(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5710217
(24)【登録日】2015年3月13日
(45)【発行日】2015年4月30日
(54)【発明の名称】車両用バッテリの劣化度合推定装置及び方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/48 20060101AFI20150409BHJP
G01R 31/36 20060101ALI20150409BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20150409BHJP
B60R 16/04 20060101ALI20150409BHJP
【FI】
H01M10/48 P
G01R31/36 AZHV
H02J7/00 Y
H01M10/48 301
B60R16/04 W
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2010-250216(P2010-250216)
(22)【出願日】2010年11月8日
(65)【公開番号】特開2012-74342(P2012-74342A)
(43)【公開日】2012年4月12日
【審査請求日】2013年9月18日
(31)【優先権主張番号】10-2010-0093085
(32)【優先日】2010年9月27日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】591251636
【氏名又は名称】現代自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】呉 重 錫
(72)【発明者】
【氏名】朴 満 載
(72)【発明者】
【氏名】許 相 珍
【審査官】
土居 仁士
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−074891(JP,A)
【文献】
特表2013−537620(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/42−10/48
H02J 7/00−7/12、7/34−7/36
G01R 31/36
B60R 16/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定時間の間隔で測定された車両用のバッテリ温度を、時間に対する温度分布データとしてメモリに格納するバッテリ温度測定及び格納ステップと、
前記温度分布データが、基準期間より長い期間にわたって格納されているか否かを確認するデータ格納期間確認ステップと、
前記温度分布データが基準期間より長い期間にわたって格納されたデータであれば、前記温度分布データを用いて、温度に対応する苛酷度を算出する温度に対する苛酷度算出ステップと、
メモリに格納された走行距離劣化マップに、前記温度に対応する苛酷度を適用して、走行距離及び温度に応じた劣化度合を推定する劣化度合推定ステップと、
を含むことを特徴とする車両用バッテリの劣化度合推定方法。
【請求項2】
前記劣化度合推定ステップの後に連続して、前記走行距離劣化マップを用いて算出されたバッテリの劣化程度に対応して、車両が走行できる残存走行距離を算出する残存走行距離推定ステップを更に含むことを特徴とする請求項1に記載の車両用バッテリの劣化度合推定方法。
【請求項3】
前記温度分布データは、車両が走行中である時の前記バッテリの温度である走行中温度分布データと、イグニションオン状態で車両が停車した状態である時の前記バッテリの温度である放置中温度分布データと、からなることを特徴とする請求項1に記載の車両用バッテリの劣化度合推定方法。
【請求項4】
前記基準期間を、1年間に設定することを特徴とする請求項1に記載の車両用バッテリの劣化度合推定方法。
【請求項5】
請求項1に記載の車両用バッテリ劣化度合の推定方法であって、
車両用のバッテリ温度を一定時間の間隔で測定するセンサと、
測定されたバッテリ温度を時間に対して格納した温度分布データと、前記温度分布データを用いて設定した基準温度に対応する苛酷度を格納する温度別苛酷度マップと、走行距離に応じたバッテリ劣化値を格納する走行距離劣化マップと、を格納するメモリと、
前記温度分布データが、基準期間より長い期間にわたって格納されているか否かを確認し、前記温度分布データが基準期間より長い期間にわたって格納されたデータであれば、前記温度分布データ、前記メモリに格納された前記温度別苛酷度マップ、及び前記走行距離劣化マップを用いて、バッテリの温度及び車両の走行距離に対応したバッテリの劣化度合を推定する制御器と、
を含むことを特徴とする車両用バッテリの劣化度合推定装置。
