(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
回転軸の回転速度を回転速度0を起点として時間的に変化させたときの該回転軸の時間的に変化する回転速度を表わす速度データを取得し、該回転軸が一定角度回転するごとにパルス信号を出力するセンサから出力される隣接パルス信号間の時間間隔を表わす時間データを、各回転速度ごとに算出する第1算出過程と、
前記速度データに基づいて理論的に算出される回転角度と、前記時間データに基づいて回転角度を計測することを模擬したときに算出される回転角度との間の遅れ角度を表わす遅れ角度データを、各回転角度ごとに算出することにより、回転速度と遅れ角度との対応関係を作成する作成過程とを有するシミュレーションステップ、および
前記センサから実際に出力されたパルス信号を取得し、該パルス信号に基づいて、前記回転軸の回転速度を算出する第2算出過程と、
前記第2算出過程において算出された回転速度を前記回転軸の回転角度に変換する変換過程と、
前記シミュレーションステップで作成された前記対応関係に基づいて、前記変換過程で得られた回転角度を補正する補正過程とを有する計測ステップ
を有することを特徴とする回転角度計測方法。
エンジンの出力軸の回転速度を回転速度0を起点として時間的に変化させたときの該出力軸の時間的に変化する回転速度を表わす速度データを取得し、該出力軸が一定角度回転するごとにパルス信号を出力するセンサから出力される隣接パルス信号間の時間間隔を表わす時間データを、各回転速度ごとに算出する第1算出過程と、
前記速度データに基づいて理論的に算出される回転角度と、前記時間データに基づいて回転角度を計測することを模擬したときに算出される回転角度との間の遅れ角度を表わす遅れ角度データを、各回転角度ごとに算出することにより、回転速度と遅れ角度との対応関係を作成する作成過程とを有するシミュレーションステップ、および
前記センサから実際に出力されたパルス信号を取得し、該パルス信号に基づいて、前記出力軸の回転速度を算出する第2算出過程と、
前記第2算出過程において算出された回転速度を前記出力軸の回転角度に変換する変換過程と、
前記シミュレーションステップで作成された前記対応関係に基づいて、前記変換過程で得られた回転角度を補正することにより補正済回転角度を生成する補正過程と、
前記補正過程で生成された前記補正済回転角度に基づいて前記エンジンのバルブを動かすアクチュエータを制御することにより該バルブの開度を制御する制御過程とを有するバルブ制御ステップ
を有することを特徴とするエンジンバルブ制御方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑み、回転軸が一定角度回転するごとにパルス信号を出力するセンサから出力されるパルス信号に基づいて、回転軸の回転角度を高精度に計測する回転角度計測方法および回転角度計測装置、並びに、エンジンの出力軸の回転角度を高精度に計測し、その回転角度に基づいてエンジンバルブの開度を制御するエンジンバルブ制御方法およびエンジンバルブ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明の回転角度計測方法は、
回転軸の回転速度を表わす模擬データを取得し、回転軸が一定角度回転するごとにパルス信号を出力するセンサから出力される隣接パルス信号間の時間間隔を表わす時間データを、回転速度ごとに算出する第1算出過程と、
第1算出過程で算出された時間データに応じた、回転軸の回転角度を上記パルス信号に基づいて計測したときの計測遅れ角度を表わす遅れ角度データを、回転速度ごとに算出することにより、回転速度と計測遅れ角度との対応関係を作成する作成過程とを有するシミュレーションステップ、および
上記センサから出力されたパルス信号を取得し、そのパルス信号に基づいて、回転軸の回転速度を算出する第2算出過程と、
第2算出過程において算出された回転速度を回転軸の回転角度に変換する変換過程と、
シミュレーションステップで作成された上記対応関係に基づいて、変換過程で得られた回転角度を補正する補正過程とを有する計測ステップ
を有することを特徴とする。
