【実施例】
【0045】
実験材料及び実験方法
AD(アルツハイマー疾患)モデル
本実験は、AAALAC(Association for the Assessment and Accreditation of Laboratory Animal Care International、国際実験動物管理公認協会)により認可されたソウル大学病院のIACUC(Institutional Animal Care and Use Committee)の許可を得て実施した。スウェーデン二重変異(スウェーデン変異;Lys670→Asn、Met671→Leu)を含むヒトアミロイド前駆体タンパク質の695アミノ酸イソフォームをプリオンプロモーターの調節下で発現するTg2576マウス(Taconic、Hudson、NY、USA)(Hsiao et al.、1996)をAD形質転換モデルとして利用した。形質転換及び野生型マウスを、独立したケージ及び室温(25℃)で飲水に自由に摂取できるようにしながら12時間の明暗サイクル条件下で維持し、7ヶ月齢又は12ヶ月齢でmiRNA分析に利用した。
【0046】
miRNAマイクロアレイ
マウス又はヒト用miRNAマイクロアレイキットを使用して行った(Agilent miRNA Microarray 8×15K kits、Agilent、Santa Clara、CA)。マウス脳から抽出したRNAを二匹分ずつ一つに集めた。冷凍されたヒト側頭皮質(temporal cortex)サンプルは、ボストン大学アルツハイマー病センター(Boston University Alzheimer’s Disease Center、Boston、MA)の脳バンクから得た。本発明者らは、マウスサンプルを下記のRNAクオリティー基準に適したものを利用した:260/280比率>1.8、260/230比率>2.0、28S/18S rRNA比率>1.6、及びRNA完全性数(RNA integrity number)>8.0。ヒト剖検サンプルは、RNAの死後分解(post−mortem degradation)を経るため、アルツハイマーとコントロールサンプルは、死後の期間を合わせた。
【0047】
Real−Time PCR
miRNAのReal−time PCRは、miRNA検出キット(mirVana qRT−PCR miRNA Detection Kit)及びプライマーセット(Applied Biosystems、Foster City、CA)を利用して行った。内在性snoRNA202検出キット(endogenous snoRNA202 detection kit、Ambion−Applied Biosystems)を使用してレベルを測定し、miRNAレベルの規準化に使用した。miRNAを、35サイクルで増幅した後、1.0%アガーロスゲル電気泳動で可視化した。BDNF mRNA発現のためのReal−time PCRは、遺伝子発現キット(TaqMan gene expression assay、Applied Biosystems)のプライマー及びプローブを使用して行った。
【0048】
miRNAのin situ ハイブリダイゼーション
ロックド核酸(LNAs)を利用して、miRNAのin situにおける発現を分析した。前記LNAsは、miRNA検出に必要な短いプローブに対してハイブリッド形成温度を大きく増加させ、強化された厳密条件(stringency)が利用されるようにするバイ−サイクリックRNA類似体である(Obernosterer et al.、2007)。miRNA検出に利用されるLNAプローブは、Exiqonで購入し、DIG 30 endラベリングキット(Roche)を利用して凍結切片化組織をラベリングした(Obernosterer et al.、2007)。
【0049】
miRNAのターゲット遺伝子予測
miRNA成熟配列データベースをmiRBase(http://www.mirbase.org)から得た。マウス遺伝子3’−非解読部位(UTR)にあるmiRNAターゲット候補位置を見つけるために、3種のターゲット予測プログラムを利用した:TargetScan(http://www.targetscan.org)(Lewis、2005);PicTar(http://pictar.mdc−berlin.de/)(Krek、2005)、及びmicroT(http://diana.cslab.ece.ntua.gr/microT/)(Kiriakidou、2004)。
【0050】
アルツハイマーマウスのアンタゴミア(antagomir)処理
