特許第5710711号(P5710711)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ SPPテクノロジーズ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5710711-基板製造方法 図000002
  • 特許5710711-基板製造方法 図000003
  • 特許5710711-基板製造方法 図000004
  • 特許5710711-基板製造方法 図000005
  • 特許5710711-基板製造方法 図000006
  • 特許5710711-基板製造方法 図000007
  • 特許5710711-基板製造方法 図000008
  • 特許5710711-基板製造方法 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5710711
(24)【登録日】2015年3月13日
(45)【発行日】2015年4月30日
(54)【発明の名称】基板製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/3065 20060101AFI20150409BHJP
   H01L 21/28 20060101ALI20150409BHJP
   H01L 21/8246 20060101ALI20150409BHJP
   H01L 27/105 20060101ALI20150409BHJP
【FI】
   H01L21/302 101C
   H01L21/302 104Z
   H01L21/28 301R
   H01L27/10 444C
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-171099(P2013-171099)
(22)【出願日】2013年8月21日
(62)【分割の表示】特願2009-238819(P2009-238819)の分割
【原出願日】2009年10月16日
(65)【公開番号】特開2014-17497(P2014-17497A)
(43)【公開日】2014年1月30日
【審査請求日】2013年8月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】511265154
【氏名又は名称】SPPテクノロジーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104662
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智司
(72)【発明者】
【氏名】大石 明光
(72)【発明者】
【氏名】村上 彰一
【審査官】 杢 哲次
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−282839(JP,A)
【文献】 特開2006−313833(JP,A)
【文献】 特開2004−219521(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
H01L 21/28
H01L 21/8246
H01L 27/105
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に下部電極膜、上部電極膜及び酸化物からなる強誘電体膜を有し、少なくとも強誘電体膜にエッチング加工が施された基板を製造する方法であって、
基板上に下部電極膜を形成する工程と、
前記下部電極膜上に前記強誘電体膜を形成する工程と、
前記強誘電体膜上に前記上部電極膜を形成する工程と、
前記上部電極膜を所定形状のマスクパターンに形成するマスク形成工程と、
フルオロカーボンガス、又はフルオロカーボンガスとヘリウムガスとの混合ガスを含み、塩素ガスを含まないエッチングガスを用い、前記上部電極膜自体をマスクとして、前記強誘電体膜を前記下部電極膜が露出するまで、バイアス電力を印加してプラズマエッチングする強誘電体膜エッチング工程とを順次実施するようにし、
前記下部電極膜及び上部電極膜の内、少なくとも下部電極膜は酸素原子を含まない材料で構成し、
前記印加するバイアス電力の大きさは、前記下部電極膜が露出した段階でエッチングが停止する大きさであることを特徴とする基板製造方法。
【請求項2】
基板上に下部電極膜、上部電極膜及び酸化物からなる強誘電体膜を有し、少なくとも強誘電体膜にエッチング加工が施された基板を製造する方法であって、
基板上に下部電極膜を形成する工程と、
前記下部電極膜上に前記強誘電体膜を形成する工程と、
