(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ビルに設けられたエレベーターと、このエレベーターに対して異常の有無を検出する監視端末と、この監視端末と通信回線を介して遠隔的に接続される監視センター装置とを備え、前記エレベーターは、昇降路と、この昇降路内を昇降するかごと、前記昇降路及び前記かごに設けられた機器と、乗場呼び又はかご呼びの登録に応じて前記かごの運行を制御する制御装置と、この制御装置に対して前記かごの運行を制限するように指示する運行制限装置とを有する遠隔監視センターシステムにおいて、
前記監視センター装置は、
前記ビルが過去に風水害の被害を受け、浸水した階床を示す浸水階情報及び冠水した前記機器を示す冠水機器情報を含む被害の状況の詳細を風水害被災情報として記録する記録装置と、
この記録装置によって記録された前記浸水階情報及び前記冠水機器情報に基づいて、前記運行制限装置に前記かごの運行を指令する運行指令装置とを有し、
前記風水害被災情報は、
前記浸水階情報として浸水した階床を示す浸水階と、
前記冠水機器情報として冠水した機器を示す冠水機器と、
風水害に対して推奨される運転方式と、
前記運転方式を実行する優先順位を示す優先順とを含み、
前記記録装置は、前記ビルの前記エレベーターが過去に何度か風水害の被害を受けたり、あるいは過去に風水害の被害を受けた際に複数の前記機器が冠水した場合に、複数の登録履歴を記録し、
前記運行指令装置は、前記エレベーターの前記風水害被災情報に前記複数の登録履歴が存在するかどうかを判断し、前記エレベーターの前記風水害被災情報に前記複数の登録履歴が存在すると判断した場合に、前記複数の登録履歴のうち前記優先順が最優先である登録履歴の運転方式を選択することを特徴とする遠隔監視センターシステム。
【背景技術】
【0002】
一般的に、ビルに設けられたエレベーターは、地震が発生したときにその揺れを感知する地震感知器やドアの動作を制御するドア制御装置等の各種の機器を備えており、これらの機器でかごの運行やドアの動作を制御することにより、エレベーターを利用する乗客に対して円滑なサービスを提供している。
【0003】
しかしながら、上述したエレベーターに備えられる機器は昇降路やかごに設置されているので、仮にエレベーターが台風等の風雨にさらされ、昇降路内に水が入り込んだ場合には、エレベーターの機器が冠水して正常に動作しなくなる虞がある。この場合には、ドアが開かなくなって乗客がかご内に閉じ込められたり、あるいはかごが停止して乗客がエレベーターを利用できなかったりする等の不都合が生じる。
【0004】
万一、このような不都合が生じた場合には、従来より顧客からのオンコールや監視端末からの発報によってエレベーターに異常が生じた旨の情報をエレベーター保守会社のサービス拠点へ伝達し、伝達を受けた専門技術者が当該現場へ出動するようにしている。そして、専門技術者は、昇降路内の排水作業、冠水した機器の水分除去作業、又は冠水した機器の部品を新しいものと交換する交換作業等を行った後、当該エレベーターの点検運転を行って安全を確認してからエレベーターを通常運転に切り替えて復旧作業を完了している。このように、昇降路内に水が入り込んでエレベーターの機器が冠水した場合には、エレベーターのサービス性が著しく低下し、煩雑な復旧作業を必要とするので、昇降路内への浸水によるエレベーターへの影響を出来る限り抑えられるシステムや方法が要望されている。
【0005】
そこで、気象庁から配信される災害予測情報である少なくとも台風の予測進路情報と、監視端末から通報された異常検出を格納する異常検出データベースから抽出した当該台風によるエレベーター被災情報により、被災地域の推移を推定すると共に、異常検出データベースから抽出した過去のエレベーター毎の被災状況を加味して、当該台風による被災エレベーターを推定すると共に、被災を推定したエレベーターに対し、このエレベーターのかごを上方階に設けた退避階へ休止させる運転状態変更を実施するようにしたエレベーターの風水害被災現場の特定方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、他の従来技術の1つとして、乗場の冠水及び乗場から昇降路内に流下する水に対して冠水時運転を行い、冠水時の不具合を抑えたエレベーターの冠水時運転装置も提案されている(例えば、特許文献2参照)。具体的には、このエレベーターの冠水時運転装置は、各階の乗場に設けられ、昇降路内に流下する可能性のある冠水を検出する冠水検出器と、この冠水検出器の動作によって作動し、冠水発生の乗場に対するかごの通常動作を回避する冠水時運転を行う制御装置とを備えている。
