05≦z≦0.20、0.00≦w≦0.10であり、y+z+w=1である)
で示される化合物と、下記式(2)
Li1+uMn2−u/3 (2)
(式(2)において、0≦u≦0.05である)
で示される化合物と、を含む正極活物質を含み、前記正極活物質中のアルカリ金属水酸化物の含有量が0.15質量%以下である。
【0011】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極では、前記式(1)で示される化合物と前記式(2)で示される化合物との混合物を正極活物質として用い、該正極活物質中のアルカリ金属水酸化物の含有量を0.15質量%以下とする。
【0012】
リチウムイオン二次電池の充放電サイクルにより正極活物質の膨張収縮が促進されると、正極活物質中に不純物として含まれる水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物が溶出し、正極および負極の表面に蓄積する。蓄積したアルカリ金属水酸化物は絶縁物である上、活物質と電解液との接触を阻害するため、電極の抵抗が増大する。このため、アルカリ金属水酸化物により全面を覆われた活物質は、電池反応に寄与しなくなる。一方、アルカリ金属水酸化物により全面を覆われていない活物質のみが充放電に寄与するようになり、活物質の性能劣化が促進される。したがって、ある一定のサイクル回数において急速な性能劣化を引き起こす。
【0013】
本発明者らは当該現象を見出し、特に、前記式(1)で示される化合物と前記式(2)で示される化合物との混合物を正極活物質として用いる場合に、当該現象が顕著となることを見出した。前記式(1)で示される化合物と前記式(2)で示される化合物とでは動作電圧が異なり、より低電圧側では前記式(1)で示される化合物の充放電のみが寄与している。このとき、二次電池としては高電圧側と同じ動作電圧で電圧を印加する場合、前記式(1)で示される化合物の見かけの充放電レートは高くなり、よりアルカリ金属水酸化物による高抵抗化の影響を受けやすくなると考えられる。
【0014】
本発明者らは、前記混合物を正極活物質として用いる場合にも、正極活物質中のアルカリ金属水酸化物の含有量を0.15質量%以下とすることにより、アルカリ金属水酸化物による抵抗の増加を大幅に抑制することができ、充放電サイクルを繰り返しても高い容量維持率を示すリチウムイオン二次電池が得られることを見出した。以下、本実施形態の詳細について説明するが、本実施形態はこれらに限定されない。
【0015】
本実施形態に係る正極活物質は、前記式(1)で示される化合物と、前記式(2)で示される化合物とを含む。
【0016】
前記式(1)において、xは、正極活物質の初期充放電容量および充放電後の容量維持率のバランスの観点から、0.95≦x≦1.05であり、0.97≦x≦1.04であることが好ましく、0.98≦x≦1.03であることがより好ましい。yは、正極活物質の初期充放電容量、二次電池の安全性および充放電後の容量維持率のバランスの観点から、0.70≦y≦0.85であり、0.77≦y≦0.83であることが好ましく、0.79≦y≦0.81であることがより好ましい。zは、正極活物質の初期充放電容量および充放電後の容量維持率のバランスの観点から、0.05≦z≦0.20であり、0.10≦z≦0.20であることが好ましく、0.13≦z≦0.17であることがより好ましく、0.14≦z≦0.16であることがさらに好ましい。wは、充放電後の容量維持率の観点から、0.00≦w≦0.10であり、0.02≦w≦0.07であることが好ましく、0.04≦w≦0.06であることがより好ましい。
【0017】
前記式(2)において、uは、正極活物質の初期充放電容量および充放電後の容量維持率のバランスの観点から、0≦u≦0.05であり、0.02≦u≦0.04であることが好ましく、0.03≦u≦0.04であることがより好ましい。なお、前記式(1)および前記式(2)における各元素の組成比は、前記式(2)のMnについては酸化還元滴定法、それ以外の元素については誘導結合プラズマ発光分光分析法により測定した値である。
【0018】
前記正極活物質中に含まれる前記式(1)で示される化合物の質量は、前記正極活物質中に含まれる前記式(1)で示される化合物と前記式(2)で示される化合物の合計の質量に対し、5質量%以上、50質量%以下であることが、本実施形態の効果をより得られる観点から好ましい。この割合は、10質量%以上、45質量%以下であることがより好ましく、15質量%以上、40質量%以下であることがさらに好ましく、20質量%以上、35質量%以下であることが特に好ましい。また、該割合は、30質量%以上、50質量%以下とすることができる。
【0019】
