(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
塗装鋼板の耐食性および耐傷付き性の両方を向上させる手段としては、特許文献1を参照して、下塗り塗膜にクロム酸系の防錆顔料と下塗り塗膜の表面粗度を大きくすることが可能なシリカ粒子とを添加することが考えられる。しかしながら、本発明者らの予備実験によれば、このようにして得られた塗装鋼板では、初期の耐食性(耐赤錆性)および耐傷付き性には優れているものの、時間の経過とともに耐食性(耐赤錆性)が急激に低下してしまうことがわかった。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、耐食性および耐傷付き性の両方に優れる塗装鋼板、ならびに前記塗装鋼板を含む外装建材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、下塗り塗膜にクロム酸系の防錆顔料と一次粒子である骨材とを添加することで、上記課題を解決できることを見出し、さらに検討を加えて本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の塗装鋼板および外装建材に関する。
【0009】
[1]鋼板と、前記鋼板の上に配置された、クロム酸系防錆顔料と一次粒子である骨材とを含み、かつ細孔粒子を含まない下塗り塗膜と、前記下塗り塗膜の上に配置された上塗り塗膜と、を有し、前記骨材は、以下の式(1)および式(2)を満たす、塗装鋼板。
D
10≧0.6T …(1)
D
90<2.0T …(2)
[ここで、D
10は、個数基準の累積粒度分布における前記骨材の10%粒子径(μm)である。D
90は、個数基準の累積粒度分布における前記骨材の90%粒子径(μm)である。Tは、前記下塗り塗膜における前記骨材が存在しない部分の膜厚(μm)である。]
[2]前記下塗り塗膜の固形分に対する前記骨材の割合は、1体積%以上かつ10体積%未満である、[1]に記載の塗装鋼板。
[3]前記鋼板は、化成処理が施されている、[1]または[2]に記載の塗装鋼板。
[4][1]〜[3]のいずれか一項に記載の塗装鋼板を含む外装建材。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐食性および耐傷付き性の両方に優れる塗装鋼板および外装建材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る塗装鋼板は、鋼板(塗装原板)と、前記鋼板の上に形成された下塗り塗膜と、前記下塗り塗膜の上に形成された上塗り塗膜とを有する。以下、本発明に係る塗装鋼板の各構成要素について説明する。
【0012】
(塗装原板)
塗装原板となる鋼板の種類は、特に限定されない。塗装原板の例には、冷延鋼板、亜鉛めっき鋼板、Zn−Al合金めっき鋼板、Zn−Al−Mg合金めっき鋼板、アルミニウムめっき鋼板、ステンレス鋼板(オーステナイト系、マルテンサイト系、フェライト系、フェライト・マルテンサイト二相系を含む)などが含まれる。耐食性、軽量化および対費用効果の観点からは、塗装原板は、溶融55%Al―Zn合金めっき鋼板であることが好ましい。鋼板は、脱脂や酸洗などの公知の塗装前処理が施されていてもよい。鋼板の板厚は、特に限定されず、塗装鋼板の用途に応じて適宜設定されうる。たとえば、鋼板の板厚は、0.1〜2mm程度である。
【0013】
鋼板(塗装原板)は、塗装鋼板の耐食性および塗膜密着性(耐傷付き性)を向上させる観点から、化成処理を施されていてもよい。化成処理の種類は、特に限定されない。化成処理の例には、クロメート処理、クロムフリー処理、リン酸塩処理などが含まれる。
【0014】
化成処理は、公知の方法で実施されうる。たとえば、化成処理液をロールコート法、スピンコート法、スプレー法などの方法で鋼板の表面に塗布し、水洗せずに乾燥させればよい。乾燥温度および乾燥時間は、水分を蒸発させることができれば特に限定されない。生産性の観点からは、乾燥温度は、到達板温で60〜150℃の範囲内が好ましく、乾燥時間は、2〜10秒の範囲内が好ましい。化成処理皮膜の付着量は、耐食性および塗膜密着性の向上に有効な範囲内であれば特に限定されない。たとえば、クロメート皮膜の場合、全Cr換算付着量が5〜100mg/m
