【課題を解決するための手段】
【0005】
該目的は、請求項1及び15に記載の電極素子及びガス放電光源により達成される。電極素子及びガス放電光源の有利な実施例は、従属請求項の主題であり、本明細書の以降の部分に開示される。請求項16は、斯かるガス放電光源を動作させる好適な方法に関する。
【0006】
提案される電極素子は、少なくとも、回転軸のまわりに回転可能な電極ホイールであって2つの側面の間の外周面を持つ電極ホイールと、前記外周面及び前記側面の一部を円周方向にカバーする電極ホイールカバーと、を有する。提案されるカバーは、液体物質、とりわけ金属融液により電極ホイールを冷却するため、カバーと、前記外周面及び前記側面の径方向の外側部分との間で、前記円周方向に冷却チャネルを形成するように設計される。該カバーは、冷却チャネルを通した液体物質の流れを可能とするため、冷却チャネルのための入口開口及び出口開口を有する。一代替例においては、該カバーは更に、該カバーと、前記外周面及び円周方向に冷却チャネルを延長した部分における側面の一部との間でギャップを形成するように設計され、前記ギャップが、電極ホイールの回転の間に、外周面及び側面に形成された液体物質膜の厚さを制限する。他の代替例においては、該カバーは更に、円周方向に前記冷却チャネルを延長した部分において冷却チャネルを流れる液体物質からの斯かる膜の形成を防ぐように設計される。好適には、出口開口は、冷却チャネルと液体物質に対して冷却チャネルよりもかなり小さな流れ断面を持つギャップとの間の遷移において、余剰液体物質を排出するために、冷却チャネルとギャップとの間に配置される。
【0007】
提案される電極素子を用いると、カバーの設計に依存して、動作の2つのモードが実現され得る。第1のモードにおいては、斯かる電極素子を持つガス放電光源におけるガス放電のための燃料として利用される適用される液体物質が、加熱された電極ホイールを、より効率的に冷却する。冷却チャネルは、外周面及び側面の径方向に外側の部分を含む電極ホイールの外側部分が、十分な量の液体物質により囲まれ、該液体物質への放熱を実現するように設計される。冷却チャネル(回転方向における)は、ホイールカバーと電極ホイールの外周面及び側面との間の小さなギャップチャネルへと同化し、回転電極ホイールの外周面及び側面における液体物質膜の厚さを制限する。好適には、少なくとも1つのワイパユニットが、回転方向においてギャップチャネルの背後及び/又は前方に配置され、それにより、該液体物質膜に対して働く遠心力による小滴形成の危険を伴うことなく、放電位置における蒸発のために必要とされる厚さ及び形状に該液体物質膜を更に制約する。
【0008】
第2のモードにおいては、該膜の厚さがとり得る最小の厚さに制限されるか、又は膜の形成がカバーの設計により完全に抑制される。冷却チャネルはまた、外周面及び側面の径方向の外側部分を含む電極ホイールの外側部分が、十分な量の液体物質により囲まれ、それにより該液体物質への放熱が実現されるように設計される。該モードの動作は、ガス放電のための燃料として利用される液体物質を塗布するための、別個の液体物質塗布ユニットを必要とする。該塗布又は噴射ユニットは、前記カバーとガス放電生成の位置との間の電極ホイールの外周面に前記液体物質を塗布するように構成され、放電による腐食から回転電極を保護するために十分な液体物質の範囲を適用する必要がある。例えば、1つ又は幾つかのノズルが利用されても良い。
【0009】
該第2のモードの動作は、放電位置における液体膜の厚さ及び/又は液体膜物質の量の微調整を可能とする。液体物質塗布又は噴射ユニットは冷却チャネルから分離されているため、第1のモードの動作に比べて、放電位置における電極ホイール上の液体物質範囲を制御することは、かなり容易である。例えば、液体物質膜の厚さは、塗布ユニットを通る液体物質の流量を変更することにより、数マイクロメートルから数百マイクロメートルまでの範囲で調節されることができる。液体物質電極範囲は、電極が保護される必要がある位置に薄膜を横方向に制限することにより最適化されることができ、電極の残りの部分はカバーされないままでも良い。電極上の液体物質の量の更なる削減は、例えば小滴生成器を利用して、液体物質を間欠的に出して、該物質の分離された島状部又は領域が形成されるようにすることにより達成され得る。これらの手段は、電極上の液体物質の量を最小化し、従ってとり得る最高の電極周速を得ることを可能とする。放電により生成される破片の量も最小化される。
