(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
特定方向に延在する格子状凹凸部を有する基材と、前記格子状凹凸部の格子状凸部の一方向側の側面に接し前記格子状凸部頂部より上方に伸びるよう設けられた金属ワイヤと、を具備するワイヤグリッド偏光板であって、前記格子状凸部のピッチが115nm以下であり、前記格子状凹凸部の延在方向に垂直な面内における前記格子状凸部の断面形状が矩形形状であり、前記格子状凹凸部および前記金属ワイヤが、屈折率1.0〜1.5の樹脂で充填されていることを特徴とするワイヤグリッド偏光板。
前記基材の特定方向に垂直な面内における前記格子状凸部よりも側方および上方に前記金属ワイヤが存在し、且つ、前記金属ワイヤの下端が前記基材の凹部基板平面に接しており、前記金属ワイヤの高さが前記格子状凸部の凸部高さの1.1倍〜10倍であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のワイヤグリッド偏光板。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明者らは、ワイヤグリッド偏光板において、基材の格子状凹凸形状の凸部の一方の側面側にだけ金属ワイヤを設ける場合であっても、金属ワイヤの形状対称性を向上させ、格子状凹凸形状のピッチを120nm以下とし、凸部頂部より金属ワイヤを高く設け、基材の格子状凸部を矩形状とすることにより、左右からの入射光に対して、高い光学対称性を発現させることができることを見出した。
【0024】
本発明のワイヤグリッド偏光板は、特定方向に延在する格子状凹凸形状を有する基材と、格子状凹凸形状を有する基材凸部の一方向側の側面に接し前記基材凸部頂部より上方に伸びるよう設けられた金属ワイヤと、を具備するワイヤグリッド偏光板であって、基材凸部のピッチが120nm以下であって、格子状凹凸形状の延在方向に垂直な面内における基材凸部断面形状が略矩形形状であることを特徴とする。以下、ワイヤグリッド偏光板を構成する各成分について、具体的な構成の例示である
図1に基づいて説明する。なお、
図1(A)はワイヤグリッド偏光板の上面の模式図を示し、
図1(B)は
図1(A)におけるa−b間の断面の模式図を示している。
【0025】
(1)基材
本発明において、基材101の凸部のピッチは、120nm以下であることが重要である。120nm以下であることで、特に、360nmから500nmの波長領域において、高い光学特性(偏光度、透過率、埋め込み特性、光学対称性)を示す。とりわけ、表示材料として用いる場合、青色領域(435nm〜500nm)の光学特性を発現する上で好適である。また、後述する金属線を好適に作製するピッチサイズとしては、金属が結晶として安定に存在するための結晶子サイズが10nm〜60nmであることから、20nmから120nmの範囲であることが好ましく、より好ましくは50nmから120nmの範囲である。
【0026】
基材101は、特定方向に延在する格子状凹凸形状を有する基材であって、目的とする波長領域において実質的に透明であればよい。また、特定方向に延在するとは、格子状凹凸形状が実質的に延在していればよく、格子状凹凸形状が厳密に平行に延在している必要はない。基材101としては、例えば、ガラスなどの無機材料や樹脂材料を用いることができるが、中でも樹脂材料を用いた基板が、ロールプロセスが可能になる、ワイヤグリッド偏光板にフレキシブル性(屈曲性)を持たすことができる、等のメリットがあるため好ましい。基材1に用いることができる樹脂としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、シクロオレフィン樹脂(COP)、架橋ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアクリレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂などの非晶性熱可塑性樹脂や、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂などの結晶性熱可塑性樹脂や、アクリル系、エポキシ系、ウレタン系などの紫外線(UV)硬化性樹脂や熱硬化性樹脂が挙げられる。また、紫外線硬化性樹脂や熱硬化性樹脂と、ガラスなどの無機基板、上記熱可塑性樹脂、トリアセテート樹脂とを組み合わせたり、単独で用いて基材を構成させることもできる。
【0027】
(2)格子状凹凸部形状