【0008】
本発明の回転角度計測方法によれば、シミュレーションステップにより上記の対応関係を作成しておき、実際の計測にあたっては、そのシミュレーションステップで作成された対応関係に基づいて回転角度を補正することにより回転軸の回転角度が高精度に計測される。
【0009】
また、本発明の回転角度計測装置は、
回転軸が一定角度回転するごとにパルス信号を出力するセンサと、
上記センサから出力されたパルス信号に基づいて、回転軸の回転速度を算出する算出部と、
算出部により算出された回転速度を回転軸の回転角度に変換する変換部と、
回転軸の回転速度と、変換部での変換により得られる回転軸の回転角度の、回転軸の真の回転角度からの偏差との対応関係を記憶しておく記憶部と、
記憶部に記憶された対応関係に基づいて、変換部で得られた回転角度を補正する補正部とを有することを特徴とする。
【0010】
本発明の回転角度計測装置は、回転軸の回転速度と、その出力軸の回転角度の真の回転角度からの偏差との対応関係を、例えば上記のシミュレーション等により作成して記憶しておく記憶部を備えている。本発明の回転角度計測装置によれば、その記憶部に記憶された対応関係に基づいて回転角度を補正する構成を有するため、回転軸の回転角度が高精度に計測される。
【0011】
また、上記目的を達成する本発明のエンジンバルブ制御方法は、
エンジンの出力軸の回転速度を表わす模擬データを取得し、その出力軸が一定角度回転するごとにパルス信号を出力するセンサから出力される隣接パルス信号間の時間間隔を表わす時間データを、回転速度ごとに算出する第1算出過程と、
第1算出過程で算出された時間データに応じた、上記出力軸の回転角度をパルス信号に基づいて計測したときの計測遅れ角度を表わす遅れ角度データを、回転速度ごとに算出することにより、回転速度と計測遅れ角度との対応関係を作成する作成過程とを有するシミュレーションステップ、および
上記センサから出力されたパルス信号を取得し、そのパルス信号に基づいて、上記出力軸の回転速度を算出する第2算出過程と、
第2算出過程において算出された回転速度を出力軸の回転角度に変換する変換過程と、
シミュレーションステップで作成された上記対応関係に基づいて、変換過程で得られた回転角度を補正することにより補正済回転角度を生成する補正過程と、
補正過程で生成された補正済回転角度に基づいてエンジンのバルブを動かすアクチュエータを制御することによりバルブの開度を制御する制御過程とを有するバルブ制御ステップ
を有することを特徴とする。
【0012】
本発明のエンジンバルブ制御方法によれば、エンジンの出力軸の回転角度を上記の本発明の回転角度計測方法に基づいて計測し、そのようにして計測された回転角度に基づいてバルブの開度を制御するため、バルブの開度を高精度に制御することができる。
【0013】
さらに本発明のエンジンバルブ制御装置は、
エンジンの出力軸が一定角度回転するごとにパルス信号を出力するセンサと、
上記センサから出力されたパルス信号に基づいて、出力軸の回転速度を算出する算出部と、
算出部により算出された回転速度を出力軸の回転角度に変換する変換部と、
出力軸の回転速度と、変換部での変換により得られる出力軸の回転角度の、その出力軸の真の回転角度からの偏差との対応関係を記憶しておく記憶部と、
記憶部に記憶された上記対応関係に基づいて、変換部で得られた回転角度を補正することにより補正済回転角度を生成する補正部と、
エンジンのバルブを動かすアクチュエータと、
補正部で生成された補正済回転角度に基づいてアクチュエータを制御することによりバルブの開度を制御する制御部とを有することを特徴とする。
【0014】
本発明のエンジンバルブ制御装置には、本発明の回転角度計測装置が組み込まれており、エンジンの出力軸の回転角度を高精度に計測してエンジンバルブの開度を高精度に制御することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上の本発明によれば、回転角度が高精度に計測される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本発明の一実施形態としてのエンジンバルブ制御装置を、制御対象とともに模式的に示したブロック図である。ここに示すエンジンバルブ制御装置1は、プログラムを実行するコンピュータを含むハードウェアと、そのコンピュータで実行されるエンジンバルブ制御プログラムとの組合せで実現されている。ただし、高速処理等のためにハードウェアのみで実現してもよい。
