(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5709391
(24)【登録日】2015年3月13日
(45)【発行日】2015年4月30日
(54)【発明の名称】多層熱的保護システム及び多層熱的保護システムを形成する方法
(51)【国際特許分類】
C04B 41/87 20060101AFI20150409BHJP
F01D 5/28 20060101ALI20150409BHJP
C23C 4/04 20060101ALI20150409BHJP
B32B 15/04 20060101ALI20150409BHJP
C04B 37/00 20060101ALI20150409BHJP
【FI】
C04B41/87 J
F01D5/28
C23C4/04
B32B15/04 B
C04B37/00 A
【請求項の数】29
【外国語出願】
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2010-71443(P2010-71443)
(22)【出願日】2010年3月26日
(65)【公開番号】特開2010-229026(P2010-229026A)
(43)【公開日】2010年10月14日
【審査請求日】2013年3月22日
(31)【優先権主張番号】09156515.0
(32)【優先日】2009年3月27日
(33)【優先権主張国】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】503416353
【氏名又は名称】アルストム テクノロジー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】ALSTOM Technology Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(74)【復代理人】
【識別番号】100165939
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 孝博
(72)【発明者】
【氏名】ハンス−ペーター ボスマン
(72)【発明者】
【氏名】シャラス バッチゲゴウダ
(72)【発明者】
【氏名】マチュー エスケール
(72)【発明者】
【氏名】リコ イーテン
【審査官】
小川 武
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭59−004824(JP,A)
【文献】
特開昭63−163703(JP,A)
【文献】
特開2003−120205(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0216547(US,A1)
【文献】
特開2009−108410(JP,A)
【文献】
特開2007−182631(JP,A)
【文献】
特開2007−008806(JP,A)
【文献】
特開2006−193828(JP,A)
【文献】
特表2005−503940(JP,A)
【文献】
特表2004−514064(JP,A)
【文献】
米国特許第06455167(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 37/00−37/02,41/87
B32B 15/04
C23C 4/04
F01D 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層熱的保護システムにおいて、第1のセラミック層(3)が、ボンディングコート層(4)を介して金属基板(5)に取り付けられており、第1のセラミック層(3)上に、セラミック接着剤層(2)を介して第1のセラミック層(3)に取り付けられた少なくとも1つの第2のセラミック層(1)が設けられており、第1のセラミック層(3)が、プラズマ溶射によって提供されており、第2のセラミック層(1)が、αアルミナ及び/又はマグネシアから成り、第1のセラミック層(3)に接着により取り付けられたモノリシックセラミックエレメントを含み、
モノリシックセラミックエレメントが、タイル、柱状構造、ブロック構造、又はこれらの組み合わせのグループから選択された、前もって製造されたエレメントであり、前もって製造されたエレメントが、前もって製造され、基板(5)に提供される前に既に焼結されており、前もって製造されたエレメントが、使用時にもはやさらなる焼結プロセスを受けないように、1600℃の温度において焼結されることを特徴とする、多層熱的保護システム。
【請求項2】
第1のセラミック層(3)が、0.1〜2mmの厚さを有しており、第2のセラミック層(1)が、2〜35mmの厚さを有していることを特徴とする、請求項1記載の多層熱的保護システム。
【請求項3】
