特許第5710380号(P5710380)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5710380
(24)【登録日】2015年3月13日
(45)【発行日】2015年4月30日
(54)【発明の名称】電流検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 15/18 20060101AFI20150409BHJP
【FI】
   G01R15/18 C
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-116505(P2011-116505)
(22)【出願日】2011年5月25日
(65)【公開番号】特開2012-247191(P2012-247191A)
(43)【公開日】2012年12月13日
【審査請求日】2014年4月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000227180
【氏名又は名称】日置電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104787
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 伸司
(72)【発明者】
【氏名】池田 健太
(72)【発明者】
【氏名】山岸 君彦
【審査官】 柳 重幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−204163(JP,A)
【文献】 特開平06−167516(JP,A)
【文献】 特開2004−257905(JP,A)
【文献】 特開2006−300915(JP,A)
【文献】 特開2007−057294(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 15/00−17/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円環状の磁気コアと、当該磁気コアに組み込まれたフラックスゲートセンサ素子を有して当該磁気コアに挿通された測定対象電線に流れる電流の電流値に比例して振幅が変化する検出信号を出力するフラックスゲート型磁気センサと、前記磁気コアの外表面に導線を複数層に巻回して構成された帰還巻線と、前記フラックスゲートセンサ素子に励磁信号を出力する信号生成部と、前記検出信号を入力すると共に当該検出信号の振幅を低下させる駆動電流を前記帰還巻線に供給する駆動部と、前記駆動電流の電流路内に配設されて当該駆動電流を電圧に変換して出力する検出抵抗とを備えて、前記検出抵抗によって変換された前記電圧を前記測定対象電線に流れる電流の電流値として検出する電流検出装置であって、
前記帰還巻線には、巻始め端および巻き終わり端のうちの一方から他方に向かう前記駆動電流が供給されると共に、当該帰還巻線は、中間層の部位において前記巻始め端側の第1帰還巻線と前記巻き終わり端側の第2帰還巻線とに分割され、
前記検出抵抗は、前記第1帰還巻線および前記第2帰還巻線における前記中間層の部位に位置する2つの端部から引き出された一対の引き出し線間に接続されている電流検出装置。
【請求項2】
前記第1帰還巻線と前記第2帰還巻線は、同じ巻線数で巻回されている請求項1記載の電流検出装置。
【請求項3】
前記第1帰還巻線と前記第2帰還巻線は、同じ巻線抵抗値となるように巻回されている請求項1記載の電流検出装置。
【請求項4】
前記駆動部は、前記検出信号を非反転して出力するボルテージフォロワ回路と、前記検出信号を反転して出力する反転増幅回路とで構成されて、前記ボルテージフォロワ回路からの前記駆動電流を前記帰還巻線の一方の端部に供給すると共に前記反転増幅回路からの前記駆動電流を前記帰還巻線の他方の端部に供給する請求項1から3のいずれかに記載の電流検出装置。
【請求項5】
