(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、炭素源、窒素源、およびホップを含む原料用いるビールテイスト飲料の製造方法であって、原料の一部にスイートコーンを用いる前記方法に関する。
本発明に係るビールテイスト飲料の製造方法は、原料の一部にスイートコーンを用いる方法であればよく、仕込み工程、発酵工程、貯酒工程、ろ過工程、および容器詰工程などの当業者に周知のビールテイスト飲料の製造工程を含む。例えば、原料を仕込釜または仕込槽に投入し、必要に応じてアミラーゼなどの酵素を添加し、糊化、糖化を行わせ、ろ過し、ホップなどを加えて煮沸し、清澄タンクにて凝固タンパクなどの固形分を取り除く。発酵飲料を製造する際には、さらに酵母を添加して発酵を行わせ、ろ過機などで酵母を取り除き、必要に応じて水、醸造用アルコールや添加剤等を加え、ビールテイスト飲料とする。
【0011】
本明細書において、スイートコーンとは甘味種のコーンである。スイートコーンとしては、su遺伝子を有するジュビリー種などの普通甘味種、普通甘味種にse遺伝子が追加されたse種、普通甘味種にsh2遺伝子が追加されたシナジスティック種、su遺伝子、se遺伝子、およびsh2遺伝子を有するスイートブリッド種、sh2遺伝子を有するスーパースイート種、スーパースイート種にsu遺伝子が組み合わされた改良型スーパースイート種、改良型スーパースイート種にさらにsu遺伝子が追加されたウルトラスーパースイート種、改良型スーパースイート種にse遺伝子を組み合わせた、サニーショコラなどのseとshの合成種、などがあげられる。
【0012】
スイートコーンは、他のとうもろこし品種と異なり、主な糖類としてショ糖、フルクトース、グルコース、そして多糖類の主成分としてグリコーゲンを含む。グリコーゲンは、動物界や微生物界では貯蔵多糖として存在するが、植物界では希な存在である(建石 耕一ら、スイートコーン種実中の糖類に関する研究(第1報)スイートコーン種実中の糖類の同定、信州大学農学部紀要第22巻第1号(1985))。一般的に、植物界ではデンプンが貯蔵多糖であり、例えば、とうもとこし由来の原料として一般的に利用されているデントコーンは、デンプンを貯蔵多糖として有している。
【0013】
このように、スイートコーンは、他のとうもろこし種にはない成分上の特徴を有しているため、スイートコーンを原料に用いる場合、適量であれば糊化や糖化のためのマッシング工程を行わなくても、ビールテイスト飲料を製造することができる。本発明においては、スイートコーンを炭素源および/または窒素源の全部または一部に用いることができるが、特に、炭素源として好適に用いることができる。
【0014】
一方、従来のデントコーンに由来するコーンスターチを原料に用いる場合、デンプンを糊化させ、エンド型デンプン分解酵素を活用して液化する必要がある。本明細書において、糊化(α化ともいう)とは、デンプン分子を水和させることを言う。一般に、デンプンと水の混合液を、70〜100℃程度で処理することによってデンプンを糊化させることができることがよく知られている。デンプンを糊化させることによって、デンプン分解酵素や糖化酵素による加水分解などの処理が可能となる。液化とは、エンド型デンプン分解酵素によって、水和されたデンプンの一部または全部を加水分解することをいう。
【0015】
ビールテイスト飲料の製造においては、まずマッシング工程によって、デンプンの糊化、液化、および糖化、並びにタンパク分解などが行われる。コーンスターチやコーングリッツなどのデントコーン由来の原料を用いる場合には、仕込槽とは別の仕込釜に、粉砕した麦芽とコーンスターチ、またはコーングリッツを投入し、70〜80℃程度で糊化および液化させる必要がある。このとき、麦芽を用いない、または投入量が少ない場合には、α−アミラーゼなどのエンド型デンプン分解酵素を必要量添加して液化させる必要がある。一般的には、糊化および液化した後に一定時間煮沸したマッシュを、別途仕込槽にて用意した粉砕麦芽と水の混合物(マッシュ)に合併して糖化を行う。
【0016】