第1のセラミック層(3)が、0.1〜2mmの厚さを有しており、第2のセラミック層(1)が、5〜10mmの厚さを有していることを特徴とする、請求項1又は2記載の多層熱的保護システム。
【請求項4】
第1のセラミック層(3)が、1150℃以下の耐熱温度(Tmax)を有しており、第2のセラミック層(1)が、第1のセラミック層(3)よりも高い耐熱温度(Tmax)を有しており、
第2のセラミック層(1)の耐熱温度(Tmax)が、第1のセラミック層(3)の耐熱温度(Tmax)よりも、少なくとも100℃だけ高く、
第2のセラミック層(1)が、少なくとも1200℃の耐熱温度(Tmax)を有していることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の多層熱的保護システム。
【請求項5】
第1のセラミック層(3)が、1100℃以下の耐熱温度(Tmax)を有することを特徴とする、請求項4記載の多層熱的保護システム。
【請求項6】
第2のセラミック層(1)の耐熱温度(Tmax)が、第1のセラミック層(3)の耐熱温度(Tmax)よりも、少なくとも200度だけ高いことを特徴とする、請求項4記載の多層熱的保護システム。
【請求項7】
第2のセラミック層(1)が、少なくとも1500℃の耐熱温度(Tmax)を有することを特徴とする、請求項4記載の多層熱的保護システム。
【請求項8】
第2のセラミック層(1)が、1200〜1750℃の耐熱温度(Tmax)を有することを特徴とする、請求項4記載の多層熱的保護システム。
【請求項9】
第2のセラミック層(1)が、単層、多層又はグレード付けされた層のシステムであることを特徴とする、請求項4記載の多層熱的保護システム。
【請求項10】
第2のセラミック層(1)が、αアルミナベース及び/又はマグネシアベースであることを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項記載の多層熱的保護システム。
【請求項11】
第2のセラミック層(1)が、少なくとも1つの表面露出層(1a)と、少なくとも1つの下側に位置する付加的な層(1b)とを有しており、表面露出層(1a)が、ギャップ(7)によって分離されたタイル(8)の二次元の配列として構成されていることを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項記載の多層熱的保護システム。
【請求項12】
タイルが、矩形、方形、菱形、又は六角形であることを特徴とする、請求項11記載の多層熱的保護システム。
【請求項13】
両次元におけるタイルの側方延長が、15〜35mmであることを特徴とする、請求項11又は12記載の多層熱的保護システム。
【請求項14】
両次元におけるタイルの側方延長が、20〜30mmであることを特徴とする、請求項13記載の多層熱的保護システム。
【請求項15】
タイル(8)の間のギャップ(7)が、基板表面の平面に対して垂直な平行な側壁を備えたスロットであることを特徴とする、請求項11から14までのいずれか1項記載の多層熱的保護システム。
【請求項16】
タイル(8)の間のギャップ(7)が、基板表面の平面に対して傾斜した平行な側壁を備えたスロットであることを特徴とする、請求項11から14までのいずれか1項記載の多層熱的保護システム。
【請求項17】
タイル(8)の間のギャップ(7)が、係止形状を備えたスロットであることを特徴とする、請求項11から14までのいずれか1項記載の多層熱的保護システム。
【請求項18】
セラミック接着剤層(2)が、アルミン酸カルシウムベースの耐火セメントペースト層であることを特徴とする、請求項1から17までのいずれか1項記載の多層熱的保護システム。
【請求項19】
セラミック接着剤層(2)が、アルミン酸カルシウムから成る耐火セメントペースト層であることを特徴とする、請求項1から17までのいずれか1項記載の多層熱的保護システム。
【請求項20】
金属基板(5)が、ニッケルベース超合金であることを特徴とする、請求項1から19までのいずれか1項記載の多層熱的保護システム。
【請求項21】
ボンディングコートが、MCrAlYから成る及び/又はPtAlから成り、M=Co、Ni又はCo/Niであることを特徴とする、請求項1から20までのいずれか1項記載の多層熱的保護システム。
【請求項22】
ボンディングコートの組成が、25Cr5.5Al2.5Si1Ta0.6Yで残りがNiであることを特徴とする、請求項1から20までのいずれか1項記載の多層熱的保護システム。
【請求項23】
ボンディングコートの組成が、12Co20Cr11Al2.7Si1Ta0.6Yで残りがNiであることを特徴とする、請求項1から20までのいずれか1項記載の多層熱的保護システム。
【請求項24】
第1のセラミック層(3)が、7YSZベースであるか又は7YSZから成ることを特徴とする、請求項1から23までのいずれか1項記載の多層熱的保護システム。
