【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 平成22年11月4日 日本機械学会(幹事学会)・計測自動制御学会・システム制御情報学会・化学工学会・精密工学会・日本航空宇宙学会 主催の「第53回 自動制御連合講演会(CD−ROM)」において文書をもって発表
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施の形態の制御装置について、
図1〜
図15を参照しながら説明する。
【0023】
図1は、制御装置を含むダイピッカの構成を示す図である。ダイピッカ1は、半導体製造の後工程に設けられ、ダイシングされたウェハからチップをピックアップし、所定のトレイに整列し、収納する。ダイピッカ1は、作業台11、コンピュータ12、電装ボックス13、モニタ14、およびキーボード15からなる。作業台11は、チップを操作する。作業台11は、
図2に示されるように、チップピッカ31、チップ収納ユニット32、およびチップ供給部33を備える。チップピッカ31は、ウェハからチップ(ダイ)を取り上げて、チップトレイの所定の位置に置く。チップ収納ユニット32は、ダイが収納されるチップトレイを位置決めする。
図2の例の場合、Y軸駆動装置32Aによりトレイ載置台32BのY軸方向の位置が決定される。チップ供給部33は、チップピッカ31により取り上げられる、ウェハ中のチップ(ダイ)を位置決めする。
図2の例の場合、Y軸駆動装置33AとX軸駆動装置33Bにより、ウェハ載置台33CのY軸およびX軸方向の位置が決定される。チップ供給部33は、2自由度の直交ロボットである。
【0024】
図1に戻り、コンピュータ12は、FA(Factory Automation)用のコンピュータであり、作業台11を制御する。コンピュータ12は、制御装置の一例である。電装ボックス13は、電源ユニット、後述するサーボアンプユニット、および端子台などを格納する。モニタ14は、いわゆるタッチパネルであり、コンピュータ12の制御に応じて、各種の画像などを表示させ、オペレータの操作に応じて、コンピュータ12に各種の指示を与える。キーボード15は、オペレータの操作に応じて、コンピュータ12に各種の指示を与える。
【0025】
図3は、チップ供給部33の構成の例を説明するブロック図である。X軸方向に、サーボアンプユニット51−1、サーボモータ52−1、ボールネジ53−1、およびリニアガイド54−1により駆動される。Y軸方向に、サーボアンプユニット51−2、サーボモータ52−2、ボールネジ53−2、およびリニアガイド54−2により駆動される。
【0026】
サーボアンプユニット51−1は、コンピュータ12からの指令に応じて、サーボモータ52−1を駆動する。ボールネジ53−1は、サーボモータ52−1の軸と機械的に結合され、サーボモータ52−1の軸が回転すると、ボールネジ53−1に噛み合っている可動部を移動させる。リニアガイド54−1は、ボールネジ53−1の可動部がX軸方向に動くように、可動部の動きを規制する。
【0027】
サーボアンプユニット51−2は、コンピュータ12からの指令に応じて、サーボモータ52−2を駆動する。ボールネジ53−2は、サーボモータ52−2の軸と機械的に結合され、サーボモータ52−2の軸が回転すると、ボールネジ53−2に噛み合っている可動部を移動させる。リニアガイド54−2は、ボールネジ53−2の可動部がY軸方向に動くように、可動部の動きを規制する。
【0028】
チップピッカ31およびチップ収納ユニット32は、それぞれ、3自由度または1自由度とされ、チップ供給部33と同様に構成されるので、その説明は省略する。
【0029】
図4は、プログラムを実行するコンピュータ12により実現される機能の構成の例を示すブロック図である。コンピュータ12がプログラムを実行すると、共振周波数取得部101、パラメータ生成部102、データベース103、パラメータ決定部104、軌道計算部105、および分解加速度制御部106が実現される。
【0030】
共振周波数取得部101は、ダイピッカ1の共振周波数を取得する。パラメータ生成部102は、基準距離について、予め定めた移動時間毎に、可動部の加速度軌道から共振周波数に対応する周波数成分を除いた軌道を計算するためのパラメータを生成する。軌道は、空間的に、直線的なものであっても、曲線的なものであってもよい。以下において、軌道は、空間的な位置と時刻との関係を示すものである。
