【実施例】
【0018】
本発明の実施例を図面に基づいて説明すると、先ず
図1は、本発明の第1実施の形態におけるシール装置の半断面図である。
図2は、バックアップリングの斜視図である。
図3は、バックアップリングの上半断面図である。
図4は、バックアップリングによりもたらされる相当ミーゼス応力の測定(試験1)とシールリップの切れやすさを評価する実験(試験2)を示した図である。
図5は、試験1の結果を示した図である。
図6は、試験2の結果を示した図である。
図7は、第1実施の形態と比較例3のバックアップリングを比較した図である。
図8は、シールリップの構造を示した図である。
図9は、第2実施の形態のシール装置を示した図である。
図10は、実開平3−41264号公報(特許文献1)に示すリップ型シール装置を示した図である。
【0019】
図1は、本発明に係わる第1実施の形態のシール装置を示すものであって、軸に装着されない状態の半断面図である。この
図1において、1は、大気Y側と流体収納室X側の間に設置されるシール装置であり、このシール装置1には、ハウジング6の嵌合孔61に嵌着するゴム材製の嵌着部7が設けられている。この嵌着部7の外周面には、凸部状のシール部分7Aが形成されている。又、嵌着部7には、補強環8が埋設されており、この補強環8によりハウジング6との嵌着を強固にすると共に、嵌着部7により第2シールリップ4、第3シールリップ5が保持されている。
【0020】
又、この補強環8を介してゴム材製のシールリップ3が嵌着部7から回転軸50に向かって傾斜した筒状に形成されている。このシールリップ3のリップ先端部31がシール機能面を成し、回転軸50に最適に密接すると面圧を高めてシール能力を発揮する。
【0021】
シールリップ3の嵌着部7から流体収納室X側には、シールリップ3の面に沿ってほぼシールリップ3と近似する形状のバックアップリング2が設けられている。このバックアップリング2は、シールリップ3に被密封流体の圧力を受けても変形しない耐圧性を有する厚さに形成されている。
【0022】
この第1実施の形態のシール装置1にあっては、回転軸を囲むように流体収納室X側に延出するバックアップリング2は、少なくともバックアップリングの前方部分が
図1、
図2に示されるように先細り形状となっており、このバックアップリング2より支持されたシールリップ3のリップ先端部31が回転軸50に対して当接可能となっている。このシール装置1のバックアップリング2は、第2シールリップ4と補強環8で支持されたゴム材製のシールリップ3とで挟まれることによってシール装置1に固定される部分である固定部21を有している。
【0023】
さらにバックアップリング2は、この固定部21から連続して延びる延出部22、テーパー部23、そして先端部24とを有している。
図3には、バックアップリング2の上半断面図が示されており、各部の表面が、順に固定部21の表面A、延出部22の表面B、テーパー部23の表面D、そして先端部24の表面Fとして示されている。そして少なくとも前記テーパー部23の表面Dから先端部24の表面Fへと移る第1境界部26の表面には、曲率半径(R―1)のアール面Eが形成されているとともに、前記延出部22の表面Bからテーパー部23の表面Dへと移る第2境界部29の表面には、曲率半径(R―3)のアール面Cが形成されている。この第1実施の形態のシール装置にあっては、特にテーパー部23の表面Dの全面が、第1境界部26のアール面Eの曲率半径(R―1)より大きなほぼ一定の曲率半径(R―2)を持った凸曲面からなる先細りのテーパー面に形成されており、さらに前記延出部22の表面Bからテーパー部23の表面Dへと移る第2境界部29の表面であるアール面Cも、テーパー部23の表面Dの曲率半径(R―2)と同じ曲率半径(R―2)の凸曲面となっている。この場合、アール面Cの曲率半径(R―3)と、テーパー部23の表面Dの曲率半径(R―2)とが、同じ曲率半径となっていると、アール面Cとテーパー部23の表面Dとの加工が容易となり、また前記延出部22の表面Bからテーパー部23の表面Dへ緩やかな曲面だけで移行できる。
