(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5709239
(24)【登録日】2015年3月13日
(45)【発行日】2015年4月30日
(54)【発明の名称】チタン基複合材料の製造方法および該方法によって製造されたチタン基複合材料
(51)【国際特許分類】
C22C 1/05 20060101AFI20150409BHJP
B22F 3/24 20060101ALI20150409BHJP
C22C 14/00 20060101ALI20150409BHJP
C22F 1/18 20060101ALI20150409BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20150409BHJP
【FI】
C22C1/05 E
B22F3/24 F
C22C14/00 Z
C22F1/18 H
!C22F1/00 628
!C22F1/00 687
!C22F1/00 683
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2010-61995(P2010-61995)
(22)【出願日】2010年3月18日
(65)【公開番号】特開2011-195864(P2011-195864A)
(43)【公開日】2011年10月6日
【審査請求日】2013年1月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】504100802
【氏名又は名称】近藤 勝義
(73)【特許権者】
【識別番号】000127307
【氏名又は名称】株式会社イノアック技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100091409
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100096792
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 八郎
(74)【代理人】
【識別番号】100091395
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 博由
(72)【発明者】
【氏名】近藤 勝義
【審査官】
佐藤 陽一
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭63−183145(JP,A)
【文献】
特開平04−224601(JP,A)
【文献】
特開2000−129414(JP,A)
【文献】
特開2003−268481(JP,A)
【文献】
特開平04−021730(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/054309(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00−8/00
C22C 1/04,1/05、14/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
純チタンまたはチタン合金からなる原料粉末に、最大粒子径が10μm以下で、混合粉末全体に対する含有量が重量基準で0.3%〜1.8%となるように用意された酸化チタン粒子を混合する工程と、
前記混合粉末を固相焼結して焼結体を作製する工程と、
前記焼結体に対して熱間塑性加工を施す工程とを備える、チタン基複合材料の製造方法。
【請求項2】
前記混合工程は、炭素粒子を、混合粉末全体に対して重量基準で0.1%〜1%混合することを含む、請求項1に記載のチタン基複合材料の製造方法。
【請求項3】
前記炭素粒子は、カーボンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブおよびグラフェンからなる群から選ばれた少なくとも1種である、請求項2に記載のチタン基複合材料の製造方法。
【請求項4】
前記固相焼結工程は、真空雰囲気またはアルゴンガス雰囲気において行う、請求項1〜3のいずれかに記載のチタン基複合材料の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の方法によって製造されたチタン基複合材料。
【請求項6】
請求項2または3に記載の方法によって製造され、前記炭素粒子の炭素は、前記複合材料中において、炭化チタニウムとして存在する、チタン基複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、チタン基複合材料およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
チタンは、鋼の約1/2の低比重を有する軽量素材であり、また耐腐食性や耐熱性に優れるといった特徴を有することから、軽量化ニーズが強い航空機や鉄道車両、二輪車や自動車などの部品や、家電製品や建築用部材に利用されている。また優れた耐腐食性の観点から、医療用素材としても利用されている。
【0003】
