(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
当該方法は、前記ブランキング期間中に前記溶接プロセスの波形の一部を変更することによって、少なくとも次のパルス周期の前記ブランキング期間中に前記溶接システムの溶接回路経路を流れる溶接電流を低減させること、を更に有し、前記波形は前記溶接システムの波形発生器によって生成される、請求項1乃至3の何れか一項に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0008】
アーク溶接プロセスにおいて、溶接棒の先端とワークピースとの間の距離が比較的小さいとき、溶融金属は、接触移行過程(例えば、表面張力移行(surface-tension-transfer;STT)過程)、又は繋ぎ接続を伴う自由落下移行過程(例えば、パルス溶接過程)を介して移行され得る。接触移行過程においては、溶接棒の先端の溶融金属ボールは、該溶融金属ボールが溶接棒の先端から実質的に分離され始める前に、ワークピースと接触して(すなわち、ショートして)、ワークピース上の溶解池に“濡れ入り”始める。
【0009】
自由落下移行過程においては、溶融金属ボールは、溶接棒の先端から抜け出して、アークを横切ってワークピースの方に“飛行”する。しかしながら、溶接棒の先端とワークピースとの間の距離が比較的短いとき、アークを横切って飛行する溶融金属ボールが、溶融金属の細い繋ぎ部(テザー)が依然として溶融金属ボールを溶接棒の先端に接続したままで、ワークピースと接触(すなわち、ショート)してしまい得る。そのような繋がれた自由落下移行の状況では、溶融金属の細いテザーは、
図6に示すように、溶融金属ボールがワークピースと接触する時に、テザーを流れる電流の急増に起因して、爆発してスパッタを生じさせる傾向にある。
【0010】
図1は、溶接出力リターンパス(戻り路)内にスイッチングモジュール110を組み入れて溶接出力121及び122を提供する電気アーク溶接システム100の一実施形態例のブロック図を示している。システム100は、入力電力を溶接出力電力へと変換することが可能な電力変換器120を含んでいる。電力変換器120は、例えば、インバータ型の電力変換器又はチョッパ型の電力変換器とし得る。システム100は更に、溶接電極ワイヤEを、例えば溶接電極ワイヤEを溶接出力121に接続する溶接ガン(図示せず)を通して、送給することが可能なワイヤフィーダ130を含んでいる。
【0011】
システム100はまた、電流シャント(分路)140を含んでいる。電流シャント140は、電力変換器120によって生成される溶接出力電流を検知するために、システム100の電流フィードバックセンサ150に溶接出力電流を送るように電力変換器120と溶接出力121との間に動作的に接続される。システム100は更に、電圧フィードバックセンサ160を含んでいる。電圧フィードバックセンサ160は、電力変換器120によって生成される溶接出力電圧を検知するために、溶接出力121と溶接出力122との間に動作的に接続される。一代替例として、スイッチングモジュール110は、例えば、電力変換器120と電流シャント140との間、又は電流シャント140と溶接出力121との間など、送出溶接電流パス(経路)内に組み入れられてもよい。
【0012】
システム100はまた、高速コントローラ170を含んでいる。高速コントローラ170は、溶接出力を表す信号161及び162の形態の検知電流及び検知電圧を受信するよう、電流フィードバックセンサ150及び電圧フィードバックセンサ160に動作的に接続される。システム100は更に、波形発生器180を含んでいる。波形発生器180は、高速コントローラ170に動作的に接続され、リアルタイムに溶接波形信号181をどのように適応させるかを当該波形発生器に伝えるコマンド信号171を高速コントローラ170から受信する。波形発生器180が出力溶接波形信号181を生成し、電力変換器120が、波形発生器180に動作的に接続されて、出力溶接波形信号181を受信する。電力変換器120は、出力溶接波形信号181に基づいて入力電力を溶接出力電力へと変換することによって、変調された溶接出力(例えば、電圧及び電流)を生成する。
【0013】
