特許第5710777号(P5710777)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5710777
(24)【登録日】2015年3月13日
(45)【発行日】2015年4月30日
(54)【発明の名称】2成分モルタル組成物およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C04B 26/06 20060101AFI20150409BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20150409BHJP
   C08K 3/00 20060101ALI20150409BHJP
   C08K 5/14 20060101ALI20150409BHJP
【FI】
   C04B26/06
   C08L101/00
   C08K3/00
   C08K5/14
【請求項の数】20
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-539199(P2013-539199)
(86)(22)【出願日】2011年11月8日
(65)【公表番号】特表2014-503612(P2014-503612A)
(43)【公表日】2014年2月13日
(86)【国際出願番号】EP2011069613
(87)【国際公開番号】WO2012065878
(87)【国際公開日】20120524
【審査請求日】2014年8月19日
(31)【優先権主張番号】102010051818.2
(32)【優先日】2010年11月18日
(33)【優先権主張国】DE
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591010170
【氏名又は名称】ヒルティ アクチエンゲゼルシャフト
(74)【復代理人】
【識別番号】100182073
【弁理士】
【氏名又は名称】萩 規男
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】ビュルゲル、 トーマス
【審査官】 永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−7672(JP,A)
【文献】 特表2004−516224(JP,A)
【文献】 特表2009−541540(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B26/00−26/32
C08F290/06
E21D20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のラジカル重合性樹脂、充填剤、促進剤および安定剤の含量を有する硬化性樹脂成分と、硬化剤成分とを有する2成分モルタル組成物であって、前記硬化剤成分は、反応を阻害するために硬化性樹脂成分と別々に配置され、かつ穿孔への固定手段の化学的固定のための少なくとも1種の過酸化物の含量を有する2成分モルタル組成物において、
樹脂成分および硬化剤成分の総重量をそれぞれ基準にして、
前記樹脂成分は、8〜25重量%のラジカル重合性樹脂、8〜25重量%の反応性希釈剤、0.1〜0.5重量%の少なくとも1種の促進剤および0.003〜0.03重量%の少なくとも1種の安定剤を含有し、
前記硬化剤成分は、0.1〜0.35重量%の過酸化物を含有することを特徴とする2成分モルタル組成物。
【請求項2】
樹脂成分および硬化剤成分の総重量をそれぞれ基準にして、
前記樹脂成分は、8〜25重量%のラジカル重合性樹脂、8〜25重量%の反応性希釈剤、0.1〜0.5重量%の促進剤および0.003〜0.03重量%の安定剤、40〜70重量%の充填剤および0.5〜5重量%の増粘剤を含有し、
前記硬化剤成分は、0.1〜0.35重量%の過酸化物、3〜15重量%の水、5〜25重量%の充填剤および0.1〜3重量%の増粘剤を含有することを特徴とする、請求項1に記載の2成分モルタル組成物。
【請求項3】
前記樹脂成分は、ラジカル重合性樹脂として、不飽和ポリエステル、ビニルエステル、ウレタン(メタ)アクリレートおよび/またはエポキシ(メタ)アクリレートを含有することを特徴とする、請求項1または2のいずれか一項に記載の2成分モルタル組成物。
【請求項4】