【0007】
そして、この制御装置が冠水検出器の動作を介して冠水発生の乗場に対応した冠水時運転を行うことにより、乗場の冠水の程度によって重度冠水の階床よりも上方の乗場にかごを退避させたり、軽度冠水の階床への停止を阻止したりする運転を行い、乗場の冠水時に発生するエレベーターへの影響を抑制している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、特許文献1に開示された従来技術のエレベーターの風水害被災現場の特定方法では、上述したように異常検出データベースから抽出した過去のエレベーター毎の被災状況を考慮して台風による被災エレベーターを推定し、推定されたエレベーターのかごを全て上方階に設けた退避階で休止させているが、各エレベーターにおいて浸水した乗場や冠水した機器までは特定されていない。
【0010】
そのため、推定された被災エレベーターであっても、例えば下階の乗場は浸水したが、上階の乗場は浸水していなかったり、あるいは機器が全く冠水していない場合には、休止させる必要がないかごまでも退避階へ移動させることになる。特に、エレベーターが風水害を受けたときに浸水する乗場や冠水する機器は、ビルの構造や立地条件に左右されるので、台風の被災地域であってもビル内の昇降路の乗場やエレベーターの機器が全く影響を受けていないこともある。このように、推定された被災エレベーターのうち利用可能なエレベーターのかごであっても退避階で休止することになるので、エレベーターの稼働効率の低下を招く虞がある。
【0011】
また、上述した特許文献2に開示された従来技術のエレベーターの冠水時運転装置は、乗場が浸水したり、あるいはエレベーターの機器が冠水する前にかごの通常動作を回避する冠水時運転へ運転方式を切替えるものではなく、各乗場に設けられた冠水検出器によって乗場の浸水や機器の冠水が検出されてから運転方式を切替えるものである。そのため、仮に短時間に集中的な豪雨があり、昇降路内へ多量の雨水が一気に押し寄せた場合には、制御装置による運転方式の切替えが間に合わず、昇降路内へ流入する水量の増加に対応できないことが懸念されている。
【0012】
本発明は、このような従来技術の実情からなされたもので、その目的は、風水害による乗場の浸水や機器の冠水に対してかごの運行を適切に実行することができ、エレベーターの稼働効率を向上させることができる遠隔監視センターシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、本発明の遠隔監視センターシステムは、ビルに設けられたエレベーターと、このエレベーターに対して異常の有無を検出する監視端末と、この監視端末と通信回線を介して遠隔的に接続される監視センター装置とを備え、前記エレベーターは、昇降路と、この昇降路内を昇降するかごと、前記昇降路及び前記かごに設けられた機器と、乗場呼び又はかご呼びの登録に応じて前記かごの運行を制御する制御装置と、この制御装置に対して前記かごの運行を制限するように指示する運行制限装置とを有する遠隔監視センターシステムにおいて、前記監視センター装置は、前記ビルが過去に風水害の被害を受け、浸水した階床を示す浸水階情報及び冠水した前記機器を示す冠水機器情報を
含む被害の状況の詳細を風水害被災情報として記録する記録装置と、この記録装置によって記録された前記浸水階情報及び前記冠水機器情報に基づいて、前記運行制限装置に前記かごの運行を指令する運行指令装置とを有
し、前記風水害被災情報は、前記浸水階情報として浸水した階床を示す浸水階と、前記冠水機器情報として冠水した機器を示す冠水機器と、風水害に対して推奨される運転方式と、前記運転方式を実行する優先順位を示す優先順とを含み、前記記録装置は、前記ビルの前記エレベーターが過去に何度か風水害の被害を受けたり、あるいは過去に風水害の被害を受けた際に複数の前記機器が冠水した場合に、複数の登録履歴を記録し、前記運行指令装置は、前記エレベーターの前記風水害被災情報に前記複数の登録履歴が存在するかどうかを判断し、前記エレベーターの前記風水害被災情報に前記複数の登録履歴が存在すると判断した場合に、前記複数の登録履歴のうち前記優先順が最優先である登録履歴の運転方式を選択することを特徴としている。
【0014】