スイッチングモジュール110は、処理中に溶接ワークピースWに接続される溶接出力122と電力変換器120との間に動作的に接続される。高速コントローラ170もスイッチングモジュール110に動作的に接続され、スイッチングモジュール110にスイッチングコマンド信号(又はブランキング信号)172を提供する。高速コントローラ170は、本発明の一実施形態によれば、ロジック回路、プログラム可能マイクロプロセッサ、及びコンピュータメモリを含み得る。
【0014】
本発明の一実施形態によれば、高速コントローラ170は、検知された電圧信号161、検知された電流信号162、又はこれら2つの組合せを用いて、各パルス周期中に、前進する溶接棒EとワークピースWとの間でいつショートが起こるか、ショートがいつ消え去りそうか、及びショートが実際にいつ消え去ったか、を決定し得る。ショートが起こる時及びショートが消え去る時を決定するこのような手法は、技術的に周知であり、例えば米国特許第7304269号明細書に記載されている。なお、この文献のその部分をここに援用する。高速コントローラ170は、ショートが起こるとき及び/又はショートが消え去るときに波形信号181を変更するよう波形発生器180に命令し得る。例えば、ショートが既に消え去ったと決定されたとき、高速コントローラ170は、先のショートの除去の直後に別のショートが起こることを防止するために、波形信号181内にプラズマブーストパルス(
図7のパルス750参照)を組み入れるよう、波形発生器180に命令し得る。
【0015】
図2は、溶接電流リターンパス内にスイッチングモジュール110を含んだ
図1のシステム100の一部の一実施形態例を示す図である。電力変換器120は、インバータ電源123とフリーホイールダイオード124とを含み得る。溶接出力パスは、当該溶接出力パス内の様々な電気的成分に起因して、生来的な溶接回路インダクタンス210を有することになる。スイッチングモジュール110は、抵抗路112(例えば、高電力定格の抵抗器の回路)と並列な電気スイッチ111(パワートランジスタ回路)として示されている。
【0016】
溶接波形の或るパルス周期において、ショートが存在しないとき、電気スイッチ111は、高速コントローラ170からのスイッチングコマンド信号172により、閉じるように命令される。電流スイッチ111が閉じているとき、電気スイッチ111は、出力溶接リターンパスに、溶接電流がスイッチ111を通って電力変換器120まで自由に戻ることを可能にする非常に低い抵抗の経路を提供する。抵抗路112も依然として溶接出力リターンパス内に存在するが、電流の大部分は、閉じたスイッチ111によって提供される低抵抗路を流れることになる。しかし、ショートが検出されると、電気スイッチ111は、高速コントローラ170からのスイッチングコマンド信号172により、開くように命令される。電気スイッチ111が開いているとき、電流は、スイッチ111を流れないように遮断されて、抵抗路112を流れるようにさせられ、その結果、抵抗路112によって提供される抵抗によって電流レベルが低下される。
【0017】
図3は、
図1及び
図2のスイッチングモジュール110の一実施形態例の模式図を示している。スイッチングモジュール110は、図示のようにトランジスタ回路111と抵抗網112とを含んでいる。スイッチングモジュール110は、モジュールの様々な電気部品(例えば、トランジスタ回路111、抵抗網112、LED、及びステータスロジック回路を含む)を実装するための回路基板を含み得る。
【0018】
図4は、
図1のシステム100を用いるパルス電気アーク溶接プロセスにおいてスパッタを防止する方法400の第1の実施形態例のフローチャートを示している。ステップ410は、スイッチングモジュール110のスイッチ111が通常のように閉じている動作(ショートのない状態)を表している。ステップ420にて、ショートが検出されない場合、スイッチ111は閉じたままである(ショートのない状態)。しかし、ショートが検出されると、ステップ430にて、スイッチ111は、短時間(すなわち、溶接棒がワークピースにショートされる期間)の間、開いて閉じるシーケンスを実行するように命令される。
【0019】