【0024】
ただし、本実施例に限ることなく、第1境界部26の表面であるアール面Eと連続しているテーパー部23の表面Dの一部のみに、第1境界部26のアール面Eの曲率半径(R―1)より大きな曲率半径(R―2)を持った凸曲面が形成されているだけでよい。すなわち本発明においては、テーパー部23の表面Dにおいて直線面の存在を出来るだけ狭小なものとするだけで良いのであり、バックアップリング2のテーパー面における少なくとも一部(全面でも可能)の膨らんだ丸み(曲率半径)が、シールリップ3を保持するバックアップリング2のテーパー面の面積の増大に寄与すれば良いのである。
【0025】
ここでテーパー部23の表面Dの一部のみに、第1境界部26のアール面Eの曲率半径(R―1)より大きな曲率半径(R―2)を持った凸曲面を形成する場合、アール面E寄りのテーパー部23の表面Dの一部に、アール面Eの曲率半径(R―1)より大きな曲率半径(R―2)を持った凸曲面を形成する方が、この凸曲面の影響がアール面E近傍に及ぼされ易くなるため、より好適である。
【0026】
さらに前記バックアップリング2の先端部24には、回転軸50とほぼ平行な内端面27が形成されており、前記先端部24の表面Fから前記内端面27へと移る部分には、第1境界部26のアール面Eの曲率半径(R―1)より小さい曲率半径(R―0)のアール面F’が形成されている。なお、前記先端部24に関して、先端部24の表面Fは、基本的に回転軸50に対して垂直に向く部分であるが、ここに垂直の面を設けず、先端部24の表面Fが、曲率半径(R―1)のアール面Eから曲率半径(R―0)のアール面F’へと直接移行する曲面でも良い。少なくとも曲率半径(R―0)のアール面F’の存在により、前記バックアップリング2の先端部24の内端面に形成される角部でシールリップ3が傷つくことがない。
【0027】
第1実施の形態のシール装置にあっては、好適な例として、アール面F’の曲率半径(R―0)が0.1mm、アール面Eの曲率半径(R―1)が0.4mm、表面Dの曲率半径(R―2)が3.0mm、アール面Cの曲率半径(R―3)が3.0mmとなっている。
【0028】
また第1実施の形態のシール装置にあっては、バックアップリング2は、その固定部21から連続して延びる延出部22の表面Bが前記回転軸50と略平行な面となっており、前記延出部22の表面Bからテーパー部23の表面Dへと移る第2境界部29の表面であるアール面Cは、テーパー部23の表面Dの曲率半径(R―2)よりも大きい曲率半径(R―3)のアール面としてもよい。さらに、固定部21の形状は任意であり、また延出部22の表面Bが前記回転軸50と略平行な面である必要がないばかりか、固定部21と延出部22とを格別区別する必要もない。
【0029】
一般に前述したように、大きな被密封流体圧がゴム材製のシールリップ3の外周に加わった場合、シールリップ3が回転軸50の軸方向へ押され、バックアップリング2のテーパー面が回転軸方向へ折り返される角部(アール面Eの近傍)と、シールリップ3のシール内面との間に過大な応力が発生し、アール面Eの近傍に位置するシールリップ3に相当ミーゼス応力が加わることになる。そこで
図4に示されるように、第1実施の形態のシール装置(本発明品)のバックアップリング2によりもたらされる相当ミーゼス応力と、比較例1、2、3の構造の異なるバックアップリングを用いた場合にもたらされる相当ミーゼス応力の測定(試験1)と、温度条件を変更するとともに圧力変動を与えてシールリップの切れやすさを評価する実験(試験2)を行った。
【0030】
ここで(1)バックアップリングの比較例1においては、アール面C1がほぼアールの存在しない角であり、表面D1がほぼアールの存在しない平面。(2)バックアップリングの比較例2においては、アール面C2が曲率半径1.5mmであり、表面D2がほぼアールの存在しない平面。(3)バックアップリングの比較例3においては、アール面C3が曲率半径1.0mmであり、表面D3がほぼアールの存在しない平面になっている。