前記強誘電体膜上に前記上部電極膜を形成する工程と、
前記上部電極膜の上面に、所定形状のマスクパターンを備えたレジスト膜を形成するマスク形成工程と、
前記レジスト膜をマスクとして、前記上部電極膜を前記強誘電体膜が露出するまでプラズマエッチングする上部電極膜エッチング工程と、
フルオロカーボンガス、又はフルオロカーボンガスとヘリウムガスとの混合ガスを含み、塩素ガスを含まないエッチングガスを用い、前記レジスト膜をマスクとして、前記強誘電体膜を前記下部電極膜が露出するまで、バイアス電力を印加してプラズマエッチングする強誘電体膜エッチング工程とを順次実施するようにし、
前記下部電極膜及び上部電極膜の内、少なくとも下部電極膜は酸素原子を含まない材料で構成し、
前記印加するバイアス電力の大きさは、前記下部電極膜が露出した段階でエッチングが停止する大きさであることを特徴とする基板製造方法。
【請求項3】
前記下部電極膜及び上部電極膜は、酸素原子を含まない材料で構成することを特徴とする請求項1又は2記載の基板製造方法。
【請求項4】
前記下部電極膜は、その膜厚が0.3μm未満であることを特徴とする請求項1乃至3記載のいずれかの基板製造方法。
【請求項5】
前記下部電極膜は、その膜厚が0.1μm以下であることを特徴とする請求項1乃至3記載のいずれかの基板製造方法。
【請求項6】
前記上部電極膜は、その膜厚が0.1μm以下であることを特徴とする請求項1乃至5記載のいずれかの基板製造方法。
【請求項7】
前記下部電極膜は、Ptで構成することを特徴とする請求項1乃至6記載のいずれかの基板製造方法。
【請求項8】
前記上部電極膜は、Ptで構成することを特徴とする請求項1乃至7記載のいずれかの基板製造方法。
【請求項9】
前記強誘電体膜エッチング工程では、前記フルオロカーボンガスと水素ガス若しくは炭化水素ガスとの混合ガス、又はフルオロカーボンガスとヘリウムガスと水素ガス若しくは炭化水素ガスとの混合ガスをエッチングガスとして用いるようにしたことを特徴とする請求項1乃至8記載のいずれかの基板製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物からなる強誘電体膜が上部電極膜及び下部電極膜によって挟まれた構造を備える基板をプラズマエッチングして基板を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化物からなる強誘電体として、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などが知られており、このような強誘電体は、アクチュエータやセンサ、メモリなどの構成材料として利用されている。
【0003】
これらアクチュエータやセンサ、メモリは、例えば、図4に示すように、前記強誘電体53が上部電極54及び下部電極52によって挟まれた構造を基板K上に備え、詳細な配線についての図示は省略しているが、上部電極54及び下部電極52間には電圧が印加されるようになっている。
【0004】
そして、このようなアクチュエータやセンサ、メモリを製造する一連の工程には、基板の表面側に形成された下部電極膜や、この下部電極膜上に形成された、酸化物からなる強誘電体膜、この強誘電体膜上に形成された上部電極膜をプラズマエッチングする工程があり、この工程では、例えば、特開平9−266200号公報に開示された方法などを用いてプラズマエッチングが実施される。
【0005】
前記プラズマエッチング方法は、塩素ガスと酸素ガスとの混合ガスをエッチングガスとして用い、チタン膜をマスクとして、下部電極膜や強誘電体膜、上部電極膜をエッチングするというものであり、このプラズマエッチング方法では、エッチング中にチタン膜が酸化されてエッチングされ難くなるため、選択比が高められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−266200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来のプラズマエッチング方法では、以下のような問題があった。即ち、例えば、上部電極膜54をエッチングした後、強誘電体膜53を下部電極膜52が露出するまでエッチングするような場合に、塩素ガスを含むエッチングガスを用いたのでは、このエッチングガスから生じたラジカルやイオンによって強誘電体膜53だけでなく、下部電極膜52もエッチングされることから、強誘電体膜53のエッチングが進んで下部電極膜52が露出した時点でエッチングを停止させることができず、図5に示すように、露出した下部電極膜52までエッチングされていた(符号E参照)。このため、下部電極膜52がエッチングされる分だけ下部電極膜52を厚く形成しておかなければならなかった。尚、図5において、符号Kは基板、符号60はマスクをそれぞれ示している。