【請求項25】
少なくともセラミック接着剤層(2)との1つの境界面において、機械的な結合補助手段が、ボンディングコート(4)及び/又は第1のセラミック層(3)及び/又は接着剤層(4)及び/又は第2のセラミック層(1)に設けられた溝、リブ、アンカー、及び/又は表面組織の形式で提供されていることを特徴とする、請求項1から24までのいずれか1項記載の多層熱的保護システム。
【請求項26】
請求項1から25までのいずれか1項記載の多層熱的保護システムを製造する方法において、第1のセラミック層(3)をボンディングコート層(4)を介して金属基板(5)に取り付けるステップと、第1のセラミック層(3)にセラミック接着剤層(2)を介して少なくとも1つの第2のセラミック層(1)を取り付けるステップとを有しており、第1のセラミック層(3)が、プラズマ溶射によって提供され、第2のセラミック層(1)が、第1のセラミック層(3)に接着剤により取り付けられたモノリシックセラミックエレメントを含んでおり、接着剤取付けが、セメントを用いて行われており、該セメントを、室温で、4〜12時間に亘って、接合面に対して垂直に提供される70〜850g/cm2の範囲の圧縮荷重を加えながら乾燥させるステップを有しており、さらに、その後、5〜15時間に亘って、500〜600℃の温度で硬化させるか又は硬化させることによって交換/補足され、硬化が、接合面に垂直に加えられる250g/cm2までの硬化荷重を加えながら生じることを特徴とする、多層熱的保護システムを製造する方法。
【請求項27】
1400℃よりも高い温度に曝される構成部材の少なくとも部分を被覆するための、請求項1から25までのいずれか1項記載の多層熱保護システムの使用。
【請求項28】
1400℃よりも高い温度の高温ガスに曝される、ガスタービンにおける高温ガス通路に曝される構成部材を少なくとも部分的に被覆するための、請求項1から25までのいずれか1項記載の多層熱保護システムの使用。
【請求項29】
包囲する部材が、ボンディングコート層(4)によって金属基板(5)に取り付けられた遮熱コーティング層から成る遮熱コーティングシステムで被覆されている一方で、高温ガス通路に曝されるガスタービン部材の最も高温に曝される部分のみを選択的に被覆するための、請求項1から25までのいずれか1項記載の遮熱コーティング層システムの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にガスタービン等の機械の高温ガス通路に曝される構成部材の保護のために使用されるような遮熱コーティング(TBC)の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービン(GT)は、より高い効率を有することがますます要求されており、これは、通常、主に、少なくとも極めて短い時間だけ1750℃までの燃焼温度の上昇と、GT構成部材への減じられた冷却努力とによって達成される。これらの構成部材は、高温の取扱いに加えて、より長期間に亘って過酷なGT環境(24000時間を超える作動時間)に対処することもできるべきである。これらは、高温及び過酷な環境を取り扱うことができる遮熱コーティングシステムを製造するための以下の主な手段がある。すなわち、
1.卑金属/ボンディングコート(BC)/遮熱コーティング(TBC)
2.卑金属/BC/TBC/環境バリアコーティング(EBC)
3.セラミックマトリックス複合材(CMC)
a)酸化物CMC+高温絶縁
b)非酸化物CMC+EBC
4.例えば米国特許出願公開第2003/0207155号明細書に開示されているような自立型ハイブリッドセラミック構造体
【0003】
材料の温度能力T
maxは、特に産業用ガスタービン用途の場合、機能の著しい損失(例えば、破砕による遮熱バリア効果の低減、焼結によるひずみ公差、燃焼ガス成分の環境的攻撃による劣化、熱的相安定性)を生じずに、ガスタービン燃焼ガス環境において24000時間継続できる最高可能表面温度として規定されている。約7wt%のイットリア安定化ジルコニア(7YSZ)を備える従来のTBCシステムのT
maxは、熱サイクル(タービンの始動−停止サイクル)のためのより高い剛性及びより低いひずみ公差を生じる焼結動作により、1150℃未満に決定されている。また、YSZの熱的相安定性は、長期動作のために約1100℃に制限されている。燃焼ガスを形成するCa化合物による環境的攻撃のためのT
maxは、約1200℃に決定された。
【0004】
全てのこれらの劣化プロセスは、熱的に活性化されるので(反応率の指数増大)、T
maxは、未使用材料と比較して著しい材料劣化が生じる温度として定義される。
【0005】
劣化の定量化は、従来の試験及び評価ツール、例えばX線回折、ヌープ硬さ、SEM、膨張計等によって行われることができる。
【0006】