【0031】
試験1の試験条件として、油温を200℃と定め、被密封流体圧力として8MPaの圧力をかけることとし、各バックアップリング形状によるリップ先端最大相当ミーゼス応力を、FEM解析結果として出力した。
【0032】
試験2の試験条件として、油温を220℃と定め、圧力変動幅を2MPaとし、6MPaと8MPaの圧力を交互にかけることとし、この脈動回数を2400回とした。更に軸の偏心として軸偏心を0.3mmとし、各バックアップリング形状によるシールリップの切れやすさを評価した。
【0033】
試験1の結果として、
図5に示されるように、比較例1にあってはリップ先端最大相当ミーゼス応力が15.2MPa、比較例2にあってはリップ先端最大相当ミーゼス応力が13.3MPa、比較例3にあってはリップ先端最大相当ミーゼス応力が8.3MPaであり、第1実施の形態のシール装置(本発明品)にあってはリップ先端最大相当ミーゼス応力が7.9MPaであった。更に
図6に示されるように、緊迫力(N)についての測定でも第1実施の形態のシール装置(本発明品)のものが、約184Nと、他の比較例のものより低く、発熱に対して強いことが確認された。
【0034】
試験2の結果では、他の比較例1,2,3のシールリップに全て切れが発生した後も、第1実施の形態のシール装置(本発明品)のシールリップに切れが発生せず、シールリップに発生する相当ミーゼス応力の軽減が図られていることが明らかになった。
【0035】
ここで
図7に基づき、第1実施の形態のシール装置のバックアップリングと、これに比較的近似している比較例3のバックアップリングとを比較する。一般に流体収納室X側の圧力がシールリップ3に作用すると、リップ先端部が回転軸に対して圧接されると同時に、シールリップ3からの押圧力がバックアップリング2に伝わることになる。そして特に、シールリップ3は、バックアップリング2のテーパー部の表面から先端部の表面へと移る境界部(バックアップリングの角部)に強力に当接され、ここに極めて大きな相当ミーゼス応力が集中する傾向にある。
【0036】
図7によれば、比較例3のバックアップリング2のテーパー部である表面D3は直線面として形成されている。さらに固定部から連続して延びる直線面である延出部の表面B3と、直線面であるテーパー部の表面D3との境界部には、アール面C3が形成されている。これに対して第1実施の形態のシール装置で利用されるバックアップリング2は、テーパー部の表面Dの全面部(または一部)に、比較的大きな曲率半径を持つ直線面ではない面が形成されている。
【0037】
上記比較試験の結果からも明らかなように、第1実施の形態のシール装置で利用されるバックアップリング2のテーパー面における少なくとも一部(全面でも可能)の膨らんだ丸み(曲率半径)は、シールリップ3を保持するバックアップリング2のテーパー面の面積の増大に寄与しており、流体収納室Xの圧力がシールリップ3に働いても、この増大した接触面の摩擦力によりシールリップ3とバックアップリング2のテーパー面間に生ずる僅かなズレの発生を効果的に抑制されることになるのである。したがって、バックアップリングのテーパー部の表面から先端部の表面へと移る第1境界部26のアール面Eに位置しているシールリップに、相当ミーゼス応力が極端に集中せず、シールリップ3により確実な軸シールを維持しつつ、シールリップ3に発生する相当ミーゼス応力の軽減が図られ、シールリップの耐用期間を従来品に比較して長期に延ばすことができることになるのである。
【0038】