【0008】
また、エッチングガスに含まれる塩素ガスは、腐食性が高いため、強誘電体膜53と各電極膜52,54との間の界面に侵入して界面部分にダメージを与え、分極量低下や膜剥がれといった、デバイスの信頼性を損なうような問題を生じさせる恐れがある。
【0009】
本発明は、以上の実情に鑑みなされたものであって、酸化物からなる強誘電体膜が上部電極膜及び下部電極膜によって挟まれた構造を備える基板をプラズマエッチングする場合に、強誘電体膜のエッチングが進んで露出した下部電極までエッチングされるのを防止し、強誘電体膜のみを選択的にエッチングすることができるとともに、塩素ガスを含まないエッチングガスを用いてエッチングすることができる基板製造方法の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明は、
基板上に下部電極膜、上部電極膜及び酸化物からなる強誘電体膜を有し、少なくとも強誘電体膜にエッチング加工が施された基板を製造する方法であって、
基板上に下部電極膜を形成する工程と、
前記下部電極膜上に前記強誘電体膜を形成する工程と、
前記強誘電体膜上に前記上部電極膜を形成する工程とを実施するとともに、
前記上部電極膜を所定形状のマスクパターンに形成するマスク形成工程と、フルオロカーボンガス、又はフルオロカーボンガスとヘリウムガスとの混合ガスを含み、塩素ガスを含まないエッチングガスを用い、前記上部電極膜自体をマスクとして、前記強誘電体膜を前記下部電極膜が露出するまで、バイアス電力を印加してプラズマエッチングする強誘電体膜エッチング工程とを順次実施し、
或いは、前記上部電極膜の上面に、所定形状のマスクパターンを備えたレジスト膜を形成するマスク形成工程と、前記レジスト膜をマスクとして、前記上部電極膜を前記強誘電体膜が露出するまでプラズマエッチングする上部電極膜エッチング工程と、フルオロカーボンガス、又はフルオロカーボンガスとヘリウムガスとの混合ガスを含み、塩素ガスを含まないエッチングガスを用い、前記レジスト膜をマスクとして、前記強誘電体膜を前記下部電極膜が露出するまで、バイアス電力を印加してプラズマエッチングする強誘電体膜エッチング工程とを順次実施し、
前記下部電極膜及び上部電極膜の内、少なくとも下部電極膜は酸素原子を含まない材料で構成し、
前記印加するバイアス電力の大きさは、前記下部電極膜が露出した段階でエッチングが停止する大きさである基板製造方法に係る。




【0011】
本発明では、基板上に下部電極膜を形成するとともに、下部電極膜上に強誘電体膜を形成し、更に、強誘電体膜上に上部電極膜を形成する。そして、上部電極膜が所定形状のマスクパターンに形成された後、この上部電極膜自体がマスクとされて強誘電体膜がプラズマエッチングされる、或いは、所定形状のマスクパターンを備えたレジスト膜が上部電極膜の上面に形成され、このレジスト膜がマスクとされて、強誘電体膜が露出するまで上部電極膜がプラズマエッチングされた後、前記レジスト膜がマスクとされて強誘電体膜がプラズマエッチングされる。
【0012】
強誘電体膜をプラズマエッチングする際には、上述のように、フルオロカーボンガス、又はフルオロカーボンガスとヘリウムガスとの混合ガスを含み、塩素ガスを含まないエッチングガスを用いている。
【0013】
フルオロカーボンガスがプラズマ化されると、そのプラズマ化により生じたラジカルやイオンの内、その一部によって強誘電体膜がエッチングされ、他の一部により重合物が生成されて、マスクとされた上部電極膜又はレジスト膜の上面、エッチングにより形成された穴や溝(エッチング加工部)の側壁及び底面に堆積し、保護膜が形成される。この保護膜は、ラジカルやイオンによるエッチングを防止する役割を果たすが、酸素原子によって除去される。また、強誘電体膜がエッチングされると、前記保護膜を除去する酸素原子が生じる。
【0014】
したがって、酸素原子が生じないマスク(上部電極膜又はレジスト膜)の上面、並びに前記穴や溝の側壁では、前記保護膜が除去されることなく、この保護膜によってエッチングが防止され、一方、強誘電体膜がエッチングされて酸素原子が生じる前記穴や溝の底面では、生じた酸素原子によって保護膜が形成されず(形成されたとしてもすぐに除去され)、エッチングが前記穴や溝の深さ方向に進行する。
【0015】