前記樹脂成分は、促進剤として、少なくとも第三級N,N−置換アニリン、第三級N,N−置換トルイジンおよび/またはそのアルコキシ化誘導体を含有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の2成分モルタル組成物。
【請求項5】
前記樹脂成分は、N,N−置換アニリンまたはN,N−置換トルイジンのそれぞれとして、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N−エチル−N−(ヒドロキシエチル)−アニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N−メチル−N−(ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ジイソプロピリデン−p−トルイジン、ジ(ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、ジ(ヒドロキシエチル)−m−トルイジンおよび/またはエトキシ化ジ(ヒドロキシエチル)−p−トルイジンを含有することを特徴とする、請求項4に記載の2成分モルタル組成物。
【請求項6】
前記樹脂成分は、フェノール系および/または非フェノール系安定剤を含有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の2成分モルタル組成物。
【請求項7】
前記樹脂成分は、フェノール系安定剤として、ヒドロキノン、2−メチルヒドロキノン、メトキシフェノール、2,4,6−トリメチルフェノール、ピロカテコール、3−メトキシピロカテコール、3,5−ジ−tert−ブチルピロカテコール、ブチルヒドロキシトルエン基およびこれらの化合物の誘導体を代表する少なくとも1つを含有することを特徴とする、請求項6に記載の2成分モルタル組成物。
【請求項8】
前記樹脂成分は、非フェノール系安定剤として、N−オキシル化合物および/または複素環系安定剤を含有することを特徴とする、請求項7に記載の2成分モルタル組成物。
【請求項9】
前記樹脂成分は、N−オキシル化合物としてのピペリジニル−N−オキシルおよび/またはテトラヒドロピロール−N−オキシル誘導体および/または複素環系安定剤としてのフェノチアジンを含有することを特徴とする、請求項8に記載の2成分モルタル組成物。
【請求項10】
前記樹脂成分は、ピペリジン−N−オキシル誘導体として、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−N−オキシルを含有することを特徴とする、請求項9に記載の2成分モルタル組成物。
【請求項11】
前記樹脂成分は、反応性希釈剤として、少なくとも1種のエチレン性不飽和化合物を含有することを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の2成分モルタル組成物。
【請求項12】
前記樹脂成分は、反応性希釈剤として、スチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、(メタ)アクリルアミド、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリン(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、アセトアセタトエチル(メタ)アクリレート、アルコキシ化ビスフェノール−A−ジ(メタ)アクリレートおよび/またはグリシジルメタクリレートを含有することを特徴とする、請求項11に記載の2成分モルタル組成物。
【請求項13】
前記硬化剤成分は、過酸化物として、有機過酸化物を含有することを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項に記載の2成分モルタル組成物。
【請求項14】
前記硬化剤成分は、有機過酸化物として、過酸化ジベンゾイル、過酸化メチルエチルケトン、tert−ブチル過安息香酸、過酸化シクロヘキサノン、過酸化ラウリル、クメンヒドロペルオキシドおよび/またはtert−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサン酸を含有することを特徴とする、請求項13に記載の2成分モルタル組成物。
【請求項15】
前記樹脂成分および/または前記硬化剤成分は、充填剤として、好適な粒度分布における、石英、砂、ヒュームドシリカ、コランダム、チョーク、タルク、セラミック、酸化アルミニウム、ガラス、セメント、軽質スパー(light spar)および/または重質スパー(heavy spar)を含有することを特徴とする、請求項1〜14のいずれか一項に記載の2成分モルタル組成物。
