【実施例】
【0027】
以下、本発明の実施例を比較例と対比して説明し、その効果を実証する。なお、これらの実施例は、本発明の一実施態様を示すものであり、本発明はこれらに限定されない。
【0028】
実施例1、比較例1
表1に示す組成を有するアルミニウム合金(発明材:A〜J、比較材:K〜T)をDC鋳造により造塊し、得られた鋳塊を、550℃で24時間均質化処理した後、室温まで冷却し、その後、390℃まで再加熱して熱間圧延を開始し、厚さ4.0mmまで圧延した。熱間圧延の終了温度は240℃とした。続いて、0.9mmまで冷間圧延を行った。表1において、本発明の条件を外れたものには下線を付した。
【0029】
得られた冷間圧延材について、550℃で40秒間の溶体化処理を行い、10℃/秒の冷却速度で20℃の焼入れ温度まで急冷した。20℃で5分保持した後、100℃/分の昇温速度で100℃の中間予備時効温度まで加熱して、100℃で1分間保持する中間予備時効を行った。その後、20℃/分の冷却速度で80℃の予備時効温度まで冷却して、80℃で1時間保持する予備時効を行い、40℃まで冷却して、40℃にて3日および30日保持した後、以下の方法で引張性質、塗装焼付硬化性、成形性を評価した。結果を表2に示す。
【0030】
引張性質:
40℃にて3日および30日保持した板材(試験材)について、圧延方向に対して垂直方向にJIS5号引張試験片を採取して、引張試験を行い、3日保持した試験材の耐力(初期耐力)および30日保持した試験材の耐力(時効後耐力)を測定した。
【0031】
塗装焼付硬化性:
40℃にて30日保持した板材(試験材)について、圧延方向に対して垂直方向にJIS5号引張試験片を採取し、2%の引張変形を施した後、175℃にて30分熱処理を行った後、常温で引張試験を行い、耐力200MPa以上を合格、200MPa未満を不合格(×)と評価した。
【0032】
成形性:
40℃にて30日保持した板材(試験材)について、平面ひずみの破断限界ひずみ量、曲げ試験時の曲げ割れ発生有無を調査して、評価を行った。
平面ひずみの破断限界ひずみ量は、次に示す手順で測定した。圧延方向に対して垂直方向に幅140mm、長さ200mmの試験片を採取し、試験片に直径5mmのスクライブドサークルを転写した後、直径100mmの球頭パンチを用いた張出試験を行った。張出試験時の成形条件はしわ押さえ力:200kN、成形速度:200mm/分、潤滑油:高粘度油(動粘度1000mm
2/s)とした。張出試験後のパネルを用いて、破断部近傍の主ひずみ方向のスクライブドサークル径(寸法A)を測定した後、次式により、平面ひずみの破断限界ひずみ量を算出し、0.20以上を曲げ加工性合格(○)、0.20未満を曲げ加工性不合格(×)と評価した。
(平面ひずみの破断限界ひずみ量)=((寸法A)−5mm)/5mm
【0033】
曲げ試験時の曲げ割れ発生有無は、次に示す手順で評価した。圧延方向に対して垂直方向に幅25mm、長さ200mmの試験片を採取し、10%の引張変形を施した後、内側曲げ半径0.4mmの180°曲げ試験を行った。曲げ加工性の評価は目視による曲げ部の外観観察により行い、割れの発生していないものを合格(○)、割れが発生したものを不合格(×)と評価した。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
表2に示すように、本発明に従う試験材1〜10はいずれも、塗装焼付硬化性および成形性に優れていた。
【0037】
これに対して、試験材11、試験材13はそれぞれSi量、Mg量が少ないため、いずれも塗装焼付後の耐力が低く塗装焼付硬化性が劣っていた。試験材12、試験材14、試験材15はそれぞれSi量、Mg量、Cu量が多いため、いずれも初期耐力および時効後耐力が大きく、平面ひずみの破断限界ひずみ量が低く、曲げ割れが発生し、成形性に劣っていた。
【0038】
試験材16、試験材17はそれぞれFe量、Mn量が多いため、いずれも塗装焼付後の耐力が低く、塗装焼付硬化性に劣っていた。また、平面ひずみの破断限界ひずみ量が低く、曲げ割れも発生し、成形性にも劣っていた。試験材18、試験材19、試験材20はそれぞれCr量、V量、Zr量が多いため、いずれも平面ひずみの破断限界ひずみ量が低く、曲げ割れが発生し、成形性に劣っていた。
【0039】
実施例2、比較例2
表1に示すアルミニウム合金Aの鋳塊を、550℃で12時間均質化処理した後、室温まで冷却し、その後、410℃まで再加熱して熱間圧延を開始し、厚さ3.0mmまで圧延した。熱間圧延の終了温度は240℃とした。続いて、0.9mmまで冷間圧延を行った。
【0040】
得られた冷間圧延材について、表3に示すように、470〜590℃で60秒の溶体化処理を行い、0.2℃/秒および2℃/秒の冷却速度で5〜65℃の焼入れ温度まで冷却して、焼入れ温度で3〜70分保持した後、0.2℃/分および2℃/分の昇温速度で70〜160℃の中間予備時効温度まで加熱して、中間予備時効温度で1〜20分間保持する中間予備時効を行った。なお、表3において、本発明の条件を外れたものには下線を付した。
