(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した励磁コイル、第1の検出コイル、及び第2の検出コイルを有する渦電流探傷プローブを備えた渦電流探傷装置の校正方法であって、一方向に延在した人工きずが形成された試験体を用いる場合の従来の校正方法について説明する。まず、第1の検出コイルから得られる人工きず信号の大きさがほぼ最大となるプローブの走査姿勢、すなわち、励磁コイルと第1の検出コイルの並び方向が人工きずの長さ方向に対してほぼ平行となる走査姿勢で、プローブを走査して人工きずを探傷する。その際に第1の検出コイルから得られた人工きず信号における振幅及び位相角が所定の目標値となるように、第1の検出コイルの基準感度及び基準位相を校正する。また、第2の検出コイルから得られる人工きず信号の大きさがほぼ最大となるプローブの走査姿勢、すなわち、励磁コイルと第2の検出コイルの並び方向が人工きずの長さ方向に対してほぼ平行となる走査姿勢で、プローブを走査して人工きずを探傷する。その際に第2の検出コイルから得られた人工きず信号における振幅及び位相角が所定の目標値となるように、第2の検出コイルの基準感度及び基準位相を校正する。このような校正により、第1の検出コイルと第2の検出コイルにおける検出信号のバラツキを抑えることが可能である。
【0007】
そして、検査作業の前段階において、上述した校正を行えば、その後の検査作業で得られる検出信号の精度及び信頼性を高めることが可能である。また、例えば何らかの理由で検査作業を中断した場合に、上述した校正を行えば、その後の検査作業で得られる検出信号の精度及び信頼性を高めることが可能である。しかしながら、上述した校正では、励磁コイルと第1の検出コイルの並び方向及び励磁コイルと第2の検出コイルの並び方向にそれぞれ対応する複数の走査姿勢に順次替えてプローブの走査を行う必要がある。すなわち、複数回の走査を行う必要があるため、検査作業全体の時間が長くなるという課題が生じる。
【0008】
また、検査作業の後段階において、試験体の人工きずを探傷し、その際に得られた人工きず信号を確認すれば(すなわち、校正確認を行えば)、検査作業で得られた検出信号の信頼性を高めることが可能である。また、例えば検査作業を中断して校正確認を行えば、中断前の検査作業で得られた検出信号の信頼性を高めることが可能である。また、再開後の検査作業で得られる検出信号の信頼性を高めることが可能である。しかしながら、このような校正確認において、上述した校正と同様、励磁コイルと第1の検出コイルの並び方向及び励磁コイルと第2の検出コイルの並び方向にそれぞれ対応する複数の走査姿勢に順次替えてプローブの走査を行うのであれば、検査作業全体の時間が長くなるという課題が生じる。
【0009】
本発明の目的は、検査作業時間の短縮を図ることができる渦電流探傷装置の校正確認方法及び渦電流探傷装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(1)上記目的を達成するために、本発明は、少なくとも1つの励磁コイル、前記励磁コイルに対して第1の並び方向に配置された第1の検出コイル、及び前記励磁コイルに対して前記第1の並び方向と交差する第2の並び方向に配置された第2の検出コイルを有する渦電流探傷プローブを備えた渦電流探傷装置の校正確認方法であって、前記渦電流探傷プローブを複数の走査姿勢に順次替えて走査して
一方向に延在した人工きずを探傷し、その際に校正後の前記第1の検出コイルの基準感度及び基準位相並びに前記第2の検出コイルの基準感度及び基準位相を用いて得られた前記第1の検出コイルの人工きず信号における振幅及び位相角並びに前記第2の検出コイルの人工きず信号における振幅及び位相角に基づき、前記励磁コイルと前記検出コイルの並び方向と前記人工きずの長さ方向の間の角度として定義された前記検出コイルの配置角度とこれに対応する前記人工きず信号の振幅及び位相角との関係
をそれぞれ表す特性曲線を、参照データとして作成して記憶する参照データ取得工程
と、前記渦電流探傷プローブを
任意の一走査姿勢で走査して前記人工きずを探傷し、その際に評価データとして得られた前記第1の検出コイルの人工きず信号における振幅及び位相角並びに前記第2の検出コイルの人工きず信号における振幅及び位相角と、前記参照データ取得工程で記憶された参照データから前記
任意の一走査姿勢に対応する前記第1の検出コイルの配置角度及び前記第2の検出コイルの配置角度に基づき基準データとして抽出された前記第1の検出コイルの人工きず信号における振幅及び位相角並びに前記第2の検出コイルの人工きず信号における振幅及び位相角と、をそれぞれ照合し、それらの差分が所定の許容値以下であるか否かを判定することにより、前記第1の検出コイルの基準感度及び基準位相並びに前記第2の検出コイルの基準感度及び基準位相の校正確認を行う
データ照合判定工程と、を有する。
【0015】
このような本発明においては、任意の一走査姿勢でプローブを走査して人工きずを探傷して、第1の検出コイル及び第2の検出コイルの校正確認を行うことができる。
【0016】
(
2)上記
(1)において、好ましくは、前記
参照データ取得工程は、渦電流探傷装置の初期設定段階で行い、前記データ照合判定工程は、各検査作業の前段階、後段階、若しくは中断段階で行う。
【0017】
(
3)上記(1)
又は(2)において、好ましくは、前記データ照合判定工程で評価データと基準データとの差分が所定の許容値を超えると判定された場合に、評価データと基準データとの差分が所定の許容値以下となるように前記検出コイルの基準感度及び基準位相を校正する校正工程を有する。
【0020】
(4)上記目的を達成するために、本発明は、少なくとも1つの励磁コイル、前記励磁コイルに対して第1の並び方向に配置された第1の検出コイル、及び前記励磁コイルに対して前記第1の並び方向と交差する第2の並び方向に配置された第2の検出コイルを有する渦電流探傷プローブを備えた渦電流探傷装置において、前記渦電流探傷プローブが複数の走査姿勢に順次替えて走査されて
一方向に延在した人工きずが探傷され、その際に校正後の前記第1の検出コイルの基準感度及び基準位相並びに前記第2の検出コイルの基準感度及び基準位相を用いて得られた前記第1の検出コイルの人工きず信号における振幅及び位相角並びに前記第2の検出コイルの人工きず信号における振幅及び位相角に基づき、前記励磁コイルと前記検出コイルの並び方向と前記人工きずの長さ方向の間の角度として定義された前記検出コイルの配置角度とこれに対応する前記人工きず信号の振幅及び位相角との関係
をそれぞれ表す特性曲線を、参照データとして作成して
記憶手段に記憶する参照データ取得手段
と、前記渦電流探傷プローブが
任意の一走査姿勢で走査されて前記人工きずが探傷され、その際に評価データとして得られた前記第1の検出コイルの人工きず信号における振幅及び位相角並びに前記第2の検出コイルの人工きず信号における振幅及び位相角と、前記記憶手段で予め記憶された参照データから前記
任意の一走査姿勢に対応する前記第1の検出コイルの配置角度及び前記第2の検出コイルの配置角度に基づき基準データとして抽出された前記第1の検出コイルの人工きず信号における振幅及び位相角並びに前記第2の検出コイルの人工きず信号における振幅及び位相角と、をそれぞれ照合し、それらの差分が所定の許容値以下であるか否かを判定する
データ照合判定手段と、
前記データ照合判定手段の判定結果に基づき、前記第1の検出コイルの基準感度及び基準位相並びに前記第2の検出コイルの基準感度及び基準位相の校正確認結果を表示する表示手段と、を有する。
【0021】
(
5)上記
(4)において、好ましくは、前記データ照合判定手段で評価データと基準データとの差分が所定の許容値を超えると判定された場合に、評価データと基準データとの差分が所定の許容値以下となるように前記検出コイルの基準感度及び基準位相を校正する校正手段を有する。
【0022】
(6)上記(1)〜(3)のいずれか1つにおいて、好ましくは、前記第1の検出コイルの信号の大きさ及び前記第2の検出コイルの信号の大きさが飽和するように前記渦電流探傷プローブを対象物からリフトオフし、その際に
