特許第5709237号(P5709237)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5709237
(24)【登録日】2015年3月13日
(45)【発行日】2015年4月30日
(54)【発明の名称】密閉型義足
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/64 20060101AFI20150409BHJP
【FI】
   A61F2/64
【請求項の数】14
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-532650(P2014-532650)
(86)(22)【出願日】2012年8月30日
(86)【国際出願番号】JP2012072029
(87)【国際公開番号】WO2014033876
(87)【国際公開日】20140306
【審査請求日】2014年12月22日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088029
【弁理士】
【氏名又は名称】保科 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】中矢 賀章
(72)【発明者】
【氏名】三竿 太志郎
(72)【発明者】
【氏名】橋本 浩明
(72)【発明者】
【氏名】中村 宣幸
(72)【発明者】
【氏名】多田 佳弘
【審査官】 寺澤 忠司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−137268(JP,A)
【文献】 特開平7−308332(JP,A)
【文献】 米国特許第5948021(US,A)
【文献】 米国特許第3953900(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上端にソケットを支持する上部材と、下端に足部を支持する下部材と、それら上部材と下部材とを屈曲可能に連結する膝継手と、その膝継手の動きを補助または制限するシリンダー装置と、シリンダー装置の外側を取り囲むシェル構造体とを備える義足であって、前記シリンダー装置は軸線のあるシリンダー本体と、そのシリンダー本体から前記軸線方向に伸びるロッド部材とを含み、そのロッド部材が前記シェル構造体の内側から外側へと伸びる義足において、
前記義足は、前記ロッド部材の周りを密閉する蛇腹パッキン手段を備え、しかも、その蛇腹パッキン手段が、次のような構成および条件を含みおよび/または充足する、密閉型義足。
・前記ロッド部材を受け入れる孔を区画し、内周のシール部分となる内ビード。
・前記シェル側への取り付け部であり、しかも、そのシェル側に対するシール部分となる外ビード。
・前記外ビードと内ビードとの間に位置する本体部分であり、凹凸をなす複数のひだが互いに並び、前記外ビードと内ビードとの間の距離を変更可能な蛇腹パッキン本体部。
・前記複数のひだは、前記外ビードと内ビードとの間の仮想円に比べて曲がりが小さく、しかも、各ひだの両端は外ビードに達するか、あるいは内ビードよりも外ビードに近い箇所に位置する。
【請求項2】
前記シェル構造体と蛇腹パッキン手段とは、両者が相俟って前記シェル構造体の内側に密閉空間を形成する、請求項1の密閉型義足。
【請求項3】
前記義足は、電子制御義足であり、前記密閉空間の内部に電子制御のための構成部品を収容する、請求項2の密閉型義足。
【請求項4】
前記ロッド部材は、前記上部材と下部材とが屈曲するように動くとき、前記シリンダー本体の軸線方向に伸縮し、しかも同時に、軸線に交差する方向に揺動して前記蛇腹パッキン本体部を変形する、請求項1の密閉型義足。
【請求項5】
前記シリンダー本体は、前記ロッド部材をガイドするロッドガイドを備え、そのロッドガイドが前記内ビードを支持する、請求項1の密閉型義足。
【請求項6】
前記ロッドガイドは、筒状であって、その内周側に前記ロッド部材の外周をガイドするガイド面があり、しかもまた、その外周側に前記内ビードがはまり込むリング溝がある、請求項5の密閉型義足。
