特許第5709259号(P5709259)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5709259
(24)【登録日】2015年3月13日
(45)【発行日】2015年4月30日
(54)【発明の名称】パルスロケットモータ
(51)【国際特許分類】
   F02K 9/28 20060101AFI20150409BHJP
   F02K 9/36 20060101ALI20150409BHJP
【FI】
   F02K9/28
   F02K9/36
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-140394(P2011-140394)
(22)【出願日】2011年6月24日
(65)【公開番号】特開2013-7327(P2013-7327A)
(43)【公開日】2013年1月10日
【審査請求日】2014年6月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】500302552
【氏名又は名称】株式会社IHIエアロスペース
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】河津 廣行
(72)【発明者】
【氏名】山口 一郎
(72)【発明者】
【氏名】萩原 秀志
【審査官】 寺町 健司
(56)【参考文献】
【文献】 特表平11−503802(JP,A)
【文献】 特開2008−280967(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02K 1/00−99/00
Thomson Innovation
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力容器内の後段に設けられた中空筒形状の第1推進薬と、
前記第1推進薬を点火する第1イグナイタと、
前記圧力容器内の前段に設けられた中空筒形状の第2推進薬と、
前記第2推進薬を点火する第2イグナイタと、
前記第2イグナイタと前記第2推進薬との間であり、前記第2推進薬の前部且つ軸心側に設けられた推進薬支持体と、
前記圧力容器内にて前記第2推進薬を覆う隔膜部材とを備え、
前記隔膜部材は、前記第2推進薬の少なくとも内周面に沿って延びている隔膜、及び当該隔膜の両端にて加硫接着により一体をなしており、前記圧力容器に取り付けられる保持具を有していることを特徴とするパルスロケットモータ。
【請求項2】
前記保持具のうち前記隔膜前端側の保持具は、前記隔膜との加硫接着部分が後方に向かい少なくとも前記推進薬支持体の範囲に亘って延びた断面凸状をなしていることを特徴とする請求項1記載のパルスロケットモータ。
【請求項3】
前記隔膜部材の前記隔膜は、一部に他の部分よりも脆弱な脆弱部が形成されていることを特徴とする請求項1または2記載のパルスロケットモータ。
【請求項4】
前記隔膜は、前記第2推進薬の内周面から後部端面に沿って屈曲しており、当該屈曲部周辺に前記脆弱部が形成されていることを特徴とする請求項3記載のパルスロケットモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の固体燃料を備えたパルスロケットモータに関する。
【背景技術】
【0002】
パルスロケットモータは、単一の圧力容器内に2以上の推進薬が隔膜又は隔壁により区画して設けられて構成されている。これは、容易に燃焼を停止、再着火することができない固体燃料ロケットにおいて、異なるタイミングでの燃焼を実現できるという利点がある。
具体的には、フィラメント・ワインディング法(Filament Winding)による炭素繊維・エポキシ樹脂組成物からなる圧力容器の後部にパルス1(第1パルス)の推進薬(第1推進薬)が、前部にパルス2(第2パルス)の推進薬(第2推進薬)が設けられ、これらの推進薬との間にバリヤ絶縁体(隔膜)が配置された構成の2パルスロケットモータが開発されている(特許文献1参照)。
【0003】
当該特許文献1の2パルスロケットモータでは、圧力容器とパルス2の推進薬との間には前方絶縁体が、圧力容器とパルス1(第1パルス)の推進薬との間には後方絶縁体が配置されており、前方絶縁体、後方絶縁体、及びバリヤ絶縁体は、EPDM(エチレン・プロピレン・ジエン・モノマー)からなる合成ゴムからなり、互いに一部重ね合わせ接着させて成形されている。
【0004】