前記第1帰還巻線および前記第2帰還巻線には、共振防止用抵抗が並列にそれぞれ接続されている請求項1から4のいずれかに記載の電流検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラックスゲート型磁界センサを備えて測定対象電線に流れる電流を検出する電流検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の電流検出装置として、本願出願人は下記特許文献1に開示された電流検出装置(貫通型電流センサ)を既に提案している。この電流検出装置は、円環状に形成された2つのフラックスゲート型磁界センサ(フラックスゲートセンサ素子)を絶縁層を介在させた状態で二枚重ねにし、この二枚重ねの状態のフラックスゲート型磁界センサを円環状のメインコア内に収納し、このメインコアの外表面の全周にわたり帰還巻線を均等に巻回して構成されている。
【0003】
また、この特許文献1の図8に記載されているように、この電流検出装置では、三角波励磁回路が、2つのフラックスゲート型磁界センサに位相の反転した励磁信号を供給し、差動増幅回路が、各フラックスゲート型磁界センサに発生する電圧の差分電圧を増幅する。また、同期検波回路が、差動増幅回路から出力される信号を励磁信号の2倍の周波数の基準信号で同期検波して、測定対象電線(被測定導体)に流れる電流に比例する信号を検出し、増幅部が、この検出された信号に基づいて駆動電流を生成して帰還巻線にその一端側から供給する。また、帰還巻線の他端側とグランドとの間に配設された検出抵抗が、この帰還巻線に供給されている駆動電流を電圧に変換し、この電圧を増幅部が増幅することにより、測定対象電線に流れる電流を示す信号として出力する。
【0004】
この構成の電流検出装置では、磁気検出手段としてメインコア内に収納されているフラックスゲート型磁界センサと、メインコアに均等に巻回されている帰還巻線とは、全周対称構造のもとで配置されているので、メインコア内に挿通される測定対象電線(被測定導体)の位置の影響や、外部磁界の影響を極く小さなものとすることが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−300915号公報(第9−12頁、第5−8図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記の電流検出装置には、以下の改善すべき課題が存在している。すなわち、上記の電流検出装置では、帰還巻線の他端側は、検出抵抗を介してグランドに接続されているが、帰還巻線は一般的にメインコアの外表面に多層に巻回されて構成されるため、帰還巻線の他端側は、最内層の端部または最外層の端部のうちのいずれかとなる。
【0007】
この場合、帰還巻線の最外層の端部を上記した帰還巻線の他端側として検出抵抗に接続する構成を採用したときには、帰還巻線の最外層は最内層と比べて、測定対象電線に近接した状態となるため、測定対象電線との間の結合容量も大きくなることから、測定対象電線に重畳している同相電圧ノイズが結合容量を介して検出抵抗に伝わり易くなっている。このため、この構成(帰還巻線の最外周の端部を他端側として検出抵抗に接続する構成)を採用した電流検出装置には、同相電圧ノイズの影響に起因して、測定対象電線に流れる電流の検出精度が低下する場合があるという改善すべき課題が存在している。
【0008】
一方、帰還巻線の最内層の端部を上記した帰還巻線の他端側として検出抵抗に接続する構成を採用したときには、帰還巻線の最内層は最外層と比べて、メインコア内に配設されているフラックスゲート型磁界センサに近いため、フラックスゲート型磁界センサに供給されている励磁信号の信号成分などのノイズ成分が検出抵抗に伝わり易くなっている。このため、この構成(帰還巻線の最内周の端部を他端側として検出抵抗に接続する構成)を採用した電流検出装置にも、励磁信号の信号成分などのノイズ成分の影響に起因して、測定対象電線に流れる電流の検出精度が低下する場合があるという改善すべき課題が存在している。
【0009】
本発明は、かかる課題を改善すべくなされたものであり、測定対象電線に流れる電流の検出精度の低下を防止し得る電流検出装置を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成すべく請求項1記載の電流検出装置は、円環状の磁気コアと、当該磁気コアに組み込まれたフラックスゲートセンサ素子を有して当該磁気コアに挿通された測定対象電線に流れる電流の電流値に比例して振幅が変化する検出信号を出力するフラックスゲート型磁気センサと、前記磁気コアの外表面に導線を複数層に巻回して構成された帰還巻線と、前記フラックスゲートセンサ素子に励磁信号を出力する信号生成部と、前記検出信号を入力すると共に当該検出信号の振幅を低下させる駆動電流を前記帰還巻線に供給する駆動部と、前記駆動電流の電流路内に配設されて当該駆動電流を電圧に変換して出力する検出抵抗とを備えて、前記検出抵抗によって変換された前記電圧を前記測定対象電線に流れる電流の電流値として検出する電流検出装置であって、前記帰還巻線には、巻始め端および巻き終わり端のうちの一方から他方に向かう前記駆動電流が供給されると共に、当該帰還巻線は、中間層の部位において前記巻始め端側の第1帰還巻線と前記巻き終わり端側の第2帰還巻線とに分割され、前記検出抵抗は、前記第1帰還巻線および前記第2帰還巻線における前記中間層の部位に位置する2つの端部から引き出された一対の引き出し線間に接続されている。