別の評価データとして得られた前記第1の検出コイルのリフトオフ信号における振幅及び位相角並びに前記第2の検出コイルのリフトオフ信号における振幅及び位相角と、
別の基準データとして予め記憶された前記第1の検出コイルのリフトオフ信号における振幅及び位相角並びに前記第2の検出コイルのリフトオフ信号における振幅及び位相角と、を照合し、それらの差分が所定の許容値以下であるか否かを判定することにより、前記第1の検出コイルの基準感度及び基準位相並びに前記第2の検出コイルの基準感度及び基準位相の校正確認を行う
別のデータ照合判定工程を有する。
【0023】
このような本発明においては、渦電流探傷プローブを対象物(詳細には、例えば試験体又は検査対象物)からリフトオフして、第1の検出コイル及び第2の検出コイルの校正確認を行うことができる。したがって、例えば励磁コイルと第1の検出コイルの並び方向及び励磁コイルと第2の検出コイルの並び方向にそれぞれ対応する複数の走査姿勢に順次替えて走査して(言い換えれば、複数回の走査で)人工きずを探傷して校正若しくは校正確認を行う場合と比べ、検査作業時間の短縮を図ることができる。
【0024】
(
7)上記(
6)において、好ましくは、前記
別のデータ照合判定工程の前であって、前記第1の検出コイルの信号の大きさ及び前記第2の検出コイルの信号の大きさが飽和するように前記渦電流探傷プローブを対象物からリフトオフし、その際に校正後の前記第1の検出コイルの基準感度及び基準位相並びに前記第2の検出コイルの基準感度及び基準位相を用いて得られた前記第1の検出コイルのリフトオフ信号における振幅及び位相角並びに前記第2の検出コイルのリフトオフ信号における振幅及び位相角を、
前記別の基準データとして記憶する基準データ取得工程を有する。
【0025】
(
8)上記(
7)において、好ましくは、前記基準データ取得工程は、渦電流探傷装置の初期設定段階で行い、前記
別のデータ照合判定工程は、各検査作業の前段階、後段階、若しくは中断段階で行う。
【0026】
(
9)上記(
6)〜(
8)のいずれか1つにおいて、好ましくは、前記
別のデータ照合判定工程で
前記別の評価データと
前記別の基準データとの差分が所定の許容値を超えると判定された場合に、
前記別の評価データと
前記別の基準データとの差分が所定の許容値以下となるように前記検出コイルの基準感度及び基準位相を校正する校正工程を有する。
【0027】
(10)上記(4)又は(5)において、好ましくは、前記第1の検出コイルの信号の大きさ及び前記第2の検出コイルの信号の大きさが飽和するように前記渦電流探傷プローブが対象物からリフトオフされ、その際に
別の評価データとして得られた前記第1の検出コイルのリフトオフ信号における振幅及び位相角並びに前記第2の検出コイルのリフトオフ信号における振幅及び位相角と、記憶手段で
別の基準データとして予め記憶された前記第1の検出コイルのリフトオフ信号における振幅及び位相角並びに前記第2の検出コイルのリフトオフ信号における振幅及び位相角と、を照合し、それらの差分が所定の許容値以下であるか否かを判定する処理を行う
別のデータ照合判定手段と、前記
別のデータ照合判定手段の判定結果に基づき、前記第1の検出コイルの基準感度及び基準位相並びに前記第2の検出コイルの基準感度及び基準位相の校正確認結果を表示する表示手段とを有する。
【0028】
(
11)上記(
10)において、好ましくは、前記
別のデータ照合判定手段の前記処理の前に、前記第1の検出コイルの信号の大きさ及び前記第2の検出コイルの信号の大きさが飽和するように前記渦電流探傷プローブが対象物からリフトオフされ、その際に校正後の前記第1の検出コイルの基準感度及び基準位相並びに前記第2の検出コイルの基準感度及び基準位相を用いて得られた前記第1の検出コイルのリフトオフ信号における振幅及び位相角並びに前記第2の検出コイルのリフトオフ信号における振幅及び位相角を、
前記別の基準データとして前記記憶手段に記憶する基準データ取得手段を有する。
【0029】
(
12)上記(
10)又は(
11)において、好ましくは、前記
別のデータ照合判定手段で
前記別の評価データと
前記別の基準データとの差分が所定の許容値を超えると判定された場合に、
前記別の評価データと
前記別の基準データとの差分が所定の許容値以下となるように前記検出コイルの基準感度及び基準位相を校正する校正手段を有する。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、検査作業時間の短縮を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0033】
図1は、本発明の第1の実施形態における渦電流探傷装置の機能的構成を表すブロック図である。
図2(a)は、本発明の第1の実施形態における渦電流探傷プローブの要部構成を表す平面図であり、
図2(b)は、
図2(a)中矢印A方向から見た側面図である。
【0034】
渦電流探傷装置は、大別して、相互誘導形標準比較型の渦電流探傷プローブ1と、この渦電流探傷プローブ1を移動させるプローブ移動装置2と、渦電流探傷プローブ1及びプローブ移動装置2に電気的に接続された探傷制御装置3とを備えている。探傷制御装置3は、プローブ制御部4、データ処理部5、基準データ記憶部6、評価データ記憶部7、入力部8、及び表示部9を有している。
【0035】
渦電流探傷プローブ1は、いわゆるシングルプローブであって、基板10上に配置された1つの励磁コイル11と、基板10上に配置された3つの検出コイル12a,12b,12cとを有している。検出コイル12a,12b,12cの組成(詳細には、巻き数、線径、及びコアの有無など)は、互いに同じである。励磁コイル11と検出コイル12aの中心間距離、励磁コイル11と検出コイル12bの中心間距離、及び励磁コイル11と検出コイル12cの中心間距離は、互いに同じである。
【0036】
また、励磁コイル11と検出コイル12aの並び方向Da、励磁コイル11と検出コイル12bの並び方向Db、及び励磁コイル11と検出コイル12cの並び方向Dcは、互いに交差している。詳しく説明すると、本実施形態では、コイル並び方向Daが基板10の長手方向(
図2(a)中上下方向)にあり、コイル並び方向Daとコイル並び方向Dbとの間の角度が75°であり、コイル並び方向Daとコイル並び方向Dcとの間の角度が105°である(すなわち、コイル並び方向Dbとコイル並び方向Dcとの間の角度が30°である)。
【0037】
上述したプローブ1の構成では、例えば検出コイル12a,12b,12cのうちのいずれか1つだけを有している場合と比べ、短時間で、広範囲を走査可能とし且つ多数の方向のきずを検知可能としている。
【0038】
探傷制御装置3のプローブ制御部4は、プローブ移動装置2を制御して、渦電流探傷プローブ1を検査対象物の表面に密着させるとともに検査対象物の表面上で走査する。また、渦電流探傷プローブ1の励磁コイル11に交流電圧を印加するようになっている。
【0039】
データ処理部5は、検出コイル12a,12b,12cからの検出信号に対し所定のデータ処理を行う。詳細には、検出コイルからの検出信号を、検出コイル毎に予め設定された基準感度(言い換えれば、信号の増幅利得)に基づいて増幅し、検出コイル毎に予め設定された基準位相と同じ成分(X成分)と90度異なる成分(Y成分)に分解し、それらX成分及びY成分を横軸及び縦軸にプロットしてリサージュ波形を作成し、そのリサージュ波形を用いて検出信号における振幅及び位相角を演算するようになっている。
【0040】
表示部8は、モニタを有し、データ処理部5で得られたデータ(詳細には、例えば、X成分及びY成分、リサージュ波形、又は振幅及び位相角)を、検出コイルや検査位置と関連付けて表示可能としている。入力部9は、例えばキーボードやマウスを有し、上述したプローブ走査、データ処理、及びデータ表示等に係わる設定及び指令を入力可能としている。
【0041】
次に、本実施形態における渦電流探傷装置の校正確認方法を説明する。
【0042】
本実施形態の校正確認方法では、
図3(a)及び
図3(b)で示すように、一方向(