【請求項7】
前記リング溝の開口部分に、前記内ビードの抜けを防ぐためのストッパーがある、請求項6の密閉型義足。
【請求項8】
前記内ビードは、前記上部材と下部材とが屈曲するように動くとき、前記蛇腹パッキン本体部が変形することに応じて、前記外ビードの径方向上を移動する、請求項4の密閉型義足。
【請求項9】
前記シリンダー装置のロッド部材のロッドエンドは、前記上部材の側に位置し、しかもまた、前記シリンダー装置のシリンダー本体のシリンダーヘッドは、前記下部材の側に位置する、請求項1の密閉型義足。
【請求項10】
前記ロッド部材の周りを密閉する蛇腹パッキン手段は、前記ロッド部材の長手方向に沿う断面形態を見るとき、前記内ビードと外ビードとが同様の高さ位置にあるか、または、内ビードが外ビードよりも前記ロッド部材のロッドエンド寄りに位置する、請求項9の密閉型義足。
【請求項11】
前記蛇腹パッキン本体部における複数のひだは、前記内ビードから外ビードにわたって同様の高さ位置を保つ、請求項1の密閉型義足。
【請求項12】
各ひだの凹凸高さは、前記蛇腹パッキン本体部が変形しない状態における、内ビードから外ビードに至る距離より小さい、請求項11の密閉型義足。
【請求項13】
前記膝継手は、単軸による連結であるか、多軸つまり多節リンクを用いた連結のいずれかである、請求項1の密閉型義足。
【請求項14】
前記シリンダー装置は、油圧シリンダー、バネシリンダー、空圧シリンダー、リニア・アクチュエータのいずれかである、請求項1の密閉型義足。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、膝継手の動きを補助または制限するシリンダー装置を含む義足について、義足の防水や防塵の機能を図る上で有効な技術であり、より具体的には、シリンダー装置の外側を取り囲むシェル構造体を活用しつつ、そのシェル構造体の内外に伸びるロッド部材の周りを密閉するようにした技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、膝継手あるいは膝関節を含む義足は、上端にソケットを支持する上部材と、下端に足部を支持する下部材と、それら上部材と下部材とを屈曲可能に連結する膝継手と、その動きを補助または制限するシリンダー装置とを備える。
【0003】
膝継手の動きを補助または制限するシリンダー装置として、油圧シリンダー、バネシリンダー、空圧シリンダーのほか、リニア・アクチュエータが知られている。前者のグループは、義足装着者が生み出す力あるいは動きに対して抗力を発生する。それに対し、後者のリニア・アクチュエータは、モータによって自ら推進力を生じる。しかし、シリンダー装置の形態は、前者にあっても後者にあっても同様である。すなわち、比較的に大径なケーシングであって、ピストンやバネを内蔵するシリンダー本体(リニア・アクチュエータでは、モータを内蔵する本体ケーシング)と、シリンダー本体に比べて小径な細長い部材であって、そのシリンダー本体から伸びるロッド部材とを備える。
【0004】
このようなシリンダー装置を含む今までの義足は、いわば侵入口のある開放型であり、外部からの異物(水、汗、塵など)の侵入を甘んじて受けざるをえなかった。開放型にせざるをえない理由、あるいは異物の侵入を避けることができない理由は、義足の動きに伴って、シリンダー装置、特にそのロッド部材が独特の動きをすることにある、と考えられる。ロッド部材は、上部材と下部材とが屈曲するように動くとき、シリンダー本体の軸線方向に伸縮し、しかも同時に、軸線に交差する方向に揺動する。たとえば、ロッド部材の伸縮量は35mm前後あるいはそれを超える大きさであり、揺動する角度は10°前後あるいはそれを超える大きさである。
【先行特許文献】
【0005】
たとえば、特許文献1が空圧シリンダーを備える義足、特許文献2が油圧シリンダーを備える義足、特許文献3がバネシリンダーを備える義足をそれぞれ示す。また、リニア・アクチュエータについては、特許文献4が示す。
特許文献1:特開2001−137268号公報