なお、本実施形態に係る正極活物質は、前記式(1)で示される化合物および前記式(2)で示される化合物以外の他の化合物を含んでもよい。しかしながら、正極活物質中に含まれる前記式(1)で示される化合物および前記式(2)で示される化合物の割合は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、100質量%、すなわち正極活物質が前記式(1)で示される化合物および前記式(2)で示される化合物からなることが特に好ましい。
【0020】
本実施形態では、前記正極活物質中のアルカリ金属水酸化物の含有量は0.15質量%以下である。該含有量は、充放電サイクルにおいてより容量維持率が向上する観点から、0.13質量%以下であることが好ましく、0.10質量%未満であることがより好ましく、0.09質量%以下であることがさらに好ましく、0.07質量%以下であることが特に好ましい。なお、該含有量は0質量%であってもよいが、充電状態にて保存した場合に容量維持率を確保する観点から、0.01質量%以上であることが好ましい。なお、前記正極活物質中のアルカリ金属水酸化物の含有量は、酸塩基滴定法により測定した値である。
【0021】
前記式(1)で示される化合物に不純物として含まれるアルカリ金属水酸化物の含有量は、0.45質量%以下であることが好ましい。前記式(1)で示される化合物は、その製造過程において、不純物としてアルカリ金属水酸化物、特に水酸化リチウムが含まれるようになる。該アルカリ金属水酸化物は、前記式(1)で示される化合物の一次粒子間に存在し、該一次粒子同士を結着する。前記式(1)で示される化合物と前記式(2)で示される化合物とを混合する際、また、正極活物質を含むスラリーを正極集電体に塗布する際に、大きな粒子が混在していると、所謂ダマが発生し、フィルタの詰まりや、塗布後の正極上にシミやスジが発生する。そのため、予め前記式(1)で示される化合物を粉砕処理しておく必要がある。しかし、前記式(1)で示される化合物にアルカリ金属水酸化物が多く含まれると、アルカリ金属水酸化物、特に水酸化リチウムは潮解性を有するため、強い結着力があり、粉砕処理において大きな外力が必要となる。該外力がアルカリ金属水酸化物ではなく、前記式(1)で示される化合物に掛かった場合には、前記式(1)で示される化合物の二次粒子が割れ、新生断面が発生する。正極活物質は電解液に曝される界面の面積が大きいほど劣化が速いため、二次粒子が割れた前記式(1)で示される化合物は充放電サイクルにおいて容量維持率が低下する。本実施形態では、前記式(1)で示される化合物に不純物として含まれるアルカリ金属水酸化物の含有量が0.45質量%以下であることにより、一次粒子同士の結着力を弱めることができ、粉砕処理においても二次粒子の割れを防ぐことができるため、容量維持率が向上する。前記式(1)で示される化合物に不純物として含まれるアルカリ金属水酸化物の含有量は、0.40質量%以下であることがより好ましく、0.35質量%以下であることがさらに好ましく、0.30質量%以下であることが特に好ましい。なお、前記式(1)で示される化合物に不純物として含まれるアルカリ金属水酸化物の含有量は、酸塩基滴定法により測定した値である。
【0022】
前記アルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等が挙げられる。これらは単独で含まれていてもよく、二種以上が含まれていてもよい。前述したように、製造過程において前記式(1)で示される化合物に不純物として含まれることが多いことから、前記アルカリ金属水酸化物としては水酸化リチウムが好ましい。なお、前記アルカリ金属水酸化物は、前記式(1)で示される化合物および前記式(2)で示される化合物の少なくとも一方に含まれていてもよく、これらの化合物に対し別途添加されることで含まれていてもよい。
【0023】
前記式(1)で示される化合物を2質量%含む水分散液のpHは、11.0以上、11.5以下であることが好ましい。電解液中に電解質としてLiPFが含まれる場合、充放電においてLiPFの一部が分解し、この分解物が水と反応すると酸が発生する。該酸は、ルイス塩基である前記式(2)で示される化合物のMn骨格を攻撃し、Mnが溶出する。溶出したMnは負極側で絶縁物として析出するため、二次電池の抵抗が上昇する。本実施形態においては、前記式(1)で示される化合物を2質量%含む水分散液のpHが11.0以上であることにより、前記酸が中和され、Mnの溶出が抑制されるため、二次電池の抵抗上昇を防ぐことができる。また、電解液が、後述する充放電により負極にルイス酸を有する皮膜を形成できる化合物を含む場合、pHが高いと水酸化物イオンが負極を覆うスルホン酸基等のルイス酸を有する皮膜と酸塩基反応するため、負極の皮膜効果がなくなり、容量維持率が低下する。