図3(b)中上下方向)に延在した人工きず13が形成された試験体14を用いる。なお、試験体14における人工きず13側(
図3(a)中上側)の表面は、平面となっている。
【0043】
本実施形態の校正確認方法は、
図4で示すように、大別して、基準データ取得工程100と、データ照合判定工程200を有する。基準データ取得工程100は、渦電流探傷装置の初期設定段階で(言い換えれば、事前準備として)行うものであり、データ照合判定工程200は、各検査作業の前段階、後段階、若しくは中断段階で(言い換えれば、現場作業として)行うものである。
【0044】
まず、基準データ取得工程100の詳細を説明する。
図5は、本実施形態における基準データ取得工程100の詳細を表すフローチャートである。
【0045】
ステップ101にて、探傷制御装置3のプローブ制御部4は、プローブ移動装置2を制御して、渦電流探傷プローブ1を一走査姿勢で走査して人工きず13を探傷する。このとき、本実施形態では、検出コイル12a,12b,12cのうちの特定の検出コイルとして検出コイル12aを選択しており、プローブ1の走査姿勢は、検出コイル12aから得られる人工きず信号の大きさがほぼ最大となる走査姿勢が好ましい。そのため、
図3(b)で示すように、励磁コイル11と検出コイル12aの並び方向Daが人工きず13の長さ方向に対してほぼ平行となる走査姿勢、言い換えれば、検出コイル12aの配置角度Ea=0°、検出コイル12bの配置角度Eb=75°、検出コイル12cの配置角度Ec=105°となる走査姿勢としている。ここで、「検出コイルの配置角度」は、励磁コイル11と検出コイルの並び方向と人工きず13の長さ方向の間の角度として定義されている。
【0046】
そして、ステップ102に進み、探傷制御装置3のデータ処理部5は、前述のステップ101で人工きず13が探傷された際に得られた検出コイル12aの人工きず信号に対し、予め設定された仮の基準感度及び基準位相を用いて、データ処理を行う。すなわち、検出コイル12aの人工きず信号を仮の基準感度に基づいて増幅し、仮の基準位相と同じ成分(X成分)と90度異なる成分(Y成分)に分解し、それらX成分及びY成分を横軸及び縦軸にプロットして例えば
図6(a)で示すようなリサージュ波形を作成し、このリサージュ波形を用いて人工きず信号における振幅Za及び位相角θaを演算する。そして、振幅Zaの演算値が目標値(例えば2V)、位相角θaの演算値が目標値(例えば90°)となるように、検出コイル12aの基準感度及び基準位相を校正する。なお、振幅Zaの目標値及び位相角θaの目標値は、人工きず13の形状及びプローブ1の走査姿勢に応じて設定されるものであり、例えば入力部8で入力設定されるか、若しくは予め記憶設定されている。また、検出コイル12aの基準感度及び基準位相の校正は、データ処理部5が振幅Zaの演算値と目標値との差分及び位相角θaの演算値と目標値との差分をそれぞれ演算し、それらに基づいて行ってもよいし(自動校正)、あるいは入力部8からの入力によって行ってもよい(手動校正)。
【0047】
そして、ステップ103に進み、データ処理部5は、前述のステップ101で人工きず13が探傷された際(若しくは、前述のステップ102の後、渦電流探傷プローブ1が再走査されて人工きず13が探傷された際)に得られた検出コイル12aの人工きず信号に対し、前述のステップ102で校正された基準感度及び基準位相を用いて、データ処理を行う。すなわち、検出コイル12aの人工きず信号を校正後の基準感度に基づいて増幅し、校正後の基準位相と同じ成分(X成分)と90度異なる成分(Y成分)に分解し、それらX成分及びY成分を横軸及び縦軸にプロットしてリサージュ波形を作成し、このリサージュ波形を用いて人工きず信号における振幅Za及び位相角θaを演算する。
【0048】
その後、ステップ104に進み、データ処理部5は、ステップ103で得られた振幅Zaの演算値と目標値との差分を演算し、その差分が予め設定された第1の規定値以下であるか否かを判定する。また、ステップ103で得られた位相角θaの演算値と目標値との差分を演算し、その差分が予め設定された第2の規定値以下であるか否かを判定する。例えば振幅Zaの演算値と目標値との差分が第1の規定値を超えるか、若しくは位相角θaの演算値と目標値との差分が第2の規定値を超える場合は、ステップ104の判定が満たされず、前述のステップ103に戻って、上記同様の手順を繰り返す。
【0049】
一方、例えば振幅Zaの演算値と目標値との差分が第1の規定値以下であり、かつ位相角θaの演算値と目標値との差分が第2の規定値以下である場合は、ステップ104の判定が満たされ、ステップ105に移る。ステップ105では、データ処理部5は、基準データとして、ステップ104の判定を満たす振幅の演算値Za0及び位相角の演算値θa0(
図6(b)参照)を、基準データ記憶部6に記憶させる。
【0050】
そして、ステップ106に進み、検出コイル12aの基準感度及び基準位相を反映させるように、他の検出コイル12b,12cの基準感度及び基準位相を校正する。詳しく説明すると、本実施形態では、検出コイルの組成や、励磁コイルと検出コイルとの中心間距離が互いに同じであるから、検出コイル12aの基準感度及び基準位相と同じになるように、他の検出コイル12b,12cの基準感度及び基準位相を校正する。なお、例えば検出コイルの組成や、励磁コイルと検出コイルとの中心間距離が互い異なる場合は、検出コイル12aの基準感度及び基準位相に対し、予め設定された比率若しくは差分を用いて、他の検出コイル12b,12cの基準感度及び基準位相を校正する。また、検出コイル12b,12cの基準感度及び基準位相の校正は、データ処理部5が自動的に行ってもよいし、あるいは入力部8からの入力によって行ってもよい。
【0051】
その後、ステップ107に進み、データ処理部5は、前述のステップ101で人工きず13を探傷した際に得られた(若しくは、前述のステップ106の後、渦電流探傷プローブ1が再走査されて人工きず13が探傷された際に得られた)検出コイル12bの人工きず信号に対し、前述のステップ106で校正された基準感度及び基準位相を用いて、データ処理を行う。すなわち、検出コイル12bの人工きず信号を校正後の基準感度に基づいて増幅し、校正後の基準位相と同じ成分(X成分)と90度異なる成分(Y成分)に分解し、それらX成分及びY成分を横軸及び縦軸にプロットしてリサージュ波形を作成し、このリサージュ波形を用いて人工きず信号における振幅Zb0及び位相角θb0を演算する(
図7参照)。
【0052】
同様に、前述のステップ101で人工きず13を探傷した際に得られた(若しくは、前述のステップ106の後、渦電流探傷プローブ1が再走査されて人工きず13が探傷された際に得られた)検出コイル12cの人工きず信号に対し、前述のステップ106で校正された基準感度及び基準位相を用いて、データ処理を行う。すなわち、検出コイル12cの人工きず信号を校正後の基準感度に基づいて増幅し、校正後の基準位相と同じ成分(X成分)と90度異なる成分(Y成分)に分解し、それらX成分及びY成分を横軸及び縦軸にプロットしてリサージュ波形を作成し、このリサージュ波形を用いて人工きず信号における振幅Zc0及び位相角θc0を演算する(
図7参照)。なお、本実施形態のコイル配置では、検出コイル12bの人工きず信号の振幅Zb0と検出コイル12cの人工きず信号の振幅Zc0がほぼ同じ、検出コイル12bの人工きず信号の位相角θb0と検出コイル12cの人工きず信号の位相角θc0がほぼ同じとなる。
【0053】
そして、ステップ108に進み、データ処理部5は、基準データとして、ステップ107で得られた振幅Zb0,Zc0及び位相角の演算値θb0,θc0を、基準データ記憶部6に記憶させる。したがって、最終的に、基準データ記憶部6は、
図8で示すような基準データを記憶する。なお、データ処理部5は、入力部8からの指令に応じて、基準データ記憶部6で記憶された基準データを表示部9に表示させるようにしてもよい。
【0054】
次に、データ照合判定工程200の詳細を説明する。
図9は、本実施形態におけるデータ照合判定工程200の詳細を表すフローチャートである。
