(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5709266
(24)【登録日】2015年3月13日
(45)【発行日】2015年4月30日
(54)【発明の名称】放射線及び化学療法傷害に用いる局所的に活性なステロイド
(51)【国際特許分類】
A61K 31/573 20060101AFI20150409BHJP
A61K 38/00 20060101ALI20150409BHJP
A61K 33/00 20060101ALI20150409BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20150409BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20150409BHJP
【FI】
A61K31/573
A61K37/02
A61K33/00
A61P1/00
A61P43/00 121
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2011-539796(P2011-539796)
(86)(22)【出願日】2009年12月8日
(65)【公表番号】特表2012-511034(P2012-511034A)
(43)【公表日】2012年5月17日
(86)【国際出願番号】US2009067199
(87)【国際公開番号】WO2010077681
(87)【国際公開日】20100708
【審査請求日】2012年9月27日
(31)【優先権主張番号】61/120,785
(32)【優先日】2008年12月8日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】510202318
【氏名又は名称】ソリジェニックス、インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブレイ ロバート エヌ.
(72)【発明者】
【氏名】マクドナルド ジョージ ビー.
(72)【発明者】
【氏名】シャバー クリストファー
【審査官】
▲高▼岡 裕美
(56)【参考文献】
【文献】
特表2005−508836(JP,A)
【文献】
特表2003−510367(JP,A)
【文献】
特開2007−126383(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/064819(WO,A1)
【文献】
Drugs R D,2008: 9(4),271-276
【文献】
Abdelaal et al.,'Treatment for irradiation-induced mucositis',The Lancet,January 14, 1989,p.97
【文献】
Korkut et al.,'Histopathological comparison of topical therapy modalities for acute radiation proctitis in an experimental rat model',World Journal of Gastroenterology,12(30), 2006,4879-4883
【文献】
Cavcic et al.,'Metronidazole in the treatment of chronic radiation proctitis: clinical trial',Croatian Medical Journal,41(3), 2000,314-318
【文献】
高木ら,炎症性腸疾患の抗サイトカイン療法とサイトカイン療法,医学のあゆみ,Vol.193, No.3, 2000,178-182
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−31/80
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記:
a)有効量の、ジプロピオン酸ベクロメタゾンである局所的に活性なコルチコステロイドを経口剤形で、ここで、前記有効量は、8mg/日である、及び
b)組織損傷の別の細胞側面を治療することを目的とする第2の化合物、ここで、前記第2の化合物は、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、炭酸リチウム、及びR−スポンジン1からなる群から選択される、
を含む、患者の消化管の内壁の損傷を改善又は治療するための医薬組成物であって、前記損傷が患者を化学療法及び/又は放射線に曝露した結果である、上記医薬組成物。
【請求項2】
ジプロピオン酸ベクロメタゾンである局所的に活性なコルチコステロイドの経口剤形を患者に投与することにより上皮組織を局所的に治療するための医薬組成物であって、前記経口剤形が、ジプロピオン酸ベクロメタゾンを腸内腔(gut lumen)に放出し、前記患者の上部及び下部胃腸管の治療に有効であり、さらに前記患者が放射線又は化学療法処置によって起こる組織損傷に起因する炎症の症状を示し、
前記局所的に活性なコルチコステロイドの有効量が8mg/日であり、かつ
前記局所的に活性なコルチコステロイドが、有効量のKGF、炭酸リチウム若しくはR−スポンジン1又はこれらの組合せと共に投与される、
上記医薬組成物。
【請求項3】
前記局所的に活性なコルチコステロイドが、有効量のKGFと共に投与される、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記局所的に活性なコルチコステロイドが、有効量の炭酸リチウムと共に投与される、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記局所的に活性なコルチコステロイドが、有効量のR−スポンジン1と共に投与される、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項6】
治療薬を、前記化学療法又は放射線療法の後の投与に加えて、前記化学療法又は放射線療法の前に1〜2回投与するための、請求項2に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、参照により本明細書に組み込まれる、2008年12月8日に出願した米国仮出願第61/120,785号の優先権を主張する。
【0002】
発明の技術分野
局所的に有効な治療薬による胃腸管における急性放射線傷害に起因する組織損傷の治療及び予防。
【背景技術】
【0003】
放射線療法と化学療法の併用は、悪性癌細胞の根絶に使用されることが多い。放射線又は化学療法薬への曝露は、正常組織、特に造血細胞及び胃腸管における上皮細胞の破壊をもたらすことが多い。さらに、正常組織の損傷は、例えば、核偶発事故又はテロリストの攻撃中の「汚い」爆弾の意図的な使用の後の放射性物質の放出の際の放射線への偶発的曝露又は放射性核種との接触を含む放射線の環境源にも起因しうる。
【0004】
放射線は、単独で、又は化学療法と併用して、悪性腫瘍細胞を標的とする又は他の疾患を治療するのに有効であるが、そのような使用は、正常細胞又は組織の損傷を一般的に伴う。この損傷は、線維症、血管損傷、異常な血管新生、肺炎、アテローム発生、骨壊死、免疫抑制並びに胃腸管、肺、腎臓及び他の臓器の機能障害などでありうる。上部及び下部胃腸管の上皮細胞は、癌に用いられる放射線及び化学療法薬による、並びに偶発的又は意図的曝露による核種又は高線量の放射線への環境曝露の形の放射線との類似物による損傷を特に受けやすい。上皮組織の損傷は、粘膜炎、腸炎及び直腸炎を含む、胃腸症状及び慢性状態を直接的及び間接的にもたらしうる。
【0005】