前記のように基材101の格子状凹凸形状の延在方向に対して垂直な面内における凸部断面形状は、放物線のようになだらかに曲率が変わる曲線ではなく、比較的に平らな凹部低部と小さな曲率の角部から構成される略矩形形状であることが好ましい(
図1(B)参照)。断面形状が略矩形形状であることから、格子状凸部の側面が基材面に対して垂直に近い略矩形形状になり、断面が略矩形形状であることで、後述する金属ワイヤのつき回りが、格子状凹凸形状の延在方向に対して垂直な面内における凸部断面形状に対して、左右対称に近い形状に形成され、特徴的に高い光学対称性を示す。基材凸部のピッチを120nm以下、かつ、凸部断面形状を略矩形形状とすることで、高い偏光度と光線透過率の左右対称性を両立できる。
【0028】
また、格子状凸部の側面の接線と凹部基板平面との成す各度が、角度の小さい側(鋭角側)でみて、70°〜90°であることが好ましく、80°〜90°であることがより好ましい。凸部断面形状を略矩形形状とすることで、格子状凹凸形状の延在方向に垂直な面内において、基材面の垂直方向に対し、それぞれ左右の対称方向から入射する光線透過率の最大値の差が4%以下となる。また、格子状凸部の凸部高さ/凸部の半値幅の値は、1.0〜10程度であることが好ましく、得られる光学性能と、凸部形状の作りやすさ、転写のしやすさを考慮すると2〜5であることがより好ましい。
【0029】
また、格子状凸部の半値幅は、ピッチの0.2倍〜0.7倍であることが好ましく、0.2倍〜0.5倍であることがより好ましい。
【0030】
(3)誘電体
本発明において基材101を構成する材料と金属ワイヤ102との密着性向上のため、両者の間に両者と密着性が高い誘電体材料を好適に用いることができる。例えば、珪素(Si)の酸化物、窒化物、ハロゲン化物、炭化物の単体またはその複合物(誘電体単体に他の元素、単体または化合物が混じった誘電体)や、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、イットリウム(Y)、ジルコニア(Zr)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、バリウム(Ba)、インジウム(In)、錫(Sn)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、セリウム(Ce)、銅(Cu)などの金属の酸化物、窒化物、ハロゲン化物、炭化物の単体またはそれらの複合物を用いることができる。誘電体材料は、透過偏光性能を得ようとする波長領域において実質的に透明であればよい。
【0031】
誘電体材料の積層方法には特に限定は無く、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの物理的蒸着法を好適に用いることができる。なお、積層工程におけるフィルム送り速度は、0.1m/分〜100m/分の範囲で行われる。
【0032】
(4)金属ワイヤ
金属としてアルミニウムや銀の他、対象とする光の波長領域に応じて、銅、白金、金またはこれらの各金属を主成分とする合金を使用することもできる。
【0033】
(5)金属ワイヤ断面形状
金属ワイヤ102は、格子状凸部側方および凸部頂部よりも高さ方向で上部に存在しており、金属ワイヤ102の高さは、格子状凸部高さの1.1倍以上10倍以下であることが好ましく、1.3倍以上2.5倍以下の範囲であることが、透過光の吸収損失を抑制するうえでより好ましい。
【0034】
また、金属ワイヤ102の幅の平均値は、ピッチの0.2倍〜0.5倍であることが好ましく、0.3倍〜0.4倍であると、偏光特性、透過率を両立する上で最も好ましい。
【0035】
金属ワイヤ102の製造方法には特に限定は無いが、製造コストや生産性の観点から真空下における斜め蒸着法が好ましい。斜め蒸着法とは、格子状凹凸形状の延在方向と垂直に交わる平面内において、蒸着源が基材の法線に対して入射角度αを持ちながら金属を蒸着、積層させていく方法である。入射角度αは、格子状凸部と作製する金属ワイヤ102の断面形状から好ましい範囲が決まり、一般には入射角度αは5°〜40°が好ましく、より好ましくは10°〜30°である。さらに、蒸着中に積層した金属の射影効果を考慮しながら、入射角度αを徐々に減少または増加させることは、金属ワイヤ102の高さなど断面形状を制御する上で好適である。なお、このような製法から格子状凹凸形状と金属ワイヤ102の延在方向は等しくなる。
【0036】
金属ワイヤ102形状を達成するための金属蒸着量は、格子状凸部の形状によって決まるが、一般には、平均蒸着厚みは50nm〜150nm程度である。なお、蒸着工程におけるフィルム送り速度は、0.1m/分〜100m/分の範囲で行われる。