特許文献2:特開2002−58689号公報
特許文献3:特開昭55−130657号公報
特許文献4:特開2010−75727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
シリンダー装置を含む義足は密閉型にしにくい要因をもつとはいえ、それを密閉型にすることが求められる。なぜなら、シリンダー装置自体が本来的に水(水分)や塵などの異物を嫌う装置であるし、それに加えて、金属製のねじやピン等の固体の異物が義足内部に入り込み、それ(それら)がシリンダー装置と義足のフレームの間に挟まれた場合には、シリンダー装置のシリンダー部分やそのロッド部分の破損につながる。さらに、電子制御義足については、一般的な生活を不自由なく行う上で、各電子関連の構成部品に対して何らかの防水、防塵機能をもたせることが不可欠であるからである。
【0007】
防水、防塵機能を与える方法として、シリンダー装置、電池や電池の収納部、制御基板やセンサー部などの電子制御のための構成部品を個別に密閉(シール)することが考えられる。しかし、防水すべき個所は多く、しかも、複雑であり、それらを全体的に有効に密閉することは困難である。
【0008】
そこで、この発明では、個々の箇所を個別に密閉するというよりも、義足を全体的に密閉することができる技術を提供することを目的とする。
【0009】
また、この発明は、シリンダー装置の外側を取り囲むシェル構造体を活用しつつ、動きのあるロッド部材の周りを蛇腹パッキン手段によって有効に密閉する技術を提供することを他の目的とする。この発明のその他の目的については、今後の説明から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明では、シリンダー装置の外側を取り囲むシェル構造体に対し、防水、防塵の機能を負わせる。したがって、シェル構造体自体を密閉に適した構造にする。たとえば、シェル構造体は、本体となるフレームと、フレームの開口部を覆うフレームカバーとを備える。密閉のために、フレームとフレームカバーとの間にフレームパッキンを配置することが好ましい。
【0011】
ロッド部材の動きを考慮するとき、ロッド部材の動きをカバーすることができる周囲全体をシェル構造体で被うことも考えられる。しかし、そのようなシェル構造体は大容積となり、義足のデザイン性などの観点から実用的ではない。そこで、この発明では、ロッド部材の一部をシェル構造体の外側に位置させる。したがって、ロッド部材の一部は、シェル構造体の内部のシリンダー本体からシェル構造体の外側へと伸びる形態である。
【0012】
この発明は、シェル構造体の内側から外側へと伸びるロッド部材の周りを特定の蛇腹パッキン手段によって密閉(シール)する。その蛇腹パッキン手段は、次のような構成および条件を含みおよび/または充足する。
・前記ロッド部材を受け入れる孔を区画し、内周のシール部分となる内ビード。
・前記シェル構造体の側への取り付け部であり、しかも、そのシェル構造体の側に対するシール部分となる外ビード。
・前記外ビードと内ビードとの間に位置する本体部分であり、凹凸をなす複数のひだが互いに並び、前記外ビードと内ビードとの間の距離を変更可能な蛇腹パッキン本体部。
・前記複数のひだは、前記外ビードと内ビードとの間の仮想円に比べて曲がりが小さく、しかも、各ひだの両端は外ビードに達するか、あるいは内ビードよりも外ビードに近い箇所に位置する。
【0013】
蛇腹パッキン手段は、シェル構造体と相俟ってそのシェル構造体の内側に密閉空間を形成する。それにより、ロッド部材の一部を除くシリンダー装置の全体を、その密閉空間の内部に収容することができる。そしてまた、その密閉空間の中に、前記した電子制御のための構成部品を収納することができる。密閉空間は、外部からの水分や塵などの異物が侵入できない空間である。そのため、その内部の装置や構成部品は、異物による障害を生じることなく、高い信頼性を保つことができる。
【0014】
この発明で用いる蛇腹パッキン手段は、義足の動作を損なうことなく、密閉機能を常に発揮する。そこで、義足の動作との関係から、蛇腹パッキン手段の内容や特徴を明らかにする。