本実施形態においては、前記式(1)で示される化合物を2質量%含む水分散液のpHが11.5以下であることにより、前記酸塩基反応を抑制することができるため、負極の皮膜効果が十分に得られる。さらに、後述するようにバインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いる場合、PVDFは水酸化物イオンと反応してゲル化するため、前記式(1)で示される化合物を2質量%含む水分散液のpHが11.5以下であることにより、前記ゲル化を抑制することができる。前記式(1)で示される化合物を2質量%含む水分散液のpHは、11.0以上、11.4以下であることがより好ましく、11.0以上、11.2以下であることがさらに好ましい。なお、前記式(1)で示される化合物を2質量%含む水分散液のpHとは、前記式(1)で示される化合物を水中に2質量%分散させ、pHメーターで測定したpH値である。
【0024】
前記式(1)で示される化合物および前記式(2)で示される化合物の原料は、特に限定されない。Li原料としては、例えばLiCO、LiOH、LiO、LiSO等を用いることができる。Ni原料としては、例えばNiO、Ni(OH)、NiSO、Ni(NO等を用いることができる。Co原料としては、例えばCoO、Co(OH)、CoCO等を用いることができる。Al原料としては、例えばAl、Al(OH)等を用いることができる。Mn原料としては、例えば電解二酸化マンガン(EMD)、Mn、Mn、CMD(chemical manganese dioxide)等の種々のMn酸化物、MnCO、MnSO等を用いることができる。これらは1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
前記式(1)で示される化合物および前記式(2)で示される化合物の製造方法は、特に限定されない。例えば、前記原料を目的の金属組成比となるように秤量して混合する。混合は、ボールミル、ジェットミル等により粉砕混合することにより行うことができる。得られた混合粉を例えば400℃から1200℃の温度で、空気中又は酸素中で焼成することにより、前記化合物が得られる。
【0026】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極は、前記正極活物質を含む。該リチウムイオン二次電池用正極は、例えば前記正極活物質を正極集電体上に付与することで作製することができる。具体的には、前記正極活物質、バインダ、および導電助剤を溶媒に分散させてスラリーを調製し、該スラリーを正極集電体上に塗布し、乾燥することで作製することができる。バインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、アクリル系樹脂、ポリテトラフロロエチレン等を用いることができる。これらの中でも、本実施形態の効果がより得られる観点から、バインダとしてはPVDFが好ましい。導電助剤としては、例えば炭素材料、アルミニウム等の金属物質、導電性酸化物の粉末等を用いることができる。正極集電体としては、例えばアルミニウム等を主に含む金属薄膜等を用いることができる。溶媒としては、例えばN−メチル−2−ピロリドン(NMP)等を用いることができる。
【0027】
バインダの添加量は1〜10質量%とすることができる。該添加量を1質量%以上とすることにより、正極の剥離を防ぐことができる。また、該添加量を10質量%以下とすることにより、正極活物質質量の割合を大きくすることができるため、質量あたりの容量を大きくすることができる。導電助剤の添加量は1〜10質量%とすることができる。該添加量を1質量%以上とすることにより、十分な導電性を保つことができる。また、該添加量を10質量%以下とすることにより、正極活物質質量の割合を大きくすることができるため、質量あたりの容量を大きくすることができる。
【0028】
[リチウムイオン二次電池]
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極と、負極とを備える。例えば、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極と、リチウムを吸蔵放出可能な負極活物質を備える負極とを備える。該正極と該負極との間には電気的接続を起こさないようにセパレータが挟まれ、該正極と該負極とはリチウムイオン伝導性の電解液に浸った状態であり、これらが外装体内に密閉されている。