【0037】
ここでいう平均厚みとは、平滑ガラス基板上にガラス面に垂直方向から物質を蒸着させたと仮定した時の蒸着物の厚みのことを指し、金属蒸着量の目安として使用する。
【0038】
(6)エッチング工程
光学特性の観点から、必要に応じ凹凸格子の凹部底部に積層する金属を、エッチングにより除去する。エッチング方法は、基材や誘電体層に悪影響を及ぼさず、必要量の金属が除去できる方法であれば特に限定は無いが、生産性や装置コストの観点から酸やアルカリの水溶液に浸漬させる方法が好ましい。
【0039】
(7)光学特性
格子状凹凸形状の延在方向に垂直な面内において、基材101面の垂直方向(凸部の立設方向)に対して、それぞれ左右対称方向から入射する光に関し、光線透過率の差の許容値は、使用する製品によって異なるが、画像表示装置に用いた場合、対象とする同一波長で4%以下であれば差の認識は難しく、十分といえる。格子状凹凸形状の延在方向に垂直な面内における基材101面の垂直方向に対し、それぞれ左右の対称方向から入射する光の光線透過率の差が、可視光領域における同一波長で4%以下であることが好ましく、2%であることがより好ましい。また、基材101の格子状凹凸形状の凸部の一方向側の側面にのみ金属ワイヤ102が存在することも重要である。
【0040】
左右対称方向から入射する光の光線透過率の差は、その入射光角度θ(金属ワイヤ2の延在方向に垂直な面内における入射光と基材101面の垂直方向とのなす角度)によって変わるが、θが少なくとも45°以下おいて、光線透過率の最大値の差が可視青色波長領域(波長435nm〜波長500nmの領域)における同一波長で4%以下であれば、幅広い画像表示装置に使用できる。
【0041】
また、基材101面の垂直方向に対してそれぞれ左右対称方向から入射する光の光線透過率は、それぞれ35%以上であることが光の損失を減らす観点から好ましく、基材101面の垂直方向に対して45°以下での左右方向から入射する光線透過率が共に35%以上であることは、広い用途で使用するために好ましい。金属ワイヤ102を、格子状凹凸形状を有する凸部頂部より上方に伸びるよう設けることで、偏光特性が向上し、光の損失を減らすことができる。
【0042】
また、偏光度は使用する製品によって要求が異なるが、98%以上であることが好ましい。高いコントラストが必要とされる製品に応用する場合には、偏光度は99%以上が好ましく、さら99.9%以上が特に好ましい。
【0043】
(8)格子状凹凸部の表面保護
ワイヤグリッド偏光板を表示材料に使用する場合において、パネル全体を薄くするために各部材を粘着剤等で接合して使用するケースがある。また、金属細線面を衝撃から保護する目的でも、粘着剤層に包埋して使用される。120nm以下のピッチを有する基材101の格子状凹凸部と金属ワイヤ102が、屈折率1.0から1.5の樹脂(基材の屈折率と同程度の樹脂)で充填されていると、可視紫〜青色領域波長である、360nm〜500nmでの光学特性を維持したまま、耐衝撃性を向上させることができる。光によって誘起される自由電子の遮蔽電場の広がりが、波長に依存するため、短波長の偏光光を十分に遮蔽するためには波長の1/3以下であることが好ましく、さらに1/4以下であることがより好ましい。
【0044】
(9)格子状凹凸パタンのピッチ縮小方法
ワイヤグリッド偏光板の作製に用いる格子状凹凸パタンを作製する手段として、特定のピッチの熱可塑性樹脂をガラス転移温度以上でパタン平行方向に一軸延伸する方法がある。例えば、元のパタンピッチが250nmの格子状凹凸パタンから120nm以下のパタンを作製するには、4.34倍の延伸倍率が必要となる。ところが、一般的に延伸倍率が2.5倍を超えた条件においては樹脂にかかる歪が増大するため、パタン形状の相似縮小が極めて困難となる。したがって、延伸倍率の低い条件で120nm以下のピッチを得るために、200nm以下の格子状凹凸パタンを熱可塑性樹脂に付与し、それらを精度よく延伸する技術が必要不可欠であった。
【0045】
本発明におけるパタンの付与方法はモノマーキャスト熱重合法を採用することにより高い効果を得られる。この手法の特徴は、環境制御された熱重合反応によりモノマーをポリマー化させることで、延伸時に欠陥原因となるフィッシュアイ(高分子量ポリマーゲル)の発生を抑制し、欠陥のない120nm以下のパタンを作製できることである。また、一般的に知られるモノマーに加えて、モノマーと共重合可能なフッ素含有モノマー(例えばフッ素含有アクリレート)を所定量添加することによって、金型との離型性を発現させることができ、200nm以下の格子状凹凸パタンを精度よく転写することが可能となった。なお、重合前のモノマー類の混合溶液の粘度は、転写性を考慮すると、上限1万mPasとして、1〜100mPasであることが好ましい。