ステップ430におけるこの開/閉シーケンスは、ショートが最初に検出されたときにスイッチ111を開くことによって開始する。スイッチ111は、第1の期間(例えば、短絡期間の最初の10%)にわたって開いたままである。これは、ショートが直ちにはじけて多量のスパッタを生じさせないよう、出力電流を迅速に低下させる。第1の期間の後、スイッチは再び閉じられ、第2の期間中、溶融ショートが溶接棒から抜け出てショートを消し去ろうとする際に細い首状部を形成し始めるよう、出力電流が上昇される。この第2の期間中、電流が上昇されるときに、ショートがいつ消え去るか(すなわち、首状部がいつ破断するか)を予測するためにdv/dt検出が実行される。このようなdv/dt方式は技術的によく知られている。そして、ショートが消え去ろうとする直前(例えば、短絡期間の最後の10%の間)に、首状部が実際に破断する時(すなわち、ショートが実際に消え去る時)の過剰なスパッタを防止するよう出力電流をもう一度迅速に低下させるために、スイッチ111が再び開かれる。
【0020】
ステップ440にて、ショート(溶接棒とワークピースとの間の短絡)が依然として存在している場合、スイッチ111は開いたままにされる。一方、ショートが消え去った場合、ステップ450にて、スイッチ111は再び閉じられる。斯くして、短絡状態の間、スイッチ111は開/閉シーケンスを実行し、スイッチが開いているときに溶接出力パスを流れる電流が低減されて、スパッタの抑制がもたらされる。方法400は、本発明の一実施形態によれば、高速コントローラ170に実装される。また、本発明の一実施形態によれば、システム100は、120kHzの速度で反応することができ(すなわち、スイッチングモジュール110はこの高い速度でオン/オフに切り換えられることができ)、方法400を実効的に実現するのに十分なショート検出及びショート除去検出への反応が提供される。
【0021】
もう少し単純な代替的な一実施形態によれば、前進するワイヤ電極とワークピースとの間でのショートの検出に応答して、
図4に関して上述した開/閉シーケンスを実行することに代えて、少なくとも決定された期間にわたってスイッチ111を開くことで溶接回路パスの抵抗を増大させることによって、溶接回路パスの電流が低減される。ほとんどのパルス周期において、上記決定された期間は、溶接回路パスの電流を最初に増大させる必要なく短絡が消え去ることを可能にする期間にされる。所与のパルス周期中、決定された期間が所望通りに満了する前にショートが消え去る場合、プロセスは該パルス周期の次の部分に進む。しかしながら、この予め決定された期間内にショートが消えない場合、この決定された期間の直後にスイッチ111が再び閉じられ、溶接回路パスの電流がもう一度増大されてショートを除去するようにされる。代替的な一実施形態において、スイッチ111は単純に、ショートの検出に応答して、決定された期間のうちの少なくとも一部にわたって開かれる。ほとんどのパルス周期において、電流は、ショートを除去するために増大される必要がない。
【0022】
また、一選択肢として、前進するワイヤ電極とワークピースとの間でのショートが検出されるとき、前進するワイヤ電極の速度を低下させることができる。前進するワイヤ電極の速度を低下させることは、そうでない場合に付与されるのと同程度の多さの材料をショートに付与しないことによって、より容易にショートを除去する助けとなる。前進するワイヤ電極の速度を低下させるため、ワイヤ電極を前進させるワイヤフィーダのモータがオフに切り換えられてモータに制動(ブレーキ)がかけられ得る。この制動は、様々な実施形態に従って、機械的な制動又は電気的な制動とし得る。
【0023】
図5は、
図4の方法400又は上述の単純な代替法に従って
図1−3のスイッチングモジュール110を用いない従来のパルス電気アーク溶接機により得られる従来のパルス出力電流波形500の一例を示している。
図5の波形500から見て取れるように、ピークパルス510が発せられた後、ショートが時間520に始まって、例えば、ショートが消え去る時である時間530まで続き得る。時間520と530とが短絡期間540を定める。
図5にて見て取れるように、ピークパルス510は、溶接プロセスの複数のパルス周期又はサイクルの間に規則的な間隔で発せられる。任意の所与のサイクル又はパルス周期において、短絡状態は発生することもあるし、発生しないこともある。従来システムにおいては、ショートが発生するとき、溶接出力パス内には、インダクタンスと比較して非常に小さい抵抗が存在するのみである。電源がオフにされた場合であっても電流が流れ続ける。
【0024】
再び
