【実施例】
【0058】
次に、本発明を実施例および比較例を挙げて、具体的に説明する。但し、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0059】
本発明における、電極表面積の算出、評価に使用した電解液の作製、作製した電解液中のペルオキソ二硫酸イオン、ペルオキソ一硫酸イオンおよび過酸化水素の濃度測定、酸化性物質の総濃度測定、総クーロン量の算出、並びに、総クーロン量と陰極液量とから算出した酸化性物質の総濃度の算出は、それぞれ以下に従い行った。また、下記の表1,3,5,7に、各実施例および比較例における電解セルおよび評価液(電解液)の条件、並びに、評価条件をまとめて示す。
【0060】
<白金の電極表面積算出>
白金の電極表面積を算出するため、電極のサイクリックボルタンメトリー測定を行った。具体的には、−0.15〜0.20V(vs.Ag/AgCl)に見られる水素吸着ピークについて、サンプリング周期と、観測された電流値から電極二重層充電のための電流値を差し引いた値の絶対値との積により、水素吸着の総クーロン量を算出した。この総クーロン量から、あらかじめ把握している係数(Pt表面積1cm
2あたり210μC(210μC/cm
2))の値で除することにより、電気化学反応に有効に使用されているPtの表面積を算出した。
・電解セル:蓋付ガラスセル
・作用極:濃度計に使用する白金メッシュ陰極・陽極
・対極:白金メッシュ
・参照極:Ag/AgCl(内部液:飽和KCl)
・電解液:3.73mol/l%硫酸(測定前にはセル内が陽圧となる条件で電解液中に30分N
2バブリングを行った。)
・測定装置:北斗電工(株)製 HABF−5001
・サンプリング周期:50ms
・電位走査速度:50mV/s
・電位走査範囲:−0.15〜0.20V(vs.Ag/AgCl)
・電気二重層充電電流:0.20V(vs.Ag/AgCl)の電流値を用いた。
【0061】
<カーボンフェルトの電極表面積算出>
窒素ガスの吸着等温測定から、BET法によるカーボンフェルトの表面積を、ユアサアイオニクス(株)製の全自動ガス吸着装置「AUTOSORB−1」を用いて求めた。測定対象に対して、窒素流通下、350℃で30分間、予備乾燥を行った後、大気圧に対する窒素の相対圧の値が0.3となるように正確に調整した窒素ヘリウム混合ガスを用いて、ガス流動法による窒素吸着BET10点法によって測定した。
【0062】
<評価液の作製(硫酸溶液)>
1lの評価液を作製するために必要な98%硫酸の重量を下記式(9)に基づき算出し、1lメスフラスコに、98%硫酸(H
2SO
4:関東化学(株)製)を採取して、超純水を加えて全1lの評価液とした。
(式中、A(g)は1lの評価液の作製に必要な98%硫酸の重量を示す)
【0063】
<評価液の作製(電解硫酸溶液)>
電解面積1.000dm
2の導電性ダイヤモンド電極を陽極および陰極に用いた隔膜付き電解セルを用いて、陽極液および陰極液をそれぞれ循環しながら硫酸を電解し、以下の条件に従い電解硫酸溶液の製造を行った。評価液は、1lメスフラスコに、98%硫酸(関東化学(株)製)を上記式(9)に基づき372g採取して、超純水を加えて全1lに希釈し、硫酸イオンを3.72mol/l含む電解液とし、そのうち300mlを陽極液、残り300mlを陰極液として使用した。電解時間は、酸化性物質の総濃度に合わせて調整した。
・セル電流:100A
・電流密度:100A/dm
2
・陽極液量:300ml
・電解液温度:28℃
・陽極液流量:1l/min
・陰極液流量:1l/min
・陽極電解液:3.73mol/l硫酸
・陰極電解液:3.73mol/l硫酸
・隔膜:(住友電工ファインポリマー(株)製のポアフロン(登録商標))
【0064】
<評価液の作製(ペルオキソ二硫酸アンモニウムを含む硫酸溶液)>
1lの評価液を作製するために必要な98%硫酸の重量を上記式(9)に基づき算出し、ペルオキソ二硫酸アンモニウムの重量を下記式(10)に基づき算出して、1lメスフラスコに、98%硫酸(関東化学(株)製)、ペルオキソ二硫酸アンモニウム((NH
