(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5709791
(24)【登録日】2015年3月13日
(45)【発行日】2015年4月30日
(54)【発明の名称】クラムシェルバケット
(51)【国際特許分類】
E02F 3/47 20060101AFI20150409BHJP
【FI】
E02F3/47 D
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-92558(P2012-92558)
(22)【出願日】2012年4月16日
(65)【公開番号】特開2013-221284(P2013-221284A)
(43)【公開日】2013年10月28日
【審査請求日】2014年6月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081569
【弁理士】
【氏名又は名称】若田 勝一
(74)【代理人】
【識別番号】100156018
【弁理士】
【氏名又は名称】若田 充史
(72)【発明者】
【氏名】多田 茂也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雅史
【審査官】
苗村 康造
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−336421(JP,A)
【文献】
特開昭59−167481(JP,A)
【文献】
米国特許第06446364(US,B1)
【文献】
特開2002−187688(JP,A)
【文献】
特開昭60−258335(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0094130(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 1/00〜 3/60
B66C 1/00〜 3/20
E02F 5/00〜 7/10
E02D 17/00〜17/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧シリンダにより開閉可能な1対のシェルを備え、前記シェルは、略弧状をなす底板と、その底板の両端に溶接された略扇状をなす側板とを備えたクラムシェルバケットにおいて、
前記底板における後縁から、前記側板の後縁の一部にわたり、前記底板および前記側板の各後縁の端面に板面を当てて補強板を溶接して取付けると共に、
前記補強板は、その底板溶接板部の両端から、側板溶接板部が延出して形成されており、前記底板溶接板部と前記側板溶接板部との間のコーナー部をR状に形成し、
前記側板の前縁側から、側板の頂部を経て後縁における途中部分にわたり、側板の他の部分より板厚の厚い厚板部を設け、
前記補強板の前記側板溶接板部の先端と前記厚板部の先端とを溶接した
ことを特徴とするクラムシェルバケット。
【請求項2】
請求項1に記載のクラムシェルバケットにおいて、
前記底板を、前縁側に設けた板厚の厚い厚板部と、この厚板部より板厚が薄く、前記厚板部から後縁にわたって設けられた薄板部とにより構成し、
前記底板の前記薄板部の後縁に前記補強板を溶接した
ことを特徴とするクラムシェルバケット。
【請求項3】
請求項1または2に記載のクラムシェルバケットにおいて、
前記側板の前縁側に設ける厚板部における、その底板溶接部から側板の頂部に至る間の中間部の前縁の反対側を凹ませて前記厚板部を薄幅にした
ことを特徴とするクラムシェルバケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対のシェルを油圧シリンダにより開閉して土砂の掘削を行なうクラムシェルバケットに関する。
【背景技術】
【0002】
自走式作業機の伸縮アームにクラムシェルバケットを取付けて掘削を行なう掘削機が例えば特許文献1に記載されている。このような掘削機に使用されるクラムシェルバケットは、一般に
図7に示す構造を有している。このバケットは、中心部にチューブ可動式のバケットシリンダ50を設け、そのロッドにシェル取付けフレーム52を設け、この取付けフレーム52に枢着ピン53,53により一対のシェル51、51を開閉可能に取付け、バケットシリンダ50のチューブ50aと各シェル51とをそれぞれリンク54とピン55,56とにより連結して構成される。
【0003】
図8(A)は従来のシェル51の構造を示す側面図、(B)は(A)のE−E断面図、(C)は底板後部の断面図である。
図8(A)に示すように、シェル51は側面視が略扇状をなし、略弧状をなす底板58の両端に左右の側板59を溶接してなる。側板59は、薄板部59aの周囲に略V字形の厚板部59bを溶接63(