【0015】
義足における上部材と下部材とが屈曲するように動くとき、シリンダー装置のロッド部材は、二つの動きを同時に生じる。第1の動きは、シリンダー本体の軸線方向への伸縮であり、第2の動きは、その軸線に交差する方向への揺動である。第1の動きである伸縮に応じるため、蛇腹パッキン手段は、ロッド部材が入り込む孔をもつ内ビードを備える。密閉のために、内ビードの内周にシール部分をもたせることが必要である。第1および第2の互いに異なる二つの動きの下で、有効で確実なシール機能を得ることが求められる。その点、好ましくは、シリンダー本体の側にロッドガイドを設け、そのロッドガイドにロッド部材をガイドさせる役目と、内ビードを支持する役目とをもたせるのが良い。ロッドガイドは、一般的に、筒状であって、その内周側にロッド部材の外周をガイドするガイド面、その外周側に内ビードがはまり込むリング溝をそれぞれもつ。
【0016】
もう一方の第2の動きは、第1の動きの方向に対して交差する方向の揺動である。義足における屈曲に伴う動きであるため、その揺動(ロッド部材の揺動)は、歩行方向に沿う所定方向の動きであり、その大きさも制限されたもの(たとえば、揺動角度で10°〜20°)である。このような揺動は、単軸による連結の場合に比べて、多軸つまり多節リンクを用いた連結の場合の方が小さい。揺動が小さいことは、蛇腹パッキン手段の側で必要とする変形量が小さくなることを意味する。小さな変形量の蛇腹パッキン手段は、耐久性は勿論のこと、密閉上も有利である。そのため、この発明は、限定されるわけではないが、多軸による連結を伴う義足に好適である。
【0017】
蛇腹パッキン手段は、内ビードの外側に外ビードをもち、それら外ビードと内ビードとの間が蛇腹パッキン本体部を構成する。蛇腹パッキン本体部は、凹凸をなす複数のひだが互いに並び、それらひだの部分が蛇の腹のように伸縮し、外ビードと内ビードとの間の距離を変更可能である。変更可能な距離は、第2の動きをカバーできるだけの大きさにする。
【0018】
蛇腹パッキン手段の外ビードは、シェル構造体の側、一般的には、フレームに設けたリング溝の中にはまり合ってシール状態に支持される。したがって、外ビードと内ビードとの両方がシール状態に支持されることから、ロッド部材の周りが有効に密閉される。
【0019】
ここで、蛇腹パッキン本体部は、義足の動作に応じて常に変形するが、その変形は外ビードの所定の径方向に沿う。実験を通して検討したところ、蛇腹パッキン本体部における複数のひだを同心円状に配置すると、揺動に伴ってひだが上下に反り返り、変形音が生じる傾向がある。そのような変形音は、義足を使用する者にとって異音となり、不安感あるいは違和感を与えるおそれがある。
【0020】
この発明では、各ひだをループ状に閉じた形態にしないことにより、各ひだがロッド部材の揺動に応じて変形するとき、その変形する部分がそれに連なる、同じひだの他の部分に影響を与えにくい配置にする。すなわち、複数のひだについて、外ビードと内ビードとの間の仮想円(つまり、同心円状の円)に比べて曲がりを小さくし、しかも、各ひだの両端は外ビードに達するか、あるいは内ビードよりも外ビードに近い箇所に位置するように設ける。それにより、変形に伴う異音の発生を防止、あるいはその異音を低減する。
【0021】
シリンダー装置の配置について、径が大きなシリンダー本体を下方、径の小さなロッド部材を上方に配置する、ロッド上方タイプと、上下がその逆のロッド下方タイプとがある。この発明は、ロッド下方タイプよりもロッド上方タイプの義足に好適である。なお、ロッド上方タイプは、義足のデザイン性の面から、あるいはまた、電子制御に関係する配線などに対する負荷の面からも好ましい。
【0022】
内ビード、外ビードおよび蛇腹パッキン本体部を含む蛇腹パッキン手段については、各種のゴム材料(たとえば、クロロプレンゴムやシリコンゴムなど)、あるいは繊維強化ゴム材料などを用いて形成することができる。その場合、材料の耐久性を高めるため、好ましくは、それらの材料の伸びを期待することなく、複数のひだが広がることにより(あるいは、折り畳まれることにより)、ロッド部材の揺動に応じる変形量を得るようにするのが良い。