【0019】
この
図1の左上には、ガソリンを燃料とするエンジン10が示されており、このエンジン10は、出力軸20Aと、その出力軸20Aに同軸に結合された結合シャフト20Bとを介してモータ30に接続されている。このモータ30は、エンジン10側に動力を与えるだけでなく、エンジン10側からの動力で発電するダイナモの役割りも兼ねており、エンジン10の負荷としても作用する。ここでは、ダイナモの役割りも含めて単に「モータ」30と称する。またこのエンジン10には、制御対象であるアクチュエータ120が示されている。このアクチュエータ120は、この
図1の右下にも示されているように、アクチュエータアンプ110から伝達されてきた制御信号に応じて、エンジン10のエンジンバルブ11を駆動し、エンジンバルブ11を、そのエンジンバルブ11の開度があらかじめ決められたパターンに時間的に変化するように、制御する。このアクチュエータ120によるエンジンバルブ11の制御については再度後述する。
【0020】
エンジン10の出力軸20Aには、スリット円盤40Aとリングギア40Bが取り付けられている。スリット円盤40Aとリングギア40Bは、実際に備えられているのは1つずつであるが、この
図1には、出力軸20Aに取り付けられている状態の図形と、出力軸20Aをこの
図1の紙面に垂直な方向に見たときの円形の図形との双方で示されている。
【0021】
スリット円盤40Aは、エンジン10の出力軸20Aに元々備えられていたものではなく、アクチュエータ120の制御実験用に取り付けたものである。このスリット円盤40Aには、出力軸20Aが1回転する間にパルス信号を720パルス出力するスリットと、出力軸20Aが1回転するごとにパルス信号を1パルスだけ出力するスリットとが形成されている。1回転720パルスのスリットは出力軸20Aの回転角度計測用であり、1回転1パルスのスリットは、出力軸回転の原点検出用である。このスリット円盤40Aには光センサが取り付けられ、その光センサで得られたパルス信号がセンサアンプ50Aを介して出力される。ここでは、1回転720パルスの出力を「720[P/R]のパルス信号」と称し、1回転1パルスの出力を「1[P/R]のパルス信号」と称する。センサアンプ50Aから出力された720[P/R]のパルス信号は、補正済角度算出部60Aに入力され、1[P/R]のパルス信号は、補正済角度算出部60Aに入力されるとともに、もう1つの補正済角度算出部60Bにも入力される。
【0022】
また、リングギア40Bは、エンジン10の起動用にエンジン10の出力軸20Aに元々備えられていたものである。このリングギア40Bの外周には、1周あたり193個のギアが形成されており、このギアを検出する磁気センサを取付けることにより、その磁気センサから出力軸20Aの1回転あたり193パルスのパルス信号が得られる。このパルス信号は、センサアンプ50Bを介して出力され、補正済角度算出部60Bに入力される。ここでは、センサアンプ50Bからの1回転あたり193パルスの出力を「193[P/R]のパルス信号」と称する。
【0023】
2つの補正済角度算出部60A,60Bでは、それぞれ、エンジン10の出力軸20Aの、現在の補正済の回転角度が算出される。この回転角度は、出力軸20Aの回転に伴って常に変化している値である。ここでは一方の補正済角度算出部60Aで算出された補正済の回転角度をCAAと称し、もう一方の補正済角度算出部60Bで算出された補正済の回転角度をCABと称する。これら2つの補正済角度算出部60A,60Bの構成については後述する。
【0024】
一方の補正済角度算出部60Aで算出された補正済の回転角度CAAは、アクチュエータ制御部130と制御信号異常判定部70との双方に入力され、もう一方の補正済角度算出部60Bは、制御信号異常判定部70に入力される。
【0025】