このように構成した本発明は、ビルが過去に風水害の被害を受け、浸水した階床を示す浸水階情報及び冠水した機器を示す冠水機器情報が記録装置によって記録されており、記録装置から浸水階情報及び冠水機器情報を取り出して参照することにより、過去の風水害に対するエレベーターの被害状況を具体的に知ることができる。例えば、ビル内の昇降路の乗場のうち浸水した階の乗場を調査し、浸水し難い階の乗場を特定したり、あるいはビルに設けられたエレベーターの機器が冠水する可能性があるかどうかを把握することができる。これにより、風水害に対して浸水し難い階の乗場間でかごを運行させたり、ビルの構造や立地条件によってエレベーターの機器が冠水し難いことが判明した場合に、かごの運行を継続させる判断を予め行うことができる。
【0015】
従って、監視センター装置は、記録装置によって記録された浸水階情報及び冠水機器情報に基づいて、運行指令装置で運行制限装置にかごの運行を指令することにより、過去の風水害に対して浸水した乗場や冠水した機器を特定した上で運行制限装置が制御装置に対してかごの運行を制限するように指示するので、風水害によって乗場が浸水したり、あるいはエレベーターの機器が冠水する前にビルに適したかごの運行を迅速に行うことができる。このように、風水害による乗場の浸水や機器の冠水に対してかごの運行を適切に実行することができ、エレベーターの稼働効率を向上させることができる。
【0016】
また、本発明に係る遠隔監視センターシステムは、前記発明において、前記運行指令装置は、前記乗場呼び及び前記かご呼びの登録のうち所定の階の登録を禁止する指令を行う登録禁止手段を含むことを特徴としている。このように構成すると、制御装置は、登録禁止手段から指令を受けて乗場呼び及びかご呼びの登録のうち所定の階の登録を禁止するので、仮に登録が禁止された所定の階の乗場で待機する乗客が乗場呼びの釦を押下したり、あるいはかご内に乗車した乗客が所定の階の乗場を指定するかご呼びの釦を押下しても、かごが所定の階の乗場へ移動することはない。従って、記録装置に記録された浸水階情報から登録禁止手段の所定の階として例えば浸水した階を設定することにより、かごが浸水した階の乗場へ移動して水に浸かることを回避できるので、かごに設けられた機器が冠水することを確実に抑えることができる。
【0017】
また、本発明に係る遠隔監視センターシステムは、前記発明において、前記運行指令装置は、前記かごを予め指定した階の乗場で停止させる指令を行う指定階乗場停止手段を含むことを特徴としている。このように構成すると、制御装置は、指定階乗場停止手段から指令を受けてかごを予め指定した階の乗場で停止させるので、風雨が治まるまでかごが浸水の影響を受け難い階の乗場で待機することができる。従って、仮に昇降路内の水嵩が急激に増しても、かごに設けられた機器が冠水して故障することを未然に防止することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の遠隔監視センターシステムは、昇降路及びかごに設けられた機器と、乗場呼び又はかご呼びの登録に応じてかごの運行を制御する制御装置と、この制御装置に対してかごの運行を制限するように指示する運行制限装置とを有している。また、監視センター装置は、ビルが過去に風水害の被害を受け、浸水した階床を示す浸水階情報及び冠水した機器を示す冠水機器情報を
含む被害の状況の詳細を風水害被災情報として記録する記録装置と、この記録装置によって記録された浸水階情報及び冠水機器情報に基づいて、運行制限装置にかごの運行を指令する運行指令装置とを有
し、風水害被災情報は、浸水階情報として浸水した階床を示す浸水階と、冠水機器情報として冠水した機器を示す冠水機器と、風水害に対して推奨される運転方式と、運転方式を実行する優先順位を示す優先順とを含み、記録装置は、ビルのエレベーターが過去に何度か風水害の被害を受けたり、あるいは過去に風水害の被害を受けた際に複数の機器が冠水した場合に、複数の登録履歴を記録し、運行指令装置は、エレベーターの風水害被災情報に複数の登録履歴が存在するかどうかを判断し、エレベーターの風水害被災情報に複数の登録履歴が存在すると判断した場合に、複数の登録履歴のうち優先順が最優先である登録履歴の運転方式を選択するようにしている。従って、記録装置に記録された浸水階情報及び冠水機器情報から過去の風水害に対して浸水した乗場や冠水した機器を特定した上で、運行指令装置から指令を受けた運行制限装置が制御装置に対してかごの運行を制限するように指示するので、風水害によって乗場が浸水したり、あるいはエレベーターの機器が冠水する前にビルに適したかごの運行を迅速に行うことができる。このように、風水害による乗場の浸水や機器の冠水に対してかごの運行を適切に実行することができ、エレベーターの稼働効率を向上させることができる。これにより、従来よりもエレベーターを利用する乗客に対して優れたサービスを提供すると共に、風水害に伴う復旧作業を行う専門技術者の現場への出動頻度を減少させることができ、専門技術者の負担を軽減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る遠隔監視センターシステムを実施するための形態を図に基づいて説明する。