この従来のコーティングシステムの制限は、本質的に以下のように要約されることができる。
【0007】
1.MCrAlY/7wt%イットリア安定化ジルコニア(7YSZ)をベースにする現在のBC/TBCシステムは、温度能力と、過酷なGT環境に耐える能力との観点から限界に達した。これらのシステムのより高い温度は、限界に達しており、バナジウム等の燃料における汚染物及びカルシウムマグネシウムアルミノケイ酸塩(CMAS)等の環境的汚染物による攻撃を受けやすい。
【0008】
2.機能的に分離されたセラミックスの二重の/グレードを有する層から成るTBC/EBCシステムにおいて、TBCは、温度保護を提供し、EBCは、GTの過酷な環境からTBCを保護することが意図されている。これらのシステムは、依然として、EBC層を形成する付加的な薄いコーティングを備えた慣用のBC/TBC設計に基づく。
【0009】
3a.酸化物ベースのCMCは、温度能力の観点から制限されており、高温絶縁層を用いて保護される必要がある。酸化物ベースのCMCは、断熱層の適用と共に、1100℃の温度能力を有しており、ムライト(アルミノケイ酸塩)ベースのシステムが知られており、このシステムは、著しく多孔質であり、長期用途のために1400℃までの温度を取り扱うことができる。これらのシステムは、付加的なEBCを必要としない。なぜならば、CMC材料は環境的攻撃に対して耐性であるからである。T
maxは、ファイバ及びマトリックスの焼結により生ぜしめられる低いひずみ公差により、このようなシステムのために1200℃未満に制限されており、長期運転のための不十分な熱サイクル動作を提供する。
【0010】
3b.非酸化物ベースのCMCは、最も高い温度(1600℃)を取り扱うことができる。しかしながら、このCMCは、GT環境による攻撃(特に、水蒸気の作用によるリセッション)を受けやすく、EBCを用いて保護される必要がある。これらのシステムは、EBC層によって保護されている場合には過酷なGT雰囲気に耐えることができるが、10年以上の開発の後、腐食問題が依然として完全に解決されていない。なぜならば、EBCにおけるあらゆるき裂が、コンポーネントの完全な故障につながる恐れがあるからである。
【0011】
欧州特許第1806435号明細書は、金属基板上にボンディングコートが設けられており、このボンディングコート上に、セラミック材料がベースのいわゆる内側層が配置されており、その後にセラミック材料がベースの外側層が配置されていることが記載されている。選択的に、この最も外側の層に、付加的に、アルミナ層が提供される。このような層構造を形成することに関連して、前もって製造されたモノリシックセラミックエレメントを提供することは開示されていない。
【0012】
米国特許出願公開第2006/280954号明細書は、金属ベースの基板ではなく、シリコン含有基板上の層構造に関する。アルミン酸カルシウムを含む最も外側のシール層が設けられており、このシール層には別のTBC層が設けられることができる。やはり、この文書は、このような層構造を形成することに関連して、前もって製造されたモノリシックセラミックエレメントの適用を開示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許出願公開第2003/0207155号明細書
【特許文献2】欧州特許第1806435号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2006/280954号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって、本発明の目的は、将来のガスタービンに必要とされる高温及び過酷な環境を取り扱うことができる熱的保護システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
これは、典型的に、金属基板(コンポーネント、例えばニッケルベースの超合金)における4層金属/セラミックハイブリッドシステムによって達成される。システムの特別な態様は、例えば、従来の金属/BC/TBCを利用することに基づき、金属/BC/TBCシステムに、過酷なGT環境に耐えることができる高温能力セラミック材料を接合することによってその温度能力を高めることである。
【0016】
特に、本発明は、多層熱的保護システムに関し、この多層熱的保護システムにおいては、第1のセラミック層(TBC層)がボンディングコート層を介して金属基板に取り付けられている。第1のセラミック層には、セラミック接着剤層を介して第1のセラミック層に取り付けられた少なくとも1つの第2のセラミック層が設けられている。第1のセラミック層は、通常、プラズマ溶射(又は別の溶射方法)によって塗布され、第2のセラミック層は、セラミック接着剤層によって第1のセラミック層に接着されたモノリシックセラミックエレメントを含む。
【0017】