制御信号異常判定部70では、2つの補正済角度算出部60A,60Bから出力された2つの補正済回転角度CAA,CABを比較し、それらが互いに一致するか否かが判定され、異なっていたときには何らかの異常が発生したことがオペレータに通知される。
【0026】
アクチュエータ制御部130は、位置指令部90と、PID制御部100と、アクチュエータアンプ110とを有する。位置指令部90には、出力軸20Aの回転角度とエンジンバルブ11の位置(開度)とを対応づけた位置指令パターン91が記憶されている。
【0027】
補正済角度算出部60Aから出力されアクチュエータ制御部130に入力された補正済回転角度CAAは、位置指令部90において、エンジンバルブ11の位置を表わす基準信号Refに変換される。この位置指令部90での変換により生成された基準信号RefはPID制御部100に入力される。
【0028】
また、アクチュエータ120には、そのアクチュエータ120の位置(エンジンバルブ11の位置に対応する)を検出するセンサ121が備えられており、そのセンサ121から出力されたフィードバック信号FbもPID制御部100に入力される。
【0029】
PID制御部100では、基準信号Refとフィードバック信号Fbの入力を受け、フィードバック信号Fbが基準信号Refと一致するようにP(比例)、I(積分)、D(微分)を組み合わせたPID制御を行ない、制御信号CLを出力する。この制御信号CLはアクチュエータアンプ110を介してアクチュエータ120に与えられ、アクチュエータ120は、この制御信号CLに応じて移動し、エンジンバルブ11を位置指令パターン91の通りに動作させる。
【0030】
図2は、
図1に1つのブロックで示す補正済角度算出部の内部構成を示すブロック図である。
図1には、2つの補正済角度算出部60A,60Bが示されているが、それらは互いに同一構成であり、したがってこの
図2では、補正済角度算出部60と称している。ただし、具体的な数値を使った説明においては、この
図2に示す補正済角度算出部60に、スリット円盤40Aに由来する720[P/R]のパルス信号が入力されるものとして、説明する。
【0031】
図2に示す補正済角度算出部60は、回転速度算出部61と、角度算出部62と、記憶部63と、遅れ補正部64とを有する。ここで、記憶部63には、シミュレーションによって作成された「遅れ補正マップ」が記憶されている。このシミュレーションおよび遅れ補正マップについては後述する。
【0032】
ここでは、
図2に示す補正済角度算出部60についてその概要のみ説明し、遅れ補正マップ作成のためのシミュレーションについて説明した後に、再度、
図2の補正済角度算出部60について説明する。
【0033】
回転速度算出部61には、
図1に示すスリット円盤40A又はリングギア40Bに由来するパルス信号が入力される。
【0034】
回転速度算出部61では、入力されたパルス信号に基づいて、出力軸20A(
図1参照)の回転速度[r/min]が算出される。また角度算出部62には、回転速度算出部61で算出された回転速度[r/min]と1[P/R]のパルス信号が入力され、回転速度[r/min]に基づいて、1[P/R]のパルス信号が入力されたタイミングを基準としたときの、出力軸20A(
図1参照)の回転角度[deg]が算出される。記憶部63には、遅れ補正マップが記憶されており、遅れ補正部64では、角度算出部62で算出された回転角度[deg]が、記憶部63に記憶されている遅れ補正マップに基づいて補正され、補正済の回転角度CA[deg]が生成される。
【0035】
この補正済の回転角度CAは、
図1に示すように、補正済回転角度CAAの場合は制御信号異常判定部70とアクチュエータ制御部130に入力され、補正済回転角度CABの場合は、制御信号異常判定部70に入力される。
【0036】
ここで、
図2に示す補正済角度算出部60の説明を中断し、記憶部63に記憶されている遅れ補正マップを生成するためのシミュレーションについて説明する。
【0037】
図3は、遅れ補正マップ作成装置を示したブロック図である。
【0038】