【0021】
図1に示すように、本発明に係る遠隔監視センターシステムの一実施形態は、例えば10階建て(
図3参照)のビルに設けられたエレベーターAと、このエレベーターAに対して異常の有無を検出する監視端末7Aと、この監視端末7Aと通信回線23を介して遠隔的に接続される監視センター装置3とを備え、エレベーターAは、昇降路21と、この昇降路21の上部に配置された機械室11と、昇降路21の各階の乗場14に設けられた乗場側ドア13と、昇降路21内を昇降するかご16と、このかご16に設けられたかご側ドア17と、昇降路21及びかご16に設けられた機器とを備えている。
【0022】
上述した機器は、例えば乗場側ドア13が閉扉したことを検出するドアスイッチ12と、かご16上に設けられ、かご側ドア17及び各階の乗場側ドア13のうちかご16が停止した階の乗場側ドア13の開閉動作を制御するドア制御装置15とを含んでいる。また、エレベーターAは、かご16に主ロープ19を介して連結され、錘となる金属片を積層状態で積み重ねられることによってかご16と釣合いをとるカウンタウェイト20と、機械室11に設けられ、かご16及びカウンタウェイト20を昇降させる巻上機10とを有している。なお、各階の乗場14には、かご16を呼び寄せ走行させる図示しない乗場呼びの釦が設けられており、かご16内には、かご16を目的階へ走行させる図示しないかご呼びの釦が設けられている。
【0023】
さらに、エレベーターAは、機械室11に設置され、巻上機10の回転動作を制御する制御盤6Aを有している。この制御盤6Aは、上述した機器やかご16の動作を監視する監視端末7Aと、乗場呼び又はかご呼びの登録に応じてかご16の運行を制御する制御装置9Aと、監視端末7A内に格納され、制御装置9Aに対してかご16の運行を制限するように指示する運行制限装置8Aとを有している。
【0024】
そして、本実施形態では、制御装置9Aの制御プログラムが実行されることにより、巻上機10が駆動してかご16が昇降路21内を昇降するようになっている。なお、各階の乗場14のうち例えば最下階の乗場14の近くには、かご16の運行を停止させるパーキングスイッチ18が設けられている。
【0025】
このパーキングスイッチ18が入れられると、かご16の運行が停止し、パーキングスイッチ18が切られると、かご16の停止状態が解除されてかご16が通常通り運転するようになっている。また、エレベーターAでは、乗客が乗降する可能性が最も高い1階を通常待機階とし、乗場呼びとかご呼びが一定時間登録されなかった場合に、かご16を自動的に待機階へ走行して待機させ、かご16内へ乗車する乗客の待ち時間が少なくなるようにしている。
【0026】
ここで、本実施形態では、例えば
図2に示すように地域Aに3つのビルが属しており、地域B、Cにそれぞれ1つずつビルが属している。そして、地域Aにおける3つのビルのうち1つのビルに上述したエレベーターAが設けられ、地域Aにおける他の2つのビルのそれぞれにエレベーターAと同様の構成を有するエレベーターB、Cが設けられている。さらに、地域BにおけるビルにエレベーターAと同様の構成を有するエレベーターDが設けられ、地域CにおけるビルにエレベーターAと同様の構成を有するエレベーターEが設けられている。
【0027】
従って、エレベーターB〜Eの制御盤6B〜6E、監視端末7B〜7E、運行制限装置8B〜8E、及び制御装置9B〜9Eは、エレベーターAの制御盤6A、監視端末7A、運行制限装置8A、及び制御装置9Aにそれぞれ対応しており、上述したエレベーターAの構成の説明と重複する説明を省略している。
【0028】
