(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0007】
実施形態1
まず、実施形態1の排気装置を採用した建物の給排気システムについて説明する。
図1乃至
図3に示すように、建物の給排気システム1は、建物2と、吸気装置3と、排気装置4とを備える。
建物2は、例えば、横断面及び縦断面が長方形状である直方体形状の集合住宅である。
吸気装置3は、例えば、集合住宅の各戸5の壁6に設けられて外気を室内7に取り込むための吸気口8を備えた構成、又は、吸気口8と吸気口8に設けられた図外の吸気ファン等の吸気機械と吸気機械の図外の制御装置とを備えた構成である。
排気装置4は、例えば、各戸に設けられた戸別排気部9と、屋上(屋根)10に設けられた屋上排気部11と、各戸別排気部9;9・・・と屋上排気部11とを連通させる排気ダクト(管路)12とを備える。
戸別排気部9は、例えば、各戸5の天井板13に設けられた室内排気口14と、室内排気口14に設けられた排気ファン等の排気機械15と、排気機械15の図外の制御装置とを備えた構成である。室内排気口14は、例えば、浴室や洗面所等の天井に設けられる。
排気ダクト12は、例えば、一端側が分岐されて各室内排気口14;14・・・と連通可能に連結され、かつ、他端側が分岐されて屋上面16上に設けられた屋上排気部11に連通するように構成された集合排気ダクトにより形成され、建物2内に設けられた縦排気ダクト部分12aと天井裏空間に設けられた横排気ダクト部分12bとを備える。
図1;2に示すように、屋上排気部11は、例えば、建物2の屋上10における長方形又は正方形の互いに対向する一対の辺縁側に設けられる(例えば一方の長辺縁21側と他方の長辺縁22側とにそれぞれ設けられる)。
図2に示すように、屋上排気部11は、例えば、排気ダクト12の他端開口と屋上10とを連通させるために屋上面16と建物2の壁6の内側とに連通するように形成されて屋上面16に開口する複数の排気路17;17・・・と、排気路17の屋上面開口18より屋上10に排出される空気を集合させる排気集合空間31と排気口32とを形成する囲い30とを備える。
排気路17は、建物躯体に形成された貫通路又は当該貫通路内に配置された排気ダクト12の他端部により形成される。
図3では、戸5の排気を排気路17で排気するレイアウト構成を示した。
以上の給排気システム1によれば、建物2の外部から吸気口8を介して室内7に空気が導入され、かつ、排気機械15が駆動されて室内7の空気が排気ダクト12及び屋上排気部11を介して建物2の外部に排出される。
【0008】
上記排気口32を形成するに際し、発明者は建物2の外壁面35に風圧が作用した場合に屋上10での圧力分布がどのようになるかを数値シミュレーションで求め、当該数値シミュレーションで得られた結果に基づいて上記排気口32全体で出来るだけ均等に排気できるようにするための排気口32の開口縁33の形状を見出した。
図4に示すように、数値シミュレーションでは、横断面及び縦断面が長方形状である直方体形状の建物2の一方の外壁面35Aに直交する方向から建物2の一方の外壁面35Aに向けて風が吹いた場合(
図4に白抜き矢印で示すように風向0°で風が吹いた場合(
図4の紙面上において下から上に向けて風が吹いた場合))を想定して、建物2の周囲の圧力分布を解析するとともに、
図4の紙面上において建物2の中心2Cを中心として風向き0°の位置より右回りに45°回転させた位置から建物2の中心2Cに向けて風が吹いた場合(
図4に白抜き矢印で示すように風向45°で風が吹いた場合)を想定して、建物2の周囲の圧力分布を解析した。
尚、
図4に示すように、屋上10における長方形の長辺縁21及び長辺縁22が庇23の長辺で構成されている建物2を想定して数値シミュレーションを行った。
【0009】
図5(a)は、上記風向0°で風が吹いたと想定した場合の建物横幅方向の中央の部分X(
図4参照)での建物2の高さ方向における建物2の周囲の圧力分布を解析した結果を示す図である。
図5(b)は、上記風向45°で風が吹いたと想定した場合の建物横幅方向の中央の部分Xでの建物2の高さ方向における建物2の周囲の圧力分布を解析した結果を示す図である。
図6(a)は、上記風向0°で風が吹いたと想定した場合の屋上面16から500mm上方の位置での建物2の周囲の圧力分布を解析した結果を示す図である。
図6(b)は、上記風向45°で風が吹いたと想定した場合の屋上面16から500mm上方の位置での建物2の周囲の圧力分布を解析した結果を示す図である。