さらに、デントコーンは、原料として用いる前に前処理を行うことがある。例えば、特許文献1では、とうもろこしタンパク質をアルカリ処理またはタンパク質分解酵素によって加水分解し、中和、分離等の処理を予め行っている。また、特許文献2では、とうもろこし原料からタンパク質を分画し、酵素分解するといった処理を予め行っている。
【0017】
したがって、原料の一部にスイートコーンを用いることは、ビールテイスト飲料に優れた香味を与えるだけでなく、その製造工程の簡素化、および加熱に必要なエネルギーや添加する酵素のコストの削減等、製造コストを低減させる観点からも好ましい。
【0018】
スイートコーンは、収穫直後の生穀物をそのまま使用してもよいし、粉砕、乾燥、粉末化、ペレット化などの加工を施したものを使用してもよい。好ましくは凍結乾燥したコーン粒またはその粉砕物、収穫直後のコーン粒を粉砕し乾燥させたコーンパウダー、およびペースト状のコーンであり、より好ましくは凍結乾燥したコーン粒またはその粉砕物、および収穫直後のコーン粒を粉砕し乾燥させたコーンパウダーであり、特に好ましくは収穫直後のコーン粒を粉砕し乾燥させたコーンパウダーである。
【0019】
本発明におけるスイートコーンの使用量は、水、醸造用アルコール、およびホップを除く原料に占めるスイートコーンの割合として表すことができる。例えば、水、醸造用アルコール、およびホップを除く原料に占めるスイートコーンの割合は、0.001〜70%(w/w)、例えば、0.001〜50%(w/w)の範囲で用いることができる。使用量の下限については、0.01%(w/w)以上、好ましくは0.1%(w/w)以上、より好ましくは1%(w/w)以上、特に好ましくは1.5%(w/w)以上であり、例えば6%(w/w)でもよい。使用量の上限については、53%(w/w)以下、好ましくは30%(w/w)以下、より好ましくは20%(w/w)以下、特に好ましくは10%(w/w)以下である。スイートコーンの使用量が、上記0.001%(w/w)より少ないとコーン由来の好ましい香味であるフルーティー感が得られず、スイートコーンの使用量が多すぎると香味全体のバランスが崩れ、好ましい香味を有するビールテイスト飲料を製造することができない。
【0020】
別の観点から、スイートコーンの使用量は、製品との関係で示すことができる。製品に対するスイートコーンの使用量は、例えば、0.0001〜10%(w/w)の範囲で用いることができる。使用量の下限については、好ましくは0.0005%(w/w)以上、より好ましくは0.001%(w/w)以上である。使用量の上限については、好ましくは8%(w/w)以下、より好ましくは6%(w/w)以下、特に好ましくは5%(w/w)以下である。スイートコーンの使用量が、上記0.0001%(w/w)より少ないとコーン由来の好ましい香味であるフルーティー感が得られず、上記10%(w/w)より多いと香味全体のバランスが崩れ、好ましい香味を有するビールテイスト飲料を製造することができない。
【0021】
本明細書において、ビールテイスト飲料とは、ビール様の風味をもつ飲料をいう。つまり、本発明のビールテイスト飲料は、特に断わりがない限り、酵母による発酵工程を経る経ないに関わらず、ビール風味の飲料を全て包含する。ビールテイスト飲料のうち、発酵工程を経て製造されたビールテイスト飲料を、特にビールテイスト発酵飲料ということがある。本発明のビールテイスト飲料の種類としては、例えば、日本の酒税法上の名称における発泡酒、ビール、リキュール類、その他雑酒が含まれ、また、低アルコールの発酵飲料(例えばアルコール分1%未満の発酵飲料)、スピリッツ類、ノンアルコールのビールテイスト飲料、ビールテイストの清涼飲料なども含まれる。
【0022】
本発明のビールテイスト飲料のアルコール分は特に限定されないが、好ましくは0〜40%(v/v)、より好ましくは1〜15%(v/v)である。特にビールや、発泡酒といったビールテイスト飲料として消費者に好んで飲用されるアルコールと同程度の濃度、すなわち、1〜7%(v/v)の範囲であることが望ましいが、特に限定されるものではない。
【0023】