【0011】
また、請求項2記載の電流検出装置は、請求項1記載の電流検出装置において、前記第1帰還巻線と前記第2帰還巻線は、同じ巻線数で巻回されている。
【0012】
また、請求項3記載の電流検出装置は、請求項1記載の電流検出装置において、前記第1帰還巻線と前記第2帰還巻線は、同じ巻線抵抗値となるように巻回されている。
【0013】
また、請求項4記載の電流検出装置は、請求項1から3のいずれかに記載の電流検出装置において、前記駆動部は、前記検出信号を非反転して出力するボルテージフォロワ回路と、前記検出信号を反転して出力する反転増幅回路とで構成されて、前記ボルテージフォロワ回路からの前記駆動電流を前記帰還巻線の一方の端部に供給すると共に前記反転増幅回路からの前記駆動電流を前記帰還巻線の他方の端部に供給する。
【0014】
また、請求項5記載の電流検出装置は、請求項1から4のいずれかに記載の電流検出装置において、前記第1帰還巻線および前記第2帰還巻線には、共振防止用抵抗が並列にそれぞれ接続されている。
【発明の効果】
【0015】
請求項1記載の電流検出装置では、磁気コアの外表面に導線を複数層に巻回して構成された帰還巻線が、その中間層の部位において巻始め端側の第1帰還巻線と巻き終わり端側の第2帰還巻線とに分割され、検出抵抗が、第1帰還巻線および第2帰還巻線における中間層に位置する2つの端部から引き出された一対の引き出し線間に接続されている。
【0016】
したがって、この電流検出装置によれば、測定対象電線に発生する同相電圧によるノイズが測定対象電線に最も近い第2帰還巻線の最外層に結合容量を介して伝播したとしても、このノイズが検出抵抗に伝播するまでの間に第2帰還巻線の巻線抵抗で十分に減衰させることができて、このノイズ低減用の静電シールド構造を不要にすることができると共に、フラックスゲート型磁気センサにおいて発生するノイズがこの磁気センサのフラックスゲートセンサ素子に最も近い第1帰還巻線の最内層から伝播したとしても、このノイズが検出抵抗に伝播するまでの間に第1帰還巻線の巻線抵抗で十分に減衰させることができる。これにより、この電流検出装置によれば、測定対象電線に流れる電流の検出精度が上記の各ノイズの影響を受けて低下する事態を防止することができる結果、この電流を高精度で検出することができる。
【0017】
請求項2記載の電流検出装置によれば、帰還巻線を巻回数が同一の第1帰還巻線と第2帰還巻線とに分割したことにより、第1帰還巻線および第2帰還巻線の各巻線抵抗値をほぼ同じに揃えることができるため、測定対象電線に発生する同相電圧によるノイズと、フラックスゲート型磁気センサにおいて発生するノイズとを各巻線抵抗でほぼ均等に低減することができる。また、第1帰還巻線と第2帰還巻線の作製に際して、それぞれの巻回数が同じになるように管理するだけでよいため、巻線抵抗値のほぼ揃った状態に容易に作製することができる。
【0018】
請求項3記載の電流検出装置によれば、各巻線抵抗値が同じになるように第1帰還巻線と第2帰還巻線とを巻回したことにより、測定対象電線に発生する同相電圧によるノイズと、フラックスゲート型磁気センサにおいて発生するノイズとを巻線抵抗値の等しい各巻線抵抗でより均等に低減することができる。
【0019】
請求項4記載の電流検出装置によれば、ボルテージフォロワ回路と反転増幅回路とで駆動部を構成したことにより、帰還巻線全体に印加される駆動信号の振幅を大きくして、駆動電流を増加させることができるため、電流検出装置のダイナミックレンジを広くすることができる
【0020】
請求項5記載の電流検出装置によれば、第1帰還巻線および第2帰還巻線にそれぞれ並列に共振防止用抵抗を接続したことにより、電流検出装置の周波数特性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】電流検出装置1の構成図である。
