(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5710005
(24)【登録日】2015年3月13日
(45)【発行日】2015年4月30日
(54)【発明の名称】スラット、航空機の翼、航空機の動翼、航空機
(51)【国際特許分類】
B64C 9/00 20060101AFI20150409BHJP
【FI】
B64C9/00
【請求項の数】13
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-529871(P2013-529871)
(86)(22)【出願日】2012年8月21日
(86)【国際出願番号】JP2012005228
(87)【国際公開番号】WO2013027388
(87)【国際公開日】20130228
【審査請求日】2013年9月10日
(31)【優先権主張番号】特願2011-181500(P2011-181500)
(32)【優先日】2011年8月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】508208007
【氏名又は名称】三菱航空機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100077
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 充
(74)【代理人】
【識別番号】100136010
【弁理士】
【氏名又は名称】堀川 美夕紀
(74)【代理人】
【識別番号】100130030
【弁理士】
【氏名又は名称】大竹 夕香子
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀明
【審査官】
黒田 暁子
(56)【参考文献】
【文献】
英国特許出願公告第00525400(GB,A)
【文献】
特開2009−006987(JP,A)
【文献】
マイクル・C・Y・ニウ,航空機構造設計 − 機体設計のための実用書,日本,有限会社 名古屋航空技術,2000年 2月21日,343-344
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64C 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機の主翼の前縁部に沿って配置されるスラットであって、
前記スラットの外皮部材と、
前記外皮部材の内部空間に設けられ、前記外皮部材の骨格となるフレーム材と、を備え、
前記フレーム材は、前記スラットの短手方向に延び、前記スラットの長手方向に間隔を隔てて配置された複数のリブ材と、
前記スラットの長手方向に延びて複数の前記リブ材を連結するスティフナ材と、
前記複数のリブ材のうち、一対の第1リブ材を連結する連結部材と、
を備え、
前記連結部材は、前記一対の第1リブ材間に位置する第2リブ材を貫通して設けられているとともに、
前記一対の第1リブ材は、前記スラットを前記主翼の前記前縁部に接近・離間させるためのレール部材を備えていることを特徴とするスラット。
【請求項2】
航空機の主翼の前縁部に沿って配置されるスラットであって、
前記スラットの外皮部材と、
前記外皮部材の内部空間に設けられ、前記外皮部材の骨格となるフレーム材と、を備え、
前記フレーム材は、前記スラットの短手方向に延び、前記スラットの長手方向に間隔を隔てて配置された複数のリブ材と、
前記スラットの長手方向に延びて複数の前記リブ材を連結するスティフナ材と、
前記複数のリブ材のうち、一対の第1リブ材を連結する連結部材と、
を備え、
前記連結部材は、前記一対の第1リブ材間に位置する第2リブ材を貫通して設けられているとともに、
前記連結部材は、ワイヤー状であることを特徴とするスラット。
【請求項3】
前記第2リブ材のそれぞれには、前記連結部材が貫通する貫通孔が形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のスラット。
【請求項4】
前記一対の第1リブ材は、前記スラットを前記主翼の前記前縁部に接近・離間させるためのレール部材を備えていることを特徴とする請求項2に記載のスラット。
【請求項5】
前記連結部材は、ワイヤー状またはビーム状であることを特徴とする請求項1に記載のスラット。
【請求項6】
前記連結部材はワイヤーケーブルであることを特徴とする請求項1または2に記載のスラット。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載のスラットを備えることを特徴とする航空機の翼。
【請求項8】
請求項7に記載の翼を備えることを特徴とする航空機。
【請求項9】
航空機の主翼または尾翼の一部を構成する動翼であって、
前記動翼の外皮部材と、