そして、強誘電体膜のエッチングが前記穴や溝の深さ方向に進行して下部電極膜が露出すると、これまで強誘電体膜がエッチングされることにより生じていた酸素原子が生じなくなるため、前記穴や溝の底面に保護膜が形成され、前記穴や溝の深さ方向にエッチングが進行しなくなる。したがって、強誘電体膜のエッチングが進んで下部電極膜が露出した時点でエッチングが停止する。
【0016】
このように、本発明に係る基板製造方法によれば、フルオロカーボンガスのプラズマ化で生成される重合物(保護膜)が、エッチングにより形成された穴や溝の底面に堆積するのを、強誘電体膜のエッチングにより生じた酸素原子によって防止しつつ、この穴や溝の深さ方向にエッチングを進行させているので、強誘電体膜のエッチングが終了して下部電極膜が露出すると、保護膜の除去に必要な酸素原子が生じなくなり、下部電極膜上に形成された保護膜によってこの下部電極膜のエッチングが防止される。このため、強誘電体膜のみを選択的にエッチングすることができる。したがって、下部電極膜を必要最小限の厚さまで薄くすることができ、下部電極膜の形成にかかるコストを低くすることができる。
【0017】
また、上部電極膜自体をマスクとして用いる場合には、上部電極膜の上面にも保護膜が形成され、エッチングが防止されるので、この上部電極膜についても、下部電極膜と同様、その膜厚を薄くして、上部電極膜の形成にかかるコストを抑えることができる。
【0018】
また、マスクとなるレジスト膜や上部電極膜の上面、及び穴や溝の側壁に保護膜が形成されているので、レジスト膜や上部電極膜がエッチングされて後退するのを防止することや、強誘電体膜の側壁がエッチングされるのを防止することができる。これにより、高精度にエッチング加工することができる。
【0019】
また、エッチングガスに塩素ガスが含まれていないので、エッチング時に強誘電体膜と各電極膜との間の界面部分にダメージが与えられることがなく、分極量低下や膜剥がれといった、デバイスの信頼性を損なうような問題が生じることもない。
【0020】
そして、本発明では、特に、前記強誘電体膜をプラズマエッチングする際に、フルオロカーボンガスと水素ガス若しくは炭化水素ガスとの混合ガス、又はフルオロカーボンガスとヘリウムガスと水素ガス若しくは炭化水素ガスとの混合ガスを含み、塩素ガスを含まないエッチングガスを用いることが好ましい。このようにすれば、重合物が生成され易くなって、形成される保護膜の膜厚がより厚くなるため、マスクとなるレジスト膜や上部電極膜がエッチングされたり、強誘電体膜の側壁がエッチングされるのをより確実に防止することができる。
【0021】
また、前記ヘリウムガスは、希釈ガスとして機能するものであり、アルゴンガスなどと比べて分子量が小さく、スパッタ効率も低いため、エッチングにはほとんど寄与しない。したがって、ヘリウムガスを含む混合ガスをエッチングガスとして用いても、何らかの不都合が生じることはない。
【0022】
また、前記下部電極膜は、その膜厚が0.3μmであることが好ましく、0.1μm以下であることがより好ましい。また、前記上部電極膜は、その膜厚が0.1μm以下であることが好ましい。
【0023】
、前記上部電極膜及び下部電極膜は、その両方が酸素原子を含まない材料から構成されることが好ましい。また、前記上部電極膜及び下部電極膜は、例えば、白金から構成され、前記強誘電体膜は、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)やチタン酸バリウムストロンチウム(BST)などから構成される。更に、前記フルオロカーボンガスとしては、例えば、CFガスやCガスなどが挙げられる。しかしながら、これらのものに限定されるものではない。
【発明の効果】
【0024】
以上のように、本発明に係る基板製造方法によれば、酸化物からなる強誘電体膜が上部電極膜及び下部電極膜によって挟まれた構造を備える基板をプラズマエッチングする場合に、強誘電体膜のエッチングが進んで露出した下部電極までエッチングされるのを防止し、強誘電体膜のみを選択的にエッチングすることができる。また、エッチング時に強誘電体膜と各電極膜との間の界面部分にダメージを受けることもない。また、上部電極膜の上面に保護膜を形成してそのエッチングを防止することができるので、上部電極膜自体をマスクとして強誘電体膜をエッチングすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施形態に係る基板製造方法におけるプラズマエッチング方法を実施するためのエッチング装置の概略構成を示した断面図である。
図2】本実施形態に係る基板製造方法におけるプラズマエッチング方法を説明するための説明図である。
図3】本発明の他の実施形態に係る基板製造方法におけるプラズマエッチング方法を説明するための説明図である。