本実施形態は、一般公衆回線23を介して接続され、エレベーターA〜Eに対して異常の有無を検出する監視端末7A〜7Eと、これらの監視端末7A〜7Eと通信回線23を介して遠隔的に接続される監視センター装置3と、この監視センター装置3に接続され、エレベーターA〜Eの保守を行う保守会社のサービス拠点である営業所1とを備えている。監視センター装置3は、各ビルが過去に風水害の被害を受け、浸水した階床を示す浸水階情報及び冠水した機器を示す冠水機器情報を記録する後述の記録装置と、この記録装置によって記録された浸水階情報及び冠水機器情報に基づいて、各エレベーターA〜Eの運行制限装置8A〜8Eにかご16の運行を指令する運行指令装置5とを有している。この運行指令装置5は、図示されないが、乗場呼び及びかご呼びの登録のうち所定の階の登録を禁止する指令を行う登録禁止手段と、かご16を予め指定した階の乗場で停止させる指令を行う指定階乗場停止手段とを含んでいる。
【0029】
上述した記録装置は、例えば地域A〜Cの各ビルが過去に被災し、各ビルの浸水階情報及び冠水機器情報を含む被害の状況の詳細を風水害被災情報として記録した風水害被災情報データベース4から構成され、風水害被災情報はエレベーターA〜Eの保守会社に管理されている。監視センター装置3は、運行指令装置5に対して風水害被災情報の入力を行うと共に、各エレベーターA〜Eの運転方式の変更を行う設定装置2Aを備えている。
【0030】
一方、営業所1は、広域ネットワーク22を介して監視センター装置3に接続され、監視センター装置3の設定装置2Aと同様に監視センター装置3の運行指令装置5に対して風水害被災情報の入力を行うと共に、各エレベーターA〜Eの運転方式の変更を行う設定装置2Bを有している。この設定装置2Bは営業所1が管理する地域A〜Cの各ビルのエレベーターA〜Eに対して設定可能なものであり、入力者が例えば各地域A〜Cの台風の通過時刻を想定してエレベーターA〜Eの運転方式の変更の開始時刻及び終了時刻を入力するようにしている。
【0031】
そして、監視センター装置3の運行指令装置5は、設定装置2A,2Bから入力された風水害被災情報及び運転方式の変更の情報を風水害被災情報データベース4に登録する処理を行うようになっている。また、運行指令装置5は、各地域A〜CのエレベーターA〜Eの運転方式の変更の開始時刻及び終了時刻が入力されると、風水害被災情報データベース4に登録された風水害被災情報を一般公衆回線23を通じて変更予定のエレベーターの監視端末へ転送する。
【0032】
ここで、地域Aの各ビルのエレベーターA〜Cが過去に風水害の被害を受けたとすると、監視センター装置3の風水害被災情報データベース4に記録される各エレベーターA〜Cの風水害被災情報24〜26は、例えば
図3に示すように風水害によって乗場14が浸水し、あるいは機器が冠水した日時を示す発生日時と、浸水階情報として浸水した階床を示す浸水階と、冠水機器情報として冠水した機器を示す冠水機器と、風水害に対して推奨される運転方式と、この運転方式を実行する優先順位を示す優先順とから構成されている。これらの発生日時、浸水階、冠水機器、運転方式、及び優先順の情報は、入力者によって設定装置2A,2Bで入力される。
【0033】
このとき、入力者は、かご16の運行を実行する上で推奨する運転方式を判断し、最適な運転方式とその優先順を決定するようにしている。従って、地域Aの各ビルのエレベーターA〜Cが過去に何度か風水害の被害を受けたり、あるいは過去に1度だけ風水害の被害を受けた際に複数の機器が冠水した場合には、エレベーターA〜Cの風水害被災情報24〜26として複数の登録履歴が風水害被災情報データベース4に記録されることになる。
【0034】
例えば、風水害被災情報データベース4には、エレベーターAの風水害被災情報24として1つの登録履歴24aが記録されており、この登録履歴24aには発生日時が2010年9月1日、浸水階が5階、及び冠水機器がドア制御装置15である旨の情報が残されている。これらの情報を入力した入力者は、運転方式として最下階から浸水階までのかご16の運行を禁止する「1〜5階のサービス休止」とする決定を行っている。また、風水害被災情報データベース4には、エレベーターAの風水害被災情報24における他の登録履歴が記録されていないので、入力者は優先順として「1〜5階のサービス休止」を最優先の「1」とする決定を行っている。
【0035】
さらに、風水害被災情報データベース4には、
図4に示すようにエレベーターBの風水害被災情報25として1つの登録履歴25aが記録されており、この登録履歴25aには発生日時が2010年8月28日、浸水階が7階、及び冠水機器がドアスイッチ12である旨の情報が残されている。これらの情報を入力した入力者は、運転方式としてかご16の待機階を最上階に変更し、かご16を最上階に移動して待機させる「全階のサービス休止」とする決定を行っている。また、風水害被災情報データベース4には、エレベーターBの風水害被災情報25における他の登録履歴が記録されていないので、入力者は優先順として「全階のサービス休止」を最優先の「1」とする決定を行っている。