【0031】
ここで、チップ供給部33の可動部の軌道とパラメータについて説明する。
【0032】
まず、S字加減速軌道について説明する。時刻0における、可動部の軌道の始点をx(0)とし、時刻Tに到達する軌道の終点(終端位置)をx(T)とすると、始点と終点において速度および加速度を0とする境界条件は、式(1)で表される。
【0034】
また、最大速度v
maxと最大加速度a
maxに関する制約条件は、式(2)で表される。
【0036】
ここで、(v
max>0,a
max>0)を満たす軌道で正弦波状の加速度軌道をもつもののうち、移動時間Tを最短にするものは次の式で与えられる。
【0037】
まず、移動距離が
【数5】
である場合を想定する。
【0038】
この場合、移動時間は、
【数6】
である。
【0039】
このとき、軌道は、式(3)で表される。
【0041】
一方、移動距離が、
【数8】
である場合を想定する。
【0042】
この場合、加速時間は、
【数9】
である。
【0043】
また、この場合、移動時間は、
【数10】
である。
【0044】
このとき、軌道は、式(4)で表される。
【0047】
S字加減速軌道の加速度軌道は、
図18(A)に示される振幅スペクトルを持つ。そこで、この振幅スペクトルに修正成分を加えて、振動を抑制するような望ましい加速度軌道に整形する。
【0048】
まず、定速区間を含まない軌道について説明する。
【0049】
式(3)で表されるS字加減速軌道は、移動時間をTとすると、
【数13】
を使って、式(7)と記述することができる。
【0051】
式(7)に対応する制振加減速軌道の一般形は式(8)で表される。
【0053】
すなわち、制振のための修正項として、制振加減速軌道の一般式である式(8)に、右辺第3項と第5項とが加えられている。右辺第5項は、2n個の正弦波の和であり、nは制振に関する振幅スペクトル条件の数により決定される。
【0054】
制振加減速軌道を設計するには、式(8)に含まれるc
0,c
1,a
T,b
T,a
k,b
k(k=1,・・・,n)であるパラメータを決定すれば良い。
【0055】
まず、式(8)は、式(9)で表される位置決めに関する境界条件を満たす。
【0057】
ここで、終端位置をx
T=1としたのは、移動距離(始点から終端位置までの距離)がパラメータに対して線形であるため、このようにしても一般性を失わないからである。移動距離が1に等しくない場合には、式(9)の下で得られたパラメータをx
T倍(すなわち、移動距離倍)すれば良い。
【0058】
次に、加速度軌道の振幅スペクトルに関する条件を説明する。式(8)を2階微分すると式(10)が得られる。
【0060】
軌道が孤立的である場合、加速度軌道はフーリエ積分により式(11)で与えられる。
【0063】
角周波数に対する第1のフーリエ係数は、
【数20】
で表す。
【0064】
角周波数に対する第2のフーリエ係数は、
【数21】
で表す。
【0065】
フーリエ余弦係数およびフーリエ正弦係数は、式(12)で計算できる。
【0067】
式(12)は、角周波数
【数23】
の連続関数であり、任意の角周波数に対して定義されている。これらから、加速度軌道の振幅スペクトルがm個の角周波数で0となる条件は式(13)で表される。
【0069】
式(8)で表される制振加減速軌道には、(2n+4)個の決定すべきパラメータがあり、式(9)および式(13)で表される満足すべき条件は合わせて(2m+6)本の式で表されるので、m=n-1であれば、パラメータを求めることができる。
【0070】
そこで、パラメータは以下のように求められる。
【0071】
式(8)で表される、パラメータを含む加減速軌道が、式(9)で表される、指定されたTにおける位置決めに関する境界条件、および式(14)で表される、スペクトル条件を満たすとき、そのパラメータは式(15)の線形代数方程式の解で与えられる。
【0076】
次に、定速区間を含む軌道を説明する。
【0077】
振動の要因が可動部の加減速であることから、加減速区間についてのみ説明する。
【0078】
式(4)で表されるS字加減速軌道のうちの加速区間を
【数29】
とする。
【0079】
この場合、S字加減速軌道は、式(16)と記述することができる。
【0081】
ここでは、振動を抑制する制振加減速軌道の一般形を式(17)で表す。
【0083】