【0046】
次に、本発明の効果を明確にするために行った実施例について説明する。
【0047】
(実施例1)
(MMAオリゴマーシロップ調製)
スクリュー管に開始剤として2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN):0.5wt%、離型材として大日本インキ製『メガファックF444』:1wt%、モノマーとしてメチルメタクリレート:83.5%、トリフロロエチルメタクリレート15.0%の比率で混合し、N2雰囲気下50℃、65分で反応させた。その後直ちに大気導入、冷却し重合を止め、転写用MMAオリゴマーシロップとした。この際のシロップの粘度は20mPasであった。
【0048】
(転写)
ピッチ(p0)が145nmであり、微細凹凸格子の高さ(h0)が180nmである微細凹凸格子を表面に有するニッケルスタンパを準備した。この微細凹凸格子は、矩形の縞状格子形状であった。このニッケルスタンパの上に、上述のMMAオリゴマーシロップを均一に塗布し、さらに、その上に厚み1mmのアクリルシート(日東樹脂工業社製『クラレックス』)を乗せ、さらにその上に重しとして厚み5mmのガラス板を置いた。これら一体(ガラス板/PMMAシート/MMAオリゴマーシロップ/Niスタンパ)を60℃のオーブンに5時間入れ、MMAオリゴマーを重合させた。5時間経過後サンプルを取り出し、PMMAシートをNiスタンパから剥がしたところ、MMAオリゴマーシロップから重合されたPMMA膜はPMMAシート側に移っていた。
【0049】
また、電界放出型走査型電子顕微鏡で、PMMAの断面形状を観察したところ、ニッケルスタンパに形成された矩形の縞状格子形状が忠実に転写されていることが確認された。
【0050】
(延伸)
次いで、この矩形の縞状格子形状が転写されたPMMAシートをカッターナイフで150mm×150mmの長方形に切り出し、さらに縞状格子の凸部同士の融着防止のために表面にシリコーンオイルを塗布したものを延伸用サンプルとした。
【0051】
次いで、延伸用サンプルの長手方向の両端5mmを延伸機のチャックで固定し、その状態で114℃のオーブンに入れ、37.5cm/分の速度(初期ひずみ速度25%/分)で267秒間延伸した。この際、延伸方向と縞状格子の長手方向が略並行になるようにサンプルをセットした。
【0052】
これにより、延伸用サンプルは、幅方向が自由で一軸方向に2.1025倍延伸されていることになる。延伸後延伸サンプルを、PMMA樹脂が硬化する温度まで速やかに冷却した。延伸を終えた延伸用サンプルは、中央部に近づくほどくびれており、最も幅が縮小されている部分は103.5mmになっていた。幅が103.5mmになっている領域は全体の40%程度であった。延伸後、融着防止用に縞状格子表面に塗布したシリコーンオイルを界面活性剤の水溶液にて除去した。
【0053】
この延伸を終えた延伸用サンプルの表面を電界放出型走査型電子顕微鏡にて観察したところ(
図7参照)、ピッチ(p1)が100nmであり、縞状格子の高さ(h1)が120nmであり、矩形の格子形状は維持されていた。幅・高さ縮小比率r(=(h1/h0)/(p1/p0))は、(120/180)/(100/145)=0.966であり、PMMAシート表面の縞状格子の凹凸形状は実質的に延伸前の形状と相似で縮小されていたことが分かった。すなわち、100nmレベルのピッチの微細凹凸格子を実現することができた。
【0054】
(Niスタンパ作製)
以上のようにして得られた微細凹凸格子表面に導電化処理として金をスパッタリングにより30nm被覆した後、それぞれニッケルを電気メッキし、厚さ0.3mm、縦300mm、横180mmの微細凹凸格子を表面に有するニッケルスタンパを作製した。
【0055】
(ロールスタンパ作製)
同様にしてニッケルスタンパを計2枚作製し、2枚のスタンパを溶接により円形に接合し、ロールスタンパとした。この際、接合は微細凹凸格子の長手方向とロールスタンパの円周方向が直交する向きで行った。
【0056】
(格子状凸部転写フィルムロールの作製)
厚み0.08mmのトリアセチルセルロースフィルム(以下、TACフィルム)のロール(フィルム長250m)に連続的に紫外線硬化性樹脂を約0.01mm塗布し、塗布面を上記100nmピッチの微細凹凸格子を表面に有するロールスタンパ上に接触させ、フィルム側から中心波長365nmの紫外線ランプを用いて紫外線を1000mJ/cm