口及び食道の上皮組織は、化学療法及び放射線に特に敏感である。例えば、頭頸部癌の放射線治療後の粘膜炎の特徴を示す口腔の潰瘍化は、かなりの疼痛、感染を受けやすさの増大及び摂食不能をもたらす重大な臨床上の問題である。放射線による腹部又は骨盤部の癌の治療は、一般的に小腸で、及びより低い頻度で大腸で発生する放射線腸炎、腸の内壁の損傷を引き起こす。卵巣癌などの骨盤部又は腹部に限局化した癌の放射線療法の場合、放射線腸炎は、腹部及び骨盤部放射線療法の治療するのが最も困難な合併症の1つである。例えば、放射線治療又は曝露は、臨床的に観察される急性胃腸症状をもたらす骨盤部放射線及び/又は化学療法の各連続的投与による上皮細胞の枯渇をもたらすと考えられる。高用量化学療法及び高線量放射線療法の併用が現在の傾向であるため、放射線腸炎の発生率は増加しつつある。同等の過程により、前立腺癌の局所放射線治療は、下部の腸の直腸炎をもたらす。ほぼ同じ過程の腸及び上皮傷害が、5−フルオロウラシル、シスプラチン、メトトレキサート、ドキソルビシン、ヒドロキシ尿素、シトシンアラビノシド及びイリノテカンなどの特定の化学療法薬の使用により起こりうる。腸炎、粘膜炎又は直腸炎をもたらす、放射線療法、化学療法又は電離放射線への偶発的曝露後の胃腸管の傷害は、患者の生存又は死亡並びに生活の質に重要な役割を有する。
【0006】
粘膜炎、直腸炎又は腸炎は、いくつかの機構によって起こり、抗癌薬又は放射線による上皮の直接的損傷を含む結果として生ずる潰瘍化及び症状の多因子原因を暗示する。間接的には、長期の放射線曝露又は化学療法薬への曝露中の上皮の損傷の増加は、リンパ球、好中球及びマクロファージの浸潤並びにプロ炎症性サイトカイン及び他の細胞エフェクター分子の同時の分泌によって引き起こされる炎症反応の結果である。放射線曝露直後にTGF−βなどのプロ炎症性サイトカイン並びにRANTES、MCP−1及びIL−10などのケモカインのレベルの持続的に上昇した状態が伴う。ケモカインは、細胞傷害後に炎症性細胞を特異的にリクルートする走化性ペプチドである。特定のケモカインの慢性上昇は、傷害の線維化段階における単核細胞の残存の説明となりうる。長期には、損傷は、線維症及び多臓器不全をもたらしうる。放射線又は化学療法曝露後の短期において、細胞損傷は明らかである。胃腸管において、細胞の変化は、プログラムされた細胞死(アポトーシス)の過程によって類型化される。放射線及び/又は化学療法誘発性アポトーシスの結果としてのそのような細胞の変化は、絨毛の短縮;総上皮表面積の減少;グリコカリックスの減少又は消失及び多能性細胞の喪失などである。腸絨毛のアポトーシス及び幹細胞コンパートメントからのそれらの補充の減少は、腸上皮の侵害をもたらす。
【0007】
造血及び上皮細胞は放射線損傷に対して高度に感受性であるため、放射線曝露又は化学療法薬使用後のそれらの喪失は、いくつかの理由で致命的な感染をしばしばもたらす。腸の直接的な損傷は、病原体を侵入させる上皮バリアの侵害をもたらす。腸粘膜に対する電離放射線の急性作用は、陰窩における上皮有糸分裂の阻害に一般的に帰せられる。腸上皮バリアの再生は、造血系と同様な活性幹細胞コンパートメントに依存し、腸幹細胞は、電離放射線曝露に対して特に感受性が高い。放射線量の増加により、腸幹細胞は、絨毛を複製するのに十分な細胞を生ずることができず、これが絨毛高の鈍化及び縮小と最終的な機能不能をもたらす。これは、栄養の吸収及びバリア機能の低下並びに腸バリアを通しての細菌の転移につながる。
【0008】
上皮細胞の直接的損傷は、腸の低潅流、すなわち、液体及び電解質の損失をももたらす。持続性の腸低潅流は、全身性炎症反応症候群及び多臓器不全(MOF)の発現における重要な誘発事象である。腸の血管の透過性の増大並びに毛細血管の漏れが照射後の初期に認められ、小動脈の中等度から著明な拡張、短縮及び蛇行、血管の数及び/又は長さの減少並びに後期発生出血パターンなどのいくつかの照射後変化が随伴する。内皮層も影響を受ける。内皮のアポトーシスも腸粘膜の喪失及び生存に重要な役割を果たす。
【0009】
放射線は、免疫系における循環細胞にも作用する。先天性及び適応的免疫応答に関与する血中の細胞の破壊は、そのような患者における免疫不全の状態である好中球減少をもたらす。結果として、有意な好中球減少を引き起こす薬物又は治療は、腸炎又は粘膜炎を引き起こしうる。
【0010】
急性放射線及び/又は化学療法誘発性腸炎損傷の症状は、瘻、狭窄、潰瘍化、穿孔及び慢性吸収不良をもたらす腸傷害を含む。重度の下痢及び疼痛につながる全身性栄養消耗をもたらす悪心、嘔吐及び食欲不振の症状も経験する可能性がある。症状は、潜在的に生命を脅かす合併症であり、患者の生活の質に影響を有する。悪液質及び死亡が結果として起こりうる。
【0011】
骨盤部の照射及び/又は化学療法により誘発される小腸の機能の変化は、脂肪、炭水化物、タンパク質及び胆汁酸塩の吸収不良などであり、臨床的に下痢として存在する。骨盤部放射線療法による影響を最も受ける小腸の部分は、回腸であり、これは、放射線の照射野に直接入るその骨盤部の位置に起因する。放射線腸炎は、び漫性コラーゲン沈着及び進行性の閉塞性血管炎を特徴とする。血管炎及び線維症は、時間と共に進行し、腸内腔の狭窄と狭窄部の近位の腸の拡張がもたらされる。慢性的には、放射線曝露は、放射線傷害の位置によっては、組織線維症をもたらす。線維形成過程は、進行性で、臨床症状の悪化をもたらす。腸の罹患部分及び漿膜は、肥厚した状態になる。腸の損傷の場合、罹患部位をしばしば外科的に切除する。それでも、罹患部を除去するための手術にもかかわらず線維形成過程は、時間の経過と共に持続する可能性がある。腸壁の潰瘍化、壊死及び時折の穿孔が起こる可能性がある。S状結腸も、その骨盤部の位置のため骨盤部の放射線治療により罹患する。慢性骨盤部放射線傷害の発症は、数カ月から数年間遅延させることができる。後期腸損傷の医学的管理は、困難であり、放射線療法のこれらの後期合併症は、宿主の栄養状態に有害な影響を及ぼしうる。同じ筋書が胃腸管の慢性化学療法誘発性傷害に当てはまる。
【0012】
小腸陰窩細胞などの急速増殖性組織は、放射線及び化学療法薬の併用投与に対して特に感受性が高い。放射線は、本質的に再生の過程である、陰窩から絨毛の上への上皮細胞の移動を抑制しない。むしろ、それらは、アポトーシスを受け、腸絨毛から取り除かれる。腸上皮陰窩細胞が照射に曝露された後、有糸分裂停止が未熟分泌陰窩細胞と成熟絨毛状腸細胞との比の増加をもたらす。吸収及び分泌細胞の数と炭水化物、脂肪、タンパク質及び胆汁酸塩の終末消化に関与する刷子縁酵素の分解との間のバランスの変化は、液体及び電解質の異常な吸収及び分泌につながる。正常な生理的条件下では、小腸及び結腸上皮は、低速度の自発的アポトーシスを受ける。動物を低線量の放射線(1〜5センチグレイ[cGy])に曝露したとき、腸陰窩のアポトーシスの速度の速やかな増加が起こる。アポトーシスは、通常、陰窩の幹細胞に主として認められる。アポトーシスの速度は、用量依存性であり、1グレイ(Gy)でプラトーに達する。アポトーシスの速度の増加と平行して、幹細胞領域における腫瘍サプレッサー遺伝子p53の発現の増加が起こる。放射線により誘発されるアポトーシスは、p53の存在に依存する。小腸幹細胞は、結腸及び直腸における幹細胞と比較して放射線に対する感受性が高い。その理由は、後者にbcl−2が存在するからである。
【0013】
放射線傷害に起因する症状を治療するのにいずれも単独で、又は他の化合物と併用して、完全に有効であるとは示されなかったが、上皮の損傷並びに関連した粘膜炎、腸炎及び直腸炎の治療が様々な治療用分子を用いて試みられた。放射線又は化学療法誘発性腸炎の場合、最も一般的な治療アプローチは、非特異的薬剤の使用であった。アヘン安息香チンキ、ジフェノキシレート及びアトロピン並びにロペラミドなどのいくつかの薬剤が一般診療で現在使用されている。それらの薬物を使用する目的は、下痢の症状を軽減するためであって、上皮の損傷及び炎症の根本的原因を軽減するためではない。症状を改善するのに部分的に有効であるが、これらの薬物の効用は、より重篤な症状の抑制に有用であると考えられず、単に一時しのぎにすぎない。臨床試験に用いられた他の薬剤は、非ステロイド抗炎症薬、次サリチル酸ビスマス、コレスチラミンなどである。他の治療及び予防戦略も動物試験及び診療所で用いられた。例えば、ソマトスタチン類似体であるオクトレオチドは、塩化物分泌に対する直接的な作用のため放射線腸炎の下痢症状の改善の点である程度の利点を有するが、照射に直接的に起因し、炎症に間接的に起因する上皮の損傷の予防にはほとんど役割を有する可能性がないことが示された。例えば、オクトレオチドは、ひいては運動性、血流及び上皮細胞の増殖に影響を及ぼす胃腸ホルモンの抑制による小腸の照射後の粘膜の急性変化を低減すると考えられている。胃ホルモンであるガストリンのアップレギュレーションは、より高い程度の放射線防護を伴う。放射線傷害の影響を治療するために用いられる治療戦略の他の例としては、単独で、又はペントキシフィリンと併用するビタミンEなどの抗酸化剤、高圧酸素を用いる治療、腸病原体と競合するプロバイオティクスの使用を含む食事の改善、ロフェコキシブ(Celebrex(登録商標))などのシクロオキシゲナーゼ2(Cox−2)の阻害薬、LPA2受容体の阻害薬アミフォスチン(エチロール)及び微粉化スクラルフェートなどの薬物の製剤などがある。