マウスに1%ケタミン(ketamine、30mg/kg)及びキシラジンヒドロクロライド(4mg/kg)を腹腔注射してマウスを麻酔した。30ゲージハミルトン注射器を使用して、0.5nmolのアンタゴミアAM206(2’−O−methylated−5’−cca cac acu ucc uua cau ucc a−3’)又はスクランブル配列対照アンタゴミア(2’−O−methylated−5’−aag gca agc uga ccc uga agu u−3’)(Bioneer、Daejon、South Korea)を含む1μLのPBS(phosphate−buffered saline)を、下記の座標で第三脳室に5分間注入した:ブレグマ(bregma)から前後方向(antero−posterior)、−1.06mm;左右方向(medio−lateral)、0.00mm;背腹方向(dorso−ventral)、−2.4mm。注射針を、注入後さらに5分間座標に維持した後、穏やかに除去した。AM206の拡散を可視化するために、マウスに、AM206の代わりにCy3ラベルされたAM206(Cy3−2’−O−methylated−5’−cca cac acu ucc uua cau ucc a−3’、Bioneer)を注入した。AM206の鼻腔投与のために、マウスを麻酔して、仰臥位で頭部を直立姿勢(upright position)にした。AM206又はCy3ラベルされたAM206 5nmolを含む0.1%v/vジエチルピロカーボネートで処理された蒸留水24μLを2分毎に各外鼻孔にピペットで4μLずつ落として投与した(計6分画(fractions))。コントロールTg2576マウスは、週齢を合わせて同量のビヒクル(vehicle)で処理した。
【0051】
文脈的及び手がかり的恐怖条件付け(Contextual and cued fear conditioning)
恐怖条件付けは、従来方法(Jeon et al.、2008)にしたがって、恐怖条件付けショックチャンバシステム(Coulbourn Instruments、Whitehall、PA、米国)で実施した。条件付けのために、マウスを恐怖条件付け装置チャンバに5分間置いた後、28−sアコースティック条件付け刺激を与えた後、非条件付け刺激として床グリッドに2秒間0.7mAショックを印加した。前記過程を60秒間隔で3回繰り返した。文脈的記憶を評価するために、条件付け24時間後、マウスをアコースティック刺激無しに訓練装置に再び移した後、萎縮行動を5分間観察した。手がかり記憶を評価するために、条件付け24時間後、異なる匂い、床及び視覚を有するチャンバにマウスを移して、その行動を5分間モニタリングした。前記試験の最終3分間、動物をアコースティック刺激に露出させた。呼吸運動を除いた運動の欠如を示すクラウチング位置で定義される萎縮行動の長さを測定し、恐怖反応を定量化した(Jeon et al.、2008)。
【0052】
Y迷路試験
Y−迷路試験を従来の方法に従って行った(Sarter et al.、1988)。迷路を黒色プラスチックで、それぞれのアームを長さ35cm、高さ15cm、幅5cmとして製作して、同一な角度に配置した。マウスの一つのアームの末端に配置して、迷路を通って5分間自由に移動するようにした。アーム進入のシリーズを視覚的に記録し、マウスの踵がアーム内に完全に位置した場合を、アーム進入に成功したと評価した。交差回数(Alternation)は、オーバーラッピングトリプレットセットの三つのアームへの連続的な進入で定義した。%交差回数は、実際:可能性(actual to possible)の比で計算した。
【0053】
ウェスタンブロッティング
麻酔されたマウスを断頭で屠殺し、脳を直ちに摘出した。各脳のホモジネートに対して、従来の方法によって、ウェスタンブロッティングのために処理し(Lee et al.、2009)、この場合、BDNF(brain−derived neurotrophic factor、Abcam)、IGF−1(insulin−like growth factor−1、Abcam)、Notch3(Abcam)、MEOX2(Abcam)又はβ−アクチン(Santa Cruz Biotechnology)に対する抗体を利用した。増強化学発光試薬(Pierce、Rockford、IL、USA)でブロットを現像し、デジタル的にスキャニングした(GS−700;Bio−Rad、Hercules、CA、米国)。それぞれのバンドのβ−アクチンに対する相対的光学密度を、Molecular Analyst
TMソフトウェア(Bio−Rad)を利用して測定した。脳ホモジネートにおいてAβ40及びAβ42のレベルは、Aβ Ultrasensitive ELISAキット(Invitrogen)を利用して測定した。
【0054】
Tg2576マウスの組織学分析