【0010】
第2のモードの動作のため、カバーは好適には、とり得る最小の厚さに薄膜の厚さを制限すること、又は斯かる膜の形成を抑制することを達成するため、ワイパユニットを有する。理想的なワイパは、冷却チャネルからの液体物質の漏れを防止するべきである。実際には、ワイパユニットを通過した後の残りの液体物質膜の厚さは、5マイクロメートルを超えるべきではない。このことは例えば、電極の形状を正確に再現する成形した部分を用いることにより達成され得る。該部分は、弾性素子により電極と接触したままに保たれても良い。この場合には、液体物質は、該成形した部分と電極との間の潤滑媒体として働き、ワイパ及び/又は回転電極の腐食を防止する。しかしながら、該効果は、電極ホイールの周速に依存し得る。該動的な潤滑の失敗は、ホイール及びワイパの拡大した腐食、制御されない液体物質膜、又は回転電極の閉塞さえも導き得る。それ故、ワイパは好適には、自己潤滑材料から形成されるか、又は乾式運転動作に適した物質で被覆される。更に、熱的に安定したものであり、液体物質に対して化学的耐性を有する必要がある。グラファイトのような物質が、これら要件を満たす。
【0011】
第2のモードの動作において、とり得る最高の電極周速を得るためには、液体物質塗布又は噴射システムは、放電位置に可能な限り近くに配置されるべきである。回転電極における液体物質の量は最小化されるべきであり、即ち、体積流束
【数1】
により表現される付着量は好適には、2σ/ρωよりも小さくなるよう選択され、即ち
【数2】
であり、ここでωはホイールの角速度を示し、ρ及びσは液体物質の密度及び表面張力を示す。液体物質膜の不安定さを回避するため、電極幅DはD
*<D<10・D
*の範囲内であるべきであり、ここで
【数3】
であり、Rは電極ホイールの半径を示す。
【0012】
提案されるホイールカバーの設計による電極ホイールの冷却の高い効率により、斯かる電極素子を持つガス放電光源は、電極を過熱させることなく数十kW以上の範囲における高い電力で動作させられることができる。このことは、適切な液体物質、とりわけ液体錫のような金属融液を用いた場合に、大量生産用EUV光源としてのガス放電光源の動作を可能とする。
【0013】
以下に説明されるように、電極ホイールカバーの提案される設計は、電極ホイールの回転速度を増大させることも可能とする。高い入力パワーは、10kHz以上の高い放電繰り返し率を必要とする。ガス放電光源又はランプの安定した光出力、とりわけEUV放射の出力のためには、連続する放電パルスが回転電極表面のフレッシュな平滑部分に常に当たることが必要とされる。移動する電極表面における連続する放電パルスの距離は、数十ミリメートルから数ミリメートルのオーダーである必要がある。それ故、それに応じて電極回転速度が増大させられる必要があり、必要とされる約10m/sのオーダーの周速に帰着する。実際には、電極ホイールの斯かる高い周速は、液体物質の表面波を引き起こし、それ故放電位置における不安定な液体物質膜をもたらし得る。このことは、不安定なEUV出力に導き、最悪の場合、液体物質の散在及び小滴形成によるランプ故障に導く。この問題は、ホイールにより設計された電極ホイールカバーにより回避される。電極ホイール上の自由な液体物質表面が最小化される。この手法により、乱れた液体物質の表面波及び小滴の形成が防止される。冷却チャネルにおける及びギャップチャネルを形成するホイールのカバーされた部分における液体物質の流れはより安定したものとなり、放電位置における、より好適な液体物質膜安定性に帰着する。
【0014】