図4】強誘電体が上部電極及び下部電極によって挟まれた構造を基板上に備えるデバイスの一例を示した模式図である。
図5】従来の問題点を説明するための断面図である。
図6】開口部側壁が垂直なレジスト膜をマスクとして、上部電極膜をエッチングした場合に生じる問題点を説明するための断面図である。
図7】強誘電体膜をエッチングする際の従来の工程を示した説明図である。
図8】強誘電体膜をエッチングする際の従来の工程を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の具体的な実施形態について、添付図面に基づき説明する。尚、本実施形態では、基板Kのプラズマエッチングを、図1に示すようなエッチング装置1によって実施する場合を一例に挙げて説明する。また、エッチング対象となる基板Kは、図2に示すように、酸化物からなる強誘電体膜53が上部電極膜54及び下部電極膜52によって挟まれた構造を備えたものである。
【0027】
まず、前記エッチング装置1について説明する。このエッチング装置1は、図1に示すように、閉塞空間を有する処理チャンバ11と、処理チャンバ11内に昇降自在に配設され、前記基板Kが載置される基台15と、基台15を昇降させる昇降シリンダ18と、処理チャンバ11内の圧力を減圧する排気装置20と、処理チャンバ11内にエッチングガスを供給するガス供給装置25と、処理チャンバ11内に供給されたエッチングガスをプラズマ化するプラズマ生成装置30と、基台15に高周波電力を供給する高周波電源35とを備える。
【0028】
前記処理チャンバ11は、相互に連通した内部空間を有する下チャンバ12及び上チャンバ13から構成され、上チャンバ13は、下チャンバ12よりも小さく形成される。前記基台15は、基板Kが載置される上部材16と、昇降シリンダ18が接続される下部材17とから構成され、下チャンバ12内に配置されている。
【0029】
前記排気装置20は、下チャンバ12の側面に接続した排気管21を備え、排気管21を介して処理チャンバ11内の気体を排気し、処理チャンバ11の内部を所定圧力にする。前記ガス供給装置25は、上チャンバ13の上面に接続した供給管26を備え、供給管26を介して処理チャンバ11内にエッチングガスを供給する。
【0030】
前記プラズマ生成装置30は、上チャンバ13の外周部に上下に並設される、複数の環状をしたコイル31と、各コイル31に高周波電力を供給する高周波電源32とから構成され、高周波電源32によってコイル31に高周波電力を供給することで、上チャンバ13内に供給されたエッチングガスをプラズマ化する。前記高周波電源35は、基台15に高周波電力を供給することで、基台15とプラズマとの間に電位差(バイアス電位)を生じさせ、エッチングガスのプラズマ化により生じたイオンを基板Kに入射させる。
【0031】
次に、以上のように構成されたエッチング装置1などを用いて基板Kをプラズマエッチングする方法について説明する。尚、前記基板Kは、シリコン基板50の表面に酸化シリコン(SiO)膜51が、酸化シリコン膜51の表面に膜厚0.1μmの下部電極膜52が、下部電極膜52の表面に、酸化物からなる膜厚3μmの強誘電体膜53が、強誘電体膜53の表面に膜厚0.1μmの上部電極膜54が予め形成された構造を備えているものとする(図2参照)。また、前記上部電極膜54及び下部電極膜52は、例えば、白金などの酸素原子を含まない材料から構成され、前記強誘電体膜53は、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)やチタン酸バリウムストロンチウム(BST)などから構成されるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
まず、基板K(上部電極膜54)の表面にレジストを塗布してレジスト膜60を形成するレジスト塗布処理、このレジスト膜60の所定領域を感光させる露光処理、レジスト膜60上に現像液を塗布してレジスト膜60の感光部又は未感光部を除去する現像処理を順次行い、レジスト膜60に所定形状のマスクパターンを形成する第1工程を行う(図2(a)参照)。尚、このときのマスクパターンは、第2工程で上部電極膜54をエッチングするときのエッチング形状に対応したものとなっている。
【0033】