また、
図5;6において、等圧線40に付した数字は圧力係数であり、等圧線40の1間隔は、圧力係数0.1間隔である。尚、圧力係数Cpは、風が吹くことによって建物2の外表面に作用する圧力pを建物頂部高さHにおける速度圧q
Hで除した値(Cp=p/q
H)である。
【0010】
図5;6から、建物2の外壁面35に向けて風が吹いたと想定した場合に、建物2の屋上10は負圧となることがわかった。
そして、上記風向0°で風が吹いたと想定した場合、
図6(a)に示すように、屋上10に作用する負圧の等圧線40は、屋上面16より上方でかつ屋上面16と平行な面上において上記一方の外壁面35Aの上端部に位置する屋上面16の一方の長辺縁(辺縁)21に沿った湾曲線となることがわかった。即ち、屋上10の一方の長辺縁21の中央側の部分での負圧の等圧線40が建物2の中心2C側(
図4参照)に張り出すように湾曲する湾曲線となることがわかった。
また、上記風向45°で風が吹いたと想定した場合も、
図6(b)に示すように、屋上10に作用する負圧の等圧線40は、屋上面16より上方でかつ屋上面16と平行な面上において上記一方の外壁面35Aの上端部に位置する屋上面16の一方の長辺縁(辺縁)21に沿った湾曲線(屋上10の一方の長辺縁21の中央側の部分での負圧の等圧線40が建物2の中心2C側に張り出すように湾曲する湾曲線)となるとともに、建物2の一方の外壁面35Aと直角に隣り合う外壁面35B(
図4参照)の上端縁に沿った湾曲線(外壁面35Bの上端縁の中央側の部分での負圧の等圧線40が建物2の中心2C側に張り出すように湾曲する湾曲線)となることがわかった。
さらに、上記風向0°で風が吹いたと想定した場合、
図5(a)に示すように、屋上10に作用する負圧の等圧線40は、屋上面16と直交する面上においても上記一方の外壁面35Aの上端部に位置する屋上10の一方の長辺縁21から上方に移動して屋上面16に到達するような湾曲線となることがわかった。
また、上記風向45°で風が吹いたと想定した場合、
図5(b)に示すように、屋上10に作用する負圧の等圧線40は、屋上面16と直交する面上においても上記一方の外壁面35Aの上端部に位置する屋上10の一方の長辺縁21から上方に移動して屋上面16に到達するような湾曲線となり、かつ、上記風向0°で風が吹いたと想定した場合と比べて、負圧値の値が小さく、また、負圧の等圧線40の間隔も広くなることがわかった。
【0011】
そこで、実施形態1では、排気口32の開口縁33を、建物2の外壁面35に風圧が作用した際の屋上10の負圧の等圧線40に沿った形状に形成した。
例えば、
図7に示すように、排気口32の水平方向に延長する開口縁33を、屋上面16より上方でかつ屋上面16と平行な面上の負圧の等圧線と一致又は平行な湾曲縁に形成したことにより、当該排気口32に等しい負圧が作用するようになり、排気口32のどの位置からでも均等に排気されることが可能となる。具体的には、排気口32の水平方向に延長する開口縁33を、
図6(a)に示した負圧の等圧線40と一致する湾曲縁又は
図6(a)に示した負圧の等圧線40と平行な湾曲縁に形成すればよい。
【0012】
囲い30は、例えば
図2に示すように、各屋上面開口18;18・・・の上方に位置する上板30aと、上板30aにおける屋上10の一方の長辺縁21側の縁面である前縁面と対向する後縁面より延長して屋上面16と連結される後板30bと、上板30aの一方側縁面及び後板30bの一方側縁面より延長して屋上面16と連結される一方側板30cと、上板30aの他方側縁面及び後板30bの他方側縁面より延長して屋上面16と連結される他方側板30dと、排気口構成板30eと、排気口構成板30eに形成された排気口32とを備える。
上板30a、後板30b、排気口構成板30eは、屋上10の一方の長辺縁21に沿った方向に長い板により形成される。
排気口構成板30eは、上板30aの前縁面と一方側板30cの前縁面と他方側板30dの前縁面とより延長して屋上面16と連結された横長の壁板により形成され、例えば、建物2の一方の長辺縁21に面した面34が、
図6(a)に示した負圧の等圧線40と一致する湾曲面又は
図6(a)に示した負圧の等圧線40と平行な湾曲面に形成される。
排気口32は、排気口構成板30eにおいて一方側板30c側と他方側板30d側とに渡って連続して延長するように形成された横長貫通孔により形成される。つまり、排気口32は、排気口構成板30eの一部を貫通させた開口により形成されたものであり、上板30aの前縁面と一方側板30cの前縁面と他方側板30dの前縁面と屋上面16とで囲まれた開口よりも小さい開口により形成される。