マウスを麻酔して、心臓に10mLの冷たい塩水及び10mLの4%パラホルムアルデヒドを含む0.1M PBSを灌流させた。20μm厚の切片を4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール、ハリエニシダ(Ulex europaeus)Iレクチン(Vector Laboratories、Burlingame、CA)又はMAP2(microtubule−associated protein 2、Chemicon−Millipore、Billerica、MA)、GFAP(glial fibrillary acidic protein、Santa Cruz Biotechnology、Santa Cruz、CA)、シナプトフィシン又はダブルコルチン(Abcam、Cambridge、MA)に対する抗体で染色した。海馬に対するシナプトフィシン染色の光学的密度を求めるために、各マウスから三つの連続した冠状面組織切片(500μm間隔、ブレグマから前後方向に約−1.5mmから−2.5mm)を、Image−J(National Institutes of Health、Bethesda、MD)を使用して分析した。値は、コントロールTg2576マウスとの相対値で示した。隣り合う三つの海馬セクション(500μm間隔)において、歯状回の顆粒下層でダブルコルチン免疫反応細胞の数を測定して、歯状回の長さ(1200μm)により規準化した。
【0055】
二重ルシフェラーゼ試験(Dual luciferase assay)
可能なターゲット遺伝子の3’−UTR位置に対するオリゴヌクレオチドを、5’−末端及び3’−末端にSacI及びXbaIの制限酵素サイトを含めてデザインした。その後、pmirGLO二重ルシフェラーゼmiRNAターゲット発現ベクター(Promega、Madison、WI)でサブクローニングした。BDNFの全体3’−UTRシーケンス(SwitchDB、Menlo Park、CA)を有するトランスフェクション用のルシフェラーゼレポーターコンストラクションを用いた。24ウェルプレートにHeLa細胞(ウェル当たり5×10
4細胞)を撒いて24時間培養後、細胞を30pmolのmiRNA−206二重鎖(又はスクランブルされたmiRNA二重鎖;Bioneer、Daejon、South Korea)及び50ngのルシフェラーゼ発現ベクターでリポフェクタミン(Lipofectamine 2000、Invitrogen、Carlsbad、CA)を利用してトランスフェクションした。ホタル(Firefly)及びウミシイタケ(Renilla)ルシフェラーゼ活性は、48時間後、二重ルシフェラーゼレポーター1000アッセイシステム(Promega)を使用して評価し、規準化した値(ホタルルシフェラーゼ活性/ウミシイタケルシフェラーゼ活性)を分析のために用いた。
【0056】
樹状突起スパイン(dendritic spine)密度の分析
E17 C57BL/6マウス胚芽からプライマリー海馬ニューロンを培養した。ニューロンを、ポリリジンコートされたカバースリップ上で、星状細胞フィーダー層上に懸濁することで培養し、N2培地(Invitrogen)中で維持した。Aβオリゴマーを作製するために、5mM Aβ42ペプチド又はスクランブルAβペプチド(Millipore)を含むDMSO(dimethylsulfoxide)を、冷たい培養培地を用いて100μMに希釈した後、10分間超音波処理して、4℃で24時間放置した。培養3週後、ニューロンを5μM Aβオリゴマーで処理した。これと同時に、培養培地に500nMのAM206又はスクランブルアンタゴミアを加えた。48時間後、ニューロンを40分間4%パラホルムアルデヒドで固定し、ローダミンラベルされたファロイジン(Invitrogen)で染色して、共焦点顕微鏡(LSM510 Meta Confocal microscope、Carl Zeiss)で樹状突起スパインを観察した。各グループで30個の細胞から無作為に選別された100個の樹状突起セグメントにおけるスパインの数をカウントした。密度は、10μmの樹状突起長さに対して算出した。
【0057】
データ分析及び統計
miRNA発現のためのヒートマップ(Heat maps)をZ−スコアを利用して製作した。二つのグループ間の比較のためにMann−Whitney U テストを用い、三つ以上のグループ間の比較のためにKruskall−Wallis変化分析を用いた。また、死後グループ間の比較のために、Mann−Whitney U テストを用いた。全ての統計的分析は、SPSS(version 17.0、SPSS Inc.、Somers、NY)を用いて行った。0.05未満の両側検定p値が統計的に有意であることを示す。
【0058】
実験結果
アルツハイマーモデルにおけるmiR−206の上方調節
アルツハイマーモデルにおいて変化したmiRNAの一つがBDNFの調節に重要なmiRNAであるという仮説に基づいて、本発明者らは、まずマイクロアレイを利用し、7月齢及び12月齢の野生型(WT)及びアルツハイマーの形質転換モデルのTg2576マウス間のmiRNAを比較した(