制振のための修正項として、制振加減速軌道の一般式である式(16)に、右辺第4項が加えられる。
【0084】
ここでも境界条件とスペクトル条件から式(17)に含まれるc
0,c
1,a
T,b
T,a
k,b
k(k=1,・・・,n)であるパラメータを決定する。
【0085】
定速区間を含む軌道では、加速時間が経過した後に目標速度が指定された値となる。従って、位置決めに関する境界条件を式(18)で表すことができる。
【0087】
ここでも、式(9)と同様に終端速度を1としている。
【0088】
振幅スペクトルに関する条件は、式(17)を2階微分し、そのフーリエ積分から式(12)で計算でき、式(13)が同様に導かれる。ただし、積分区間は、tは、0以上、T
a以下である。式(17)で表される制振加減速軌道のパラメータの数が(2n+3)であり、式(18)および式(13)で表される、満たすべき条件が(2m+5)本の式で表されるので、m=n-1であれば、パラメータを求めることができる。
【0089】
式(17)で表される、パラメータを含む加減速軌道が、式(18)で表される、位置決めに関する境界条件、および式(19)で表される、スペクトル条件を満たすとき、そのパラメータは式(20)の線形代数方程式の解で与えられる。
【0092】
A
h,k,B
h,k,C
h,k,D
h,kは、式(15)の場合と同様である。
【0094】
減速区間についても同様に制振加減速軌道が求められる。
【0095】
以上のように加減速部分の軌道が求められた。残りの定速区間の軌道を定めるには、式(18)で指定されていない加速区間終了字の位置x(T
a)を知る必要がある。これについては、式(20)を満たすパラメータを使った軌道は、式(21)を満たす。
【0097】
このように、加速区間と減速区間では、式(17)の軌道を用い、定速区間では、式(5)に従って移動させる。
【0098】
以下に、制振加減速軌道の具体例を示す。
【0099】
移動時間Tを1/6sとし、抑制すべき周波数(共振周波数)を
【数37】
とする。
【0100】
従って、
【数38】
である。抑制すべき周波数が、1つであるので、整形用に加える信号の角周波数は、n=m+1=2種類必要となり、これをω
1=18πおよびω
2=24πrad/sとする。ω
T=12πrad/sであり、制振加減速軌道は、式(22)で記述できる。
【0102】
式(15)で説明したようにA
*h〜D
*hおよびA
h,k〜D
h,kを計算すると、
【数40】
となる。これを式(20)に代入すると、連立方程式である式(23)が得られる。
【0104】
式(23)を解くと、式(24)に示されるパラメータの値が得られる。
【0106】
このパラメータを式(22)に代入すると、式(25)に示される制振加減速軌道が定まる。
【0108】
式(25)を2階微分し、式(12)から振幅スペクトルF(ω)を求めると、式(26)に示されるようになる。
【0110】
式(26)では、ωに
【数45】
を代入すると、F(ω)=0となることから、振動は抑制されている。
【0111】
すなわち、
【数46】
が抑制されている。
【0112】
また、終端速度を指定した制振加減速軌道の具体例を示す。
【0113】
移動時間Tを1/9sとし、終端速度
【数47】
に達する制振加減速軌道を算出する。
【0114】
抑制すべき周波数(共振周波数)を
【数48】
とする。
【0115】
すなわち、抑制すべき角周波数は、
【数49】
とし、ω
1=18πおよびω
2=24πrad/sの正弦波を整形用に加える。ω
T=18πrad/sであり、制振加減速軌道は、式(27)で記述できる。
【0117】
A
h,k,B
h,k,C
h,k,D
h,k等を計算して、式(20)に代入すると、式(28)が得られる。
【0119】
式(28)を解くと、式(29)に示されるパラメータの値が得られる。
【0121】
従って、制振加減速軌道は、式(30)で示される。
【0123】
式(30)を2階微分し、振幅スペクトルF(ω)を求めると、式(31)に示されるようになる。
【0125】
式(31)では、ωに
【数55】
を代入すると、F(ω)=0となることから、振動は抑制されている。
【0126】
すなわち、
【数56】
が抑制されている。
【0127】
また、式(28)のTにT
aを代入するとT
a=1/9sにおける位置が
【数57】
となる。
【0128】