そして、横長貫通孔により形成された排気口32における一方の長辺縁21に沿った横長の開口縁33、即ち、水平方向に延長する上側開口縁33aと下側開口縁33bとが、
図6(a)に示した負圧の等圧線40と一致する湾曲線又は
図6(a)に示した負圧の等圧線40と平行な湾曲線に形成される。
互いに平行となるように形成される上側開口縁33aと下側開口縁33bとの間の間隔は、例えば5cm〜10cm程度に形成される。
即ち、屋上排気部11は、囲い30の内面と屋上面16とで囲まれた排気集合空間31を備え、室内7からの排気が排気ダクト12、排気路17、屋上面開口18を介して囲い30の排気集合空間31内に集まった後に、排気口構成板30eに形成された排気口32を介して囲い30の外部に排気されるように構成されている。そして、排気口32の上側開口縁33aと下側開口縁33bとが、
図6(a)に示した負圧の等圧線40と一致する湾曲線又は
図6(a)に示した負圧の等圧線40と平行な湾曲線に形成されているので、排気口32の上側開口縁33a及び下側開口縁33bに等しい負圧が作用し、排気集合空間31内に集合した排気が排気口32のどの位置からでも均等に排気されやすくなる。
【0013】
実施形態1の排気装置4によれば、建物2の外壁面35の上端側の屋上10に設けられた屋上排気部11の排気口32の開口縁33である上側開口縁33a及び下側開口縁33bが、建物2の外壁面35に風圧が作用した際の屋上(屋根)10の負圧の等圧線40の湾曲線(即ち、屋上面16より上方でかつ屋上面16と平行な面上での負圧の等圧線40に沿った湾曲線)と一致する湾曲縁又は当該負圧の等圧線40と平行な湾曲縁に形成されたので、排気口32の上側開口縁33a及び下側開口縁33bに等しい負圧が作用し、排気集合空間31内に集合した排気が排気口32のどの位置からでも均等に排気されやすくなって、排気口32全体での排気バランスを良好にでき、排気口32全体での排気効率を向上できる。
また、実施形態1の排気装置4を集合住宅に適用した場合には、各戸5;5・・・間において排気性能にばらつきが生じ難くなり、各戸5;5・・・間で排気性能が等しい集合住宅を提供できるようになる。
また、横長貫通孔により排気口32が、建物2の屋上10に排出される空気を集合させる排気集合空間31を形成する囲い30に設けられたので、排気集合空間31内に集合した排気が排気口32のどの位置からでも均等に排気されやすくなる。
また、排気口32が、囲い30における屋上10の辺縁側に位置する面34に形成されたので、排気口32が建物2の外側を向くように設けられ、建物2の外側に向けて効率的に排気できる。
また、一対の囲い30が、屋根における一対の長辺のそれぞれに沿うように設けられたので、排気口32の水平方向の長さを長くでき、また、それぞれの長辺のどちらに向けて風が吹いた場合でも、建物2の外側に向けて効率的に排気できる。
【0014】
実施形態2
実施形態1では、排気口構成板30eに排気口構成板30eの一方側板30c側と他方側板30d側とに渡って連続して延長するように形成された横長貫通孔により排気口32が形成された構成の囲い30を示したが、
図9に示すように、排気口構成板30eに排気口構成板30eの一方側板30c側と他方側板30d側とに渡って間欠的に連続して延長するように形成された複数の横長貫通孔により形成された複数の排気口32を備えた構成の囲い30Aを用いてもよい。
【0015】
実施形態3
実施形態1;2では、複数の屋上面開口18からの排気が集合する排気集合空間31を形成する囲いを用いたが、
図10に示すように、屋上面開口18毎に排気空間60を形成する複数の囲い30Bを用い、当該各囲い30Bの排気口32の開口縁33を上述した湾曲線に形成してもよい。
【0016】
実施形態2;3においても、建物2の屋上10に設けた排気口32の開口縁33を、建物2の外壁面35に風圧が作用した際の屋上(屋根)10の負圧の等圧線40に沿った湾曲線に形成したので、実施形態1と同様に、排気口全体での排気効率を向上できるようになる。
【0017】
尚、実施形態1;2;3において、排気口32の上下方向に延長する開口縁を、屋上面16と直交する面上の負圧の等圧線と一致又は平行な湾曲縁に形成してもよい。具体的には、排気口32の上下方向に延長する開口縁を、
図5(a)に示した負圧の等圧線40と一致する湾曲縁又は
図5(a)に示した負圧の等圧線40と平行な湾曲縁に形成すればよい。このように構成すれば、当該排気口32による均等排気効果が向上する。