好適な実施例においては、ホイールカバーの冷却チャネルの出口開口は、供給線及び冷却装置を介して入口開口に接続され、それにより冷却回路を形成する。ここで冷却素子は熱交換器であっても良く、カバーの入口開口に供給される前記液体物質を冷却するような大きさにされる。本実施例の更なる改良例においては、該冷却回路において液体物質を能動的に循環させるポンプが、該冷却回路中に配置される。斯かるポンプの具備がなくとも、回転ホイール自体のポンプ効果が、冷却チャネルを通した液体物質の十分な循環又は流れを実現するために利用され得る。しかしながら、ポンプによって液体物質を能動的に動かすことにより、改善された、より信頼性の高い冷却が実現される。とりわけ、ポンプのパワーは、最適な冷却及び放電生成のために必要とされる時間当たりの量の液体物質を正確に塗布するように調節されても良い。
【0015】
冷却チャネルを延長した位置に形成されるギャップチャネルは好適には、ギャップの幅が電極ホイールの外周面の幅を超えないような大きさとされる。一実施例においては、該ギャップチャネルは、冷却チャネルの長さの少なくとも4分の1である円周長さに亘って延在する。カバー全体は好適には、円周方向に電極ホイールの大部分の円周部分に亘って延在し、円周面の大部分の円周部分をカバーする。大部分とは、電極ホイールの円周長さの半分よりも多くがカバーされることを意味する。好適には、電極ホイールの円周長さの4分の3よりも多くが、電極ホイールカバーによってカバーされる。
【0016】
ホイールカバーからの液体物質の漏れを防止するため、冷却チャネル領域内に位置しない部分において、カバーは、ホールの外周面及び側面に対してとり得る最小の距離を持つホイールの形態を形成するべきである。実験によって、ホイールの外周面とホイールカバーとの間のギャップは、カバーされた部分においては、即ちギャップチャネルにおいては、0.5mmを超えないべきであることが分かった。好適には、ギャップ高は、数十マイクロメートルから100マイクロメートルであるべきである。液体物質の漏れを回避するため、ホイールの側面及びカバーの内側面に乾燥物質又は被覆が更に塗布されても良い。
【0017】
第1のモードの動作のために、ホイールカバーは、外側のホイール面に対する制御された距離hにおける固体のワイパにより付随された、かなり大きな側面から全ての液体物質を取り除くワイパの対を有しても良い。回転電極からの液体物質の小滴を回避するため、条件h<2σ/(ρω
2RD)が満たされるべきであり、ここでωはホイールの角速度を示し、R及びDは電極の半径及び幅を示し、ρ及びσは液体物質の密度及び表面張力を示す。外側面からの余剰の液体物質は、液体金属がホイールの側に戻るように、固体ワイパによって取り除かれる必要がある。
【0018】
冷却効率を最大化するため、カバーの液体物質の入口は、放電位置に可能な限り近くに配置されるべきである。入口開口を通して冷却チャネルへと供給された冷たい液体物質が、放電位置に可能な限り近いホイールの熱い部分に当たる場合、冷却効果は大きくなる。このことは、冷却チャネルを通して冷却流がホイールの回転に沿って、即ち回転方向に導かれる場合に達成される。冷却チャネルにおける圧力勾配は、ホイール回転の方向における液体物質の流れについては小さく、そのため逆方向の流れよりもこの実施化が好適である。
【0019】
冷却チャネルが液体物質により略完全に満たされることを確実にするため、液体金属スループットが優先的に調節されるべきである。このことは、調節可能なポンプパワーを持つ上述した外部ポンプの仕様により達成される。局所的な液体物質圧力極大値及び関連する液体物質の漏れを低減するため、冷却チャネルの設計において捩れが回避されるべきである。好適な設計においては、冷却チャネルの入口及び出口開口は、ホイールの周縁に略接線方向に向けられる。
【0020】
好適には、第1のモードの動作のため、カバーと外周面との間に形成されたギャップチャネルの出口にワイパユニットが配置される。ワイパユニットは、本明細書においては最終ワイパとも呼ばれ、放電位置において所望のフィルム厚及び形状が達成されるような態様で、電極ホイールの回転の間、外周面上の液体物質膜の厚さを更に制限するように設計される。該所望のフィルム厚及び形状は、最適な蒸発及び放電位置における放電生成を達成するように選択される。
【0021】