2照射し、ロールスタンパの微細凹凸格子を連続的に転写した後、ロール状に巻き取った。以下、このロールを原反ロールと呼ぶことにする。得られた格子状凸部転写フィルムをFE−SEMにより観察し、その断面形状が矩形で、上面からの形状が縞状格子状となっていることを確認した。また、格子状凸部の凸部高さ/凸部の半値幅の値が3.0であり、格子状凸部の半値幅は、ピッチの0.4倍であった。
【0057】
(原反ロールの乾燥)
以上のようにして得られた原反ロールに含まれる水分を乾燥するために、原反ロールを200Wの赤外線ヒーターが3台設けられた真空槽に移し、フィルムを真空中でほどきながら2m/分で走行させ、加熱後、ロール状に巻き取った。フィルム走行停止時の真空度は0.03Pa、フィルム走行中(乾燥中)の真空度は0.15Paであった。また、ヒーター通過後のTACフィルムの表面温度を知るためにTACフィルム上には予めサーモラベルを貼っておいた。ヒーター通過後のTACフィルムの表面温度は60℃から70℃の間であった。
【0058】
(スパッタリング法を用いた誘電体層の形成)
乾燥後の原反ロールを乾燥機の真空槽中に12時間放置したところ、フィルムの温度は23℃まで下がった。その後、原反ロールの格子状凸部転写面を誘電体形成用及び金属ワイヤ形成用の真空チャンバへと移した。誘電体形成には反応性ACマグネトロンスパッタリング法を用いた。ターゲットサイズ127mm×750mm×10mmtのシリコンターゲットを2枚並べ、基板からターゲットの距離80mm、アルゴンガス流量200sccm、窒素ガス流量300sccm、出力11kW、周波数37.5kHz、走行速度5m/分で原反ロールをほどきながらフィルム搬送用ロール(メインローラー)で巻取ロール側に送りながら窒化珪素層を設け、その後ロール状に巻き取った。スパッタリングの際の張力は30N、メインローラー温度は30℃、スパッタリング開始前のバックグラウンドの真空度は0.005Pa、スパッタリング中の真空度は0.38Paであった。同じ条件でSiチップに窒化珪素を成膜し、エリプソメーターにて窒化珪素層の厚みを算出したところ、3nmであった。
【0059】
(アルミニウム蒸着)
原反ロールの格子状凸部転写面に誘電体層として窒化珪素をスパッタリング法にて形成した後、フィルムをスパッタリング時と逆方向にメインローラーで送り、抵抗加熱蒸着法にて格子状凸部転写面に金属ワイヤを形成し、ロール状に巻き取った。本実施例では、金属としてアルミニウム(Al)を用いた場合について説明する。このとき、蒸着ボート加熱前の真空度は0.005Paであった。また、アルミニウムの蒸着には斜め蒸着法を用い、格子の立設方向と垂直に交わる平面内において基材面の法線蒸着源とのなす角が32°(θs)からはじまり15°(θd)で終わるようにマスクを配置して行った。
【0060】
このときのフィルム搬送方向のマスク開口幅は60mm、マスク開口部中心と蒸着ボートとの距離は400mmであった。以上のような配置にて、フィルム送り速度3.5m/分で格子状凸部転写フィルムを走行させながら、加熱されたボート上に純度99.9%以上、線径1.7mmのアルミワイヤを送り速度200mm/分でフィードし、蒸着を行った。蒸着中の全圧は0.007Paであった蒸着後、原反ロールを真空槽から取り出し、アルミニウムの膜厚を蛍光X線の発光強度より換算したところ130nmであった。したがって、本実施例のアルミニウムの平均成膜速度(v)は、アルミニウムの膜厚を蒸着時間で除した値(130/1.03)で、126.4nm/sであった。
【0061】
(アルミニウムのエッチング)
実施例及び比較例に記載された方法で作製された、窒化珪素及びアルミニウムが成膜された格子状凸部転写フィルムロールを、フィルムをほどきながら温度23℃の0.5重量%のNaOHaq槽内を50秒間走行させ、次いで、これを水洗・風乾し、目的とするワイヤグリッドフィルムのロールを得た(以下、偏光板Aとする)。
【0062】
(光学測定)
光線透過率の角度依存性測定には変角分光分析装置(日立ハイテク社製、U―4100)を用いた。偏光板Aの435nm〜500nmでの光線透過率の平均値を入射角度(−45度〜45度)に対してプロットした結果を
図2に示す。光線透過率は37%以上であり、左右位置での透過率差は最大1.29%であった。
【0063】
(粘着剤層で埋めた場合のクロスニコル透過率の変化率計測)
分光光度計のクロスニコル位置にて435nm〜500nmでの平均光線透過率(以下、Tsと定義する)を算出した。