この遅れ補正マップ作成装置2は、プログラムを実行するコンピュータと、そのコンピュータ内で実行されるシミュレーションプログラムとにより構成されており、遅れ補正マップは、この遅れ補正マップ作成装置2を使ったシミュレーションにより作成される。
【0039】
この遅れ補正マップ作成装置2は、遅延時間算出部210と、位相遅れ算出部220と、角度算出部230と、差分算出部240とを有する。
【0040】
差分算出部240では遅れ補正マップが作成され、その作成された遅れ補正マップは、
図2に示す補正済角度算出部60を構成する記憶部63に記憶される。
【0041】
この
図3に示す遅れ補正マップ作成装置2には、出力軸20A(
図1参照)の回転速度[r/min]に対応する数値が入力される。本実施形態では、この数値は、0[r/min]から始まり1000[r/min]まで、時間経過に従って直線的に変化する変数である。
【0042】
遅延時間算出部210では、各時刻に入力されてきた回転速度[r/min]を表わす数値に基づいて、
図1に示すスリット円盤40A又はリングギア40B(ここではスリット円盤40Aとして説明する)に由来する隣接パルス信号間の時間間隔を表わす時間データが、順次変更される数値(回転速度)ごとに算出される。
【0043】
具体的には、この遅延時間算出部210では、回転速度[r/min]を表わす数値をxとしたときx/60により[r/s]の単位の回転速度が算出され、その逆数60/x[s/r]を算出することにより1回転あたりに要する時間[S]が算出され、その値60/xを720で割る((60/x)×(1/720))ことにより、隣接パルス信号間の時間間隔[S]を表わす時間データが算出される。
【0044】
位相遅れ算出部220では、回転速度[r/min]を表わす変数x(t)で表わされる時間関数(前述の通り、ここでは0〜1000[r/min]まで直線的に変化する変数)の位相が、遅延時間算出部210で算出された時間データ相当分だけ遅延される。ここでは、数値xが時間関数であることを明示するために変数x(t)と称する。ここでは、この遅延を受けた変数(時間関数)を遅延変数と称し、x(t−Δ)と表記する。
【0045】
図4は、変数x(t)および遅延変数x(t−Δ)で表わされる回転速度[r/min]の、時間変化を表わした図、
図5は、
図4の領域D1の部分の拡大図である。
【0046】
図4では、ほとんど重なっていて詳細は不明であるが、回転速度[r/min]を表わす変数x(t)は、この
図4に示すように、時間に従って直線的に変化している。
図5中の、「理論値」は、変数x(t)の変化を示したもの、720[P/R]は、720[P/R]のスリット円盤40A由来のパルス信号を想定したときの遅延変数x(t−Δ)を表わしたもの、193[P/R]は193[P/R]のリングギア40B由来のパルス信号を想定して上記と同様の計算を行うことにより算出された遅延変数を表わしたものである。
【0047】
図5は、スリット円盤40Aであれリングギア40Bであれ、パルス信号に基づいて回転速度を計算すると、この
図5に示すように計測遅れが生じることを表わしている。
【0048】
またこの
図5は、パルス信号が時間的に細かければ(例えば720[P/R])、遅れは小さく、粗ければ(例えば193[P/R])、遅れが大きいことを意味している。
【0049】
図6は、横軸に理論値(変数x(t))をとり、縦軸に理論値からの偏差(
図5の縦方向の差分)をとって示した図である。
【0050】
この
図6中の720[P/R]は、
図5に示す、理論値のカーブ(ここでは直線)と、720[P/R]のカーブとの間の、
図5の縦方向の差分であり、
図6中の193[P/R]は、
図5に示す、理論値のカーブと193[P/R]のカーブとの間の、
図5の縦方向の差分である。
【0051】
この
図6から、回転速度[r/min]が低いほど計測遅れが大きいことが分かる。
【0053】
回転速度0〜1000[r/min]を表わす変数x(t)と、位相遅れ算出部220で算出された遅延変数x(t−Δ)は、角度算出部230に入力され、それぞれ独立に、出力軸20A(
図1参照)の回転角度[deg]に相当する角度データに変換される。ここでは、代表的に変数x(t)を取り上げて、角度データに変換される過程を説明する。