特に、この第1実施の形態のシール装置にあっては、テーパー部23の表面Dの全面が、第1境界部26のアール面Eの曲率半径(R―1)より大きなほぼ一定の曲率半径(R―2)を持った凸曲面からなる先細りのテーパー面に形成されており、さらに前記延出部22の表面Bからテーパー部23の表面Dへと移る第2境界部29の表面であるアール面Cも曲率半径(R―2)の凸曲面となっている。この場合、アール面Cの曲率半径(R―3)とテーパー部23の表面Dの曲率半径(R―2)とは同じ曲率半径となっている。
【0039】
このようにアール面Cの曲率半径(R―3)とテーパー部23の表面Dの曲率半径(R―2)とを同じ曲率半径にすれば、バックアップリング2の製造が容易になるが、これに限らず、テーパー部の表面であるテーパー面の曲率半径(R―2)以上の曲率半径(R―3)をもったアール面Cとすることもできる。
【0040】
特に比較例3のバックアップリング2などにあっては、固定部から連続して延びる直線面である延出部の表面B3と、直線面であるテーパー部の表面D3との境界部には、アール面C3が比較的目立つ屈曲部として表れる。このように比較的曲率半径の小さな屈曲部が存在すると、流体収納室の内部圧の変動によりシールリップ3がこの屈曲部でバックアップリング2と乖離を起こしやすくなり、シールリップ3とバックアップリング2のテーパー面間に生ずる僅かなズレを助長することになる。しかし第1実施の形態のシール装置にあっては、テーパー部の表面Dは既に所定の曲率半径で延びてきており、テーパー部の表面Dから前記延出部の表面Bへと緩やかに移る境界部となるため、極端な屈曲部が存在しないことになり、シールリップ3とバックアップリング2のテーパー面間に生ずる僅かなズレの発生を効果的に抑制できることになる。
【0041】
図8には、シールリップ3の構造が示されており、固定部から連続して延びる延出部、テーパー部、そしてリップ先端部31とを有してなる前記バックアップリング2により支持される前記シールリップ3の内側面が、少なくとも前記シールリップ3の成型時において、予め前記バックアップリング2のテーパー部の表面Dである凸曲面に合致する凹曲面32として形成されている。このように、シールリップ3が、前記バックアップリング2のテーパー部である凸曲面の表面Dに合致する凹曲面32に予め形成されていると、シールリップ3の凹曲面32とテーパー部である凸曲面の表面Dとが平常圧状態においても合致しており、さらにこのシールリップ3は、従来のシールリップの内側面が直線面を有するものより変形し難く、シールリップ3自体の素材強度と相俟ってシールリップ3とバックアップリング2のテーパー面間に生ずる僅かなズレの発生を効果的に抑制できることになる。
【0042】
図9には、第2実施の形態のシール装置が示されており、第1実施の形態のシール装置と相違する点は、第1実施の形態のシール装置が、特にテーパー部23の表面Dの全面が、第1境界部26のアール面Eの曲率半径(R―1)より大きなほぼ一定の曲率半径(R―2)を持った凸曲面からなる先細りのテーパー面に形成されているのに対して、第2実施の形態のシール装置が、テーパー部23の表面Dが、前記第1境界部の曲率半径(R―1)より大きな曲率半径を持ち、かつ曲率半径がそれぞれ異なる面D1、D2、D3・・からなっており、このテーパー部23の表面Dがそれぞれ異なる曲率半径の組み合わせからなる直線面の存在しない先細りのテーパー面になっている点であり、流体収納室内の圧力分布に適するように曲率半径がそれぞれ異なる面D1、D2、D3を組み合わせて、テーパー部23の表面Dの曲線を種々変更できるため、シールリップとバックアップリングのテーパー面間に生ずる僅かなズレの発生を効果的に抑制できることになる。
【0043】
また、(D1の曲率半径)>(D2の曲率半径)>(D3の曲率半径)のように第1境界部26のアール面Eから次第に曲率半径が大きくなるようにすると、テーパー部の表面Dから前記延出部の表面Bへと緩やかに移る境界部となるため、極端な屈曲部が存在し難くなる。
【0044】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。