【0014】
放射線損傷を治療するのに一般的になりつつある現在の慣例及び方法は、特に、好中球の補充を増強するためにGMCSFによって患者を治療することにより好中球減少の影響を消失させるための、又は抗生物質により細菌病原の影響を消失させるための支持療法の概念を組み込んだものである。さらに、支持療法は、自己又は異種骨髄を用いて血液コンパートメントを再構成する方法の使用である。述べたような支持療法は、炎症を直接的に治療せず、原発病変の基礎となる上皮損傷を治療することを意図するものでない。
【0015】
損傷の原因の多因子性に対応するために特異的な治療介入が必要であることがますます明らかになってきており、これは、上皮細胞の再生の過程を増大させることを目的とする調節分子、単球、好中球の浸潤並びにプロ炎症性サイトカイン及びケモカインの結果として生ずる分泌を減少させる、又は上皮バリアの細菌による侵害のプロ炎症作用を軽減することを目的とする抗炎症薬を用いることによって上皮自体の損傷を軽減するための戦略を含む。管理された慎重な放射線療法又は放射線、おそらく放射線源への偶発的な曝露若しくは汚い爆弾若しくは核事故の結果としての曝露に起因する高線量曝露の形での放射線曝露の結果を治療するための療法の改善の必要性が依然として存在する。
【0016】
過度の放射線又は化学療法による上皮損傷を治療又は予防するために、他の治療介入を考慮することができる。例えば、ケラチノサイト増殖因子(KGF)は、化学放射線療法の毒性に対する細胞保護薬であることが示された。KGFは、KGF受容体(KGFR)として公知の線維芽細胞増殖因子受容体2(FGF−2)のスプライス変異体に結合する。上皮組織は、KGFRを発現することが公知である唯一の組織型である。KGFが口腔粘膜におけるKGFRに結合するとき、KGFは、チロシンキナーゼ媒介性経路を経て作用して、細胞増殖を促進する。マウスモデルにおいて、KGFは、同種骨髄移植(BMT)後のGVHD及び特発性肺炎も改善しうる。KGFは、損傷上皮組織の免疫媒介性傷害を低減する。KGFは、上皮細胞に対して増殖作用を有し、化学療法、放射線療法及び酸化ストレスによって誘発される傷害から上皮細胞を保護する。KGFは、放射線から胸腺上皮細胞を保護する。BMTレシピエントマウスに、TBI及び同種BMTの前にKGF又はプラセボを投与した。KGFの前投与により、ドナー由来胸腺細胞を発生する胸腺の能力が増大し、末梢血中のナイーブT細胞数が増加し、ネオ抗原に対する免疫応答が改善した。KGFの投与により、胸腺内IL−7の産生が増加した。KGFは、胸腺の傷害を予防し、BMTレシピエントにおける免疫欠損を延期させた。KGFはまた、自己HCT後のアカゲザルにおける免疫再構築を増強させた。
【0017】
高線量放射線療法後の口腔粘膜炎の予防のためのKGFの臨床試験で、12Gy分割TBIコンディショニング療法(fractionated TBI conditioning regimen)後3日間及び自己末梢血幹細胞(PBSC)の注入後3日間にわたりrhKGF 60μg/kg/日の投与を受けた患者がプラセボと比較してそれぞれ粘膜炎の重症度及び粘膜炎の持続期間(3.4日対10.4日)の有意な低下(p<0.001)を経験した。有熱性好中球減少症の発生率は、KGFで26%であったのに対してプラセボでは46%であり、有熱性好中球減少症の平均日数は、KGFで2.6日であったのに対してプラセボでは4.6日であった。KGFは、現在、化学放射線療法誘発性粘膜炎を予防するために米国における患者に用いられている。KGFは、健常志願者に対する重大なリスクがなく安全であり、予測可能な薬物動態を有する。しかし、放射線誘発性腸炎又は傷害におけるKGFの有効性は、実証されなかった。
【0018】
リチウムは、単純カチオンが双極性障害の治療に用いられたが、初期発生における形態形成に対する効果を有することも公知である。例えば、リチウムは、腸幹細胞の増殖及び発生に重要な役割を果たすwnt/βカテニンシグナル伝達経路を介して腸幹細胞の増殖を活性化するグルカゴンシンテターゼキナーゼ3−ベータ(GSK−3β)活性を潜在的且つ特異的に阻害する。GSK−3βを阻害することにより、リチウムは、腸陰窩幹細胞の増殖を刺激するWnt/β−カテニンのアップレギュレーションを可能にする。リチウムは、周期的な好中球減少症の成功的治療のためにグレイコリー犬に投与された。リチウムはまた、イヌにおける顆粒球の回復の増加を促進し、シクロホスファミド誘発性腸傷害を低減した。リチウムによるマウスの治療は、陰窩の拡大をもたらすが、放射線誘発性上皮傷害に対するリチウムの効果は、不明であった。
【0019】
Wnt経路に関して、他の調節ペプチド及びホルモンが放射線誘発性傷害の治療に有用である可能性がある。例えば、R−スポンジン1は、Wnt経路による可能性が最も高い、腸上皮の損傷の修復を媒介する。標準的なWntファミリーメンバーと類似している、分泌リガンドのR−スポンジン(RSpo)ファミリーは、β−カテニンシグナル伝達を活性化する。R−スポンジンタンパク質ファミリーは、それぞれがリーディングシグナルペプチド、2つのシステインに富むフリン様ドメイン及び1つのトロンボスポンジン1型ドメインを含む、4つのヒトパラログ(R−スポンジン1〜4)を含む。分泌タンパク質のWntファミリーは、腸上皮細胞の発生、分化及び増殖を含む重要な役割を果たす。Wntシグナル伝達は、β−カテニンの細胞ゾルレベルを調節することにより、下流細胞反応を誘導する。Wntが存在しない場合、細胞ゾルβ−カテニンは、リン酸化され、プロテアソームによる速やかな分解の標的となる。Wntは、GSK3及びカゼインキナーゼ1によるLRP6細胞質テールにおけるPPPSPモチーフの連続的リン酸化並びに足場タンパク質アキシンのその後のリクルートメントを誘導する。
【0020】
主要な薬理作用が消化管の上皮組織において局所的に起こる、局所作用性抗炎症薬は、免疫活性化の局所的効果及び炎症を低減するように作用しうる。これは、クローン病の場合にクローン病の寛解の誘導に部分的に有効であるブデソニド(Entocort(登録商標))を用いて、また腸移植片対宿主病の場合にジプロピオン酸ベクロメタゾン(BDP)について実証された。ブデソニド及び同様な局所作用性コルチコステロイド薬(TAC)に加えて、BDPは、強力な局所作用性コルチコステロイドである。例えば、BDP及びその代謝物17−モノプロピオン酸ベクロメタゾン(17−BMP)の抗炎症及び免疫抑制作用は、その主要な薬理学的に活性な代謝物によるものとみなされる。BDPの抗炎症活性は、そのゲノム作用(プロ炎症性サイトカインの合成の減少、接着分子の発現の抑制及びT細胞のアポトーシスにつながる転写因子の抑制)並びに強力な非ゲノム作用(免疫抑制、T細胞のアポトーシス)及びNFK−βなどの細胞内の包括的調節分子に起因する。
【0021】
ヒト血漿中のBDPの主要な分解経路は、BDPから17−BMP及び21−BMP(これらの2代謝物間の相互変換を含む)への、次いで、ベクロメタゾン(BOH)への分解であると提案された。BDPの代謝物17−BMPは、BDP自体より約25倍効力が高く、デキサメタゾンより13倍高いグルココルチコイド受容体結合親和力を有する。BDP及びBOHは、デキサメタゾンの結合親和力のそれぞれ約半分及び4分の3の結合親和力でグルココルチコイド受容体に結合し、21−BMPは、該受容体に対する明らかな親和力を有さない。グルココルチコイド受容体に対するより大きい結合親和力を有することに加えて、17−BMPは、他の代謝物より高い見かけの変動(apparent variability)を有する。