本発明に係るビールテイスト飲料の製造方法は、いずれの麦芽比率を有するビールテイスト飲料の製造にも好適に適用することができる。例えば、麦芽比率66%(w/w)以上、100%(w/w)未満のビールテイスト飲料の製造に適用することができる。そして、例えば、麦芽比率が66%(w/w)以下のビールテイスト飲料の製造にも適用することができる。さらに、本発明に係る製造方法は、麦芽比率の低いビールテイスト飲料の製造にも好適に適用することができる。例えば、麦芽比率が、好ましくは25%(w/w)以下、より好ましくは10%(w/w)以下、特に好ましくは5%(w/w)以下のビールテイスト飲料の製造に応用することができる。麦芽比率を低下させた場合、その低下分を別の原料で補ってもよい。例えば、麦芽および麦類に代えて、非麦穀物を使用することができる。本発明では、非麦穀物原料の全部または一部にスイートコーンを用いることができる。本明細書において、麦芽比率とは、水、醸造用アルコール、およびホップを除く原料に占める麦芽の割合(重量比)を意味する。
【0024】
本明細書において、原料とは、ビールテイスト飲料を製造するために使用される原料、すなわち、水、穀物、糖類、ホップ、および各種添加物をいう。穀物としては、例えば、麦(大麦、小麦、ハト麦、ライ麦、エン麦、それらの麦芽など)、米(白米、玄米など)、とうもろこし、こうりゃん、ばれいしょ、豆(大豆、えんどう豆など)、そば、ソルガム、粟、ひえ、およびそれらから得られたデンプンなどがあげられる。
【0025】
糖類としては、穀物由来のデンプンを酸または酵素などで分解した市販の糖化液や、市販の水飴などがあげられる。このとき、糖類の形態は、溶液などの液状、または粉末などの固形物状など、どのような形態であってもよい。また、デンプンの原料穀物の種類、デンプンの精製方法、および酵素や酸による加水分解などの処理条件についても特に制限はない。例えば、酵素や酸による加水分解の条件を工夫することにより、マルトースの比率を高めた糖類を用いてもよい。その他、スクロース、フルクトース、グルコース、マルチュロース、トレハルロース、マルトトリオースおよびこれらの溶液(糖液)などを用いることができる。
【0026】
本明細書において、麦芽とは、大麦、小麦、ライ麦、カラス麦、オート麦、ハト麦、エン麦などの麦類の種子を発芽させて乾燥させ、除根したものをいい、産地や品種は、いずれのものであってもよい。本発明においては、好ましくは大麦麦芽を用いる。大麦麦芽は、日本のビールテイスト飲料の原料として最も一般的に用いられる麦芽の1つである。大麦には、二条大麦、六条大麦などの種類があるが、いずれを用いてもよい。さらに、通常麦芽のほか、色麦芽なども用いることができる。なお、色麦芽を用いる際には、種類の異なる色麦芽を適宜組み合わせて用いてもよいし、一種類の色麦芽を用いてもよい。
【0027】
各種添加物としては、タンパク質、タンパク質分解物、苦味料、着色料、酵母エキス、泡形成剤、甘味料、香料、発酵促進剤、醸造アルコールやスピリッツなどのアルコールなどがあげられる。日本の酒税法および酒税法施行令では、ビールに使用することのできる原料は、麦芽、ホップ、水、および麦その他の政令で定める物品と規定されており、ビールの原料として政令で定める物品は、麦、米、とうもろこし、こうりゃん、ばれいしょ、デンプン、糖類、または財務省令で定める苦味料若しくは着色料と規定されている。
【0028】
本発明において用いるホップは、ビール等の製造に使用される通常のペレットホップ、ベールホップ、ホップエキスを、所望する香味に応じて適宜選択して使用することができる。また、イソ化ホップ、ヘキサホップ、テトラホップなどのホップ加工品を用いてもよい。
【0029】
原料を発酵させる場合には、酵母を用いる。本発明において用いる酵母は、製造すべき発酵飲料の種類、目的とする香味や発酵条件などを考慮して選択することができる。例えばWeihenstephan−34株など、市販のビール酵母を用いることができる。酵母は、酵母懸濁液のまま麦汁に添加しても良いし、遠心分離あるいは沈降により酵母を濃縮したスラリーを麦汁に添加しても良い。また、遠心分離の後、完全に上澄みを取り除いたものを添加しても良い。酵母の麦汁への添加量は適宜設定できるが、例えば、5×10
6cells/ml〜1×10
8cells/ml程度である。
【0030】
