(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明によれば、外部から移動環境情報を取得し、それに基づいて来るべき周波数変化を推定することでローカル信号周波数の予測制御を行う。移動環境情報は基地局から提供されるか(
図2、
図8)、あるいは移動通信装置を搭載した車両から提供される(
図12)。以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0030】
1.第1実施形態
まず、
図2および
図3を参照してシステムの全体構成について概説する。本実施形態による移動無線通信システムは、
図2に示すように、移動通信装置54(以下、移動局54という。)と、地上に設置固定されて静止した基地局55とから概略構成されているものとする。移動局54は携帯電話端末などの移動通信機器であり、アンテナ51、送受信部(TRX)52および情報処理部53を備える。
【0031】
基地局55は、移動局54の移動環境情報(x,d,u)を下り高周波信号(無線信号)により移動局54へ送信する。移動環境情報(x,d,u)は、移動局54が基地局55に対する相対速度vを取得するために必要な位置情報および速度情報である。
図3を参照して移動環境情報(x,d,u)の具体例を説明する。
【0032】
図3において、移動局54が移動経路58を速度uで移動し、その移動経路58から距離dだけ離れて基地局55が設置されているものとする。この場合、移動環境情報(x,d,u)のxは移動経路58に沿った現時点での距離であり、dは基地局55から移動経路58上の最寄り地点Fまでの距離であり、uは移動経路58上の移動局の現時点での速度である。
【0033】
移動局54が鉄道上の列車で移動している場合には、xは現在の列車位置から線路端に固定設置された基地局55の最寄りの線路上の地点Fまでの距離、dは基地局55から線路上の地点Fまでの距離、uは列車の走行速度となる。通常、鉄道には鉄道運行システムが存在しており、列車の移動情報を把握している。したがって、基地局55が鉄道運行システムから移動局54を搭載した列車の移動情報を取得し、その移動情報を移動局54の移動環境情報(x,d,u)として移動局54へ送信することができる。
【0034】
移動局54が道路を車両で移動している場合には、xは現在の車両位置から道路脇に固定設置された基地局55の最寄りの道路上の地点Fまでの距離、dは基地局55から道路上の地点Fまでの距離、uは車両の走行速度となる。道路には走行車両監視システムが存在しており、走行中の車両認識やその速度検出を行っている。したがって、基地局55が走行車両監視システムから移動局54を搭載した車両の移動情報を取得し、その移動情報を移動局54の移動環境情報(x,d,u)として移動局54へ送信することができる。
【0035】
移動局54の送受信部52は、基地局55からの下り高周波信号をアンテナ51を通して受信すると、後述する受信ローカル信号を用いて復調し移動環境情報(x,d,u)を含む受信データRDAを情報処理部53へ出力する。情報処理部53は受信データRDAから移動環境情報(x,d,u)を抽出し、抽出した移動環境情報(x,d,u)に基づいて基地局・移動局間の相対速度vを算出する。この相対速度vを用いて、後述するように、情報処理部53は受信高周波信号の現在周波数だけでなく、来るべき周波数変化をも推定して周波数制御データFCDを生成し、適時、送受信部52へ出力する。
【0036】
送受信部52では、周波数制御データFCDに対応した制御信号を用いて周波数オフセット推定機能フィードバック系によるローカル信号の周波数を変化させる。周波数制御データFCDは来るべき周波数変化も推定しているので、移動局54の基準クロックは基地局55からの下り高周波信号の周波数が急激に変化しても、その変化に十分追従することが可能となる。
【0037】
2.第1実施例
以下、本発明の第1実施例による移動通信装置として、CDMA方式の移動通信端末を取りあげ、その送受信部52および情報処理部53について説明する。
【0038】
2.1)送受信部
図4に概略的に示すように、本実施例による移動通信端末は、
図1に示す移動通信端末と比較して、電圧データ変換回路56と加算器57とが付加された構成を有する。従って、
図1に示す回路と同機能を有するブロックには同一の参照番号を付している。以下、全体的な構成について説明する。
【0039】