【0055】
ステップ201にて、探傷制御装置3のプローブ制御部4は、プローブ移動装置2を制御して、上述の
図5のステップ101と同じ走査姿勢で、渦電流探傷プローブ1を走査して人工きず13を探傷する(上述の
図3(a)及び
図3(b)参照)。なお、このとき、プローブ1の走査姿勢を検出するセンサ(図示せず)を設け、このセンサの検出結果に基づいてプローブ1の走査姿勢が上述の
図5のステップ101と同じであるか否かを確認してもよい。あるいは、入力部8からの入力に基づいてプローブ1の走査姿勢が上述の
図5のステップ101と同じであるか否かを確認してもよい。
【0056】
そして、ステップ202に進み、探傷制御装置3のデータ処理部5は、前述のステップ201で人工きず13が探傷された際に得られた検出コイル12aの人工きず信号に対し、上述の
図5のステップ102で校正済の基準感度及び基準位相を用いてデータ処理を行い、振幅Za1及び位相角θa1を演算する。また、前述のステップ201で人工きず13が探傷された際に得られた検出コイル12bの人工きず信号に対し、上述の
図5のステップ106で校正済の基準感度及び基準位相を用いてデータ処理を行い、振幅Zb1及び位相角θb1を演算する。また、前述のステップ201で人工きず13が探傷された際に得られた検出コイル12cの人工きず信号に対し、上述の
図5のステップ106で校正済の基準感度及び基準位相を用いてデータ処理を行い、振幅Zc1及び位相角θc1を演算する。このようにして得られた振幅Za1,Zb1,Zc1及び位相角θa1,θb1,θc1を、評価データ(
図10参照)として、評価データ記憶部7に記憶させる。なお、データ処理部5は、入力部8からの指令に応じて、評価データ記憶部7で記憶された評価データを表示部9に表示させるようにしてもよい。
【0057】
その後、ステップ203に進み、データ処理部5は、ステップ202で得られた振幅(評価データ)と基準データ記憶部6で予め記憶された振幅(基準データ)との差分(詳細には、検出コイル12aの人工きず信号における振幅Za1とZa0との差分、検出コイル12bの人工きず信号における振幅Zb1とZb0との差分、及び検出コイル12cの人工きず信号における振幅Zc1とZc0との差分)を演算し、それらの差分が予め設定された第1の許容値以下であるか否かを判定する。また、ステップ202で得られた位相角(評価データ)と基準データ記憶部6で予め記憶された位相角(基準データ)との差分(詳細には、検出コイル12aの人工きず信号における位相角θa1とθa0との差分、検出コイル12bの人工きず信号における位相角θb1とθb0との差分、及び検出コイル12cの人工きず信号における位相角θc1とθc0との差分)を演算し、それらの差分が予め設定された第2の許容値以下であるか否かを判定する。例えば全ての差分が許容値以下である場合は、ステップ203の判定が満たされ、ステップ204に移る。ステップ204では、校正確認OKの旨を表示部9に表示させる。
【0058】
一方、例えばいずれかの差分が許容値を超える場合は、ステップ203の判定が満たされず、ステップ205に移る。ステップ205では、校正確認NGの旨を表示部9に表示させる。このとき、好ましくは、表示部9に該当する検出コイルや振幅又は位相角を表示させる。
【0059】
なお、上記において、基準データ記憶部6は、特許請求の範囲に記載の記憶手段を構成する。また、データ処理部5が行う上述の
図9のステップ203は、渦電流探傷プローブが一走査姿勢で走査されて一方向に延在した人工きずが探傷され、その際に評価データとして得られた第1の検出コイルの人工きず信号における振幅及び位相角並びに第2の検出コイルの人工きず信号における振幅及び位相角と、記憶手段で基準データとして予め記憶された第1の検出コイルの人工きず信号における振幅及び位相角並びに第2の検出コイルの人工きず信号における振幅及び位相角と、をそれぞれ照合し、それらの差分が所定の許容値以下であるか否かを判定する処理を行うデータ照合判定手段を構成する。また、表示部9は、データ照合判定手段の判定結果に基づき、第1の検出コイルの基準感度及び基準位相並びに第2の検出コイルの基準感度及び基準位相の校正確認結果を表示する表示手段を構成する。また、データ処理部5が行う上述の
図5のステップ105及び108は、データ照合判定手段の処理の前に、渦電流探傷プローブが一走査姿勢で走査されて人工きずが探傷され、その際に校正後の第1の検出コイルの基準感度及び基準位相並びに第2の検出コイルの基準感度及び基準位相を用いて得られた第1の検出コイルの人工きず信号における振幅及び位相角並びに第2の検出コイルの人工きず信号における振幅及び位相角を、基準データとして記憶手段に記憶する基準データ取得手段を構成する。
【0060】
以上のように構成された本実施形態においては、渦電流探傷プローブ1を基準データ取得時と同じ一走査姿勢で走査して(言い換えれば、1回の走査で)、一方向に延在した人工きず13を探傷して、検出コイル12a,12b,12cの校正確認を行うことができる。したがって、例えばコイル並び方向Da,Db,Dcにそれぞれ対応する複数の走査姿勢に順次替えて走査して(言い換えれば、複数回の走査で)人工きず13を探傷して校正若しくは校正確認を行う場合と比べ、検査作業時間の短縮を図ることができる。また、例えばプローブ1の走査回数を減少させるために、複数の方向にそれぞれ延在した複数の人工きずを試験体に形成する場合と比べ、試験体の製造コストの低減を図ることができる。
【0061】
そして、検査作業の前段階において、上述した校正確認を行えば、その後の検査作業で得られる検出信号の精度及び信頼性を高めることができる。また、検査作業の後段階において、上述した校正確認を行えば、検査作業で得られた検出信号の信頼性を高めることができる。また、例えば検査作業を中断して、上述した校正確認を行えば、中断前の検査作業で得られた検出信号の信頼性を高めることができる。また、再開後の検査作業で得られる検出信号の信頼性を高めることができる。
【0062】
次に、本実施形態の具体的な適用例を説明する。
図11は、本実施形態の適用例の一つである原子炉内構造物検査用の渦電流探傷装置の構成を表す概略図である。
【0063】
この
図11において、検査対象物は、原子炉圧力容器15内の構造物(詳細には、例えば炉心シュラウド16の各種溶接継手や、制御棒駆動機構のスタブチューブ等の貫通溶接部17)である。
【0064】
プローブ移動装置2は、渦電流探傷プローブ1を検査対象物の表面に密着させるように駆動する空圧シリンダ(図示せず)と、この空圧シリンダにエアチューブ18を介して接続され、空圧シリンダへの加圧空気の供給を制御するエア供給制御装置19と、渦電流探傷プローブ1を検査対象物の表面上で走査させるように駆動するマニピュレータ20と、このマニピュレータ20にケーブル21を介して接続され、マニピュレータ20の駆動を制御するマニピュレータ制御装置22とを有している。渦電流探傷プローブ1は、前述した空圧シリンダとともに、マニピュレータ20の先端部20aに取り付けられている。
【0065】
プローブ1の動きを撮影するための炉内カメラ23と、この炉内カメラ23にケーブル24を介して接続された炉内カメラ制御装置25とが設けられている。
【0066】
エア供給制御装置19、マニピュレータ制御装置22、及び炉内カメラ制御装置25は、探傷制御装置3とともに、オペレーションフロア26に設置されている。オペレーションフロア26には、エアチューブ18及びケーブル21,24を繰り出すための作業台車27が設置されている。
【0067】
探傷制御装置3のプローブ制御部4は、エア供給制御装置19及びマニピュレータ制御装置22を介して空圧シリンダ及びマニピュレータ20を制御する。これにより、渦電流探傷プローブ1を検査対象物の表面に密着させるとともに検査対象物の表面上で走査するようになっている。
【0068】
次に、本実施形態における原子炉内構造物の検査作業を説明する。
【0069】