次に、基板Kをエッチング装置1内に搬入して基台15上に載置し、前記レジスト膜60をマスクとして基板K(上部電極膜54)をエッチングする第2工程を行う。このとき、エッチング装置1では、ガス供給装置25から処理チャンバ11内にエッチングガスが供給され、排気装置20によって処理チャンバ11内が所定圧力にされ、高周波電源32によりコイル31に高周波電力が供給され、更に、必要に応じて、高周波電源35により基台15に高周波電力が供給される。処理チャンバ11内に供給されたエッチングガスはプラズマ化され、このプラズマ化により生じたラジカルやイオンによって上部電極膜54がエッチングされる。そして、この上部電極膜54には、前記マスクパターンに対応した穴や溝が形成され、強誘電体膜53の表面が露出する(図2(b)参照)。
【0034】
尚、この第2工程で用いるエッチングガスとしては、例えば、塩素系ガスや、アルゴンガスなどの希ガスが挙げられる。また、アルゴンガスなどの希ガスを用いて上部電極膜54をエッチングする場合に、レジスト膜60の開口部側壁が、図2(b)の2点鎖線で示すように垂直になっていると、図6に示すように、イオン入射により飛散した粒子がレジスト膜60の側壁に付着し易いため、図2(b)の実線で示すようにテーパ状にしておけば、イオン入射により飛散した粒子をレジスト膜60の側壁に付着し難くすることができて好ましい。
【0035】
ついで、基板Kをエッチング装置1から搬出し、前記レジスト膜60をアッシング処理により除去する第3工程を行う(図2(c)参照)。
【0036】
この後、基板Kをエッチング装置1内に搬入して基台15上に載置し、前記上部電極膜54をマスクとして基板K(強誘電体膜53)をエッチングする第4工程を行う。このとき、エッチング装置1では、ガス供給装置25から処理チャンバ11内にエッチングガスが供給され、排気装置20によって処理チャンバ11内が所定圧力にされ、高周波電源32,35によりコイル31及び基台15に高周波電力がそれぞれ供給される。処理チャンバ11内に供給されたエッチングガスはプラズマ化され、このプラズマ化により生じたラジカルやイオンによって強誘電体膜53がエッチングされる。そして、この強誘電体膜53には、前記上部電極膜54の開口形状に対応した穴や溝が形成され、下部電極膜52の表面が露出する(図2(d)参照)。
【0037】
この第4工程では、エッチングガスとして、フルオロカーボンガス、又はフルオロカーボンガスとヘリウムガスとの混合ガスを含み、塩素ガスを含まないエッチングガスを用いる。フルオロカーボンガスをプラズマ化すると、そのプラズマ化により生じたラジカルやイオンの内、その一部は強誘電体膜53のエッチングに寄与し、残りの一部は保護膜の形成に寄与する。この保護膜は、プラズマ中のラジカルから生成された重合物が、マスクとされた上部電極膜54の上面、並びにエッチングにより形成された穴や溝(エッチング加工部)の側壁及び底面に堆積することで形成されるものであり、ラジカルやイオンによるエッチングを防止するが、酸素原子によって除去されるという性質を有している。また、強誘電体膜53がエッチングされると、前記保護膜を除去する酸素原子が生じる。
【0038】
したがって、酸素原子が生じない上部電極膜54の上面及び前記穴や溝の側壁では、前記保護膜が除去されることなく、この保護膜によってエッチングが防止され、一方、強誘電体膜53がエッチングされて酸素原子が生じる前記穴や溝の底面では、生じた酸素原子によって保護膜が形成されず(形成されたとしてもすぐに除去され)、エッチングが前記穴や溝の深さ方向に進行する。
【0039】
そして、強誘電体膜53のエッチングが前記穴や溝の深さ方向に進行して下部電極膜52が露出すると、これまで強誘電体膜53がエッチングされることにより生じていた酸素原子が生じなくなるため、前記穴や溝の底面に保護膜が形成され、前記穴や溝の深さ方向にエッチングが進行しなくなる。したがって、強誘電体膜53のエッチングが進んで下部電極膜52が露出した時点でエッチングが停止する。
【0040】
尚、前記フルオロカーボンガスとしては、例えば、CFガスやCガスなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、前記ヘリウムガスは、希釈ガスとして機能するものであり、アルゴンガスなどと比べて分子量が小さく、スパッタ効率も低いため、エッチングにはほとんど寄与しない。したがって、ヘリウムガスを含む混合ガスをエッチングガスとして用いても、何らかの不都合が生じることはない。
【0041】
前記第4工程が終了すると、基板Kをエッチング装置1から搬出した後、前記第1工程と同様、基板Kの表面にレジストを塗布してレジスト膜61を形成するレジスト塗布処理、このレジスト膜61の所定領域を感光させる露光処理、レジスト膜61上に現像液を塗布してレジスト膜61の感光部又は未感光部を除去する現像処理を順次行い、レジスト膜61に所定形状のマスクパターンを形成する第5工程を行う(図2(e)参照)。尚、このときのマスクパターンは、第6工程で下部電極膜52をエッチングするときのエッチング形状に対応したものとなっている。具体的には、上部電極膜54及び強誘電体膜53よりも小さい穴径の穴や狭い溝幅の溝が下部電極膜52に形成されるパターンとなっている。