本明細書において、仕込み工程とは、麦汁を調製する工程をいい、例えば、糊化工程、糖化工程、およびタンパク分解工程を含むマッシング工程、麦汁ろ過工程、麦汁煮沸工程、および麦汁清澄化工程を含む。なお、本発明では、麦芽や麦類を用いない場合であっても、仕込工程を経て得られた溶液を、便宜上、麦汁と称する。糖化工程とは、粉砕機で粉砕された麦芽などの炭素源および/または窒素源を仕込み水に懸濁・溶解し、デンプンなどの糖類を分解することによって、酵母が資化できる糖類を生成させる工程をいう。タンパク質分解工程とは、タンパク質やペプチドなどを分解する工程をいう。マッシング工程においては、必要に応じて煮沸したり、糖化酵素やタンパク質分解酵素などの酵素類を使用してもよい。
【0031】
デントコーン由来の原料を用いるビール醸造においては、コーンスターチもしくはコーングリッツなどのデントコーン由来の原料を、粉砕した麦芽の一部と供に仕込釜に投入し、70〜80℃程度にて糊化および液化した後、一定時間煮沸する。一方で、仕込槽にて粉砕した麦芽と50℃程度の温水を懸濁したマッシュを準備しておき、両者を混合して60〜70℃程度に調整して糖化を行う。
【0032】
デンプンは、その植物種によって、物理的・化学的な性質が微妙に異なることが一般的に知られている。麦芽のデンプンは、デントコーンや米のデンプンに比べ、糊化温度が低いことが知られている。従って、麦芽100%ビールの一般的なビール醸造においては、必ずしも仕込釜を用いてマッシュを糊化・液化・煮沸させる必要のないことが知られている(インフュージョン法)。インフュージョン法とはマッシング工程において、酵素が働く一定の温度範囲を保ち、かつ温度を変化させる場合には徐々に変化させることによって、マッシュを煮沸させない方法である。例えば、麦芽100%ビールの一般的な醸造においては、粉砕した麦芽を50℃程度の温水に懸濁し、その後60〜70℃程度に調整して糖化を行う。エネルギーコスト面から、インフュージョン法は優れているが、ビール商品の香味設計によって、様々なマッシングパターンが選択されているのが現状である。
【0033】
麦汁ろ過工程とは、マッシング工程後のマッシュを70〜90℃程度でろ過する工程をいう。麦汁煮沸工程とは、麦汁を90〜100℃程度で30〜240分間煮沸する工程をいう。一般的には、この工程にてホップが添加されることが多い。ホップの添加回数や添加タイミングには特に制限はない。麦汁清澄化工程とは、煮沸後の麦汁を80〜100℃程度で10〜60分間放置することにより、煮沸工程で発生したオリを除去する工程をいう。なお、麦や麦芽を用いないビールテイスト飲料などマッシング工程を経ない製造方法においては、麦汁の原料を添加混合する工程は麦汁煮沸工程の一部分と見なす。
【0034】
本発明においては、スイートコーンを製造工程のいずれの段階で添加してもよいが、発酵飲料の製造においては、発酵工程の前に添加することが好ましく、例えば、仕込み工程で添加することができる。より具体的には、マッシング工程、麦汁煮沸工程、または麦汁清澄化工程で添加することができる。スイートコーンは水溶性の高い炭素源を多く含んでいるため、麦汁煮沸工程、または麦汁清澄化工程で添加することが可能である点で優れている。
【0035】
本明細書において、発酵工程とは、麦汁に酵母を添加し、発酵を行う工程であればよく、発酵温度、および発酵期間などの諸条件は、自由に設定することができる。例えばビールテイスト発酵飲料を製造する場合、通常のビールや発泡酒の製造のための発酵条件である、8〜25℃、1週間から10日間、の条件で発酵させてもよい。発酵工程の途中で発酵液の温度(昇温、または降温)、または圧力を変化させてもよい。
【0036】
本発明においては、必要に応じて、着色料、泡形成剤、香料、発酵促進剤などを用いてもよい。着色料は、飲料にビール様の色を与えるために使用するものであり、カラメル色素などを用いることができる。泡形成剤は、飲料にビール様の泡を形成させるため、あるいは飲料の泡を保持させるために使用するものであり、大豆サポニン、キラヤサポニン等の植物抽出サポニン系物質、コーン、大豆などの植物タンパク、およびペプチド含有物、ウシ血清アルブミン等のタンパク質系物質、酵母エキスなどを適宜使用することができる。香料は、ビール様の風味付けのために用いるものであり、ビール風味を有する香料を適量使用することができる。発酵促進剤は、酵母による発酵を促進させるために使用するものであり、例えば、酵母エキス、米や麦などの糠成分、ビタミン、ミネラル剤などを単独または組み合わせて使用することができる。