まず、例えば、検査作業の前段階として、オペレーションフロア26にて試験体14を用意し、渦電流探傷プローブ1を一走査姿勢で走査して試験体14の人工きず13を探傷し、上述した検出コイル12a,12b,12cの校正確認を行う。校正確認がとれたら、渦電流探傷プローブ1を空圧シリンダとともにマニピュレータ20の先端部20aに取り付け、マニピュレータ20を原子炉圧力容器15内へインストールする。その後、探傷準備を経て、原子炉内構造物の探傷を実施する。その後、原子炉圧力容器15内からマニピュレータ20をアンインストールする。そして、検査作業の後段階として、オペレーションフロア26にて、渦電流探傷プローブ1を一走査姿勢で走査して試験体14の人工きず13を探傷し、上述した検出コイル12a,12b,12cの校正確認を行う。
【0070】
したがって、検査作業の前段階において校正確認を行うので、検査作業で得られる検出信号の精度及び信頼性を高めることができる。また、検査作業の後段階において校正確認を行うので、検査作業で得られた検出信号の信頼性を高めることができる。
【0071】
また、例えば何らかの理由で検査作業を中断して、原子炉圧力容器15内からマニピュレータ20をアンインストールする場合も、オペレーションフロア26にて、渦電流探傷プローブ1を一走査姿勢で走査して試験体14の人工きず13を探傷し、上述した検出コイル12a,12b,12cの校正確認を行ってもよい。あるいは、例えば原子炉圧力容器15内に試験体14を用意する場合も、検査作業を中断して、渦電流探傷プローブ1を一走査姿勢で走査して試験体14の人工きず13を探傷し、上述した検出コイル12a,12b,12cの校正確認を行ってもよい。これらの場合、中断前の検査作業で得られた検出信号の信頼性を高めることができ、再開後の検査作業で得られる検出信号の信頼性を高めることができる。
【0072】
なお、上記第1の実施形態においては、上述の
図4で示すように、渦電流探傷装置の校正確認方法は、基準データ取得工程100及びデータ照合判定工程200を有し、上述の
図9のステップ203〜205で示すように、校正確認結果の表示までを説明したが、これに限られず、本発明の趣旨及び技術思想の範囲を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。すなわち、例えば
図12で示すように、渦電流探傷装置の校正確認方法は、さらに校正工程300を有していてもよい。この校正工程300は、前述の
図9のステップ203にて評価データと基準データとの差分が所定の許容値を超えた場合(言い換えれば、ステップ203の判定が満たされず、ステップ205に進み、校正確認NGが表示された場合)に行われる。校正工程300では、データ処理部5は、評価データと基準データとの差分が所定の許容値以下となるように、対応する検出コイルの基準感度及び基準位相を校正する(校正手段)。このような第1の変形例においても、上記第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0073】
また、上記第1の実施形態においては、基準データ取得工程100は、基準データとして、渦電流探傷プローブ1を一走査姿勢で走査して人工きずを探傷した際に校正後の検出コイル12aの基準感度及び基準位相を用いて得られた検出コイル12aの人工きず信号における振幅Za0及び位相角θa0、校正後の検出コイル12bの基準感度及び基準位相を用いて得られた検出コイル12bの人工きず信号における振幅Zb0及び位相角θb0、並びに校正後の検出コイル12cの基準感度及び基準位相を用いて得られた検出コイル12cの人工きず信号における振幅Zc0及び位相角θc0を記憶した場合を例にとって説明したが、基準データに代えて、検出コイルの配置角度と人工きず信号の振幅及び位相角との関係(参照データという)を記憶してもよい。このような第2の変形例を、
図13〜
図17により説明する。なお、本変形例において、上記第1の実施形態と同等の部分は同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0074】
図13は、本変形例における渦電流探傷装置の機能的構成を表すブロック図である。
【0075】
本変形例では、探傷制御装置3Aは、プローブ制御部4、データ処理部5A、参照データ記憶部28、評価データ記憶部7、入力部8、及び表示部9を有している。
【0076】
本変形例の校正確認方法では、上記第1の実施形態と同様、一方向に延在した人工きず13が形成された試験体14を用いる(上述の
図3(a)及び
図3(b)参照)。
【0077】
本変形例の校正確認方法は、
図14で示すように、大別して、参照データ取得工程400と、データ照合判定工程500を有する。参照データ取得工程400は、渦電流探傷装置の初期設定段階で(言い換えれば、事前準備として)行うものであり、データ照合判定工程500は、各検査作業の前段階、後段階、若しくは中断段階で(言い換えれば、現場作業として)行うものである。
【0078】
まず、参照データ取得工程400の詳細を説明する。
図15は、本変形例における参照データ取得工程400の詳細を表すフローチャートである。
【0079】
ステップ401にて、上記第1の実施形態のステップ101と同様、探傷制御装置3Aのプローブ制御部4は、プローブ移動装置2を制御して、渦電流探傷プローブ1を一走査姿勢(
図3(b)で示すように、検出コイル12aの配置角度Ea=0°、検出コイル12bの配置角度Eb=75°、検出コイル12cの配置角度Ec=105°)で走査して人工きず13を探傷する。
【0080】
そして、ステップ402に進み、上記第1の実施形態のステップ102と同様、探傷制御装置3Aのデータ処理部5Aは、前述のステップ401で人工きず13が探傷された際に得られた検出コイル12aの人工きず信号に対し、予め設定された仮の基準感度及び基準位相を用いてデータ処理を行い、振幅Za及び位相角θaを演算する。そして、振幅Zaの演算値が目標値(例えば2V)、位相角θaの演算値が目標値(例えば90°)となるように、検出コイル12aの基準感度及び基準位相を校正する。
【0081】
そして、ステップ403に進み、上記第1の実施形態のステップ103と同様、データ処理部5Aは、前述のステップ401で人工きず13が探傷された際(若しくは、前述のステップ402の後、渦電流探傷プローブ1が再走査されて人工きず13が探傷された際)に得られた検出コイル12aの人工きず信号に対し、前述のステップ402で校正された基準感度及び基準位相を用いて、データ処理を行い、振幅Za及び位相角θaを演算する。
【0082】
その後、ステップ404に進み、上記第1の実施形態のステップ104と同様、データ処理部5Aは、ステップ403で得られた振幅Zaの演算値と目標値との差分を演算し、その差分が予め設定された第1の規定値以下であるか否かを判定する。また、ステップ403で得られた位相角θaの演算値と目標値との差分を演算し、その差分が予め設定された第2の規定値以下であるか否かを判定する。例えば振幅Zaの演算値と目標値との差分が第1の規定値を超えるか、若しくは位相角θaの演算値と目標値との差分が第2の規定値を超える場合は、ステップ404の判定が満たされず、前述のステップ403に戻って、上記同様の手順を繰り返す。
【0083】
一方、例えば振幅Zaの演算値と目標値との差分が第1の規定値以下であり、かつ位相角θaの演算値と目標値との差分が第2の規定値以下である場合は、ステップ404の判定が満たされる。この場合、ステップ404の判定を満たす振幅の演算値及び位相角の演算値を、検出コイル12aの配置角度Ea=0°と関連付けて一時的に記憶するとともに、ステップ405に移る。なお、検出コイルの配置角度は、プローブ1の走査姿勢を検出するセンサの検出結果及び予め記憶されたコイル並び方向Da,Db,Dcに基づいて演算されてもよいし、若しくは入力部8から入力されたものでもよい。
【0084】
ステップ405では、上記第1の実施形態のステップ106と同様、検出コイル12aの基準感度及び基準位相を反映させるように、他の検出コイル12b,12cの基準感度及び基準位相を校正する。
【0085】