以上のように、パラメータ生成部102は、基準距離について、予め定めた移動時間毎に、可動部の加速度軌道から共振周波数に対応する周波数成分を除いた軌道を計算するためのパラメータを生成する。より具体的には、例えば、パラメータ生成部102は、1mである基準距離について、1ms〜300msまでの、1ms刻みの移動時間毎に、式(8)に含まれるc
0,c
1,a
T,b
T,a
k,b
k(k=1,・・・,n)であるパラメータを計算する。より詳細には、例えば、パラメータ生成部102は、共振周波数からスペクトル条件を決定し、式(15)で説明したようにA
*h〜D
*hおよびA
h,k〜D
h,kを計算し、これを式(15)に代入する。パラメータ生成部102は、A
*h〜D
*hおよびA
h,k〜D
h,kなどが代入された式(15)の線形代数方程式を解くことで、c
0,c
1,a
T,b
T,a
k,b
k(k=1,・・・,n)であるパラメータを生成する。
【0129】
さらに、パラメータ生成部102は、得られたパラメータを式(8)に代入して、制振加減速軌道を求める。そして、パラメータ生成部102は、求めた制振加減速軌道における、最大速度と最大加速度を求める。
【0130】
また、パラメータ生成部102は、同様に、定速区間を含む軌道についての、パラメータを生成し、最大速度と最大加速度を求める。
【0131】
パラメータ生成部102は、基準距離について、予め定めた移動時間毎に、基準距離について、予め定めた移動時間毎に、その場合の制振加減速軌道における、最大速度および最大加速度と共に、生成したパラメータをデータベース103に供給する。
【0132】
データベース103は、パラメータ生成部102から供給されたパラメータを、基準距離について、予め定めた移動時間毎に、その場合の制振加減速軌道における、最大速度および最大加速度に対応付けて、記憶する。
【0133】
図5は、データベース103に記憶されるパラメータの例を示す図である。例えば、データベース103は、1mである基準距離について、1ms〜300msまでの、1ms刻みの移動時間毎に、c
0,c
1,a
T,b
T,a
k,b
k(k=1,・・・,n)であるパラメータを、移動時間毎の制振加減速軌道における、最大速度および最大加速度に対応付けて、記憶する。
【0134】
パラメータ決定部104は、可動部の加速度軌道から共振周波数に対応する周波数成分を除いた軌道を計算するためのパラメータを決定する。パラメータ決定部104は、スケーリング部121を含む。スケーリング部121は、データベース103に記憶されるパラメータに、基準距離に対する移動距離の比率を乗じて、1m以外の移動距離に応じたパラメータを生成する。
【0135】
より具体的には、例えば、パラメータ決定部104は、移動距離、並びにダイピッカ1の定格最大速度および定格最大加速度を取得する。パラメータ決定部104は、移動距離、定格最大速度、および定格最大加速度を、オペレータに操作されるキーボード15である入力部から取得するようにしてもよいし、予め記憶部若しくはバッファまたはプログラムのパラメータとして格納されているデータを読み出すことにより、移動距離、定格最大速度、および定格最大加速度を取得するようにしてもよい。
【0136】
パラメータ決定部104は、データベース103から、移動時間毎のパラメータを、最大速度および最大加速度と共に読み出す。
【0137】
パラメータ決定部104のスケーリング部121は、1mである基準距離に対する移動距離の比率を、読み出したパラメータ、最大速度、および最大加速度に乗じる。パラメータ決定部104は、定格最大速度および定格最大加速度以下の最大速度および最大加速度に対応付けられたパラメータを決定する。
【0138】
なお、パラメータ決定部104は、共振周波数からスペクトル条件を決定し、式(15)で説明したようにA
*h〜D
*hおよびA
h,k〜D
h,kを計算し、これを式(15)に代入して、代入された式(15)の線形代数方程式を解くことで、c
0,c
1,a
T,b
T,a
k,b
k(k=1,・・・,n)であるパラメータを計算することで、パラメータを決定するようにしてもよい。
【0139】
軌道計算部105は、決定されたパラメータから軌道を計算する。すなわち、例えば、軌道計算部105は、パラメータ決定部104において決定されたパラメータを式(8)に代入して、制振加減速軌道を計算する。
【0140】
分解加速度制御部106は、分解加速度制御により、計算された制振加減速軌道からサーボアンプユニット51−1および51−2にトルクを指示する。