【0054】
図7は、
図3に1つのブロックで示す角度算出部230の内部構成を示すブロック図である。
【0055】
この
図7に示す角度算出部230は、回転速度/角速度変換部231、角速度/角度変換部232、および角度/回転角度変換部233で構成されている。
【0056】
回転速度/角速度変換部231では、変数x(t)、遅延変数x(t−Δ)のそれぞれが、角速度に変換される。具体的には、この回転速度/角速度変換部231では、回転速度を表わす変数x(t)[r/min]に2π/60が乗算され、角速度、x(t)×2π/60[rad/s]が算出される。
【0057】
次の、角速度/角度変換部232では、回転速度/角速度変換部231で得られた角速度x(t)×2π/60[rad/s]が時間積分されて、角度[rad]が算出される。さらに、角度/回転角度変換部233では、角速度/角度変換部232で算出された角度[rad]をθとしたとき、一旦、sinθが演算され、次いでarcsinθが演算される。
【0058】
角速度/角度変換部232での角速度の積分により算出される角度[rad]=θは、出力軸20Aの回転角度の範囲である0〜2π[rad]を越えて漸増する値であり、角度/回転角度変換部233では、sinθおよびarcsinθの演算により、0〜2πの範囲内の回転角度[rad]に変換される。この角度/回転角度変換部233では、そのようにして算出された回転角度[rad]にさらに180/πが乗算されることにより、deg.の単位の回転角度[deg]に変換される。
【0059】
角度算出部230では、回転速度[r/min]を表わす変数x(t)だけでなく遅延変数x(t−Δ)についても同様な演算が行なわれて、遅延変数x(t−Δ)に対応する回転角度[deg]も算出される。
【0060】
図8は、角度算出部で算出された回転角度[deg]の時間変化を示した図、
図9は、
図8に示す領域D2の部分の拡大図である。
【0061】
図8の中央は0[deg]および180[deg]であり、上側の折り返し点は90[deg]、下側の折り返し点は270[deg]である。ここでは回転速度[r/min]を表わす変数x(t)を直線的に変化させていることにより(
図4参照)、この
図8では、回転角度[deg]の時間変化を表わすカーブの周期が時間経過に従って狭まっている。また、この
図8ではほとんど重なっていて詳細は不明であるが、
図9に示すように、変数x(t)から算出した回転角度[deg]のカーブと、遅延変数x(t−Δ)から算出した回転角度[deg]のカーブは、一致せず、偏差をもっている。
図9中の「理論値」は変数x(t)から算出した回転角度[deg]を示したカーブ、720[P/R]は、720[P/R]のスリット円盤40A(
図1参照)由来のパルス信号を想定したときの遅延変数x(t−Δ)から算出した回転角度[deg]を示したカーブ、193[P/R]は、193[P/R]のリングギア40B(
図1参照)由来のパルス信号を想定したときの遅延変数から算出した回転角度[deg]を示したカーブである。
【0062】
図5に示す、回転速度[r/min]の計測遅れと同じく、
図9から、スリット円盤40Aおよびリングギア40Bのいずれであってもパルス信号に基づいて計測した回転角度[deg]に計測遅れが生じていることが分かる。また、この
図9から、繰り返し周波数の高いパルス信号(例えば720[P/R])に基づいて計測した回転角度[deg]の計測遅れは、繰り返し周波数の低いパルス信号(例えば193[P/R])に基づいて計測した回転角度[deg]の計測遅れよりも小さいことが分かる。
【0063】
図10は、回転角度[deg]の、理論値からの偏差(
図9の縦方向の差分)の時間変化を示した図である。
【0064】
この
図10中の720[P/R]は、
図9に示す理論値のカーブと、720[P/R]のカーブとの間の、
図9の縦方向の差分を示すカーブであり、
図10中の193[P/R]は、
図9に示す理論値と193[P/R]のカーブとの間の、
図9の縦方向の差分を示すカーブである。
【0065】