【0042】
ついで、基板Kをエッチング装置1内に搬入して基台15上に載置し、前記レジスト膜61をマスクとして基板K(下部電極膜52)をエッチングする第6工程を行う。このとき、エッチング装置1では、前記第2工程と同様、ガス供給装置25から処理チャンバ11内にエッチングガスが供給され、排気装置20によって処理チャンバ11内が所定圧力にされ、高周波電源32によりコイル31に高周波電力が供給され、更に、必要に応じて、高周波電源35により基台15に高周波電力が供給される。処理チャンバ11内に供給されたエッチングガスはプラズマ化され、このプラズマ化により生じたラジカルやイオンによって下部電極膜52がエッチングされる。そして、この下部電極膜52には、前記マスクパターンに対応した穴や溝が形成され、酸化シリコン膜51の表面が露出する(図2(f)参照)。尚、この第6工程で用いるエッチングガスとしては、例えば、塩素系ガスや、アルゴンガスなどの希ガスが挙げられる。
【0043】
この後、基板Kをエッチング装置1から搬出し、前記レジスト膜61をアッシング処理により除去する第7工程を行う(図2(g)参照)。このようにして、前記上部電極膜54,強誘電体膜53及び下部電極膜52をプラズマエッチングする一連の工程が実施される。
【0044】
斯くして、本例の基板製造方法におけるプラズマエッチング方法によれば、前記第4工程で、下部電極膜52が露出するまで強誘電体膜53をエッチングするに当たり、フルオロカーボンガスのプラズマ化で生成される重合物(保護膜)が、エッチングにより形成された穴や溝の底面に堆積するのを、強誘電体膜53のエッチングにより生じた酸素原子によって防止しつつ、この穴や溝の深さ方向にエッチングを進行させているので、強誘電体膜53のエッチングが終了して下部電極膜52が露出すると、保護膜の除去に必要な酸素原子が生じなくなり、下部電極膜52上に形成された保護膜によってこの下部電極膜52のエッチングが防止される。このため、強誘電体膜53のみを選択的にエッチングすることができる。したがって、下部電極膜52を必要最小限の厚さまで薄くする(従来のプラズマエッチング方法では最低0.3μm以上必要なところ、例えば、0.1μm)ことができ、下部電極膜52の形成にかかるコストを低くすることができる。
【0045】
また、前記第4工程では、上部電極膜54をマスクとして強誘電体膜53をエッチングしているが、エッチング中にこの上部電極膜54の上面にも保護膜が形成され、エッチングが防止されるので、この上部電極膜54についても、下部電極膜52と同様、その膜厚を薄くして(例えば、約0.1μm)、上部電極膜54の形成にかかるコストを抑えることができる。
【0046】
また、前記第4工程では、マスクとなる上部電極膜54の上面、及び穴や溝の側壁に保護膜が形成されているので、上部電極膜54がエッチングされて後退するのを防止することや、強誘電体膜53の側壁がエッチングされるのを防止することができる。これにより、高精度にエッチング加工することができる。
【0047】
また、エッチングガスに塩素ガスが含まれていないので、エッチング時に強誘電体膜53と各電極膜52,54との間の界面部分にダメージが与えられることがなく、分極量低下や膜剥がれといった、デバイスの信頼性を損なうような問題が生じることもない。
【0048】
また、以下に説明するように、より少ない工程で強誘電体膜53を高精度にエッチングすることができる。即ち、従来、上部電極膜54をエッチングするためのレジスト膜60を形成する第1工程(図7(a)参照)、レジスト膜60をマスクとして上部電極膜54をエッチングする第2工程(図7(b)参照)、レジスト膜60を除去する第3工程(図7(c)参照)、強誘電体膜53をエッチングするためのレジスト膜62を形成する第4工程(図7(d)参照)、レジスト膜62をマスクとして強誘電体膜53をエッチングする第5工程(図7(e)参照)、及びレジスト膜62を除去する第6工程(図7(f)参照)を順次実施しなければならないが、本例では、第4工程までで強誘電体膜53のエッチングを完了することができる。
【0049】