基準クロック生成回路10は装置全体の動作タイミングの基準となる基準クロックを生成し、たとえば温度補償型水晶発振器(TCXO:Temperature-compensated crystal oscillator)を用いた電圧制御発振器である。基準クロック生成回路10により生成された基準クロックを基準周波数として、PLL(Phase-Locked Loop)回路11は必要なローカル信号を生成し無線受信部12および無線送信部13へ出力する。
【0040】
無線受信部12はダウンコンバート用および直交復調用のローカル信号を用いて受信高周波信号に対してダウンコンバートおよび直交復調を行い、受信デジタルベースバンド信号をフィンガ回路14へ出力する。フィンガ回路14はフィンガごとの受信デジタルベースバンド信号の復調信号をRAKE回路15へ、パイロットデータを周波数オフセット推定回路16へそれぞれ出力し、RAKE回路15は周波数オフセット推定回路16からの周波数オフセット量を用い、復調信号を重み付け合成して受信データRDAを生成し情報処理部53へ出力する。
【0041】
周波数オフセット推定回路16は、フィンガごとのパイロットデータに基づいて受信周波数のオフセットを推定し、RAKE回路15へ出力すると共に、それらを合成した周波数オフセット量をアキュムレータ回路17へ出力する。アキュムレータ回路17は合成した周波数オフセット量の累積値を制御電圧データとして加算器57を介して基準クロック生成回路10の制御端子へ出力する。
【0042】
電圧データ変換回路56は、情報処理部53から入力した周波数制御データFCDを対応する制御電圧データFCVに変換し、加算器57へ出力する。加算器57は、アキュムレータ回路17から入力した周波数オフセット推定による制御電圧データと電圧データ変換回路56から入力した周波数制御データに対応した制御電圧データFCVとを加算し、その加算結果を周波数制御電圧データとして基準クロック生成回路10の制御端子へ出力する。
【0043】
このようにして基準クロック生成回路10から出力される基準クロック周波数は周波数オフセット推定による自動制御だけでなく、情報処理部53により推定された周波数変化の予測制御も加わっている。したがって、移動局が基地局の前を高速通過する際の受信周波数の急激な変化に対しても追従することが可能となる。こうして制御された基準クロックに従ってダウンコンバート用および直交復調用のローカル信号が生成され無線受信部12へ出力される。同様に、制御された基準クロックに従ってアップコンバート用および直交変調用のローカル信号が生成され無線送信部13へ出力される。なお、送信データはチャネルコーデック18により所定方式でエンコードされ無線送信部13へ出力される。以下、
図5を参照しながら、送受信部52のより詳細な構成について説明する。
【0044】
図5において、上記移動局54の受信回路部は、ローノイズアンプ27と、帯域フィルタ28と、PLL回路29と、直交復調器30と、自動利得制御(AGC)アンプ31と、帯域フィルタ32と、A/D変換器33と、基準クロック生成回路34と、遅延プロファイル検索回路35と、フィンガ回路36と、タイミング生成回路37と、周波数オフセット推定回路38と、RAKE回路39と、アキュムレータ回路40と、周波数−電圧データ変換回路56と、加算器57とから概略構成されている。また、送信回路部は、受信回路部と共用の基準クロック生成回路34と、チャンネルコーデック41と、D/A変換器42と、帯域フィルタ43と、PLL回路44と、直交変調器45と、AGCアンプ46と、帯域フィルタ47と、電力増幅器48とから概略構成されている。
【0045】
移動局内蔵の基準クロック生成回路34は加算器57による加算結果である制御電圧データを制御端子で入力し、その制御電圧データに基づいて基準クロックを生成して受信回路部側のPLL回路29と送信回路部側のPLL回路44とに出力すると共に、タイミング生成回路37にも供給する。受信回路部側のPLL回路29は、入力される基準クロックに基づいてローカル信号を生成し直交復調器30に出力する。一方、送信回路部側のPLL回路44は、入力される基準クロックに基づいてローカル信号を生成し直交変調器45に出力する。
【0046】
