【実施例1】
【0024】
図1において符号10は接合ヘッド装置、12は溶接電源、14は溶接トランスであり、本発明の抵抗溶接装置は、これらの組合せによって構成される。接合ヘッド装置10は、2種の金属を重ねた被接合材に一対の電極16、16を上方から押圧し、両電極間で被接合材と平行に溶接電流を流すことによって溶接するシリーズ式のものである。ここに被接合材は、例えば
図2、3に示すような電池の銅製の電極Aに、ニッケル製の電池タブBを重ねたものである。
【0025】
接合ヘッド装置10は、基台部18と、その上面に固定された水平なワーク保持台20と、このワーク保持台20の後部から上方へ起立する支柱部22とを備え、これらは一体化されている。この支柱部22には駆動ユニット24が上下にスライド自在に保持されている。駆動ユニット24の前面には、コイルばねを内蔵する一対のシリンダ26、26が保持されている。これらのシリンダ26、26からは、下方にロッド28、28がそれぞれ突出している。これらのロッド28、28はシリンダ26、26内のコイルばねにより下向きに付勢され、この突出部に電極保持部30、30が固定されている。これらの電極保持部30、30に前記電極16,16が固定されている。
【0026】
前記駆動ユニット24は、内蔵するサーボモータによってその高さが可変であり、従ってこれと一体にシリンダ26、26、電極保持部30、30、電極16、16が上下動する。シリンダ26、26のコイルばねは、電極16、16を被接合材(ワーク)に当接させて押圧すると圧縮され、この押圧力がコイルばねの圧縮量によって検出される。コイルばねの圧縮量はセンサで検出される。そしてこの押圧力が一定値になると、すなわちコイルばねの圧縮量が設定値になると、駆動ユニット24は下降を停止し、この状態で両電極16、16間に溶接電流を流して溶接を行う。溶接電流の通電が終わると所定時間(ホールド時間)この状態を保持した後、駆動ユニット24を上昇させて一回の溶接動作が完了する。
【0027】
溶接電源12の主回路は、
図2、3に示すように、所定交流電圧(例えば400あるいは200ボルト)の三相交流を整流する整流回路32と、この整流回路32の整流出力を充放電することで整流出力を平滑化する平滑コンデンサ34と、IGBTをブリッジ接続したスイッチング
回路からなるパルス発生回路36と、で構成される。パルス発生回路36のスイッチング素子であるIGBTは、溶接タイミング信号生成部38が所定のタイミングで生成するゲート信号によってオン・オフ制御される。溶接タイミング信号生成部38は溶接条件設定部40から送られる信号によって制御される。
【0028】
溶接条件設定部40はバスで接続されたコンピュータ(CPU)からなる制御部42、操作部44、表示部46を備え、表示部46の表示を確認しながら操作部44からIGBTのオン・オフタイミング等を設定し、このタイミングを制御部42が本来備える記憶部(図示せず)にメモリする。すなわち、WELD TIME(通電期、例えば
図4(A)のa〜d)とCOOL TIME(通電休止期、例えば
図4(A)のe〜h)とからなる溶接相ごとに通電期の正負と通電時間、そして通電休止期の通電休止時間を設定する。操作部44と表示部46は、溶接電源12の前面に設けた操作キー群と表示パネルで構成される。なお
図1には、溶接電源12の前面に電源スイッチ48が示されている。
【0029】
溶接トランス14は一次側の巻き線に4つの中間タップ50を備える(
図3)。前記パルス発生回路36の交流出力電圧が、中間タップ50のいずれかを介してトランス14の一次側(一次コイル)に導かれる。トランス14の二次側(二次コイル)は前記電極16、16に接続されている。この二次側に流れる電流は溶接電流である。
【0030】
二次側の電流はCT(カレントトランス)やホール素子などのセンサ52で検出され、電極16、16間電圧(溶接電圧)と共に溶接情報モニタ部54に入力される。この溶接情報モニタ部
54は、前記溶接電源12に設けられ(
図2、3)、溶接電流、溶接電圧を示す信号をデジタル信号に変換して、バスを介して溶接条件設定部40に供給する。溶接トランス14の筐体前面には、前記中間タップ50の切替を行うための切替スイッチ56が設けられている。
【0031】
通電期a〜dの正負の極性とオン・オフタイミングの設定と、通電休止期e〜gのタイミングの設定は、
図2の操作部44と表示部46を用いて次のように行う。まず操作部44の「パラメータ」キー58を押して、これらの設定モードにする。すると表示部46に設定可能な溶接相(WELD PHASE)と、この溶接相ごとの通電期の「極性」、「通電時間」および通電休止期の「通電休止時間」の設定窓に初期値が表示され、同時に設定可能な位置にカーソルが表示される。
【0032】