【請求項16】
前記樹脂成分および/または前記硬化剤成分は、増粘剤として、ヒュームドシリカ、層状ケイ酸塩、アクリレートまたはポリウレタン増粘剤、ヒマシ油誘導体、ノイブルグ珪土および/またはキサンタンガムを含有することを特徴とする、請求項1〜15のいずれか一項に記載の2成分モルタル組成物。
【請求項17】
前記硬化剤成分は、少なくとも1種の有機溶媒を0〜5重量%含有することを特徴とする、請求項1〜16のいずれか一項に記載の2成分モルタル組成物。
【請求項18】
前記硬化剤成分は、有機溶媒として、前記ラジカル重合性樹脂と共重合可能な、グリコール、グリセリン、および/または水溶性ポリエチレングリコール誘導体および/またはポリプロピレングリコール誘導体を含有することを特徴とする、請求項17に記載の2成分モルタル組成物。
【請求項19】
前記樹脂成分および前記硬化剤成分は、反応を阻害するために異なる容器中に別々に存在することを特徴とする、請求項1〜18のいずれか一項に記載の2成分モルタル組成物。
【請求項20】
穿孔への固定手段の化学的固定のための、請求項1〜19のいずれか一項に記載の2成分モルタル組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主題は、少なくとも1種のラジカル重合性樹脂、充填剤、促進剤、安定剤および場合により他の従来のモルタル成分の含量を有する硬化性樹脂成分と、硬化剤成分とを有する2成分モルタル組成物であって、この硬化剤成分が、反応を阻害するために硬化性樹脂成分と別々に配置され、かつ穿孔(borehole)への固定手段(anchoring means)の化学的固定のための少なくとも1種の過酸化物の含量を有する2成分モルタル組成物、ならびに穿孔への固定手段の化学的固定のためのその使用である。
【背景技術】
【0002】
この種の2成分モルタル組成物は、例えば、特に、れんが、コンクリートまたは天然石でできた構造などの、(好ましくは)鉱物基材(mineral subsurface)中の(好ましくは)金属元素の化学的固定のための注入モルタルとして用いられる。
【0003】
固定手段を固定するのに必要とされる穿孔が、鉱物基材中に最初に設けられ、そして、硬化性樹脂成分が、2成分モルタル組成物の硬化剤成分と混合され、穿孔中に導入され、そして、固定されるべき固定手段が、挿入され、調整されると、モルタル組成物が硬化する。このために、本出願人は、ラジカル硬化性メタクリレート樹脂および油圧結合セメントの混成系を有する速硬系の形態の注入モルタルを販売しており、この混成系は、穿孔における処理の後に非常に弾力性のあるプラスチックになる。
【0004】
十分な処理時間を確保するために、硬化に必要な促進剤および過酸化物に加えて、モルタル組成物の早過ぎる硬化を防ぐ少なくとも1種の安定剤が、原則として、かつ異なる濃度で、使用される。
【0005】
樹脂部分を基準にして0.2〜0.6重量%の範囲の典型的な安定剤濃度を有する、従来技術から既知のこの種の注入モルタルには、高濃度の過酸化物が必要とされる。7〜15重量%の過酸化物、例えば過酸化ベンゾイルが、ここで混合比に応じて必要とされる。この多量の過酸化物にかかわらず、大量に分散させる場合の混合のむらにより、時として、過酸化物部分が少なすぎるために硬化しないところがある。
【0006】
ここで、特許文献1には、穿孔への固定手段を固定するための2成分モルタルが開示されており、この2成分モルタルは、1〜6.5重量%の過酸化物および0.01〜0.5重量%の促進剤を含有し、なおここで、阻害剤または安定剤は言及されていない。特許文献2には、化学的固定技術用の充填(plugging)化合物が記載されており、この化合物は、ラジカル硬化性反応樹脂を基準にして0.5〜10重量%の有機過酸化物、硬化剤用の促進剤、および「従来の」阻害剤と組み合わせて適用可能な場合、ピペリジニル−N−オキシルまたはテトラヒドロピロール−N−オキシルを0.0005〜2重量%含有する。
【0007】
穿孔への固定手段の化学的固定のための、硬化性樹脂成分および硬化剤成分を有する2成分モルタル組成物であって、この硬化剤成分が、反応を阻害するために硬化性樹脂成分と別々に配置され、ラジカル重合性樹脂を基準にして0.5〜10重量%の過酸化物、促進剤および重合阻害剤を含有する2成分モルタル組成物が、特許文献3の主題である。