【請求項6】
前記走行距離劣化マップは、試験を通じて車両の走行距離別に測定した前記バッテリの劣化値を前記メモリに格納したマップであることを特徴とする請求項5に記載の車両用バッテリの劣化度合推定装置。
【請求項7】
前記温度分布データは、前記バッテリの温度を一定間隔で基準期間以上測定し前記メモリに格納したデータであり、前記温度別苛酷度マップは、前記温度分布データを用いて設定された基準温度に対応し、前記基準温度別に算出された苛酷度を前記メモリに格納したマップであることを特徴とする請求項5に記載の車両用バッテリの劣化度合推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用バッテリの劣化度合推定装置及び方法に係り、より詳しくは、車両用バッテリの劣化度合及び残存走行距離を正確に推定できる車両用バッテリの劣化度合推定装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境対応型のエネルギー開発の一環として、自動車分野においては、電気自動車に関する開発が盛んに行われている。
現在、実用化を目指す開発が進められている電気自動車は、バッテリをエネルギー源として使う純粋な電気自動車、バッテリをエネルギーバッファとして使うエンジンハイブリッド自動車、燃料電池自動車などである。これらの中で、既に実用化されているのはハイブリッド自動車である。
【0003】
ハイブリッド自動車のバッテリシステムの役割は、走行中のエンジンの出力を補助したり、過剰に発生したエネルギーを蓄積したりして自動車のエネルギー効率を改善するためのものであって、バッテリシステムは、ハイブリッド自動車における車両の性能を決める重要な部品中の1つであり、バッテリシステムの制御技術は非常に重要な技術である。
【0004】
バッテリシステムにおいて制御をすべき項目としては、出力の制御、バッテリ温度の制御、劣化状態の診断、残存容量の推定などがある。この中のバッテリ残存容量の推定は自動車の走行戦略のために最も重要な項目である。即ち、ハイブリッド自動車は、常にバッテリの残存容量を計算しながら、バッテリの充電及び放電を制御することによって車両の燃料消費率を高めることを特徴とするからである。
【0005】
バッテリの残存容量は、使用環境や使用期間に応じて、抵抗が増加したり、劣化して充電容量が減少したりする。その結果、使用可能電気容量が減少するか抵抗が増加するようになり、その性能である劣化度合(State Of Health、以下、「SOH」と記す)がバッテリの生産当初に比べて低下する。SOHの低下により、バッテリの残存容量の推定値が生産当初の推定値とは異なるようになる。バッテリの残存容量を正確に推定し車両の運用効率を高めるためには、SOHの正確な推定が必要となる。
【0006】
従来のSOH推定方式としては、バッテリの電流及び電圧の測定を通じてインピーダンスを推定するか(例えば特許文献1を参照)、直接インピーダンスを測定する方式(例えば特許文献2を参照)が利用されているが、各センサによって測定される電流、電圧、及びインピーダンスの測定時に発生するエラーによって正確な推論が難しかったりロジックが非常に複雑になったりする短所がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−343230号公報
【特許文献2】特開2007−85772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、車両用バッテリのSOH及び残存走行距離を正確に推定することができる車両用バッテリの劣化度合推定装置及び方法を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するための本発明に係る車両のバッテリSOH推定方法は、一定時間の間隔で測定された車両用のバッテリ温度を、時間に対する温度分布データとしてメモリに格納するバッテリ温度測定及び格納ステップと、温度分布データが、基準期間より長い期間にわたって格納されているか否かを確認するデータ格納期間確認ステップと、温度分布データが基準期間より長い期間にわたって格納されたデータであれば、温度分布データを用いて温度に対応する苛酷度を算出する、温度に対する苛酷度算出ステップと、メモリに格納された走行距離劣化マップに、温度に対応する苛酷度を適用して走行距離及び温度に応じたSOHを推定する、SOH推定ステップと、を含むことを特徴とする。
【0010】
また本発明は、SOH推定ステップの後に連続して、走行距離劣化マップを用いて算出されたバッテリの劣化程度に対応して、車両が走行できる残存走行距離を算出する残存走行距離推定ステップを更に含む。
【0011】