その後、ステップ406に進み、上記第1の実施形態のステップ107と同様、データ処理部5Aは、前述のステップ401で人工きず13を探傷した際に得られた(若しくは、前述のステップ405の後、渦電流探傷プローブ1が再走査されて人工きず13が探傷された際に得られた)検出コイル12bの人工きず信号に対し、前述のステップ405で校正された基準感度及び基準位相を用いてデータ処理を行い、振幅及び位相角を演算する。そして、演算した振幅及び位相角を、検出コイル12bの配置角度Eb=75°と関連付けて一時的に記憶する。
【0086】
同様に、前述のステップ401で人工きず13を探傷した際に得られた(若しくは、前述のステップ405の後、渦電流探傷プローブ1が再走査されて人工きず13が探傷された際に得られた)検出コイル12cの人工きず信号に対し、前述のステップ405で校正された基準感度及び基準位相を用いて、データ処理を行い、振幅及び位相角を演算する。そして、演算した振幅及び位相角を、検出コイル12cの配置角度Ec=105°と関連付けて一時的に記憶する。
【0087】
そして、ステップ407に進み、プローブ制御部4は、プローブ移動装置2を制御して、渦電流探傷プローブ1を上述した一走査姿勢(検出コイル12aの配置角度Ea=0°、検出コイル12bの配置角度Eb=75°、検出コイル12cの配置角度Ec=105°)とは異なる複数の走査姿勢で順次走査して人工きず13を探傷する。
【0088】
そして、ステップ408に進み、データ処理部5Aは、前述のステップ407で人工きず13が探傷された際に得られた検出コイル12aの人工きず信号に対し、前述のステップ402で校正済の基準感度及び基準位相を用いてデータ処理を行い、振幅及び位相角を演算する。そして、演算した振幅及び位相角を、対応する検出コイル12aの配置角度と関連付けて一時的に記憶する。また、前述のステップ407で人工きず13が探傷された際に得られた検出コイル12bの人工きず信号に対し、前述のステップ405で校正済の基準感度及び基準位相を用いてデータ処理を行い、振幅及び位相角を演算する。そして、演算した振幅及び位相角を、対応する検出コイル12bの配置角度と関連付けて一時的に記憶する。また、前述のステップ407で人工きず13が探傷された際に得られた検出コイル12cの人工きず信号に対し、前述のステップ405で校正済の基準感度及び基準位相を用いてデータ処理を行い、振幅及び位相角を演算する。そして、演算した振幅及び位相角を、対応する検出コイル12cの配置角度と関連付けて一時的に記憶する。
【0089】
そして、ステップ409に進み、データ処理部5Aは、上述のようにして得られた検出コイルの配置角度と人工きず信号の振幅との組合せから、
図16(a)で示すような検出コイルの配置角度と人工きず信号の振幅との関係を表す特性曲線を作成し、これを参照データとして参照データ記憶部28に記憶させる。また、上述のようにして得られた検出コイルの配置角度と人工きず信号の位相角との組合せから、
図16(b)で示すような検出コイルの配置角度と人工きず信号の位相角との関係を表す特性曲線を作成し、これを参照データとして参照データ記憶部28に記憶させる。なお、データ処理部5Aは、入力部8からの指令に応じて、参照データ記憶部28で記憶された参照データ(特性曲線)を表示部9に表示させるようにしてもよい。
【0090】
次に、データ照合判定工程500の詳細を説明する。
図17は、本変形例におけるデータ照合判定工程500の詳細を表すフローチャートである。
【0091】
ステップ501にて、探傷制御装置3Aのプローブ制御部4は、プローブ移動装置2を制御して、任意の一走査姿勢(すなわち、上述の
図15のステップ401と同じか若しくは異なる走査姿勢)で、渦電流探傷プローブ1を走査して人工きず13を探傷する。
【0092】
そして、ステップ502に進み、探傷制御装置3Aのデータ処理部5Aは、前述のステップ501で人工きず13が探傷された際に得られた検出コイル12aの人工きず信号に対し、上述の
図15のステップ402で校正済の基準感度及び基準位相を用いてデータ処理を行い、振幅Za1及び位相角θa1を演算する。また、前述のステップ501で人工きず13が探傷された際に得られた検出コイル12bの人工きず信号に対し、上述の
図15のステップ405で校正済の基準感度及び基準位相を用いてデータ処理を行い、振幅Zb1及び位相角θb1を演算する。また、前述のステップ501で人工きず13が探傷された際に得られた検出コイル12cの人工きず信号に対し、上述の
図15のステップ405で校正済の基準感度及び基準位相を用いてデータ処理を行い、振幅Zc1及び位相角θc1を演算する。このようにして得られた振幅Za1,Zb1,Zc1及び位相角θa1,θb1,θc1を、評価データとして、評価データ記憶部7に記憶させる。なお、データ処理部5Aは、入力部8からの指令に応じて、評価データ記憶部7で記憶された評価データを表示部9に表示させるようにしてもよい。
【0093】
そして、ステップ503に進み、参照データ記憶部28で予め記憶された参照データから、前述のステップ501における任意の一走査姿勢に対応する検出コイル12a,12b,12cの配置角度に基づき、基準データとして、検出コイル12aの人工きず信号における振幅Za0及び位相角θa0、検出コイル12bの人工きず信号における振幅Zb0及び位相角θb0、並びに検出コイル12cの人工きず信号における振幅Zc0及び位相角θc0を抽出する。具体的に説明すると、例えば前述のステップ501における任意の一走査姿勢が、上述の
図15のステップ401と同じ走査姿勢である場合は、これに対応する検出コイル12aの配置角度Ea=0°、検出コイル12bの配置角度Eb=75°,検出コイル12cの配置角度Ec=105°に基づき、基準データとして、検出コイル12aの人工きず信号における振幅Za0及び位相角θa0、検出コイル12bの人工きず信号における振幅Zb0及び位相角θb0、並びに検出コイル12cの人工きず信号における振幅Zc0及び位相角θc0を抽出する(
図16(a)及び
図16(b)参照)。
【0094】
その後、ステップ504に進み、データ処理部5は、ステップ502で得られた振幅(評価データ)とステップ503で抽出された振幅(基準データ)との差分(詳細には、検出コイル12aの人工きず信号における振幅Za1とZa0との差分、検出コイル12bの人工きず信号における振幅Zb1とZb0との差分、及び検出コイル12cの人工きず信号における振幅Zc1とZc0との差分)を演算し、それらの差分が予め設定された第1の許容値以下であるか否かを判定する。また、ステップ502で得られた位相角(評価データ)とステップ503で抽出された位相角(基準データ)との差分(詳細には、検出コイル12aの人工きず信号における位相角θa1とθa0との差分、検出コイル12bの人工きず信号における位相角θb1とθb0との差分、及び検出コイル12cの人工きず信号における位相角θc1とθc0との差分)を演算し、それらの差分が予め設定された第2の許容値以下であるか否かを判定する。例えば全ての差分が許容値以下である場合は、ステップ504の判定が満たされ、ステップ505に移る。ステップ505では、上記第1の実施形態のステップ204と同様、校正確認OKの旨を表示部9に表示させる。
【0095】
一方、例えばいずれかの差分が許容値を超える場合は、ステップ504の判定が満たされず、ステップ506に移る。ステップ506では、上記第1の実施形態のステップ205と同様、校正確認NGの旨を表示部9に表示させる。このとき、好ましくは、表示部9に該当する検出コイルや振幅又は位相角を表示させる。
【0096】
なお、上記において、参照データ記憶部28は、特許請求の範囲に記載の記憶手段を構成する。また、データ処理部5Aが行う上述の
図17のステップ504は、渦電流探傷プローブが一走査姿勢で走査されて一方向に延在した人工きずが探傷され、その際に評価データとして得られた第1の検出コイルの人工きず信号における振幅及び位相角並びに第2の検出コイルの人工きず信号における振幅及び位相角と、記憶手段で予め記憶された参照データから基準データとして抽出された第1の検出コイルの人工きず信号における振幅及び位相角並びに第2の検出コイルの人工きず信号における振幅及び位相角と、をそれぞれ照合し、それらの差分が所定の許容値以下であるか否かを判定する処理を行うデータ照合判定手段を構成する。また、表示部9は、データ照合判定手段の判定結果に基づき、第1の検出コイルの基準感度及び基準位相並びに第2の検出コイルの基準感度及び基準位相の校正確認結果を表示する表示手段を構成する。また、データ処理部5Aが行う上述の