図8(B)参照)して構成される。この側板59の後側、すなわちシェル51どうしが対向する側の反対側の厚板部59dには、前記ピン53,56を挿着するピン孔60,61を有する。底板58は、前記側板59の薄板部59aを両端に溶接した薄板部58aと、側板59の厚板部59bの前縁側先端59cを両端に溶接した厚板部58bと、側板59の厚板部59bの後縁側先端59dを両端に溶接した厚板部58cとにより構成される。62は底板58の厚板部58bに取付けた掘削爪である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−46885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
クラムシェルバケットを掘削機の伸縮アーム等のフロントと共に引き上げる能力は、掘削機本体側の油圧装置の能力によって決定される。すなわち、バケット重量と掘削可能な土砂重量の和は一定となる。このため、バケット重量を減少させれば、掘削可能な土砂容量(重量)を大きくすることができる。従来のクラムシェルバケットの構造は、このような掘削可能な土砂容量を増大させる上において、改良すべき点があった。
【0006】
本発明は、このような背景に基づき、バケットの強度を損なわずにバケット重量を可及的に小さくして掘削可能な土砂容量を増大させることが可能となる構造のクラムシェルバケットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1のクラムシェルバケットは、
油圧シリンダにより開閉可能な1対のシェルを備え、前記シェルは、略弧状をなす底板と、その底板の両端に溶接された略扇状をなす側板とを備えたクラムシェルバケットにおいて、
前記底板における後縁から、前記側板の後縁の一部にわたり、前記底板および前記側板の各後縁の端面に板面を当てて補強板を溶接して取付けると共に、
前記補強板は、その底板溶接板部の両端から、側板溶接板部が延出して形成されており、前記底板溶接板部と前記側板溶接板部との間のコーナー部をR状に形成し、
前記側板の前縁側から、側板の頂部を経て後縁における途中部分にわたり、側板の他の部分より板厚の厚い厚板部を設け、
前記補強板の前記側板溶接板部の先端と前記厚板部の先端とを溶接した
ことを特徴とする。
【0008】
請求項
2のクラムシェルバケットは、請求項
1に記載のクラムシェルバケットにおいて、
前記底板を、前縁側に設けた板厚の厚い厚板部と、この厚板部より板厚が薄く、前記厚板部から後縁にわたって設けられた薄板部とにより構成し、
前記底板の前記薄板部の後縁に前記補強板を溶接した
ことを特徴とする。
【0009】
請求項
3のクラムシェルバケットは、請求項
1または2に記載のクラムシェルバケットにおいて、
前記側板の前縁側に設ける厚板部における、その底板溶接部から側板の頂部に至る間の中間部の前縁の反対側を凹ませて前記厚板部を薄幅にした
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明は、側板と底板の各後縁側に、側板や底板の端面に対して板面が接合されるように補強板を溶接したので、シェルの後縁側の底板と側板との接合部分ないしその近傍の強度が向上する。このため、側板と底板との後縁における溶接部ないしその近傍に設ける厚板を無くすることが可能となるかあるいは少なくすることができ、このことがシェルの重量ひいてはクラムシェルバケットの重量の削減につながり、バケットのサイズ、すなわち掘削可能な土砂容量を増大させることが可能となる。
【0011】
また、補強板は、その板面を、底板や側板の端面に対して接合する構造としたので、底板の変形を防止する上で効果的に作用する上、補強板のコーナー部はR状に形成したので、シェルの強度を低下させることがない。
【0012】
また、前記側板のシェルどうしの対向縁である前縁側から、後縁における途中部分だけ厚板部により構成し、前記補強板の先端とその厚板部の先端とを溶接したので、従来のシェルにおいて、重量増大の原因となっていた側板の厚板部が減少し、バケット重量の減少に寄与させることができる。
【0013】
請求項
2の発明は、前記底板を、前縁側に設けた厚板部と、この板材より薄板でなり、前記厚さの大きな板材から後縁にわたって設けられた薄板部とにより構成し、この薄板部の後縁を補強板に溶接したので、補強板により底板強度を低下させることなく、底板の軽量化が達成され、バケット重量の減少に寄与させることができる。
【0014】
請求項
3の発明は、側板の前縁側厚板部を、底板溶接部から側板の頂部に至る部分の中間部において、前縁の反対側を凹ませた形状に形成して薄幅としたので、掘削時に最も力が加わるシェルの底部近傍については厚板部の幅を減少させることなく強度が確保されると共に、側板の厚板部の幅が狭くなることにより、側板の軽量化が達成され、バケット重量の減少に寄与させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明のクラムシェルバケットを適用する深掘掘削機の一例を示す側面図である。
【