2となるように付着量を調整すればよい。また、クロムフリー皮膜の場合、Ti−Mo複合皮膜では10〜500mg/m
2、フルオロアシッド系皮膜ではフッ素換算付着量または総金属元素換算付着量が3〜100mg/m
2の範囲内となるように付着量を調整すればよい。また、リン酸塩皮膜の場合、5〜500mg/m
2となるように付着量を調整すればよい。
【0015】
(下塗り塗膜)
下塗り塗膜は、鋼板または化成処理皮膜の表面に形成されている。下塗り塗膜は、防錆顔料および骨材を含み、塗装鋼板の耐食性や塗膜密着性(耐傷付き性)などを向上させる。
【0016】
下塗り塗膜を構成する樹脂(ベース樹脂)の種類は、特に限定されない。下塗り塗膜を構成する樹脂の例には、エポキシ樹脂やアクリル樹脂、ポリエステルなどが含まれる。
【0017】
下塗り塗膜には、耐食性を向上させる観点から、6価のクロム酸系防錆顔料が配合されている。クロム酸系防錆顔料の種類は、特に限定されない。クロム酸系防錆顔料の例には、クロム酸ストロンチウム、クロム酸亜鉛、クロム酸カルシウム、クロム酸マンガン、クロム酸マグネシウムが含まれる。クロム酸系防錆顔料の合計配合量は、特に限定されないが、下塗り塗膜の固形分に対して1〜50体積%の範囲内が好ましく、5〜20体積%の範囲内が好ましい。合計配合量が1体積%未満の場合、耐食性を効果的に向上させることができないおそれがある。合計配合量が50体積%超の場合、塗布性、加工性および/または塗膜密着性を損なうおそれがある。
【0018】
下塗り塗膜には、耐傷付き性を向上させる観点から、骨材が配合されている。下塗り塗膜中に骨材を添加して下塗り塗膜の表面粗度を大きくすることで、下塗り塗膜と上塗り塗膜の接触面積が増大し、下塗り塗膜に対する上塗り塗膜の付着強度が向上する。これにより、塗装鋼板の耐傷付き性を向上させることができる。
【0019】
クロム酸系防錆顔料は、下塗り塗膜から溶出することにより、耐食性を付与する効果を発現する。一方、下塗り塗膜に骨材として細孔粒子を配合すると、骨材内の隙間を介して防錆顔料がより溶出しやすくなってしまい、耐食性が短期間で失われてしまうおそれがある。このため、本発明に係る塗装鋼板では、骨材として一次粒子を配合する。ここで、「細孔粒子」とは、防錆顔料の通り道となりうる細孔を含む粒子を意味し、微粒子の凝集体や多孔質構造の粒子を含む概念である。「一次粒子」とは、防錆顔料の通り道となりうる細孔を含まない粒子を意味する。なお、一次粒子は、防錆顔料の通り道とならない凹部を有していてもよい。たとえば、骨材は、アクリル樹脂、ポリウレタン、ポリエステル、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリアミドなどの樹脂からなる一次粒子(樹脂粒子);ガラス、炭化ケイ素、窒化ホウ素、ジルコニア、アルミナ・シリカなどの無機化合物からなる一次粒子(無機粒子)である。これらの一次粒子の形状は、略球形であることが好ましいが、円柱形状や円板形状などの他の形状であってもよい。
【0020】
骨材の粒径は、特に限定されないが、以下の式(1)および式(2)を満たすことが好ましい。以下の式(1)および式(2)において、D
10は、個数基準の累積粒度分布における骨材の10%粒子径(μm)である。D
90は、個数基準の累積粒度分布における骨材の90%粒子径(μm)である。Tは、下塗り塗膜における骨材が存在しない部分の膜厚(μm)である。以下の式(1)を満たさない場合、下塗り塗膜の表面粗度が小さくなり、耐傷付き性を効果的に向上させることができないおそれがある。以下の式(2)を満たさない場合、下塗り塗膜から骨材が脱離しやすくなり、耐傷付き性が低下してしまうおそれがある。
D
10≧0.6T …(1)
D
90<2.0T …(2)
【0021】
なお、上記式(1)および式(2)の粒径は、例えばコールターカウンター法によって測定されるが、他の測定方法により測定された粒径であっても、上記式(1)および式(2)を満たしていれば、耐傷付き性を効果的に向上させることができる。たとえば、下塗り塗膜中の骨材の粒径は、以下の手順で測定されうる。まず、塗装鋼板を切断し、切断面を研摩する。次いで、切断面を電子顕微鏡で観察して、下塗り塗膜の断面像を得る。次いで、その断面像の視野に存在する全ての骨材について長辺長さおよび短辺長さを測定し、個々の平均粒子サイズを算出する。次いで、粒子サイズが小さいものから粒子数をカウントしていき、全粒子数の10%になったところの粒径をD