【0037】
さらに、本発明においては、前処理、糊化や液化といった工程が必要となる原料を併用することができる。当該原料としては、コーングリッツやコーンスターチなどのデントコーン由来原料、あるいは麦芽、各種デンプンなどが挙げられる。その場合、糊化および液化のためのマッシング工程を経ることになるが、当該原料とともに、スイートコーンについても糊化および液化のためのマッシング工程を経てもよい。あるいは、スイートコーンを糊化および液化のためのマッシング工程の後で添加しても良い。
【0038】
糊化および液化のためのマッシングを行う場合には、通常、仕込釜において、段階的な昇温を行う。昇温時の温度や時間については、十分な糊化および液化が進む条件であればいずれの条件でも良いが、80℃以上に昇温することが好ましい。加圧の可能な仕込釜を用いて、100℃以上の温度、例えば、140℃程度まで昇温することも可能である。なお、コストや品質等を考慮した場合、最高温度が90℃以上〜100℃以下であることが望ましい。
【0039】
なお、スイートコーンの使用比率が比較的少ない場合(例えば、20%(w/w)以下、または10%(w/w)以下)には、スイートコーンに糊化および液化のためのマッシング工程を施す必要性はない。
【0040】
一方、スイートコーンの使用比率が比較的多い場合(例えば、20%(w/w)以上、30%(w/w)以上、50%(w/w)以上、53%(w/w)以上、または70%(w/w)以上)であって、スイートコーン由来のデンプンの影響を気にする必要がある製品設計の場合には、スイートコーンに糊化および液化のためのマッシング工程を施してもよい。
【0041】
なお、スイートコーンは、デントコーンに比べて糊化および液化されやすいグリコーゲンの含有量が高いことから、スイートコーンの使用比率が30%(w/w)以下、好ましくは20%(w/w)以下の場合には、マッシング工程においてインフュージョン法を好適に用いることができる。また、当該工程において、必要により、煮沸されたマッシュを添加・混合しても良い。
【0042】
本発明は、さらに、炭素源、窒素源、およびホップを含む原料を用いるビールテイスト飲料の製造方法であって、原料の一部にスイートコーンを用いる前記方法によって製造される、ビールテイスト飲料に関する。
【0043】
<官能試験>
ビールテイスト飲料の香味は、官能試験によって評価することができる。例えば、専門パネリストによる評点法があげられる。
【0044】
<発明の効果>
本発明によれば、フルーティー感を有し、かつざらつき感のない、優れた香味を有するビールテイスト飲料を製造することができる。さらに、スイートコーンパウダー粉砕品は、前処理、糊化工程、液化工程を経なくても原料として用いることができるので、製造工程を簡素化すること、および製造コストを低減させることができる。
【実施例】
【0045】
本発明をより具体的に説明するが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
以下の実施例、および製造例において製造したビールテイスト飲料の香味を、評点法による官能試験によって評価した。専門パネリスト6名が、評価項目(1)コーンの好ましい香味(フルーティー感)、および評価項目(2)後味(ざらつき感)をそれぞれ4点満点で評価した。
【0046】
評価項目(1)の評点は、次の通りとした:
「とても強く感じる」 4点;
「強く感じる」 3点;
「感じる」 2点;
「弱く感じる、または感じない」 1点。
【0047】
評価項目(2)の評点は、次の通りとした:
「感じない」 4点;
「弱く感じる」 3点;
「感じる」 2点;
「強く感じる」 1点。
【0048】
評価項目(1)および(2)それぞれの評価点の平均点を算出し、平均点に応じて3段階の評価を設けた。
平均点1.0以上〜2.0未満 ×;