前記外皮部材の内部空間に設けられ、前記動翼の短手方向に延び、前記動翼の長手方向に間隔を隔てて配置された複数のリブ材と、
前記動翼の長手方向に延びて複数の前記リブ材を連結するスティフナ材と、
前記複数のリブ材のうち、一対の第1リブ材を連結する連結部材と、
を備え、
前記連結部材は、前記一対の第1リブ材間に位置する第2リブ材を貫通して設けられているとともに、
前記一対の第1リブ材は、前記動翼を前記主翼または前記尾翼の縁部に接近・離間させるためのレール部材を備えていることを特徴とする航空機の動翼。
【請求項10】
航空機の主翼または尾翼の一部を構成する動翼であって、
前記動翼の外皮部材と、
前記外皮部材の内部空間に設けられ、前記動翼の短手方向に延び、前記動翼の長手方向に間隔を隔てて配置された複数のリブ材と、
前記動翼の長手方向に延びて複数の前記リブ材を連結するスティフナ材と、
前記複数のリブ材のうち、一対の第1リブ材を連結する連結部材と、
を備え、
前記連結部材は、前記一対の第1リブ材間に位置する第2リブ材を貫通して設けられているとともに、
前記連結部材は、ワイヤー状であることを特徴とする航空機の動翼。
【請求項11】
前記動翼は、前記主翼の一部を構成するフラップ、エルロン、スポイラのいずれか1つであることを特徴とする請求項9または10に記載の航空機の動翼。
【請求項12】
前記動翼は、前記尾翼の一部を構成するラダーまたはエレベータであることを特徴とする請求項9または10に記載の航空機の動翼。
【請求項13】
請求項9から12のいずれか1項に記載の動翼を備えることを特徴とする航空機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機の主翼に設けられるスラット、およびそれを備えた航空機の翼等に関する。また本発明は、航空機の主翼または尾翼の一部を構成する動翼、それを備えた航空機の翼等に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機が離着陸時等に、高揚力を得るため、主翼にスラットやフラップが付加されているのは周知の通りである(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−006987号公報(明細書段落[0002])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、スラットは、主翼の前方側に設けられているため、特に低空飛行時において、鳥や氷等が衝突したときに、損傷を受ける可能性がある。これに対し、必要な強度を有するよう、スラットが設計・製作されているのは言うまでもない。しかし、スラットの強度を高めると、その反面、重量が増えることになるため、むやみに強度を高めることはできないのが実情である。
また、主翼の一部を構成するフラップ、エルロン(補助翼)、スポイラ、尾翼の一部を構成するラダー(方向舵)、エレベータ(昇降舵)も、鳥や氷等の衝突、雷による損傷を受ける可能性がある。これらの動翼についても、強度と重量とはトレードオフの関係にある。
そこでなされた本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、鳥や氷が衝突して損傷を受けた場合や雷による損傷を受けた場合にも、必要最小限の機能を維持・発揮できるスラット等の動翼、およびそれを用いた航空機の翼、さらには航空機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる目的のもと、本発明
の第一の形態は、航空機の主翼の前縁部に沿って配置されるスラットであって、スラットの外皮部材と、外皮部材の内部空間に設けられ、外皮部材の骨格となるフレーム材と、を備え、フレーム材は、スラットの短手方向に延び、スラットの長手方向に間隔を隔てて配置された複数のリブ材と、スラットの長手方向に延びて複数のリブ材を連結するスティフナ材と、複数のリブ材のうち、一対の第1リブ材を連結する連結部材とを備え、この連結部材が、一対の第1リブ材間に位置する第2リブ材を貫通して設けられている
とともに、一対の第1リブ材が、スラットを主翼の前縁部に接近・離間させるためのレール部材を備えていることを特徴とする
。 上記した連結部材は、ワイヤー状またはビーム状であることが好ましい。連結部材の一例としては、ワイヤーケーブルが挙げられる。
また、本発明の第二の形態は、航空機の主翼の前縁部に沿って配置されるスラットであって、スラットの外皮部材と、外皮部材の内部空間に設けられ、外皮部材の骨格となるフレーム材と、を備え、フレーム材は、スラットの短手方向に延び、スラットの長手方向に間隔を隔てて配置された複数のリブ材と、スラットの長手方向に延びて複数のリブ材を連結するスティフナ材と、複数のリブ材のうち、一対の第1リブ材を連結する連結部材とを備え、この連結部材が、一対の第1リブ材間に位置する第2リブ材を貫通して設けられているとともに、連結部材がワイヤー状であることを特徴とする。 第一の形態および第二の形態のいずれにおいても、第2リブ材のそれぞれには、連結部材が貫通する貫通孔が形成されていることが好ましい。【0006】