また、表3において、試験材26は参考として示すものである。
【0041】
その後、5℃/分の冷却速度で70℃の予備時効温度に加熱して、3時間保持する予備時効を行い、40℃まで冷却した。その後、40℃の温度に3日および30日保持した後、実施例1と同じ方法で引張性質、塗装焼付硬化性、成形性を評価した。結果を表3に示す。
【0042】
【表3】
【0043】
表3に示すように、本発明の条件に従う試験材
21〜25、27、28はいずれも、塗装焼付硬化性および成形性に優れていた。
【0044】
これに対して、試験材29は溶体化処理温度が低いため、試験材31は溶体化処理後の冷却速度が低いため、試験材32は焼入れ温度が高いため、試験材33は焼入れ温度での保持時間が
長いため、試験材36は中間予備時効温度までの昇温速度が低いため、また、試験材37は中間予備時効温度での保持時間が長いため、いずれも塗装焼付後の耐力が低く塗装焼付硬化性に劣っていた。
【0045】
試験材35は中間予備時効温度が高いため、初期耐力および時効後耐力が大きく、平面ひずみの破断限界ひずみ量が低く、曲げ割れが発生し成形性に劣っていた。なお、試験材30は、溶体化処理温度が高く、溶体化処理中に局所融解が生じたため、各評価試験を行うことができなかった。
【0046】
実施例3、比較例3
表1に示すアルミニウム合金Aの鋳塊を、540℃で16時間均質化処理した後、室温まで冷却し、その後、380℃まで再加熱して熱間圧延を開始し、厚さ2.5mmまで圧延した。熱間圧延の終了温度は240℃とした。続いて、0.9mmまで冷間圧延を行った。
【0047】
得られた冷間圧延材について、550℃で50秒の溶体化処理を行い、20℃/秒の冷却速度で30℃の焼入れ温度まで冷却して、焼入れ温度で2分保持した後、75℃/分の昇温速度で150℃の中間予備時効温度まで加熱して、中間予備時効温度で0.5分間保持する中間予備時効を行った。
【0048】
その後、0.2℃/分および2℃/分の冷却速度で40〜150℃の予備時効温度まで冷却して、30秒〜20時間保持する予備時効を行い、40℃まで冷却した。その後、40℃の温度に3日および30日保持した後、実施例1と同じ方法で引張性質、塗装焼付硬化性、成形性を評価した。結果を表4に示す。なお、表4において、本発明の条件を外れたものには下線を付した。
【0049】
【表4】
【0050】
表4に示すように、本発明の条件に従う試験材38〜42はいずれも、塗装焼付硬化性および成形性に優れていた。
【0051】
これに対して、試験材43は予備時効温度が低いため、試験材45は予備時効温度までの冷却速度が低いため、試験材46は予備時効時間が短いため、いずれも塗装焼付後の耐力が低く塗装焼付硬化性に劣っていた。
【0052】
試験材44は予備時効温度が高いため、試験材47は予備時効温度での保持時間が長いため、いずれも初期耐力および時効後耐力が大きく、平面ひずみの破断限界ひずみ量が低く、曲げ割れが発生し成形性に劣っていた。
【0053】
実施例4、比較例4
表1に示すアルミニウム合金Aの鋳塊を、540℃で24時間均質化処理した後、室温まで冷却し、その後、400℃まで再加熱して熱間圧延を開始し、厚さ3.5mmまで圧延した。熱間圧延の終了温度は240℃とした。続いて、0.9mmまで冷間圧延を行った。
【0054】
得られた冷間圧延材について、540℃で60秒の溶体化処理を行い、15℃/秒の冷却速度で15℃の焼入れ温度まで冷却して、焼入れ温度で10分保持した後、50℃/分の昇温速度で150℃の中間予備時効温度まで加熱して、中間予備時効温度で1分間保持する中間予備時効を行った。
【0055】
その後、表5に示すように、0.2℃/分および2℃/分の冷却速度で予備時効温度より20℃低い温度まで冷却した後、この冷却温度から0.2℃/分および2℃/分の昇温速度で40〜150℃の予備時効温度に加熱して、30秒〜20時間保持する予備時効を行い、40℃まで冷却した。その後、40℃の温度に3日および30日保持した後、実施例1と同じ方法で引張性質、塗装焼付硬化性、成形性を評価した。結果を表5に示す。なお、表5において、本発明の条件を外れたものには下線を付した。
【0056】
【表5】
【0057】
表5に示すように、本発明の条件に従う試験材48〜52はいずれも、塗装焼付硬化性および成形性に優れていた。
【0058】
これに対して、試験材53は予備時効温度が低いため、試験材55は中間予備時効後の冷却温度が低いため、試験材56は予備時効温度までの昇温速度が低いため、試験材57は予備時効温度での保持時間が短いため、いずれも焼付塗装後の耐力が低く、塗装焼付硬化性が劣っていた。試験材54は予備時効温度が高いため、試験材58は予備時効温度での保持時間が長いため、いずれも初期耐力および時効後耐力が大きく、平面ひずみの破断限界ひずみ量が低く、曲げ割れが発生し成形性に劣っていた。