当該特許文献1の2パルスロケットモータの製造方法としては、前方から順に配設していくものであり、具体的には、まず前方絶縁体を圧力容器内面に配置してパルス2の推進薬を真空下で鋳造し、硬化させている。その後、当該パルス2の推進薬及び前方絶縁体にバリヤ絶縁体を取り付け、前方絶縁体を切り取っている。次に後部絶縁体をバリヤ絶縁体に取り付け、パルス1の推進薬(第1推進薬)を注入し、硬化させている。これら各絶縁体の内面には接着性ライナーが被覆されており、それぞれ対応する推進薬と接着されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表平11−503802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1の圧力容器は、推進薬の周囲に直接、フィラメント・ワインディング法により炭素繊維・エポキシ樹脂組成物を成形しているが、このように樹脂からなる圧力容器は、金属からなる圧力容器に比べて剛性が低く、またこのように推進薬の周囲に直接圧力容器を成形する製造方法のため、前方絶縁体、後方絶縁体、及びバリヤ絶縁体はそれぞれ接着ライナーを被覆し、推進薬と接着させる工程が必要であり、製造工程が複雑化するという問題がある。
【0007】
さらに、パルス1とパルス2の推進薬を区画するバリヤ絶縁体は、パルス1の推進薬燃焼時にはパルス2の推進薬への火炎の侵入を防ぐ必要があるが、バリヤ絶縁体と前方絶縁体との接着部分が経年劣化により剥がれるおそれがあり、確実に火炎の侵入を防げないおそれがある。
一方で、バリヤ絶縁体は、パルス2の推進薬燃焼時においては、脱落してノズルを詰まらせること等がないように、所定の位置で破断してかつ脱落しない必要がある。これに対して特許文献1では、前方絶縁体とバリア絶縁体との接着部分にて、破断することを想定しているが、接着による破断強度の設定は複雑であり適切なタイミングで破断させることは容易ではない。また、上述したように各絶縁体は推進薬に接着されていることからパルス2の推進薬点火時にバリヤ絶縁体が当該推進薬から剥がれるのを妨げる作用をし、確実な動作の観点から問題がある。
【0008】
また、特許文献1においては、前方絶縁体の中央喉部分の周りに推進薬支持体(発泡材料等)が設けられており、その周りを前方絶縁体が巻き込むように覆っているが、一般に当該推進薬支持体は推進薬に比べて剛性が低いため、前方絶縁体のうち当該推進薬支持体を覆っている部分は、パルス1の燃焼圧を受けて変形したり、応力が集中するという問題がある。このように推進薬支持体部分の絶縁体が変形等すると、パルス2の動作の信頼性が低下する等の問題が生じる。
【0009】
本発明はこのような問題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、簡易な構成で、第1パルス時における第2推進薬への火炎の侵入を確実に防ぎ、確実に第2パルスを実行することのできるパルスロケットモータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を達成するために、請求項1のパルスロケットモータでは、圧力容器内の後段に設けられた中空筒形状の第1推進薬と、前記第1推進薬を点火する第1イグナイタと、前記圧力容器内の前段に設けられた中空筒形状の第2推進薬と、前記第2推進薬を点火する第2イグナイタと、前記第2イグナイタと前記第2推進薬との間であり、前記第2推進薬の前部且つ軸心側に設けられた推進薬支持体と、前記圧力容器内にて前記第2推進薬を覆う隔膜部材とを備え、前記隔膜部材は、前記第2推進薬の少なくとも内周面に沿って延びている隔膜、及び当該隔膜の両端にて加硫接着により一体をなしており、前記圧力容器に取り付けられる保持具を有していることを特徴としている。
【0011】
請求項2のパルスロケットモータでは、請求項1において、前記保持具のうち前記隔膜前端側の保持具は、前記隔膜との加硫接着部分が後方に向かい少なくとも前記推進薬支持体の範囲に亘って延びた断面凸状をなしていることを特徴としている。
請求項3のパルスロケットモータでは、請求項1または2において、前記隔膜部材の前記隔膜は、一部に他の部分よりも脆弱な脆弱部が形成されていることを特徴としている。
【0012】
請求項4のパルスロケットモータでは、請求項3において、前記隔膜は、前記第2推進薬の内周面から後部端面に沿って屈曲しており、当該屈曲部周辺に前記脆弱部が形成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