図5を参照するに、短絡期間540中、出力電流は、溶接棒とワークピースWとの間のアークの欠如(抵抗が非常に低くなる)に起因して、また、電力変換器120が最小レベルに戻されるときであっても溶接回路インダクタンス210が溶接出力パスを流れる電流を維持するように作用することに起因して、上昇する傾向にある。電流は、ショートが消え去るまで(すなわち、溶融金属ショートが溶接棒から抜け出すまで)上昇する傾向にある。しかしながら、そのような上昇された電流レベルにおいては、ショートが
破断あるいは消滅するときに、上昇された電流レベルにより、溶融金属が爆発してスパッタを引き起こすようになる傾向がある。
【0025】
図6は、繋ぎ接続を有する自由落下移行過程において高速ビデオ技術を用いて見出される爆発的なスパッタ過程を示している。高いピークのパルス(例えば、510)により、溶融金属のボール610がワークピースWに向けて押し出され、ボール610と溶接棒Eとの間の細い繋ぎ部(テザー)620が作り出される。ボール610がアークを横切ってワークピースWに向かって飛行するとき、テザー620が細くなり、最終的に、テザー620を介して溶接棒EとワークピースWとの間でショートが発生する。この状態は、溶接棒がワークピースの非常に近くで作用する処理において、ほぼ全てのパルス周期で発生する傾向にある。特に、自由落下移行式のパルス溶接プロセスの場合、テザー620が初期のショートを作り出し、多量の電流が細いテザー620を流れ始め得ることが見出された。上昇する電流レベルは、最終的に、
図6に示されるように、比較的細い溶融テザー620が爆発してスパッタ630を生み出すことを引き起こす。しかしながら、上述のスイッチングモジュール110及び方法400を組み込むことにより、生み出されるスパッタ630を大幅に抑制することができる。
【0026】
図7は、
図4の方法400に従って
図1−3のスイッチングモジュール110を用いる
図1のパルス電気アーク溶接機100により得られるパルス出力電流波形700の一例を示している。
図7の波形700から見て取れるように、ピークパルス710が発せられた後、ショートが時間720に始まって、例えば、ショートが消え去る時である時間730まで続き得る。時間720と730とが短絡期間740を定める。
図7にて見て取れるように、ピークパルス710は、溶接プロセスの複数のパルス周期又はサイクルの間に規則的な間隔で発せられる。任意の所与のサイクル又はパルス周期において、短絡状態は発生することもあるし、発生しないこともある。しかしながら、溶接棒の先端とワークピースとの間の距離が比較的小さいとき、ほぼ全てのサイクルでショートが発生し得る。
【0027】
再び
図7を参照するに、短絡期間740中、スイッチングモジュール110のスイッチ111が、ショートが最初に起こるときに開かれ、そして、ショートが消え去ろうとするときに再び開かれ、それにより、出力電流が抵抗路112を流れるようにされ、ひいては、電流レベルが低減される。一例として、スイッチング信号172は、ショートが検出されるときにhigh(高)からlow(低)になってスイッチを開かせる論理信号とし得る。同様に、ショートが除去されるとき、スイッチング信号172はスイッチ111を再び閉じるようにlowからhighになり得る。スイッチ111が開かれているとき、抵抗路112は溶接出力パス上に負荷を置き、フリーホイール(還流)電流が所望レベルまで迅速に低下することを可能にする。電流は、ショートが除去されるまで低下する傾向にあり、そのような低下した電流レベルでショートが
破断あるいは消滅するとき、溶融金属は非爆発的にピンチオフする(摘み切られる)傾向にあり、それにより、生み出されるスパッタが排除され、あるいは少なくとも、その量が低減される。また、
図7の波形700においては、ショートが消え去った直後に別のショートが発生することを防止する助けとなるよう使用されるプラズマブーストパルス750が、より目立ったもの且つ潜在的に一層効果的なものになる。
【0028】
図8は、
図1のシステム100を用いるパルス電気アーク溶接プロセスにおいてスパッタを防止する他の一実施形態例に係る方法800のフローチャートを示している。一実施形態によれば、方法800は、コントローラ170によって実行される。高速コントローラ170は、ショートの発生時間及び/又はショートの除去の起こった時間を追跡し、少なくとも次のパルス周期において短絡期間940(ショートの発生とショートが除去された時との間の期間)(
図9参照)がいつ発生するかの推定を提供する。この推定から、ブランキング信号172を生成するために使用されるブランキング期間960(