【0008】
最後に、特許文献4には、固定要素のための速硬性の化学的固定系が開示されており、この化学的固定系は、1種または複数の硬化性オレフィン反応樹脂、1種または複数のアミン系(aminic)促進剤、1種または複数の非フェノール系(嫌気性)阻害剤および最後に開始剤として少なくとも1種の過酸化物を有する硬化剤のラジカル硬化性反応樹脂配合物を有する。それによって、硬化剤は、反応樹脂配合物の質量を基準にして少なくとも1%の過酸化物を含有する。この材料は、少なくとも1.5重量%のアミン系促進剤、0〜20重量%のフェノール系阻害剤および最大で5重量%の非フェノール系阻害剤を、5を超える促進剤対阻害剤の比率で含有する。
【0009】
従来技術のモルタル組成物に使用される阻害剤は、処理時間を所望の期間に調整する目的を果たす。
【0010】
穿孔への固定手段の化学的固定のためのこれらの従来の2成分モルタル組成物は、現在、0.5重量%以上のかなりの量の過酸化物を含有しなければならない限り不都合であり、これは、1%の過酸化物濃度で出発する過酸化物含有製品(過酸化ジベンゾイル)が感作性(sensitizing)であると表示しなければならないため、問題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】欧州特許第589831号明細書
【特許文献2】欧州特許第761792号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第1619174号明細書
【特許文献4】欧州特許第2032622号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ここで、本発明の目的は、固定手段の化学的固定のための上記の組成の2成分モルタル組成物を規定することであり、この2成分モルタル組成物は、より低い過酸化物濃度を有するため、表示する必要がなくて済み、それにもかかわらず、良好な硬化、ひいては所要の荷重値(load value)ならびに2:1〜7:1、好ましくは3:1〜5:1の範囲の広い混合比および十分な処理時間を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
ここで、この目的は、安定剤または阻害剤のそれぞれが、貯蔵安定性に必要な最少量を除いて、ゲル化時間を調整するのに必要となって初めて計量供給され、処理時間が、促進剤の濃度によって制御されることから達成される。
【0014】
ここで、請求項1に記載の2成分モルタル組成物は、本発明の主題である。従属請求項は、本発明の主題の好ましい実施形態ならびに穿孔への固定手段の化学的固定のためのこの2成分モルタル組成物の使用に関する。
【0015】
ここで、本発明は、少なくとも1種のラジカル重合性樹脂、充填剤、促進剤、安定剤および場合により他の従来のモルタル成分の含量を有する硬化性樹脂成分と、硬化剤成分とを有する2成分モルタル組成物に関し、この硬化剤成分は、反応を阻害するために硬化性樹脂成分と別々に配置され、かつ穿孔への固定手段の化学的固定のための少なくとも1種の過酸化物の含量を有し、この2成分モルタル組成物は、樹脂成分および硬化剤成分の総重量をそれぞれ基準にして、樹脂成分が、0.1〜0.5重量%の少なくとも1種の促進剤および0.003〜0.03重量%の少なくとも1種の安定剤を含有し、硬化剤成分が、0.1〜0.35重量%の有機過酸化物を含有することを特徴とする。
【0016】
本発明に係る2成分モルタル組成物は、0.35重量%の促進剤含量を±20%変化させることによって、例えば、過酸化物含量が、樹脂成分および硬化剤成分の総重量を基準にして0.25重量%であり、樹脂成分対硬化剤成分の混合比が3:1重量部であり、安定剤含量が0.015%である場合、ゲル化時間を25℃で3.5〜7分間に調整することを可能にする。
【0017】
意外にも、それによって、阻害剤とともに0.25重量%の規定の過酸化物濃度の場合の0.5重量%を超える促進剤濃度を有する説明されるタイプの2成分モルタルによって、上記のゲル化時間を調整することができないことが示された。その理由は、この目的のために必要な増加した阻害剤濃度の配合物が、もはや確実に硬化しないためである。
【0018】