【0029】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の構成の一例を図1に示す。正極集電体3上に前記正極活物質を含む正極活物質層1が形成され、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極が構成されている。また、負極集電体4上に負極活物質を含む負極活物質層2が形成され、負極が構成されている。これらの正極と負極とは、電解液に浸漬された状態でセパレータ5を介して対向配置されている。これらは外装体6、7内に収容されている。正極は正極タブ9の一方の端部と、負極は負極タブ8の一方の端部と接続されており、正極タブ9および負極タブ8の他方の端部は、それぞれ二次電池の外部に引き出されている。
【0030】
正極と負極に電圧を印加することにより正極活物質からリチウムイオンが脱離し、負極活物質にリチウムイオンが吸蔵され、充電状態となる。また、正極と負極の電気的接触を二次電池外部で起こすことにより、充電時とは逆に負極活物質からリチウムイオンが放出され、正極活物質にリチウムイオンが吸蔵されることにより放電が起こる。
【0031】
負極活物質としては、リチウムを吸蔵放出可能な材料を用いることができる。負極活物質としては、例えば、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン、非晶質炭素等の炭素材料、Li金属、Si、Sn、Al、SiO等のSi酸化物、Sn酸化物、LiTi12、TiO等のTi酸化物、V含有酸化物、Sb含有酸化物、Fe含有酸化物、Co含有酸化物等を用いることができる。これらの負極活物質は一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。負極活物質としては、容量維持率と安全性の観点から黒鉛が好ましい。
【0032】
特に、負極活物質としては、表面に皮膜を備えない黒鉛、または、表面に皮膜を備える黒鉛であって、皮膜の量が黒鉛に対して10質量%未満である黒鉛が好ましい。皮膜の量が黒鉛に対して10質量%未満である黒鉛を用いる場合、該皮膜は黒鉛を十分に覆っておらず、電解液が後述する添加剤を含む場合には、ルイス酸を有する皮膜が負極を覆っている。このルイス酸を有する皮膜がアルカリ金属水酸化物との反応により溶出すると、Liのインターカレーション反応が大幅に進み、Liが負極中に捕捉されたままとなるため、充放電サイクルにおいて容量維持率が低下する場合がある。したがって、皮膜の量が黒鉛に対して10質量%未満である黒鉛を用いる場合、本実施形態による効果がより大きく得られる。また、皮膜の量が黒鉛に対して10質量%未満である黒鉛を用いる場合、初期容量が大きくなるため、充放電サイクルの当初から正極にかかる電圧が増加する傾向がある。この状態で、充放電サイクルに伴いアルカリ金属水酸化物が溶出すると、前述した前記式(1)で示される化合物が寄与する低電圧側での充放電にかかる時間が増加するため、アルカリ金属水酸化物による高抵抗化の影響が増加する。このため、皮膜の量が黒鉛に対して10質量%未満である黒鉛を用いる場合、本実施形態による効果がより大きく得られる。負極活物質としては、皮膜の量が黒鉛に対して8質量%以下である黒鉛が好ましく、6質量%以下である黒鉛がより好ましく、4質量%以下である黒鉛がさらに好ましい。
【0033】
黒鉛の表面に設けられる皮膜としては、ピッチ等が挙げられる。これらは一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。なお、該皮膜は後述するSEI皮膜とは異なり、予め黒鉛表面に存在する皮膜である。
【0034】
負極は、例えば前記負極活物質を負極集電体上に付与することで作製することができる。具体的には、前記負極活物質、バインダ、および導電助剤を溶媒に分散させてスラリーを調製し、該スラリーを負極集電体上に塗布し、乾燥することで作製することができる。バインダとしては、例えばPVDF、アクリル系樹脂、スチレンブタジエンゴム、イミド系樹脂、イミドアミド系樹脂、ポリテトラフロロエチレン等を用いることができる。導電助剤としては、例えば炭素材料、アルミニウム等の金属物質、導電性酸化物の粉末等を用いることができる。負極集電体としては、例えばアルミニウム、銅等を主に含む金属薄膜等を用いることができる。溶媒としては、例えばNMP等を用いることができる。
【0035】
バインダの添加量は1〜10質量%とすることができる。該添加量を1質量%以上とすることにより、負極の剥離を防ぐことができる。また、該添加量を10質量%以下とすることにより、負極活物質質量の割合を大きくすることができるため、質量あたりの容量を大きくすることができる。導電助剤の添加量は1〜10質量%とすることができる。該添加量を1質量%以上とすることにより、十分な導電性を保つことができる。また、該添加量を10質量%以下とすることにより、負極活物質質量の割合を大きくすることができるため、質量あたりの容量を大きくすることができる。
【0036】