図2】本発明のクラムシェルバケットの一実施の形態を示す側面図である。
【
図3】(A)は本実施の形態のクラムシェルバケットを構成するシェルを斜め上方より見た斜視図、(B)はこのシェルを斜め下方より見た斜視図である。
【
図4】(A)は本実施の形態のシェルの側面図、(B)はその平面図である。
【
図5】(A)は
図4(A)のF−F拡大断面図、(B)は
図4(B)のG−G拡大断面図である。
【
図6】本発明によるシェルの他の実施の形態を示す
図5(B)相当図である。
【
図7】従来のクラムシェルバケットを示す側面図である。
【
図8】(A)は従来のクラムシェルバケットを構成するシェルの側面図、(B)は(A)のE−E拡大断面図、(C)はこのシェルの側板の後部と底板との溶接部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は本発明によるクラムシェルバケットを適用する深掘掘削機の一例を示す側面図である。
図1において、1は下部走行体、3はこの下部走行体1上に旋回装置2を介して設置された上部旋回体である。この上部旋回体3は、旋回フレーム3a上に油圧パワーユニット4、キャブ5およびカウンタウエイト6等を搭載して構成される。下部走行体1および上部旋回体2により自走式車両でなる掘削機本体を構成する。
【0017】
8は旋回フレーム3aにブームシリンダ9により起伏可能に取付けられたブームである。10はテレスコアームであり、このテレスコアーム10は、アウタアーム10aとセンターアーム10bとインナアーム10cとをテレスコピックに組み合わせて構成される。このテレスコアーム10は、アウタアーム10aをブーム8の先端にピン11により連結し、アウタアーム10aとブーム8との間にアームシリンダ14を取付け、このアームシリンダ14の伸縮によりブーム8に対するテレスコアーム10の傾斜角を変更可能としている。16はインナアーム10cの下端に取付けたクラムシェルバケットである。
【0018】
図2は本発明のクラムシェルバケット(以下バケットと称す。)16の一実施の形態を示す側面図である。
図2に示すように、この実施の形態のバケット16は、中心部にチューブ可動式のバケットシリンダ20を設けたものであり、このバケットシリンダ20は、ピストン20aを中間部に固定したロッド20bに対してチューブ20cが上下動可能に外嵌された構造を有するものである。ロッド20bの上端には前記伸縮ロッド18またはテレスコアーム10に連結するピン孔21を有する。また、このロッド20bの下端には、後述のシェル22の支持体の役目を果たす取付けフレーム23を設ける。このバケットシリンダ20は、チューブ20c内におけるピストン20aより上部、下部にそれぞれ密閉した開き側室(バケット16を開く際に作動油を供給する油室)20dと閉じ側室(バケット16を閉じる際に作動油を供給する油室)20eを形成する。
【0019】
前記取付けフレーム23に、一対のシェルシェル22,22を枢着ピン24,24により開閉可能に取付ける。25はチューブ20cの上下動によりシェル22を開閉させるリンクであり、これらのリンク25の上端をチューブ20cにピン26により連結し、下端をピン27によりシェル22に連結して取付ける。
【0020】
次にシェル22の構造を説明する。
図3(A),(B)および
図4(A),(B)に示すように、シェル22は、側面視が略弧状をなす底板28と、その底板28の両端に溶接された側面視が略扇状をなす側板29とを備える。底板28は、シェルどうしの対向縁である前縁側に設けた厚板部28aとこの厚板部28aから後縁にわたって設けられ、厚板部28aより板厚が薄い薄板部28bとにより構成される。なお、前縁側の厚板部28aには掘削爪30(
図2参照)が取付けられるが、
図3、
図4においては図示を省略している。
【0021】
側板29は、互いに溶接される厚板部29aと、この厚板部29aより板厚が薄い薄板部29bとからなり、厚板部29aは、前縁側に設けられる前板部29a1と、側板29を扇に例えた場合に扇の要部に相当する頂部29a2と、この頂部29a2
を経て後縁の途中部分にわたって設けられた後板部29a3とからなる。側板29の薄板部29bは、底板28の薄板部28bと側板29の厚板部29aとの間にこれらに互いに溶接して設けられる。
図5(A)は厚板部29aと薄板部29bとが溶接部31により溶接された状態を示す。
【0022】
後板部29a3には、
図2に示した枢着ピン24を挿着するピン孔32とリンク25を連結するピン27を挿着するピン孔33を設ける。
【0023】
34は本発明により設けた補強板である。この補強板34は、底板28の薄板部28bの後縁に溶接した底板溶接板部34aと、この底板溶接板部34aの両端から延出して形成した側板溶接板部34bとからなり、この補強板34は、底板28の薄板部28bの後縁の端面に底板溶接板部34aの板面を当て、側板29の薄板部29bの後縁の端面に側板溶接板部34bの板面を当てて溶接する。