図2図1におけるW−W線断面図である。
図3】駆動部6、帰還巻線4、検出抵抗7および差動検出部8の回路図である。
図4】駆動部6A、帰還巻線4、検出抵抗7および差動検出部8の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して、電流検出装置の実施の形態について説明する。
【0023】
電流検出装置1は、図1に示すように、円環状の磁気コア2、フラックスゲート型磁気センサ3(以下、「磁気センサ3」ともいう)、帰還巻線4、信号生成部5、駆動部6、検出抵抗7および差動検出部8を備え、磁気コア2に挿通された測定対象電線11に流れる電流Iの電流値I1に比例して電圧値V1が変化する電圧信号Soを出力する。
【0024】
磁気コア2は、一例として図1,2に示すように、磁気コア2の周方向に沿って磁気コア2の内部に形成された空隙21内に、磁気センサ3を構成する後述のフラックスゲートセンサ素子31が収納されて構成されている。
【0025】
磁気センサ3は、一例として図1,2に示すように、2つのフラックスゲートセンサ素子31a,31b(以下、特に区別しないときには「センサ素子31」ともいう)、差動増幅部32、および同期検波部33を備えている。各センサ素子31は、図示はしないが、一例として、同一形状に形成された円環状の絶縁基材の表面に検出巻線が同じ巻回数だけ巻回されてそれぞれ構成されている。また、各センサ素子31は、互いの検出巻線の巻線方向が互いに逆向きとなるように直列に接続され、かつ、図2に示すように、互いに重ね合わされた状態で磁気コア2の空隙21内に配設されている(磁気コア2に組み込まれている)。また、直列に接続された2つの検出巻線の各非接続端部(互いに接続されない側の端部)には引き出し線31c,31dがそれぞれ接続されると共に、各検出巻線の接続端部(互いに接続さる側の端部)には引き出し線31eが接続されて、2つの検出巻線は、各引き出し線31c,31d,31eを介して差動増幅部32に接続されている。
【0026】
この構成により、各センサ素子31a,31bは、信号生成部5から出力される後述の励磁電流I2(一定の周波数fの交流電流)が供給されているときに、互いの位相が反転する検出電圧Va,Vbをそれぞれの検出巻線間に発生させると共に、各検出電圧Va,Vbを各引き出し線31c,31d,31eを介して差動増幅部32に出力する。
【0027】
差動増幅部32は、図1に示すように、各センサ素子31に各引き出し線31c,31d,31eを介して接続されて、各センサ素子31から出力される検出電圧Va,Vbを入力すると共に、その差分電圧(Va−Vb)を検出する。また、差動増幅部32は、検出した差分電圧(Va−Vb)を増幅して、差分信号S1として出力する。磁気コア2に挿通されている測定対象電線11に電流Iが流れているときには、測定対象電線11の周囲に発生している磁界によって磁気コア2内の磁束が変化し、これに伴って各検出電圧Va,Vbの振幅が変化する。このため、差分電圧(Va−Vb)および差分信号S1は、励磁電流I2の2倍の周波数(2f)の信号成分が電流Iの振幅によって変調された振幅変調信号となる。
【0028】
同期検波部33は、差動増幅部32から出力される差分信号S1を、信号生成部5から出力される後述の同期信号S2(励磁電流I2に同期した周波数(2f)の矩形波信号)で同期検波することにより、測定対象電線11に流れる電流Iの電流値I1に比例して振幅が変化する検出信号S3を出力する。
【0029】
帰還巻線4は、図1,2に示すように、センサ素子31を覆うようにして磁気コア2の外表面に導線41を多層に巻回して構成されている。また、帰還巻線4は、図1において模式的に示されるように、一例として、巻回方向が同一で、かつ巻回数が同一の2つの第1帰還巻線4aおよび第2帰還巻線4bに分割されている。
【0030】
この場合、図2に示すように、第1帰還巻線4aは、磁気コア2に最も近い最内層に一端部(帰還巻線4の巻始め端部)Aから、帰還巻線4の中間層に位置する他端部(第1端部)Bまでの導線41によって構成されている。つまり、第1帰還巻線4aは、帰還巻線4における巻始め端側の巻線として構成されている。
【0031】