【0141】
より具体的には、サーボモータ52−1、ボールネジ53−1、リニアガイド54−1、サーボモータ52−2、ボールネジ53−2、およびリニアガイド54−2などからなる駆動系の支配方程式(運動方程式)に部分的フィードバック線形化を適用し、仮想的な操作量u111およびu131を導入すると、例えば、式(32)が得られる。
【0143】
式(32)から、操作量(モータトルク)は、式(33)により求められる。
【0145】
次に、
図6のフローチャートを参照して、パラメータの記憶の処理を説明する。ステップS11において、共振周波数取得部101は、制御対象となる機器(この場合、ダイピッカ1)の共振周波数を取得する。
【0146】
例えば、共振周波数取得部101は、A/D変換カードである入力部に接続されている変位センサであって、ダイピッカ1の筐体の振動の変位を測定するための変位センサ(図示せず)からの信号を取得し、この信号からダイピッカ1の筐体の時間的に変位を求めることにより、ダイピッカ1の共振周波数を取得する。なお、共振周波数の取得は、ダイピッカ1が設置される床の剛性などにより変化するので、ダイピッカ1を設置した後に行うことが好ましい。
【0147】
また、共振周波数取得部101は、共振周波数を推定することにより、共振周波数を取得するようにしてもよく、また、オペレータによって操作されたキーボード15などから、データとして供給された共振周波数を取得するようにしてもよい。
【0148】
ステップS12において、パラメータ生成部102は、基準距離について、予め定めた移動時間毎に、ステップS11の手続きで取得された共振周波数における振幅スペクトルが0となる軌道を記述する一般式のパラメータを計算する。例えば、パラメータ生成部102は、基準距離(1m)について、1ms〜300msまでの、1ms刻みの移動時間毎に、式(8)に含まれるc
0,c
1,a
T,b
T,a
k,b
k(k=1,・・・,n)であるパラメータを計算して、生成する。ステップS13において、パラメータ生成部102は、移動時間毎に、パラメータから最大速度および最大加速度を計算する。すなわち、パラメータ生成部102は、得られたパラメータを式(8)に代入して、制振加減速軌道を求めて、求めた制振加減速軌道における、最大速度と最大加速度を求める。
【0149】
パラメータ生成部102は、基準距離について、予め定めた移動時間毎の、パラメータおよび最大速度と最大加速度をデータベース103に供給する。
【0150】
ステップS14において、データベース103は、
図5を参照して説明したように、基準距離について、予め定めた移動時間毎の、パラメータおよび最大速度と最大加速度を記憶して、パラメータの記憶の処理は終了する。
【0151】
このように、データベース103に、基準距離について、移動時間毎に、パラメータおよび最大速度と最大加速度を記憶するようにしたので、パラメータを可動部の移動ごとに計算する必要がなくなる。
【0152】
図7は、駆動制御の処理を説明するフローチャートである。ステップS31において、パラメータ決定部104は、オペレータに操作されるキーボード15である入力部から入力される定格最大速度および定格最大加速度を取得するか、または、予め記憶部若しくはバッファなどにデータとして格納されているかまたはプログラムのパラメータとして格納されている値を読み出すことにより、定格最大速度および定格最大加速度を取得する。ステップS32において、パラメータ決定部104は、データベース103から、必要なパラメータおよび最大速度と最大加速度を読み出す。
【0153】
ステップS33において、パラメータ決定部104は、可動部が順次到達すべき位置を指示するシーケンスプログラム(加工プログラムの一例)から、次に可動部が到達すべき位置を読み出し、現在の可動部の位置から次の位置への移動距離を取得する。なお、コンピュータ12がリアルタイムに次に可動部が到達すべき位置を計算し、パラメータ決定部104が、現在の可動部の位置からその計算された次の位置への移動距離を取得するようにしてもよい。
【0154】