【0036】
また、風水害被災情報データベース4には、
図5に示すようにエレベーターCの風水害被災情報26として2つの登録履歴26a,26bが記録されており、これらの登録履歴26a,26bには発生日時が2010年6月26日、浸水階が3階である旨の情報が残されている。そして、2つの登録履歴26a,26bのうち一方の登録履歴26aには冠水機器がドア制御装置15である旨の情報が残され、他方の登録履歴26bには冠水機器がドアスイッチ12である旨の情報が残されている。
【0037】
登録履歴26aの情報を入力した入力者は、運転方式として最下階から浸水階までのかご16の運行を禁止する「1〜3階のサービス休止」とする決定を行っている。また、登録履歴26bの情報を入力した入力者は、運転方式としてかご16の待機階を最上階に変更し、かご16を最上階に移動して待機させる「全階のサービス休止」とする決定を行っている。
【0038】
ここで、風水害被災情報データベース4には、上述したようにエレベーターCの風水害被災情報26における2つの登録履歴26a,26bが記録されているので、入力者は優先順として「1〜3階のサービス休止」及び「全階のサービス休止」のいずれか一方を最優先の「1」とし、他方を「2」とする決定を行う。このとき、仮に「全階のサービス休止」の運転方式が実行された場合には、かご16が最上階に移動して待機することにより、最下階から浸水階までのかご16の運行が必然的に禁止され、「1〜3階のサービス休止」の運転方式も実行されたことになる。そのため、入力者は、優先順として「全階のサービス休止」を「1」とし、「1〜3階のサービス休止」を「2」とする決定を行うようにしている。
【0039】
次に、本実施形態においてエレベーターの運転方式を変更するときの監視センター装置の処理動作を
図6のフローチャートに基づいて詳細に説明する。
【0040】
図6は本実施形態の動作を説明するフローチャートであり、特にエレベーターの運転方式を変更するときの監視センター装置の処理動作を説明するフローチャートである。
【0041】
本実施形態では、
図6に示すように例えば台風の接近等による大雨が予想される際に、営業所1で待機する専門技術者が設定装置2Bで地域A〜Cのうち対象とする対象地域、運転方式の変更を開始する開始時刻、及び運転方式の変更を終了する終了時刻を設定すると、この設定された情報が営業所1から監視センター装置3の運行指令装置5へ送信される(ステップ(以下、Sと記す)101)。
【0042】
次に、監視センター装置3の運行指令装置5は、手順S101において設定された情報を受信すると、対象地域内のビルのエレベーターの風水害被災情報が風水害被災情報データベース4に登録されているかどうかを検索する(S102)。対象地域内のビルのエレベーターの風水害被災情報が風水害被災情報データベース4に登録されていた場合、すなわち対象地域内のビルのエレベーターが過去に風水害の被害を受けていた場合には、運行指令装置5は、登録されたエレベーターの風水害被災情報に複数の登録履歴が存在するかどうかを判断する(S103)。
【0043】
このとき、運行指令装置5は、登録されたエレベーターの風水害被災情報に複数の登録履歴が存在すると判断した場合(S103でYES)、すなわち登録されたエレベーターが過去に何度か風水害の被害を受けたり、あるいは過去に1度だけ風水害の被害を受けたときに複数の機器が冠水した場合、優先順が最優先である「1」に設定された登録履歴の運転方式を選択する(S105)。
【0044】
手順S105において対象地域内のビルのエレベーターが例えば地域AのビルのエレベーターCである場合には、運転指令装置5は、エレベーターCの風水害被災情報26の登録履歴26a,26bのうち登録履歴26bの優先順が「1」である「全階のサービス休止」を運転方式として選択する。
【0045】
一方、手順S103において運行指令装置5は、登録されたエレベーターの風水害被災情報に複数の登録履歴が存在しないと判断した場合(S103でNO)、当該エレベーターの風水害被災情報における登録履歴の運転方式を選択する(S104)。
【0046】
ここで、手順S104において対象地域内のビルのエレベーターが例えば地域AのビルのエレベーターAである場合には、運転指令装置5は、エレベーターAの風水害被災情報24の登録履歴24aの「1〜5階のサービス休止」を運転方式として選択する。同様に、手順S104において対象地域内のビルのエレベーターが例えば地域AのビルのエレベーターBである場合には、運行指令装置5は、エレベーターBの風水害被災情報25の登録履歴25aの「全階のサービス休止」を運転方式として選択する。