3H−BDPの経口投与後にラットの血漿中に未変化BDPは検出されなかった。主要代謝物(17−BMP)がラットの血漿中に認められたことから、腸、血漿又は両方における親化合物の代謝物への速やかな変換が示唆される。
3H−BDPの静脈内投与は、3〜4分の半減期を有する未変化BDPの短時間の出現と、高濃度の17−BMPの即時的出現をもたらしたことから、血漿中の親化合物の代謝物への速やかな変換が示唆される。BDPの17−BMPへの加水分解が腸内でも速やかに起こる可能性があり、17−BMPのBOHへのさらなる加水分解は非常に遅い速度で起こる。模擬腸液中のBDP及び17−BMPの半減期は、それぞれ2.1分及び12時間であった。BDPの17−BMPへの加水分解は、腸液中及び粘膜上皮細胞中で起こる可能性がある。強いグルココルチコイド受容体結合親和力、高い組織濃度、GI粘膜における長時間の滞留時間及び17−BMPの腸肝循環の組合せから、経口BDPがGI管の粘膜における有意な局所活性をもたらすことが示唆される。さらに、高いクリアランスにより21〜41%と推定されるDBP投与後の17−BMPの比較的低い絶対的経口生物学的利用能が、全身曝露を制限している。局所BDPは、乳房照射後の皮膚の落屑を減少させるのに用いられ、吸入BDPは、胸郭照射後の肺炎を減少させるのに用いられた。BDP浣腸剤は、遠位潰瘍性結腸炎の治療に用いられて好結果が得られた。局所薬として適用された他の強力なコルチコステロイドは、急性放射線皮膚炎の治療に成功を収めた。しかし、消化管の上皮組織に局所適用されたBDP又は他の局所ステロイド又は抗炎症薬が、単独で、又は多因子過程における他の面に作用するような薬物及び分子と一緒に放射線損傷に起因する上皮の炎症性損傷を治療又は予防することは、公知でなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
放射線傷害時の支持療法の処置に関してかなりの進歩があったが、根本的な組織損傷の多因子性の原因をコントロールすることによって放射線傷害を治療する改善された方法の必要性が当技術分野に依然として存在する。BDPなどの局所的に活性なコルチコステロイド薬(TAC)が単独で作用して炎症カスケード及び高線量放射線傷害の症状を減少させ、局所適用により放射線腸炎、粘膜炎及び上皮組織の放射線傷害を治療し、予防するのに用いることができることは、本発明の驚くべき発見である。さらに、本発明の驚くべき予期しなかった発見は、TACが増殖因子及びサイトカインと相乗的に作用して胃腸上皮組織における放射線又は化学療法誘発性組織損傷から生ずる症状の持続時間及び強度をさらに減少させ、曝露前に投与したとき潰瘍形成及び組織損傷の発生を防ぐことができることである。リチウムが、Wntシグナル伝達の活性化による可能性が最も高いが、腸上皮の放射線及び化学療法誘発性損傷を治療することができ、BDPとリチウムが相加的又は相乗的に作用して症状の重症度、発症及び持続時間を減少させることは、本発明のさらに驚くべき発見である。
【0023】
本発明により、放射線傷害は、好中球を補充し(例えば、GMCSF)、菌血症を予防する(抗生物質)ことを目的とする支持療法に加えて、単剤療法としての、又はKGF又はRスポンジン1などの増殖因子と相乗的に、腸内腔中で局所的に活性なコルチコステロイドによって治療又は予防することができる。局所BDPは、放射線損傷GI管により誘導される炎症性サイトカインストームを減少させることができる。照射による腸傷害は、上皮細胞損傷及び腸の低潅流を伴う。これは、ひいては全身性炎症反応を刺激する。腸粘膜中のBDP及びその代謝物17−BMPは、粘膜損傷を悪化させる細胞性及び先天性免疫機構を阻害することができる。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明は、有効量の局所的に活性なコルチコステロイドを単独で、又は放射線及び化学療法誘発性上皮及び組織傷害における経路の異なる時点で作用する他の治療用分子と併用して、患者に投与することにより、損傷量の放射線又は化学療法薬に曝露した対象における上皮細胞毒性に起因する細胞及び組織損傷を予防し、又はその重症度を低下させる新規なアプローチを提供する。本発明の目的は、従来技術に関連する困難又は欠陥の1つ又は複数を克服し、又は少なくとも軽減することである。
【0025】
第1の態様において、本発明は、化学療法及び/又は放射線に起因する消化管の内壁の損傷を予防、改善、及び/又は治療する方法を提供し、この方法は、上皮損傷の炎症成分を軽減するためにそれを必要とする患者に有効量の局所的に活性なコルチコステロイドを投与することを含む。
【0026】
第2の態様において、本発明は、化学療法及び/又は放射線に起因する消化管の内壁の損傷を予防、改善、及び/又は治療するための医薬組成物を提供し、前記組成物は、有効量の局所的に活性なコルチコステロイドを含む。
【0027】
第3の態様において、本発明は、化学療法及び/又は放射線に起因する消化管の内壁の消化管の内壁の損傷を予防、改善、及び/又は治療する方法を提供し、この方法は、それを必要とする患者に有効量の局所的に活性なコルチコステロイドを、増殖因子、調節分子、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、R−スポンジン1並びにその類似体及び同族体などを含む抗炎症分子、ソマトスタチン、オクトレオチド、ガストリン、グレリンなどのホルモン、シクロオキシゲナーゼ2の阻害薬、抗酸化剤、ビタミンE、スクラルフェート、リソホスファチジン酸の類似体及びLPA−2受容体の作動薬又は拮抗薬、アミフソチン及び他の放射線防護薬又は放射線緩和薬を含む、組織損傷の別の細胞側面を治療することを目的とする第2の化合物と併用して投与することを含む。
【0028】
第4の態様において、本発明は、単独で、又は増殖因子及び他の薬物と共に経口製剤中のTACで罹患上皮組織を局所的に治療する方法を含む製剤を提供する。本発明は、特定のTAC、特にジプロピオン酸ベクロメタゾン(BDP)は、経口剤形で、放射線又は化学療法処置に起因する組織損傷に起因する炎症の症状を改善するために上部及び下部胃腸管並びに口腔の局所(すなわち、内腔又は粘膜)治療に有効であるが、プレドニゾロンなどの全身性ステロイドに随伴する通常の副作用を引き起こす全身循環への薬物の有意な侵入を伴わない用量で患者に投与することができるという発見に基づいている。
【0029】
本発明は、経口投与した製剤中のそのようなTACが胃腸管又は口腔における上皮損傷を修復する機能を果たし、放射線誘発性又は化学療法誘発性損傷の症状を改善する増殖因子及び他の治療用分子と相乗的又は相加的に作用するという発見にも基づいている。化合物及び薬物は、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、R−スポンジン1並びにその類似体及び同族体、ソマトスタチン、オクトレオチド、ガストリン、グレリンなどのホルモン、シクロオキシゲナーゼ2の阻害薬、抗酸化剤、ビタミンE、スクラルフェート、リソホスファチジン酸の類似体及びLPA−2受容体の作動薬又は拮抗薬、アミフソチン及び他の放射線防護又は放射線緩和薬を含む。
【0030】
選択される局所的に活性なコルチコステロイド薬の有効量を口腔又は胃腸管に経口薬として導入することができ、用量の一部のみが全身循環に吸収され、吸収される部分が限られた全身曝露に供給され、速やかに除去される。コルチコステロイド薬の強力な抗炎症活性は、口腔又は胃腸管の罹患部位に特異的に濃縮される。したがって、組織の炎症及び潰瘍化をコントロールすると同時に、全身性ステロイドに通常起因する副作用は最小限となる。小腸及び大腸から流出する静脈血は、最終的に門脈を経て肝臓に到達する。用いられる選択されるステロイド薬の用量が過剰でない限り、肝臓は、有意な量が全身循環中に蓄積される前に、受け取った薬物を不活性化することができると思われる。
【0031】
したがって、本発明によれば、胃腸管又は口腔に出現する放射線又は化学療法誘発性傷害に罹りやすい患者用の局所治療として投与するための経口組成物を提供する。本発明の好ましい実施形態において、TACは、上部胃腸管、特に小腸中に薬物を局所的に放出させる経口製剤である。経口組成物は、高度に局所的に活性なステロイド薬の約0.1mg〜約8mgの範囲内の有効量の有効成分としてのTAC、及び経口投与による対象の治療の方法を含む。