モノリシックセラミックエレメントは、タイル、柱状構造、ブロック構造等の形式であることができる、前もって製造されたエレメントとして理解されるべきであり、重要なことは、これらのエレメントが、基板に提供される前に前もって製造され、既に焼結されているということである。これらのモノリシックセラミックエレメントは、通常、約1600℃の温度で焼結され、したがって、機械に取り付けられた場合にさらに焼結が行われることがない。
【0018】
通常、第1のプラズマ溶射されたセラミック層は、0.1〜2mmの厚さを有している。
【0019】
通常、第2のセラミック層、すなわち、モノリシックセラミックエレメントは、(基板の平面に対して垂直方向で測定した場合)2〜35mm、好適には5〜10mmの厚さを有している。
【0020】
1つの好適な実施形態によれば、第1のセラミック層は低温セラミック層であり、第2のセラミック層は高温セラミック層である。これは、第1のセラミック層が、例えば上述のような慣用のTBC層の場合のように、通常、1150℃以上、好適には1100℃以上の温度能力T
maxを有していることを意味する。
【0021】
第2のセラミック層、すなわちモノリシックセラミックエレメントは、好適には第1のセラミック層よりも高い温度能力T
maxを有している。これは、好適には、第2のセラミック層のT
maxが、第1のセラミック層の温度能力T
maxよりも、少なくとも100℃、好適には少なくとも200℃又は300℃だけ大きいということを意味する。
【0022】
通常、第2のセラミック層は、少なくとも1200℃、より好適には少なくとも1500℃、さらにより好適には1200℃〜1750℃の温度能力T
maxを有している。第2の層のT
maxは、焼結、相安定性、及び環境安定性によって規定される。
【0023】
上述のように、材料の温度能力T
maxは、特に、産業用ガスタービン用途の場合、破砕による減じられた遮熱効果、焼結によるひずみ公差、燃焼ガス成分の環境攻撃による劣化、熱的な相安定性等の機能の著しい損失を生じることなく、ガスタービン燃焼ガス環境において24000時間継続できる最大可能な表面温度として規定される。
【0024】
温度能力の決定のための劣化の定量化は、従来の試験及び評価ツール、例えばX線回折、ヌープ硬さ、SEM、膨張計等によって行われることができ、これらの量の測定に関して、以下の文献が参照される:ASTM C1326-08el Standard Test method for Knoop Indentation Hardness of Advanced Ceramics; ASTM E831 Standard Test Method for Linear Thermal Expansion of Solid Materials by Thermomechanical Analysis; G.Witz, V.Shklover, W.Steuer, S.Bachegowda, H.-P.Bossmann: MONITORING THE PHASE EVOLUTION OF YTTRIA STABILIZED ZIRCONIA IN THERMAL BARRIER COATING USING THE RIETVELD METHOD, Journal of the American Ceramic Society, Volume 90 Issue 9, Pages 2935-2940(2007)。
【0025】
これらの量を用いて、温度能力は、Witzからの上述の刊行物に記載のように決定されることができる。時間と温度の関係が、1100℃〜1400℃の温度範囲に亘って、露出時間1時間〜1400時間に亘って確立された。相進化(又は相安定性)の測定された運動学は、熱的に活性化されたプロセスのためのアレーニウス式を用いて温度依存と組み合わされた。露出のある時間のためのT
maxは、これらのデータから外挿(補外)されることができる。このアプローチは、焼結安定性及び環境的安定性のためにも適用可能である。この目的のために、個々の層は、独立型の層として試験及び調査されることができる。
【0026】
システムの性質は、隣接し合う層の間の熱的な不適合が最小限に抑制され、これにより、様々な層の境界面における内部応力を低減することを保証する。
【0027】
金属/BC/TBCシステムは、制限された温度能力を有しており、より高い温度を取り扱うことができかつより高い環境的耐性を有する独立したセラミック部材を、金属/BC/TBCシステムの高温ガスに曝される表面に接合することによって、システムは、1400℃を超える温度で運転するように形成されることができる。
【0028】