しかしながら、チタンは、鉄鋼材料やアルミニウム合金と比較して、素材コストが高いために利用対象が限定されている。特に、チタン合金は、1000MPaを超える高い引張強さを有するものの、延性(破断伸び)が十分ではなく、また常温あるいは低温域での塑性加工性に乏しいといった課題がある。他方、純チタンは、常温にて25%を超える高い破断伸びを有しており、また低温域での塑性加工性にも優れるものの、引張強さが400〜600MPa程度と低い点が課題である。
【0004】
高強度および高延性を有するチタン材料に関する従来技術について以下に記載する。いずれの従来技術においても、適正な元素を添加することでチタン材料の強度向上を図ることが基本的な考え方である。多くの場合、チタン素地中に酸素を固溶させることでチタン材料の高強度化を実現することが提案されている。
【0005】
例えば、特開2002−285268号公報(チタン合金およびその製造方法)では、1.5〜6at%の酸素(O)および/または窒素(N)を含むことによりチタン材料の高強度化を図ることを開示している。酸素は出発原料粉末である純チタン粉末中に事前に含まれている。
【0006】
同様に、特許第3426605号公報(高強度・高延性チタン合金およびその製造方法)においても、酸素、窒素、鉄(Fe)を強化元素として含むことを開示しており、ここでも酸素がチタン素地中への固溶元素として強化作用を有している。
【0007】
特開2009−127083号公報(チタン合金の製造方法)においては、純チタンをベースに窒素あるいは酸素の含有率を高めることで、比較的安価なスポンジチタンを原料としたチタン合金の強度を向上させる製法を提案している。ここでは、微細な酸化チタン粒子と純チタン(スポンジチタン)を混合して成形固化した後、真空アーク溶解することで、酸化チタンを分解してそこに含まれる酸素を純チタンに固溶させる方法を開示している。つまり、本製法によれば、添加する酸化チタン粒子は、アーク溶解の過程で純チタン中に溶解するため、凝固後のチタンインゴット中には酸化チタン粒子の状態として存在しない。
【0008】
US7311873号公報(Process of Direct Powder Rolling of Blended Titanium Alloys, Titanium Matrix Composites, and Titanium Aluminides)においては、少なくとも1種類の元素を含むチタン合金粉末に、炭化物、窒化物、酸化物などの粒子を混合し、冷間圧延加工後に固相状態で焼結することでチタン基複合材料を作製する方法を提案している。ここでは、溶解工程を経由しないため、上記の添加粒子も溶解あるいは分解することなく、粒子の状態で存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−285268号公報
【特許文献2】特許第3426605号公報
【特許文献3】特開2009−127083号公報
【特許文献4】US7311873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
チタンに対する高強度と高延性の両立と素材コストの低減に関する要求は極めて強いことから、これまでに様々な検討が行われてきた。特に、低コスト化の観点から、バナジウム、スカンジウム、ニオブなどの高価な元素ではなく、酸素といった比較的安価な元素による高強度化が従来技術として多く検討されてきた。これまでに開示されている先行技術において、酸素はチタン素地中に固溶することで強化作用を発現している。その結果、固溶によるチタン中の酸素含有量が増加するにつれて、チタンの延性が顕著に低下するといった課題がある。
【0011】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、高価な元素や物質を添加せずに、高い延性を著しく低下させることなく、高強度を発現するチタン基複合材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明に従ったチタン基複合材料の製造方法は、純チタンまたはチタン合金からなる原料粉末に、最大粒子径が10μm以下で、混合粉末全体に対する含有量が重量基準で0.3%〜1.8%となるように用意された酸化チタン粒子を混合する工程と、混合粉末を固相焼結して焼結体を作製する工程と、焼結体に対して熱間塑性加工を施す工程とを備える。
【0013】
一つの実施形態では、混合工程は、炭素粒子を、混合粉末全体に対して重量基準で0.1%〜1%混合することを含む。好ましくは、炭素粒子は、カーボンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブおよびグラフェンからなる群から選ばれた少なくとも1種である。固相焼結工程は、好ましくは、真空雰囲気またはアルゴンガス雰囲気において行う。
【0014】
この発明に従ったチタン基複合材料は、上記のいずれかに記載の方法によって製造されたものである。
【0015】
好ましくは、炭素は、複合材料中において、炭化チタニウムとして存在する。
【0016】