4)
2S
2O
4:和光純薬工業(株)製)および超純水を加えて、全1lの評価液とした。評価液の作製は、評価液の温度が上昇しないように、メスフラスコの底を冷却水で冷やしながら行った。
(式中、B(g)は1lの評価液の作製に必要なペルオキソ二硫酸アンモニウムの重量を示す)
【0065】
<評価液の作製(ペルオキソ一硫酸塩を含む硫酸溶液)>
1lの評価液を作製するために必要な98%硫酸の重量を上記式(9)に基づき算出し、オキソン(登録商標)一過硫酸塩化合物の重量を下記式(11)に基づき算出して、1lメスフラスコに、98%硫酸(関東化学(株)製)、オキソン(登録商標)一過硫酸塩化合物(2KHSO
5・KHSO
4・K
2SO
4:和光純薬工業(株)製)および超純水を加えて、全1lの評価液とした。評価液の作製は、評価液の温度が上昇しないように、メスフラスコの底を冷却水で冷やしながら行った。
(式中、C(g)は1lの評価液の作製に必要なオキソン(登録商標)一過硫酸塩の重量を示す)
【0066】
<評価液の作製(過酸化水素を含む硫酸溶液)>
1lの評価液を作製するために必要な98%硫酸の重量を上記式(9)に基づき算出し、35%過酸化水素の重量を下記式(12)に基づき算出して、1lメスフラスコに、98%硫酸(関東化学(株)製)、35%過酸化水素(H
2O
2:和光純薬工業(株)製)および超純水を加えて、全1lの評価液とした。評価液の作製は、評価液の温度が上昇しないように、メスフラスコの底を冷却水で冷やしながら行った。
(式中、D(g)は1lの評価液の作製に必要な過酸化水素の重量を示す)
【0067】
<ラマン分光法による評価液中のペルオキソ二硫酸イオン、ペルオキソ一硫酸イオンおよび過酸化水素の濃度測定>
作製した評価液中のペルオキソ二硫酸イオン、ペルオキソ一硫酸イオンおよび過酸化水素の濃度測定を、ラマン分光法を用いて行った。測定条件および測定方法は以下に示すとおりである。濃度が既知のペルオキソ二硫酸アンモニウムを含む硫酸溶液、ペルオキソ一硫酸塩を含む硫酸溶液、および、過酸化水素を含む硫酸溶液を、上記(10),(11),(12)式に基づき作製・測定し、仕込みの酸化性物質総濃度とラマン分光結果から検量線を作成して、濃度換算に利用した。なお、硫酸濃度は3.73mol/lとした。
・測定装置:サーモフィッシャーサイエンティフィック社製ラマン分光光度計
・型式:AlMEGA XR
・レーザー光:532nm
・露光時間:2.00秒
・露光回数:20
・バックグラウンド露光回数:20
・グレーティング:672lines/mm
・測定幅:700〜1500cm
−1
・分光器アパーチャ:25μmスリット
・マクロ試験室にて低分解能測定
・スペクトル補正:全範囲の強度から、710cm
−1と1140cm
−1の強度を直線で結んだベースライン値を差し引いた。
・ペルオキソ二硫酸濃度測定には832cm
−1のときの強度を利用した。
・ペルオキソ一硫酸濃度測定には770cm
−1のときの強度を利用した。
・過酸化水素濃度測定には872cm
−1のときの強度を利用した。
【0068】
<総クーロン量算出>
電流値(A)の絶対値とそれを流した時間(s)との積分により、還元反応の総クーロン量を算出した。今回の電流値のサンプリング周期は50msとし、電解開始から電解停止までの総クーロン量を算出した。電解開始時の電流値が1/100まで小さくなったとき、電解を停止した。
【0069】
<総クーロン量を用いた酸化性物質の総濃度の算出>
総クーロン量と陰極液量とから、下記式(13)に基づき、酸化性物質の総濃度を算出した。
(式中、E(mol/l)は酸化性物質の総濃度を示す)
【0070】
<ラマン分光測定結果とのずれ>
全電解方式から算出した酸化性物質の総濃度と、ラマン分光法による酸化性物質の総濃度の値のずれを以下式から算出した。
(式中、F(%)はラマン分光測定結果とのずれを示す)
【0071】
<実施例1>
図2で示す濃度計に、