上部のセラミック部分は、従来のあらゆるプロセスによって製造される単層、多層又はグレード付けされたシステムであることができる。この独立した部分は、金属/BC/TBCシステムに接合されている。好適な接合法は接着剤であり、セラミックセメントペーストによって達成される。この場合に使用されるセメントペーストは、好適には60〜90wt%(ほぼ30〜70vol%に等しい)の固液比を有している。
【0029】
本発明は、上に定義されかつ以下でさらに説明されるような多層熱的保護システムを形成する方法にも関する。
【0030】
湿ったセメントが、例えばスポンジを使用して部材の表面に塗布されることができる。セメントの厚さは好適には0.5mm未満、より好適にはセメント厚さは0.1mm未満、又は0.05mmの範囲である。
【0031】
セメントは好適には、4〜12時間に亘って室温で乾燥させられる。好適には、乾燥は、好適には接合面に対して垂直に提供される、70〜850g/cm
2の範囲の圧縮荷重を受けながら行われる("湿った荷重")。荷重は、例えば重力及び重りとして鋼板を使用することによって生ぜしめることができる。湿った荷重は、接合接着に対して著しい影響を与えることができる。
【0032】
セメントは、好適には500〜600℃の範囲の温度で、より好適には5〜15時間の間に、大気圧ボックス炉において硬化させられることができる。好適には、硬化は、接合面に対して垂直に提供される、250g/cm
2までの硬化荷重を受けながら生じる。段階的な硬化方式も可能である。例えば、別の好適な実施形態よれば、接合面に対して垂直に提供される250g/cm
2までの硬化荷重を与えながら、セメントを90〜100℃の範囲で0.5〜3時間に亘って硬化させた後、200〜300℃の温度で0.5〜3時間に亘って硬化させ、さらにその後、300〜400℃の範囲の温度で0.5〜3時間に亘って硬化させることができる。特定の用途/材料のためには、500〜700℃で3〜6時間に亘って硬化させる最終ステップが使用されることができる。
【0033】
好適な実施形態によれば、第2のセラミック層は、2〜20mm、好適には5〜10mmの厚さを有する。第2のセラミック層は(第1のセラミック層も)単層、多層、又はグレード付けされた層システムであることができる。
【0034】
別の好適な実施形態によれば、第2のセラミック層、すなわちモノリシックセラミックエレメントは、αアルミナベース及び/又はマグネシアベースであり、好適には、第2のセラミック層のエレメントは、本質的に、αアルミナ及び/又はマグネシアから成る。エレメントは、従来の方法を用いて製造されることができ、この場合、この材料から出発して、圧粉体が製造され、この圧粉体はその後、通常約1600℃で焼結される。
【0035】
セラミックプレートは、切断縁部におけるき裂の発生を回避するために低速ダイヤモンドソーを用いて又は水ジェットによって切断されることができる。接合の前に、両面は、SiCペーパーによって研磨されることができ、その後、セメントの付着を向上させるためにエタノール内で超音波によりクリーニングされる。これらの前もって製造されたエレメントはその後、TBCコーティングされた金属基板上の接着剤、ろう付け等を用いて第1の(TBC)層に接合される。
【0036】
多層熱的保護システムは、第1の層の気孔率が5〜25%であることを特徴とする。
【0037】
好適には、第2のセラミック層は多層構造であり、30%未満、好適には0〜25%又は5〜10%の気孔率を有する少なくとも1つの高密度表面露出層と、第1のセラミック層との境界面において、30%を超える、好適には50〜90%の気孔率を備えた少なくとも1つの多孔質境界層(同じ構造又は異なる構造であることができる)とを備えている。
【0038】
さらに別の好適な実施形態は、第2のセラミック層が、少なくとも1つの表面露出層と、少なくとも1つの下側付加層とを有しており、表面露出層が、ギャップによって分離されたタイルの二次元の配列として構造化されていることを特徴とする。
【0039】
タイルの間のギャップは、基板の表面の平面に対して垂直な又は傾斜した平行な側壁を備えるスロットであることができる。この場合、タイルの側壁は、それぞれ、表面の平面に対して垂直な又は傾斜した平面である。
【0040】
択一的に、係止形状、例えば、キーとスロットによる結合又は舌片と溝による結合を有する、タイルの側壁を有することも可能である。
【0041】
最も表面の露出される層がタイル構造であることにより、熱膨張の問題が減少され、異物衝撃(FOD)による局所的な損傷を最小限に抑制することができる。タイルは、矩形、方形、菱形、又は六角形であることができる。好適には、特に、正六角形(ハニカム構造)の場合、両次元におけるタイルの側方延長は、2〜35mm、好適には10〜29mmである。
【0042】
セラミック接着剤層は、耐火セメントペースト層であることができる。セラミック接着剤層は、アルミン酸カルシウムベースであるか、又は本質的にアルミン酸カルシウムから成ることができる。
【0043】