ここでは、回転速度[r/min]を表わす変数x(t)は直線的に変化させており(
図4参照)、したがって
図10の横軸の時間[s]は、そのまま回転速度[r/min]に置き換えることができる。すなわち、この
図10から、回転速度[r/min]が速いほど、回転速度の計測遅れが大きく、その計測遅れの変化は、直線的な変化ではなく、
図10に示すようにカーブを描いて漸増していることが分かる。
【0066】
図7に示す角度算出部230、すなわち
図3に1つのブロックで示す角度算出部230では、変数x(t)と遅延変数x(t−Δ)のそれぞれについての、上述した回転角度[deg]、すなわち、
図8,
図9に示す回転角度[deg]を算出する演算が行なわれる。
【0067】
図3に示す遅れ補正マップ作成装置2を構成する差分算出部240では、
図10を参照して説明した差分が算出される。すなわち、この差分算出部では、変数x(t)に基づいて算出された回転角度[rad]と、遅延変数x(t−Δ)に基づいて算出された回転角度[rad]との間で差分が演算され、
図10に示すような差分角度カーブが求められる。
【0068】
図11は、遅れ補正マップを表わした図である。この
図11は、カーブ自体はそのままにして、
図10の横軸の時間[s]を回転速度[r/min]に書き直し、
図10の縦軸の差分角度[deg]を補正角度[deg]に書き直した図に相当する。
【0069】
図1に示す、720[P/R]のスリット円盤40Aに由来するパルス信号から算出された回転角度[rad]については、この
図11の720[P/R]のカーブに従って補正し、193[P/R]のリングギア40Bに由来するパルス信号から算出された回転角度[rad]については、この
図11の193[P/R]のカーブに従って補正することにより、計測遅れのない回転角度[rad]が計測されることになる。
【0070】
図3に示す遅れ補正マップ作成装置2を構成する差分算出部240で作成された
図10に示す差分角度[deg]のカーブ、すなわち、
図11に示す遅れ補正マップは、
図2に示す補正済角度算出部60(
図1に示す補正済角度算出部60A,60B)の記憶部63に記憶される。
【0071】
ここで再び、
図2に示す補正済角度算出部60の説明に戻る。
【0072】
前述の通り、回転速度算出部61には、
図1に示すスリット円盤40A又はリングギア40Bに由来するパルス信号が入力される。ここでは、説明の都合上、スリット円盤40Aに由来する720[P/R]のパルス信号が入力されるものとして説明する。
【0073】
回転速度算出部61では、入力されてきた720[P/R]のパルス信号をサンプリングタイムごとに計数し、そのパルス信号の繰り返し周波数[Hz]が算出される。ここで、サンプリングタイム間隔をT[s]、その間のパルス数をN[p]としたとき、繰り返し周波数は、N/T[Hz]となる。この回転速度算出部61ではさらに、このN/T[Hz]に60/720が乗算されることにより、回転速度、N/T×60/720[r/min]が算出される。
【0074】
この回転角度算出部61で算出された回転速度[r/min]は、
図5に示す通りの計測遅れを持った値である。この算出された回転速度[r/min]は、角度算出部62と遅れ補正部64に入力される。ここでは角度算出部62について先に説明する。角度算出部62では、入力されてきた回転速度[r/min]が回転角度[rad]に変換される。この角度算出部における回転速度[r/min]を回転角度[rad]に変換するための演算は、
図3に示す遅れ補正マップ作成装置2を構成する角度算出部230における演算と同じであり、重複説明は省略する。ただし、
図2に示す補正角度算出部60の角度算出部62には、スリット円盤40A(
図1参照)由来の、1[P/R]のパルス信号が入力され、そのパルス信号が入力された時点が回転角度0[deg]の基準となる。この角度算出部62で算出された回転角度[rad]は、
図9に示す通りの計測遅れを持った値である。この角度算出部62で算出された回転角度[deg]は遅れ補正部64に入力される。
【0075】
遅れ補正部64は、記憶部63に記憶された遅れ補正マップ(