最終ワイパは、単一のワイパ素子から形成されても良いし、又は共に動作する幾つかのワイパ素子から形成されても良く、好適には、電極ホイールの回転の間、側面から円周面への液体物質の移動を抑制する又は少なくとも低減させるように設計される。このことは、電極ホイールの回転の間、円周面に隣接する前記側面に残る液体物質を取り除く、例えばフォーク状の形状を持つ、ワイパユニットを利用することにより達成され得る。好適な実施例においては、斯かる最終ワイパの具備と併せて、該最終ワイパの効果により生成される余剰の液体物質を取り入れるために、オーバフローチャネルがカバーに形成される。該オーバフローチャネルは、最終ワイパにおける過度に高い液体物質圧力を防止する。
【0022】
第1のモードの動作に関連する更なる好適な実施例においては、冷却チャネルとギャップチャネルとの間に更なるワイパユニットが配置され、該ワイパユニットは、本明細書においてプレワイパとも呼ばれ、外周面上の液体物質膜の厚さを制限し、電極ホイールの回転の間、側面から液体物質を取り除くように設計される。該プレワイパは、冷却チャネルから、電極ホイールカバーにより形成されるギャップチャネルへの、液体物質の通過を制御する。
【0023】
電極ホイールへの電流の供給を可能とするため、電気ホイールカバーの少なくとも一部又は前記カバーの一部であるワイパユニットは、導電性物質からつくられる。このとき、電極ホイールカバーの該導電性部分に高電圧が印加されることができ、好適には液体錫のような金属融液である同様に導電性である適用される液体物質を通して、電極ホイールとの電気的な接続を生成する。
【0024】
遠心力、粘性力及び表面張力の下での、電極の外周面のカバーされていない部分における液体物質プロファイルの漸進的変化は、特定の時間τの経過後に、ホイールから液体金属小滴が離れることに導き得る。該時間は、回転速度を増大させるにつれて減少する。斯くして、高い回転速度を達成するため、第1のモードの動作においては、最終ワイパとカバー入口(即ちカバーの対向する端)との間の距離が最小化されるべきである。このことは、最終ワイパ及びカバー入口が、放電位置に可能な限り近く配置されるべきであることを意味する。しかしながら、ガス放電光源によって大きな立体角へと発せられる放射の自由な放出が許容される必要がある。この理由のため、放電位置に近いホイールカバーの薄型の設計が好適である。
【0025】
電極ホイールの高い回転速度においては、強力な遠心力のために、ホイールの側面には液体物質が略なくなり、ホイールの中央領域におけるカバーとホイールの側面との間のギャップを通した液体物質の漏れを回避する。ホイールの側面からの液体物質の除去は、径方向に対して、プレワイパ及び最終ワイパ又は他のいずれかのワイパを傾けることにより改善され得る。これらの理由によりホイールの側面には略液体物質がなくなるため、ホイールの回転速度は、ホイールの外側面における液体物質膜の厚さの許容不可能な増大のリスクなく、増大させられることができる。この概念の他の利点は、冷却チャネルにおけるかなりの液体物質圧力が中央領域において遠心力により補償され得、中央領域における液体物質の流出なく、冷却チャネルを通した高い液体物質スループットを可能とする点である。同時に、液体物質とホイールとの間の接触面積は、電極素子の先行技術による設計に比べて増大させられ得る。このことは、電極ホイールの、より好適な冷却に帰着する。
【0026】
ホイールの回転速度が十分に高く設定される場合には、遠心力が重力を超過する。斯くして、ホイールカバーの動作性能は、重力とは独立したものとなる。基準として、ω
2・R(ω=角振動数、R=ホイール半径)として与えられる遠心加速度は、重力加速度g=9.81m/s
2よりも大きいべきである。このようにして、とりわけホイールの任意の配向、更には水平方向の位置さえもが実現されることができる。
【0027】
本発明のこれらの及び他の態様は、以下に説明される実施例を参照しながら説明され明らかとなるであろう。
【0028】
提案される電極素子及びガス放電光源は、請求項により定義される保護の範囲を限定することなく、添付図面と共に例として以下に説明される。