好適な実施形態によれば、ボンディングコートは、MCrAlY及び/又はPtAlから成っており、この場合、M=Co、Ni又はCo/Niである。
【0044】
好適には、ボンディングコートの組成は、25Cr5.5Al2.5Si1Ta0.6Yで残りがNiであるか、又は12Co20Cr11Al2.7Si1Ta0.6Yで残りがNiである。
【0045】
上述のように、通常は第1のセラミック層は慣用のTBC層であり、例えば、7YSZ(7wt%のY
2O
3によって安定化された、ZrO
2)ベースであるか、7YSZから成っていることができる。
【0046】
機械的な結合を確実にするために、溝、リブ、アンカー、及び粗面が使用されることができる。これは、好適な実施形態によれば、セラミック接着剤層への境界面のうちの少なくとも一方に、機械的な結合補助手段、好適には、第1のセラミック層及び/又は第2のセラミック層に設けられた溝、リブ、アンカー及び/又は表面組織(粗面)の形式の結合補助手段が設けられている。
【0047】
さらに、本発明は、1400℃を超える温度に曝される構成部材の少なくとも部分を被覆するための、上述のような遮熱コーティング層の使用に関する。
【0048】
特に、本発明は、熱
機関、特にガスタービンにおける高温ガス通路に曝される、好適には1400℃を超える温度の高温ガスに曝される構成部材を少なくとも部分的に被覆するための、上述のような遮熱コーティング層システムの使用に関する。
【0049】
このような遮熱コーティング層システムは、例えば、高温ガス通路に曝されるガスタービンの構成部材の最も
高温に曝される部分だけを選択的に被覆するために使用されることができ、その一方で、包囲する部分は、ボンディングコート層によって金属基板に取り付けられた遮熱コーティング層から成る遮熱コーティングシステムを用いて被覆されている。本発明の別の実施形態は従属請求項に記載されている。
【0050】
発明の好適な実施形態は、図面を参照して以下に説明され、図面は、本発明の好適な実施形態を例示するためものであり、本発明を限定するためのものではない。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【
図1】第1の実施形態による遮熱コーティングを備えた構成部材の平面に対して垂直な断面を示す、本発明による遮熱コーティングの概略的な断面図である。
【
図2】第2の実施形態による遮熱コーティングを備えた部材の平面に対して垂直な断面を示す、本発明による遮熱コーティングの概略的な断面図である。
【
図3】a)は、遮熱コーティングのハニカムタイル構造の概略的な上面図であり、b)は、タイルの側壁の平坦な面を備えた、基板の平面に対して垂直な断面を示す概略図であり、c)は、タイルの側壁の係止面を備えた、基板の平面に対して垂直な断面を示す概略図である。
【
図4】熱サイクルに曝す前の、7YSZに結合された開放セルαアルミナ(a)と、冷却サイクル中の、7YSZに結合された開放セルαアルミナの熱サイクルとを示す図である。
【
図5】7YSZに結合された、20vol%の気孔率のαアルミナを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
本発明の好適な実施形態を例示するためのものであって、発明を限定するためのものではない図面を参照すると、
図1は、ガスタービン等の高温環境において使用するための、少なくとも4つの層から成るハイブリッド金属/セラミック構造6を示している。この構造は、荷重支持超合金材料5と、耐酸化性/耐腐食性のボンディングコート4と、1150℃の温度まで耐える低温セラミック層3(多層構造であってもよい)と、セラミック接着剤層2と、1750℃までの温度能力を備えた高温セラミック部分又は層1とから形成されている。
【0053】
金属基板5はNiベースの超合金であり、ボンディングコート層4はMCrAlY又はPtAlシステムから成り、低温セラミック層3又はTBC層は7YSZベースであるか又は7YSZから成り、接着剤層2は、通常アルミン酸カルシウムベースの耐火セメントペーストである。耐高温セラミック部分1は、蒸着、ゾル−ゲル法、粉末堆積、直接位置決め(direct a position)、プラズマ溶射プロセス等の、従来公知の方法によって製造された、単一の、多層又はグレード付けされたシステムであることができる。耐高温セラミック層1は、少なくとも2mm〜20mmの厚さを有しており、好適な厚さは5〜10mmである。
【0054】
セラミック部分1は、好適にはαアルミナベース及び/又はマグネシアベースである。セラミック部分1は、気密であることができ(0〜10%の閉鎖気孔率)、又は15〜90%の開放及び閉鎖気孔率を有することができる。
【0055】
層状のシステムは、
図2に示されているように、TBCとの境界面において多孔質層1bを有しており、ひずみ公差を保証し、耐腐食性を提供するために燃焼ガスに曝される表面に高密度層1aを有している。