【発明を実施するための形態】
【0032】
定義
「有効量」とは、患者への単回又は反復投与で化学療法及び/又は放射線に起因する消化管の内壁の損傷の予防、改善及び/又は治療に有効である局所的に活性なコルチコステロイドの量を意味する。
【0033】
「予防、改善、及び/又は治療すること」とは、コルチコステロイドを投与しなかった場合に起こる損傷と比較してその後の損傷の低減又は消失を、また損傷が起こった後にコルチコステロイドを投与した場合、そのような損傷の低減又は消失を意味する。
【0034】
「損傷」とは、正常な構造又は機能の変化を意味する。そのような損傷は、粘膜炎症−粘膜炎及び腸炎並びにまた粘膜陰窩部及び/又は粘膜絨毛長の部分的喪失、又は消化管にわたる細菌の転移の増加を含む。
【0035】
「消化管」という用語は、本明細書で用いているように動物の口から肛門までの消化管を意味し、口、食道、胃及び腸(小及び大腸を含む)。好ましい態様において、本発明は、小腸に特に適用される。
【0036】
「内壁(内層)」とは、表面を被覆する又は空洞などの内側を覆い、保護、スクリーニング及び/又は他の機能を果たす生体物質を意味する。消化管の内壁は、口、食道及び胃腸上皮を含む。
【0037】
「局所的に活性な」とは、化合物が、薬物が存在する部位の近くの組織を通してその主要な薬理作用を有することを意味する。胃腸上皮で活性なTACの場合、TAC薬は、腸上皮組織に吸収され、上皮細胞上にそれらの主要な作用を有するが、TACは、限られた吸収、肝臓及び/又は腸による初回通過代謝、腸肝再循環、タンパク質結合、又は迅速な消失、並びにそれらの任意の組合せにより限られた全身曝露を示す。
【0038】
「全身循環」とは、循環中の薬物の定常状態濃度が達成された、ステロイド薬の代謝の部位より遠位の循環の部分を意味する。
【0039】
「薬学的に許容される担体又は賦形剤」とは、組成物の他の成分と適合性があり、患者に有害でない担体又は賦形剤を意味する。
【0040】
「有効量」という用語は、研究者又は臨床医が求めている組織、系、動物又はヒトの生物学的又は医学的反応を引き起こす薬物又は医薬品の量を意味する。
【0041】
「治療有効量」という用語は、そのような量の投与を受けなかった対応する対象と比べて、疾患若しくは障害の治療、治癒、予防若しくは改善の改善、又は疾患若しくは障害の進行の速度の低下をもたらす量を意味し、正常な生理学的機能を増大させるのに有効な量も含む。
【0042】
「支持療法」とは、好中球減少の影響を減弱させるための/好中球の補充を増強するためにGMCSFを患者に投与することによる治療、又は抗生物質により細菌病原の影響を減弱させるための療法を意味する。さらに、支持療法は、自己又は異種骨髄を用いて血液コンパートメントを再構成する方法の使用である。
【0043】
化学療法及び/又は放射線療法によって起こる腸炎又は放射線傷害を治療し/予防し/その重症度を低下させるために経口投与により、また化学療法及び/又は放射線療法によって起こる粘膜炎を予防し/その重症度を低下させるために洗口製剤又はトローチ剤により本発明の実施におけるTAC薬により患者を治療することは好ましいが、本発明の実施における局所的に活性なコルチコステロイドは、錠剤、カプセル剤(それぞれ時限放出及び徐放製剤を含む)、丸剤、散剤、顆粒剤、エリキシル剤、チンキ剤、懸濁剤、シロップ剤及び乳剤として口腔及び舌下剤形で別の方法で投与することができる。
【0044】
同様に、TAC薬はまた、すべてが製薬技術分野の技術者に周知の形態を用いた、鼻、眼、耳、直腸、静脈内(ボーラス及び注入)、腹腔内、関節内、皮下又は筋肉内の吸入又は吹入の形で投与することができる。
【0045】
本発明の化合物を用いる投与法は、患者のタイプ、種、年齢、体重、性及び医学的状態;治療すべき状態の重症度;投与経路;患者の腎及び肝機能;並びに用いられる特定の化合物又はその塩などの様々な因子に従って選択される。通常の熟練度の医師は、腸炎及び/又は粘膜炎状態を治療するのに必要な薬物の有効量を容易に決定し、処方することができる。
【0046】
本発明の実施における経口用量は、表示された効果を得るために用いるとき、1日当たり約0.01〜約100mg/kg体重の範囲のTAC、特に、1日当たり約0.1〜10mg/kg体重である。0.1〜約250mg、より好ましくは約1〜約16mgの範囲内の経口用量単位を一般的に投与する。1日量又は70kgのヒトは、1mg〜16mgの範囲にある。
【0047】
併用療法において、TACは、述べたように好ましくは経口剤形で投与し、併用薬は、直接的配合物として経口投与又は静脈内製剤として経口TACと同時に投与する。1つの好ましい実施形態において、併用療法は、経口剤形のTACと静脈内有効用量のR−スポンジン11からなる。R−スポンジン1の好ましい用量は、5〜約1000マイクログラム/kg体重、特に、約10〜約100マイクログラム体重である。
【0048】
併用の1つの他の好ましい実施形態において、併用療法は、経口剤形のTACと静脈内用量のKGFからなる。KGFの好ましい用量は、0.1マイクログラム/kg体重〜約1mgの範囲であり、本発明のより好ましい実施形態において、KGFの用量範囲は、1から約60マイクログラム/kg体重までである。
【0049】
投与すべき用量は、患者の身体的状態、年齢、体重、過去の病歴、投与経路、状態の重症度及び同様な考慮事項などの通常の条件に基づく。場合によって、比較的より低い用量が十分であり、場合によって、比較的より高い用量又は投与回数の増加が必要である可能性がある。経口投与は、化学療法及び/又は放射線療法の処置の経過によって1日に1回又は複数回でありうる。有利には、本発明の化合物は、単一1日量で投与することができ、又は総1日量を1日2、3若しくは4回の分割量で投与することができる。本発明により使用する化合物は、約0.1〜約5mg/mlの適切な溶媒の局所使用のための濃度の範囲に調製することができる。経口投与のための好ましい容積は、約0.2〜約100mgの患者に送達される有効量である。
【0050】
化学療法又は放射線誘発性組織損傷の予防のために、化学療法又は放射線療法の前の1〜2回の投与が好ましく、療法の前に必要に応じて追加投与する。放射線治療の曝露後については、必要に応じて投与する。さらに、本発明のための好ましい化合物は、適切な鼻内媒体の局所使用により鼻内剤形で、又は当業者に周知の経皮皮膚貼付剤の剤形を用いて経皮経路により投与することができる。
【0051】
本発明の方法において、本明細書で詳細に述べる化合物は、有効成分を構成することができ、投与の意図される形態、すなわち、経口錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、シロップ剤などに関して適切に選択され、通常の薬務と調和する適切な医薬希釈剤、賦形剤又は担体(本明細書で「担体」物質と総称する)との混合物で一般的に投与される。
【0052】
例えば、錠剤又はカプセル剤の形での経口投与のために、活性薬成分をエタノール、グリセロール、水などの経口、非毒性の薬学的に許容される不活性担体と混合することができる。散剤は、化合物を適切な微細なサイズまで微粉砕し(committing)、例えば、デンプン又はマンニトールのような可食炭水化物などの同様に微粉砕した医薬担体と混合することにより調製される。着香剤、保存剤、分散剤及び着色剤も存在してもよい。
【0053】
カプセル剤は、上述のような粉末混合物を調製し、成形ゼラチンシースに充填することにより調製される。コロイド状シリカ、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム又は固形ポリエチレングリコールなどの流動促進剤及び滑沢剤を充填操作の前に粉末混合物に加えることができる。カプセル剤が摂取された場合に薬剤の利用能を改善するために、寒天、炭酸カルシウム又は炭酸ナトリウムなどの崩壊剤又は可溶化剤も加えることができる。
【0054】