図9参照)を決定することができる。
【0029】
方法800のステップ810にて、システム100は、パルス溶接波形の繰り返しのパルス周期において、既知の技術に従ってショートの発生及び/又はそれらショートの消滅を検出する。ステップ820にて、パルス周期内での検出ショート及び/又は消滅の発生時間が(例えば、高速コントローラ170によって)追跡される。ステップ830にて、追跡結果に基づいて、次のパルス周期の短絡期間940(
図9参照)の位置及び継続時間が推定される。ステップ840にて、次のパルス周期の短絡期間の推定位置に基づいて、それに重なる少なくとも次のパルス周期のブランキング期間960が決定される。ステップ850にて、次のパルス周期中にスイッチングモジュール110に与えるべきブランキング信号(一種のスイッチング信号)172が(例えば、コントローラ170によって)生成される。
【0030】
図9は、
図8の方法800に従って
図1−3のスイッチングモジュール110を用いる
図1のパルス電気アーク溶接機100により得られるパルス出力電流波形900の一例を示している。
図9の波形900から見て取れるように、ピークパルス910が発せられた後、ショートが時間920に始まって、例えば、ショートが消え去る時である時間930まで続き得る。時間920と930とが短絡期間940を定める。
図9にて見て取れるように、ピークパルス910は、溶接プロセス中に規則的な間隔で発せられる。任意の所与のサイクルにおいて、短絡状態は発生することもあるし、発生しないこともある。しかしながら、アーク長が比較的短い(すなわち、ワイヤ電極がワークピースの比較的近くで操作される)溶接プロセスにおいては、ほぼ全てのサイクルでショートが発生し得る。
【0031】
方法800によれば、パルス周期内でのショートの発生時間及び/又はショートの消滅時間が、パルス周期ごとに決定され、追跡される。斯くして、コントローラ170は、次あるいは来たるパルス周期において起こりそうな短絡期間の位置を推定し得る。しかしながら、何らかの実質的な追跡情報が利用可能になる前の、パルス溶接プロセスの開始時においては、短絡期間の位置は、例えば実験データ又は先行溶接プロセスからの保管データに基づいた、格納されたデフォルト位置とし得る。ブランキング信号172は、次のパルス周期の推定短絡期間940に時間的に重なるブランキング信号172内のブランキング期間960を形成するよう、適応あるいは修正されることができる。理想的には、ブランキング期間960は、時間的オーバーラップで、次のパルス周期の短絡期間940の少し前(例えば、時間920の前)に始まり、次のパルス周期の短絡期間940の少し後(例えば、時間930の後)に終了する。一実施形態においては、ショートの発生時間のみが追跡され、ショートの消滅は追跡されない。そのような一実施形態において、ブランキング期間の長さは、実験的知識に基づき、ショートが消え去るのに十分な長さだけ続くように設定される。
【0032】
斯くして、次のパルス周期中のショートの実際の発生は、スイッチングモジュール110のスイッチ111が開かれ得る前に検出される必要はない。パルス溶接プロセスが進むにつれて、例えばワイヤ電極とワークピースとの間の距離がドリフトあるいは変化するために、短絡期間の位置がドリフトあるいは変化することがある。しかしながら、この実施形態においては、短絡期間の位置が経時的に追跡されるので、ブランキング信号172の位置を、短絡期間を実効的に追従・予測するように適応させることができる。ブランキング期間960中にスイッチ111を開くことにより、電流が低下し、そして、ブランキング期間960中にテザーが生じて破断することが期待される。
【0033】
実験結果が示すことには、特定のパルス溶接状況においてここで説明したようにスイッチングモジュール110を使用すると、ショートを除去する時点での出力電流レベルを約280アンペアから約40アンペアに低減することができ、生成されるスパッタの量に著しい差を生じる。一般に、電流を50アンペア未満に低減することがスパッタを大幅に低減するようである。また、進行速度(例えば、60−80インチ/分)及び溶着速度を維持することができる。
【0034】
溶接棒とワークピースとの間にショートが存在する期間中の溶接出力電流レベルを低減するその他の手段及び方法も同様に可能である。例えば、代替的な一実施形態において、溶接用電源の制御トポロジが、ショートの期間中に出力電流を高度に安定化されたレベルに制御するように構成されてもよい。この電源は、短絡期間中にショート電流を、より低いレベル(例えば、50アンペア未満)に制御して、スタッパを抑制することができる。例えば、