【0064】
次に、表面に積水化学工業株式会社粘着剤(品名 WT#5402A屈折率 1.472)を貼り付け、パタン部分を保護した状態で同様にTsを測定した。粘着剤保護前後でのTsの増大率(保護後/保護前)の平均値を算出したところ141%であった(
図5参照)。
【0065】
(実施例2)
(偏光板の作製)
実施例1と同―の手順にて、格子状凸部転写フィルムロールの作製、アルミニウム蒸着を実施した。アルミニウムのエッチング工程のみ実施例1と変更し、フィルムをほどきながら温度23℃の0.5重量%のNaOHaq槽内を65秒間走行させ、次いで、これを水洗・風乾し、目的とするワイヤグリッドフィルムのロールを得た(以下、偏光板Bとする)。
【0066】
(光学測定)
偏光板Bの435nm〜500nmでの光線透過率を基材垂直方向からの入射角度−45度〜45度の範囲で測定したところ、37%以上であり、左右位置での透過率差は最大1.89%であった。
【0067】
(粘着剤層で埋めた場合のクロスニコル透過率の変化率計測)
実施例1と同様の手法で粘着剤保護前後でのTsの増大率(保護後/保護前)の平均値を算出したところ211%であった。
【0068】
(実施例3)
(実施例1のNiスタンパ逆スパッタ)
実施例1と同―の手順にて、延伸法にて100nmピッチのパタンを作製し、そのパタンを使用してNiスタンパを作製した。
【0069】
(逆スパッタ法によるNiスタンパの微細加工)
矩形形状の格子状凹凸形状をもつNiスタンパに短時間の逆スパッタ処理を施すことによりスタンパの凹凸形状を加工した。転写される樹脂の格子状凹凸形状が略放物線なるように最適化した逆スパッタ条件で処理を行った。
【0070】
(格子状凸部転写フィルムロールの作製)
逆スパッタ処理した100nmピッチのNiスタンパをロール化し、続いて格子状凸部転写フィルムロールを作製した。得られた格子状凸部転写フィルムをFE−SEMにより観察し、その断面形状が略放物線形で、上面からの形状が縞状格子状となっていることを確認した。また、格子状凸部の凸部高さ/凸部の半値幅の値が、4.8であり、格子状凸部の半値幅は、ピッチの0.25倍であった。
【0071】
(偏光板の作製)
以下、実施例1と同―の手順にて、アルミニウム蒸着、エッチングを実施し、目的とするワイヤグリッドフィルムのロールを得た(以下、偏光板Cとする)。
【0072】
(光学測定)
偏光板Cの435nm〜500nmでの光線透過率を入射角度−45度〜45度の範囲で測定したところ、37%以上であり、左右位置での透過率差は最大3.25%であった。
【0073】
(粘着剤層で埋めた場合のクロスニコル透過率の変化率計測)
実施例1と同様の手法で粘着剤保護前後でのTsの増大率(保護後/保護前)の平均値を算出したところ272%であった。
【0074】
(実施例4)
(115nmピッチパタンの作製)
実施例1と同様の方法にて、PMMA上にパタン転写を実施した。次いで、この矩形の縞状格子形状が転写されたPMMAシートをカッターナイフで150mm×150mmの長方形に切り出し、さらに縞状格子の凸部同士の融着防止のために表面にシリコーンオイルを塗布したものを延伸用サンプルとした。
【0075】
次いで、延伸用サンプルの長手方向の両端5mmを延伸機のチャックで固定し、その状態で114℃のオーブンに入れ、37.5cm/分の速度(初期ひずみ速度25%/分)で142秒間延伸した。この際、延伸方向と縞状格子の長手方向が略並行になるようにサンプルをセットした。
【0076】
これにより、延伸用サンプルは、幅方向が自由で一軸方向に1.59倍延伸されていることになる。延伸後延伸サンプルを、PMMA樹脂が硬化する温度まで速やかに冷却した。延伸を終えた延伸用サンプルは、中央部に近づくほどくびれており、最も幅が縮小されている部分は119.0mmになっていた。幅が119.0mmになっている領域は全体の40%程度であった。延伸後、融着防止用に縞状格子表面に塗布したシリコーンオイルを界面活性剤の水溶液にて除去した。
【0077】
この延伸を終えた延伸用サンプルの表面を電界放出型走査型電子顕微鏡にて観察したところ、ピッチ(p1)が115nmであり、縞状格子の高さ(h1)が140nmであり、矩形の格子形状は維持されていた。幅・高さ縮小比率r(=(h1/h0)/(p1/p0))は、(140/180)/(115/145)=0.981であり、PMMAシート表面の縞状格子の凹凸形状は実質的に延伸前の形状と相似で縮小されていたことが分かった。
【0078】
(格子状凸部転写フィルムロールの作製)