上記手段を用いる本発明によれば、パルスロケットモータにおいて、前記第1推進薬の燃焼時に前記第2推進薬へ火炎を進入させない目的で圧力容器内にて第2推進薬を覆っており、隔膜は第2推進薬の少なくとも内周面に沿って延びているとともに、当該隔膜部材は隔膜が保持具と加硫接着により化学結合で強固に接着されており、当該保持具から隔膜に亘って一体構成をなして第2推進薬を覆っていることから、経年劣化による接着の剥がれ等のリスクがなく、第1パルス時における第2推進薬への火炎の侵入を確実に防ぐことができる。
【0014】
また、隔膜部材は隔膜と一体をなしている保持具により圧力容器に取り付けられることから、隔膜を推進薬と接着させたりする必要がなく製造が容易となる上、推進薬と隔膜が接着されていないことで第2推進薬点火時(第2パルス時)においては隔膜が第2推進薬から剥がれやすくなり、確実に第2パルスを作動させることができる。
さらに、隔膜前端側の保持具は、隔膜との加硫接着部分が後方に向かい少なくとも推進薬支持体の範囲に亘って延びていることで、第1パルス時(第1推進薬燃焼時)の燃焼圧は金属の保持部材で受け止められる。したがって、隔膜部材における推進薬支持体部分の強度を確保でき、当該部分の変形や破断を防ぐことができる。
【0015】
以上のことから、簡易な構成で、第1パルス時における第2推進薬への火炎の侵入を確実に防ぎ、確実に第2パルスを作動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係るパルスロケットモータの全体構成断面図である。
図2図1の要部拡大断面図である。
図3】隔膜部材の一部切り欠き斜視図である。
図4図2の前部拡大断面図である。
図5図2の後部拡大断面図である。
図6】本発明に係るパルスロケットモータの動作図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
図1〜5を参照すると、図1には本発明の一実施形態に係るパルスロケットモータの全体構成断面図、図2には要部拡大断面図、図3には隔膜部材の一部切り欠き斜視図、図4には図2の前部拡大断面図、図5には図2の後部拡大断面図がそれぞれ示されている。
図1に示す2パルスロケットモータ1は、圧力容器2の後部にノズル4が設けられており、内部には、固体燃料である第1推進薬6が後部に、第2推進薬8が前部に設けられ、当該第2推進薬8は隔膜部材10に覆われている。また、圧力容器2の前部には第1推進薬6を着火するための第1イグナイタ12、及び第2推進薬8を着火するための第2イグナイタ14がそれぞれ設けられている。
【0018】
詳しくは、圧力容器2は、2分割方式の金属モータケースであり、同径の略筒形状をなした前部ケース2aと後部ケース2bとが同軸上に前後連結されて構成されている。前部ケース2a及び後部ケース2bは、前部ケース2aの後端開口縁と後部ケース2bの前端開口縁とが複数のボルトにより締結されている。当該圧力容器2の材料としてはチタン、マルエージング鋼、D6AC鋼、クロムモリブデン鋼等が用いられるのが好ましい。また、当該圧力容器2の外周は外部インシュレータ16により覆われている。
【0019】
第1推進薬6は、先に燃焼する第1パルス用の推進薬であり、前後方向に延びた中空円筒形状をなしている。当該第1推進薬6は後部ケース2b内に後部断熱材18を介して設けられている。当該第1推進薬6の前後方向中央部から前方は内孔断面が星形をなして燃焼面積が増大されており、当該内孔はノズル4内部を介して外に連通している。当該第1推進薬6は、コンポジット推進薬である。なお、第1推進薬の内孔は全域を断面円形としてもよいし、星形等の光芒断面を前後方向中央部から後方等、任意の位置に形成して構わない。
【0020】
第2推進薬8は、後に燃焼する第2パルス用の推進薬であり、前後方向に延びた中空円筒形状をなしている。図2に詳しく示すように、当該第2推進薬8は前部ケース2a内に前部断熱材20を介して設けられている。当該第2推進薬8の内孔断面は円形をなしており、第1推進薬6の内孔と隔膜部材10を介して連通している。当該第2推進薬8はコンポジット推進薬である。
【0021】
また、第2推進薬8の前部の軸心側部分は、後方に凸の円錐状に切り欠かれており、当該切り欠き部分を埋めるように推進薬支持体22が設けられている。推進薬支持体22は第2推進薬8よりも密度が低く、燃えやすい素材であり、例えば、発泡材料である。
隔膜部材10は、断熱性を有するEPDMゴムからなる隔膜24が、両端に設けられた隔膜保持金具26a、26b(保持具)を介して圧力容器2に取り付けられている。