図1を参照するに、スイッチングモジュール110を無効化あるいは排除して、電流が溶接出力回路パス内を自由に流れることを可能にすることができる。コントローラ170は、溶接出力回路パス中の溶接出力電流を低減するようにブランキング期間中の溶接プロセスの出力溶接波形信号181の一部を変更するよう、波形発生器180に命令するように構成される。故に、この代替実施形態においては、コントローラ170は、スイッチングモジュール110を介することに代えて、波形発生器180及び電力変換器120を介してブランキング期間中の電流を低減させる。このような代替実施形態は、溶接回路のインダクタンス210が十分に低い場合に非常に良好に機能することができる。
【0035】
まとめるに、生成されるスパッタを抑制するパルス溶接プロセスを実行する電気アーク溶接機及び方法を開示した。溶接機は、前進する電極とワークピースとの間に電流を生成する。溶接機は、前進電極とワークピースとの間の短絡回路の発生を受けて、短絡状態を検出する短絡検出能力を含む。溶接機は、短絡が消滅する時の溶融金属のスパッタを抑制するため、短絡期間中の前進電極とワークピースとの間の電流を抑制するように制御される。
【0036】
本発明の一実施形態は、パルスアーク溶接プロセスにおいてスパッタを抑制する方法を有する。当該方法は、溶接システムのコントローラを用いて、パルスアーク溶接プロセスのパルス周期中の短絡期間の発生時間を追跡することを含む。この追跡は、パルス溶接プロセスのパルス周期中の短絡の発生を検出することと、パルス溶接プロセスのパルス周期中の短絡の消滅を検出することと、のうちの少なくとも一方に基づき得る。当該方法は更に、前記追跡に基づき、パルスアーク溶接プロセスの少なくとも次のパルス周期の短絡期間の時間的位置を推定することを含む。当該方法はまた、前記推定に基づき、少なくとも次のパルス周期のブランキング期間を決定することを含む。当該方法は更に、ブランキング期間に基づき、少なくとも次のパルス周期のブランキング信号を生成することを含み得る。当該方法は更に、ブランキング信号に応答して、ブランキング期間中に溶接システムの溶接回路経路の抵抗を増大させて、ブランキング期間中に溶接回路経路を流れる溶接電流を低減させることを含み得る。抵抗を増大させることは、溶接回路経路内に配置されたスイッチングモジュールの電気スイッチを開くことを含み得る。一実施形態によれば、電気スイッチはスイッチングモジュール内の抵抗路と並列にされる。当該方法は、ブランキング期間中に溶接プロセスの波形の一部を変更することによって、少なくとも次のパルス周期のブランキング期間中に溶接システムの溶接回路経路を流れる溶接電流を低減させること、を含んでいてもよく、該波形は溶接システムの波形発生器によって生成され得る。一実施形態によれば、ブランキング期間は、少なくとも次のパルス周期の予期される短絡期間に対して、時間的に長く且つ時間的に重ねられる。
【0037】
本発明の一実施形態は、パルスアーク溶接プロセスにおいてスパッタを抑制するシステムを有する。当該システムはコントローラを有し、該コントローラは、溶接システムのパルスアーク溶接プロセスのパルス周期中の短絡期間の発生時間を追跡するように構成される。該コントローラは更に、前記追跡に基づき、パルスアーク溶接プロセスの少なくとも次のパルス周期の短絡期間の時間的位置を推定するように構成される。該コントローラはまた、前記推定に基づき、少なくとも次のパルス周期のブランキング期間を決定するように構成される。該コントローラはまた、ブランキング期間に基づき、少なくとも次のパルス周期のブランキング信号を生成するように構成され得る。一実施形態によれば、ブランキング期間は、少なくとも次のパルス周期の予期される短絡期間に対して、時間的に長く且つ時間的に重なる。当該システムは更に、溶接システムの溶接回路経路内に配置され且つ前記コントローラに動作的に接続されるスイッチングモジュールを含み得る。スイッチングモジュールは、ブランキング信号に応答して、ブランキング期間中に溶接システムの溶接回路経路の抵抗を増大させて、ブランキング期間中に溶接回路経路を流れる溶接電流を低減させるように構成される。スイッチングモジュールは電気スイッチと抵抗路とを並列に含む。前記コントローラは、ブランキング期間中に溶接プロセスの波形の一部を変更することによって、少なくとも次のパルス周期のブランキング期間中に溶接システムの溶接回路経路を流れる溶接電流を低減させるように、溶接システムの波形発生器に命令するように構成され得る。前記コントローラは更に、パルスアーク溶接プロセスのパルス周期中の短絡の発生及び/又は該短絡の消滅を検出するように構成され得る。