平均点2.0以上〜3.0未満 △;
平均点3.0以上〜4.0以下 ○。
【0049】
[実施例1]
(発明品1)
水、醸造用アルコール、およびホップを除く原料に占めるスイートコーンパウダーの使用比率が約1.6%(w/w)であるビールテイスト発酵飲料を製造した。
【0050】
90℃の温水60Lに、水飴(昭和産業株式会社製:MR750、エキス分75%)20kg、食物繊維(松谷化学工業株式会社製)1kg、酵母エキス(三栄源エフエフアイ株式会社製)200g、コーンタンパク分解物(三栄源エフエフアイ株式会社製)200g、カラメル色素(池田糖化工業株式会社製)200g、スイートコーンパウダー粉砕品(クノールトレーディング株式会社製)250gを加えて混合し、加水し100Lとした。混合液の温度を100℃に昇温させて、ホップ約100gを加え、90分間煮沸後、95℃で30分間保持した。混合液を15℃に冷却し、ビール酵母500gを加えて7日間発酵させた。得られた液に対して約2倍体積量の炭酸水、および適量の酸味料、甘味料、醸造用アルコールを加え、原麦汁エキスを約7%(w/w)に調整し、製品に対するスイートコーンパウダー粉砕品の使用量が約0.1%(w/w)のビールテイスト発酵飲料を製造した。
【0051】
(対照品1)
水、醸造用アルコール、およびホップを除く原料中のコーングリッツ(デントコーン粉砕品)の使用比率が約1.6%(w/w)であるビールテイスト発酵飲料を製造した。上記発明品1の方法において、スイートコーンパウダー粉砕品250gの代わりに、デントコーン粉砕品250gを使用する以外は、発明品1と同様の方法で製造した。
【0052】
(対照品2)
スイートコーンパウダーやデントコーンを原料に用いない方法でビールテイスト発酵飲料を製造した。上記発明品1の方法において、スイートコーンパウダー粉砕品250gの代わりに、水飴(エキス分75%)333gを使用する以外は、発明品1と同様の方法で製造した。
【0053】
得られた発明品1、および対照品1および2の香味を、上記の官能試験によって評価した。試験結果を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
表1の結果から、スイートコーンパウダー粉砕品を用いて製造した、発明品1に係るビールテイスト発酵飲料は、コーンの好ましい香味としてフルーティー感を有し、かつ、ざらつき感がなく、後味もよいことが判明した。
【0056】
これに対し、デントコーン粉砕物(コーングリッツ)を用いて製造した、対照品1に係るビールテイスト発酵飲料は、フルーティー感を有しているものの、ざらつき感があり、後味がよくないことが判明した。このざらつき感や後味の悪さは、デントコーン粉砕物に由来する成分が原因であると思われる。当該成分は、未糖化デンプンであると考えられる。
【0057】
そして、スイートコーンパウダー粉砕品やデントコーン粉砕品の代わりに水飴を用いて製造した、対照品2に係るビールテイスト発酵飲料は、ざらつき感は無かったものの、コーンの好ましい香味としてフルーティー感が乏しかった。
【0058】
以上のことから、スイートコーンパウダー粉砕品を用いて製造した場合にのみ、フルーティー感が高く、かつざらつき感の無い、香味の優れたビールテイスト発酵飲料が得られることが明らかとなった。そして、デントコーンを原料に用いて香味の優れたビールテイスト飲料を製造するためには、原料として用いる前に、糖化などの処理が必要であることが示唆された。
【0059】
[実施例2]
(発明品2)
水、醸造用アルコール、およびホップを除く原料に占めるスイートコーンパウダーの使用比率が約20%(w/w)であるビールテイスト発酵飲料を製造した。
【0060】
粉砕した麦芽1kgとスイートコーンパウダー粉砕品4kgを50℃の温水20Lに混合し、75℃で10分間保持した後、100℃に昇温して10分間保持した。一方、別の容器において、粉砕した麦芽15kgを50℃の温水75Lと混合し、5分間保持した。これらの溶液を一つに合わせ、65℃で60分間保持した後、当業者に周知の方法でろ過し、麦汁を得た。麦汁にホップ約100gを投入し、100℃で90分間煮沸後、15℃に冷却した。ビール醸造用酵母300gを添加し、15℃で1週間程度発酵させた後、原麦汁エキスを12.0%(w/w)に調整し、製品に対するスイートコーンパウダー粉砕品の使用量が約2.4%(w/w)のビールテイスト発酵飲料を得た。