図1a)。Tg2576マウスにおいて、7月齢では増加したAβ42発現を示し、12月齢では記憶に障害があることが確認された。7月齢及び12月齢マウスにおいて最も上方調節されたmiRNAは、miR−206であることを確認した。Real−time PCRにより12月齢Tg2676マウスでmiR−206の上方調節が確認された(
図1b)。
【0059】
in situハイブリダイゼーションも、12月齢Tg2576マウスの脳でmiR−206の拡散した発現が増加することを示した(
図1c)。これと同様に、real−time PCRは、Neuro−2aマウスの神経芽細胞腫細胞においてAβ42がmiR−206のレベルを増加させるが、HUVEC(human umbilical vein endothelial cells)ではそうではないことを示した(
図1d)。このような知見がヒトアルツハイマー疾病に関連があるかどうかを評価するため、アルツハイマー患者(Braak stage V、clinical dementia rating[CDR]3)及びほぼ同じ年齢と性別の四人の非アルツハイマーコントロール群(Braak stage I、CDR0)からのヒト上側頭皮質(superior temporal cortex)サンプルでmiR−206のレベルを測定した。我々の脳バンクにおいて、略3時間〜3.5時間の死後期間は、剖検でヒト脳組織を得る最も短い実際的な時間である。ヒト剖試料は、RNAの死後分解を経るため、28S/18S rRNA比率及びRNA integrity numberは、マウスの場合、死後2時間後に減少する。アルツハイマー及びコントロールサンプルは、死後間隔を揃えて比較されて、このような条件でreal−time PCRを通じて、アルツハイマー脳においてmiR−206が上方調節されたことを確認した(
図1e)。
【0060】
ADモデルにおけるアンタゴミア−206の治療学的応用
アルツハイマーモデルにおけるmiR−206の持続的な上方調節は、これを利用したターゲット遺伝子探索を可能にし、実際、TargetScan、PicTar及びmicroTは、マウス及びヒト3’−UTRs部位でBDNFをコーディングする三つの推定miRNA−206のターゲットを発見した(
図2a)。本発明者らは、Tg2576マウスの月齢によってmiR−206のレベル増加及びBDNFのタンパク質レベルが減少することを見出し、これを裏付けた。
【0061】
さらに試験するために、マウスBDNF mRNAの推定結合部位(BDNF#1、#2、#3)及びBDNF mRNAの3’−UTRを含む、ターゲットとなり得る位置を有するmiR−206及びルシフェラーゼベクターでHeLa細胞をトランスフェクションさせた。BDNF mRNAの全3’−UTR及びBDNF#3を有するベクターを含む細胞において、miR−206のトランスフェクションは、ルシフェラーゼ活性を減少させ、このことは、miR−206が3’−UTRへの結合を介して直接的にBDNF mRNAの翻訳を抑制することを示す(
図2b)。また本発明者らは、miR−206を中和するアンタゴミアAM206でコトランスフェクションしたNeuro−2a細胞及びHUVECにおいて、BDNFのタンパク質レベルが減少するということを見出した(
図2c)。Neuro−2a細胞においてAβオリゴマーの処理は、miR−206を増加させ、BDNF mRNAレベルの減少無しにBDNFタンパク質レベルを減少させ、このことは、BDNFの翻訳抑制を示す(
図2d)。AβオリゴマーによるBDNFタンパク質レベルの減少は、細胞をAM206処理することにより回復した(
図2e)。プライマリーマウス海馬ニューロンにおいてAβオリゴマーは、AM206処理を通じて回復された樹上突起の密度を減少させた(
図2f)。
【0062】
このような結果は、miR−206によりBDNF発現が下方調節され得、したがって、アルツハイマーが進行する可能性を示唆する。インビボ(in vivo)でmiR−206の機能を調べるために、Cy3ラベルされたAM206(Cy3−AM206)を12月齢Tg2576マウスの第三脳室に注入して、Cy3−AM206は、一日後、海馬及び周辺組織に拡散したことが観察された(
図2g)。Ulex−レクチン陽性内皮細胞、GFAP(glial fibrillary acidic protein)陽性グリア細胞及びMAP2陽性神経細胞によりCy3−AM206が検出された(
図2h)。実際、スクランブルアンタゴミアと比較し、AM206を脳室内に注入した12月齢Tg2576マウスは、1週後にBDNFの脳レベルが非常に増加した(
図2i)。さらに、Tg2576マウスのAM206注入は、CREB(cAMP response element binding)を活性化させ、c−JNK(Jun N−terminal kinase)及びGSK−3β(glycogen synthase kinase 3β)を非活性化させた。これは、BDNFシグナリングが増加することを示す。