尚、前記第4工程において、前記強誘電体膜53をエッチングする際に用いるエッチングガスは、フルオロカーボンガスと水素ガス若しくは炭化水素ガスとの混合ガス、又はフルオロカーボンガスとヘリウムガスと水素ガス若しくは炭化水素ガスとの混合ガスを含み、塩素ガスを含まないエッチングガスであるのが最も好ましい。このようにすれば、重合物が生成され易くなって、形成される保護膜の膜厚がより厚くなるため、マスクとなる上部電極膜54やレジスト膜60がエッチングされたり、強誘電体膜53の側壁がエッチングされるのをより確実に防止することができる。
【0050】
また、図8に示すように、上部電極膜54及び強誘電体膜53をエッチングするためのレジスト膜63を形成する第1工程(図8(a)参照)、レジスト膜63をマスクとして上部電極膜54をエッチングする第2工程(図8(b)参照)、レジスト膜63をマスクとして強誘電体膜53をエッチングする第3工程(図8(c)参照)、及びレジスト膜63を除去する第4工程(図8(d)参照)を順次実施するようにすれば、本例と同様、第4工程までで強誘電体膜53のエッチングを完了することができるものの、この場合には、レジスト膜63の開口部側壁がテーパ状なため、強誘電体膜53のエッチング中にレジスト膜63が後退して、上部電極膜54の開口径や開口幅が広くなったり、強誘電体膜53の側壁がテーパ状になり、精度良くエッチングすることができない。
【0051】
また、図7に示した方法では、強誘電体膜53をエッチングするためのレジスト膜62を形成する第4工程(図7(d)参照)で、膜厚の厚いレジスト膜62(膜厚が、例えば、5μmのレジスト膜62)を形成しておかなければ、強誘電体膜53のエッチング中にレジスト膜62が後退して、上記と同様、上部電極膜54の開口径や開口幅が広くなったり、強誘電体膜53の側壁がテーパ状になり、高精度にエッチングすることができないという問題を生じるが、本例では、レジスト膜60を、上部電極膜54のエッチング時にのみマスクとして用い、強誘電体膜53のエッチング時には上部電極膜54をマスクとして用いているので、レジスト膜60の膜厚を薄くする(例えば、1μm)こともできる。
【0052】
また、レジスト膜60の開口部側壁をテーパ状に形成すれば、イオン入射により飛散した粒子をレジスト膜60の側壁に付着し難くすることができるので、上部電極膜54を高精度にエッチングすることができる。
【0053】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明の採り得る具体的な態様は、何らこれに限定されるものではない。
【0054】
上例では、前記第1工程で形成されたレジスト膜60を前記第3工程で除去した後、前記第4工程で上部電極膜54をマスクとして基板K(強誘電体膜53)をエッチングするようにしたが、これに限られるものではなく、前記第3工程を省略し、前記レジスト膜60をマスクとして、強誘電体膜53を下部電極膜52が露出するまでプラズマエッチングするようにしても良い。この場合、レジスト膜60は強誘電体膜53のエッチング後に除去するようにしても良いが、レジスト膜60の膜厚を、強誘電体膜53のエッチング中にレジスト膜60が完全にエッチングされる膜厚に設定すれば、レジスト膜60のアッシング工程を省略することができて好ましい。尚、この場合における一連の工程を図示すると、図3のようになり、第1工程から第6工程までの工程となる。また、図3(a)は第1工程であり、図2(a)の第1工程に対応し、図3(b)は第2工程であり、図2(b)の第2工程に対応し、図3(c)は第3工程であり、図2(d)の第4工程に対応し、図3(d)は第4工程であり、図2(e)の第5工程に対応し、図3(e)は第5工程であり、図2(f)の第6工程に対応し、図3(f)は第6工程であり、図2(g)の第7工程に対応している。
【0055】
このようにすれば、図2に示した工程よりも更に少ない工程(第1工程〜第3工程まで)で強誘電体膜53をエッチングすることができる。尚、強誘電体膜53のエッチング中にレジスト膜60が完全にエッチングされるようにしても、形成される保護膜によって上部電極膜54のエッチングが防止されるので、上部電極膜54が後退することはない。
【0056】
また、上例では、前記エッチング装置1を用いて本発明に係る基板製造方法におけるプラズマエッチング方法を実施したが、このプラズマエッチング方法の実施には、他の構造を備えたエッチング装置を用いるようにしても良い。
【符号の説明】
【0057】
1 エッチング装置
11 処理チャンバ
15 基台
20 排気装置
25 ガス供給装置
30 プラズマ生成装置
31 コイル
32 高周波電源
35 高周波電源
52 下部電極膜
53 強誘電体
54 上部電極膜
K 基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8