上記の特徴的な構成の作用効果または技術的意義については、以下の項目で説明する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】チタン基複合材料に対するX線回折(XRD)による構造解析結果を示す図であり、(a)は、実施例2の表3に記載したチタン材料のなかでCNT添加量が0.27%の本発明例の試料に対する結果を示し、(b)は、酸化チタン粒子ならびにCNTを含まない純チタン粉末のみを焼結・熱間押出加工して得られた素材に対する結果を示している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本件発明の発明者は、適正な粒子径を有する安価な酸化チタン(TiO
2)粒子をチタン粉末に混合し、この混合粉末を成形して焼結し、さらにこの焼結体に対して押出加工、鍛造加工、圧延加工といった熱間塑性加工を施すことにより、結晶組織の緻密化を促進して、高強度および高延性を有するチタン材料を創製した。この方法によれば、溶解工程を含まないので、出発原料として添加した酸化チタン粒子は、チタン材料中においても分解することなく、TiO
2粒子として存在する。つまり、本発明者が提案するチタン材料は、先行技術で開示されているような酸素の固溶による強化ではなく、微細な酸化チタン粒子の分散強化によって高強度および高延性の両特性を維持している。
【0019】
その結果、安価ながらも強度特性が十分でない純チタン粉末をベースに用いた場合でも、適正な粒子径を有する酸化チタン粒子を混合して分散することで、従来のチタン合金と同等の高い強度を得ることができ、しかも十分な延性を維持することが可能となる。勿論、チタン合金粉末を用いた場合も同様に、適正量の酸化チタン粒子を混合し、成形・固相焼結および熱間塑性加工を施すことで、延性を大幅に低下させることなく、更に高い強度を発現することが可能となる。
【0020】
固相焼結工程は、原料のチタン粉末の酸化を抑制するために、真空雰囲気あるいはアルゴンガス雰囲気に管理する必要がある。また熱間塑性加工として、従来の押出加工、鍛造加工や圧延加工を適用することで、酸化チタン粒子分散チタン粉末焼結体の緻密化が図れる。
【0021】
チタン素地中に分散する酸化物粒子として、本発明者は酸化チタン(TiO
2)を選定したが、これには2つの理由がある。例えば、酸化鉄(FeO、Fe
2O
3)のように酸化チタンに比べて標準生成自由エネルギー値(通常は負の値を有する)の絶対値が小さい場合には、焼結過程においてチタンによって酸化鉄が還元分解されて鉄(Fe)となり、酸化物としての強化作用が発現しない。他方、アルミナ(Al
2O
3)や酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)のように酸化チタンに比べて標準生成自由エネルギー値(通常は負の値を有する)の絶対値が大きい場合、上記のような還元分解は生じないが、本発明者は、チタン素地との接触界面における整合性が良好でないことを実験的に確認しており、その結果、これらの酸化物粒子を添加することでチタン材の強度や延性の低下を招く。
【0022】
さらに、酸化チタン粒子の粒子径に関しても、適正な範囲があることを本発明者は見出した。具体的には、粒子径の最大値は10μm以下であり、より好ましくは、3μm以下である。酸化チタンの粒子径が10μmを越えると、チタン中に分散した際に材料欠陥となり、その部分に応力が集中することで強度と延性の低下が生じる。最小値に関しては、制限はないが、0.5μm程度を下回るような微細な酸化チタン粒子を用いる場合には、凝集を解消するためにチタン粉末との混合処理工程において、長時間混合処理や2段階の混合処理といった工夫が必要となる。このような混合処理を行うことで酸化チタン粒子の凝集現象は解消され、チタン素地中に均一に分散して強度向上に寄与する。
【0023】
酸化チタン粒子の添加量に関しては、混合粉末全体に対して重量基準で0.3%〜1.8%が適正範囲である。1.8%を超えると、チタン材料の強度は更に増大するが、延性が著しく低下するといった問題が生じる。他方、0.3%を下回る場合、強度向上に対して十分な効果が得られない。
【0024】
なお、上記の先行技術であるUS7311873号公報(Process of Direct Powder Rolling of Blended Titanium Alloys, Titanium Matrix Composites, and Titanium Aluminides)においては、分散粒子の一つとして酸化チタンを挙げているが、その添加量や粒子径がチタン材料の強度や延性に対して及ぼす影響については一切、記述されていない。
【0025】
さらに、カーボンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェンなどの炭素粒子をチタン粉末および酸化チタン粒子と共に混合し、成形・固相焼結することで、微細な炭化チタニウム(TiC)を合成し、その分散強化によってチタン材料の強度は更に増加することができる。ただし、上記の炭素粒子の添加量は、重量基準で0.1%〜1%であることが望ましい。1%を超えると、TiC粒子の生成量が多くなるために、チタン材料の延性が低下すると共に、硬質なTiC粒子が多量に存在することでチタン素材の切削性が著しく低下する。一方、0.1%未満の添加では、顕著な強度向上の効果が得られない。なお、経済性の観点からは、カーボンブラックやアセチレンブラックを利用することが好ましい。他方、カーボンナノチューブやグラフェンを使用することで、これらの優れた力学特性をチタン材料に付与することができるため、カーボンブラックやアセチレンブラックを用いた場合よりも優れた強度特性を得ることができる。また、上記の炭素粒子を2種類以上、組み合わせて使用することも可能であり、その場合においても同様にTiC粒子を合成・分散することによりチタン材の強度が向上する。