図5(B)に底板28の薄板部28bと底板溶接板部34aとの溶接部35を示す。また、
図5(B)に示すように、側板29の厚板部29a3の先端と補強板34の側板溶接板部34bの先端との間は溶接部36において溶接する。また、底板溶接板部34aと側板溶接板部34bとの間のコーナー部34cは応力緩和のためにR状に形成する。
【0024】
本実施の形態においては、底板28と側板29の各後縁側に、底板28や側板29の端面に対して板面が接合されるように補強板34を溶接したので、シェル22の後縁側の底板28と側板29との接合部分ないしその近傍の強度が向上する。また、補強板34は、その板面を、底板28や側板29の端面に対して板面を接合する構造としたので、底板28や側板29の変形を防止する上で効果的に作用する。このため、本実施の形態で示すように、底板28と側板29の後縁における溶接部ないしその近傍の厚板を無くすることが可能となる。
【0025】
これにより、シェルの重量ひいてはクラムシェルバケットの重量の削減が可能となり、その分だけバケット16のサイズを増大させ、掘削可能な土砂容量を増大させることが可能となる。具体的には、シェル22自体の重量をおおよそ2割前後削減でき、これにより、従来例えば1.3m
3の掘削容量しか得られなかったものに対し、同じバケット重量で約1.4m
3程度に掘削容量を増大させることができる。また、補強板34は、その板面を底板28や側板29の端面に対して板面を接合する構造とした上、補強板34のコーナー部34cはR状に形成したので、シェル22の強度を低下させることがない。
【0026】
本発明を実施する場合、
図6に示すように、底板28の後縁に厚板部28cを設けたり、側板29の底板溶接部ないしその近傍に厚板部29cを設けてもよい。この場合、シェル22の後部の強度を補強板34により増大させているので、これらの厚板部28c,29cの幅W1は従来よりはるかに狭くすることができ、シェル22の軽量化が可能となる。
【0027】
図6の構造に比較して、
図3〜
図5に示したように、側板29の頂部29a2から後縁における途中部分にのみ厚板部29a3を設け、その厚板部29a3の先端と補強板34とを溶接する構造とすることにより、従来のシェルにおいて、重量増大の原因となっていた側板の厚板部が大幅に減少し、バケット重量の減少に寄与させることができる。
【0028】
また、
図3〜
図5に示したように、底板28を、前縁側に設けた厚板部28aから後縁にわたって薄板部
28bによって構成し、この薄板部28bに補強板34を溶接することにより、底板28の軽量化が達成され、バケット重量の減少に寄与させることができる。
【0029】
また、
図4(B)に示すように、本実施の形態においては、側板の前縁側に設ける厚板部29a1を、底板溶接部から頂部29a2にわたる中間部において、前縁の反対側に凹部37に形成したので、前縁側の厚板部29a1の中間部の幅W2が狭くなり、側板の厚板部29aの全体量が減少させることができるため、側板29の軽量化が達成され、バケット重量の減少に寄与させることができる。また、たとえこのような凹部37を設けたとしても、掘削時に最も力が加わるシェル22の頂部29a2は厚板部により幅を狭めることなく構成すると共に、底板28の前縁側とその近傍の側板29も厚板部28a,29a1により幅を狭めることなく構成したので、シェル22の強度が確保される。なお、本実施の形態においては、凹部37をR状に形成したが、この凹部37はR状以外の曲線状あるいは角形に形成してもよい。
【0030】
上記実施の形態においては、後板部29a3を一枚の板により構成した例について示したが、この後板部29a3を2枚の板により構成してその2枚の板の間に取付けフレーム23に設けたブラケットやリンク25を挿入してピン付けする構造にも本発明を適用することができる。
【0031】
また、取付けフレーム23に、シェル22の内壁に近接させて、掻き出しフレームを取付ける場合もあるが、そのような掻き出しフレームを取付けたクラムシェルバケットにも本発明を適用することが可能である。
【0032】
また、本発明は、ロッド20bとシェル22との間にシェル開閉用の油圧シリンダを取付けた構成のクラムシェルバケットにも適用することができる。その他、本発明を実施する場合、上記実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の変更、付加が可能である。
【符号の説明】
【0033】
16:クラムシェルバケット、20:バケットシリンダ、22:シェル、28:底板、28a,28c:厚板部、28b:薄板部、29:側板、29a:厚板部、29a1:前板部、29a2:頂部、29a3:後板部、29b:薄板部、30:掘削爪、31,35,36:溶接部、32,33:ピン孔、34:補強板、34a:底板溶接板部、34b:側板溶接板部、34c:コーナー部、37:凹部