ステップS34において、パラメータ決定部104は、基準距離に対する移動距離の比率を、データベース103から読み出したパラメータおよび最大速度と最大加速度に乗じる。例えば、移動距離が1.5mである場合、基準距離は1mなので、パラメータ決定部104は、1.5をパラメータおよび最大速度と最大加速度に乗じる。ステップS35において、パラメータ決定部104は、定格最大速度および定格最大加速度以下の最大速度および最大加速度となるパラメータを決定する。ここで、定格最大速度および定格最大加速度と比較される最大速度および最大加速度は、基準距離に対する移動距離の比率が乗じられたものであり、決定されるパラメータもまた基準距離に対する移動距離の比率が乗じられたものである。パラメータ決定部104は、決定したパラメータを軌道計算部105に供給する。決定されるパラメータは、所定の移動時間に対するものである。
【0155】
ステップS36において、軌道計算部105は、決定されたパラメータから軌道を計算する。すなわち、例えば、軌道計算部105は、パラメータ決定部104において決定されたパラメータを式(8)に代入して、制振加減速軌道を計算する。
【0156】
図8は、抑制すべき周波数(共振周波数)を10.5Hzとした場合に、軌道計算部105において計算される、定速区間を含まない制振加減速軌道の例を示す図である。
図8(A)は、加速度軌道を示し、
図8(B)は、速度軌道を示し、
図8(C)は、位置軌道を示し、
図8(D)は、式(26)により求められる振幅スペクトルを示す。
【0157】
図8(A)に示される加速度軌道と
図18(A)に示されるS字加減速軌道の加速度軌道とを比較すると、独特の加減速パターンとなっていることがわかる。また、
図8(D)から明らかなような、10.5Hzの振幅スペクトルが抑制されていることがわかる。
【0158】
図9は、抑制すべき周波数(共振周波数)を10.5Hzとした場合に、軌道計算部105において計算される、終端速度を指定した制振加減速軌道の例を示す図である。
図9(A)は、加速度軌道を示し、
図9(B)は、速度軌道を示し、
図9(C)は、位置軌道を示し、
図9(D)は、式(31)により求められる振幅スペクトルを示す。
【0159】
図9(A)に示される加速度軌道と従来の加減速パターンとは明らかに異なっていることがわかる。また、
図9(D)から明らかなような、10.5Hzの振幅スペクトルが抑制されていることがわかる。また、
図9(C)から、T
a=1/9sにおける位置がT
a/2であることがわかる。
【0160】
図7に戻り、ステップS37において、分解加速度制御部106は、分解加速度制御により、計算された軌道からサーボアンプユニット51−1および51−2にトルクを指示する。
【0161】
軌道は、移動時間について計算され、その計算された軌道に従って、分解加速度制御により、可動部の動きが制御されるので、タクトタイムが変化することはない。
【0162】
ステップS38において、パラメータ決定部104は、可動部が次の位置に移動するか否かを判定し、次の位置に移動すると判定された場合、ステップS33の手続きに戻り、次の軌道について、上述した処理を繰り返す。ステップS38において、次の位置に移動しないと判定された場合、軌道を計算する必要はないので、駆動制御の処理は終了する。
【0163】
このように得られる制振加減速軌道とS字加減速軌道とを比較する。
図10は、制振加減速軌道とS字加減速軌道との例を比較する図である。
図11は、シミュレーションによる、制振加減速軌道とS字加減速軌道とにおける、筐体の振動の例を示す図である。
図10および
図11において、実線は、制振加減速軌道を示し、点線は、従来のS字加減速軌道を示す。
【0164】
図10(A)は、加速度軌道を示し、
図10(B)は、速度軌道を示し、
図10(C)は、位置軌道を示し、
図10(D)は、振幅スペクトルを示す。
【0165】
図10から、制振加減速軌道において、S字加減速軌道に比較して、細かい加減速が行われていることがわかる。制振加減速軌道において、この場合の共振周波数である、13.3Hzの成分が押さえられているのに対して、S字加減速軌道においては、13.3Hzの成分が含まれている。
【0166】
図11の、t=0sから0.2sに可動部の加減速による筐体の反動が現れている。従来のS字加減速軌道を利用すると、可動部の制止後に筐体の残留振動が見られるが、制振加減速軌道を利用すると、残留振動は現れない。可動部の1回の加減速で残留振動が抑制できるということは、その後再度加減速が行われても、残留振動と新たな振動とが助け合って振動の振幅が増大する、いわゆる共振現象が起きないことを意味する。
【0167】
このように、制振加減速軌道を用いることで、振動が抑制できる。