電解液としては、溶媒に支持塩としてのリチウム塩を溶解させた溶液を用いることができる。該溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)等の環状カーボネート類、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート(DPC)等の鎖状カーボネート類、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸エチル等の脂肪族カルボン酸エステル類、γ−ブチロラクトン等のγ−ラクトン類、1,2−ジエトキシエタン(DEE)、エトキシメトキシエタン(EME)等の鎖状エーテル類、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等の環状エーテル類、ジメチルスルホキシド、1,3−ジオキソラン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル、プロピルニトリル、ニトロメタン、エチルモノグライム、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、メチルスルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、エチルエーテル、1,3−プロパンスルトン、アニソール、N−メチルピロリドン、フッ素化カルボン酸エステル等の非プロトン性有機溶媒等が挙げられる。これらは一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。これらのうち、高電圧での安定性や、溶媒の粘度の観点から、溶媒としては環状カーボネートと鎖状カーボネートとの混合溶液が好ましい。
【0037】
前記リチウム塩としては、例えばLiPF、LiAsF、LiAlCl、LiClO、LiBF、LiSbF、LiCFSO、LiCSO、LiC(CFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiB10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム、クロロボランリチウム、四フェニルホウ酸リチウム、LiBr、LiI、LiSCN、LiCl等が挙げられる。これらは一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。前記リチウム塩としては、本実施形態の効果がより得られる観点から、LiPFが好ましい。
【0038】
支持塩であるリチウム塩の濃度は、0.5〜1.5mol/Lが好ましい。リチウム塩の濃度を0.5mol/L以上とすることにより、十分な電気伝導率を得ることができる。また、リチウム塩の濃度を1.5mol/L以下とすることにより、密度と粘度の増加を抑制することができる。
【0039】
電解液は、充放電により負極の表面に良質なSEI(Solid Electrolyte Interface)皮膜を形成させるために、添加剤を含むことが好ましい。SEI皮膜には、電解液との反応性を抑制したり、リチウムイオンの挿入脱離に伴う脱溶媒和反応を円滑にして負極活物質の構造劣化を防止したりする働きがある。該添加剤としては、例えば、メチレンメタンジスルホン酸エステル(MMDS)、エチレンメタンジスルホン酸エステル、プロパンメタンジスルホン酸エステル等の環状ジスルホン酸エステル、1,3−プロパンスルトン、プロペンスルトン、ブタンスルトン等の環状スルホン酸エステル、スルホラン等の環状スルホン、フッ素化エチレンカーボネート(FEC)、トリフルオロメチルプロピレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート等の環状ハロゲン化カーボネート、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート、フェニレンカーボネート、アリルメチルカーボネート(AMC)等の不飽和カーボネート、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸等の酸無水物、コハク酸イミド等の環状イミド、リチウムビスオキサレートボレート(LiBOB)、ジフルオロ[オキソラト−O,O’]ホウ酸リチウム(LiBF(C))、エチレンサルファイト(ES)、ビニルエチレンサルファイト、ブチレンサルファイト、ジメチルサルファイト、ジエチルサルファイト等のサルファイト、ビニルアセテート、ジビニルアジペート(ADV)等の不飽和エステル、ジメチルグリコリド、テトラメチルグリコリド等のグリコリド、シアノフラン等が挙げられる。これらは一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。これらの中でも、本実施形態の効果がより得られる観点から、該添加剤としては、充放電により負極にスルホン酸基等のルイス酸を有する皮膜を形成できる化合物が好ましい。該化合物としては、前記環状ジスルホン酸エステル、前記環状スルホン酸エステル、等が挙げられる。これらは一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0040】