【0063】
アンタゴミア−206は、ADマウスにおいて記憶力及びシナプス再生を増加させた
次いで、本発明者らは、BDNF増強の治療効果を、12ヶ月目の記憶テストの各1週前又は3週前にTg2576マウスの第三脳室にAM206を注入することによって確認することを探求した。文脈的恐怖条件付けテストにおいて、Tg2576コントロールマウスのためのフリージングタイムが野生型マウスに比べてさらに低く、このことは、Tg2576マウスの海馬記憶に障害があることを示す(
図3a)。注入後、1週及び3週目のフリージングタイムは、両方ともコントロールTg2576マウスよりAM206処理したTg2576マウスの方がさらに高く、このことは、少なくとも3週間AM206が海馬記憶機能を増加させることを示す。扁桃体が重要な役割をする手がかり条件付け試験においては、グループ間に差はなかった(
図3b)。Y−迷路テストにおいて、注入1週後にAM206で処理されたTg2576マウスは、Tg2576コントロールマウスよりさらに良好な行動を示した(
図3c)。その反面、AM206は、皮質又は海馬の全体プラーク面積には何の影響もないことを、チオフラビンS染色により確認し、またAβ40又はAβ42の脳レベルには影響を及ぼさないことを、ELISAで測定して確認した。したがって、AM206マウスによる記憶向上は、Aβレベルの変化によるものというより、メカニズムによるものであることが分かる。
【0064】
AM206がBDNF発現を増加させるため、海馬シナプトフィシンレベル及びダブルコルチン陽性細胞の数への影響を測定した。Tg2576コントロールマウスでは、野生型マウスに比べシナプトフィシンレベルが低かった(
図3d)。テスト1週前又は3週前のTg2576マウスへのAM206注入は、Tg2576コントロールマウスと比較し、シナプトフィシン発現を増加させ、このことは、シナプス密度を増加させることを示す。さらに、Tg2576コントロールマウスにおいて、海馬歯状回においてダブルコルチン陽性細胞が野生型マウスより少数であるにもかかわらず、染色1週前又は3週前にAM206を注入したマウスは、Tg2576コントロールマウスよりさらに多いダブルコルチン陽性細胞を示した(
図3e)。このことは、海馬の神経発生が増加することを示す。
【0065】
アンタゴミアの鼻腔投与効果
治療上の鼻腔投与は、嗅覚神経経路に沿って鼻腔から血液脳関門(blood−brain barrier)を介して直接的に脳に伝達することにより、薬物を迅速に脳にアクセスさせることが容易であるため、薬物伝達方法のうち、この便利な非侵襲性方法は、アルツハイマー患者に効果的である。本発明者らは、アンタゴミアが同様にこのルートを経由して伝達されるかどうかを評価した。実際に、鼻腔伝達されたCy3ラベルAM206は、24時間後、マウスの嗅球、皮質及び海馬から検出された(
図4a)。多数のMAP2陽性神経細胞、Ulex−レクチン陽性内皮細胞及び少数のGFAP陽性グリア細胞がCy3−AM206でラベルされた。鼻腔投与されたAM206は、ビヒクル投与から1週後のTg2576マウスと比較して、BDNFの脳レベルを増加させた(
図4b)。さらに、1週後のY−迷路テスト(
図4e)及び恐怖条件付けテスト(
図4c及び4d)による測定結果によると、AM206の鼻腔伝達は、マウスの記憶能力を増加させた。これらの結果は、鼻腔を介したアンタゴミアの脳への伝達が実現可能であることを示す。
【0066】
考察
アルツハイマー疾患におけるmiRNAの役割及び変化についての以前の研究では、BACE1/β−セクレターゼの発現又はNF−κB誘導炎症を調節するmiR−29a/b−1、miR−107、miR−146a、miR−298及びmiR−328などの多様なmiRNAを同定した。miR−206は、通常、筋肉組織で発現し、筋形成及び神経筋接合部の再生に関与する。miR−206のレベルは、正常の脳では非常に低いが、アルツハイマーでは異常に高く発現する。実験的に、脳におけるmiR−206の上方調節は、脳虚血及び神経毒性への露出後に観察される。ヒト場合、筋萎縮性側索硬化症患者の前頭皮質でmiR−206発現が増加し、統合失調症患者では、miR−206の遺伝的変異が観察された。さらに、本発明の結果は、miR−206がBDNFレベルを抑制することにより、アルツハイマーの発病にも関与するということを示す。したがって、本発明は、アルツハイマーの治療にmiR−206調節因子を利用してアプローチしなければならない明白な理由を提供する。
【0067】