一方、第2帰還巻線4bは、帰還巻線4の中間層に位置する一端部(第2端部)Cから、磁気コア2から最も遠い最外層に位置する端部(帰還巻線4の巻き終わり端部)Dまでの導線41によって構成されて、第1帰還巻線4aの上層に形成されている。つまり、第2帰還巻線4bは、帰還巻線4における巻き終わり端側の巻線として構成されている。なお、図示はしないが、一例として、導線41の表面には、絶縁層が形成されているため、導線41の隣接部同士間、および第1帰還巻線4aと第2帰還巻線4bとの間は、電気的に絶縁された状態が維持されている。
【0032】
このようにして形成された第1帰還巻線4aおよび第2帰還巻線4bは、第2帰還巻線4bが第1帰還巻線4aの上層に形成されているため、巻回数が同一であっても互いの長さは厳密には相違しており、この例では、上層側の第2帰還巻線4bの方が下層側の第1帰還巻線4aよりも長い状態となっている。このため、第1帰還巻線4aおよび第2帰還巻線4bは、同一(抵抗率の同じ)の導線41で形成されているものの、正確には、第2帰還巻線4bの巻線抵抗値の方が第1帰還巻線4aの巻線抵抗値よりも大きい状態となっている。
【0033】
しかしながら、第1帰還巻線4aおよび第2帰還巻線4bの巻回数は、一般的には10数ターン以上に設定されるため、第1帰還巻線4aおよび第2帰還巻線4bの各巻線抵抗値の差分は、第1帰還巻線4a全体の巻線抵抗値や第2帰還巻線4b全体の巻線抵抗値と比較して、十分に小さいものとなる。このため、同一の導線41を使用して、第1帰還巻線4aおよび第2帰還巻線4bを同一の巻回数に形成することで、第1帰還巻線4aおよび第2帰還巻線4bの各巻線抵抗値はほぼ同じ値に揃えられている。
【0034】
また、第1帰還巻線4aの一端部Aには第1引き出し線42が接続されて帰還巻線4の外部に引き出され、第1帰還巻線4aの他端部Bには第2引き出し線43が接続されて帰還巻線4の外部に引き出されている。また、第2帰還巻線4bの一端部Cには第3引き出し線44が接続されて帰還巻線4の外部に引き出され、第2帰還巻線4bの他端部Dには第4引き出し線45が接続されて帰還巻線4の外部に引き出されている。
【0035】
また、図1に示すように、第1帰還巻線4aと第2帰還巻線4bとは、互いの引き出し線43,44間に検出抵抗7が接続されることにより、互いが検出抵抗7を介して直列接続されて、全体として1つの帰還巻線4として構成されている。また、第1帰還巻線4aの第1引き出し線42は、駆動部6に接続され、第2帰還巻線4bの第4引き出し線45は、基準電位(回路グランド)に接続されている。
【0036】
信号生成部5は、一定周波数fの交流電流である励磁信号としての励磁電流I2を生成して、センサ素子31に出力する。また、信号生成部5は、励磁電流I2に同期した周波数(2f)の信号を生成して同期信号S2として同期検波部33に出力する。
【0037】
駆動部6は、磁気センサ3の同期検波部33から出力される検出信号S3を入力すると共に駆動信号S4に増幅して、帰還巻線4(第1帰還巻線4の一端部A側)に出力する。本例では、一例として、駆動部6は、図3に示すように、ボルテージフォロワ回路で構成されて、増幅した検出信号S3を非反転の状態で駆動信号S4に増幅して出力する。この場合、帰還巻線4には、駆動部6から駆動信号S4が出力(印加)されることにより、駆動電流Idが流れる。このため、磁気コア2内には、駆動電流Idが帰還巻線4を流れることによって、磁束が発生する。駆動部6は、この駆動電流Idが帰還巻線4を流れることによって磁気コア2に発生する磁束で、測定対象電線11に電流Iが流れることによって磁気コア2に発生する磁束を打ち消すように、つまり、磁気センサ3から出力される検出信号S3の振幅を低下させる(ゼロに近づける)ように、駆動信号S4の振幅(電圧)を制御する。
【0038】
検出抵抗7は、図1,3に示すように、帰還巻線4を含む駆動電流Idの電流路内に配設されて、帰還巻線4に流れる駆動電流Idを電圧Vdに変換する。本例では、上記したように、検出抵抗7は、帰還巻線4を構成する第1帰還巻線4aと第2帰還巻線4bとの間に配設されている。差動検出部8は、検出抵抗7に接続されて、この検出抵抗7に両端間電圧として発生する電圧Vdを検出すると共に、増幅して電圧信号Soとして出力する。
【0039】
以上のようにして構成された電流検出装置1は、磁気センサ3を使用したゼロフラックス方式の電流検出装置として機能する。
【0040】
次に、電流検出装置1の動作について、図面を参照して説明する。
【0041】