実施例1と同様に115nmピッチのNiスタンパをロール化し、続いて格子状凸部転写フィルムロールを作製した。得られた格子状凸部転写フィルムをFE−SEMにより観察し、その断面形状が略矩形形状で、上面からの形状が縞状格子状となっていることを確認した。また、格子状凸部の凸部高さ/凸部の半値幅の値が、3.0であり、格子状凸部の半値幅は、ピッチの0.40倍であった。
【0079】
(偏光板の作製)
以下、実施例2と同―の手順にて、アルミニウム蒸着、エッチング(65秒間)を実施し、目的とするワイヤグリッドフィルムのロールを得た(以下、偏光板Dとする)。
【0080】
(光学測定)
偏光板Dの435nm〜500nmでの光線透過率を入射角度−45度〜45度の範囲で測定したところ、37%以上であり、左右位置での透過率差は最大1.42%であった。
【0081】
(粘着剤層で埋めた場合のクロスニコル透過率の変化率計測)
実施例1と同様の手法で粘着剤保護前後でのTsの増大率(保護後/保護前)の平均値を算出したところ268%であった。
【0082】
(実施例5)
実施例4と同―の手順にて、延伸法にて115nmピッチのパタンを作製し、そのパタンを使用してNiスタンパを作製した。
【0083】
(逆スパッタ法によるNiスタンパの微細加工)
矩形形状の格子状凹凸形状をもつNiスタンパに短時間の逆スパッタ処理を施すことによりスタンパの凹凸形状を加工した。転写される樹脂の格子状凹凸形状が略放物線なるように最適化した逆スパッタ条件で処理を行った。
【0084】
(格子状凸部転写フィルムロールの作製)
逆スパッタ処理した115nmピッチのNiスタンパをロール化し、続いて格子状凸部転写フィルムロールを作製した。得られた格子状凸部転写フィルムをFE−SEMにより観察し、その断面形状が略放物線形で、上面からの形状が縞状格子状となっていることを確認した。また、格子状凸部の凸部高さ/凸部の半値幅の値が、4.1であり、格子状凸部の半値幅は、ピッチの0.3倍であった。
【0085】
(偏光板の作製)
以下、実施例1と同―の手順にて、アルミニウム蒸着、エッチングを実施し、目的とするワイヤグリッドフィルムのロールを得た(以下、偏光板Eとする)。
【0086】
(光学測定)
偏光板Eの435nm〜500nmでの光線透過率を入射角度−45度〜45度の範囲で測定したところ、35%以上であり、左右位置での透過率差は最大3.28%であった。
【0087】
(粘着剤層で埋めた場合のクロスニコル透過率の変化率計測)
実施例1と同様の手法で粘着剤保護前後でのTsの増大率(保護後/保護前)の平均値を算出したところ327%であった。
【0088】
(比較例1)
(Niスタンパの作製)
ピッチ(p0)が130nmであり、微細凹凸格子の高さ(h0)が170nmである微細凹凸格子を表面に有するニッケルスタンパを準備した。
【0089】
(格子状凸部転写フィルムロールの作製)
130nmピッチのNiスタンパをロール化し、続いて格子状凸部転写フィルムロールを作製した。得られた格子状凸部転写フィルムをFE−SEMにより観察し、その断面形状が略矩形形状で、上面からの形状が縞状格子状となっていることを確認した。また、格子状凸部の凸部高さ/凸部の半値幅の値が、3.3であり、格子状凸部の半値幅は、ピッチの0.4倍であった。
【0090】
(偏光板の作製)
以下、実施例1と同―の手順にて、アルミニウム蒸着、エッチングを実施し、目的とするワイヤグリッドフィルムのロールを得た(以下、偏光板Fとする)。
【0091】
(光学測定)
偏光板Fの435nm〜500nmでの光線透過率を入射角度−45度〜45度の範囲で測定したところ、35%以上であり、左右位置での透過率差は最大1.67%であった。
【0092】
(粘着剤層で埋めた場合のクロスニコル透過率の変化率計測)
実施例1と同様の手法で粘着剤保護前後でのTsの増大率(保護後/保護前)の平均値を算出したところ395%であった。
【0093】
(比較例2)
(逆スパッタ法によるNiスタンパの微細加工)
比較例1の矩形形状の格子状凹凸形状をもつNiスタンパに短時間の逆スパッタ処理を施すことによりスタンパの凹凸形状を加工した。転写される樹脂の格子状凹凸形状が略放物線なるように最適化した逆スパッタ条件で処理を行った。
【0094】
(格子状凸部転写フィルムロールの作製)
逆スパッタ処理した130nmピッチのNiスタンパをロール化し、続いて格子状凸部転写フィルムロールを作製した。得られた格子状凸部転写フィルムをFE−SEMにより観察し、その断面形状が略放物線形で、上面からの形状が縞状格子状となっていることを確認した。また、格子状凸部の凸部高さ/凸部の半値幅の値が、4.4であり、格子状凸部の半値幅は、ピッチの0.3倍であった。