TACに加えて、許容される担体及び/又は希釈剤を用いることができ、当業者によく知られている。丸剤、カプセル剤、マイクロスフェア、顆粒剤又は錠剤の形の製剤は、1つ又は複数のTACに加えて、希釈剤、分散及び界面活性剤、結合剤及び滑沢剤を含んでいてよい。当業者は、適切な方法で、またRemington’s Pharmaceutical Sciences、Gennaro編、Mack Publishing Co.、Easton、PA.、1990年(参照により本明細書に組み込まれる)に開示されているものなどの受け入れられている手法に従ってTACをさらに製剤化することができる。さらに、所望又は必要の場合、適切な結合剤、滑沢剤、崩壊剤及び着色剤も混合物に混入させることができる。適切な結合剤としては、デンプン、ゼラチン、グルコース若しくはベータラクトースなどの天然糖、コーンシロップ、アラビアゴム、トラガントなどの天然及び合成ゴム、又はアルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ワックスなどがある。これらの剤形に用いられる滑沢剤としては、オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウムなどがある。崩壊剤としては、制限なしに、デンプン、メチルセルロース、寒天、ベントナイト、キサンタンゴムなどがある。錠剤は、例えば、粉末混合物を調製し、造粒又はスラッギングし、滑沢剤及び崩壊剤を加え、錠剤に圧縮することによって調合する。粉末混合物は、適切に微粉砕された化合物を、上述のような希釈剤若しくは基剤と、また場合によって、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩、ゼラチン若しくはポリビニルピロリドンなどの結合剤、パラフィンなどの溶解遅延剤、第四級塩などの再吸収促進剤及び/又はベントナイト、カオリン若しくはリン酸二カルシウムなどの吸収剤と混合することにより調製する。粉末混合物は、シロップ、デンプンペースト、アラビアゴム漿又はセルロース若しくはポリマー材料の溶液などの結合剤で湿らせ、スクリーンを通過させることによって造粒することができる。造粒に代わるものとして、粉末混合物を錠剤機に通し、不完全に成形されたスラグを顆粒に破砕することができる。顆粒は、ステアリン酸、ステアリン酸塩、タルク又は鉱油の添加により滑らかにして、錠剤成形型に粘着することを防ぐことができる。次いで、潤滑混合物を錠剤に圧縮する。本発明の化合物は、自由流動性不活性担体と混合し、造粒又はスラッギングステップを経ずに直接的に錠剤に圧縮することもできる。セラックのシーリングコート、糖又はポリマー材料のコーティング及びワックスのポリッシュコーティングからなる透明又は不透明保護コーティングを施すことができる。異なる剤形を区別するために、色素をこれらのコーティングに添加することができる。
【0055】
溶液シロップ剤及びエリキシル剤などの経口液剤は、所定量が既定の量の化合物を含むように単位剤形として調製することができる。シロップ剤は、適切に味付けされた水溶液に化合物を溶解することによって調製することができるが、エリキシル剤は、非毒性のアルコール性媒体を用いることによって調製される。懸濁剤は、化合物を非毒性媒体に分散することにより調合することができる。エトキシル化イソステアリルアルコール及びポリオキシエチレンソルビトールエーテルなどの可溶化剤及び乳化剤、保存剤、ペパーミント油などの香料添加物又は天然甘味料又はサッカリン若しくは他の人工甘味料なども添加することができる。
【0056】
適切な場合、経口投与用の投与単位製剤は、マイクロカプセル化することができる。製剤は、例えば、粒子状物質をポリマー、ワックス又は同類のものでコーティング又は埋め込むことによって放出を延長又は持続するように調製することもできる。
【0057】
本発明により使用する化合物は、小単層小胞、大単層小胞及び多層小胞などのリポソーム送達システムの形で投与することもできる。リポソームは、コレステロール、ステアリルアミン又はホスファチジルコリンなどの様々なリン脂質から形成させることができる。
【0058】
化合物は、賦形剤又は薬物担体としての可溶性ポリマーと併用投与することもできる。そのようなポリマーは、ポリビニルピロリドン、ピランコポリマー、ポリヒドロキシプロピルメタクリルアミドフェノール、ポリヒドロキシエチルアスパルタミドフェノール又はパルミトイル残基で置換されたポリエチレンオキシドポリリシンなどでありうる。さらに、化合物は、薬物の放出制御を達成するのに有用なクラスの生分解性ポリマー、例えば、ポリ乳酸、ポリイプシロンカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリオルトエステル、ポリアセタール、ポリジヒドロピラン、ポリシアノアクリレート及びヒドロゲルの架橋又は両親媒性ブロックコポリマーと結合させることができる。
【0059】
非経口投与は、皮下、筋肉内又は静脈内注射用の滅菌済み溶液及び懸濁液などの液体単位剤形を用いることによって達成することができる。これらは、一定量の化合物を水性有機溶媒などの注射に適する非毒性液体媒体に懸濁又は溶解し、懸濁液又は溶液を滅菌することによって調製される。
【0060】
或いは、一定量の化合物をバイアルに入れ、バイアル及びその内容物を滅菌し、密封する。投与前に混合するための添付のバイアル又は媒体を提供することができる。注射剤を等張性にするために非毒性塩及び塩溶液を加えることができる。安定化剤、保存剤及び乳化剤も加えることができる。
【0061】
直腸投与は、化合物がポリエチレングリコール、ココアバター、例えばフレーバー水溶液のような高級エステルなどの低融点水溶性又は不溶性固体と混合されている坐剤を用いて達成することができるが、一方、エリキシル剤は、パルミチン酸ミリスチル又はその混合物により調製される。
【0062】
本発明の局所製剤は、例えば、軟膏剤、クリーム剤又はローション剤、眼軟膏剤及び点眼又は点耳剤、含浸包帯並びにエアゾール剤として提供することができ、軟膏剤及びクリーム剤中の保存剤、薬物の浸透を促進するための溶媒及び皮膚軟化薬などの適切な通常の添加物を含んでいてよい。製剤はまた、クリーム剤又は軟膏基剤及びローション剤用のエタノール又はオレイルアルコールなどの通常の適合性担体を含んでいてよい。そのような担体は、製剤の約1%から約98%までとして存在してよい。より通常には、それらは、製剤の最大約80%を構成する。
【0063】
吸入による投与のために、本発明により使用する化合物は、好都合には、適切な噴射剤、例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、テトラフルオロエタン、ヘプタフルオロプロパン、二酸化炭素若しくは他の適切なガスの使用により加圧パック又は噴霧器からのエアゾール噴霧剤の形で送達する。加圧エアゾールの場合、用量単位は、定量を送達するための弁を備えることによって測定することができる。本発明の化合物とラクトース又はデンプンなどの適切な粉末基剤の粉末混合物を含む、吸入器又は吹入器に用いる例えばゼラチンのカプセル及びカートリッジを調合することができる。
【0064】
本発明の組成物に用いる好ましい薬物は、ジプロピオン酸ベクロメタゾン及び17−吉草酸ベタメタゾンである。しかし、本発明は、それらに限定されず、有効な治療のために局所的に活性であるすべてのコルチコステロイドに関する。代表的な局所的に活性なコルチコステロイドは、17,21−ジプロピオン酸ベクロメタゾン、ジプロピオン酸アルクロメタゾン、ブセドニド、22Sブセドニド、22Rブセドニド、17−モノプロピオン酸ベクロメタゾン、プロピオン酸クロベタゾール、二酢酸ジフロラソン、フルニソリド、フルランドレノリド、プロピオン酸フルチカゾン、プロピオン酸ハロベタゾール、ハルシノシド、フロ酸モメタゾン及びトリアムシナロンアセトニドを含むが、これらに限定されない。本発明の実施において有用な適切なTACは、次の特性を有するものである:腸及び肝臓における速やかな初回通過代謝、低い全身生物学的利用能、高い局所活性及び速やかな排泄(例えば、Thiesenら、Alimentary Pharmacology&Therapeutics、10巻、487〜496頁、1996年を参照)(参照により本明細書に組み込まれる)。
【0065】