【0018】
また、排気口32は、囲い30の排気口構成板30eの面34に1つ又は面34の上下方向に複数並ぶように設けられる。
例えば、囲い30は、上下方向に排気口32としての複数の横長貫通孔が平行に並ぶように設けられたガラリ戸のような排気口構成板30eを備えた構成とし、排気口構成板30eの面34及び当該面34と各排気口32との境界である開口縁33の上側開口縁33a及び下側開口縁33bが、
図6(a)に示した負圧の等圧線40と一致する湾曲線又は
図6(a)に示した負圧の等圧線40と平行な湾曲線により形成された構成としてもよい。
【0019】
上記では、排気口32が、囲いにおける屋上の一辺縁側に位置する排気口構成板30eの面34に形成された例を示したが、排気口32は、囲い30の排気口構成板30e、後板30b、上板30aのうちのいずれか1つに形成されていれば良い。
【0020】
実施形態4
上記各実施形態では、囲いを用いた構成を示したが、
図11に示すように、屋上面16に開口する排気口32Aを備えた構成とし、屋上面16に開口する排気口32Aの開口の開口縁33Aを、屋上面16に作用する負圧の等圧線40である湾曲線に沿った湾曲線に形成した。
【0021】
実施形態5
図12に示すように、屋上面16に開口する複数の排気口32Aを備えた構成とし、屋上面16に開口する複数の排気口32Aの開口の開口縁33Aのそれぞれを、屋上面16に作用する負圧の等圧線40である湾曲線に沿った湾曲縁に形成した。
【0022】
実施形態6
図13に示すように、屋上面16に開口する複数の排気口32Bを備えた構成とし、屋上面16に開口する複数の排気口32Bは、屋上10の長辺縁(辺縁)21と平行な開口縁33Bを備え、複数の排気口32Bにおける屋上10の長辺縁21と平行な開口縁33Bのそれぞれを、屋上面16に作用する負圧の等圧線40である湾曲線上に位置させた。
【0023】
即ち、実施形態4乃至6では、屋上面16に各排気路17と連通する排気空間61を構成する溝62を形成し、屋上面16に開口する溝62の上部開口を排気口とした。尚、屋上面16に開口する溝62の上部開口を大きく形成し、当該溝62の上部開口を塞ぐように当該上部開口に、排気口が形成されたガラリ戸を載置するようにしてもよい。ガラリ戸を載置する場合は、排気口の数を多くすることができ、また、溝62の上部開口を、建物の屋上の辺に平行な辺を有した長方形又は正方形に形成できる。
実施形態4乃至6においても、排気口の開口縁を、建物の屋上面16に作用する負圧の等圧線40に沿って設けたので、排気口のどの位置からでも均等に排気されやすくなって、排気口全体での排気効率を向上できるようになる。
【0024】
尚、屋上排気部11は、建物2の屋上10における少なくとも1つの辺縁側に設ければよい。例えば上述したように、一方の長辺縁21側及び他方の長辺縁22側にそれぞれ設けられたり、建物2の屋上10の3つの辺縁側にそれぞれ設けられたり、建物2の屋上10の4つの辺縁側にそれぞれ設けられた構成としてもよい。このようにすれば、どの方向から風が吹いた場合でも屋上排気部11の排気口32を介して効率的な排気が行なわれる。
【0025】
また、屋上排気部11が屋上10における2つ以上の辺縁側に設けられた構成の建物とした場合において、屋上10のどの辺縁側に向けて風が吹いているかを検出する図外のセンサーと、個別排気部9といずれかの屋上排気部11とのみを連通させる図外の排気流路切替装置と、センサーからの出力に基づいて排気流路切替装置を制御する制御装置とを有した排気切替手段を備えた建物を構成してもよい。
センサーは、例えば、建物2の屋上10、外壁面35、建物2の壁に沿って延長するように設けられた縦排気ダクト部分12a等に設けられる。センサーとしては、風圧計、風速計、風向計等が用いられる。
例えば、排気口32の近傍に風圧計を設けたり、排気口が設けられている側の外壁面35に風圧計を設けたり、排気口と連通する縦排気ダクト部分12aに風速計を設ける。
排気流路切替装置としては、例えば、個別排気部9と横排気ダクト部分12bとの境界部分に設けられた切替弁装置、又は、横排気ダクト部分12bと縦排気ダクト部分12aとの境界部分に設けられた開閉弁装置を用いる。
排気切替手段を備えた場合、屋上のどの辺縁側に向けて風が吹いているかを検出するセンサーからの検出出力に基づいて制御装置が排気流路切替装置を制御することによって、風圧の大きい側の1つの屋上排気部11と各個別排気部9とを連通させるようにすることで、排気の効率化が図れる。