【0022】
図2及び図3に示すように、隔膜24は、第2推進薬8の内孔内周面に沿って前後方向に円筒状に延びた内面部24aと、内面部24a後端から後方に傾斜しつつ径方向外側に拡がった端面部24bとからなる略漏斗状をなしている。また、隔膜24は、内面部24aから端面部24bへの屈曲部分が他の部分よりも構造的に脆弱な脆弱部24cとして形成されている。当該脆弱部24cは所定値以上の燃焼圧を受けると破断するような強度に予め設定されている。
【0023】
隔膜保持金具26a、26bはそれぞれ環状をなしており、前端側の隔膜保持金具26aには前面に、後端側の隔膜保持金具26bにおいては外周面に、それぞれ周方向に沿って間隔をあけて複数のボルト穴28a、28bが形成されている。隔膜部材10は、これらのボルト穴28a、28bに螺合するボルトで締結されることで圧力容器2に取り付けられている。なお、隔膜保持金具26a、26bは、気密性及び耐熱性の点で金属であることが好ましいが、同程度の気密性及び耐熱性を備えていればFRP等からなる保持具としても構わない。
【0024】
ここで、隔膜24と隔膜保持金具26a、26bの取り付け構造について、図4、5を参照し、さらに詳しく説明する。
図4に示すように、前端側の隔膜保持金具26aは、環状後面に、後方に向けて縮小した断面凸状の凸部30aが形成されている。そして、当該凸部30aが前後方向に延びる隔膜の内面部24aの前端部分に入り込んでおり、当該凸部30aと隔膜の内面部24aとが加硫接着により一体をなしている。また、当該前端側の隔膜保持金具26aは、凸部30aの先端が前後方向において推進薬支持体22の後方端と一致しており、当該凸部30aは推進薬支持体22の範囲に亘って延びている。
【0025】
一方、図5に示すように、後端側の隔膜保持金具26bは、環状内面に、内方に向けて縮小した断面凸状をなす凸部30bが形成されている。そして、当該凸部30bが、径方向に延びる隔膜の端面部24bの後端部分に入り込んでおり、当該凸部30bと隔膜の端面部24bとが加硫接着により一体をなしている。そして、当該端面部24bは、第1推進薬6と第2推進薬8と直接接触して、両者を区画している。
【0026】
また再び図2を参照すると、第1イグナイタ12は、圧力容器2の前部を塞ぐ隔壁2cの軸心部分に取り付けられ、第2推進薬8の内孔内、即ち隔膜部材10の内面部24a内にて、後方に向けて突出している。隔壁2cには、推進薬支持体22まで延びる点火孔32が位相違いで複数穿設されており、当該複数の点火孔32と連接して第2イグナイタ14が設置されている。第2イグナイタ14は、リング状の空洞を有し、当該空洞へ点火薬が装填されており、第2パルスの点火に際しては全ての点火孔32へ点火薬の火炎を伝播させる機能を有するトロイダルイグナイタである。
【0027】
以下このように構成された本発明に係るパルスロケットモータの作用について説明する。
図6には、本発明に係るパルスロケットモータの動作図(a)〜(d)が示されており、以下同図に基づき説明する。なお、図6のパルスロケットモータは上記図1〜5のパルスロケットモータを簡略化して示している。
図6(a)は第1パルスの様子を示している。第1イグナイタ12が点火されることで、第1推進薬6の燃焼が開始される。燃焼は第1推進薬6の内孔内周面から生じていき、燃焼ガスF1はノズル4を通って大気中に噴射される。これにより2パルスロケットモータ1は第1パルスによる推進力を得る。
【0028】
このとき、第2推進薬8は、両端の隔膜保持金具26a、26bから隔膜24に至って一体構成をなす隔膜部材10により覆われていることで、第1イグナイタ12の点火の火炎や第1推進薬6の燃焼ガスF1が侵入することはない。特に、第2推進薬8の前部軸心部分には、第2推進薬8より剛性が低い推進薬支持体22が設けられているが、当該推進薬支持体22より軸心側には隔膜部材10の前端の隔膜保持金具26aの凸部30aが延びていることから、燃焼ガスF1から受ける圧力は十分な強度を備える金属の隔膜保持金具26aにより受け止められ、隔膜部材10が変形することはない。
【0029】
そして、図6(b)に示すように、第1推進薬6の全てが燃焼し終えることで、第1パルスは終了する。
図6(c)からは、第2パルスの様子を示している。任意のタイミングで第2イグナイタ14が点火されると、点火孔32を通って推進薬支持体22に点火用の火が到達し、まず推進薬支持体22が燃焼する。当該推進薬支持体22の燃焼を受けて、第2推進薬8は内面から後部端面に向かって燃焼し、第2推進薬8の内面と隔壁部材10との間に燃焼ガスF2が生じる。この燃焼圧を受けて隔膜24が第2推進薬8に対して膨張し、圧力容器2の内方側に変形する。