電解液中に含まれる添加剤の量は、0.1質量%以上、10質量%以下が好ましく、0.5質量%以上、3質量%以下がより好ましい。添加剤の量が0.1質量%以上であることにより、良質なSEI皮膜を形成できる。また、添加剤の量が10質量%以下であることにより、抵抗が低く、ガス発生を抑制できる。
【0041】
なお、電解液の溶媒にポリマー等を添加して、電解液をゲル状に固化したポリマー電解質を用いてもよい。
【0042】
セパレータとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド、ポリアミド等を含む微多孔質膜が挙げられる。
【0043】
外装体としては、電池缶、合成樹脂と金属箔との積層体からなるラミネートフィルム等が挙げられる。
【0044】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極を用いて組み立てることで製造することができる。例えば、乾燥空気又は不活性ガス雰囲気下において、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極と負極とを、セパレータを介して電気的接触がない状態で対向配置させる。前記正極と負極とをセパレータを挟んで対向配置させたものを、円筒状又は積層状にする。これを外装体内に収納し、正極活物質、負極活物質の両方が電解液に接するように電解液に浸す。正極、負極それぞれに、正極タブ、負極タブを接続し、これらの電極タブが外装体外部に通ずるようにして、外装体を密閉することでリチウムイオン二次電池を作製することができる。
【0045】
セパレータを挟んで対向配置されている正極及び負極は、巻回型、積層型等の形態を取ることができる。また、リチウムイオン二次電池の形式としてはコイン型、ラミネート型等が挙げられる。リチウムイオン二次電池の形状としては、角型、円筒型等が挙げられる。
【実施例】
【0046】
以下、本実施形態の実施例を示すが、本実施形態はこれらに限定されない。
【0047】
[実施例1]
(正極の作製)
アルカリ金属水酸化物を含まないLi1.01(Ni0.80Co0.15Al0.05)Oと、Li1.03Mn1.99とを1:3の質量比で混合し、正極活物質を調製した。なお、該正極活物質中のアルカリ金属水酸化物の含有量は0質量%であった。また、Li1.01(Ni0.80Co0.15Al0.05を2質量%含む水分散液のpHは10.8であった。
【0048】
前記正極活物質と、バインダとしてのPVDF(商品名:#7200、(株)クレハ製)と、導電助剤としてのアセチレンブラック(商品名:super−C65、ティムカル社製)とを、93:3:4の質量比でN−メチル−2−ピロリドン(NMP)中に分散させ、スラリーを調製した。該スラリーをアルミニウム箔である正極集電体の両面に塗布し、乾燥させた。これにより、正極を得た。
【0049】
(負極の作製)
負極活物質としての黒鉛と、バインダとしてのスチレンブタジエンゴム(商品名:SBR、日本ゼオン製)と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC、日本製紙社製)と、導電助剤としてのアセチレンブラック(商品名:super−C65、ティムカル社製)とを、96.5:1.5:1:1の質量比でNMP中に分散させ、スラリーを調製した。該スラリーを銅箔である負極集電体の両面に塗布し、乾燥させた。これにより、負極を得た。なお、前記黒鉛の表面には、黒鉛に対して4質量%のピッチからなる皮膜が形成されている。
【0050】
(リチウムイオン二次電池の作製)
前記正極と前記負極との間に、ポリプロピレンからなるセパレータを配置し、負極、セパレータおよび正極の単位層を複数回積層した。得られた積層体をラミネートフィルムからなる外装体に挿入した。さらに、EC:DEC=30:70(体積%)の混合溶媒に、支持塩として1mol/LのLiPFを溶解し、さらに添加剤としてMMDSを1.6質量%混合した電解液を注入した。その後、外装体内部を真空状態として封止した。これにより、本実施例におけるリチウムイオン二次電池を得た。
【0051】
(サイクル試験)