【0168】
ここで、振動そのものをシミュレーションにより求めて比較する。
図12は、傾きを単位として可動部をS字加減速軌道により移動させたときの振動を表す図である。
図12の縦軸は、ダイピッカ1(
図1)の側板の鉛直方向の傾きの角度を示し、横軸は時間を示している。
図13は、傾きを単位として制振加減速軌道による振動を表す図である。
図12および
図13を比較すると、振動が明らかに低減していることがわかる。
【0169】
分解加速度制御により、制御すると説明したが、PID制御を用いるようにしてもよい。
【0170】
図14は、S字加減速軌道を用いた場合、制振加減速軌道と分解加速度制御を用いた場合、および制振加減速軌道とPID制御を用いた場合の筐体の振動を比較する図である。
図14(A)は、S字加減速軌道を用いた場合に生じる筐体の振動を示す図である。
図14(B)は、制振加減速軌道と分解加速度制御を用いた場合に生じる筐体の振動を示す図である。
図14(C)は、制振加減速軌道とPID制御を用いた場合に生じる筐体の振動を示す図である。
【0171】
制振加減速軌道と分解加速度制御を用いると、S字加減速軌道を用いた場合に比較すると、振動は極めて小さくなるが、制振加減速軌道とPID制御を用いた場合でも、S字加減速軌道を用いた場合に比較すると、振動は十分に小さくなる。
【0172】
図15は、S字加減速軌道を用いた場合、制振加減速軌道と分解加速度制御を用いた場合、および制振加減速軌道とPID制御を用いた場合のそれぞれの、筐体の振動とタクトタイムとの関係を示す図である。
図15において、菱形は、S字加減速軌道を用いた場合の筐体の振動とタクトタイムを示し、四角は、制振加減速軌道と分解加速度制御を用いた場合の筐体の振動とタクトタイムを示し、三角は、制振加減速軌道とPID制御を用いた場合の筐体の振動とタクトタイムを示す。
【0173】
図15から、同じタクトタイムであっても、制振加減速軌道と分解加速度制御を用いると、S字加減速軌道を用いた場合に比較すると、振動は極めて小さくなることがわかる。また、同じタクトタイムであっても、制振加減速軌道とPID制御を用いた場合、S字加減速軌道を用いた場合に比較すると、振動は十分に小さくなることがわかる。
【0174】
なお、アクチュエータにサーボモータを用いる場合を説明したが、アクチュエータにパルスモータを採用するようにしてもよい。
図16は、コンピュータ12およびチップ供給部33の構成の他の例を説明するブロック図である。コンピュータ12には、パルスモータコントロールユニット151が、出力部77として設けられる。
【0175】
チップ供給部33のX軸は、パルスモータ152−1、ボールネジ53−1、およびリニアガイド54−1からなる。また、チップ供給部33のY軸は、パルスモータ152−2、ボールネジ53−2、およびリニアガイド54−2からなる。ボールネジ53−1、リニアガイド54−1、ボールネジ53−2、およびリニアガイド54−2は、
図3に示す場合と同様なので、その説明は省略する。
【0176】
パルスモータコントロールユニット151は、駆動するためのパルスをパルスモータ152−1およびパルスモータ152−2に供給する。パルスモータ152−1およびパルスモータ152−2の軸は、パルスモータコントロールユニット151からのパルス毎に、時計回りまたは反時計回りに、所定の角度だけ回転する。
【0177】
以上のように、新たなハードウェアを必要とせず、タクトタイムを変化させることなく、振動を抑制することができる。
【0178】
なお、直交座標系の直交ロボットを例に説明したが、円筒座標系、極座標系、または球座標系であってもよく、また、軸に対してリンクの角度を変化させる回転関節型を採用してもよい。また、いわゆるスカラロボットであってもよい。さらに、アクチュエータの駆動源は、いわゆる電動に限らず、油圧など他の駆動源を採用することもできる。
【0179】
また以上においては、式(8)により制振加減速軌道を計算するものとしたが、式(34)を使って計算することもできる。速度軌道は、式(34)の積分したもの、位置軌道は速度軌道をさらに積分したものを用いて計算することができる。
【0181】
式(34)中、
【数61】
はPaley順序のWalsh 関数である。
【0182】
すなわち、
【数62】
の2進法展開{x
j}である式(35)と、整数kの2進法展開{k
j}である式(36)とを使って式(37)のように表される。