10、90%になったところの粒径をD
90として算出する。
【0022】
骨材の配合量は、特に限定されないが、下塗り塗膜の固形分に対して1体積%以上かつ10体積%未満の範囲内が好ましい。合計配合量が1体積%未満の場合、耐傷付き性を効果的に向上させることができないおそれがある。また、クロム酸系防錆顔料の溶出に対する障壁となる骨材が少ないため、クロム酸系防錆顔料が過剰に溶出してしまい、耐食性が短期間で失われてしまうおそれがある。合計配合量が10体積%以上の場合、クロム酸系防錆顔料の溶出が過剰に阻害され、耐食性が低下してしまうおそれがある。
【0023】
下塗り塗膜の膜厚は、特に限定されないが、1〜10μmの範囲内が好ましい。膜厚が1μm未満の場合、耐食性を十分に向上させることができないおそれがある。一方、膜厚が10μm超の場合、塗料の乾燥時にワキが発生しやすくなり、塗装鋼板の外観が劣化したり(塗料乾燥時のワキの発生など)、塗装鋼板の加工性が低下したりするおそれがある。また、下塗り塗膜の膜厚を10μm超としても、コストに対する効果が小さい。
【0024】
下塗り塗膜は、公知の方法で形成されうる。たとえば、ベース樹脂、クロム酸系防錆顔料および骨材を含む下塗り塗料を塗装原板(鋼板)の表面に塗布し、到達板温150〜280℃で10〜60秒間焼き付ければよい。なお、焼き付け温度が150℃未満の場合、十分に塗料を焼き付けることができず、下塗り塗膜の機能を十分に発揮させることができないおそれがある。一方、焼き付け温度が280℃超の場合、過度の焼き付けにより、下塗り塗膜と上塗り塗膜との間の密着性が低下してしまうおそれがある。下塗り塗料の塗布方法は、特に限定されず、プレコート鋼板の製造に使用されている方法から適宜選択すればよい。そのような塗布方法の例には、ロールコート法、フローコート法、カーテンフロー法、スプレー法などが含まれる。
【0025】
(上塗り塗膜)
上塗り塗膜は、下塗り塗膜の上に形成されている。上塗り塗膜は、塗装鋼板の意匠性や耐食性などを向上させる。
【0026】
上塗り塗膜を構成する樹脂(ベース樹脂)の種類は、特に限定されない。上塗り塗膜を構成する樹脂の例には、ポリエステルやエポキシ樹脂、アクリル樹脂などが含まれる。これらの樹脂は、硬化剤により架橋されていてもよい。硬化剤の種類は、使用する樹脂の種類や焼付け条件などに応じて、適宜選択すればよい。硬化剤の例には、メラミン化合物やイソシアネート化合物などが含まれる。メラミン化合物の例には、イミノ基型、メチロールイミノ基型、メチロール基型または完全アルキル基型のメラミン化合物が含まれる。
【0027】
上塗り塗膜は、透明でもよいが、任意の着色顔料を配合して着色されていてもよい。着色顔料の例には、酸化チタン、炭酸カルシウム、カーボンブラック、鉄黒、チタンイエロー、ベンガラ、紺青、コバルトブルー、セルリアンブルー、群青、コバルトグリーン、モリブデン赤などの無機顔料;CoAl、CoCrAl、CoCrZnMgAl、CoNiZnTi、CoCrZnTi、NiSbTi、CrSbTi、FeCrZnNi、MnSbTi、FeCr、FeCrNi、FeNi、FeCrNiMn、CoCr、Mn、Co、SnZnTiなどの金属成分を含む複合酸化物焼成顔料;Al、樹脂コーティングAl、Niなどのメタリック顔料;および、リソールレッドB、ブリリアントスカーレットG、ピグメントスカーレット3B、ブリリアントカーミン6B、レーキレッドC、レーキレッドD、パーマネントレッド4R、ボルドー10B、ファストイエローG、ファストイエロー10G、パラレッド、ウォッチングレッド、ベンジジンイエロー、ベンジジンオレンジ、ボンマルーンL、ボンマルーンM、ブリリアントファストスカーレット、バーミリオンレッド、フタロシアニンブロー、フタロシアニングリーン、ファストスカイブルー、アニリンブラックなどの有機顔料;が含まれる。また、上塗り塗膜には、体質顔料などの他の顔料を配合してもよい。体質顔料の例には、硫酸バリウム、酸化チタン、シリカ、炭酸カルシウムなどが含まれる。