しかしながら、意外にも、上記の組成の2成分モルタル組成物は、過酸化物含量の表示を回避するだけでなく、十分な処理時間で、3:1〜5:1重量部の範囲の硬化剤成分に対する樹脂成分の広範囲の混合比で、良好な硬化および高い荷重値を達成するモルタル組成物を得ることもできる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
好ましい実施形態によれば、それぞれ樹脂成分および硬化剤成分の総重量を基準にして、樹脂成分は、8〜25重量%のラジカル重合性樹脂、8〜25重量%の反応性希釈剤、0.1〜0.5重量%の促進剤および0.003〜0.03重量%の安定剤、40〜70重量%の充填剤および0.5〜5重量%の増粘剤を含有し、硬化剤成分は、0.1〜0.35重量%の過酸化物、3〜15重量%の水、5〜25重量%の充填剤および0.1〜3重量%の増粘剤を含有する。
【0020】
樹脂成分は、好ましくは、不飽和ポリエステル、ビニルエステル、ウレタン(メタ)アクリレートおよび/またはエポキシ(メタ)アクリレートおよびアリルエーテルをベースとする樹脂成分を、ラジカル重合性樹脂として、場合によりエチレン性不飽和構造要素を含有する反応性希釈剤との混合物で含有する。
【0021】
好ましい実施形態によれば、樹脂成分は、促進剤として、例えば、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N−エチル−N−(ヒドロキシエチル)−アニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N−メチル−N−(ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ジイソプロピリデン−p−トルイジン、ジ(ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、ジ(ヒドロキシエチル)−m−トルイジンおよび/またはエトキシ化ジ(ヒドロキシエチル)−p−トルイジンなどの、少なくとも第三級N,N−置換アニリン、第三級N,N−置換トルイジンおよび/またはそのアルコキシ化誘導体を含有する。
【0022】
他の好ましい実施形態によれば、樹脂成分は、フェノール系および/または非フェノール系安定剤をさらに含有する。フェノール系安定剤は、好ましくは、ヒドロキノン(hydrochinon)、2−メチルヒドロキノン、メトキシフェノール、2,4,6−トリメチルフェノール、ピロカテコール、3−メトキシピロカテコール、4−tert−ブチルピロカテコール、3,5−ジ−tert−ブチルピロカテコール、ブチルヒドロキシトルエンおよびそれらの誘導体を含む群から選択される。
【0023】
樹脂成分は、N−オキシル化合物および/または非フェノール系安定剤としての複素環系安定剤を含有することができ、ここで、ピペリジニル−N−オキシル誘導体およびテトラヒドロピロール−N−オキシル誘導体が、N−オキシル化合物として好ましい一方、フェノチアジンが、好ましい複素環系安定剤として使用される。好ましいピペリジン−N−オキシル誘導体は、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−N−オキシルである。
【0024】
基材(subsurface)および固定手段に対するモルタル組成物の付着性をさらに改善するために、樹脂成分は、反応性希釈剤として、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、(メタ)アクリルアミド、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリン(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、アセトアセタトエチル(acetoacetatoethyl)(メタ)アクリレート、アルコキシ化ビスフェノール−A−ジ(メタ)アクリレートおよび/またはグリシジルメタクリレートなどの少なくとも1種のエチレン性不飽和化合物を含有する。
【0025】
本明細書において使用される「(メタ)アクリル」という命名は、「メタクリル」、「アクリル」、「メタクリル」、ならびに「アクリル」化合物がこの表記に含まれるとされていることを意味する。
【0026】
本発明に係る2成分モルタル組成物の硬化剤成分は、好ましくは、過酸化物として、過酸化ジベンゾイル、過酸化メチルエチルケトン、tert−ブチル過安息香酸、過酸化シクロヘキサノン、過酸化ラウリル、クメンヒドロペルオキシドおよび/またはtert−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサン酸などの有機過酸化物を含有する。