また、本発明は、上記いずれかに記載のスラットを備えることを特徴とする航空機の翼、具体的には主翼を提供することもできる。さらには、この主翼を備えた航空機を提供することもできる。
スラット以外の動翼、例えば外皮、リブ材、スティフナ材から構成されるフラップ、エルロン、スポイラ、ラダー、エレベータにも、本発明を適用することができる。すなわち、本発明は、航空機の主翼または尾翼の一部を構成する動翼であって、動翼の外皮部材と、外皮部材の内部空間に設けられ、動翼の短手方向に延び、動翼の長手方向に間隔を隔てて配置された複数のリブ材と、動翼の長手方向に延びて複数のリブ材を連結するスティフナ材と、複数のリブ材のうち、一対の第1リブ材を連結する連結部材とを備えた航空機の動翼も提供する。この動翼は、連結部材が、一対の第1リブ材間に位置する第2リブ材を貫通して設けられてい
るとともに、(1)上記した第一の形態と同様に、一対の第1リブ材が、動翼を主翼または尾翼の縁部に接近・離間させるためのレール部材を備えていること、および/または、(2)上記した第二の形態と同様に、連結部材がワイヤー状であること、によって特徴付けられる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、スラット等の動翼に設けられた一対の第1リブ材には、1本以上の連結部材が固定されて設けられている。これにより、航空機の飛行時に鳥等がスラット等の動翼に衝突し、動翼の外皮のみならずフレーム部材(スティフナ材、リブ材)までもが変形するような損傷を受けても、一対の第1リブ材が連結部材で連結されており、かつ連結部材が第1リブ材間に位置する第2リブ材を貫通するので、スラット等の動翼がバラバラに離散してしまうのを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施の形態における翼を示す斜視図である。
【
図2】翼に設けられたスラットの動作を示す断面図である。
【
図3】翼に設けられたスラットを示す一部断面斜視図である。
【
図6】スラットが破損した場合の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
図1に示すように、航空機の主翼(翼)1には、主翼本体2と、スラット3と、が設けられている。
【0010】
スラット3は、主翼本体2の前縁部2aに沿って配置されている。主翼本体2の内部・外部にはスラット3を移動可能にする駆動機構(図示せず)が設けられている。
なお、主翼本体2の後縁にフラップ9等の他の高揚力発生装置が通常配置される。
また、主翼1には、通常、エルロンEやスポイラSが設けられている。エルロンEが上下に移動することによって機体を傾け、航空機を旋回させることができる。スポイラSを可動することで、機体を傾けたり減速させることができる。
【0011】
主翼1を備えた航空機が巡航状態にある場合には、
図2(a)に示すように、スラット3は主翼本体2の前縁部2aに近接する。この状態では、主翼本体2とスラット3とがほぼ一体となって翼1を構成する。
主翼1を備えた航空機が着陸態勢に入ると、着陸時に必要となる空力特性を実現するため、主翼本体2からスラット3が、
図2(b)に示すように展開される。具体的には、スラット3は、主翼1の失速迎角を増大させる、つまり大きな迎角まで失速させないように展開される。スラット3が展開された場合には、スラット3は主翼本体2の前縁部2aから斜め前方に下がり、主翼本体2とスラット3との間に間隔が形成される。なお、離陸時と着陸時とではスラット3を展開する程度が異なり、離陸時と比較して着陸時の方がスラット3はより大きく展開されることもある。
【0012】
このようなスラット3は、その外殻が外皮4と、COVE(凹部)5とから形成されている。
外皮4には、気流の上流側端部である前縁4aに連続して、気流が沿って流れる上面4bおよび下面4cが形成されている。上面4bは、前縁4aから滑らかに繋がる面であり、下面4cよりも主翼本体2側に突出して延びるように形成されている。下面4cは前縁4aから滑らかに繋がる面を形成し、下流側の端部には下流側に向けて突出する下面板7が一体に形成されている。
【0013】
COVE5は、スラット3における主翼本体2と対向する領域に形成された凹部である。スラット3が主翼本体2の前縁部2aに近接するときに、主翼本体2の前縁部2aがCOVE5に収納される。COVE5は、中心軸線CLに対して直交する面5aと、主翼本体2の上面に対向し、外皮4の上面4bに漸次近づく対向面5bとから構成されている。なお、COVE5は、上述の構成に限られることなく、一つの曲面から構成されたものであってもよく、特に限定するものではない。