【0056】
高密度外側層1aは、
図3aに示されているように、上面図で見るとハニカム状タイル構造を提供しており、小さなギャップ又は意図的なき裂7によって分離された個々のタイルから成っており、異物損傷の場合の減じられた物質損失を保証し、かつシステムにおける温度勾配及び異なる熱膨張率に関連した熱膨張の不一致により生じる層におけるひずみを減じるように設計されている。典型的なタイルの寸法は、異物損傷の危険性を最小限にするために、25mm×25mmである。
図3bの上側部分から分かるように、タイルの側壁は、基板の平面に対して垂直な直線状の壁部であることができる。
図3bの下側部分には、変更された構造が示されており、その場合、側壁は基板の平面に対して傾斜させられている。この傾斜は、特に、表面に沿って流れる高温ガスがスロットに容易に進入することができないように設計されているならば、高温空気がスロットを容易に通過することができないので有利であることができる。
図3は、タイルのための異なる係止側壁構造を示しており、
図3から分かるように、一方では機械的安定性を高めることができ、他方ではタイルの下側に埋設された高温空気に対してより敏感な層への高温空気の浸透をさらに阻止することができる、ラビリンス状溝構造を有することができる。
【0057】
実験部分
一連の実験が、7YSZコーティングを、ゾル−ゲル法によって製造された、約80%の気孔率を有する開放気孔αアルミナモノリシックセラミックに結合するために、高グレードのアルミン酸カルシウムセメントを使用して行われた。
【0058】
使用されるセメントペースは、60〜90wt%(35〜70vol%)の固液比を有していた。湿ったセメントはスポンジを用いて部材の表面に塗布された。セメント厚さは、0.5mm未満、通常は0.05mmの範囲又は0.05mm未満であった。
【0059】
セメントは、室温で、4〜12時間に亘って、実験室雰囲気において、接合面に対して垂直に70〜850g/cm
2の圧縮荷重が加えられながら乾燥された("湿り荷重")。荷重は、重力及び重りとしての鋼板を用いることによって生ぜしめられた。湿り荷重は、接合接着に著しい影響を与えた。
【0060】
セメントは、大気圧ボックス炉において、500〜600℃の温度で、5〜15時間に亘って、接合面に対して垂直に0.0〜250g/cm
2の硬化荷重が加えられながら硬化された。幾つかのセメントは、93℃で2時間、260℃で2時間、372℃で2時間という段階において、接合面に対して垂直に0.0〜250g/cm
2の硬化荷重が加えられながら硬化された。時々、5時間に亘る600℃の最終硬化ステップが使用された。
【0061】
セラミックプレートは、切断縁部においてき裂の開始を回避するために、低速ダイヤモンドソーを用いて又は水ジェットによって切断された。接合する前に、両面は、SiCペーパーを用いて研磨され、その後、セメントの付着を向上させるためにエタノール中で超音波によってクリーニングされた。
【0062】
サンプルは以下のように製造された。ニッケル超合金の基板上に、NiCoCrAlYボンディングコート(厚さ約0.3mm)及び7YSZコーティング層(厚さ約0.8mm)がプラズマ溶射法によって製造された。耐火セメントの薄い層(約0.1mm)が、手作業で、このTBC層と、開放気孔αアルミナモノリシックセメントの表面に提供された(厚さ約20mm)。その後、両部材が接合され、セメント層を結合する。湿気環境において24時間硬化させた後、アセンブリは、以下のステップ、すなわち60℃で2時間、120℃で2時間、300℃で2時間、1000℃で20時間、熱処理された。最後のステップのための加熱及び冷却速度は、約50K/hである。
【0063】
対応する構造が
図4aに示されている。次いで、アセンブリは、2週間に亘って熱サイクルされ(1000℃で23時間の滞留時間及び室温で1時間の滞留時間)、冷却サイクルの間、
図4bに示されたように残存した。
【0064】
その後、第2の一連の実験が、同じ基板/ボンディングコート/TBCシステムと、同じ耐火セメントとを用いて行われたが、第2の層1として、20%の気孔率と12mmの厚さとを有するαアルミナモノリシック部分が使用された。溝9は、
図5に示されているように、セメントの機械的係止を向上させるために、TBC3とαアルミナ1との係合面に形成された。アセンブリは、短時間に亘って、第1の一連の実験のように、高温で熱サイクルされた。
【0065】
試料は、上述の第1の一連の実験と同様に製造された。
【符号の説明】
【0066】
1 高温セラミック部分又は層、 1a 高密度外側層、 2 セラミック接着剤層、 3 低温セラミック層、 4 ボンディングコート層、 5 超合金材料、 6 ハイブリッド金属/セラミック構造、 7 ギャップ、 8 タイル、 9 溝