最も好ましい薬物は、その非常に高い局所抗炎症活性のため、ジプロピオン酸ベクロメタゾン(BDP)である。したがって、この薬物は、本発明の組成物中で非常に小用量で効果的に用いることができ、全身循環に有意な程度に入らない。他のステロイド薬(17−吉草酸ベタメタゾンなど)も有用である。BDPは、Schering−Plough Corporation(Kenilworth、N.J.)などの多くの商業的供給源からバルク結晶体として入手可能である化合物であり、以下の構造(すなわち、17,21−ジプロピオン酸ベクロメタゾン)を有する。
【化1】
【0066】
患者に治療上許容される量のTACを経口投与する。適切なカプセル剤又は丸剤は、一般的に0.1mg〜8mgのTAC、一般的に約1mgのTACとラクトースなどの任意選択の充填剤を含み、酢酸フタル酸セルロースなどの様々な材料で被覆することができる。そのような量は、周知の用量反応研究により当業者が容易に決定することができ、一般的に0.1mg/日〜8mg/日の範囲にあり、より一般的に2mg/日〜4mg/日の範囲にある。
【0067】
放射線又は化学療法薬の使用によって引き起こされる炎症の状況では、TACの治療のための投与は、TACステロイドのより大きい用量から開始することができ、炎症がコントロールされた後に、これをTACの維持量に漸減することができる。重症例においては、より強力な全身ステロイドを用いて炎症をコントロールすることができ、次いで患者を速やかにTACステロイド投与に漸減するか、又は上皮増殖因子又はサイトカインの製剤と共に使用することができる。
【0068】
本発明の重要な態様は、TACが腸又は口腔組織に局所投与されるようにTACを経口投与することである。したがって、経口投与は、当用語が本明細書で用いられているように、静脈内注射によるような全身投与を含むことを意図するものでない。むしろ、TACは、ほとんど(あるとしても)全身利用能を有さないが、腸及び/又は肝臓組織上で高い局所活性を有する。高い局所活性は、TACの分布を腸粘膜に限定する当業者に公知の手段のいずれかによって達成される。例えば、TACは、高い局所濃度のTACで腸粘膜の表面を被覆するように製剤化することができ、又は薬物の全身循環中への腸粘膜を越える横断を抑制するように製剤化することができる。そのような限られた分布は、本発明の重要な利点である、より少数の副作用をもたらす。
【0069】
治療において、目的は、既に組織の破壊をもたらした様々な生物学的事象、例えば、炎症性サイトカインの発生、傷害の部位へのさらなる炎症性細胞のリクルートメント、腸粘膜(内壁)のバリア機能の破壊、損傷腸粘膜を通しての細菌及び毒素の通過、細菌及び内毒素に対する生物学的反応のアップレギュレーション並びにこれらの事象に対する広範な臓器の反応を抑制することである。
【0070】
TACの適切な製剤により、TACを腸全体の粘膜表面全体に高用量で送達することができる。したがって、TACは、この開始炎症性免疫反応が起こっている、腸粘膜又は口腔粘膜全体にわたって高濃度を達成することができる。
【0071】
本発明の特定の実施形態を例示の目的のために本明細書で述べたが、本発明の精神及び範囲から逸脱せずに様々な修正を行うことができることは、十分理解されるであろう。
【実施例】
【0072】
(例1)イヌにおける照射後の抗生物質療法及び造血コンパートメントの治療による支持療法
イヌは、上皮組織の放射線損傷を試験するのに特に適した動物モデルである。GI放射線症候群による死亡が高線量率(0.4又は0.7Gy/分)での骨髄機能廃絶非分割全身照射(TBI)を行ったイヌに認められた。0.4Gy/分又は0.7Gy/分の高線量率で行ったTBIに対する反応を評価するために、処置群に単回6、7、8又は10Gy TBIを行い、TBIの完了後にあらかじめ凍結保存しておいた自己骨髄注入及び標準的支持療法を行った。8Gy未満のTBIの線量では、すべてのイヌが生存していた。8Gy TBIの後に、9匹のイヌのうちの5匹が死亡し、10Gy TBIの後に、9匹のイヌのうちの9匹がGI放射線症候群により死亡した。すべての死亡が10Gy TBI後の4日目から6日目までに起こった。すべての死亡が重度の腸出血及び腸陰窩損傷を伴うGI放射線毒性並びに腸上皮の削剥及び腸における限局性壊死に起因していた。抗生物質治療にもかかわらず、死亡に近い時点に得られた血液培養は、4匹のイヌでグラム陰性菌について陽性であり、これはGI管を通しての病原体の侵入と一致していた。8Gy TBIで生存していた4匹のイヌでは、すべてが血球数の減少を示したが、造血が回復し(自己骨髄の投与を受けて以来)、TBI後9〜10日目に好中球数及びTBI後16〜20日目に血小板数が回復した。0.4及び0.7Gy/分群間に結果の差はなかった。TBI線量率を0.05Gy/分又は0.02Gy/分に減少させた場合、イヌは14及び16Gyまでの単回TBI線量に耐え、GI毒性は認められなかった。TBIの分割でもGI放射線症候群及び死亡が回避された。
【0073】
放射線テロリスト攻撃又は放射線療法の被害者に対する有効な療法を明らかにする目的のために、急性照射後の造血症候群の状況におけるGI症候群を考慮することが重要である。自己骨髄支持が後続する高線量率で行った10Gy TBIのイヌモデルは、放射線傷害のGI症候群成分を検討するための実験システムを可能とした。自己骨髄注入は、好中球及び血小板数のより速やかな回復をもたらす。自己骨髄注入により造血症候群の影響を最小限にすることにより、GI放射線症候群を直接的に治療することができる薬物を試験することができる。GI管の局所照射よりもむしろGI放射線症候群を発生させるための高線量TBI投与は、放射線テロリスト攻撃に対する全身性の生物学的反応をモデリングするためのより現実的なシナリオである。
【0074】
支持療法は、放射線療法後の生存に重要であり、併用投与したサイトカイン顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)及びfit−3リガンド(FL)は、7Gy TBIの後の、また8Gy TBIの後でさえも造血の有意な改善及び速やかな回復をもたらす。照射後に行う支持療法の重要性は、1980年代及び1990年代の初期のTBI生存試験の歴史的結果を比較したときに明らかである。歴史的結果は、4Gy TBI(0.07Gy/分、単回)及び支持療法の後に28匹のイヌのうちの1匹のみが生存し、造血が回復したことを示すものであった。
【0075】
支持療法は次のものからなっていた:(a)絶対好中球数(ANC)の>1000/μLへの回復まで薬物投与計画を変更せずに静脈内抗生物質、アンピシリン及びアミカシン並びに非吸収性ポリミキシン/ネオマイシンを投与する;(b)10000/μL未満の血小板数に対する照射全血の輸血(輸血当たり50mL血液);及び(c)皮下液20ml/kgをTBI後の最初の5日間毎日投与する。
【0076】
TBI曝露後、すべてのイヌに経口フルオロキノロン、エンロフロキサシンを投与した。中核体温を1日少なくとも2回測定した。発熱した場合又はANCが100/μL未満に低下した場合、イヌを静脈内第三世代セファロスポリン(セフタジジム)及びアミノグリコシドアミカシンの併用により経験的に治療する。イヌが発熱した時に血液培養を得、血液培養結果に基づいて抗生物質治療を調節する。血液培養陰性好中球減少性発熱が48時間持続する場合、又は臨床状態が客観的に悪化した場合、メトロニダゾール及びバンコマイシンを用いる追加の経験的抗生物質治療を加える。新たな抗生物質療法は、従来の療法と比較して複雑であるが、グラム陰性、グラム陽性及び嫌気性病原体に対する広いスペクトル範囲の改善を反映している。さらに、輸血サポートは、10〜15mL血液/kg/輸血を用いた体重に基づく大量の全血輸血を用いてより集中的である。静脈内輸液サポート(10〜30mL/kg/日乳酸加リンゲル液)の使用は、経口食摂取の完全な回復があるまで、少なくとも14日間さらに延長する。
【0077】