【0014】
下面板7は、下面4cとCOVE5とが交わる稜線部8から主翼本体2に向かって延びる板状の部材であり、下面4cに連続して外皮4と一体に固定状態で形成されている。この下面板7は、例えば、アルミニウム合金、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)、GFRP(ガラス繊維強化プラスチック)、ステンレス鋼等によって形成することができる。
【0015】
図3および
図5に示すように、このようなスラット3は、外皮4およびCOVE5により外殻が形成され、その内部空間には、骨格をなすフレーム材として、翼1の翼長方向(スラットの長手方向)に間隔を隔てて配置された複数枚のリブ材10と、翼1の翼長方向(スラットの長手方向)に延び、複数枚のリブ材10を連結するスティフナ材11とが設けられている。
【0016】
図4に示すように、リブ材10のうち、一対のリブ材(第1リブ材)10A、10Bには、主翼本体2側に延びるレール部材12が設けられている。一対のリブ材10A、10Bは、好ましくはスラット3の両端部近傍に設けられる。このレール部材12には、図示しないラックギヤが設けられており、主翼本体2内には、このラックギヤに噛み合うピニオンギヤと、ピニオンギヤを回転させるモータとが設けられている。そして、モータでピニオンギヤを回転駆動させることで、主翼本体2に対し、機体の飛行方向前方および後方に向けてレール部材12とともにスラット3が進退駆動されるようになっている。
【0017】
各リブ材10には、軽量化、各種配線・配管の挿通のため等を目的とした貫通孔13が形成されている。
【0018】
図4、
図5に示すように、本実施形態において、リブ材10A、10Bには、1本以上のワイヤーケーブル(連結部材)15の両端が固定されている。このワイヤーケーブル15は、リブ材10A、10B間に位置する各リブ材(第2リブ材)10に形成された貫通孔13を通して配置されている。
【0019】
このようなワイヤーケーブル15を備えることで、航空機の飛行時に鳥等がスラット3に衝突し、外皮4のみならずリブ材10までもが変形するような損傷を受け、例え、リブ材10Aとリブ材10Bとの間でスティフナ材11が切断されたり、さらに、
図6に示すように、外皮4やCOVE5が破断したとしても、ワイヤーケーブル15によってリブ材10A、10Bが連結され、さらにこれらリブ材10A、10Bの間の他のリブ材10にワイヤーケーブル15が貫通していることから、リブ材10A、10B間のリブ材10を貫通孔13の範囲内で拘束し、スラット3がバラバラに離散してしまうのを防ぐことができる。そして、リブ材10A、10Bは、レール部材12を介して主翼本体2に連結されているため、スラット3が主翼本体2からちぎれて飛散してしまうのを防止できる。
その結果、スラット3が変形しながらも、スラット3は、小型の航空機においても、必要最小限の機能を維持・発揮することが可能となる。
【0020】
なお、上記実施の形態では、スラット3の構造を説明したが、外皮4やCOVEの形状、リブ材10やスティフナ材11の本数や形状、位置等については何ら限定するものではない。また、
図4では、レール部材12間にのみワイヤーケーブル15を配置したが、スラット3の両端近傍までワイヤーケーブル15を延長することも可能である。
また、ワイヤーケーブル15に代えて、鋼製のビーム材等を用いても良い。また、ワイヤーケーブル15は、リブ材10の飛行方向前方側に設けても良いし、後方側、あるいは中間部に設けても良く、その本数についても何ら限定するものではない。
また、上記実施の形態ではスラット3を例にして本発明の効果を説明したが、本発明は、外皮、リブ材、スティフナ材から構成されるスラット3以外の動翼にも適用可能である。例えば、主翼の一部を構成するフラップ9、エルロンE、スポイラSに、上記したワイヤーケーブル15等の連結部材を同様に設けることで、スラット3の場合と同様の効果を得ることができる。水平尾翼の一部を構成するエレベータ(昇降舵)、垂直尾翼の一部を構成するラダー(方向舵)も、外皮、リブ材、スティフナ材から構成される動翼である。エレベータおよびラダーに、上記したワイヤーケーブル15等の連結部材を同様に設けてもよい。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0021】
1…主翼、2…主翼本体、3…スラット(動翼)、4…外皮、5…COVE、9…フラップ(動翼)、10…リブ材、11…スティフナ材、12…レール部材、13…貫通孔、15…ワイヤーケーブル(連結部材)、E…エルロン(動翼)、S…スポイラ(動翼)