【0023】
また、ロッド部材の周りを密閉する蛇腹パッキン手段が占めるスペースを小さくする意味からは、ロッド部材の長手方向に沿う断面形態を見るとき、内ビードと外ビードとが同様の高さ位置にあるようにした平型が好ましいが、スペースが許される範囲で、内ビードと外ビードとの高さを異ならせた立体型(たとえば、内ビードを外ビードよりもロッド部材のロッドエンド寄りに位置させる)にすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】この発明の一実施形態による義足であり、膝継手が完全に伸展した状態を示す断面構造図である。
図2図1の義足であり、膝継手が屈曲した状態を示す義足の断面構造図である。
図3図1の義足の外観を示す斜視図である。
図4】この発明で用いる蛇腹パッキン手段の第1の例を示す斜視図である。
図5】蛇腹パッキン手段の取り付け部分の拡大断面図である。
図6】蛇腹パッキン手段の第2の例を示す平面図である。
図7】蛇腹パッキン手段の第3の例を示す平面図である。
図8】蛇腹パッキン手段の第4の例を示す平面図である。
図9】この発明を適用した単軸連結の義足の断面構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1図3は、この発明の一実施例である多軸義足であり、特に、膝継手の部分を中心に示している。大腿義足である義足10は、膝の上側に位置する上部材12と、膝の下側に位置し、上部材12に対して屈曲あるいは揺動可能に連結して膝の屈曲を可能とする下部材14とを備える。上部材12は、上部中央部にアライメントブロック122を一体に支持する。アライメントブロック122は、図示しないソケットを取り付ける部分であり、ソケットに入る大腿を通して義足使用者の荷重を支える。一方、下部材14の下部中央部にも別のアライメントブロック142がある。このアライメントブロック142は、足部を支持する脚部材を取り付ける部分である。
【0026】
そのような上部材12と下部材14とを膝継手20が連結する。膝継手20は、4節のリンク機構から構成される。4節のリンク機構は、4つのリンクを回転可能に連結した限定連鎖である。上部材12および下部材14は、その限定連鎖の4つのリンクの中の一つのリンクとしてそれぞれ機能する。残りの2つのリンクは、フロントリンク16およびリヤリンク18である。それら両リンク16,18は、ともに左右対称の形状であり、上下の連結部が左右一対である。したがって、前後に離れたフロントリンク16およびリヤリンク18は、両者が相俟って膝継手20の外側を取り囲む形態である。
【0027】
ここで、上部材12が2つのプレート部分12a,12bを含むプレート形態であるのに対し、下部材14は、内部空間を区画するフレーム形態である。下部材であるフレーム14は、上部材12に臨む上方側に上開口14u、その反対に位置する下方側に下開口14dをもつ。また、フレーム14には、内部の部品(たとえば、電池や制御基板)に臨む前面部分に前開口がある。
【0028】
義足10においては、下部材であるフレーム14を中心にした構成によって、内部空間を区画するシェル構造体30を形作る。そして、その内部空間の中に、電子制御のための電池40や制御基板42、さらには、膝継手20の動きを補助または制限する油圧シリンダー50を収容する。そのため、フレーム14の下開口14dはアライメントブロック142により、また、前開口については、フレームパッキンを伴うフレームカバー144により、密封性を保持する。それにより、シリンダー装置である油圧シリンダー50を取り囲むシェル構造体30の周側面および下部に対し、防水化および防塵化を図ることができる。
【0029】
しかし、義足10を密閉型にするためには、フレーム14を主体としたシェル構造体30の内部空間を外部から完全に遮断することが必要である。そのため、フレーム14の上開口14uの部分を有効に密閉しなければならない。
【0030】