アンテナ25で受信された基地局からの下り高周波信号は、デュープレクサ26にて所要所定の周波数帯域の信号が選択されて受信高周波信号として受信回路部に導かれる。受信高周波信号は、まず、ローノイズアンプ27にて増幅され、さらに、帯域フィルタ28にて帯域制限された後、直交復調器30に入力される。直交復調器30は、入力される受信高周波信号をPLL回路29から与えられるローカル信号により準同期検波して受信アナログベースバンド信号を生成する。受信アナログベースバンド信号は、AGCアンプ31にてレベル制御され、帯域フィルタ32にて帯域制限された後、A/D変換器33に入力される。A/D変換器33は、受信アナログベースバンド信号を受信デジタルベースバンド信号に変換する。受信デジタルベースバンド信号は、遅延プロファイル検索回路35とフィンガ回路36とに入力される。ここで、受信デジタルベースバンド信号は、基地局の基準クロックに同期して生成されたパイロットデータが重畳されており、移動局はそこから基地局の基準クロックを推定することが可能である。これは受信デジタルベースバンド信号に基地局の基準クロックが重畳されていることと等価である。
【0047】
また、遅延プロファイル検索回路35は、タイミング生成回路37が生成するフレームタイミング信号と、入力される受信デジタルベースバンド信号とに基づいて、フレームタイミング時間補正量を生成して、タイミング生成回路37に出力する。タイミング生成回路37は、装置内の基準クロック生成回路34が生成する基準クロックに基づいて、まず、理想フレームタイミング信号を生成し、次に、生成された理想フレームタイミング信号に、入力されるフレームタイミング時間補正量を加算して、理想フレームタイミング信号を補正する。補正されたフレームタイミング信号は、遅延プロファイル検索回路35とフィンガ回路36とに入力される。
【0048】
フィンガ回路36は、マルチパスで受信される受信デジタルベースバンド信号を個々のシングルパス成分に分離するための複数のフィンガから構成され、入力される補正済みフレームタイミング信号に基づいて、フィンガ毎に受信デジタルベースバンド信号を復調してRAKE回路39に出力する。また、フィンガ回路36は、フィンガ毎の受信デジタルベースバンド信号に含まれるパイロットデータをフィンガ毎に周波数オフセット推定回路38に出力する。周波数オフセット推定回路38は、フィンガ毎に入力されるパイロットデータ(基地局の基準クロックに同期している)に基づいて、フィンガ毎の周波数オフセット量を算出して、RAKE回路39に出力すると共に、フィンガ毎の周波数オフセット量を重み付け合成して、合成周波数オフセット量をアキュムレータ回路40に出力する。上記RAKE回路39は、入力されるフィンガ毎の周波数オフセット量に基づいて、各フィンガから出力される復調信号を重み付け合成して、受信データRDAを生成する。これにより、フェ−ジングを軽減された受信データRDAが得られる。
【0049】
アキュムレータ回路40は、入力された合成周波数オフセット量(周波数シフト量)と現在の出力値とを加算して、この加算結果を加算器57に出力する。また、周波数−電圧データ変換回路56は、情報処理部53から取り込まれる周波数制御データFCDを対応する周波数制御電圧データFCVに変換して、加算器57に出力する。また、加算器57は、入力されるアキュムレータ回路40の出力値と、周波数制御電圧データFCVとを加算して、加算結果を基準クロック生成回路34に出力する。基準クロック生成回路34は加算器57の加算結果である制御電圧データを周波数制御端子で入力し、その制御電圧データに基づいて基準クロックを生成する。つまり、移動局54の基準クロックを基地局55の基準クロックに追従させたことと等価である。こうして基準クロック生成回路34は、基地局55の基準クロックに追従した基準クロックを受信回路部のPLL回路29、送信回路部のPLL回路44およびタイミング生成回路37へそれぞれ出力する。
【0050】
2.2)情報処理部
次に、
図6を参照して、移動局54を構成する情報処理部53の構成について詳細に説明する。本実施例における情報処理部53は、
図6に示すように、入力回路53aと、出力回路53bと、記憶部53cと、演算部53dと、計時回路53eと、インタフェース回路53fと、装置各部を制御する制御部(CPU)53gとから概略構成されている。
【0051】
情報処理部53の制御部53gは、送受信部52のRAKE回路39から出力された受信データRDAを入力回路53aにて入力し、記憶部53cに一時記憶する。制御部53gは受信データRDAを一般の受信情報と移動環境情報(x,d,u)とに変換し、一般の受信情報をインタフェース回路53fを介して出力する。また、制御部53gは、インタフェース回路53fを介して一般の送信情報を入力すると、送信データTDAを生成して出力回路53bから送受信部52に出力する。