作製したリチウムイオン二次電池を45℃の恒温槽内に配置した。1C(5.0A)の定電流で4.20Vまで充電した後、4.20Vで定電圧充電を行うCCCV方式で充電を行い、1回の合計の充電時間を2.5時間とした。その後、1C(5.0A)の定電流で3.0Vまで放電した。この充放電サイクルを所定のサイクル数繰り返した。所定のサイクル数における放電容量と、初回の放電容量との比率を容量維持率として算出した。
【0052】
[実施例2]
水酸化リチウムを0.29質量%含むLi1.01(Ni0.80Co0.15Al0.05)Oと、Li1.03Mn1.99とを1:3の質量比で混合し、正極活物質を調製した。なお、該正極活物質中のアルカリ金属水酸化物の含有量は0.07質量%であった。また、Li1.01(Ni0.80Co0.15Al0.05)Oを2質量%含む水分散液のpHは11.2であった。該正極活物質を用いて正極を作製した以外は、実施例1と同様にリチウムイオン二次電池を作製し、評価した。
【0053】
[実施例3]
水酸化リチウムを0.36質量%含むLi1.01(Ni0.80Co0.15Al0.05)Oと、Li1.03Mn1.99とを1:3の質量比で混合し、正極活物質を調製した。なお、該正極活物質中のアルカリ金属水酸化物の含有量は0.09質量%であった。また、Li1.01(Ni0.80Co0.15Al0.05)Oを2質量%含む水分散液のpHは11.4であった。該正極活物質を用いて正極を作製した以外は、実施例1と同様にリチウムイオン二次電池を作製し、評価した。
【0054】
[実施例4]
水酸化リチウムを0.43質量%含むLi1.01(Ni0.80Co0.15Al0.05)Oと、Li1.03Mn1.99とを1:3の質量比で混合し、正極活物質を調製した。なお、該正極活物質中のアルカリ金属水酸化物の含有量は0.11質量%であった。また、Li1.01(Ni0.80Co0.15Al0.05)Oを2質量%含む水分散液のpHは11.5であった。該正極活物質を用いて正極を作製した以外は、実施例1と同様にリチウムイオン二次電池を作製し、評価した。
【0055】
[実施例5]
水酸化リチウムを0.43質量%含むLi0.98(Ni0.80Co0.15Al0.05)Oと、Li1.03Mn1.99とを1:3の質量比で混合し、正極活物質を調製した。なお、該正極活物質中のアルカリ金属水酸化物の含有量は0.11質量%であった。また、Li0.98(Ni0.80Co0.15Al0.05)Oを2質量%含む水分散液のpHは11.4であった。該正極活物質を用いて正極を作製した以外は、実施例1と同様にリチウムイオン二次電池を作製し、評価した。
【0056】
[実施例6]
水酸化リチウムを0.43質量%含むLi1.03(Ni0.80Co0.15Al0.05)Oと、Li1.03Mn1.99とを1:3の質量比で混合し、正極活物質を調製した。なお、該正極活物質中のアルカリ金属水酸化物の含有量は0.11質量%であった。またLi1.03(Ni0.80Co0.15Al0.05)Oを2質量%含む水分散液のpHは11.5であった。該正極活物質を用いて正極を作製した以外は、実施例1と同様にリチウムイオン二次電池を作製し、評価した。
【0057】
[比較例1]
水酸化リチウムを0.64質量%含むLi1.01(Ni0.80Co0.15Al0.05)Oと、Li1.03Mn1.99とを1:3の質量比で混合し、正極活物質を調製した。なお、該正極活物質中のアルカリ金属水酸化物の含有量は0.16質量%であった。また、Li1.01(Ni0.80Co0.15Al0.05)Oを2質量%含む水分散液のpHは11.7であった。該正極活物質を用いて正極を作製した以外は、実施例1と同様にリチウムイオン二次電池を作製し、評価した。
【0058】
[比較例2]
水酸化リチウムを1.30質量%含むLi1.01(Ni0.80Co0.15Al0.05)Oと、Li1.03Mn1.99とを1:3の質量比で混合し、正極活物質を調製した。なお、該正極活物質中のアルカリ金属水酸化物の含有量は0.33質量%であった。また、Li1.01(Ni0.80Co0.15Al0.05)Oを2質量%含む水分散液のpHは12.0であった。該正極活物質を用いて正極を作製した以外は、実施例1と同様にリチウムイオン二次電池を作製し、評価した。
【0059】
[比較例3]
水酸化リチウムを1.20質量%含むLi1.01(Ni0.80Co0.15Al0.05)Oと、Li1.03Mn1.99とを1:3の質量比で混合し、さらに水酸化ナトリウムを正極活物質全体の0.10質量%となるように添加し、正極活物質を調製した。なお、該正極活物質中のアルカリ金属水酸化物の含有量は1.30質量%であった。該正極活物質中の水酸化リチウムの含有量は0.30質量%であった。また、Li1.01(Ni0.80Co0.15Al0.05)Oを2質量%含む水分散液のpHは12.0であった。該正極活物質を用いて正極を作製した以外は、実施例1と同様にリチウムイオン二次電池を作製し、評価した。