この発明では、上開口14uの部分、つまり、シェル構造体30の上部の開口を、特定の蛇腹パッキン手段70によって密閉する。結果的に、義足10は、シェル構造体30および蛇腹パッキン手段70によって、図1に破線で示す部分Sを防水化および防塵化した密閉型になる。
【0031】
シリンダー装置である油圧シリンダー50は、シリンダー孔502を区画し、そのシリンダー孔502の内部にピストン504を内蔵するシリンダー本体52と、一端にピストン504を支持し、シリンダー本体52から伸び上開口14uを通って上部材12に支持されるロッド部材54とを備える。油圧シリンダー50は、シリンダー本体52のヘッドエンド52hがフレーム14の下部に回転可能に支持され、また、ロッド部材54のロッドエンド54rが上部材12に回転可能に支持される。
【0032】
このような油圧シリンダー50が、絞りを通る作動油の流れ抵抗に応じて、膝継手20の動きを制限することは良く知られたことである。完全伸展状態を示す図1と、軽度の屈曲状態を示す図2との比較からも分かるように、膝継手20が動く際、ロッド部材54は、シリンダー本体52に対して伸縮し、しかも、シリンダー本体52とともにヘッドエンド52h部分の支持点を中心にして揺動する。
【0033】
図4は、この発明で用いる蛇腹パッキン手段の第1の例を示し、また、図5は、義足10に装着した状態を示している。これらの図を参照しながら、第1例である蛇腹パッキン手段70を明らかにする。
【0034】
蛇腹パッキン手段70は、クロロプレンゴムの成型品であり、ロッド部材54を通すに足る孔を区画する内ビード72と、その内ビード72の外側を同心円状に取り囲む外ビード74と、それら外ビード74と内ビード72との間に位置し、両ビード74,72を一体に連結する蛇腹パッキン本体部76とを備える。外ビード74と内ビード72とは、取り付け部となる箇所であり、断面形状が円形のリング状である。それに対し、蛇腹パッキン本体部76は、各ビードの径よりは小さい厚さ(たとえば、0.5mm程度)であり、しかも、変形のために、凹凸をなす複数のひだ78を含む。複数のひだ78は、内ビード72に対して線対称の配置となっている。各ひだ78の高さは、蛇腹パッキン本体部76が変形しない状態における、内ビード72から外ビード74に至る距離より小さく、たとえば2.5mm程度である。
【0035】
蛇腹パッキン手段70は、両ビード74,72の部分がリング溝にはまり合うことによって、取り付け部分のシールを保ちつつ支持される。外ビード74は、シェル構造体30の内周のリング溝32にはまり合い、また、内ビード72は、筒状のロッドガイド80の外周のリング溝82にはまり合う。ここで、外ビード74は、膝継手20が屈曲作用をしたとしても、一定の位置に保持される。それに対し、内ビード72は、膝継手20の屈曲作用に応じて、外ビード74の所定の径方向上(図4の矢印X1,X2の方向)を移動する。そのような移動があることから、内ビード72はリング溝82から抜け出るおそれがある。そのため、リング溝82の開口の部分に、抜け防止のためのストッパー84を設けるのが好ましい。なお、筒状のロッドガイド80は、シリンダー本体52の上部に支持され、内周のガイド面86によって、伸縮するロッド部材54をガイドする。
【0036】
図4の矢印X1,X2で示す方向(つまり、蛇腹パッキン本体部76が変形する方向)は、ロッド部材54の揺動方向に対応する。別に言うと、その揺動方法は所定の定まった方向であり、そのため、膝継手20が動くとき、蛇腹パッキン本体部76はその揺動に応じた定まった方向の力を受けることになる。
【0037】
そのような力を受けて変形する蛇腹パッキン手段70が、変形に伴って異音を生じないようにするため、変形するひだ78の部分がそれに連続する他の部分あるいは別のひだに無用な影響を与えないようにしている。すなわち、各ひだ78は、外ビード74と内ビード72との間の仮想円に比べて曲がりが小さく、しかも、各ひだ78の両端は外ビード74に達するか、あるいは内ビード72よりも外ビード74に近い箇所に位置させる。図4に示す第1の例のほか、ひだ78の配置を変えた、図6に示す第2の例および図7に示す第3の例は、各ひだ78の両端を外ビード74に連結した形態である。また、図8は、各ひだ78の両端を外ビード74にまで届かない箇所に設定した形態である。