【0052】
さらに、情報処理部53では、制御部53gの制御により、演算部53dが移動環境情報(x,d,u)に基づいて、ドップラー効果による周波数シフトに関する予測演算を実行する。制御部53gは計時設定値を計時回路53eに設定して起動し、演算部53dにより得られた周波数制御データFCDを計時回路53eからの計時情報に基づいて、適時、出力回路53bから送受信部52に出力する。
【0053】
なお、上記制御部53gおよび演算部53dは、CPU等のプログラム制御プロセッサ上でプログラムを実行することにより同等の機能を実現することも可能である。
2.3)動作
【0054】
次に、
図5を参照して、移動局54の送受信部52における周波数制御に関連する動作について説明する。
【0055】
基準クロック生成回路34は基準クロックを生成し、受信回路部側のPLL回路29と送信回路部側のPLL回路44とに供給する。PLL回路29、44は、入力される基準クロックに基づいてローカル信号を生成する。受信回路部側のPLL回路29は、生成したローカル信号を直交復調器30に出力し、一方、送信回路部側のPLL回路44は、生成したローカル信号を直交変調器45に出力する。
【0056】
基地局55から受信した移動環境情報(x,d,u)を含む受信データRDAは情報処理部53へ出力される。上述したように、フィンガ回路36では、各々のフィンガが受信デジタルベースバンド信号に含まれるパイロットデータを生成し、周波数オフセット推定回路38に出力する。周波数オフセット推定回路38は各フィンガから入力されるパイロットデータを基にフィンガ毎の周波数オフセット量を算出し、フィンガ毎の周波数オフセット量を重み付け合成して合成周波数オフセット量をアキュムレータ回路40に出力する。
【0057】
アキュムレータ回路40は、入力された合成周波数オフセット量(周波数シフト量)と現在の出力値とを加算して、この加算結果を加算器57に出力する。また、周波数−電圧データ変換回路56は、情報処理部53から与えられる予測制御データである周波数制御データFCDを、所定の変換式あるいは所定の変換テーブルを用いて、対応する周波数制御電圧データFCVに変換し加算器57に出力する。また、加算器57は、入力されるアキュムレータ回路40の出力値と、周波数制御電圧データFCVとを加算して、加算結果を基準クロック生成回路34に出力する。基準クロック生成回路34は加算器57の加算結果に基づいて、基準クロックを生成し、受信回路部のPLL回路29と、送信回路部のPLL回路44と、タイミング生成回路37とに出力する。
【0058】
2.4)周波数変化の予測
次に、
図3、
図6および
図7を参照しながら、移動局54の情報処理部53における周波数制御データFCDの生成動作について説明する。まず、情報処理部53の制御部53gは、受信データRDAから抽出された移動環境情報(x,d,u)から、基地局・移動局間の相対速度v[m/s]を求める。基地局・移動局間の相対速度v[m/s]は、基地局・移動局間の移動経路方向距離x[m]、基地局・移動経路間距離d[m]、移動経路上の移動局速度u[m/s]を変数とする式(6)により求められる。
【0060】
ここで、基地局55が周波数fo[Hz]で下り高周波信号を送信していて、移動局54が速度v[m/s]で基地局55へ近づいていると仮定する。このとき、光速をc[m/s]とすると、ドップラー効果によって移動局54が観測する基地局55からの下り高周波信号の周波数fd[Hz]は、既に述べたように式(3)で与えられる。
fd=(1+v/c)fo ・・・(3)
この見かけ上の下り高周波信号の周波数fdが算出されると、ドップラー効果による周波数シフトfsは次式(7)で与えられ、周波数シフト率frは式(8)で与えられる。
fs=fd−fo=(v/c)fo ・・・(7)
fr=(fd−fo)/fo=(v/c) ・・・(8)
さらに、移動局54が基地局55の近傍を通過し、近づく動きから遠ざかる動きに転じたとき(すなわち、受信高周波信号の搬送波周波数が急激に変化したとき)に観測される周波数fd’は、既に述べたように、式(4)で求められ、来るべき周波数急変時の周波数変化量Δfdは式(5)により予測することができる。
fd’=(1−v/c)fo ・・・(4)
Δfd=fd’−fd=−(2・v・fo)/c ・・・(5)