【0027】
最後に、樹脂成分および/または硬化剤成分は、特に、注入モルタルについて説明されるモルタル組成物について一般的であるように、好適な粒度分布における、石英、砂、ヒュームドシリカ、コランダム、チョーク、タルク、セラミック、酸化アルミニウム、ガラス、セメント、軽質スパー(light spar)および/または重質スパー(heavy spar)などの充填剤を含有し得る。それによって、充填剤としてセメントを用いる場合、好ましくはポルトランドセメント、アルミン酸塩セメントおよび/または石こうが、樹脂成分に使用することができ、その理由は、硬化剤成分に通常含有される過酸化物が、樹脂成分中にセメント部分を設けるのに使用される鈍感剤としての水を含有するためである。
【0028】
さらに、樹脂成分および/または硬化剤成分は、所要の粘度を有する材料を提供するように、増粘剤として、ヒュームドシリカ、層状ケイ酸塩、アクリレートまたはポリウレタン増粘剤、ヒマシ油誘導体、ノイブルグ珪土および/またはキサンタンガムを場合により含有し得る。
【0029】
さらに、硬化剤成分の粘度を調整するために、ラジカル重合性樹脂と共重合可能な、グリコール、グリセリン、および/または水溶性ポリエチレングリコール誘導体および/またはポリプロピレングリコール誘導体などの0〜5重量%の少なくとも1種の有機溶媒を硬化剤成分に加えることができる。
【0030】
本発明に係る樹脂成分および本発明に係る硬化剤成分は、好ましくは、マルチチャンバ型カートリッジおよび/またはマルチチャンバ型シリンダなどのマルチチャンバ型デバイス中であるいは2成分カプセル中で、反応を阻害するために異なる容器中に別々に存在するのが好ましい。別々に生成された後、硬化剤成分および樹脂成分は、それによって、これらの別個の容器中に導入され、これらの容器から機械的デバイスまたは噴射剤によって放出され、混合デバイス、好ましくはスタティックミキサーによって誘導される。スタティックミキサーから出る硬化性のモルタル組成物が、固定手段の化学的固定の際に固体基材(solid subsurface)の穿孔に直接挿入されると、そこで構成要素が固定され、例えばアンカーロッド(anchor rod)が挿入される。穿孔に固定される固定手段の優れた強度値が、3.5〜7分間の範囲の本発明に係る2成分モルタル組成物のゲル化時間によって得られる。本発明にしたがって選択される促進剤、安定剤および過酸化物の量を使用することによって、2成分モルタル組成物を「刺激性および感作性」であると表示するのを回避することができるだけでなく、促進剤濃度によってモルタル組成物の適用のために適したゲル化時間を容易に調整することができ、硬化されたモルタル組成物の高い荷重値が同時に得られることが示された。
【0031】
以下の実施例および比較例は、本発明をさらに説明する役割を果たす。
【実施例】
【0032】
<実施例1〜3および比較例>
比較例および実施例1〜3の硬化剤成分Aを、以下の表Iに規定される成分を混合することによって最初に生成する。比較例および実施例1〜3の硬化剤成分Bをそれに応じて生成する。このために、成分を、1リットルのプラスチックビーカー中で、手作業で最初に予め混合し、その後、溶解機(4500min-1;<100mbar)中で10分間混合する。
【0033】
【表1】
【0034】
別々に生成した後、樹脂成分Aまたは硬化剤成分Bのそれぞれを、以下の表IIに規定されるように、それぞれ3:1または5:1の体積比で、スタティックミキサー中で混合し、14mmの直径を有する、コンクリートに設けられた穿孔に導入する。実施例のゲル化時間は、25℃で5〜6分間の範囲である。
【0035】
次に、72mmの固定深さを有するM12アンカーロッドを、穿孔に導入し、アンカーロッドの抜き取り力(extraction force)を、室温(25℃)で1日の硬化時間後に測定し、その際、アンカーロッドの抜き取り力を測定することが可能な油圧工具を使用する。25℃においてここで測定される抜き取り力および標準偏差を、以下の表IIに記載する。
【0036】
【表2】
【0037】
上記の表は、本発明に係る2成分モルタル組成物により、比較例の材料によって得られるよりかなり改良された25℃における破壊荷重が得られることを示し、この比較例は、促進剤、安定剤および過酸化物の含量が本発明に係る教示と異なる。