【0047】
次に、運行指令装置5は、手順S104及びS105においてそれぞれ選択した登録履歴の運転方式、手順S101において設定した開始時刻、及び終了時刻を対象地域内のエレベーターの制御盤の監視端末へ送信する(S106)。従って、対象地域内のビルのエレベーターが例えば地域AのビルのエレベーターAである場合には、運行指令装置5の登録禁止手段が乗場呼び及びかご呼びの登録のうち所定の階として1〜5階の登録を禁止する指令をエレベーターAの監視端末7Aに対して行う。一方、対象地域内のビルのエレベーターが例えば地域AのビルのエレベーターB,Cである場合には、運行指令装置5の指定階乗場停止手段がかご16を予め指定した最上階の乗場で停止させる指令をエレベーターB,Cの監視端末7B,7Cに対して行う。
【0048】
そして、手順S106において登録履歴の運転方式、開始時刻、及び終了時刻が送信された後、運行指令装置5は対象地域の検索を完了したかどうかを判断する(S107)。また、手順S102において対象地域内のエレベーターの風水害被災情報が風水害被災情報データベース4に登録されていなかった場合にも、運行指令装置5は対象地域の検索を完了したかどうかを判断する(S107)。
【0049】
手順S107において運行指令装置5は対象地域の検索を完了していないと判断した場合、手順S102の動作に戻る。一方、手順S107において運行指令装置5は対象地域の検索を完了したと判断した場合、本実施形態におけるエレベーターA〜Eの運転方式を変更するときの監視センター装置3の処理動作を終了する。
【0050】
次に、本実施形態において運転方式が変更されたときのエレベーターの動作を
図7のフローチャートに基づいて詳細に説明する。
【0051】
図7は本実施形態の動作を説明するフローチャートであり、特に運転方式が変更されたときのエレベーターの動作を説明するフローチャートである。
【0052】
本実施形態では、対象地域内のビルのエレベーターにおける制御盤の監視端末は、選択された運転方式、運転方式の変更を開始する開始時刻、及び運転方式の変更を終了する終了時刻を受信すると、監視端末は現在時刻が開始時刻になるまで待機する(S201)。そして、現在時刻が開始時刻になると、監視端末の運行制限装置は、手順S104及び手順S105においてそれぞれ選択された運転方式を実行し(S202)、運転方式の変更を完了する(S203)。
【0053】
このとき、対象地域内のビルのエレベーターが例えば対象地域AのビルのエレベーターAである場合には、エレベーターAの監視端末7Aの運行制限装置8Aは、運転方式として選択された「1〜5階のサービス休止」を実行し、制御装置9Aに対してかご16の運行を6〜10階に制限するように指示する。
【0054】
同様に、対象地域内のビルのエレベーターが例えば対象地域AのビルのエレベーターB,Cである場合には、エレベーターB,Cの監視端末7B,7Cの運行制限装置8B,8Cは、運転方式として選択された「全階のサービス休止」を実行し、制御装置9B,9Cに対してかご16の運行を最上階に制限するように指示、すなわちかご16を最上階に移動して待機させるように指示する。
【0055】
手順S203において運転方式の変更が完了した後、エレベーターの監視端末は現在時刻が終了時刻になるまで待機する(S204)。このとき、現在時刻が終了時刻になったり、あるいは現在時刻が終了時刻になる前であっても台風の接近等による大雨が止み、当該エレベーターを管理する管理者がパーキングスイッチ18を投入して即遮断させるオン/オフ行った場合には(S206)、監視端末の運行制限装置はかご16の運行の制限を解除して運転方式の変更を終了し(S205)、制御装置に対して通常運転に行うように指示する(S207)。そして、制御装置は、かご16を運転方式が変更される前に待機していた階の乗場へ移動させ、運転方式が変更されたときのエレベーターの動作を終了する。
【0056】
このように構成した本実施形態によれば、地域A〜Cの各ビルが過去に被災し、各ビルの浸水階情報及び冠水機器情報を含む被害の状況の詳細が風水害被災情報として風水害被災情報データベース4に記録されており、この風水害被災情報データベース4から浸水階情報及び冠水機器情報を取り出して参照することにより、各エレベーターA〜Eにおいて過去の風水害によって浸水した乗場や冠水した機器を特定することができる。