【0061】
参考までに、
図7は、基地局・移動局間の移動経路方向距離xに対する周波数シフト率frの変化を表すグラフである。具体的には、移動経路58上の移動局速度uが時速300kmのときに、移動局54の基地局からの移動経路方向距離x[m]に対する周波数シフト率fr(ppm)の変化を、基地局・移動経路間距離d[m]をパラメータとして、示している。
【0062】
情報処理部53の演算部53dは、上記演算式を用いて現在の受信高周波周波数がどのように変化するかを推定して、演算した結果を周波数制御データFCDとして制御部53gへ返し、制御部53gは周波数制御データFCDを適切な時刻に、送受信部52に出力する。制御部53gは、演算部53dにより推定された、周波数制御データFCDに対応する周波数制御データFCDを出力すべき時刻を計時設定値として計時回路53eに設定し、当該設定時刻に到達すると、演算部53dにより得られた周波数制御データFCDを出力回路53bを通して送受信部52へ出力する。これにより、周波数が急変する期間に急変中、急変後の周波数へ追従するように周波数制御電圧データFCVを加算器57へ出力することができる。
【0063】
上記周波数シフトfsの演算は、移動局54が基地局55近傍を通過する以前に行うことができる。それゆえ、移動局54の情報処理部53は、移動局54が基地局55近傍を通過した直後に観測されるであろう受信高周波信号周波数fdや周波数シフトfsを、基地局55近傍を通過する前に、予測することができる。
【0064】
移動局54の送受信部52では、PLL回路29(
図5参照)が出力するローカル信号の周波数は、受信高周波信号の搬送波周波数に等しいことが望ましい。情報処理部53は、上記演算により、移動局54が基地局近傍を通過した直後に観測されると予測された受信高周波信号の周波数に対応した周波数制御データFCDを事前に生成する。そして移動局54が実際に基地局近傍を通過する時に、情報処理部53は周波数制御データFCDを送受信部52の周波数−電圧データ変換回路56へ出力し、周波数−電圧データ変換回路56は周波数制御データFCDを周波数制御電圧データFCVに変換して加算器57へ出力する。
【0065】
ここで周波数制御データFCD及び周波数制御電圧データFCVは、予測されたドップラー効果による周波数変化量(周波数シフト差分)Δfdに対応している。基準クロック生成回路34は加算器57の加算出力を制御電圧として入力することで基準クロックを生成するので、その発振周波数には移動局54が基地局近傍を通過する際(通過した直後)のドップラー効果を受けた受信高周波信号周波数が反映される。したがって、基準クロックの発振周波数を基準とするPLL回路29のローカル信号周波数にもドップラー効果を受けた受信高周波信号周波数が反映される。
【0066】
2.5)効果
以上述べたように、本実施例によれば、ドップラー効果による周波数変化の速度が大きい環境においても、PLL回路29が出力するローカル信号の周波数は、ドップラー効果の影響を受けた受信高周波信号の搬送波周波数に等しくなるように円滑に追随制御されることができる。これにより、周波数オフセット推定機能を構成するフィードバック系の誤差を小さくでき、信号誤り率や信号接続の切断確率を低下させることができる。それゆえ、移動局が基地局の近傍を通過し、近づく動きから遠ざかる動きに転じたとき(すなわち、受信高周波信号の搬送波周波数が急激に変化したとき)でも、信号伝送スループットや通信品質の低下を回避できる。
【0067】
さらに、本実施例による移動局54は、予め提供された移動環境情報に基づいて、基地局近傍を通過する際(通過する直後)のドップラー効果による周波数シフトに対して予測制御を行うことができる。したがって、移動局54の送受信部52は周波数オフセット推定回路38の高速化に頼らずに、ローカル信号の周波数を受信高周波信号の搬送波周波数に正確に追随させることができる。それゆえ、複雑高価な高速回路構成を必要とせず、低廉簡素な低速回路構成で周波数オフセット推定機能を実現することができ、低い消費電力での回路動作が可能となり、さらに、発熱量を抑えることもできる。
3.第2実施形態
【0068】
本発明の第2実施形態では、電波反射体がドップラー効果に及ぼす影響が考慮される。以下、本発明の第2実施形態による移動無線通信システムについて、
図8〜
図10を参照しながら説明する。
【0069】
3.1)構成