【0060】
[比較例4]
水酸化リチウムを0.64質量%含むLi0.98(Ni0.80Co0.15Al0.05)Oと、Li1.03Mn1.99とを1:3の質量比で混合し、正極活物質を調製した。なお、該正極活物質中のアルカリ金属水酸化物の含有量は0.16質量%であった。また、Li0.98(Ni0.80Co0.15Al0.05)Oを2質量%含む水分散液のpHは11.6であった。該正極活物質を用いて正極を作製した以外は、実施例1と同様にリチウムイオン二次電池を作製し、評価した。
【0061】
[比較例5]
水酸化リチウムを0.64質量%含むLi1.03(Ni0.80Co0.15Al0.05)Oと、Li1.03Mn1.99とを1:3の質量比で混合し、正極活物質を調製した。なお、該正極活物質中のアルカリ金属水酸化物の含有量は0.16質量%であった。また、Li1.03(Ni0.80Co0.15Al0.05)Oを2質量%含む水分散液のpHは11.8であった。該正極活物質を用いて正極を作製した以外は、実施例1と同様にリチウムイオン二次電池を作製し、評価した。
【0062】
[比較例6]
水酸化リチウムを0.80質量%含むLi1.01(Ni0.80Co0.15Al0.05)Oと、Li1.03Mn1.99とを1:4の質量比で混合し、正極活物質を調製した。なお、該正極活物質中のアルカリ金属水酸化物の含有量は0.16質量%であった。また、Li1.01(Ni0.80Co0.15Al0.05)Oを2質量%含む水分散液のpHは11.7であった。該正極活物質を用いて正極を作製した以外は、実施例1と同様にリチウムイオン二次電池を作製し、評価した。
【0063】
[比較例7]
水酸化リチウムを0.48質量%含むLi1.01(Ni0.80Co0.15Al0.05)Oと、Li1.03Mn1.99とを1:2の質量比で混合し、正極活物質を調製した。なお、該正極活物質中のアルカリ金属水酸化物の含有量は0.16質量%であった。また、Li1.01(Ni0.80Co0.15Al0.05)Oを2質量%含む水分散液のpHは11.6であった。該正極活物質を用いて正極を作製した以外は、実施例1と同様にリチウムイオン二次電池を作製し、評価した。
【0064】
[比較例8]
添加剤として、MMDSの代わりにビニレンカーボネート(VC)を用いた以外は比較例1と同様にリチウムイオン二次電池を作製し、評価した。
【0065】
[比較例9]
添加剤として、MMDSの代わりにフッ素化エチレンカーボネート(FEC)を用いた以外は比較例1と同様にリチウムイオン二次電池を作製し、評価した。
【0066】
[比較例10]
負極活物質として、表面に皮膜が形成されていない黒鉛を用いた以外は比較例1と同様に負極を作製した。該負極を用いた以外は比較例1と同様にリチウムイオン二次電池を作製し、評価した。
【0067】
[比較例11]
負極活物質として、黒鉛に対して10質量%のピッチからなる皮膜が形成された黒鉛を用いた以外は比較例1と同様に負極を作製した。該負極を用いた以外は比較例1と同様にリチウムイオン二次電池を作製し、評価した。
【0068】
正極活物質中のアルカリ金属水酸化物の含有量の影響を確認するために、実施例1から4、並びに比較例1および2のサイクル試験の結果を図2に示す。アルカリ金属水酸化物の別途の添加の影響を確認するために、比較例2および3のサイクル試験の結果を図3に示す。式(1)で示される化合物のLi組成の影響を確認するために、比較例1、4および5のサイクル試験の結果を図4に、実施例4から6のサイクル試験の結果を図5にそれぞれ示す。式(1)で示される化合物と式(2)で示される化合物との混合割合の影響を確認するために、比較例1、6および7のサイクル試験の結果を図6に示す。添加剤の種類の影響を確認するために、比較例1、8および9のサイクル試験の結果を図7に示す。黒鉛表面の皮膜量の影響を確認するために、比較例1、10および11のサイクル試験の結果を図8に示す。
【0069】
【表1】
【要約】
【課題】充放電サイクルにおける容量維持率の高いリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】下記式(1) Li(NiCoAl)O(式(1)において、0.95≦x≦1.05、0.70≦y≦0.85、0.05≦z≦0.20、0.00≦w≦0.10であり、y+z+w=1である)で示される化合物と、下記式(2) Li1+uMn2−u/3(式(2)において、0≦u≦0.05である)で示される化合物と、を含む正極活物質を含み、前記正極活物質中のアルカリ金属水酸化物の含有量が0.15質量%以下であるリチウムイオン二次電池用正極。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8