【0183】
【数63】
・・・(35)
【数64】
・・・(36)
【数65】
・・・(37)
【0184】
定速区間を含まない軌道では、移動時間をTとすると、式(38)で表される位置決めに関する境界条件を満たす。
【0186】
式(34)で表される、パラメータを含む加減速軌道が、式(38)で表される、位置決めに関する境界条件、および式(13)で表される、スペクトル条件を満たすとき、そのパラメータは、式(39)を解いて求めることができる。
【0188】
ここで、
【数68】
として、
【数69】
である。
【0189】
定速区間を含まない軌道では、加速時間をT
aとすると、加速区間の加速度軌道は、T=T
aとした場合の式(34)であり、境界条件は、式(40)となる。
【0191】
式(34)で表される、パラメータを含む加減速軌道が、式(40)で表される、位置決めに関する境界条件、および式(13)で表される、スペクトル条件を満たすとき、そのパラメータは、式(41)を解いて求めることができる。
【0193】
上述した一連の処理は、ハードウェアにより実行することもできるし、ソフトウエアにより実行することもできる。一連の処理をソフトウエアにより実行する場合には、そのソフトウエアを構成するプログラムが、専用のハードウェアに組み込まれているコンピュータ、または、各種のプログラムをインストールすることで、各種の機能を実行することが可能な、例えば汎用のパーソナルコンピュータなどに、プログラム記録媒体からインストールされる。
【0194】
図19は、コンピュータ12のハードウェアの構成例を示すブロック図である。
【0195】
コンピュータ12において、CPU(Central Processing Unit)71,ROM(Read Only Memory)72,RAM(Random Access Memory)73は、バス74により相互に接続されている。
【0196】
バス74には、さらに、入出力インタフェース75が接続されている。入出力インタフェース75には、デジタル入力カード、キーボード15、A/D(analog to digital)変換カード、マウス、マイクロホンなどよりなる入力部76、モーションコントローラ、デジタル出力カード、D/Aカード、モニタ14、スピーカなどよりなる出力部77、ハードディスクや不揮発性のメモリなどよりなる記憶部78、ネットワークインタフェースなどよりなる通信部79、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、或いは半導体メモリなどのリムーバブルメディア81を駆動するドライブ80が接続されている。
【0197】
以上のように構成されるコンピュータでは、CPU71が、例えば、記憶部78に記憶されているプログラムを、入出力インタフェース75及びバス74を介して、RAM73にロードして実行することにより、後述の一連の処理が行われる。
【0198】
コンピュータ(CPU71)が実行するプログラムは、例えば、磁気ディスク(フレキシブルディスクを含む)、光ディスク(CD-ROM(Compact Disc-Read Only Memory),DVD(Digital Versatile Disc)等)、光磁気ディスク、もしくは半導体メモリなどよりなるパッケージメディアであるリムーバブルメディア81に記録して、あるいは、ローカルエリアネットワークなどの伝送媒体を介して提供される。
【0199】
そして、プログラムは、リムーバブルメディア81をドライブ80に装着することにより、入出力インタフェース75を介して、記憶部78に記憶することで、コンピュータにインストールすることができる。また、プログラムは、有線または無線の伝送媒体を介して、通信部79で受信し、記憶部78に記憶することで、コンピュータにインストールすることができる。その他、プログラムは、ROM72や記憶部78にあらかじめ記憶しておくことで、コンピュータにあらかじめインストールしておくことができる。
【0200】
なお、コンピュータが実行するプログラムは、本明細書で説明する順序に沿って時系列に処理が行われるプログラムであっても良いし、並列に、あるいは呼び出しが行われたとき等の必要なタイミングで処理が行われるプログラムであっても良い。
【0201】
また、本発明の実施の形態は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。