「極性」は「+」、「−」に設定することができ、増減キー62を操作することで交互に切り替えて設定する。また「通電時間」、「通電休止時間」は「0.1ms」単位で設定することができ、増減キー62を操作することで増減して所望の値に設定する。また、設定する項目は選択キー60を操作することで選択する。なお「通電時間」は、0.0〜10msの範囲で、「通電休止時間」は1.0〜60msの範囲で設定でき、「通電時間」の総計は60ms以内になるように設定する。全ての設定が終わり溶接動作を開始する時には、「オペレイト」キー64を押せばよい。
【0033】
図4の(A)〜(C)は、通電パターンの設定例を示したものである。この通電パターンは各溶接相の通電期の「通電時間」a〜dと「通電休止時間」e〜hで設定されるもので、パルス発生回路36の出力波形を溶接トランスの一次側のコイルの影響を無視した形で示している。
【0034】
(A)は4つの溶接相をプリ通電の溶接相と、本通電(溶接物を実際に溶かし接合するために電流を流すことを言う。)の溶接相に分けて設定したものである。初めの2つの溶接相はプリ通電を行うもので通電時間は後の2つの溶接相の本通電を行う通電時間より短くなっている。こうするのは、溶接トランス14の出力エネルギーは通電時間が短ければ少なく、長ければ多くなるので、このように通電時間に差異を設けて予備的な溶接を行うのに必要な電力と本溶接を行うのに必要な電力とをそれぞれ適切に設定するためである。
【0035】
この通電パターンによれば、初めのプリ通電a、bで本通電c、dの前に溶接物表面の酸化膜を除去したり、接触面のなじみを良くすることにより安定した本通電を行うことができるようになる。また、プリ通電a、b、本通電c、d共に極性切替を行うことでヒートバランスの取れた安定した溶接が可能になる。
【0036】
(B)は4つの溶接相を順にプリ通電aの溶接相、本通電b、cの2つの溶接相とアフター通電dの溶接相に分けて設定したものである。プリ通電aとアフター通電dの溶接相の通電時間は(A)のプリ通電a、bの溶接相の通電時間より短い時間に設定している。この通電パターンでは、プリ通電aとアフター通電dとでは、前記のような溶接物表面の酸化膜の除去や接触面のなじみの向上と言うことは考慮していないからである。
【0037】
この通電パターンによれば、初めのプリ通電aの溶接相の通電により本通電b、cの可否、最後のアフター通電dの溶接相の通電により本通電b、cによる接合の良否が判定できる。制御部42は、プリ通電aとアフター通電dの溶接相の通電による溶接電流と溶接電圧を溶接情報モニタ部54を介して読み込み、これらから抵抗値を求めることで溶接物間の抵抗値を測定している。
【0038】
なお、プリ通電時aとアフター通電時dとで、それぞれ本通電b、cに移行可能な溶接物間の抵抗値と接合状態を良好と判定できる接合物間の抵抗値とを予め設定しておく。こうしておいて、測定された抵抗値と設定された抵抗値とを比較するようにしている。また、プリ通電aとアフター通電dとで、また本通電b、c同士で極性切替を行うことでヒートバランスの取れた安定した溶接が可能になる。
【0039】
(C)は(A)と同じように、4つの溶接相をプリ通電a、bの溶接相と本通電c、dの溶接相に分けて設定したものである。ここでは本通電の
溶接相の通電時間を良好な接合品質が得られる溶接エネルギー以上の溶接エネルギーとなるような長めの通電時間を誤って設定しているものとする。
【0040】
この通電パターンによれば、設定通りであれば過分の溶接エネルギーが溶接物に加わるので接合部が溶けすぎることになるが、自動的に通電を停止することで溶けすぎを防止し、良好な溶接品質を得ることができる。
【0041】
制御部42は、プリ通電a、bと本通電c、dの溶接相の通電による溶接電流を溶接情報モニタ部54を介して読み込み、溶接電流を通電時間で積分して溶接エネルギーを算出することで溶接部に加わる溶接エネルギーを測定している。また、プリ通電(a、b)時と本通電(c、d)時とを通じて良好な溶接品質を確保できる溶接エネルギーを予め設定しておく。こうしておいて、測定された溶接エネルギーと設定された溶接エネルギーとを比較し、測定された溶接エネルギーが設定された溶接エネルギーを超えた時点で通電を停止するようにしているからである。
図4(C)の(1)、(2)は、設定された溶接エネルギーとなるタイミングを示している。
【0042】
以上の設定例は、いずれも4つの溶接相を有するものであるが、本発明は4つ以上あるいは3つ以下の溶接相を有するものであっても良い。溶接相は2つであってもよく、3つ以上にしてプリ通電、アフタ通電の機能を付加したり、溶接エネルギーを増やすなど、溶接物の特性に合わせて最適な通電パターンを設定すれば、溶接部の変化に対する対応範囲が拡大し多様な溶接が可能になる。