新たな支持療法処置は、TBI後の生存率の有意な改善を示した。4Gy TBI(0.07Gy/分、Varian Clinac 4/80線型加速線源(linear accelerator source))の後に、4匹のイヌのうちの4匹が生存し、造血が回復し、ANC及び血小板の回復までの時間の中央値は、それぞれ27及び41日間であった。ANCの回復は、持続的好中球数>500/μLとなった初日と定義し、血小板の回復は、>40000/μLの輸液非依存的持続的回復の初日と定義した。5Gy TBI後に、6匹のイヌのうちの3匹が支持療法のみで生存していた。死亡は、TBI後それぞれ14、15及び21日目に発生し、好中球減少性敗血症又は肺炎に起因し、GI放射線症候群に起因したものではなかった。生存イヌでは、ANC及び血小板の回復までの時間の中央値は、それぞれ29及び44日間であった。6Gy TBI後に、6匹のイヌのうちの5匹が支持療法のみで生存していた。1例の死亡は、好中球減少性敗血症により22日目に発生した。ANC及び血小板の回復までの時間の中央値は、それぞれ34及び74日間であった。7Gy TBI及び支持療法のみの後、6匹のイヌのうちの5匹が生存し、22日目の1例の死亡は、好中球減少性敗血症に起因していた。ANCの回復までの時間の中央値は、43日であり、血小板の回復は、2匹のイヌでそれぞれ53及び62日目に達成された。2007年4月18日現在、このコホートにおける残りの3匹のイヌは、TBI後66〜95日目に輸液依存のままである。これらの予備的結果から、好中球減少の期間中の複数の経験的広域スペクトル抗生物質、持続的輸液サポート及び攻撃的初期静脈内輸液サポートによる集中的支持療法は、TBI後の生存のために重要であることがわかる。本AI−066498試験において最適支持療法を提供したTBI後のイヌの生存率が改善したことから、我々は未だTBI閾値の99%致死線量に到達していない。
【0078】
サイトカインサポートを用いない支持療法は生存率の改善をもたらすが、造血系の回復を目的とするTBI後に行うサイトカイン療法も結果を改善し、長期の集中的(及び広範な)支持療法の必要を低減した。我々の研究グループによるイヌモデルにおける既存の結果は、さもなければ致死線量の4Gy TBIの後に投与した組換えイヌ(rc)及び組換えヒト(rh)G−CSFが放射線誘発性細胞減少による死亡を予防したことを立証した試験を含むものであった。1980年代及び1990年代初期に、4Gy TBI及び支持療法のみの後に、28匹のイヌのうちの1匹のみが生存し、造血の回復を示した。これと対照的に、4Gy TBI後にG−CSFを21日間毎日投与した場合、10匹のイヌのうちの8匹が生存した。5Gy TBI後に、G−CSFの投与が10匹のイヌのうちの3匹の生存をもたらした。これらの試験は、放射線事故の被害者の治療に関する現在の臨床ガイドラインを確立する助けとなった。
【0079】
TBI後に投与したG−CSF及びFLは、支持療法のみと比較してANC及び血小板数の改善及びより速やかな回復を示す。5Gy TBI及び照射の終了の2時間後に開始したG−CSF(10μg/kg/日)の毎日の投与の後に、6匹のイヌのうちの6匹が生存した。ANC及び血小板の回復までの時間の中央値は、それぞれ20及び44日であり、G−CSFが支持療法のみと比較して好中球のより速やかな回復を促進したことが示唆された。6Gy TBI及びG−CSF治療の後に、6匹のイヌのうちの5匹が生存し、ANC及び血小板の回復までの時間の中央値は、それぞれ26及び61日であった。1匹のイヌは、ANC>500/μLを回復しなかったため77日目に安楽死させた。6Gy TBI及びTBIの2時間後に開始し、ANC>1000/μLの回復まで継続したG−CSF(10μg/kg/日)及びFL(100μg/kg/日)の併用による治療の後、5匹のイヌのうちの5匹が生存した。ANC及び血小板の回復までの時間の中央値は、それぞれ20及び47日であった。G−CSF及びFLによる治療は、支持療法のみと比較して有意に改善された好中球及び血小板の回復を示した。7Gy TBI及びG−CSF+FLの後、6匹のイヌのうちの6匹が生存し、ANC及び血小板の回復までの時間の中央値は、それぞれ20及び56日であった。G−CSF及びFLによる治療は、より高線量の7Gy TBIの後の支持療法のみと比較して好中球及び血小板の回復のより実質的な改善を示した。G−CSF及びFLの中止後に、末梢血液数は、安定のままであり、正常レベルに戻り続けた。イヌは、免疫機能の回復の評価によりTBIの6カ月後まで追跡した。TBI後6カ月目の現在までのところ、イヌは、in vivo及びin vitroでのネオ抗原に対するT及びB細胞反応に基づいて正常な免疫機能を回復している。
【0080】
(例2)KGFによる放射線傷害の治療
イヌKGF遺伝子をクローニングし、配列決定を行った。RhKGFは、イヌKGFとの97.4%のアミノ酸配列相同性を有する。マウスKGFタンパク質は、rhKGFに対して94%の相同性を有する。さらに、KGF受容体(FGFR2IIIb)は、3動物種すべての間で98%の相同性を有する。RhKGFを上述のin vivoマウス試験のすべてに用いた。rhKGFは、イヌにおいて同等の生物学的活性を有する。RhKGFは、イヌにおいて腸上皮細胞防護活性を有する。KGF療法は、放射線による腸、胸腺及び骨髄間質上皮の損傷を低減し、それにより、TBI誘発性GI毒性及び汎血球減少後の生存率を改善し、より速やかな腸上皮の回復及び免疫再構築をもたらす。
【0081】
3匹の非照射イヌにrhKGF 100μg/kg/日をそれぞれ7、14及び21日間投与した。KGFの最終投与の24時間後にイヌを安楽死させ、完全な剖検を行った。KGFの14及び21日間の投与を受けたイヌでは、回腸におけるパイアー斑のサイズ及び細胞充実度の劇的な増加並びに空腸における絨毛のサイズの劇的な増加があった。
【0082】
高線量全身照射(TBI)を防御するKGFの能力を評価するために、KGFを、TBIの線量が>80%の致死率をもたらしたTBIの2時間後に開始して100μg/kg/日の用量で静脈内投与し、GI管機能が完全に臨床的回復するまで毎日投与した。イヌを、TBIの開始後30日まで生存についてモニターした(実験の主要エンドポイント)。KGFのこの用量は、TBIの投与後の≧70%の生存率をもたらした。TBI後の生存率を有意に改善する薬物療法を明らかにするために3匹のイヌのコホートにおけるイヌを評価し、次に30日目の生存率を評価する同時対照群と比較して統計的有意性をさらに評価するために治療群当たり12匹までのイヌのより大規模な群に進めた。副次的エンドポイントは、GI管の回復の組織学的及び生理学的証拠が得られるまでの時間などであった。イヌのサブセットは、組織学的に、またwnt/bカテニン及びノッチシグナリングの分子的評価により薬物療法の効果を評価するための連続的内視鏡検査を受けた。イヌはまた、回復まで毎日のCBCにより追跡し、免疫機能の回復について評価した。支持療法処置及び自己骨髄注入を同時に行い、KGF及びBDPの併用を評価した。
【0083】
(例3)BDPによる放射線傷害の治療
例2と同様に、BDPをTBIの2時間後からGIの回復まで4mg/日の用量で投与し、同じ実験エンドポイントをモニターした。BDPは、70%を超える生存率をもたらした。
【0084】
(例4)KGF及びBDPによる放射線傷害の併用治療
支持療法処置及び自己骨髄注入を同時に行い、KGF及びBDPの併用を評価した。TBIの線量が>80%の致死率をもたらしたTBIの2時間後に開始して、経口BDP(又はBec)を4mg/日の用量で静脈内に100μg/kg/日を投与するKGFと同時にTBIの2時間後からGIの回復まで投与した。イヌを副腎抑制についてモニターした。
【0085】
(例5)炭酸リチウムによる放射線傷害の治療
炭酸リチウムを300mg/日で投与して0.7〜1.4mEq/Lの定常状態血清治療レベルを達成させ[34]、週1回レベルをモニターした。リチウムの定常状態に達したときにTBIを開始し、例1で述べたように生存及び他のエンドポイントについてイヌをモニターした。
【0086】
(例6)炭酸リチウム及びBDPによる放射線傷害の併用治療
炭酸リチウムを300mg/日で投与して0.7〜1.4mEq/Lの定常状態血清治療レベルを達成させ[34]、週1回レベルをモニターした。同時のBDPは4mg/日の用量で投与した。リチウムの定常状態に達したときにTBIを開始し、例1で述べたように生存及び他のエンドポイントについてイヌをモニターした。