また本発明は、温度分布データが、車両が走行中である時のバッテリの温度である走行中温度分布データと、イグニションオン状態で車両が停車した状態である時のバッテリの温度である放置中温度分布データと、を含んでなる。
また本発明は、基準期間を1年間に設定することが好ましい。
【0012】
また、前記目的を達成するための本発明に係る車両のバッテリ
劣化度合の推定装置は、
車両用のバッテリ温度を一定時間の間隔で測定するセンサと、測定されたバッテリ温度を時間に対して格納した温度分布データと、温度分布データを用いて設定した基準温度に対応する苛酷度を格納する温度別苛酷度マップと、走行距離に応じたバッテリ劣化値を格納する走行距離劣化マップと、を格納するメモリと、
温度分布データが、基準期間より長い期間にわたって格納されているか否かを確認し、温度分布データが基準期間より長い期間にわたって格納されたデータであれば、温度分布データ、メモリに格納された温度別苛酷度マップ
、及び走行距離劣化マップを用いて、バッテリの温度及び車両の走行距離に対応したバッテリの
劣化度合を推定する制御器と、を含むことを特徴とする。
【0013】
また本発明は、走行距離劣化マップが、試験を通じて車両の走行距離別に測定したバッテリの劣化値をメモリに格納したマップであることが好ましい。
また本発明は、温度分布データが、バッテリの温度を一定間隔で基準期間以上の測定しメモリに格納したデータであり、温度別苛酷度マップが、温度分布データを用いて設定された基準温度に対応し、基準温度別に算出された苛酷度をメモリに格納したマップであることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る車両用バッテリのSOH推定装置及び方法によれば、バッテリの劣化に影響を及ぼす最も大きい要因である温度変化と走行距離を考慮してバッテリの劣化程度を推定することができ、これにより、バッテリのSOH及び残存走行距離を正確に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の1実施形態による車両用バッテリのSOH推定装置を示すブロック図である。
【
図2】
図1に示した車両用バッテリのSOH推定装置を用いたSOH推定方法を示すフローチャートである。
【
図3】
図1に示した温度分布データの一例である。(a)は走行中温度分布データであり、(b)は放置中温度分布データである。
【
図4】
図1に示した温度別苛酷度マップの一例である。
【
図5】
図1に示した走行距離劣化マップの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の1実施形態を、添付した図面を参照して詳細に説明する。なお、明細書の全体にわたって同一の構成要素に対しては同一の符号を付した。
【0017】
図1は、本発明の1実施形態による車両用バッテリのSOH推定装置を示すブロック図である。
図1に示すように、本発明の車両用バッテリのSOH推定装置100は、温度分布データ111と温度別苛酷度マップ112と走行距離劣化マップ113とを格納するメモリ110と、メモリ110と電気的に連結されメモリ110から印加されるデータを用いて車両用バッテリのSOHを推定する制御器120と、を含んで構成される。
【0018】
図2は、
図1に示した車両用バッテリのSOH推定装置を用いたSOH推定方法を示すフローチャートである。
車両がイグニションオン状態になるとSOH推定方法が開始される。先ず、バッテリ(図示しない)に取り付けられた温度センサ130が一定の時間間隔でバッテリ温度を測定し、
図2に示すように、温度分布データ111をメモリ110に格納する(S1)。
【0019】
図3は、
図1に示した温度分布データの一例である。(a)は走行中温度分布データであり、(b)は放置中温度分布データである。
図3に示すように、温度分布データ111は、時間(x軸)に対する温度(y軸)データとしてメモリ110に格納される。温度分布データ111は、車両が走行中である時の温度分布である走行中温度分布データ111aと、この車両がイグニションオン状態で停車した状態である時の温度分布である放置中温度分布データ111bと、からなる。
【0020】
温度分布データ111の中、放置中温度分布データ111bは、季節によって変化する外部の気温に対応して変化し、走行中温度分布データ111aは、車両走行中のバッテリ温度であって、放置中温度分布データ111bに比べて外気の温度変化から受ける影響は少ない。
【0021】
温度分布データ111は、季節によって気温の変化が大きい地方においては、走行中温度分布データ111aと放置中温度分布データ111bとの両方を備える必要があるが、季節によって気温変化の少ない地方においては、走行中温度分布データ111aのみを備えればよいこともある。