【0038】
以上、この発明を多軸義足に適用した場合を説明したが、この発明は単軸義足にも適用することができる。図9は、この発明による単軸義足100の一例である。単軸義足100は、シェル構造体300の内部空間に、シリンダー装置である空圧シリンダー500のシリンダー本体520のほか、電子制御のための電池400や制御基板420などを内蔵する。
【0039】
空圧シリンダー500のロッド部材540は、シリンダー本体520から出て上部材120にまで伸びる。ここでも、シェル構造体300の上部開口の部分を密閉するため、蛇腹パッキン手段700を用いる。蛇腹パッキン手段700は、必要とする変形量が蛇腹パッキン手段70に比べて大きいことから、ひだ780の数が倍加されている。しかし、それが、内ビード720、外ビード740、および両ビード720,740を連結する蛇腹パッキン本体部760を備えること、ならびに、それら各ビード720,740の取り付けなどについては、先に述べたものと同様である。
【0040】
なお、義足10,100に対する電源は、シェル構造体30,300の内部に内蔵した電池40,400である。この電池は充電可能なものであり、シェル構造体30,300の外部から充電のための電力が供給できるように充電用コネクタが設けられている。また、シェル構造体30,300の構造を簡素化しつつ、確実な密閉が行えるように、この電池は使用者による交換はできないようになっている。そのような状況下において、義足を安定的に制御するためには、電池の残量を一定以上に維持するようにすべきである。電池の消費は、シリンダー装置の絞り弁の開度を変化させるモータ系と、このモータ系を制御する制御用マイクロコンピュータとに区分することができる。マイクロコンピュータの消費電力は小さいが、モータ系の消費電力は大きい。
【0041】
義足にとって一番大事なことは、正常な状態で、できるだけ長い時間、動作させることである。そのため、義足に対する電源として、内蔵する電池のほか、外部からの補助電源(たとえば、携帯可能な電池など)を活用することができる。その場合、主電源である内蔵する電池と補助電源とから、マイクロコンピュータとモータ系との両方に同様に電力を供給することもできるが、補助電源を利用するとき(つまり、コネクタを通して補助電源を接続するとき)、電力消費が大きいモータ系は、補助電源の電力のみ利用するようにするのが好ましい。それによって、主電源である内蔵する電池の消耗を抑えて、その電池自体に所定以上の残量を確保することができるからである。さらには、電池の残量が少なくなったときでもモータ系が作動することによる一時的な電圧降下によるマイクロコンピュータの作動不良の恐れもなくなるからである。そしてまた、密閉型の義足にとって、密閉の点から、シェル構造体に対し、補助電源を接続するためのコネクタと充電用コネクタとを一つのコネクタとし、使用者が開閉することが可能な密閉カバー150(図3)の内側に配置することが好ましい。
【符号の説明】
【0042】
10 多軸義足
12 上部材
14 下部材
20 膝継手
30 シェル構造体
50 油圧シリンダー(シリンダー装置)
52 シリンダー本体
54 ロッド部材
70 蛇腹パッキン手段
72 内ビード
74 外ビード
76 蛇腹パッキン本体部
78 ひだ
80 ロッドガイド
100 単軸義足
120 上部材
300 シェル構造体
500 空圧シリンダー
520 シリンダー本体
540 ロッド部材
700 蛇腹パッキン手段
720 内ビード
740 外ビード
760 蛇腹パッキン本体部
780 ひだ

図1
図2
図3
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図5
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図9