第2実施形態によるシステムが、上述の第1実施形態と異なるところは、第1実施形態の移動環境情報(x,d,u)の中に、さらに、移動経路58から電波反射体の反射面までの距離(以下、簡単に、移動経路・電波反射体間距離ともいう)wに関する情報を付加するようにした点である。すなわち、この第2実施形態では、
図9および
図10に示すように、移動経路58近傍に電波反射体59a又は59bが存在する場合を考慮して、移動環境情報(x,d,u,w)が用いられている。電波反射体(反射面)59a、59bの存在、これに伴う移動経路・電波反射体間距離wの導入以外の点では、第1実施形態で述べたと概略同一であるので、
図8〜
図10では、
図2および
図3の場合と同一の符号を付してその説明を省略又は簡略化する。また、移動局54の送受信部52の回路構成も
図5に示す構成と同様であるから、適宜、
図5の回路も参照しながら説明する。
【0070】
移動局54が鉄道上の列車で移動をしている場合には、移動経路・電波反射体間距離wは、例えば、鉄道トンネル内では線路とトンネル内壁(電波反射面)との距離に相当し、また、遮音壁の立設地域では線路と遮音壁(電波反射面)との距離に相当する。これらの線路・電波反射面間の距離情報は、鉄道管理情報として既知の情報であるので、これらの取得に関する詳細な説明は省略する。
【0071】
また、移動局54が道路を車両で移動している場合には、移動経路・電波反射体間距離wは、例えば道路トンネル内では車両の通行区分帯とトンネル内壁(電波反射面)との距離に相当し、また、遮音壁の立設地域では、車両の通行区分帯と遮音壁(電波反射面)との距離に相当する。これらの移動経路・電波反射面間の距離情報は、交通管理情報や道路管理情報として既知の情報であるので、これらの取得に関する詳細な説明は省略する。
【0072】
3.2)動作
次に、
図8〜
図10を参照して、この実施形態の移動局54で実行されるドップラー効果に起因する周波数変動に対する追従動作について説明する。
【0073】
本実施形態による移動局54では、基地局55から移動環境情報(x,d,u,w)を含む下り高周波信号を受信すると、上述したように復調器30で復調処理された後、RAKE回路39から情報処理部53へ受信データRDAが出力される。情報処理部53は受信データRDAから移動環境情報(x,d,u,w)を抽出し、基地局・移動局間の移動経路方向距離x、基地局・移動経路間距離d、移動経路上の移動局速度u、さらに移動経路58近傍に電波反射体(反射面)59a又は59bが在るときは、移動経路・電波反射体間距離wを認識する。情報処理部53は、電波反射体が移動局54の移動経路58に対して、基地局55と反対側に存在しているか(
図9の電波反射体59a)、同じ側に存在しているか(
図10の電波反射体59b)も認識する。
【0074】
情報処理部53は、受信データRDAから抽出された移動環境情報(x,d,u,w)から、基地局・移動局間の伝播経路に沿った相対速度v[m/s]を求める。基地局・移動局間の伝播経路上の相対速度v[m/s]は、基地局・移動局間の移動経路方向距離x[m]、基地局・移動経路間距離d[m]、移動経路上の移動局速度u[m/s]、及び移動経路・電波反射体間距離w[m]を変数とする下記の式(9)又は式(10)から求められる。
【0075】
情報処理部53は、
図9に示すように、電波反射体59aが移動経路58に沿って、かつ、移動経路58に対して基地局55と反対側に存在すると認識したときは、式(9)を用いて、基地局・移動局間の伝播経路上の相対速度v[m/s]を算出する。
【0077】
一方、情報処理部53は、
図10に示すように、電波反射体59bが移動経路58に沿って、かつ、移動経路58に対して基地局55と同じ側に存在すると認識したときは、式(10)を用いて、基地局・移動局間の伝播経路上の相対速度v[m/s]を算出する。
【0079】
基地局・移動局間の伝播経路上の相対速度v[m/s]が算出されると、移動局54が観測する基地局55からの下り高周波信号周波数fdが式(3)から、ドップラー効果による周波数シフトfsが式(7)から、周波数シフト率frが式(8)からそれぞれ導かれる。さらに、移動局54が基地局55の近傍を通過し、近づく動きから遠ざかる動きに転じたとき(すなわち、受信高周波信号の搬送波周波数が急激に変化したとき)に観測される(遠ざかる)周波数fd’、及び周波数変化量(来るべき周波数変化量)Δfdについては、式(4)および(5)から予測できる。
【0080】