上記したように、電流検出装置1では、信号生成部5が、帰還巻線4に対して周波数fの励磁電流I2を出力すると共に、フラックスゲート型の磁気センサ3における同期検波部33に同期信号S2を出力する。
【0042】
この状態において、磁気センサ3では、この励磁電流I2の供給を受けて作動する2つのセンサ素子31a,31bが、互いの位相が反転すると共に、測定対象電線11に流れる電流Iの電流値I1に応じて振幅が変化する検出電圧Va,Vbをそれぞれ出力する。差動増幅部32は、この検出電圧Va,Vbの差分電圧(Va−Vb)を検出して、差分信号S1を出力する。同期検波部33は、この差分信号S1を同期信号S2で同期検波することにより、測定対象電線11に流れる電流Iの電流値I1に比例して振幅が変化する検出信号S3を出力する。
【0043】
次いで、駆動部6は、磁気センサ3から出力される検出信号S3を入力すると共に、駆動信号S4に増幅して、帰還巻線4に出力することで、帰還巻線4に駆動電流Idを供給する。また、駆動部6は、検出信号S3の振幅(電圧)が低下する(ゼロに近づく)ように、駆動信号S4の振幅(電圧)を制御する(つまり、駆動電流Idの電流値を制御する)。この場合、検出信号S3の振幅(電圧)がゼロになっている状態では、磁気コア2に発生している全磁束がゼロになっている状態、つまり、測定対象電線11に電流Iが流れることによって磁気コア2に発生する磁束が、帰還巻線4に駆動電流Idが流れることによって磁気コア2に発生する磁束を打ち消している状態となっている。つまり、駆動部6は、電流値が電流Iの電流値I1と比例する駆動電流Idを出力している状態となっている。
【0044】
続いて、帰還巻線4を構成する2つの第1帰還巻線4aおよび第2帰還巻線4b間に配設された検出抵抗7が、この駆動電流Idを電圧Vdに変換し、最後に、差動検出部8が、この電圧Vdを検出して電圧信号Soとして出力する。上記したように、駆動電流Idの電流値は電流Iの電流値I1と比例した状態に維持されているため、電流検出装置1から出力される電圧信号Soもまた、その電圧値V1(振幅)が電流Iの電流値I1に比例した信号となっている。
【0045】
また、この電流検出装置1では、上記したように、駆動電流Idを電圧Vdに変換する検出抵抗7は、多層に形成された帰還巻線4を構成する2つの第1帰還巻線4aおよび第2帰還巻線4bにおける中間層に位置する各端部B,Cから引き出された一対の引き出し線43,44間に接続されている。このため、測定対象電線11に同相電圧によるノイズが発生し、この発生したノイズが測定対象電線11に最も近い第2帰還巻線4bの最外層に結合容量を介して伝播たとしても、このノイズは第2帰還巻線4bの巻線抵抗で十分に減衰させられた状態で、検出抵抗7に達する。
【0046】
また、フラックスゲート型磁気センサである磁気センサ3において発生するノイズは、磁気センサ3に最も近い第1帰還巻線4aの最内層から帰還巻線4に伝播されるが、この磁気センサ3からのノイズは第1帰還巻線4aの巻線抵抗で十分に減衰させられた状態で、検出抵抗7に達する。
【0047】
このため、この電流検出装置1では、測定対象電線11に発生する同相電圧によるノイズ、および磁気センサ3において発生するノイズの双方の検出抵抗7への伝播が十分に低減され、その結果として、検出抵抗7に発生する電圧Vdに基づいて生成される電圧信号Soへの両ノイズの影響が十分に低減されている。
【0048】
このように、この電流検出装置1では、磁気コア2に組み込まれた磁気センサ3のセンサ素子31を覆うようにして磁気コア2の外表面に多層に巻回された帰還巻線4が、その中間層において巻始め端側の第1帰還巻線4aと巻き終わり端側の第2帰還巻線4bとに分割され、検出抵抗7が、第1帰還巻線4aおよび第2帰還巻線4bにおける中間層に位置する2つの端部B,Cから引き出された一対の引き出し線43,44間に接続されている。
【0049】
したがって、この電流検出装置1によれば、測定対象電線11に発生する同相電圧によるノイズが測定対象電線11に最も近い第2帰還巻線4bの最外層に結合容量を介して伝播したとしても、このノイズが検出抵抗7に伝播するまでの間に第2帰還巻線4bの巻線抵抗で十分に減衰させることができて、このノイズ低減用の静電シールド構造を不要にすることができると共に、磁気センサ3において発生するノイズが磁気センサ3に最も近い第1帰還巻線4aの最内層から伝播したとしても、このノイズが検出抵抗7に伝播するまでの間に第1帰還巻線4aの巻線抵抗で十分に減衰させることができる。これにより、この電流検出装置1によれば、測定対象電線11に流れる電流Iの検出精度が上記のノイズの影響を受けて低下する事態を防止することができる結果、電流Iを高精度で検出して、電流Iの電流値I1に電圧値V1が比例して変化する電圧信号Soを出力することができる。