図1に示すような、陰極に電極面積1.16dm
2の白金メッシュ電極を、陽極に電極面積2.32dm
2の白金メッシュ電極を、参照電極にAg/AgCl(内部液:飽和KCl)参照電極を、それぞれ用いた隔膜付き電解セル24を組み込んで、酸化性物質総濃度1.00mol/l、硫酸濃度3.73mol/lの電解硫酸溶液中の酸化性物質の総濃度測定を行った。なお、評価液の作製から測定開始までの時間は10分であった。以下、実施例1に係る酸化性物質の総濃度測定方法を全電解方式と称する。電解開始時の電流値の絶対値は0.8Aであったため、電解停止は、電解開始時の電流値の1/100である0.008Aまで電流値が減衰したときとした。その結果を、下記の表2および
図5に示す。
【0072】
<実施例2〜4>
実施例2〜4として、電解硫酸溶液中の酸化性物質の総濃度、および、評価液作製から測定開始までの時間を変えることにより、評価液中の酸化性物質成分の割合を変えた評価液を用いた以外は実施例1と同様の方法で、評価液中の酸化性物質の総濃度を測定した。その結果を、下記の表2および
図5(実施例2,3のみ)に示す。
【0073】
<実施例5〜7>
評価液として、上記式(9)および(10)に基づき作製した硫酸濃度3.73mol/l、ペルオキソ二硫酸イオン濃度0.30mol/lのペルオキソ二硫酸アンモニウム硫酸を含む硫酸溶液、上記式(9)および(11)に基づき作製した硫酸濃度3.73mol/l、ペルオキソ一硫酸イオン濃度0.30mol/lのペルオキソ一硫酸塩を含む硫酸溶液、および、上記式(9)および(12)に基づき作製した硫酸濃度3.73mol/l、過酸化水素濃度0.30mol/lの過酸化水素を含む硫酸溶液を用いた以外は実施例1と同様の方法で、評価液中の酸化性物質の総濃度を測定した。その結果を、下記の表2に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
【表2】
【0076】
実施例1において、上記総クーロン量算出方法に従い総クーロン量を算出したところ、77Cであった。また、上記総クーロン量を用いた酸化性物質の総濃度算出方法に従い、評価液中の酸化性物質総濃度を算出したところ、1.00mol/lであった。この値は、ラマン分光法で得られた酸化性物質の総濃度の結果と一致したため、本発明に従う酸化性物質の総濃度測定方法を用いた濃度計により、酸化性物質の総濃度が精度良く測定されていることが確かめられた。
【0077】
また、実施例2〜7においても、ラマン分光法で得られた酸化性物質の総濃度の結果と近い数値が得られており、本発明に従う酸化性物質の総濃度測定方法を用いた濃度計により、酸化性物質の総濃度が精度良く測定されていることが確かめられた。
【0078】
実施例1〜7の結果から、酸化性物質の成分および濃度が異なる評価液であっても、本発明に従う酸化性物質の総濃度測定方法を用いた濃度計により、酸化性物質の総濃度を精度良く評価できることが確かめられた。
【0079】
<実施例8>
陰極としてカーボンフェルトを用い、保持電位を下記表中に示すように変更した以外は実施例4と同様の方法で、評価液中の酸化性物質の総濃度を測定した。その結果を、下記の表4に示す。
【0080】
<実施例9>
実施例9として、電解セルに
図3に示す無隔膜電解セルを用いた以外は実施例4と同様の方法で、評価液中の酸化性物質の総濃度を測定した。その結果を、下記の表4に示す。
【0081】
<実施例10〜12>
陰極液量および陰極表面積/陰極液量の比を下記表中に示すように変更した以外は実施例4と同様の方法で、評価液中の酸化性物質の総濃度を測定した。その結果を、下記の表4に示す。
【0082】
【表3】
【0083】
【表4】
【0084】
実施例8において、カーボンフェルトを用いた場合にも、ラマン分光法で得られた酸化性物質の総濃度の結果と近い数値が得られており、本発明に従う酸化性物質の総濃度測定方法を用いた濃度計により、酸化性物質の総濃度が精度良く測定されていることが確かめられた。また、この結果より、白金およびカーボンフェルトに代表される、水素発生電位から過酸化水素酸化電位までの電位の間でペルオキソ二硫酸イオン、ペルオキソ一硫酸イオンおよび過酸化水素などの多成分を還元することが可能な電極であれば、本発明の濃度計の電解セルの陰極として利用できることがわかった。