図11参照)を参照して、その遅れ補正マップの、回転速度算出部61から受け取った回転速度[r/min]に対応した補正角度[deg]の値を得て、角度算出部62から受け取った回転角度[rad]に補正角度[deg]が加算されて、計測遅れのない回転角度CA[rad]が算出される。
【0077】
図1に示すエンジンバルブ制御装置1の補正済角度算出部60Aでは、スリット円盤40A由来のパルス信号に基づいて算出された、出力軸20Aの回転角度[rad]が上記の通りに補正されて、補正済の回転角度CAAが算出され、制御信号異常判定部70とアクチュエータ制御部130の双方に入力される。一方、もう一方の補正済角度算出部60Bでは、リングギア40B由来のパルス信号に基づいて算出された、出力軸20Aの回転角度[rad]が上記と同様にして補正されて補正済の回転角度CABが算出され、制御信号異常判定部70に入力される。
【0078】
この
図1に示すエンジンバルブ制御装置1のその後の動作は前述の通りである。
【0079】
図12は、比較例であって、回転角度[deg]とバルブ変位[mm]の時間変化を示した図である。この
図12には、バルブ変位とともにピストンの軌跡も示されている。
【0080】
この
図12において、「理論値」は、理論通りの誤差のない回転角度[rad]の時間変化と、その理論通りの回転角度[rad]を
図1に示すアクチュエータ制御部130に入力してその回転角度[rad]から変換されたバルブ変位[mm]を示している。また、この
図12の720[P/R]は、スリット円盤40A(
図1参照)由来のパルス信号に基づいて
図2に示す角度算出部62で回転角度[rad]を算出し、遅れ補正部64による遅れ補正を行なわない場合の回転角度[rad]の時間変化と、その回転角度[rad]から変換されたバルブ変位[mm]を示している。また、
図1に示すエンジンバルブ制御装置1では、リングギア40B由来のパルス信号から算出した回転角度[rad]はエンジンバルブの制御には用いられていないが、
図12の193[P/R]は、リングギア40B由来のパルス信号から算出した、ただし遅れ補正部64(
図2参照)で遅れ補正を行なう前の回転速度[rad]と、その回転速度[rad]を仮にアクチュエータ制御部130に入力したとしてその回転速度[rad]からバルブ変位を求めたときのバルブ変位[mm]を示している。
【0081】
この
図12の円R1の部分に着目すると、理論値通りのバルブ変位の場合はピストンとは干渉せず円滑な動作が期待できるにもかかわらず、720[P/R]のバルブ変位の場合はピストンとほぼ接触していて、エンジンバルブをこのように変位させることは危険を伴うことになる。193[P/R]のバルブ変位の場合、ピストンと完全に接触することとなり、エンジンバルブをこのように変位させることは不可能である。すなわち、パルス信号に基づいて計測された回転角度[deg]が誤差を持つ場合、バルブ変位とピストン軌跡との間に、その誤差の分だけ余裕を持たせる必要があり、その分、バルブ変位が制約を受け、バルブ変位実験の自由度が狭まることになる。
【0082】
図13は、本実施形態における、アクチュエータ制御部に入力される回転角度[deg]と、その回転角度[deg]から変換されたバルブ変位[mm]の時間変化を示した図である。
図12と同様、この
図13にも、バルブ変位とともにピストンの軌跡が示されている。
【0083】
この
図13に示す補正済の回転角度[deg]は、
図2に示す記憶部63に記憶された遅れ補正マップ(
図11参照)に基づいて遅れ補正部64により補正された後の回転角度であり、
図12に示す理論値としての回転角度[deg]と高精度に一致している。したがって、この回転角度[deg]から変換されたバルブ変位も、
図12における理論値と高精度に一致し、円R2に示すように、バルブとピストンは干渉することなく、余裕をもって互いに離れており、バルブ変位実験を安全に進めることができる。
【0084】
尚、ここでは、バルブ変位実験を行なうためのエンジンバルブ制御装置について説明したが、本発明は、エンジンバルブの制御にのみ利用可能なものではなく、回転軸の回転角度を高精度に計測する場面において広範囲に適用可能である。