このように、本実施形態によれば、移動局54の情報処理部53は電波反射体を考慮した周波数制御データFCDを生成して適切な時刻に送受信部52に出力することができる。
【0081】
なお、情報処理部53は、CPU等のプログラム制御プロセッサ上でプログラムを実行することにより同等の機能を実現することも可能である。
【0082】
4.第3実施形態
4.1)構成
上述した第1実施形態および第2実施形態では、
図5に示すように、基準クロック生成回路34の周波数制御端子とアキュムレータ回路17の出力との間に加算器57を設け、予測された周波数変化量に対応する周波数制御電圧データFCVを加算する構成を採用している。
【0083】
これに対して、本発明の第3実施形態では、予測された周波数変化量に対応する周波数制御データFCDをPLL回路を直接制御する信号に変換し、受信側ローカル信号を生成するPLL回路へ出力する。
【0084】
具体的には、
図5における電圧データ変換回路56、加算器57および受信回路側のPLL回路29による周波数制御機能、すなわち移動局54が基地局近傍を通過する際の周波数制御が
図11におけるPLL制御回路61およびPLL回路62による実現されている。その他の構成は
図5の場合と同様であるから、同一の符号を付してその説明を省略又は簡略化する。
【0085】
本実施形態による移動局の送受信部60では、
図11に示すように、基準クロック生成回路34にて生成される基準クロックは、受信回路側のPLL回路62と送信回路側のPLL回路44とに出力される。PLL回路62は基準クロックに基づいてローカル信号を生成し直交復調器30に出力する。また、情報処理部からの周波数制御データFCDはPLL制御回路61によりPLL制御データPCDに変換されPLL回路62へ出力される。
【0086】
4.2)動作
次に、
図11を参照して本実施形態の送受信部60の動作について説明する。情報処理部から入力した周波数制御データFCDは、PLL制御回路61にてPLL制御データPCDに変換され、受信回路側のPLL回路62へ入力される。PLL回路62はPLL制御データPCDに基づいて直交復調器30へ出力すべきローカル信号の周波数を決定する。すなわち、PLL回路62を構成する分周器の分周数がPLL制御データPCDの値に依存するように構成することで出力されるローカル信号の周波数を決定することができる。したがって、送受信部60は第1実施形態で述べた送受信部52(
図5)と同様の周波数捕捉・周波数追従機能を実現できる。
【0087】
また、PLL回路62の周波数を制御する手段として、PLL制御データPCDを図示せぬD/A変換器にてアナログ電圧に変換し、このアナログ電圧値を図示せぬ加算器を用いてPLL回路中の電圧制御発振器(VCO)の制御電圧に加算するようにしても、上記と同様の機能を実現できる。
【0088】
5.第4実施形態
上記第1〜第3実施形態では、基地局から移動環境情報が提供されているが、本発明はこれに限定されるものではない。次に述べるように、移動局を搭載する車両から移動環境情報を取得することも可能である。
【0089】
図12に示すように、本実施形態による移動無線通信システムでは、移動局63を搭載する列車や車両等の移動体64に移動環境情報提供部65が設けられている。すなわち、この実施形態では、受信高周波信号としての基地局66からの下り高周波信号には移動環境情報が含まれておらず、代わりに、移動局63は、移動体64が備える移動環境情報提供部65から当該移動局63の移動環境情報(x,d,u)又は(x,d,u,w)の提供を受ける構成となっている。
【0090】
移動局63は、
図12に示すように、基地局66との間で無線通信を行うためのアンテナ67と、送受信部68と、情報処理部69とを備え、移動体64に搭載されて線路あるいは道路等の移動経路上を移動する。移動環境情報提供部65は、移動体64の移動環境情報(x,d,u)又は(x,d,u,w)を有し、あるいは移動体64の走行管理システムなどから移動環境情報を取得し、移動局63の情報処理部69に出力する。移動局63の情報処理部69は、入力された移動環境情報(x,d,u)又は(x,d,u,w)に基づいて、既に述べたように周波数制御データFCDを生成し送受信部68へ出力する。この構成では、移動体64(移動環境情報提供部65)の位置情報xおよび速度情報uが移動局63の位置情報xおよび速度情報uであると考えることができる。
【0091】
次に、