【0085】
実施例9においては、ラマン分光法で得られた酸化性物質の総濃度の結果と若干ずれが生じることがわかった。これは、過酸化水素が陽極側で酸化されてしまったためと考えられる。この結果より、電解セルとしては、隔膜を有しているものを用いるほうが、精度良く測定できることがわかった。
【0086】
実施例10〜12においては、ラマン分光法で得られた酸化性物質の総濃度の結果と近い数値が得られており、本発明に従う酸化性物質の総濃度測定方法を用いた濃度計により、酸化性物質の総濃度が精度良く測定されていることが確かめられた。一方で、実施例10〜12と実施例4の結果とを比較することで、陰極液量が大きく、陰極表面積/陰極液量の比が小さいほど、電解開始から停止までの時間が長くなることがわかった。この結果より、陰極液量が少なく、陰極表面積/陰極液量の比が大きいほど、電解開始から停止までの時間を短縮することができるので、応答速度が速い濃度計を作製できることがわかった。
【0087】
<実施例13〜15>
陰極室の保持電位を下記表中に示すように変更した以外は実施例4と同様の方法で、評価液中の酸化性物質の総濃度を測定した。その結果を、下記の表6に示す。
【0088】
<実施例16>
電解停止を電解開始時の電流値の1/10である0.08Aまで電流値が減衰したときとした以外は実施例4と同様の方法で、評価液中の酸化性物質の総濃度を測定した。その結果を、下記の表6に示す。
【0089】
【表5】
【0090】
【表6】
【0091】
実施例13〜15においては、実施例4の結果と比較して、保持電位が貴になるほど、電解停止までの時間が長くなることがわかった。これは、保持電位が貴になるほど酸化性物質の還元速度(=電流値)が小さくなるためであると考えられる。保持電位が0.4V(vs.Ag/AgCl)になると、ラマン分光法で得られた酸化性物質の総濃度の結果からずれが生じることがわかった。これは、
図4からもわかるように、この電位ではペルオキソ二硫酸イオンの還元反応が起こりにくいためであると考えられる。この結果より、保持電位は、用いた陰極に合わせて水素発生電位から過酸化水素酸化電位の間に保持することが効果的であり、より卑な電位に保持すると、応答速度がより速い濃度計を作製できることがわかった。実施例15では、実施例4と比べて酸化性物質総濃度が高くなり、ラマン測定結果とずれが生じた。これは総クーロン量の一部に水素発生の電流値を含んでいることによるものと考えられる。
【0092】
実施例16の結果からは、実施例4の結果と比較して、電解停止を設定する電流値が大きくなると、電解開始から終了までに要した時間は短くなるものの、検出できる酸化性物質の総濃度が低いものとなり、その結果、ラマン測定結果とのずれが大きくなることがわかった。
【0093】
<比較例1〜5>
比較例1〜5として、電解硫酸溶液中の酸化性物質の総濃度、および、評価液作製から測定開始までの時間を変えることにより、評価液中の酸化性物質成分の割合を変えた評価液を用い、電解面積0.01cm
2の白金陰極を用いて、陰極電位を0.8Vから−0.2V(vs.Ag/AgCl)まで走査速度50mV/sにて電位走査し、還元電流値のピーク値を検出した。その結果を、下記の表8に示す。
【0094】
【表7】
【0095】
【表8】
【0096】
比較例1〜5においては、酸化性物質の総濃度と電流値とに相関関係が得られないことがわかった。これは、
図4からも明らかなように、酸化性物質成分によって還元速度(=電流値)が異なるためであると考えられる。この結果から、還元電流検出方式の濃度計は、ペルオキソ二硫酸イオン、ペルオキソ一硫酸イオンおよび過酸化水素などの多成分を高濃度に含有する硫酸溶液の酸化性物質の濃度計としては、利用できないことが確かめられた。