アルツハイマーモデルにおいて、レンチウイルスベクターを介するか、タンパク質注入ポンプ又は神経幹細胞を利用する場合、BDNFを大脳に伝達することができ、記憶能力及びシナプス密度を向上させる。しかし、神経栄養因子を脳に伝達することは、侵襲的な施術が必要であり、中和抗体の発生により、苦痛を受けるようになる。本発明は、AM206の鼻腔伝達が脳内BDNFを向上させるための実現可能な代替方法であることを示し、アンタゴミアを利用した同様のアプローチを通じて、他の脳疾患にも応用可能性を提示する。
【0068】
−参考資料−
Boissonneault V,Plante I,Rivest S,Provost P.MicroRNA−298 and microRNA−328 regulate expression of mouse beta−amyloid precursor protein−converting enzyme 1.J Biol Chem.2009;284:1971−81.
Bonauer A,Carmona G,Iwasaki M,Mione M,Koyanagi M,Fischer A,Burchfield J,Fox H,Doebele C,Ohtani K,Chavakis E,Potente M,Tjwa M,Urbich C,Zeiher AM,Dimmeler S.MicroRNA−92a controls angiogenesis and functional recovery of ischemic tissues in mice.Science.2009;324:1710−3.
Braak H,Braak E.Evolution of the neuropathology of Alzheimer’s disease.Acta Neurol Scand Suppl.1996;165:3−12.
Bramham CR,Messaoudi E.BDNF function in adult synaptic plasticity: the synaptic consolidation hypothesis.Prog Neurobiol.2005;76:99−125.
Carro E,Trejo JL,Gomez−Isla T,LeRoith D,Torres−Aleman I.Serum insulin−like growth factor I regulates brain amyloid−beta levels.Nat Med.2002;8:1390−7.
Carro E,Trejo JL,Spuch C,Bohl D,Heard JM,Torres−Aleman I.Blockade of the insulin−like growth factor I receptor in the choroid plexus originates Alzheimer’s−like neuropathology in rodents: new cues into the human disease? Neurobiol Aging.2006;27:1618−31.
Chabriat H,Joutel A,Dichgans M,Tournier−Lasserve E,Bousser MG.Cadasil.Lancet Neurol.2009;8:643−53.
Cogswell JP,Ward J,Taylor IA,Waters M,Shi Y,Cannon B,Kelnar K,Kemppainen J,Brown D,Chen C,Prinjha RK,Richardson JC,Saunders AM,Roses AD,Richards CA.Identification of miRNA changes in Alzheimer’s disease brain and CSF yields putative biomarkers and insights into disease pathways.J Alzheimers Dis.2008;14:27−41.
Cuellar TL,Davis TH,Nelson PT,Loeb GB,Harfe BD,Ullian E,McManus MT.Dicer loss in striatal neurons produces behavioral and neuroanatomical phenotypes in the absence of neurodegeneration.Proc Natl Acad Sci U S A.2008;105:5614−9.
Das I,Craig C,Funahashi Y,Jung KM,Kim TW,Byers R,Weng AP,Kutok JL,Aster JC,Kitajewski J.Notch oncoproteins depend on gamma−secretase/presenilin activity for processing and function.J Biol Chem.2004;279:30771−30780.