【0061】
(発明品3)
水、醸造用アルコール、およびホップを除く原料に占めるスイートコーンパウダーの使用比率が約20%(w/w)であるビールテイスト発酵飲料を、簡便、かつ加熱に必要なエネルギー使用量を低減できる製造方法(インフュージョン法)にて製造した。
【0062】
当業者に周知の方法にて粉砕した麦芽16kgおよびスイートコーンパウダー粉砕品4kgを、50℃の温水100Lに添加し、よく混合し、65℃に昇温して60分間糖化処理を行った。その後、当業者に周知の方法でろ過し、麦汁を得た。これ以降は発明品2に記載の方法を適用して、製品に対するスイートコーンパウダー粉砕品の使用量が約2.4%(w/w)のビールテイスト発酵飲料を製造した。
【0063】
(対照品3)
スイートコーンパウダー粉砕品の代わりに、コーンスターチを使用した以外は、発明品2と同様の方法でビールテイスト発酵飲料を製造した。
【0064】
発明品2および3、および対照品3の香味を、上記に記載した官能試験によって評価した。試験結果を表2に示す。
【0065】
【表2】
【0066】
表2の結果から、スイートコーンパウダー粉砕品を用いて製造した発明品2のビールテイスト発酵飲料は、コーンの好ましい香味としてフルーティー感を有し、かつ、ざらつき感がなく、後味もよいことが判明した。
【0067】
そして、糊化、液化、煮沸工程を行わない製造方法で製造した発明品3のビールテイスト発酵飲料も、同様に、コーンの好ましい香味としてフルーティー感を有し、かつ、ざらつき感がなく、後味もよいことが判明した。
【0068】
一方、スイートコーンパウダー粉砕品の代わりにコーンスターチを用いて製造した、対照品3に係るビールテイスト発酵飲料は、発明品2のビールテイスト発酵飲料に比べてフルーティー感が劣っていた。
【0069】
以上のことから、原料の一部にスイートコーンパウダー粉砕品を用いると、コーンスターチを用いた場合に比べて、製造されるビールテイスト発酵飲料の香味、および製造工程の簡素化という二つの観点において有利であることが明らかになった。なお、コーンスターチを原料に用いる場合、ビールテイスト飲料のざらつき感を防止するための、マッシング工程は必須であって省略することが困難であることも明らかになった。
【0070】
[製造例1]
水、醸造用アルコール、およびホップを除く原料中のスイートコーンパウダーの使用比率が約6%(w/w)であるビールテイスト発酵飲料(麦芽比率24%の発泡酒)を製造した。粉砕した麦芽1kg、およびスイートコーンパウダー粉砕品4kgを50℃の温水20Lに混合し、75℃で10分間保持した後、温水の温度を100℃に昇温し、10分間保持した。一方で、別の容器において、粉砕した麦芽15kgを50℃の温水75Lと混合し、5分間保持した。これらの溶液を一つに合わせ、65℃で60分間保持した後、当業者に周知の方法でろ過し、ろ液として麦汁を得た。当該麦汁に、麦芽比率が24%となるように水飴(昭和産業株式会社製:MR750、エキス分75%)を加えて原麦汁エキスを15%に調整した後、ホップ約100gを投入し、100℃で90分間煮沸後、15℃に冷却した。ビール醸造用酵母300gを添加し、15℃で1週間程度発酵させた後、原麦汁エキスを12.0%(w/w)に調整して、製品に対するスイートコーンパウダー粉砕品の使用量が約0.7%(w/w)のビールテイスト発酵飲料を得た。
【0071】
得られたビールテイスト発酵飲料は、ざらつき感のない後味でスッキリとした喉越しの爽快感を有し、かつフルーティーな香味を有していた。
[製造例2]
水、醸造用アルコール、およびホップを除く原料中のスイートコーンパウダーの使用比率が約0.01%(w/w)であるビールテイスト発酵飲料を製造した。
【0072】