【0095】
(偏光板の作製)
以下、実施例1と同―の手順にて、アルミニウム蒸着、エッチングを実施し、目的とするワイヤグリッドフィルムのロールを得た(以下、偏光板Gとする)。
【0096】
(光学測定)
偏光板Gの435nm〜500nmでの光線透過率を入射角度−45度〜45度の範囲で測定したところ、35%以上であり、左右位置での透過率差は最大6.35%であった。
【0097】
(粘着剤層で埋めた場合のクロスニコル透過率の変化率計測)
実施例1と同様の手法で粘着剤保護前後でのTsの増大率(保護後/保護前)の平均値を算出したところ507%であった。
【0098】
(比較例3)
(Niスタンパの作製)
ピッチ(p0)が145nmであり、微細凹凸格子の高さ(h0)が150nmである微細凹凸格子を表面に有するニッケルスタンパを準備した。
【0099】
(格子状凸部転写フィルムロールの作製)
145nmピッチのNiスタンパをロール化し、続いて格子状凸部転写フィルムロールを作製した。得られた格子状凸部転写フィルムをFE−SEMにより観察し、その断面形状が略矩形形状で、上面からの形状が縞状格子状となっていることを確認した。また、格子状凸部の凸部高さ/凸部の半値幅の値が、2.6であり、格子状凸部の半値幅は、ピッチの0.4倍であった。
【0100】
(偏光板の作製)
以下、実施例1と同―の手順にて、アルミニウム蒸着、エッチングを実施し、目的とするワイヤグリッドフィルムのロールを得た(以下、偏光板Hとする)。
【0101】
(光学測定)
偏光板Hの435nm〜500nmでの光線透過率を入射角度−45度〜45度の範囲で測定したところ、35%以上であり、左右位置での透過率差は最大1.60%であった(
図3参照)。
【0102】
(粘着剤層で埋めた場合のクロスニコル透過率の変化率計測)
実施例1と同様の手法で粘着剤保護前後でのTsの増大率(保護後/保護前)の平均値を算出したところ420%であった(
図6参照)。
【0103】
(比較例4)
(逆スパッタ法によるNiスタンパの微細加工)
比較例3の矩形形状の格子状凹凸形状をもつNiスタンパに短時間の逆スパッタ処理を施すことによりスタンパの凹凸形状を加工した。転写される樹脂の格子状凹凸形状が略放物線なるように最適化した逆スパッタ条件で処理を行った。
【0104】
(格子状凸部転写フィルムロールの作製)
逆スパッタ処理した145nmピッチのNiスタンパをロール化し、続いて格子状凸部転写フィルムロールを作製した。得られた格子状凸部転写フィルムをFE−SEMにより観察し、その断面形状が略放物線形で、上面からの形状が縞状格子状となっていることを確認した。また、格子状凸部の凸部高さ/凸部の半値幅の値が、3.0であり、格子状凸部の半値幅は、ピッチの0.35倍であった。
【0105】
(偏光板の作製)
以下、実施例1と同―の手順にて、アルミニウム蒸着、エッチングを実施し、目的とするワイヤグリッドフィルムのロールを得た(以下、偏光板Iとする)。
【0106】
(光学測定)
偏光板Iの435nm〜500nmでの光線透過率を入射角度−45度〜45度の範囲で測定したところ、33%以上であり、左右位置での透過率差は最大8.14%であった(
図4参照)。
【0107】
(粘着剤層で埋めた場合のクロスニコル透過率の変化率計測)
実施例1と同様の手法で粘着剤保護前後でのTsの増大率(保護後/保護前)の平均値を算出したところ570%であった。
【0108】
以下に、上記実施例1〜実施例5、比較例1〜比較例4の測定結果を表1に示す。また、上記偏光板A〜偏光板Iにおいて粘着剤保護前後のTs増大率を表2、光線透過率の左右入射方向での最大差分を表3に示す。
【0112】
上記表1〜表3より、粘着剤保護前後のTs増大率については、パタンピッチが大きくなるほど、又は断面形状が放物線となるほど増大することが分かった。これは、粘着剤保護により屈折率が変化したため、金属ワイヤに形成される遮蔽電場が、ピッチの幅に対して十分な幅に形成されなかったためである。また、光線透過率の左右入射方向での最大差分については、断面形状が矩形形状である偏光板に比較して放物線である偏光板の最大差分が大きくなることが分かった。さらに、断面形状が矩形形状である場合はピッチが変化しても最大差分の変化は小さかったが、放物線ではピッチが大きくなるにつれて最大差分も大きくなることが分かった。これは、断面形状を矩形形状とすることにより、金属ワイヤの形状対称性が向上するためであると考えられる。