図15のステップ409は、データ照合判定手段の処理の前に、渦電流探傷プローブが複数の走査姿勢に順次替えて走査されて人工きずが探傷され、その際に校正後の第1の検出コイルの基準感度及び基準位相並びに第2の検出コイルの基準感度及び基準位相を用いて得られた第1の検出コイルの人工きず信号における振幅及び位相角並びに第2の検出コイルの人工きず信号における振幅及び位相角に基づき、励磁コイルと検出コイルの並び方向と人工きずの長さ方向の間の角度として定義された検出コイルの配置角度とこれに対応する人工きず信号の振幅及び位相角との関係を、参照データとして作成して記憶する参照データ取得手段を構成する。
【0097】
以上のように構成された本変形例においては、渦電流探傷プローブ1を任意の一走査姿勢で走査して(言い換えれば、1回の走査で)、一方向に延在した人工きず13を探傷して、検出コイル12a,12b,12cの校正確認を行うことができる。したがって、上記第1の実施形態と同様、検査作業時間の短縮を図ることができる。また、試験体の製造コストの低減を図ることができる。
【0098】
なお、上記第2の変形例においては、上述の
図14で示すように、渦電流探傷装置の校正確認方法は、参照データ取得工程400及びデータ照合判定工程500を有し、上述の
図17のステップ504〜506で示すように、校正確認結果の表示までを説明したが、これに限られず、本発明の趣旨及び技術思想の範囲を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。すなわち、例えば
図18で示すように、渦電流探傷装置の校正確認方法は、さらに校正工程600を有していてもよい。この校正工程600は、前述の
図17のステップ504にて評価データと基準データとの差分が所定の許容値を超えた場合(言い換えれば、ステップ504の判定が満たされず、ステップ506に進み、校正確認NGが表示された場合)に行われる。校正工程600では、データ処理部5Aは、評価データと基準データとの差分が所定の許容値以下となるように、対応する検出コイルの基準感度及び基準位相を校正する(校正手段)。このような第3の変形例においても、上記第2の変形例と同様の効果を得ることができる。
【0099】
本発明の第2の実施形態を、
図19〜
図24により説明する。本実施形態は、リフトオフ信号を用いて校正確認を行う実施形態である。なお、本実施形態において、上記第1の実施形態と同等の部分は同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0100】
図19は、本実施形態における渦電流探傷装置の機能的構成を表すブロック図である。
【0101】
本実施形態では、探傷制御装置3Bは、プローブ制御部4、データ処理部5B、基準データ記憶部6A、評価データ記憶部7A、入力部8、及び表示部9を有している。
【0102】
本実施形態の校正確認方法は、
図20で示すように、大別して、基準データ取得工程700と、データ照合判定工程800を有する。基準データ取得工程700は、渦電流探傷装置の初期設定段階で(言い換えれば、事前準備として)行うものであり、データ照合判定工程800は、各検査作業の前段階、後段階、若しくは中断段階で(言い換えれば、現場作業として)行うものである。
【0103】
まず、基準データ取得工程700の詳細を説明する。
図21は、本実施形態における基準データ取得工程700の詳細を表すフローチャートである。なお、後述するステップ701の前に、検出コイル12a,12b,12cの基準感度及び基準位相の校正が行われたものとして説明する。
【0104】
ステップ701にて、探傷制御装置3Bのプローブ制御部4は、プローブ移動装置2を制御して、検出コイル12a,12b,12cの信号の大きさが飽和するように、渦電流探傷プローブ1の姿勢を保った状態で渦電流探傷プローブ1を試験体14A(詳細には、検査対象物と材質が同じもの)又は検査対象物からリフトオフする(
図22参照)。詳しく説明すると、リフトオフ前(言い換えれば、プローブ1が試験体14A又は検査対象物に密着した状態)の検出信号は、
図23(a)のリサージュ波形で示すように、振幅及び位相角がともにゼロとなっている。そして、リフトオフ後の検出信号(リフトオフ信号)は、
図23(b)のリサージュ波形で示すように、プローブ1のリフト量(言い換えれば、試験体14A又は検査対象物の表面から離す量)に応じて図中矢印Bで示す方向に、振幅及び位相角が変化する。すなわち、検出信号の大きさは、プローブ1のリフト量に比例して増大し、プローブ1のリフト量が所定値に達すると飽和する。したがって、プローブ制御部4は、例えばプローブ1のリフト量が予め設定された所定値に達するように、渦電流探傷プローブ1をリフトオフする。あるいは、例えば、渦電流探傷プローブ1をリフトオフしながら、検出信号の大きさを前回値と比較して飽和したか否かを判断し、検出信号の大きさが飽和したと判断した場合に、渦電流探傷プローブ1のリフトオフを停止させるようになっている。
【0105】
そして、ステップ702に進み、探傷制御装置3Bのデータ処理部5Bは、前述のステップ701でプローブ1がリフトオフされた際に得られた検出コイル12aのリフトオフ信号に対し、校正済の基準感度及び基準位相を用いてデータ処理を行い、振幅Za0及び位相角θa0を演算する。また、前述のステップ701でプローブ1がリフトオフされた際に得られた検出コイル12bのリフトオフ信号に対し、校正済の基準感度及び基準位相を用いてデータ処理を行い、振幅Zb0及び位相角θb0を演算する。その後、ステップ703に進み、前述のステップ702で得られた振幅Za1,Zb1,Zc1及び位相角θa1,θb1,θc1を、基準データとして、基準データ記憶部6Aに記憶させる。なお、データ処理部5Bは、入力部8からの指令に応じて、基準データ記憶部6Aで記憶された基準データを表示部9に表示させるようにしてもよい。
【0106】
次に、データ照合判定工程800の詳細を説明する。
図24は、本実施形態におけるデータ照合判定工程800の詳細を表すフローチャートである。
【0107】
ステップ801にて、探傷制御装置3Bのプローブ制御部4は、プローブ移動装置2を制御して、検出コイル12a,12b,12cの信号の大きさが飽和するように、渦電流探傷プローブ1の姿勢を保った状態で渦電流探傷プローブ1を試験体14A又は検査対象物からリフトオフする(上述の
図22参照)。
【0108】
そして、ステップ802に進み、探傷制御装置3Bのデータ処理部5Bは、前述のステップ801でプローブ1がリフトオフされた際に得られた検出コイル12aのリフトオフ信号に対し、校正済の基準感度及び基準位相を用いてデータ処理を行い、振幅Za1及び位相角θa1を演算する。また、前述のステップ801でプローブ1がリフトオフされた際に得られた検出コイル12bのリフトオフ信号に対し、校正済の基準感度及び基準位相を用いてデータ処理を行い、振幅Zb1及び位相角θb1を演算する。また、前述のステップ801でプローブ1がリフトオフされた際に得られた検出コイル12cのリフトオフ信号に対し、校正済の基準感度及び基準位相を用いてデータ処理を行い、振幅Zc1及び位相角θc1を演算する。このようにして得られた振幅Za1,Zb1,Zc1及び位相角θa1,θb1,θc1を、評価データとして、評価データ記憶部7Aに記憶させる。なお、データ処理部5Bは、入力部8からの指令に応じて、評価データ記憶部7Aで記憶された評価データを表示部9に表示させるようにしてもよい。
【0109】