90℃の温水60Lに、水飴(昭和産業株式会社製:MR750、エキス分75%)20kg、酵母エキス(三栄源エフエフアイ株式会社製)200g、コーンタンパク分解物(三栄源エフエフアイ株式会社製)200g、カラメル色素(池田糖化工業株式会社製)200g、およびスイートコーンパウダー粉砕品1.5g(クノールトレーディング株式会社製)を加えて混合し、加水して100Lとした。温水の温度を100℃に昇温させた。温水にホップ100gを加え、90分間煮沸した後、95℃で30分間保持した。温水を15℃に冷却し、ビール酵母500gを加えて7日間発酵させた。発酵後の液に対して約2倍体積量の炭酸水、および適量の酸味料、甘味料、食物繊維、醸造用アルコールを加えて混合した後、原麦汁エキスを約10%(w/w)に調整し、製品に対するスイートコーンパウダー粉砕品の使用量が約0.001%(w/w)のビールテイスト発酵飲料を得た。
【0073】
得られたビールテイスト発酵飲料は、ざらつき感のない後味でスッキリとした喉越しの爽快感を有し、かつフルーティーな香味を有していた。
[製造例3]
水、醸造用アルコール、およびホップを除く原料中のスイートコーンパウダーの使用比率が約0.001%(w/w)であるビールテイスト発酵飲料を製造した。
【0074】
90℃の温水60Lに、水飴(昭和産業株式会社製:MR750、エキス分75%)20kg、酵母エキス(三栄源エフエフアイ株式会社製)200g、コーンタンパク分解物(三栄源エフエフアイ株式会社製)200g、カラメル色素(池田糖化工業株式会社製)200g、およびスイートコーンパウダー粉砕品0.15g(クノールトレーディング株式会社製)を加えて混合し、加水して100Lとした。温水の温度を100℃に昇温させた。温水にホップ100gを加え、90分間煮沸した後、95℃で30分間保持した。温水を15℃に冷却し、ビール酵母500gを加えて7日間発酵させた。発酵後の液に対して約2倍体積量の炭酸水、および適量の酸味料、甘味料、食物繊維、醸造用アルコールを加えて混合した後、原麦汁エキスを約10%(w/w)に調整し、製品に対するスイートコーンパウダー粉砕品の使用量が約0.0001%(w/w)のビールテイスト発酵飲料を得た。
【0075】
[製造例4]
水、醸造用アルコールおよびホップを除く原料中のスイートコーンパウダー使用比率が約20%(w/w)であるビールテイストノンアルコール飲料を製造した。
【0076】
粉砕した麦芽1kg、およびスイートコーンパウダー粉砕品4kgを50℃の温水20Lに混合し、75℃で10分間保持した後、温水の温度を100℃に昇温し、10分間保持した。一方で、別の容器において、粉砕した麦芽15kgを50℃の温水75Lと混合し、5分間保持した。これらの溶液を一つに合わせ、65℃で60分間保持した後、当業者に周知の方法でろ過し、ろ液として麦汁を得た。当該麦汁に、乳酸を添加してpHを3.5に調整し、炭酸水を加えて、原麦汁エキス5%、炭酸ガス濃度0.5重量%に調整してビールテイストノンアルコール飲料を得た。製品に対するスイートコーンパウダー粉砕品の使用量は、約1%(w/w)である。
【0077】
得られたビールテイスト飲料は、ざらつき感のない後味でスッキリとした喉越しの爽快感を有し、かつフルーティーな香味を有していた。
[製造例5]
水、醸造用アルコールおよびホップを除く原料中のスイートコーンパウダー使用比率が約53%(w/w)であるビールテイスト発酵飲料を製造した。
【0078】
粉砕した麦芽3kg、およびスイートコーンパウダー粉砕品17kg、市販の耐熱性アミラーゼ適量を50℃の温水80Lに混合し30分保持した後、75℃で10分間保持した後、温水の温度を100℃に昇温し、10分間保持した。一方で、別の容器において、粉砕した麦芽12kgを50℃の温水50Lと混合し、30分間保持した。これらの溶液を一つに合わせ、65℃で60分間保持した後、当業者に周知の方法でろ過し、ろ液として麦汁を得た。当該麦汁の原麦汁エキスを15%に調整した後、麦汁にホップ約100gを投入し、100℃で90分間煮沸後、15℃に冷却した。ビール醸造用酵母300gを添加し、15℃で1週間程度発酵させた後、適量の醸造用アルコールを加え、原麦汁エキスを12.0%(w/w)に調整し、製品に対するスイートコーンパウダー粉砕品の使用量が約6.4%(w/w)のビールテイスト発酵飲料を得た。
【0079】
得られたビールテイスト飲料は、フルーティーな香味を有していた。