Elmen J,Lindow M,Schutz S,Lawrence M,Petri A,Obad S,Lindholm M,Hedtjarn M,Hansen HF,Berger U,Gullans S,Kearney P,Sarnow P,Straarup EM,Kauppinen S.LNA−mediated microRNA silencing in non−human primates.Nature.2008;452:896−9.
Ernfors P,Bramham CR.The coupling of a trkB tyrosine residue to LTP.Trends Neurosci.2003;26:171−3.
Hansen T,Olsen L,Lindow M,Jakobsen KD,Ullum H,Jonsson E,ndreassen OA,Djurovic S,Melle I,Agartz I,Hall H,Timm S,Wang AG,Werge T.Brain expressed microRNAs implicated in schizophrenia etiology.PLoS One.2007;2:e873.
Hebert SS,Horre K,Nicolai L,Papadopoulou AS,Mandemakers W,Silahtaroglu AN,Kauppinen S,Delacourte A,De Strooper B.Loss of microRNA cluster miR−29a/b−1 in sporadic Alzheimer’s disease correlates with increased BACE1/beta−secretase expression.Proc Natl Acad Sci U S A.2008105:6415−20.
Hebert SS,De Strooper B.Alterations of the microRNA network cause neurodegenerative disease.Trends Neurosci.2009;32:199−206.
Hsiao K,Chapman P,Nilsen S,Eckman C,Harigaya Y,Younkin S,Yang F,Cole G.Correlative memory deficits,Abeta elevation,and amyloid plaques in transgenic mice.Science.1996;274:99−102.
Jacobsen JS,Wu CC,Redwine JM,Comery TA,Arias R,Bowlby M,Martone R,Morrison JH,Pangalos MN,Reinhart PH,Bloom FE.Early−onset behavioral and synaptic deficits in a mouse model of Alzheimer’s disease.Proc Natl Acad Sci U S 2006;103:5161−6.
Jeon D,Song I,Guido W,Kim K,Kim E,Oh U,Shin HS.Ablation of Ca2+ channel beta3 subunit leads to enhanced N−methyl−D−aspartate receptor−dependent long term potentiation and improved long term memory.J Biol Chem.2008;283:12093−101.
Karres JS,Hilgers V,Carrera I,Treisman J,Cohen SM.The conserved microRNA miR−8 tunes atrophin levels to prevent neurodegeneration in Drosophila.Cell.2007;131:136−45.
Kim J,Inoue K,Ishii J,Vanti WB,Voronov SV,Murchison E,Hannon G,Abeliovich A.A MicroRNA feedback circuit in midbrain dopamine neurons.Science.2007;317:1220−4.
Kim VN,Han J,Siomi MC.Biogenesis of small RNAs in animals.Nat Rev Mol Cell Biol.2009;10:126−39.
Lanford RE,Hildebrandt−Eriksen ES,Petri A,Persson R,Lindow M,Munk ME,Kauppinen S,Orum H.Therapeutic silencing of microRNA−122 in primates with chronic hepatitis C virus infection.Science.2010;327:198−201.
Lang AE,Gill S,Patel NK,Lozano A,Nutt JG,Penn R,Brooks DJ,Hotton G,Moro E,Heywood P,Brodsky MA,Burchiel K,Kelly P,Dalvi A,Scott B,Stacy M,Turner D,Wooten VG,Elias WJ,Laws ER,Dhawan V,Stoessl AJ,Matcham J,Coffey RJ,Traub M.Randomized controlled trial of intraputamenal glial cell line−derived neurotrophic factor infusion in Parkinson disease.Ann Neurol.2006;59:459−466.
Lee ST,Chu K,Jung KH,Im WS,Park JE,Lim HC,Won CH,Shin SH,Lee SK,Kim M,Roh JK.Slowed progression in models of Huntington disease by adipose stem cell transplantation.Ann Neurol.2009;66:671−81.
Lukiw WJ,Zhao Y,Cui JG.An NF−kappaB−sensitive micro RNA−146a−mediated inflammatory circuit in Alzheimer disease and in stressed human brain cells.J Biol Chem.2008;283:31315−22.
Maes OC,Chertkow HM,Wang E,Schipper HM.MicroRNA: Implications for Alzheimer Disease and other Human CNS Disorders.Curr Genomics.2009;10:154−68.