その後、ステップ803に進み、データ処理部5Bは、ステップ802で得られた振幅(評価データ)と基準データ記憶部6Aで予め記憶された振幅(基準データ)との差分(詳細には、検出コイル12aのリフトオフ信号における振幅Za1とZa0との差分、検出コイル12bのリフトオフ信号における振幅Zb1とZb0との差分、及び検出コイル12cのリフトオフ信号における振幅Zc1とZc0との差分)を演算し、それらの差分が予め設定された第1の許容値以下であるか否かを判定する。また、ステップ802で得られた位相角(評価データ)と基準データ記憶部6Aで予め記憶された位相角(基準データ)との差分(詳細には、検出コイル12aのリフト信号における位相角θa1とθa0との差分、検出コイル12bのリフトオフ信号における位相角θb1とθb0との差分、及び検出コイル12cのリフトオフ信号における位相角θc1とθc0との差分)を演算し、それらの差分が予め設定された第2の許容値以下であるか否かを判定する。例えば全ての差分が許容値以下である場合は、ステップ803の判定が満たされ、ステップ804に移る。ステップ804では、校正確認OKの旨を表示部9に表示させる。
【0110】
一方、例えばいずれかの差分が許容値を超える場合は、ステップ803の判定が満たされず、ステップ805に移る。ステップ805では、校正確認NGの旨を表示部9に表示させる。このとき、好ましくは、表示部9に該当する検出コイルや振幅又は位相角を表示させる。
【0111】
なお、上記において、基準データ記憶部6Aは、特許請求の範囲に記載の記憶手段を構成する。また、データ処理部5Bが行う上述の
図24のステップ803は、第1の検出コイルの信号の大きさ及び第2の検出コイルの信号の大きさが飽和するように渦電流探傷プローブが対象物からリフトオフされ、その際に評価データとして得られた第1の検出コイルのリフトオフ信号における振幅及び位相角並びに第2の検出コイルのリフトオフ信号における振幅及び位相角と、記憶手段で基準データとして予め記憶された第1の検出コイルのリフトオフ信号における振幅及び位相角並びに第2の検出コイルのリフトオフ信号における振幅及び位相角と、を照合し、それらの差分が所定の許容値以下であるか否かを判定する処理を行うデータ照合判定手段を構成する。また、表示部9は、データ照合判定手段の判定結果に基づき、第1の検出コイルの基準感度及び基準位相並びに第2の検出コイルの基準感度及び基準位相の校正確認結果を表示する表示手段を構成する。また、データ処理部5Bが行う上述の
図21のステップ703は、データ照合判定手段の処理の前に、第1の検出コイルの信号の大きさ及び第2の検出コイルの信号の大きさが飽和するように渦電流探傷プローブが対象物からリフトオフされ、その際に校正後の第1の検出コイルの基準感度及び基準位相並びに第2の検出コイルの基準感度及び基準位相を用いて得られた第1の検出コイルのリフトオフ信号における振幅及び位相角並びに第2の検出コイルのリフトオフ信号における振幅及び位相角を、基準データとして記憶手段に記憶する基準データ取得手段を構成する。
【0112】
以上のように構成された本実施形態においては、渦電流探傷プローブ1をリフトオフして、検出コイル12a,12b,12cの校正確認を行うことができる。したがって、例えば上述の
図3(a)及び
図3(b)で示すような試験体14を用い、コイル並び方向Da,Db,Dcにそれぞれ対応する複数の走査姿勢に順次替えてプローブ1を走査して(言い換えれば、複数回の走査で)人工きず13を探傷して校正若しくは校正確認を行う場合と比べ、検査作業時間の短縮を図ることができる。
【0113】
なお、上記第2の実施形態においては、上述の
図20で示すように、渦電流探傷装置の校正確認方法は、基準データ取得工程700及びデータ照合判定工程800を有し、上述の
図24のステップ803〜805で示すように、校正確認結果の表示までを説明したが、これに限られず、本発明の趣旨及び技術思想の範囲を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。すなわち、例えば
図25で示すように、渦電流探傷装置の校正確認方法は、さらに校正工程900を有していてもよい。この校正工程900は、前述の
図24のステップ803にて評価データと基準データとの差分が所定の許容値を超えた場合(言い換えれば、ステップ803の判定が満たされず、ステップ805に進み、校正確認NGが表示された場合)に行われる。校正工程800では、データ処理部5Bは、評価データと基準データとの差分が所定の許容値以下となるように、対応する検出コイルの基準感度及び基準位相を校正する(校正手段)。このような第4の変形例においても、上記第2の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0114】
また、第1の実施形態においては検出コイル12a,12b,12cの人工きず信号を用いて検出コイル12a,12b,12cの校正確認を行う場合を説明し、上記第2の実施形態においては検出コイル12a,12b,12cのリフトオフ信号を用いて検出コイル12a,12b,12cの校正確認を行う場合を説明したが、これらを組合せてもよい。すなわち、例えば、検査作業の前段階で、検出コイル12a,12b,12cの人工きず信号を用いて検出コイル12a,12b,12cの校正確認を行い、検査作業の中断段階で、検出コイル12a,12b,12cのリフトオフ信号を用いて検出コイル12a,12b,12cの校正確認を行い、検査作業の後段階で、検出コイル12a,12b,12cの人工きず信号を用いて検出コイル12a,12b,12cの校正確認を行ってもよい。このような場合も、上記同様の効果を得ることができる。
【0115】
また、上記実施形態及び変形例においては、データ処理部5,5A,5Bは、評価データと基準データとの差分が所定の許容値以下であるか否かを判定し、その判定結果(詳細には、校正確認OK又はNGの旨)を表示部9に表示させる場合を例にとって説明したが、これに代えて、例えば評価データ及び基準データ(並びに所定の許容値)の表示にとどめてもよい。そして、作業者は、表示部9に表示された評価データ及び基準データから、それらの差分が所定の許容値以下であるか否かを判断してもよい。あるいは、例えば基準データと評価データとの差分(並びに所定の許容値)の表示にとどめてもよい。そして、作業者は、表示部9に表示された評価データと基準データとの差分が所定の許容値以下であるか否かを判断してもよい。これらの場合も、上記同様の効果を得ることができる。
【0116】
また、上記実施形態及び変形例においては、上述の
図2(a)で示すように、渦電流探傷プローブ1は、コイル並び方向Daが基板10の長手方向にあり、コイル並び方向Daとコイル並び方向Dbとの間の角度が75°であり、コイル並び方向Daとコイル並び方向Dcとの間の角度が105°である(すなわち、コイル並び方向Dbとコイル並び方向Dcとの間の角度が30°である)場合を例にとって説明したが、これに限られず、本発明の趣旨及び技術思想の範囲を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。また、上述の
図2(a)で示すように、渦電流探傷プローブ1は、1つの励磁コイル11及び3つの検出コイル12a,12b,12cを有するシングルプローブである場合を例にとって説明したが、これに限られず、本発明の趣旨及び技術思想の範囲を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。すなわち、例えば
図26で示すように、規則的に配列された多数のコイル29(詳細には、励磁コイル又は検出コイルに切替え可能なコイル)を有し、励磁コイル11及び検出コイル12a,12b,12cからなる組合せを順次切替え可能なマルチプローブでもよい。また、例えば、1つの励磁コイルに対して検出コイルの数は3つでなく、2つ、若しくは4つ以上としてもよい。また、プローブ1の基板10は、検査対象物の表面に追従可能なように可撓性を有していてもよい。これらの場合も、上記同様の効果を得ることができる。
【0117】
また、上記実施形態及び変形例においては、人工きず13側の表面が平面である試験体14を用いた場合を例にとって説明したが、これに代えて、例えば人工きず13側の表面が曲面である試験体を用いてもよい。この場合も、上記同様の効果を得ることができる。