【実施例1】
【0026】
ベース用純チタン原料粉末(平均粒子径87μm、純度;98.3%)と、分散粒子として2種類の酸化チタン粒子A(平均粒子径D50=0.45μm、最大粒子径Dmax=3.78μm)と酸化チタン粒子B(D50=18.23μm、最大粒子径Dmax=31.94μm)とを準備した。混合粉末全体に対して重量基準で酸化チタン粒子を0.2%〜2%添加した後、混合粉末をアルミナ製ポットにアルミナボールと共に投入し、真空脱気後にアルゴンガス置換を行い、回転式ボールミル装置を用いて回転数;90rpm、処理時間;1時間の混合処理を施した。
【0027】
上記の混合処理後の各混合粉末について、放電プラズマ焼結(SPS)装置を用いて、真空雰囲気中で温度;800℃、加圧力;30MPa、保持時間;30分の焼結処理を行い、相対密度が93〜96%の焼結体(直径;42mm、全長;40mm)を作製した。その後、赤外線ゴールドイメージ炉を用いて各焼結体に対してアルゴンガス雰囲気中で1000℃×10分間の加熱処理を施した後、直ちに熱間押出加工を施して直径7mmの押出棒材(押出比;36)を作製した。
【0028】
上記のようにして得られた押出材から、引張試験片(平行部の直径;3.5mm、長さ;15mm)を機械加工により採取し、常温において引張試験(ひずみ速度;5×10
−4/s)を行い、引張強さ、引張耐力および破断伸びをそれぞれ測定した。それらの結果を表1および表2に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
【表2】
【0031】
まず、本願の請求項1で規定する最大粒子径の適正範囲を満足する酸化チタン粒子Aを用いた場合の測定結果を示す表1を参照する。酸化チタン粒子を添加していない試料(含有量:0%)に対して、酸化チタン粒子を1.75%まで添加した場合、材料の延性を示す破断伸びは急激に低下することなく、純チタンが有する高い延性を維持しており、しかも引張強さおよび引張耐力は増加している。特に、引張耐力に関しては、酸化チタン粒子を1.75%添加することで無添加チタン材に比べて2倍以上の高い値を示した。一方、酸化チタン粒子の添加量が2%に達すると、引張強さおよび引張耐力は共に増加するものの、破断伸びは13.5%にまで急激に低下した。
【0032】
次に、本願の請求項1で規定する最大粒子径の適正範囲を超える酸化チタン粒子Bを用いた場合の測定結果を示す表2を参照する。酸化チタン粒子Bの添加量が0.6%以上において、破断伸びの著しい低下と、それによる脆化によって引張強さおよび引張耐力も低下した。
【実施例2】
【0033】
実施例1で用いた純チタン粉末と酸化チタン粒子Aの他に、多層カーボンナノチューブ(CNT、直径;11nm、全長;1〜3μm)を準備し、これらを混合した後、実施例1で記載した条件で焼結および押出加工して試料を作製した。なお、TiO
2粒子の添加量を1重量%とし、CNTについては表3に記載した範囲とした。
【0034】
【表3】
【0035】
カーボンナノチューブを1%までの範囲で添加することで、酸化チタン粒子Aを含むチタン基複合材料の引張強さおよび引張耐力は、更に向上している。例えば、0.89%のCNTを添加した場合、高強度と十分な延性を有することを確認した。一方、CNT添加量を1.22%とした場合、破断伸びは11.1%へと顕著に低下した。
【実施例3】
【0036】
実施例2の表3に記載したチタン材料のなかでCNT添加量が0.27%の本発明による試料について、X線回折(XRD)による構造解析を行った結果を
図1(a)に示す。比較として、酸化チタン粒子ならびにCNTを含まない純チタン粉末のみを焼結・熱間押出加工して得られた素材のXRDを同図(b)に併せて示す。本発明による試料では、酸化チタン(TiO
2)のピークが検出され、またCNTがチタンと反応して生成した炭化チタニウム(TiC)のピークも明瞭に観察される。一方、純チタン粉末のみを用いた試料(b)では、TiO
2およびTiCのピークは検出されず、チタンの回折ピークのみが検出されることがわかる。このように本発明による試料では、炭素材料であるCNTを添加することで微細なTiCを生成し、これによる分散強化による強度向上効果が確認された。
【実施例4】
【0037】
実施例1で用いた純チタン粉末と酸化チタン粒子Aの他に、カーボンブラック粒子(平均粒子径;70nm)を準備し、これらを混合した後、実施例1で記載した条件で焼結および押出加工して試料を作製した。なお、TiO
2粒子の添加量を1重量%とし、カーボンブラックについては表4に記載した範囲とした。
【0038】
【表4】
【0039】