温度分布データ111は、バッテリ温度を温度センサ130によって一定の時間間隔で測定し、測定した温度をデータとして累積してメモリ110に格納することによって得ることができる。
【0022】
次に、制御器120は、温度分布データ111に格納されたデータの格納期間が基準期間Taより長い期間にわたって格納されているか否かを判断する(S2)。
温度分布データ111に格納されたデータの格納期間が、基準期間Taと同等であるか基準期間Taより短ければ、制御器120は格納期間が基準期間Taより長くなるまで、一定時間の間隔でバッテリの温度変化を測定し、データを累積して格納するステップ(S1)を繰り返し実行する。
基準期間Taは、季節に応じて車両の外部気温が変化する時のバッテリの劣化を全て考慮するために、1年間に設定することが好ましい。
【0023】
温度分布データ111に格納されたデータの格納期間が、基準期間Taより長い場合は、制御器120は、温度に対する苛酷度の算出ステップ(S3)を実行する。
温度に対する苛酷度の算出ステップ(S3)において制御器120は、温度分布データ111を用いて設定された基準温度T1に対応する苛酷度を算出する。
【0024】
図4は、
図1に示した温度別苛酷度マップの一例である。
図4に示すように、例えば、走行中温度分布データ111aの平均値であるT1[℃]を基準温度T1に設定した場合、T1[℃]の苛酷度を1に設定する。
また、基準温度T1より高い温度に対する苛酷度は1より大きい数値になるように設定する。すなわち、温度がT1[℃]より高ければ高いほど、苛酷度は比例または順次増加するように苛酷度を算出する。
また、T1[℃]より低い温度値に対する苛酷度は1より小さい正の数値になるように設定する。温度が基準温度T1[℃]より低ければ低いほど、苛酷度は減少して0に近付くように算出する。
【0025】
また、放置中温度分布データ111bを用いた基準温度T2を設定し、これに対する苛酷度を算出することができる。
温度に対する苛酷度の算出ステップ(S3)で算出された基準温度(T1、T2)に対応する苛酷度は、温度分布データ111を用いて各基準温度別に算出された苛酷度の値であって、温度別苛酷度マップ112としてメモリ110に格納される。
【0026】
図5は、
図1に示した走行距離劣化マップの一例である。メモリ110に格納された走行距離劣化マップ113は、試験を通じて車両の走行距離別(x軸)にバッテリの劣化率(y軸[%])を測定してメモリ110に格納したマップである。
走行距離劣化マップ113に格納された劣化値は、バッテリの電流変化によって発生する抵抗劣化値113aと、バッテリの満充電から満放電までの電気容量に対するバッテリの容量劣化値113bとからなる。
【0027】
制御器120は、メモリ110に格納された走行距離劣化マップ113を用いて車両の現在走行距離に対する抵抗劣化値113a及び容量劣化値113bを推定し、次いで推定した抵抗劣化値113a及び容量劣化値113bに苛酷度算出ステップ(S3)で算出された苛酷度を適用して、現在車両の走行距離及びバッテリ温度に対応したSOHの推定ステップ(S4)を実行する。
【0028】
すなわち、走行距離劣化マップ113から車両の走行距離に対する抵抗劣化値113a及び容量劣化値113bを推定し、推定したそれぞれの劣化値に温度別過酷度マップからえられる苛酷度を掛けることによって、車両が走行した距離とバッテリの温度に対応したバッテリのSOHを推定する。
【0029】
次に、現在車両のバッテリのSOHに対応する、現在車両が走行できる残存走行距離を算出する残存走行距離の推定ステップ(S5)を実行する。
先ず、走行距離劣化マップ113を用いて推定される抵抗劣化値113aに苛酷度値を適用した抵抗劣化程度E1と、容量劣化値113bに苛酷度値を適用した容量劣化程度E2と、を算出する。
【0030】
次に、走行距離に対応する抵抗劣化程度E1及び容量劣化程度E2に対応する劣化程度Esを推定し、劣化程度Esに対応して走行可能な最終走行距離Edを推定し、次いで推定された最終走行距離Edから現在車両が走行した距離を差し引いて残存走行距離を推定する。
【0031】
本発明に係る車両用バッテリのSOH推定装置及び方法によれば、バッテリの劣化に影響を及ぼす最も大きい要因である温度変化と走行距離を考慮してバッテリの劣化程度を推定することができ、これにより、バッテリのSOH及び残存走行距離を正確に推定することができる。
【符号の説明】
【0032】
100 車両用バッテリのSOH推定装置
110 メモリ
111 温度分布データ
111a 走行中温度分布データ
111b 放置中温度分布データ
112 温度別苛酷度マップ
113 走行距離劣化マップ
113a 抵抗劣化値
113b 容量劣化値
120 制御器
130 温度センサ