【0038】
本発明の一実施形態は、パルスアーク溶接プロセスにおいてスパッタを抑制する方法を有する。当該方法は、溶接システムのコントローラを用いて、パルスアーク溶接プロセスのパルス周期中の、ワークピースと前進する溶接棒との間の短絡を検出することを含む。当該方法は更に、短絡を検出したことに応答して、第1の期間、溶接システムの溶接回路経路の抵抗を増大させて、溶接回路経路を流れる溶接電流を低減させることを含む。当該方法はまた、第1の期間の直後の第2の期間、溶接システムの溶接回路経路の抵抗を低減させて、溶接回路経路を流れる溶接電流を増大させることを含む。当該方法は更に、第2の期間の直後の第3の期間、短絡の消滅を予期して、溶接システムの溶接回路経路の抵抗を増大させて、溶接回路経路を流れる溶接電流を低減させることを含む。抵抗を増大させることは、溶接回路経路内に配置されたスイッチングモジュールの電気スイッチを開くことを含み得る。抵抗を低減させることは、溶接回路経路内に配置されたスイッチングモジュールの電気スイッチを閉じることを含み得る。当該方法は更に、短絡が消滅したことを検出し、短絡が消滅したことの検出に応答して、溶接システムの溶接回路経路の抵抗を低減させることを含み得る。
【0039】
本発明の一実施形態は、パルスアーク溶接プロセスにおいてスパッタを抑制する方法を有する。当該方法は、溶接システムのコントローラを用いて、パルスアーク溶接プロセスのパルス周期中の、ワークピースと前進するワイヤ電極との間の短絡を検出することを含む。当該方法は更に、短絡を検出したことに応答して、決定された期間のうちの少なくとも一部にわたって溶接システムの溶接回路経路の電流を低減させることを含み、パルスアーク溶接プロセスの大部分のパルス周期において、前記決定された期間は、溶接回路経路の電流を先ず増大させる必要なく短絡が消滅することが可能な長さの期間である。電流を低減させることは、溶接回路経路の抵抗を増大させることを含み得る。抵抗を増大させることは、溶接回路経路内に配置されたスイッチングモジュールの電気スイッチを開くことを含むことができ、スイッチングモジュールは電気スイッチを抵抗路と並列に含み得る。当該方法は更に、短絡が消滅していない場合に、前記決定された期間の直後に溶接システムの溶接回路経路の電流を増大させることを含み得る。電流を増大させることは、溶接回路経路の抵抗を低減させることを含み得る。抵抗を低減させることは、溶接回路経路内に配置されたスイッチングモジュールの電気スイッチを閉じることを含むことができ、スイッチングモジュールは電気スイッチを抵抗路と並列に含み得る。当該方法は更に、電極とワークピースとの間の短絡を検出したことに応答して、前進するワイヤ電極の速度を遅くすることを含み得る。前進するワイヤ電極の速度を遅くすることは、ワイヤ電極を前進させるワイヤフィーダのモータをオフに切り換えて該モータに制動をかけることを含み得る。この制動は、様々な実施形態に従って、機械的制動又は電気的制動とし得る。
【0040】
特定の実施形態を参照して特許請求に係る本願の主題を説明してきたが、当業者に理解されるように、特許請求に係る主題の範囲を逸脱することなく、様々な変形が為され、均等物が代用され得る。また、特許請求に係る主題の教示に合わせて、その範囲を逸脱することなく、特定の状況又は材料を適応させるように数多くの変更が為され得る。故に、特許請求に係る主題は、開示した特定の実施形態に限定されるものではなく、添付の請求項の範囲に入る全ての実施形態を含むものである。
【0041】
本願は、2010年10月22日に出願した米国仮特許出願第61/405895号の優先権及び利益を主張するものであり、その内容全体をここに援用する。
【0042】
本願は、2010年11月12日に出願した米国仮特許出願第61/413007号の優先権及び利益を主張するものであり、その内容全体をここに援用する。
【0043】
2007年12月4日に発行された米国特許第7304269号明細書の好適な実施形態の部分及び図面をここに援用する。