カーボンブラック粒子の添加量が1%までの範囲においては、著しい延性(破断伸び)の低下を伴うことなく、引張強さおよび引張耐力は向上する。しかし、1.34%のカーボンブラック粒子を添加した場合には、破断伸びは7.5%以下に低下した。
【実施例5】
【0040】
ベース用チタン合金粉末としてTi‐6.1wt%Al‐3.8wt%V(平均粒子径112μm)と、分散粒子である酸化チタン粒子C(平均粒子径D50=0.72μm、最大粒子径Dmax=4.25μm)を準備した。混合粉末全体に対して重量基準で酸化チタン粒子を0.3%〜2%添加した後、混合粉末をアルミナ製ポットにアルミナボールと共に投入し、真空脱気後にアルゴンガス置換を行い、回転式ボールミル装置を用いて回転数;90rpm、処理時間;1時間の混合処理を施した。得られた各混合粉末について、放電プラズマ焼結(SPS)装置を用いて、真空雰囲気中で温度;1000℃、加圧力;30MPa、保持時間;45分の焼結処理を行い、相対密度が93〜96%の焼結体(直径;40mm、全長;40mm)を作製した。赤外線ゴールドイメージ炉を用いて各焼結体をアルゴンガス雰囲気中で1080℃×10分間の加熱処理を施した後、直ちに熱間押出加工を施して直径8mmの押出棒材(押出比;25)を作製した。得られた押出材から引張試験片(平行部の直径;3.5mm、長さ;15mm)を機械加工により採取し、常温において引張試験(ひずみ速度;5×10
−4/s)を行い、引張強さ・引張耐力・破断伸びをそれぞれ測定した。それらの結果を表5に示す。
【0041】
【表5】
【0042】
チタン合金粉末を用いた場合においても、本発明が規定する最大粒子径の適正範囲を満足する酸化チタン粒子Cを用いた際、その添加量の増加に伴って引張強さおよび引張耐力は増大する。また、破断伸びに関しては、1.5重量%までの添加材では顕著な低下は見られないが、2重量%の添加においては、破断伸びが2.8%にまで減少した。
【実施例6】
【0043】
両性イオン界面活性剤を1.1重量%含む水溶液に、多層カーボンナノチューブ(CNT、直径;11nm、全長;1〜3μm)を重量基準で1%添加し、超音波振動攪拌機によってCNTを水溶液中で均一に分散した。このようにして得られたCNT分散水溶液中に、ベース用純チタン原料粉末(平均粒子径87μm、純度;98.3%)を浸漬し、10分間保持した後に水溶液から引き上げて、アルゴンガス雰囲気に管理した電気炉内で120℃にて水分を除去した。この状態ではCNTはチタン粉末表面に単分散状態で存在するが、両性イオン界面活性剤の固形皮膜も存在することから、続いて、真空雰囲気中で700℃にて2時間の熱処理を行った。これにより上記の固形皮膜は熱分解すると共に、CNTとチタンの反応によって炭化チタニウム(TiC)が生成し、このTiC粒子を介してCNTはチタン粉末表面で強固な結合状態を有する。このようにして得られたCNT被覆チタン粉末に対して、上記の酸化チタン粒子A(平均粒子径D50=0.45μm、最大粒子径Dmax=3.78μm)を添加・混合した。酸化チタン粒子の添加量は、混合粉末全体に対して重量基準で0.5%とした。この混合粉末をアルミナ製ポットにアルミナボールと共に投入し、真空脱気後にアルゴンガス置換を行い、回転式ボールミル装置を用いて回転数;90rpm、処理時間;1時間の混合処理を施した。得られた混合粉末について、放電プラズマ焼結(SPS)装置を用いて、真空雰囲気中で温度;900℃、加圧力;30MPa、保持時間;30分の焼結処理を行い、相対密度が95.2%の焼結体(直径;42mm、全長;35mm)を作製した。赤外線ゴールドイメージ炉を用いて焼結体をアルゴンガス雰囲気中で1000℃×10分間の加熱処理を施した後、直ちに熱間押出加工を施して直径7mmの押出棒材(押出比;36)を作製した。
【0044】
なお、炭素分析の結果より、上記の押出材に含まれるCNT量は0.24重量%であった。得られた押出材から引張試験片(平行部の直径;3.5mm、長さ;15mm)を機械加工により採取し、常温において引張試験(ひずみ速度;5×10
−4/s)を行い、引張強さ・引張耐力・破断伸びをそれぞれ測定した。 その結果、引張強さ:879MPa、引張耐力:723MPa、破断伸び:21.9%であった。表1に示した純チタン粉末のみを焼結・押出加工して得られた材料の引張強度特性と比較して、著しい強度の向上が認められ、また破断伸びに関しては顕著な低下はなく、十分な延性を有することを確認した。したがって、上記のような水溶液中にCNTが分散した水溶液を用いてCNTと酸化チタン粒子が分散したチタン粉末材料においても、本発明が規定する適正な酸化チタン粒子の大きさと添加量、およびCNTの添加量を満足することで、高強度・高延性を有するチタン材料を得ることができる。
【0045】
以上、図面および表を参照して本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記した実施の形態のものに限定されない。上記した実施の形態に対して、本発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、航空機、鉄道車両、自動車用部品、家電製品素材、建築用構造部材、医療用素材など幅広い分野で使用可能なチタン基複合材料およびその製造方法として有利に利用され得る。