【0030】
図6(d)に示すように、隔膜24の変形が進むと、他の部分より脆弱な脆弱部24cにて隔膜24が破断する。当該破断後、燃焼ガスF2がノズル4を通って大気中に噴射されることから、当該燃焼ガスF2により隔膜24の内面部24aは軸心側に座屈し、端面部24bは後方側に湾曲する。隔膜24の内面部24a及び端面部24bは燃焼ガスF2によりその表面を焼失するが、隔膜24の有害な脱落を防止するのに必要な隔膜24の強度が維持できるように燃焼しない層を一定量以上残すように隔膜24の厚さが設計されているため、ノズル4を詰まらせる等の有害な脱落を生じること無く、第2推進薬8が全て燃焼することで、第2パルスは終了する。
【0031】
以上のように、本実施形態における2パルスロケットモータ1において、隔膜部材10は隔膜24が隔膜保持具26a、26bと加硫接着により化学結合で強固に接着されており、当該隔膜保持具26a、26bから隔膜24に亘って一体構成をなして第2推進薬8を覆っていることから、経年劣化による接着の剥がれ等のリスクがなく、第1パルス時における第2推進薬8への火炎の侵入を確実に防ぐことができる。
【0032】
また、隔膜部材10は隔膜24と一体をなしている隔膜保持具26a、26bにより圧力容器2に取り付けられることから、隔膜24を推進薬6、8と接着させたりする必要がなく製造が容易となる上、推進薬6、8と隔膜24が接着されていないことで第2パルス時においては隔膜24が第2推進薬8から剥がれやすくなり、確実に第2パルスを実行できる。
【0033】
さらに、前端側の隔膜保持具26aは、隔膜24との加硫接着部分である凸部30aが後方に向かい少なくとも推進薬支持体22の範囲に亘って延びていることで、第1パルス時の燃焼圧は金属の隔膜保持具26aで受け止められる。したがって、隔膜部材10における推進薬支持体22部分の強度を確保でき、当該部分の変形や破断を防ぐことができる。
また、隔膜24において内面部24aから端面部24bへの屈曲部に、他の部分よりも脆弱な脆弱部24cが形成されていることで、第2パルス時に予め想定した所定値以上の燃焼圧を受けると当該脆弱部24cで確実に破断することとなる。このように、第2推進薬8を覆っている部分の隔膜24に設けた脆弱部24cにおいて、隔膜24が確実に分離することにより、隔膜24が脱落してノズル4を詰まらせるようなこともなく、また分離後の隔膜24は第2推進薬8からの燃焼ガスF2を遮ることもない。なお、隔膜24の脆弱部24cは、内面部24aから端面部24bへの屈曲部に限らず、隔膜24の任意の場所に設けることができる。
【0034】
このようにして、本実施形態に係る2パルスロケットモータ1は、簡易な構成で、第1パルス時における第2推進薬8への火炎の侵入を確実に防ぎ、確実に第2パルスを実行することができる。
以上で本発明に係るパルスロケットモータの実施形態についての説明を終えるが、実施形態は上記実施形態に限られるものではない。
【0035】
第1推進薬6及び第2推進薬8の搭載量等は上記実施形態で示したものに限られるものではなく、用途に応じて適宜設定されるものである。例えば、第1推進薬は全域を中空円筒形状としてもよいし、光芒断面を含んだ筒形状であっても構わない。
また、上記実施形態の圧力容器2は2分割方式であったが、分割なく一体物の圧力容器に対しても本発明を適用することができる。
【0036】
また、上記実施形態では、隔膜24は第2推進薬8の内周部24aから端面部24bに亘って延びているが、当該隔膜24は少なくとも第2推進薬8の内周部24aに沿って延びて当該第2推進薬8を覆っていればよい。例えば圧力容器内に第1推進薬と第2推進薬とを区画する内壁が形成されている場合等は、第2推進薬の内周面に沿って延びる内面部のみの隔膜とする。そして、当該隔膜の両端に隔膜保持金具を設け、前端側の隔膜保持金具は圧力容器の前部の隔壁に、後端側の隔膜保持金具は第1推進薬及び第2推進薬を区画する内壁にそれぞれ取り付けるものとする。
【符号の説明】
【0037】
1 2パルスロケットモータ
2 圧力容器
4 ノズル
6 第1推進薬
8 第2推進薬
10 隔膜部材
12 第1イグナイタ
14 第2イグナイタ
22 推進薬支持体
24 隔膜
24a 内面部
24b 端面部
24c 脆弱部
26a、26b 隔膜保持金具(保持具)
30a、30b 凸部
図1
図2
図3
図4
図5
図6