【0057】
例えば、風水害被災情報データベース4に記録されたエレベーターAの風水害被災情報24の登録履歴24aから浸水階が5階、冠水機器がドア制御装置15に特定されるので、営業所1の専門技術者が浸水階よりも上方の6〜10階の間でかご16を運行させる判断を予め行うことができる。これにより、運行指令装置5が登録履歴24aの「1〜5階のサービス休止」の運転方式を運行制限装置8Aへ指令することにより、かご16が浸水階以下の1〜5階へ移動してかご16上のドア制御装置15が冠水し、乗場側ドア13及びかご側ドア17の開閉動作に異常が生じることを防止することができる。
【0058】
また、エレベーターBの風水害被災情報25の登録履歴25aから浸水階が7階、冠水機器がドアスイッチ12に特定されるので、営業所1の専門技術者がかご16を最上階に移動して待機させる判断を予め行うことができる。これにより、運行指令装置5が登録履歴25aの「全階のサービス休止」の運転方式を運行制限装置8Bへ指令することにより、ドアスイッチ12が冠水して乗場側ドア13及びかご側ドア17が非常停止し、乗客がかご16内に閉じ込められることを防止することができる。
【0059】
さらに、エレベーターCの風水害被災情報26の登録履歴26aから浸水階が3階、冠水機器がドア制御装置15に特定され、登録履歴26bから浸水階が3階、冠水機器がドアスイッチ12に特定されるので、営業所1の専門技術者がかご16を最上階に移動して待機させる判断を予め行うことができる。これにより、運行指令装置5が登録履歴26a,26bの運転方式のうち優先順が「1」である「全階のサービス休止」の運転方式を運行制限装置8Cへ指令することにより、乗場側ドア13及びかご側ドア17の開閉動作に異常が生じることを防止すると共に、乗客がかご16内に閉じ込められることを防止することができる。
【0060】
従って、運行指令装置5は、風水害被災情報データベース4によって記録された浸水階情報及び冠水機器情報に基づいて、運行制限装置8A〜8Eに対してかご16の運行を指令することにより、過去の風水害に対して浸水した乗場や冠水した機器を特定した上で運行制限装置8A〜8Eが制御装置9A〜9Eに対してかご16の運行を制限するように指示するので、風水害によって乗場が浸水したり、あるいはエレベーターA〜Eの機器が冠水する前に地域A〜Cのビルに適したかご16の運行を迅速に行うことができる。
【0061】
このように、風水害による乗場の浸水や機器の冠水に対してかご16の運行を適切に実行することができ、エレベーターA〜Eの稼働効率を向上させることができる。これにより、エレベーターA〜Eを利用する乗客に対して優れたサービスを提供すると共に、風水害に伴う復旧作業を行う専門技術者の現場への出動頻度を減少させることができ、専門技術者の負担を軽減することができる。
【0062】
また、本実施形態は、エレベーターA〜Eの運行制限装置8A〜8Eは、運行指令装置5の登録禁止手段から指令を受けて乗場呼び及びかご呼びの登録のうち所定の階の登録を制限する指示を制御装置9A〜9Eに対して行うので、例えばエレベーターAの運行制限装置8Aが登録禁止手段から乗場呼び及びかご呼びの登録のうち1〜5階の登録を禁止し、6〜10階の登録に制限する指令を受けた場合には、禁止された1〜5階の乗場で待機する乗客が乗場呼びの釦を押下したり、あるいはかご16内に乗車した乗客が1〜5階の乗場を指定するかご呼びの釦を押下しても、かご16が1〜5階の乗場へ移動することはない。これにより、かご16が浸水した階の乗場へ移動して水に浸かることを回避できるので、かご16に設けられたドア制御装置15が冠水することを確実に抑えることができる。
【0063】
また、本実施形態は、エレベーターA〜Eの運行制限装置8A〜8Eは、運行指令装置5の指定階乗場停止手段から指令を受けてかご16を予め指定した階の乗場で停止させるので、例えばエレベーターB,Cの運行制限装置8B,Cが指定階乗場停止手段からかご16を最上階の乗場で停止させる指令を受けた場合、台風の接近等による大雨が治まるまで浸水の影響を受け難い最上階の乗場でかご16を待機させることができる。従って、仮に昇降路21内の水嵩が急激に増しても、かご16上のドア制御装置15が冠水して故障することを未然に防止することができる。これにより、ドア制御装置15が故障してエレベーターB,Cを利用できなくなる時間を削減することができ、エレベーターB,Cの稼働効率を十分に向上させることができる。