Nagahara AH,Merrill DA,Coppola G,Tsukada S,Schroeder BE,Shaked GM,Wang L,Blesch A,Kim A,Conner JM,Rockenstein E,Chao MV,Koo EH,Geschwind D,Masliah E,Chiba AA,Tuszynski MH.Neuroprotective effects of brain−derived neurotrophic factor in rodent and primate models of Alzheimer’s disease.Nat Med.2009;15:331−7.
Packer AN,Xing Y,Harper SQ,Jones L,Davidson BL.The bifunctional microRNA miR−9/miR−9
* regulates REST and CoREST and is downregulated in Huntington’s disease.J Neurosci.2008;28:14341−6.
Phillips HS,Hains JM,Armanini M,Laramee GR,Johnson SA,Winslow JW.BDNF mRNA is decreased in the hippocampus of individuals with Alzheimer’s disease.Neuron.1991;7:695−702.
Querfurth HW,LaFerla FM.Alzheimer’s disease.N Engl J Med 2010;362:329−44.
Rao PK,Kumar RM,Farkhondeh M,Baskerville S,Lodish HF.Myogenic factors that regulate expression of muscle−specific microRNAs.Proc Natl Acad Sci U S A.2006;103:8721−6.
Sarter M,Bodewitz G,Stephens DN.Attenuation of scopolamine−induced impairment of spontaneous alteration behaviour by antagonist but not inverse agonist and agonist beta− carbolines.Psychopharmacology.1988;94:491−495.
Schaefer A,O’Carroll D,Tan CL,Hillman D,Sugimori M,Llinas R,Greengard P.Cerebellar neurodegeneration in the absence of microRNAs.J Exp Med.2007;204:1553−8.
Sethi P,Lukiw WJ.Micro−RNA abundance and stability in human brain: specific alterations in Alzheimer’s disease temporal lobe neocortex.Neurosci Lett.2009;459:100−4.
Selkoe DJ.Alzheimer’s disease is a synaptic failure.Science.2002;298:789−91.
Shaked I,Meerson A,Wolf Y,Avni R,Greenberg D,Gilboa−Geffen A,Soreq H.MicroRNA−132 potentiates cholinergic anti−inflammatory signaling by targeting acetylcholinesterase.Immunity.2009;31:965−73.
Shioya M,Obayashi S,Tabunoki H,Arima K,Saitoh Y,Ishida T,Satoh J.Aberrant microRNA expression in the brains of neurodegenerative diseases: miR−29a decreased in Alzheimer disease brains targets neuron navigator−3.Neuropathol Appl Neurobiol.2010.10.1111/j.1365−2990.2010.01076.x
Wang WX,Rajeev BW,Stromberg AJ,Ren N,Tang G,Huang Q,Rigoutsos I,Nelson PT.The expression of microRNA miR−107 decreases early in Alzheimer’s disease and may accelerate disease progression through regulation of beta−site amyloid precursor protein−cleaving enzyme 1.J Neurosci.2008;28:1213−23.
Wang X,Liu P,Zhu H,Xu Y,Ma C,Dai X,Huang L,Liu Y,Zhang L,Qin C.miR−34a,a microRNA up−regulated in a double transgenic mouse model of Alzheimer’s disease,inhibits bcl2 translation.Brain Res Bull.2009;80:268−73.
Williams AH,Valdez G,Moresi V,Qi X,McAnally J,Elliott JL,Bassel−Duby R,Sanes JR,Olson EN.MicroRNA−206 delays ALS progression and promotes regeneration of neuromuscular synapses in mice.Science.2009;326:1549−54.
Wu Z,Guo H,Chow N,Sallstrom J,Bell RD,Deane R,Brooks AI,Kanagala S,Rubio A,Sagare A,Liu D,Li F,Armstrong D,Gasiewicz T,Zidovetzki R,Song X,Hofman F,Zlokovic BV.Role of the MEOX2 homeobox gene in neurovascular dysfunction in Alzheimer disease.Nat Med.2005;11:959−65.
【0069】
本発明の好ましい実施例について記述したが、本発明の精神の範囲内にあるそれらの変形及び修正が、当業者にとって明白であることは理解されるであろう。また、本発明の範囲は、添付された特許請求の範囲及びそれらの均等物によって決定されることは理解されるであろう。