【0028】
上塗り塗膜の膜厚は、特に限定されないが、5〜30μmの範囲内が好ましい。膜厚が5μm未満の場合、所望の外観を付与できないおそれがある。一方、膜厚が30μm超の場合、塗料の乾燥時にワキが発生しやすくなり、塗装鋼板の外観が劣化したり(塗料乾燥時のワキの発生など)、塗装鋼板の加工性が低下したりするおそれがある。
【0029】
上塗り塗膜は、公知の方法で形成されうる。たとえば、ベース樹脂、着色顔料および体質顔料を含む上塗り塗料を塗装原板(鋼板)の表面に塗布し、到達板温150〜280℃で20〜80秒間焼き付ければよい。なお、焼き付け温度が150℃未満の場合、十分に塗料を焼き付けることができず、上塗り塗膜の機能を十分に発揮させることができないおそれがある。一方、焼き付け温度が280℃超の場合、過度の焼き付けによる樹脂の酸化劣化により、成形加工や耐候性、耐食性などの特性が十分に発揮されないおそれがある。上塗り塗料の塗布方法は、特に限定されず、プレコート鋼板の製造に使用されている方法から適宜選択すればよい。そのような塗布方法の例には、ロールコート法、フローコート法、カーテンフロー法、スプレー法などが含まれる。
【0030】
(裏面塗膜)
本発明に係る塗装鋼板は、下塗り塗膜および上塗り塗膜が形成された面の反対側の面にも塗膜(裏面塗膜)を有していてもよい。裏面塗膜は、1コート構成であってもよいし、2コート構成であってもよい。また、裏面塗膜を構成する樹脂の種類や、顔料の種類なども特に限定されない。たとえば、公知の塗料を公知の方法で塗布することで、裏面塗膜を形成することができる。
【0031】
(効果)
本発明に係る塗装鋼板は、下塗り塗膜に溶出しやすいクロム酸系防錆顔料を含むため、塗装鋼板の端面や曲げ加工部などの鋼素地露出部における赤錆の発生を防止することができる。また、本発明に係る塗装鋼板は、下塗り塗膜に一次粒子からなる骨材を含むため、クロム酸系防錆顔料の過度の溶出を防止しつつ、耐傷付き性に優れている。すなわち、本発明に係る塗装鋼板は、短期および長期の耐食性、ならびに耐傷付き性に優れている。したがって、本発明に係る塗装鋼板は、例えば外気に露出し、かつ太陽光に照射されうる部分に使用される、建築物の外装建材として好適である。
【0032】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【実施例】
【0033】
1.塗装鋼板の作製
塗装原板として、溶融55%Al−Znめっき鋼板(基材:SPCC、両面めっき付着量:150g/m
2)を準備した。塗装原板の表面をアルカリ脱脂した後、塗布型のクロメート処理液(サーフコートNRC300NS;日本ペイント株式会社)を用いて化成処理を施した。
【0034】
化成処理された塗装原板の表面に、下塗り塗料をロールコーターで塗布し、到達板温200℃で30秒間乾燥させて、膜厚2〜8μmの下塗り塗膜を形成した。下塗り塗料としては、市販のエポキシ系クリアー塗料(NSC680;日本ファインコーティングス株式会社)に体質顔料として硫酸バリウムを5体積%添加したものをベースとして、さらに表1に示す防錆顔料および/または骨材を添加したものを準備した。骨材の粒子径(D
10およびD
90)は、コールターカウンター法によって測定される個数基準の累積粒度分布における粒子径であり、ふるいを用いて調整されている。
【0035】
次いで、下塗り塗膜の表面に、上塗り塗料をロールコーターで塗布し、到達板温220℃で45秒間乾燥させて、膜厚10μmの上塗り塗膜を形成した。上塗り塗料としては、市販のポリエステル系クリアー塗料(CA;日本ファインコーティングス株式会社)に着色顔料としてカーボンブラックを7体積%添加したものを準備した。
【0036】