図13を参照して、移動局63を構成する情報処理部69について詳細に説明する。本実施形態による移動局63の情報処理部69は、入力回路69aと、出力回路69bと、記憶部69cと、演算部69dと、計時回路69eと、インタフェース回路69fと、装置各部を制御する制御部(CPU)69gとから概略構成されている。
【0092】
情報処理部69の制御部69gは、送受信部68から受信データRDAを入力回路69aで入力し、記憶部69cに一時記憶する。さらに制御部69gは、受信データRDAを一般の受信情報に変換した後、得られた受信情報をインタフェース回路69fを介して出力する。また、制御部69gは、インタフェース回路69fを介して一般の送信情報を入力すると、送信データTDAを生成して出力回路69bから送受信部68へ出力する。
【0093】
さらに、移動環境情報提供部65からインタフェース回路69fを介して移動環境情報(x,d,u)又は(x,d,u,w)を入力すると、制御部69gは、既に述べたように、移動環境情報に基づいてドップラー効果による周波数シフトに関する予測演算を実行し、周波数制御データ(制御情報)FCDを生成する。その際、制御部69gは、計時設定値を計時回路69eに設定することで、周波数制御データFCDを計時回路69eからの計時情報に従って、適時、出力回路69bから送受信部68へ出力する。
【0094】
移動局63が鉄道上の列車で移動する場合の動作について説明する。鉄道の運行管理システムは、一般に個々の列車の位置情報や速度情報を有しているが、ここでは線路沿いに配置された基地局66の位置情報も有する。本実施形態では、鉄道の運行管理システムが必要に応じてトンネルや遮音壁等の電波反射体の位置情報も有することができる。上記運行管理システムは、速度情報や各種対象物の位置情報等に基づいて列車(
図12の移動体64)の移動環境情報(x,d,u)又は(x,d,u,w)を生成し、対応する列車(移動体64)に伝達する。列車(移動体64)は運行管理システムから移動環境情報を受けると、移動環境情報提供部65に一時記憶する。移動環境情報提供部65は、一時記憶された移動環境情報を列車に搭載された移動局63の情報処理部69へ送信する。移動局63の情報処理部69は、提供された移動環境情報に基づいて周波数制御データFCDを生成し移動局63の送受信部6
8へ出力する。このようにして第1実施形態(
図5、
図6)で述べたと略同様の周波数変化予測およびそれによる周波数制御機能を実現することができる。
【0095】
移動局63が道路上を車両で移動する場合の動作について説明する。一般に、カーナビゲーションシステムは個々の車両の位置情報や速度情報を有しているが、ここでは道路沿いに配置された基地局66の位置情報も有する。本実施形態では、カーナビゲーションシステムが必要に応じてトンネルや遮音壁等の電波反射体の位置情報を有することもできる。上記カーナビゲーションシステムは、速度情報や各種対象物の位置情報等に基づいて、車両(
図12の移動体64)の移動環境情報(x,d,u)又は(x,d,u,w)を生成し、対応する車両(移動体64)に送信する。車両(移動体64)は、カーナビゲーションシステムから受信した移動環境情報は移動環境情報提供部65に一時記憶される。移動環境情報提供部65は、一時記憶された移動環境情報を(車両搭載)移動局63の情報処理部69へ送信する。移動局63の情報処理部69は、提供された移動環境情報に基づいて、周波数制御データFCDを生成し移動局63の送受信部6
8へ出力する。このようにして第1実施形態(
図5、
図6)で述べたと略同様の周波数変化予測およびそれによる周波数制御機能を実現することができる。
【0096】
なお、上記制御部69gおよび演算部69dは、CPU等のプログラム制御プロセッサ上でプログラムを実行することにより同等の機能を実現することも可能である。
【0097】
以上、この発明の実施形態を図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があってもこの発明に含まれる。例えば、上記実施形態では、周波数−電圧データ変換回路56が、周波数制御データFCDを変換式を用いて周波数制御電圧データFCVに変換する場合について述べたが、これに代えて、変換テーブルを用いて、周波数制御データFCDを周波数制御電圧データFCVに変換するにしても良い。また、移動経路は直線路に限らず、曲線路又は勾配のある坂道にも拡張適用できる。また、移動環境情報には、位置情報に代えて、あるいは付加して、方位情報を含めるようにしても良い。