【0050】
また、この電流検出装置1によれば、同じ導線41で形成された帰還巻線4を巻回数が同一(同じ巻回数)の第1帰還巻線4aと第2帰還巻線4bとに分割したことにより(第1帰還巻線4aと第2帰還巻線4bとに分けて形成した)ことにより、第1帰還巻線4aおよび第2帰還巻線4bの各巻線抵抗値をほぼ同じ値に揃えることができるため、測定対象電線11に発生する同相電圧によるノイズと、磁気センサ3において発生するノイズとをほぼ均等に低減することができる。また、第1帰還巻線4aと第2帰還巻線4bの作製に際して、それぞれの巻回数が同じになるように管理するだけでよいため、巻線抵抗値のほぼ揃った状態に容易に作製することができる。
【0051】
なお、上記例では、第1帰還巻線4aと第2帰還巻線4bを同一の巻回数で形成することによって、各帰還巻線4a,4bの巻線抵抗値をほぼ同じ値に簡易に揃える構成を採用しているが、同じ巻線抵抗値となるように帰還巻線4a,4bを巻回する構成、具体的には、帰還巻線4a,4bの各巻回数を微調整することにより、または一方の巻線を基準として他方の巻線の巻回数を微調整することにより、第1帰還巻線4aの巻線抵抗値と第2帰還巻線4bの巻線抵抗値とを同一に規定する構成を採用することもできる。この構成によれば、第1帰還巻線4aおよび第2帰還巻線4bの各巻線抵抗値を一致させる(同じ値に揃える)ことで、測定対象電線11に発生する同相電圧によるノイズと、磁気センサ3において発生するノイズとをより均等に低減することができる。
【0052】
また、上記した駆動部6に代えて、図4に示すように、ボルテージフォロワ回路および反転増幅回路を使用した駆動部6Aを採用することもできる。この駆動部6Aでは、ボルテージフォロワ回路と反転増幅回路の双方に検出信号S3を入力し、ボルテージフォロワ回路の出力を第1引き出し線42を介して帰還巻線4の一方の端部(第1帰還巻線4aの一端部A)に接続し、反転増幅回路の出力を第4引き出し線45を介して帰還巻線4の他方の端部(第2帰還巻線4bの他端部D)に接続する。
【0053】
この駆動部6Aによれば、ボルテージフォロワ回路が、増幅した検出信号S3を非反転の状態で帰還巻線4の一方の端部に出力することによって駆動電流を供給し、反転増幅回路が、増幅した検出信号S3を反転させて帰還巻線4の他方の端部に出力することによって駆動電流を供給するため、帰還巻線4全体に印加される駆動信号S4の振幅を大きく(一例として約2倍と大きく)して、駆動電流を増加させる(一例として約2倍に増加させる)ことができる。つまり、電流検出装置1のダイナミックレンジを広く(一例として約2倍に広く)することができる。なお、帰還巻線4、検出抵抗7および差動検出部8の構成は駆動部6を使用した構成と同一であるため、同じ符号を付して重複する説明を省略する。
【0054】
また、図3において破線で示すように、帰還巻線4から引き出した各引き出し線42,43,44,45を利用して、第1帰還巻線4aおよび第2帰還巻線4bにそれぞれ並列に共振防止用抵抗51,52を接続する構成を採用することもできる。なお、図示はしないが、図4に示す駆動部6Aを使用した構成においても同様にして、共振防止用抵抗51,52を接続することができる。この構成を採用することにより、電流検出装置1の周波数特性を改善する(作動周波数帯域をより高域まで伸ばす)ことができる。
【0055】
また、帰還巻線4を第1帰還巻線4aと第2帰還巻線4bの2つに分割する例を挙げて説明したが、図示はしないが、3つ以上の巻線に分割して、これらの巻線の間に検出抵抗7を配設する構成を採用することもできる。
【符号の説明】
【0056】
1 電流検出装置
2 磁気コア
3 磁気センサ
4 帰還巻線
4a 第1帰還巻線
4b 第2帰還巻線
5 信号生成部
6,6A 駆動部
7 検出抵抗
11 測定対象電線
31 センサ素子
43 第2引き出し線
44 第3引き出し線
I 電流
I1 電流値
I2 励磁電流
Id 駆動電流
S3 検出信号
Vd 電圧
図1
図2
図3
図4