作製した塗装鋼板の下塗り塗膜の構成を表1に示す。表1の骨材の種類の欄において、A1は、アクリル樹脂粒子(一次粒子)(アートパールJ−4P;根上工業株式会社)である。A2は、アクリル樹脂粒子(一次粒子)(タフチックFH−S010;東洋紡株式会社)である。A3は、アクリル樹脂粒子(一次粒子)(タフチックFH−S005;東洋紡株式会社)である。A4は、アクリル樹脂粒子(一次粒子)(タフチックFH−S008;東洋紡株式会社)である。A5は、アクリル樹脂粒子(一次粒子)(アートパールJ−5P;根上工業株式会社)である。Bは、ウレタン樹脂粒子(一次粒子)(アートパールP−800T;根上工業株式会社)である。Cは、ガラス粒子(一次粒子)(EMB−10;ポッターズ・バロティーニ株式会社)である。Dは、硬質シリカ粒子(細孔粒子)(サイリシア430;富士シリシア化学株式会社)である。また、表1の防錆顔料の種類の欄において、aは、クロム酸ストロンチウムである。bは、クロム酸亜鉛である。cは、酸化クロム(III)である。dは、硫酸クロム(III)である。表1において、骨材および防錆顔料の配合量は、下塗り塗膜の固形分に対する割合(体積%)である。
【0037】
【表1】
【0038】
2.評価試験
(1)耐食性試験
各塗装鋼板からせん断加工により板材を切り出し、2T曲げ加工を行うことで試験片を準備した。この試験片には切断端面および曲げ加工部が存在しており、それらの箇所で鋼素地およびめっき金属が露出している。
【0039】
各試験片を群馬県桐生市の屋外(非塩害地域)に設置し、6か月間および2年間の大気暴露試験を行った。各試験片は、南向きに35°の傾斜角度で設置した。曲げ加工部は、試験片の下側に位置させた。暴露開始から6か月後および2年後に、切断端面および曲げ加工部の鋼素地露出部における赤錆発生部分の面積率を測定した。赤錆発生部分の面積率が20%未満の場合を「◎」、20%以上40%未満の場合を「○」、40%以上60%未満の場合を「△」、60%以上の場合を「×」と評価した。「◎」、「○」または「△」であれば、その塗装鋼板は、必要な耐食性を有しているといえる。
【0040】
(2)耐傷付き性試験
塗装鋼板の取り扱い時および施工時における傷付きを想定して、クレメンス型引掻き硬度試験機を用いて耐傷付き性試験を行った。水平に配置された評価用板材の表面に対して45°の傾斜となるように、ステンレス鋼製のコインを評価用板材の上に設置した。コインに所定の荷重を加えた状態で、コインで評価用板材の塗膜を引っ掻き、めっき層が見えたときの最小の荷重を評価値として記録した。評価値が2000g以上の場合を「◎」、1000g以上2000g未満の場合を「○」、500g以上1000g未満の場合を「×」と評価した。「◎」、「○」であれば、その塗装鋼板は、必要な耐傷付き性を有しているといえる。
【0041】
(3)評価結果
各塗装鋼板の耐食性試験および耐傷付き性試験の評価結果を表2に示す。
【0042】
【表2】
【0043】
表2に示されるように、下塗り塗膜に骨材を添加しなかったNo.23,24の塗装鋼板は、耐傷付き性に劣っていた。また、下塗り塗膜に細孔粒子からなる骨材を添加したNo.18,19の塗装鋼板は、耐傷付き性に優れていたが、長期の耐食性に劣っていた。これは、骨材が細孔粒子であるため、クロム酸系防錆顔料が骨材内の隙間(細孔)を介して短期間のうちに外部に溶出してしまったためと考えられる。また、骨材のD
10またはD
90が上記式(1)または式(2)を満たしていないNo.9〜17の塗装鋼板は、耐傷付き性に劣っていた。No.9,10,12,13,15,16の塗装鋼板が耐傷付き性に劣るのは、下塗り塗膜の膜厚に対して小さな骨材が下塗り塗膜と上塗り塗膜の接触面積の増大に寄与できないためと考えられる。No.9,11,12,14,15,17の塗装鋼板が耐傷付き性に劣るのは、下塗り塗膜の膜厚に対して大きな骨材が下塗り塗膜から脱離しやすいためと考えられる。
【0044】
また、下塗り塗膜に防錆顔料として3価クロムを含むNo.20〜23の塗装鋼板、および下塗り塗膜に防錆顔料を添加しなかったNo.25,26の塗装鋼板は、短期および長期の耐食性に劣っていた。
【0045】
これに対し、下塗り塗膜にクロム酸系防錆顔料と所定の大きさの一次粒子からなる骨材とを添加したNo.1〜8の塗装鋼板は、短期および長期の耐食性ならびに耐傷付き性に優れていた。
【0046】
以上の結果から、本発明に係る塗装鋼板は、耐食性および耐傷付き性の両方に優れていることがわかる。
【解決手段】塗装鋼板は、鋼板と、前記鋼板の上に配置された、クロム酸系防錆顔料と一次粒子である骨材とを含み、かつ細孔粒子を含まない下塗り塗膜と、前記下塗り塗膜の上に配置された上塗り塗膜と、を有する。前記骨材は、以下の式(1)及び式(2)を満たす。D